ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

事件! 王女と盗賊……そして青銅 その③

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事件! 王女と盗賊……そして青銅 その③

三十メイルはあろうかという土のゴーレム。
その手にルイズが掴まっているという事態に承太郎とギーシュは遭遇した。
このゴーレムは何なのか、目的は何なのか、メイジはどこにいるのか。
疑問はあったがルイズは今にも絞め殺さようとしている最中であり、迷っている時間もためらっている暇も無く承太郎は即断した。

ルイズは承太郎の『腕』の力を知ってはいたが、『腕』だけでこの巨大なゴーレムに太刀打ちできるとは思っていなかった。
「ジョータロー! 無理よ、あんたは逃げ――えっ!?」
地面がめり込むほどの勢いをつけて、承太郎は跳び上がった。
一瞬でゴーレムの腕の高さまで来ると『腕』を出してルイズを握る指を殴る。
「オォォォラァッ!!」
ボゴンと音を立てて指が粉砕し、承太郎はルイズを『腕』で引っ張り出す。
そしてルイズを生身の肉体でしっかりと抱きしめると、地面に着地すべく飛び降りる。
だがゴーレムが足を振り上げて二人を狙う。
空中では動きが取れないため、咄嗟に『腕』を身体の前でクロスさせて防御する。
強烈な衝撃により承太郎とルイズは塔の外壁に吹っ飛ばされた。
「スタープラチナ!」
ゴーレムの蹴りを防いだように壁への衝突を『腕』で防ぎ、壁の表面をずり落ちる。
「ジョータロー! ルイズ!」
慌ててギーシュが駆け寄ってくると、承太郎はギーシュの目を見、抱いていたルイズをギーシュに向けて突き出した。
「ルイズを連れて逃げろ」
「どうする気だ、ジョータロー!」
「奴が何者かは知らねーが、このまま放っておく訳にもいくまい」
「無茶だ! いくら君でも――」
再び承太郎は人間とは思えない速度と高さの跳躍をしてゴーレムに迫った。


承太郎の本当の実力がどの程度のものなのか知らないギーシュは、不安と希望を同時に抱いていた。
だが、自分より前に出てルイズが杖を構えている事には不安を通り越して危機感を抱いた。
「何をする気だルイズ! 奴を挑発するな!」
「うるさい! 目の前に賊がいるっていうのに、逃げる訳にはいかないわ!」
「ジョータローが逃げろと言ったろう!?」
ギーシュがルイズの右腕を掴むと、頬に平手が飛んだ。
「邪魔をしないで!」
怒りのこもった言葉にギーシュは口ごもってしまい、
その間にルイズは杖をゴーレムに向けてファイヤーボールを唱えた。

ゴーレムは巨大だった。あまりの質量を前に、承太郎はメイジ狙いの戦法を選ぶ。
どんなにゴーレムが強かろうと、メイジは生身の人間。
ようするに巨大な土人形のスタンドを操るスタンド使いと戦うようなものだ。
ルイズを助けた時のようにスタープラチナの足で跳躍し、一直線にフーケ本体へ。
だがフーケは承太郎を近づけまいとゴーレムの腕を振るわせる。
しかし遅い! 手が承太郎を捉える前に、承太郎がフーケを捉える!
そうなろうとしたまさにその瞬間!

轟音ッ! ルイズの魔法が狙いを外れ、塔の外壁で爆発を起こしたのだ!

「ぬうっ……!」
「えっ!?」
突然のアクシデンド。承太郎もフーケも爆風から身を守らねばならなかった。
ここで空中にいた承太郎と、ゴーレムの肩にいたフーケの差が生まれる。
フーケはゴーレムの身体にしがみつき、かがんでいればよかった。
だが承太郎は爆風によりバランスを崩し、爆煙で視界をふさがれてしまった。
「オラオラオラオラオラッ!」
爆煙の中スタープラチナの拳がうなるが、爆発のショックでゴーレムが傾いたせいで、拳の狙いがそれ空を切ってしまった。


「くっ、何が起きて……えっ? 宝物庫の壁が……!」
フーケは承太郎の攻撃から逃れられた事と、宝物庫の壁に今の爆発でヒビが入った事、この二点に気づいた。
ニンマリとフーケは笑い、さっそくヒビの入った壁をゴーレムのパンチで粉砕する!
さらなる轟音が鳴り響き、承太郎やルイズ達の頭上に瓦礫が降り注ぐ。
「うわっ、あ……!」
ギーシュは身をすくめ、瓦礫が自分に当たらない事を祈った。
だが『自分に当たりませんように』と願いながら見上げてみれば、人の頭くらいの大きさの瓦礫がこちらに――目の前のルイズの頭目掛けて落ちてきていた。
「ルイズ! 危ない!」
咄嗟にルイズを突き飛ばした直後、ギーシュは背中に強い衝撃を受けて転倒した。
視界がガクンと揺れ、それでもピンクの髪は目立ち、ルイズがどこにいるかは解った。
「うっ……ギーシュ? ギーシュ!」
ルイズが慌てて振り返る。ギーシュはうつぶせに倒れたまま動かない。
最悪の予感がルイズの脳裏をよぎった。
だがすぐにギーシュは顔を上げ、薔薇の杖を掲げ、花びらを舞わせた。
「えっ?」
ワルキューレが七体ルイズの前に出現し、スピアを構えた。

