ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

反省する使い魔!-14

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反省する使い魔!  第十四話「追跡計画中計画実行中」


音石明はこの世界でルイズの使い魔を続けている内に
何度も同じ疑問を自分の頭のなかで浮かべていたことがある。

別によ~~、このオレがわざわざルイズみてぇな
やかましい小娘に仕える必要なんて本当はどこにもねぇんぜぇ~~?
仮にだ、ルイズに義理みてぇなモンがあったとしよう。
オレがそんなモンわざわざ守ると思うかぁ?
オレは御伽噺や漫画に出てくるような
義理堅い勇者野郎でもなんでもねぇんだよぉ~~~~……………。
しかしだ!よく考えてみてくれよ。俺は刑務所で三年の月日を費やした。
三年だ!たったの三年!!
あの杜王町で俺がやったことがたった三年で許されるだとぉ~~~ッ!?
わざわざ殺人まで覚悟してやった俺のあの行いが
たった三年で許されるような安っぽいモノだとでも思ってんのかッ!!
はやく出所できたんだから得だとかそういう問題じゃねぇ!
俺は納得したいんだよ!
三年前俺は間違いなく罪を犯した。
そして刑務所を出たと思ったら、今度はワケのわからねぇ世界で
小娘のお守りときたもんだ。まったくお笑いだぜ………。

最初にルイズの使い魔になれという要求を承諾したのも
はっきり言っちまえば召喚の時にクラスメイトから
バカにされてたルイズに対してのくだらんねぇ同情からだった。
だがルイズを見ていくうちにわかったことがある。
ルイズは魔法が使えない魔法使いだ、
どんな魔法を使ってもお決まりに爆発する。
クラスメイトの連中はそんなルイズを見下していたがよぉ
あの爆発は使い方によっちゃあ間違いなく兇器になる。
このままじゃルイズはいずれ、
自分の中で押さえ込んでいる劣等感をクラスメイトを
傷つける武器にしちまう………。

だからよぉ、そんなルイズだからこそ
オレを召喚したんじゃねぇかって時々思うんだよ
道を踏み外して過ちを犯すということを知っていて
今なおそんな自分の罪滅ぼしに納得していない俺だからこそな………
そして今、ルイズはやべぇ状況にいる。
なんでも今度の相手は結構名の知れた盗賊らしいじゃねぇか、
そういう奴をやっつけてルイズを守ってやればよ~~~
少しでも俺の中にあるこのモヤモヤが晴れるかもしれねぇ!
だから今はこの目の前のデカブツをぶっ壊すことに集中するぜ!!



「しっかしでけぇーなー、
ギーシュの『ワルキューレ』は2メートルくらいあったが
こいつぁ10メートルは超えてんじゃねぇのか?」

ゴーレムから30メートル程の距離をあけて
音石は土くれのフーケの操る巨大ゴーレムを見上げていた。

「まあ、それくらいのほうがやりごたえがあるってもんか?」
「オトイシッ!!」

自分の使い魔の登場にルイズはゴーレムの足元で
歓喜と驚きの声を上げた。

「おいルイズゥ、そこ危ねぇからはやくこっち来い!」

音石はルイズの身を案じ、
自分の元に来るように手招きのジェスチャーを送る。
ルイズもソレに応じ、音石の元に駆け寄ろうとしたが
ソレを許すフーケではない!

「おっと、逃がしゃあしないよ!」

先程破壊された腕が回復され、すぐさま元通りになる。
そしてその腕は瞬く間にルイズ目掛けて襲い掛かってきた!
しかしその行為を安々許す音石でもない!


「ふっふっふっ生憎とな、そう易々攻撃を当てさせないところが
俺と『レッド・ホット・チリ・ペッパー』のいいトコなんだぜぇ?」

ゴーレムの上空を飛び回っていたスピットファイヤーが
ルイズ目指して滑空を始める。
そのスピードはゴーレムの攻撃速度を圧倒的に上回っていた。
ルイズの近くまで接近すると、スピットファイヤーから
レッド・ホット・チリ・ペッパーの腕だけを出現させ、
ルイズのマントを掴み取った。

「いいいいぃぃぃやああああぁぁぁぁっ!!?」

時速150キロという高スピードのなか、
ルイズは悲鳴をあげてマントからぶら下がった形で音石の元まで移動し
ゴーレムの攻撃を回避した。
音石の近くまでやってくるとスピットファイヤーのスピードを緩め
ルイズを自分の隣に落とすようにレッド・ホット・チリ・ペッパーは手を離した。

