ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

反省する使い魔!-13 前編

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匿名ユーザー

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反省する使い魔!  第十三話「土の略奪●雷鳴の起動」


「ねぇタバサ、あなたはどう思う?」
「………?」

食事を終え、ルイズに付き添って医務室にいるキュルケとタバサ。
メイジの女医師に音石からもらった金を支払い、
治療をしてもらっているルイズの後ろで
キュルケがタバサの耳元で、ルイズに聞こえないように呟いた。

「……何が?」
「オトイシの『アレ』の事よ」

『アレ』とは言うまでもなく
『レッド・ホット・チリ・ペッパー』のことである。

「彼の能力のこと?」
「そうよ、あたりまえでしょ?
あららァ~、それともなにィ?もしかして変の意味で考えちゃったァ~?」
「………あなたと一緒にしないでほしい」
「ふふっ、それもそうね。そう睨まないで頂戴
それで、どう思う?」
「………どう、とは?」
「なんでもいいのよ、いろいろと疑問はあるでしょ?
いくつか聞かせてくれるだけでいいの、
わたしも考えたんだけどさァ~、
いろいろと疑問が多すぎて逆にサッパリなのよ」

ある意味キュルケらしいとタバサは思った。
次にタバサの口から小さくやれやれと溜め息が出る、
なんでもかんでも自分に意見を求めるのはキュルケの悪い癖だ。
でもそれはそれでキュルケらしいと、妙に納得もいった。
そしてそんな親友キュルケの為に、頭の中で疑問点をまとめる。

「彼は……ただの平民じゃない」
「そりゃそうよ、あんな強い亜人を操れる彼が
『ただ』の平民だったら、私たちメイジの立場がないわ!
あ……でも、それならあの亜人は一体何なのかしら?
やっぱり、あのギターって楽器がマジックアイテムになってるのかしら?」
「………たぶん、ちがう」
「どうしてそう言い切れるの?」
「正直言うとこれは勘。でも少しだけ思い当たるところはある。
以前彼自身もマジックアイテムを使っていると言っていた
でもあれはたぶん嘘、態度があまりにも素っ気無かったし
それに彼が『能力の正体がマジックアイテムを使っている』と
すんなり答えたところがとてもひっかかる」
「…確かに、彼の性格から考えてそんなに自分の能力の秘密を
すんなり他人に教えるなんて奇妙で不気味ね……
でもじゃあそれって………」

キュルケが顎に手をあてて考える仕草をとる。
そしてそんなキュルケの考えを予想できたタバサは
彼女のために結論を口にした。

「あれは……マジックアイテムとも……魔法ともまるで違う
わたしたちの常識を遥かに超越したナニか」
「……もしかして、未知の先住魔法とか?」
「それも考えにくい、彼はエルフには見えないし
そもそもあの亜人には、魔力の流れを感じなかった」
「そう…よね…、ギーシュとの決闘のときは
距離があったからわからなかったけど、
昨日の戦いでは彼と彼の亜人のすぐ傍に私いたけど
そんな感じ全然しなかったわ………」

なにやら更なる疑問が増えてしまった気がして、
キュルケは両手でわしゃわしゃと頭を掻き回した。

「あァーーもうッ!わっかんないわねぇ!!
一体彼って何者なのよ!!」
「病室では静かに!!」

(まったく、仮にも貴族がなにやってんだか…)

後ろで突然叫んだことで、医務室の専属メイジに
元気よく怒鳴り怒られたキュルケにルイズは胸の中で溜め息をついた。


【ガチャリ】「失礼します」

するとキュルケたちのさらに後ろで、
医務室の扉が開く音と同じくしてモンモランシーが入ってきた。

「あら、モンモランシーじゃないの
一体どうしたのよ?熱でもあるの?」
「はァ?な、なんでそうなるのよ?」

キュルケの挨拶に続いた質問にモンモランシーは首を傾げた。
しかしキュルケは別に皮肉で言っているわけじゃない。
本当にモンモランシーを心配して質問したのだ。
なぜなら………、

「だって…あなた顔すっごい赤いわよ?」
「え、ええぇッ!!?」

モンモランシーはすぐさま両側の頬っぺたに手を当てた。
………熱い、とても熱い。熱と勘違いされて当然の熱さ。
原因はわかってる、わかってはいるけど……
まさかここまで自分は顔を紅くしているとは思わなかった。