フーケは宝物庫に飛び込みながら、承太郎を危険視し、狙いのお宝を盗み出すまでの間の時間稼ぎをすべく、すでに行動を起こしていた。
ピンクの髪はよく目立つ。
すぐに狙いをつけてゴーレムの足で踏みつけようとした、だが一体のワルキューレがルイズを担いで逃げ出す。
「なっ、何するのよ! 放して!」
ワルキューレを操っているのがギーシュであったため、ルイズは激昂して抵抗した。
そうこうしてるルイズの後ろで、もう一体のワルキューレが何とか逃れ、残り六体のワルキューレはいっぺんにゴーレムに踏み潰された。
ルイズを担いだワルキューレは、地響きによって転倒しルイズをその場に放り出してしまう。


「キャアッ!」
地面を転がって、ルイズはギーシュのすぐ隣に仰向けになって倒れ込んだ。
「ううっ……」
ルイズの視界の中、土ぼこりで汚れきったギーシュがよろけながら立ち上がる。

「ルイズ。君は『薔薇になぜ棘があるのか』知っているかい?」

こんな時に何の話を、とルイズは心の中で毒づく。
薔薇の造花、己の杖を構えながらギーシュは高らかに言った。

「それは『女の子を守るため』さ!」

ルイズを助けようとしたため被害から逃れたワルキューレが、ゴーレムの足にスピアを突き刺す。
だがゴーレムは何て事ないといった風に足を上げてブンブンと左右に振り、まるで虫けらのようにワルキューレを振り飛ばした。
ギーシュが一度に出せるワルキューレは七体、もうワルキューレは出せない。
それでもギーシュは一歩踏み出し、ルイズとゴーレムの間に立つ。
「何やってんのよ! 殺されるわよ!?」
「ルイズ、どうしよう。もう魔法を使うどころか、立ってるのがやっとだ……」
「ギーシュ!」
ルイズは立ち上がり、杖を構えた。もう一度、失敗でもいいから爆発を起こしてやる。
今度は狙いを外さない。
狙いは、今にも自分達を蹴り飛ばそうと振り上げられているゴーレムの左足。
だが詠唱する暇が無い、と思い知らされる速度で左足が迫ってきた。
あまりの巨大さに、一発食らえば中庭の外まで吹っ飛ばされてお陀仏だと瞬間的に理解する。



死ぬ。死んでしまう。
ルイズもギーシュもそう確信し、死の恐怖に心を震わせながら、瞳は、瞳は確かに『それ』を見ていた。
圧倒的質量を持って迫る『死』という存在の前に回りこんだ『黒い影』を。
黒い帽子、黒い髪、黒い服、黒いズボン。
空条承太郎!

195サントある承太郎の身長だが、それに匹敵するゴーレムの爪先。
土のゴーレムといえどこの速度この質量、受け切る事などできるはずがない!
承太郎の学ランが、強烈な風圧を受けてはためいた。
「オオオオオオッ!」
身動きの取れないルイズとギーシュを背後に、圧倒的破壊力を持つゴーレムの左足を前に、承太郎は吼えた。
その声は闘志に燃え、ルイズとギーシュの恐怖を吹き飛ばす!
「オラァッ!」
バゴンッ! 承太郎の右腕から出た『右腕』がゴーレムの爪先の先端を吹っ飛ばす。
「オラァッ!」
ドゴンッ! 承太郎の左腕から出た『左腕』がゴーレムの爪先をさらにえぐる。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

左右の拳が残像を残すほどの速さで猛烈なラッシュを繰り出す!
その一発一発がギーシュのワルキューレを容赦なく粉砕する威力!
鉄よりも脆い土のゴーレムは強烈なラッシュに、爪先から踵まで真っ二つに粉砕する。
左右を通り抜ける巨大なゴーレムの足の迫力にルイズとギーシュは驚きながらも、それ以上に承太郎の『腕』の力強さに驚嘆する。
そしてついに三十メイルあるゴーレムが尻餅をついて倒れ、地響きを起こした。