【ドスンッ】「キャアッ!」

「ウ~~シッ!ルイズを回収すりゃこっちのもんだぜ
あのゴーレムを操ってるフーケってやつはあそこの壁の向こうにある
宝物庫を狙ってんだろ?だったらゴーレムをあそこから動かすって真似は
しねぇはずだ、奴自身無駄に時間を喰ってる暇なんてないはずだからな
空中にはキュルケとタバサ、こっちだってスピットファイヤーがあるんだ
本体の俺が攻撃されないように距離も十分にとってある、
今のあの野郎は将棋で言う『詰み』に入ってるっつーわけだぁっ!」
「こ……こ……この馬鹿ギタリストォーーーーッ!!!」

ルイズが音石目掛けて飛び蹴りを放った!!

【ガスッ】「オガァッ!!?」

蹴りはものの見事に音石の横腹に命中した。

「いっててぇぇぇっ!!?いきなりなにすんだコラァッ!!」
「ソレはこっちの台詞よぉ!ご主人様に対してなんて事すんのよっ!!
助けてくれたことには感謝してるけど、もっとマシな方法なかったの!?
あの持ち方!!もう少しで首が絞まるトコだったじゃない!!」
「おいバカ!杖をこっち向けんなって!あーするしかなかったんだよ!
仮にマントじゃなく腕や脇から持ち上げたりしたらその長い髪が
あのスピットファイヤーのプロペラに巻き込まれかねねぇだろうがっ!」
「ハッ!そうよオトイシッ、説明しなさい!
あれは一体何なの!?もしかして竜の子供!?」

オトイシとの会話中にルイズは自分の中にある一番の疑問に気付き、
その疑問にむかって怒鳴るように指差した。

「竜の子供だぁ?そんなんじゃねぇーよぉー、
『スピットファイヤー』
イギリスのスーパーマリン製単発レシプロ単座戦闘機
大戦時にはイギリス空軍をはじめとする連合軍が使用していた戦闘機で
ロールス・ロイス製の強力なエンジンを搭載、空気抵抗も少なく
その性能はその手のレースで三度も優勝してるほどの優秀さを誇る。
主任設計技師であるR.J.ミッチェルとジョセフ・スミスを
始めとする後継者たちによって設計され、パイロットたちの支持も厚く
1950年代まで23,000機あまりが生産され
さまざまな戦場で活躍した…………そのラジコンバージョンだ」
「……………ごめん、あんたが何を言ってるのか理解できないわ」
「………………………………まあいい、話は後だ
今重要なのはあの盗賊フーケなんだからな~~~」

巨大なゴーレムを眺めながら音石は勝利の確信の笑みを浮かべるが
ルイズは対照的にどこか腑に落ちない顔をしていた。
しかし音石の予想通り、フーケにとってこの状況は
非常に不味いものだった。

「まずい、非常にやばいわね
アレが何かは検討も付かないけど、あの使い魔は厄介だわ
しかも制空権を完璧に向こうに取られてる………
あの使い魔が操ってる思わしき鉄の子竜、そしてもう一人、
さっきから距離をとってこっちの様子を伺ってるあの風竜……」

フーケは首を上に傾け、タバサとキュルケを乗せたシルフィードを睨んだ。

「多少の邪魔は想定内だったけど、竜が二体なんて反則だよ!
『フライ』を使って飛んで逃げることもできやしない!」

苛立ちを隠せないフーケだったが、自分の中で無理やり心を落ち着かせ
状況整理と作戦を冷静に練り始める。

(これ以上グズグズしていられない!
いずれ学院長や教師連中がやってくる、
その前にこの状況を打破しなければ………ッ!
しかしどうする!?連中はこっちの時間が少ない焦りを利用して
距離をとってやがるし、ゴーレムを操る魔力もそろそろ限界に来てる
考えろ!なにか策があるはず………………ッ!?)

思考を張り巡らしているうちにフーケはあることに気付いた。
自分と対峙している竜たちが一向に自分に攻撃してくる様子を
見せていないのだ。まさか!と思い、フーケは咄嗟に音石を見た……。
かなり距離が離れているはずなのに、フーケにはそれがはっきりと見えた。
笑っていた。音石のその表情がすべてを悟っていた!

(降参を誘っているつもりかいッ!!?
こっちの不利な状況を理解して……ッ!舐めやがってッ!!
この『土くれ』のフーケをここまでコケにしやがるなんてっ………!!)



ギュゥィィイイイイイイアァァァァンッ!