そんな自分の顔をルイズたちがまっすぐ見ている。
実際は純粋にクラスメイトを心配している視線なのだが、
モンモランシーはそんな視線をとても直視できなかった。

「ちょ、ちょっと!ひ、ひ、人の顔をまじまじ見ないでよ!?」

くるり、っとモンモランシーは顔を隠すために体ごと後ろを向いた。
しかしそこに最高のタイミングで…………、

【ガチャリッ】「よー、ルイズいるかァ?」
「キャアアアアアアアアァァァァァッ!!!??」
「おわァッ!!?」【ビックゥッ】

原因である男、音石明が入ってきた。
モンモランシーの壮大な絶叫が鳴り響く。
当然この後、医務室専属メイジに
「病室では静かにッ!!!」
とキュルケと同じように怒鳴られたのは言うまでもない。
まあこの医務室専属メイジ自身もけっこう大概のような気もするが………



「てめぇ一体どういうつもりだァ?
俺が日頃大音量に慣れてるギタリストじゃなかったら
今頃耳の鼓膜がブチ破れてるぜ!」
「あ、あなたがいきなり現れるからいけないんでしょう!?」
「てめぇの頭は間抜けかァ?
ついさっきまで一緒にここまで来たんだから当たり前だろーが!!」

また怒鳴られないために結構セーブした声で音石がモンモランシーに抗議する。
ついでに言うとこの医務室は貴族専門で、
給仕以外の平民は立ち入り禁止されている。
その証拠として、医務室専属メイジに怒鳴られた後
「ここは平民の立ち入りは禁止よ!」と睨まれたが
ルイズの計らいのおかげで、
今は問題なく医務室内でモンモランシーに講義できている。
そんなドアの前の二人のやり取りに、キュルケとルイズは意外そうな顔をした。
毎度のコトながら、そんなキュルケとルイズに対して
タバサはいつものように本を読んでおり、
モンモランシーの絶叫の際も一切動じなかった。

「あの二人、いつの間にあんなに仲良くなったのかしら?」

キュルケの口から当たり前の疑問がこぼれた。

まあ無理もない、はたから見れば実に奇妙な光景だ、
外見的にも十分奇妙。
顔に古傷を持ち、学院の女子生徒にも引きを取らない長髪の男。
ロールヘアーと大きなリボンとロール頭が特徴的な少女。
絵になってるようでなってないような組み合わせだ。

当然外見だけじゃない、その人間関係的にも実に奇妙。
方や不思議な能力を使い、この学院の生徒一人を半殺しにし、
生徒たちの間でお尋ね者扱いされているなぞが多い男。
方やその半殺しにされた生徒の恋人関係にあった香水の少女。

『奇妙』、実にシンプルにひと言である。
そんなひと言が、この二人にはとてもよく似合っていた。


「で?ふたりして一体何しに来たのよ?
しかもオトイシ!なんであんたがモンモランシーと一緒にいんのよ!?」
「治療してもらったばっかなんだろルイズ?
傷が治ってすぐにそうカッカすんなよ、気分がダルくなるぞ?」

(誰のせいだと思って………!!)

ルイズが心の中ではき捨てた。
彼女からしてみれば、自分の使い魔が
よその女の子(しかもクラスメイト)と仲良くしているのは
あまりいい気分ではない。
普段こういう感情の対象はキュルケだと相場が決まっているが、
とうの本人は奇妙な事に音石に対して
そういうアプローチは今のところ一切していない。
おそらく二日前、音石がキュルケの部屋から出てきたあのとき
自分の知らないなにかがあったのだろう……
少なからず、キュルケを人間的に変えるなにかが……。