三人を囲うように舞う土ぼこりの中、承太郎は学帽を深くかぶり直しながら、こちらを振り向いて『終わった』と言わんばかりの態度を取った。
「やれやれだぜ」
承太郎の口癖。それはまさに『勝利宣言』のようにルイズとギーシュは感じられた。
「た、助かったぁ~……」
安堵のため気が抜けてしまい、ギーシュは情けない声を上げてその場にへたり込んだ。
土と冷や汗でよごれ、瓦礫で負傷し、ボロボロになってしまったギーシュ。
とても『薔薇』とは呼べないその姿を見つつ、承太郎は静かに声をかけた。
「……ギーシュ。おめーが奴に立ち向かわなければ……間に合わなかった」
「は、はは……もう二度と、こんなのはゴメンだよ……」
疲れたような口調ではあったが、表情はやり遂げた男だけが見せる頼もしさがあった。
そんな彼を見て、ルイズは震える唇をギュッと閉じる。

――最低最悪の侮辱をしたギーシュが、命懸けで自分を守ってくれた。

それだけは揺ぎ無い事実であり、彼の勇気を賞賛し、感謝せねばならないものだった。
だが、感謝の言葉が出てこない。
つまらない意地を張っているのか、ギーシュを認めたくないのか、何も言えない。
正真正銘命を救ってくれた承太郎に対してもルイズは同じような気持ちだった。
自分が何とかしようと魔法を使ったら、失敗して、承太郎の足を引っ張ってしまった。
そしてギーシュに助けられ、承太郎に助けられる自分。
『こうでありたいという自分』と現実のギャップが痛々しく小さな胸を絞めつける。

「ところでギーシュ、メイジがゴーレムを操れる『射程距離』はどの程度だ?」
「メイジの技量にもよるから正確には言えないけど、
 あのゴーレムを操った奴はまだ近くにいると思う……」
「となると……塔の中か?」


ゴゴゴゴゴゴ……。
ポッカリと穴の空いた塔の外壁を睨みつけた承太郎は、そちらに向かって跳ぼうとする。
しかし視界の端で起きた変化に視線を向ける。
丁度土のゴーレムの足が修復完了した瞬間だった。
「何ッ……!?」
ゴーレムは即座に立ち上がると、再び塔の外壁に手を伸ばし、手のひらの上に人影が飛び移る。
ニヤリ、とフードをかぶったそいつの唇が笑うのを承太郎はスタープラチナの目で捉えた。
その笑み、まるで「足手まといのお世話ご苦労様」と言わんばかりに嫌味たっぷり。
「野郎ッ……!」
一気にゴーレムの手に跳び移って本体を叩こうかとも思った承太郎だが、今はルイズとギーシュという怪我人を抱えてしまっている。
下手に動けば、またこの二人を狙われるだろう。迂闊には動けない。
そんな承太郎をあざ笑うように、フーケはゴーレムを動かした。
学院の外へ向けて。
承太郎が追いかけようとすると、頭上に青い影が見えた。
タバサのシルフィードだ。
ようやく品評会会場の連中が騒ぎに気づき、機動力のあるタバサが一番に駆けつけたらしい。
タバサはシルフィードに乗って空中からフーケを追跡する。
承太郎も走って追いかけようとしたが、さすがに三十メイルのゴーレムとは歩幅が違いすぎた。
後ろからゾロゾロと学院関係者や警備の連中も駆けつけてきたので、スタープラチナの足で跳躍を繰り返して追う姿を見せる訳にもいかない。
「やれやれ……あのゴーレム、一部の特性がザ・フールに似ているらしい。
 土と砂の違いか。奴を追うのはどうやらあのドラゴンに任せるしかねーようだな」
しかし、学院から離れた位置でゴーレムは崩れ去り、その場にフーケの姿は無かった。
その旨をタバサから報告されたオールド・オスマンはどうしたものかと悩むのだった。
そして宝物庫に残された書置きから、盗賊は土くれのフーケだと判明。

こうしてこの事件は一時の小休止を得る。

盗賊、土くれのフーケによる『破壊の杖』の盗難と逃亡。
アンリエッタが品評会を観覧しに来たため、学院の警備を王女に割いてしまった責任。

このふたつが今後解決せねばならない問題である。
ルイズは宝を守れず賊を逃がした事をアンリエッタに詫びたが、アンリエッタは警備を割かせた自分にこそ責任があり、
王宮に報告しなければならない事を伝え……ルイズの心は痛んだ。
最悪、アンリエッタの責任問題になりかねない。

不幸中の幸いというか、ゴーレムに握り潰されそうになったルイズの負傷は軽く、特に治療しなくても少し休んだ程度で普通に動き回れるようにはなった。
だが青銅のギーシュの負傷は重く、ルイズをかばって複数の瓦礫に当たったのか、打撲だけでなく一部の骨にヒビも入っていたようであり、衛兵が駆けつけると安堵したのかすぐ気を失い、水のメイジによる治療を受けねばならなかった。
おかげでルイズはまだギーシュに何も言えないでいるが、自分の気持ちの整理もついていないので、話せる状態でもきっと何も話せなかったろう。

そして翌朝――土くれのフーケと遭遇したルイズと、追跡を試みたタバサが、オールド・オスマンに学院長室へ呼び出された。


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