音石は愛用のギターを絶好調に響かせた。
「ハッハァーッ!よかったなぁルイズ!
コレでお前は明日から英雄だぜ、より胸はって学生生活も送れるってわけだぁっ!
実家で病弱だっていうお前の姉貴も喜ぶぜぇっ!ギャハハハハッ!!
よっしゃあせっかくだぁ、なにか弾いてやるからリクエストしてみろよ!
おっとしまった、この世界の住人のお前じゃリクエストなんて無理だな
仕方ねぇな、だったら俺が選曲して聞かせてやるぜっ!
そうだな……………よしっ!
『エアロスミス』の『WALK THIS WAY』あたりでも…………」

(たしかにオトイシの言う通り、この状況は圧倒的にこっちが有利……
でもなんなの!?さっきからわたしのなかで渦巻いている
このモヤモヤ感は!?いやな予感がしてならない………ってこと?)

未だルイズが不安を隠せないことも気付かずに、
いつの間にか音石はルイズの隣で………
ズッタンッズッズッタン!と勝利の確信に酔い踊っていた。

「なっ!?この『土くれ』のフーケを前にして踊ってやがるッ!?
なんてムカつく奴なんだい!思えばあいつの登場で
なにもかもぶち壊しだよっ!
当初の目的だった宝物庫の宝も結局取れまず仕舞い………え!?」

一瞬宝物庫の壁に目を向けたとき、フーケは目を疑った。
なんと壁に『ヒビ』が入っていたのだ!
ばかなっ!さっきまでいくらゴーレムで攻撃しても駄目だった
壁にどうして今になってヒビが!?とフーケは疑問に思ったが
その原因であるべき正体を思い出した。

「まさか………、あのゼロのルイズがさっき放った爆発でッ!?」

ますます理解不能だった、なぜあのゼロの失敗の爆発でこの壁が?
しかし、これは二度とないチャンスであるという事実が
そんな疑問を掻き消した。
そして閃いてしまった、この状況を打破する策を………!

「アンタにはもう少し働いてもらうよ!!」

フーケは杖を振り、ゴーレムを再び動かし始めた。
ソレを見た音石が踊りと演奏を止め、行動に移った。

「ゴーレムを動かしやがったか、
その行動………、殺されちまっても文句はねぇモンだと判断するぜっ!」

音石はシルフィードを操っているタバサを見てアイコンタクトを送る。
それを合図にスピットファイヤーとシルフィードは
ゴーレムに向かって飛来していった。
ただ一人、自分がなにもしていないことに気付いた
ルイズは精一杯の手助けをと思い、音石アドバイスを送った。

「オトイシ!ゴーレムの肩に乗っているフーケ本体を狙うのよ!
そうすればあのゴーレムは動かないわ!!」
「それぐらいは言われなくたってわかってるぜぇルイズ!
そこらへんの原理はスタンド使いと一緒だからなぁ~!!」

(お願い!わたしのなかのこの予感が、どうかわたしの勘違いであって……!)

ルイズは自分の胸に手を当てて、祈った。
生命の予感や察知とはなんとも不思議なものだ。
自分の身にナニかが迫ると無意識のうちに自分の中でそれを感じ取る、
犬や猫などが、飼い主が帰ってくること時にソワソワするのと同じだ。
ルイズは正確にその嫌な予感を的中させてしまった。
なぜなら、その嫌な予感の元凶を作ったのがルイズ本人であるのだから………。

フーケのゴーレムがスピットファイヤーたちを無視して、
宝物庫の壁に拳を飛ばし、なんと壁を粉砕してしまったのだ!

「ナニィッ!?」「そんなっ!?」

音石とキュルケの驚きの声が重なった。
壁がえぐれた部分にゴーレムの肩に乗っていたフーケが飛び移った、

「まずいわ!宝を盗まれてしまうわ!」

キュルケがバッと音石にアイコンタクトを送った、
えぐれた壁の隙間に入っていったフーケを攻撃できるのは
音石が操るスピットファイヤーしかないと判断したからこその合図だ。
音石もそのキュルケの合図には気付いていたが、
一方でゴーレムのある変化にも気付いた。そして驚愕した!