「でもまあ勘違いすんなよルイズ
おれはお前らが医務室にいると思って様子見に来たんだよ
でも肝心の医務室の場所がわかんなかったんだが
そこをこいつが親切に案内してくれたっつ~なりゆきよ~」
「そういうことよ、変な勘違いしないでよね
まったく、これだから『ゼロ』のルイズは……」
「だれが『ゼロ』よ!!」
「たくっ、お前ら二人そろってカッカしてんじゃねぇ!
また怒鳴られちまうだろうがッ!!
まったく、ルイズの性格考えて、変な勘違いして怒らねぇように
わざわざわかりやすく簡潔に説明してやったってのによぉーー、
これじゃ無駄骨もいいとこだぜ………
モンモランシー!頼むからルイズをしょうもねぇことで
怒らせんのはやめてくれ、ルイズが怒りのまま爆発起こして
その後片付けっつー二次被害受けんのは俺なんだぞ!?
ルイズもルイズだぜぇ~?いちいち相手の挑発にのるようじゃ
周りが見えなくなって、おまえ自身が一番損する羽目になるぜぇ?」
「「…………………う~~…」」

ルイズとモンモランシーは小さな唸り声をあげる。

(普段の俺ならこういううっとおしい状況はとりあえずギター響かせて
押し黙らせるんだが……、まあ場所が場所だしな…
てゆーかよ~、他人に説教すること自体俺らしくもねぇな
他人に説教できるほど立派な人間ってわけでもねぇぞ俺)

いろいろと呆れた仕草を音石は髪を掻くことで表した。

「そうよ、よく考えてみればこんなことしてる場合じゃないわ!
え~~とっ【ガチャリッ】……………あれ?」

モンモランシーがルイズたちを通り過ぎると、
医務室に設置されてあるいくつかの扉のうち、
手前から二番目の扉を開いた。しかしその扉の先には、
窓から太陽の光に照らされた高級そうなベッドや
棚などの家具が置いてあるだけで
そのベッドにもその部屋にもだれもいなかった。


(さすが貴族の学校の医務室だぜ
この医務室だけでもこんなに豪華な個室が設置されているとは。
個室ひとつひとつがまるで高級ホテルの宿泊部屋だぜ、
なんだってたかが医務室にこんな無駄な作りするかねぇ~~~)

音石がその無駄に豪華な医療用個室にも呆れるが
モンモランシーはなぜか少し混乱していた。
しかし、モンモランシーのその混乱の正体を察した
医療室専属メイジがモンモランシーを助けた。

「ああ、ミスタ・グラモンなら一番奥の部屋ですよ」
「え?ですが前はここに………」
「なんでも『奥のほうが静かで落ち着く』だそうです
それで今日の朝、部屋を移したんです」
「あ…、そういうことですか。ありがとうございます」

トテトテとした足どりでモンモランシーは
医務室の一番奥の扉に向かっていった。
こう見ると扉まで意外に距離があった。
音石がそんなモンモランシーを眺めていると
モンモランシーはそのまま扉をノックし、個室の中へと入っていった。
するとルイズが急に音石の上着の袖を引っ張ってきた。

「なんだよ?」
「はいこれ、言われたとおり残りは返すわ」

手渡されたのは彼がルイズに託した金貨が入った袋だった。
音石が中身を確認すると、まだある程度の量は残っていた。

「はっ、意外だな」
「…なにがよ?」
「自分でもわかってるくせに聞くなよ、俺を試してんのかァ?」

使い魔の責任は主人の責任、主人の責任は使い魔の責任。
これがメイジと使い魔の間での鉄則だ。
音石が言う意外とは、
『使い魔のものは主人のもの』という理由で
ルイズが金を没収してこなかったことに対してだ。


「フフフッ、でもルイズの気持ちなんとなくわかるわ、
わたしだって仮にオトイシが使い魔だったら同じことしそうだもの」
「どういうこった?」
「あなたがそれだけ『特別』だってことよ
使い魔らしくないって言ったほうが正しいかしら?」
「あー…、なるほどな」

音石が袋を懐に仕舞う。

『特別』―――――――、たしかに音石は『特別』だろう。
使い魔らしくないというのもそのまま的を射ている。
サモン・サーヴァントで前例のない召喚された人間。
『忠実』とまで主人に従わない使い魔らしくない使い魔。
不思議で奇妙な『特別』な能力・スタンドを扱う人間。
その上、そんなスタンド使いのなかでも
あの『弓と矢』を手にしていた『特別』なスタンド使い。

ここまで特別だとかえって清々しいものだ。
その特別のおかげで、ルイズは本来の使い魔の扱い方を
特別な音石に同等に扱うのが滑稽に感じているから
すんなりと金を返してくれたのだ。

(ん?まてよ………)