「タバサァッ!!ゴーレムに近づくんじゃねぇっ!!
こっちに向かって倒れて来てるぞぉ!!」

それを合図に、シルフィードとスピットファイヤーはすぐさま真上に上昇したが、
30メートル近くあるゴーレムの転倒の衝撃は並なものではない。
凄まじい砂煙が広範囲に広がり始めていった。
地上にいる音石とルイズがそれに巻き込まれはじめたのも当然のことだった。

「伏せろルイズッ!絶対に目をあけるんじゃねぇぞ!!」
「きゃあぁぁぁぁっ!!」

咄嗟の行動だった、目の前まで迫ってきている砂塵に襲われる前に
音石はルイズのマントを引っぺがし、彼女を片手で抱き寄せると
体の体勢を低くし、引っぺがしたマントを二人の体を覆うように被り
迫り来る砂塵を受け流した。

【ビュオオオオォォォォォォ……………】




「オトイシくん、大丈夫かい!?」

マントを覆い被って数分、遠くから聞こえるコルベールの声が聞こえ
音石は覆い被っていたマントから顔を覗くと、
コルベールとオールド・オスマンがこっちに向かってきていた。
そのほかにも大勢の教師や生徒、衛兵がぞろぞろとやってきていた。

「………ふう、おらよルイズ。マント返すぜ
砂埃だらけだが、洗えば取れるよ」

ルイズは「ありがとオトイシ」と礼を言ってマントを受け取ると、
すぐさまオールド・オスマンたちのもとへと駆け寄った。

「ほっほ、ミス・ヴァリエール。
随分と無茶したようじゃが、怪我はないかの?」
「お気遣い感謝いたしますオールド・オスマン
ですが大丈夫です、私の使い魔が守ってくれましたから……」

その時一瞬、ルイズは軽く頬を染め誇らしそうな顔をすると
すぐにまたスイッチを繰り返した。

「それよりも学院長!たった今緊急事態がッ!」
「ふむ、コルベール君に事情は聞いておる
『土くれ』のフーケ、まさかこのトリスティン魔法学院を狙うとはの……
その上、固定化をかけておいた壁をも打ち破るとはたいした奴じゃわい」

それに対してはルイズも共感した。
固定化の魔法とは、その名の通り。
対象の物質などを時を止めたかのように固定し、
固定された物質は腐ることもなく、壊れることもない。
並みのメイジがかけた固定化ならばそれなりの実力者のメイジでも
破壊することはむずかしくはないが
あそこの宝物庫の壁は学院長直々に固定化の魔法をかけているほどのものだ
それを破るなんて、フーケとはそれほどの実力者だったとは………と
ルイズは少し身震いした。しかしルイズは永遠に知ることはない、
その固定化を打ち破った本当の原因は紛れもなく自分だということを………。

「学院長!」

宝物庫を調べていた教師の一人がフライの魔法で上から降りてきた。

「ほとんどの宝は無事だったのですが、ただひとつ
『破壊の杖』だけがどこにもありません」
「ふぅーむ、フーケめ
よりにもよって『破壊の杖』を………、ほかに手掛かりは?」
「はい、この置手紙がひとつ」
「なになに~、『破壊の杖、確かに頂戴しました  土くれのフーケ』か
フォフォフォッ、なんとも律儀なもんじゃわい」


口では笑ってはいるオールド・オスマンだが
その目は真剣そのものだ、今この老人のなかでは
これからどうするかの方針が練りこまれているのだろう。

「ねえオトイシ、あんたのあの竜の子でフーケを探せないの?」
「だから竜じゃなくて………、はぁ……上見てみろ」

そう言われてルイズが顔を上に上げると、スピットファイヤーと
シルフィードが学院の上空をグルグルと飛び回っていた。
何人かの教師がスピットファイヤーの姿に「オオッ!?」と驚きの声をあげた。

「さっきからタバサのシルフィードと一緒に探しちゃいるんだが、
なにしろあの砂煙だし、フーケは名の知れた盗賊だからな
見つからないように身を潜めることに関しちゃあ、
向こうのほうが圧倒的上手だ。どうしようもねぇよ……」

スピットファイヤーを地上まで下ろすと、音石は片手でそれを持ち上げると
その姿にコルベールは感動と歓喜の声をあげ始めた。

「おお!なんとも素晴らしい!!
見ましたか学院長!?あれほどの文化が彼の故郷には
当たり前のように発達しているのですぞ!」
「コルベール君、君が喜ぶのも理解できるは
今もっとも重要なのは『破壊の杖』を持ち去ったフーケのほうじゃぞ?」
「あっ……こ、これは失礼しました」

どこか残念そうだが興奮を落ち着かせたコルベールだったが、
タイミングを見計らったように、タバサとキュルケを乗せたシルフィードが
降下しはじめ、地上へと舞い降り、そんな二人に音石は声をかけた。

「そっちはどうだったよ?」
「やっぱりだめだったわ、フーケがどっちの方角逃げたかもわからないし
第一こんなに暗いんじゃねぇ………」
「もっともだな、………なあタバサ、お前なら奴をどう探す?」
「………夜明けを待つ、それに情報も…………」

――夜が明け始め、現在学院長室――
タバサの意見がもっともだと賛成した一同が学院長室に集まっていた。
今ここにいるのは、音石たちとオールド・オスマン、コルベール
そして何人かの教師陣たちだった。

「さて………こうして夜が明け始めたのはよいが
周囲を捜索させた衛兵たちの報告はどうなんじゃ、コルベール君?」
「残念ながら……、現在のところそう言った報告はまだ………」
「はっ、衛兵と言えど所詮平民、
平民のような役立たずなどあてにしても仕方ありませんぞ!」
「じゃあテメェはどうにかできんのかよ?」
「なにぃっ!!?」

一人の教師が鼻で笑った言葉に、音石がポツリと嫌味を呟き
その教師が音石を睨むが、しかし音石は眼中にないかのように
その教師と目を合わせなかった。

「コレコレよさんか二人とも、今はフーケが問題じゃろう
しかし、オヌシの今の発言はいささか言葉が過ぎるぞ?」
「………ッ、申し訳…ありません…」

その教師が詫びると、オールド・オスマンはやれやれと息を吐いた。
こんな非常時に相変わらずな教師たちに呆れながら
見渡しているとあることに気付いた。

「おや?ミス・ロングビルの姿が見えんの」
【ガチャッ】「私ならここにいます学院長、ハァッ…、遅れて申し訳ありません」

噂をすればなんとやらだ、
突然扉が開かれ、ミス・ロングビルが息を切らしながら入ってきた。

「おお、心配したぞミス・ロングビル
ん?えらく息がきれているようじゃが……なにかあったのかの?」
「はぁ…はぁ…、土くれのフーケの件で…調査していました」
「ふむ、仕事がはやくて助かるのミス・ロングビル」
「お褒めにあずかり光栄です、それで調査の結果なのですが
土くれのフーケの居場所が掴めました」

その言葉に学院長室が一気にどよめきはじめるが
オールド・オスマンは落ち着いた物腰と口調で問う。

「ほう、フーケめの居場所をのぉ~~……
一体それはどうやって調べたのじゃ?」
「はい、実はフーケが破壊の杖を持ち出し
逃亡したところを私が目撃したのです」

周囲のどよめきが一層に増す、ルイズたちもその言葉には驚いた。
しかし音石はなにか引っかかるものを感じていたが、
今は黙ってロングビルの話を聞いておくことにした。

「まさかだと思うがミス・ロングビル………
君はそのまま…………フーケの後を尾行したのかね?」
「身勝手な行動をお許しくださいオールド・オスマン
学院の衛兵である、『サリー』と『エンリケス』を連れて………
そしてフーケがここから馬で2時間~3時間ほどの
とある森の廃屋を拠点にしていたことがわかりました」
「ふ~~~む、ミス・ロングビル……
叱ってやるのはこの騒ぎが終わってからとしよう………。
しかし『サリー』と『エンリケス』?聞かん名じゃのぉ」

コルベールが手元にあったファイルを開き始める。
どうやらそれは学院に所属する衛兵や使用人などのプロフィールのようだ。
ページをめくっていくと発見したのか、詳細をオールド・オスマンに伝える。

「つい最近この学院に所属したばかりの二人組の衛兵ですね」
「はい、現在フーケが潜んでいる廃屋を見張らしています」
「なんじゃとっ!?ミス・ロングビル!
君はそんな危険なところに衛兵を置いてきたのかッ!?
もしもその二人になにかあったらどうするつもりじゃッ!!」

オールド・オスマンが珍しく声を荒げて張り上げ、椅子から立ち上がった。
心優しいこの老人のことだ、危険で凶暴なメイジの近くに
平民でしかない衛兵を置いとくなどどれだけ酷なことか、
それに対して怒っているのだろう。
今まで見たことなかった学院長の怒りの光景に教師たちが動揺し始めた。
しかしコルベールがロングビルをサポートするかのように言葉を挟み
その場を落ち着かせようとした。

「お気持ちは理解できますが学院長!彼らのことを思っているのならっ!
今は一刻も早く王宮にこのことを報告して助けを呼ぶべきかとッ!!」

コルベールが間に入ったことによって、
心を落ち着かせたオールド・オスマンは椅子に座りなおした

「そんな悠長な時間もないじゃろう、コルベール君………、
王宮に連絡してからでは時間がかかりすぎる、
よってじゃ!この一件は我々魔法学院内で解決するとしよう
そうとなれば早速捜査隊を編成する!
我こそはと思うものは杖をかかげ志を示すがよいッ!!」

しかし残念なことに、この学院の教師たちは
口だけが達者なトーシロの集まりのようなものだ。
教師それぞれが顔を見合すだけで、誰も杖を上げようとはしなかった。
そんな教師たちにオールド・オスマンはますます呆れた溜め息を上げると
たった一人、そう……ルイズだけがそのなかで杖をかかげた!