袋を懐に仕舞い終え、上着から手を出したときに
音石はあることに気がついた。
医務室専属メイジが口にしたとある名前だ。

「ミスタ・グラモン?おいおいおい、
それって俺が決闘で半殺しにしてやった小僧のことか?
あの野郎、あれからだいぶ経ったのにまだ治ってねぇのかよ
どれどれぇ、おれも様子を見に行ってみるか」
「あ、ちょっとオトイシッ!?」

急に奥へと向かっていった音石に
ルイズは驚いて声をかけたが、
音石はそれを無視しモンモランシーの後を追った。

(ふっふっふっ、ベッドで安心して寝ているところに
寝かした理由の張本人が突然現れたら……………
ギヒヒッ、あいつ慌てふとめくぜ!)


早い話タチの悪い嫌がらせである。
22にもなるいい歳した大人なのに
どうもこういう子供じみた嫌がらせをするのは
どちらかというと音石本来の性格の悪さにあるのだろう。

【ガチャリ】「おらァ、入るぜ」

ノックもせず、モンモランシーが入っていった個室のドアを開ける。
部屋の構造は最初の個室と大して変わらず、
中央の壁際にベッドが置いてあり、窓がひとつ、
ドアの近くに花瓶がのった小さな机と椅子。床にしかれた絨毯。
どれもこれもが気品溢れる豪華な代物だった。
そしてその豪華なベッドの上で横になっている
ギーシュが入ってきた音石を見た瞬間
顔を蒼白にし、全身がガタガタ震え始めた。
そしてその音石もギーシュが自分に完全に恐怖する様を見て
気分がいいのか、悪どい笑みを浮かべはじめる。

「ようクソガキ、思ったより元気そうじゃねぇか
さすが魔法だな。あれだけぐちゃぐちゃにしてやったってのに
たった数日でほとんど治ってるじゃねーかァ。ええおい?」
「き…き、き、き、君は!?
な、な、なぜ!?き、き、きみがここにィ!!?」

ギーシュの体は魔法の治癒のおかげで音石の予想以上に回復していた。
半殺しにされた当初こそは、バイクで事故って間もない墳上裕也を
余裕で上回る包帯やギブスなどでの施されようだっただろうが
数日経った今となっては片手と片足を包帯でぶら下げているだけの
この世界の治癒の魔法の凄さを思い知らされる傷の治りようである。

「ちょ、ちょっとオトイシさん!?
一体なんのつもり、きゃあっ!?」

モンモランシーが二人の間に割って出ようとしたが
音石がすかさずモンモランシーの腕につかみかかり
彼女を自分の傍に引き寄せ、彼女の耳元で話しかけた。

「べつになんもしやしねぇよモンモランシー
ちょっとばかしからかってやるだけさ」


普段のモンモランシーならそれでも止めに入るだろうが
今の彼女の状況が彼女をそうさせないでいた。
その状況というのが………、

(か、顔が!……あわわ、か、か、顔が近い……)

そう、モンモランシーの耳元で呟く必要があったため
二人の顔の距離が必要以上に接近しているのである。
それこそ、鼻息の生温かさまで感じ取れる程の
ウェザー・リポートといい勝負であった。
しかもモンモランシーは異性にここまで顔を近づかれた経験など
ギーシュのときですらなかったため、
モンモランシーの顔にどんどん赤みがかかっていく。

【ボォンッ!】

そしてとうとうその赤みが限界値に達したのか
モンモランシーの頭の上で小さな噴火が起こり、
次に湯気が立ち昇り、彼女はそのまま硬直してしまった。
立ったまま赤面で硬直してしまったモンモランシーを通り過ぎ
音石はさらにギーシュのベッドに接近した。

「ぼ、ぼ、僕をどうするつもりだッ!?」

ギーシュはこのとき、
自分をこんな目に合わせた元凶に対する恐怖のせいで
その元凶に対するモンモランシーの態度の異変に気付かないでいた。
まあその元凶本人もモンモランシーの態度に気付いちゃいないが……

「さてなァ…、どうすると思うよ?」

ギーシュの恐怖からくる冷や汗と心臓の鼓動が増す、
普通なら平民が貴族に対して手を出すことは絶対的なタブーだ。
今だってそうだ、互いの承諾の元で行われる決闘とはワケが違う。
だが目の前の男は…………『例外』すぎる!!
平民でありながら自分を凌駕したチカラを使い、
平民でありながら自分をここまでボコボコにした例外者である。

(ま、まさか……こんな大怪我で動けない僕を
さらにボコボコにする気かァーーッ!!?)