「ミス・ヴァリエール!あなたは生徒ではありませんか!ここは教師に任せて」

シュヴルーズが止めようとしたが、ルイズは牙を剥くように怒鳴り返した。

「誰も杖をかかげようとはしません!
ならばわたしがフーケを追います!
元々フーケをみすみす取り逃がした責任はわたしにあります
あの場に私はいたのですから!」
「それだったら私たちにもその責任はあるわよヴァリエール?
あんたと同じように、私たちだってあそこにいたのだから………」

ルイズに続くように、キュルケとタバサが杖をかかげる。
その行為に次に驚いたのはコルベールだった。

「ミス・テェルプストー!気持ちはわかるがあまりにも危険だッ!!
君たちもあのゴーレムを見ただろう!?」
「お気遣い感謝しますがミスと・コルベール
ですがヴァリエールには負けたくありませんので………
ねぇ、タバサ?」
「………別に家名なんてどうでもいい……でも心配」
「ありがとうタバサ、やっぱりあなたは最高の親友だわ!」

キュルケとタバサが友情を深め合う中、教師達は猛反対を開始した。
だがオールド・オスマンが「では君が行くかね?」と問うと、
皆体調不良などを訴えて断る。
オールド・オスマンは勇気ある志願者三人を見て微笑んだ。

「彼女達は、我々より敵を知っている。実際に見ておるのじゃからな
その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いておる
実力は保証できるじゃろう」

教師達は驚いたようにタバサを見つめ、キュルケも驚いた。

「そんなの初耳よ!?それ本当なのタバサ?
なんで黙っていたのよ?教えてくれればよかったのに……」
「騒がしくなるから……」
「ウフッ、もうっ、タバサらしいんだから!」

キュルケが納得とばかりに微笑んだ。
音石が後から聞いた話だが、
『シュヴァリエ』というのは王室から与えられる爵位であり
階級で言えば最下級のものだが、
ルイズ達のような若さで与えられるような生易しいものではないらしい、

しかもシュヴァリエは他の爵位と違い純粋な業績に対して与えられる爵位。
いわば戦果と実力の称号である。
するとオールド・オスマンが話を続ける。

「ミス・ツェルプストーは、
ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、
彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いておるぞ」

キュルケは得意げに髪をかき上げた。
さて次はルイズの番と、オールド・オスマンは視線を向けて、
褒める場所を探し、コホンッと咳払い。

「その……ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出した
ヴァリエール公爵家の息女で、うむ、それにじゃ……
将来有望なメイジと聞いておる。
しかもその使い魔は、平民でありながらも
あのグラモン元帥の息子である
ギーシュ・ド・グラモンと決闘して勝ったという戦績がある」

明らかにルイズよりを音石を褒めている発言に、
ルイズは少しムッとしたが事実だから仕方ない。
音石は思わず少し苦笑してしまった。

「………オトイシくん」
「あん?」

ルイズたちが並んで前に出ている後ろのほうで、
壁にもたれ掛っている音石にオスマンは突然声を掛けた。

「これはこの年寄りからの………いや、学院長であるワシからの頼みじゃ
君も彼女たちと共にフーケを追ってくれんか?
当然、君が望むのであればいくらでも礼は弾む」
「が、学院長ッ!?」

このオールド・オスマンの言葉に教師たちが驚きの声をあげた。
由緒正しき魔法学院の長が、一人の平民……しかも使い魔相手に
そのような頼みを言うなどこの世界の常識では考えられないことだった。
だが音石からしてみれば、そのようなことを頼まれてもどうしようもないことだ。
なぜなら、頼まれるまでもないのだ…………。

「オトイシ、あんたは私の使い魔よ」

ルイズという自分の主人がこう言われてしまった以上………。

「まあ、そういうことだジイさん
今のオレはルイズの使い魔、そしてそのルイズがフーケを追う以上
オレが行かねぇわけにもいかねぇだろ?
それに『勝算』だってこっちにはある、任せておけよ」

そう言いながら音石は、先程から脇に抱えている
スピットファイヤーをつよく握り締めた。

(さっきは油断したが次はそうはいかねぇ……
ルイズたちはああ言ったが、フーケを逃がした一番の理由は
オレの過信からきた油断だ……、反省しなくちゃなぁ~~~
次もヘマ踏まねぇようによ~~~~)




学院の門付近にて、音石とルイズ、キュルケとタバサ、
そしてオスマン、コルベール、ロングビルがそこに集まっていた。

「ミス・ロングビルはフーケの居場所を知っておる故
君らの道案内役として同行させよう、
なによりミス・ロングビル、君には衛兵の二人の件もある
……………わかっておるな?彼女たちを手伝ってやってくれ」
「はい、オールド・オスマン………
もとよりそのつもりです……」

ロングビルの言葉にオスマンは渋るような顔で頷く。

「ふむ、では馬車を用意せんとな………」
「学院長、その馬車なのですが……
屋根付きの馬車では見通しも限られますし、
なによりいざ何かあった時に動きにくいかと………」
「ふ~む、コルベールくんの意見がもっともじゃな……」
「でしたら屋根のない荷馬車を用意しましょう」
「うむ、任せたぞミス・ロングビル」

そう言って、ロングビルは厩舎小屋へと駆け出していった。
そんなロングビルを見送っていた音石だったが、
そんな彼の上着の裾を突然誰かが引っ張ってきた。
見てみると、引っ張っていたのはタバサだった。

「………質問がある」
「こいつ(スピットファイヤー)のことなら黙秘するが?」
「………………そう……」

表情こそ変えなかったタバサだったが、どこか残念そうな雰囲気で
裾から手を離し、本を読む作業に戻った。
その様子を見ていたキュルケは溜め息をはいた。

(やっぱり教えてくれないか………
オトイシって、ほんと何者なのかしら………
でも彼と一緒にフーケを追えば、少しでも真実に近づくような気がするわね)

「コルベールさん、今更なんだがあんたに頼みが………」
「言わなくてもわかっているよ、それは(スピットファイヤー)君に譲るよ」

コルベールはスピットファイヤーに目を向けそう言ったが
さすがにこの発言には音石も驚いた。
あくまで「借りたい」と言うつもりだったのだが
まさか譲るとまで言ってくれるとは予想してなかったのだ。

「いいのか!?あんたが大金払って手に入れたモンなんだろ?」
「確かに、しかしオトイシくん。私はとても満足している
君がそれを動かすのを見たとき感動で涙がでそうにもなった……
なにより誇りにすら思っているのだよ私は………
少しでも君やミス・ヴァリエールの助けになるなら
私は君に手を貸すのを惜しまないよ………」
「…………感謝します、コルベールさん」


音石は目の前の聖人のような男に軽く頭を下げるのだった………。
すると横から見ていたルイズがあるモノに気づき声を掛けてきた

「そういえばオトイシ、あんたそれもっていくつもり?」
「なんでぇ娘っ子、おれ様も一緒にいっちゃあ問題でもあんのかよ?」

ルイズが指差したのは、音石が部屋からもってきた
意思を持つ剣、デルフリンガーの事だった。

「だって別にねぇ~……、オトイシにはレッド・ホット・チリ・ペッパーが
あるんだから、わざわざあんたみたいな薄汚い剣持っていかなくても……」
「ひっでぇなっ!あんまりだぜ、そんな言い草ッ!!?」
「事実を言ってるだけでしょうっ!」

自分を挟んでのやかましいいい争いに、
音石はやれやれと呟き二人の間に助け舟を出した。

「まぁ、ルイズが言ってることがもっともなんだがな」
「おいおい相棒、そりゃあねぇよ~~ッ!?」

「だがまあルイズ、ないよりはマシだろ?
それにこいつの助けが必要になる状況もあるかもしれねぇしな、
例えば俺がスピット・ファイヤーでフーケのゴーレムを攻撃してる時に
フーケ本体がオレ本体を狙ってくるかもしれねぇ………。
手元に武器がありゃ幾分かマシだぜ?ナイフも何本か持ってきたしな」

そう言って音石は、上着の内ポケットに仕舞っているナイフを
ルイズにチラつかせた。
内側のナイフをチラつかせている音石の姿が
あまりにも様になっていたのにルイズは苦笑いを浮かべるのであった。