ギーシュはあわてて枕元においてある
自分の杖の薔薇に手を伸ばした。
しかし虚しいことに、その伸ばした手は薔薇を掴むことはなかった。
なぜなら薔薇を掴む寸前に、音石に横取りされてしまったからである。

「おいおい、物騒なことすんなよなァ~~
ここは医療室だぜ?静かにしねぇと駄目じゃねぇか
俺みたいに、ここ担当してるメイジの女に怒られちまうぜ?」


希望が奪われたことにギーシュは泣きそうになった。
いや、これから泣かされるのだろう。
できればその程度であることを願った。

「へ、平民の君が貴族である僕に手を出したらどうなるか
わかっているのか!?決闘のときは運良く問題にならなかったが
今回はそうはいかないぞ!?君がどれぐらい強くても
世界中のメイジが君を追い、間違いなく処刑するぞッ!?」

ギーシュの混乱した様を眺めながら
音石は内心でおおいに爆笑していた。
ギャハはァーーッ!なにもしねぇってのにバカが吠えてやがるぜ!!
音石からしてみればギーシュのその姿は滑稽でしかなかった。
包帯で手足を固定されているためベッドから動くことができず
頼みの綱であった杖も手元になく、ただ自分に威嚇するその姿、
動物園の檻の中で観客に威嚇する小動物、まさにそれである。
音石はそのまま、ギーシュの虚しい威嚇を眺めていると
ある人物が部屋に入ってきた――――――。

「ちょっとオトイシ!やめときなさいよ
さすがにギーシュに悪いわよ!」

治癒のおかげで完全に回復したルイズである。
音石は首だけ後ろに向け、それを確認する。
そのルイズに反応して硬直していたモンモランシーも
別の意味で帰ってきたようだ。
まあ、ルイズがそういうならここらあたりで勘弁してやるか
音石は満足そうに息を吐き、ギーシュから背を向けようとした
しかしまさにその時だった。ギーシュが言葉を発したのは……

「お、おいゼロのルイズ!!
はやくこの使い魔をなんとかしてくれ!!
主人なら使い魔の管理ぐらいちゃんと【グイッ!】ひ、ひィッ!!?」

言葉の途中に音石は瞬発的にギーシュの胸倉を掴みかかった!
そしてそのまま手足の包帯での固定もお構いなしに
ギーシュを無理やり力尽くで自分のほうへと引き寄せた。

「おいテメェ……、マジで入院期間先延ばししてやろうか……?」
「う、……うう、…うああ…あ………」

とうとうギーシュの目から涙が溢れる。
その音石の行動にすぐさまルイズとモンモランシーが止めに入った。

「なにやってるのよオトイシ!?いくらなんでもやりすぎよッ!?」
「そ、そうよオトイシさん!さっきなにもしないって言ってたでしょう!?」
「てめぇらは黙ってろッ!!!」

【ビクゥッ!!】

音石の怒鳴り声にその部屋にいた全員がびびった!
そこには先程までの年下の小僧に嫌がらせをする大人気ない姿ではなく、
なにか怒りに触れた悪鬼の如き、威圧ある姿があった。

「う、う………ゆ、許してくれ……」

涙で顔を濡らしたギーシュから謝罪の言葉が出る。
しかしその言葉は音石の怒りにさらに触れるだけだった。

「決闘の時もそんなこと言ってたなァ~~~~、ええおい?
お前は謝ることしかできねぇのか?よぉ、どうなんだ小僧?」
「う………うう…それ以外なにをすれば………
お、お金が……う、う……ほしいんなら幾らでも払う……だ、だから……」
「このボケがァッ!!
金で治まるよーな問題なら俺もここまでマジになりゃしねぇよッ!!
俺が頭にきてんのはな~、てめぇがやるべきことに気付いていねぇことだッ!!」

胸倉を掴んでいた手を離し、ギーシュをベットに叩きつけた。
ギーシュは喉を押さえて咳き込みながら、
音石を恐る恐る見上げ、そして呟いた。

「やるべき……こと………?」
「……………………………」

音石は何も言わず黙り込んでいる。
聞かずとも自分で考えろ。そう示しているのだろう。
そしてギーシュは考える…………。
一体自分のなにが悪かったのだろう?
二股をしていたこと事態はあくまで自分の個人的な問題に過ぎない。
ならばその罪を無関係な給仕になすりつけたことだろうか?
いや、近い気もするが一番の理由はそうではないような気もする。
考え方を客観的にしてみよう………、
一番重要なのは『目の前の男が何に対して反応した』かだ………。
              ・
              ・
              ・
              ・
              ・
           『ゼロのルイズ』!!