「まあ、薄汚いボロ剣ってのは事実だから仕方ねぇがな」
「なに勝手に『ボロ』付け足してんだよっ!?
使い魔、主人そろってひでぇぜお前らッ!!」

デルフの虚しい叫びも、音石とルイズが目を黒い影で塗りつぶし
無視されるのであった。





ミス・ロングビルはまず、荷台を引くための馬を用意するために
厩舎小屋で適度な馬を選んでいた。
本来、大盗賊土くれのフーケを追うような危険な調査では
誰もが不安を隠せない表情を浮かべるのが普通だろう。
しかしこの時彼女の顔は、邪悪な笑みで口元を歪めていた。

「ふっふっふっ、まずは第一段落終了だね………
できれば教師に出てきてほしかったけど、まぁ仕方ないわね
この学校の教師たちったら口だけで腑抜けばかりだもの……」
「どうやら計画は順調に進んでるようじゃねぇかフーケ」
「!?」

すると突然、厩舎小屋の奥から声が聞こえてきた。
暗闇で顔こそは見えなかったものの、
ミス・ロングビルもとい土くれのフーケはその声に聞き覚えがあった。

「ッ!?あんた、なんでこんなところにいるんだいっ!?
私が獲物を連れてくるまで持ち場で待機してろって………」

「ヒヒヒヒッ、そう硬いこと言わないでほしぃ~ね~
あんたを捕まえようなんて考えている馬鹿な命知らずがどんなヤツらか
ちょいと気になったからよ~~、見に来ただけじゃねぇか~
あんたまさか『土くれ』って ふたつ名のくせして
人のおちゃめも通じねえコチコチのクソ石頭の持ち主って
こたあないでしょうね~~~~~?」

暗闇のなかにいる相手の言葉にフーケは苛立ちを覚えるが
こいつの人を頭から馬鹿にしたようなしゃべり方は今に始まったことじゃないと
自分に言い聞かせ、怒りを堪えた。

「どうせそっちは馬車なんだからナメクジみてぇにノロノロ来るんだろう?
あんたの考えた計画をおれがわざわざめちゃくちゃにするとでも思ったかい?
そこらへんはちゃ~~~~~んと考えてるぜぇ~~~~~?」
「………ふんっ、そりゃよかったね。
だったらとっとと持ち場に戻って………」
「いんや~~、おれも最初はそうしようと思ったんだけどなぁ~~……
これだけはあんたに伝えといといたほうがいいかなぁ~~っと思って、
わざわざこんな馬糞くせぇところであんたを待ってやったってわけだぜ?」
「伝えたいこと?」
「ああ、あんたが言ってた妙な使い魔………
ありゃ~~~十中八九『スタンド使い』だぜ
以前あんたは伝説の使い魔ガンダーなんとかの能力とかなんとかって
バカづらさげて言ってたがよ~~~………」

その言葉にフーケは身目を見開かせ、驚きを隠せない顔をしていた。

「そうそう、丁度そんな感じのバカづらだぁ~、ヒヒヒヒヒ
あんた顔面の表情操作が意外とうまいねぇ~」
「つまりあの使い魔はあんたの世界から召喚されたっていうのかいっ!?」
「ケッ、そこはあえてスルーですか……
まぁ、そういうことになるんだろうなぁ~~~~
あいつの格好、ぶら下げてるギター。間違いなくおれの世界の文化だ
しかもギタリストとは………なかなかイカシてると思わねぇかい?」

フーケは爪を歯で噛みながら、なにかを考えふけっていた。

「あんた………あの使い魔を倒せるのかい?
あの使い魔、はっきり言ってかなり強力だよ…………」
「モノは考えてから言えやこのボゲ、このおれが負けるとでも思ってんのかよ?
もしそうだとしたら、アンタ今からこのガキのションベンくせぇ
学院の医務室に行って、ケツの穴に温度計ブッ刺されたほうが
いいって助言してやるぜ?」
「ふんっ、相変わらず減らず口が絶えないやつだよ
まあ、それを聞いて安心したよ。
今回の作戦はあんたの働きに掛かってるんだからね」


そういってフーケは相手が潜んでいる暗闇から視線を外し、
馬を二頭選び、厩舎小屋から引っ張り出した。
そして自分が気になっていたことを思い出し、
再度小屋の奥の暗闇に視線を戻した。

「そう言えば、あんたに言われたから攫ってきた衛兵の二人
一体なにに使うんだい?」

しかし、その時には暗闇には誰もおらず、
ただ小屋のなかにいる馬の鳴き声と窓から流れる風の音が
静寂に小さく唸るだけだった………………。

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