ギーシュは一気に理解した!
目の前の男はルイズを侮辱したことに怒りを表しているのだ!
だが何故だ?使い魔としての本能がそうさせているのか?
それとも彼の元からの性格がただのお人よしなのか?
いいや、そんなものはどうでもいい!問題はそこではない!!
一番の問題は、自分がルイズを今まで侮辱し続けたことにある!
自分の誇り高き家柄、グラモン家の教訓はなんだ?
薔薇である女性を守る棘であることだろう!?
それなのに自分は今まで彼女になにをしてきた!?
魔法が使えないから!?確かに彼女は魔法は使えない、
だがそれでも魔法が使えるようにと必死で努力している
事実彼女は筆記試験では常にトップだ。
……………だからこそ尚更なのかもしれない。
魔法が使えない故に実技では常にルイズはゼロ点だ。
それに対して筆記試験では常にルイズはマン点だ。
それがものすごく気に入らなかったんだ………、
ゼロに嫉妬している自分に苛立ちを覚えてしまっていたのだ。
自分だけじゃない、ほとんどのクラスメイトがきっとそうだ。
だからみんなルイズを罵倒したのだ、見下していたのだ、
侮辱していたのだ、『ゼロのルイズ』と……………。

刹那、個室の外の廊下から足音が聞こえてきた。
このタイミングでやってくるような人物は大体予想できる。
扉が開かれる、予想通り医務室専属のメイジの女性だ。

「一体なんの騒ぎですか!?」
「え……あッ!?い、いえ!これは………その…事情がッ……」

ルイズは焦った、自分の使い魔がまた同じ生徒相手に
しかも重症の状態で暴行を働こうとしたなどと
学院側に知られたら今度こそ退学になる恐れがあったからだ。
なんとか誤魔化そうとルイズが必死で思考を廻らせる。

「……いいえ、なんでもありませんよ」

ルイズは自分の耳に届いた声を疑った、
何を隠そう、その声は間違いなくギーシュの声だったのだ。

「お騒がせしてすみません
急に窓から虫が入ってきたので、つい慌ててしまって……」
「む、虫ですか?」
「ご心配なく、もう追い払いましたので……
本当に申し訳ない、ご迷惑をお掛けしてしまい……」

それならいいんですが……、と言い残し
そのメイジの女性は扉を閉め、部屋を後にしていった。
足音が遠退いていくにつれ静寂が部屋を支配する。
しかしその静寂のなか、ギーシュは深く息を吸い、目を閉じた。
そして静かに吸った息を吐き捨てると、開いた彼の目はルイズを見た。

「な、なによ……?」
「ルイズ……………すまなかった……」
「………え?」

足が動けないせいで
ベットの上で横になっている状態の体を精一杯前に傾け
ギーシュはルイズに向けて頭を下ろした。

「僕は、いままで君に酷い事をしてきた……
だが今更僕がなにを言ったところで、言い訳にしか感じないだろう
いままで君に対しての侮辱してきたのは事実なんだからね……
だが一言、これだけは言わせて欲しい………、本当にすまなかった」
「ギーシュ………」

モンモランシーから彼の名が零れた………。
ルイズ自身もどこか複雑な表情を浮かべながら、
何を言うべきか考えているといったところだろう。

(ここまでくりゃあ、後はこいつら自身の問題だな
せいぜい達者にやんな、時間はたっぷりあるんだからよ)

自慢の長髪をなびかせながら、音石は静かにその個室を後にした。
医務室を出る途中にキュルケたちに何があったのか質問されたが、
音石は「でけぇお邪魔虫が部屋を出て行ったんだよ」とだけ述べ
扉を開き、そして閉め、医務室を後にしていくのだった…………。

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