ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

反省する使い魔!-9

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反省する使い魔!  第九話「噂の奏で△微熱の乙女」


学院長室が配置されてあるのは
トリスティン魔法学院にいくつもそびえ立つ塔の一角だ。
当然、移動には内部の螺旋階段を使用する。
そして今その螺旋階段では、ルイズの後に続くように
音石が階段を下りていた。
すると音石に背を向け階段を下りながら
ルイズが話しかけてきた。

「ねえオトイシ、あんたなんで
スタンドのことを黙ってたの?」
「そこんとこは悪かったと思ってるぜルイズ、
だが勘違いはしないでくれよ。別に隠してたわけじゃねェ、
ただ単純に『話す機会』がなかった…。それだけだぜ。
…クックック、そう考えるとあのギーシュって小僧との決闘が
ある意味、お前にオレのことを知ってもらう
『いい機会』だったって事かもしれねーな」

音石が得意げに鼻で笑った。
それにつられてルイズも「もう、ばかねぇ」と
薄ら笑いを浮かべた。

「まっ、こうして話してくれたわけだし
今回は特別に許してあげるわ。その代わり!」

突然ルイズが振り返りビシッと音石を指差した。

「あんたさっき学院長室で言ってたわよね?
『オレの世界についてはまた今度じっくり話してやる』って
その約束、しっかり守ってもらうわよ!」

このルイズの命令には音石も意外そうな顔をした。

「なんだよルイズ、地球に興味があんのかよ?」
「そりゃね、私これでもハルケギニアについては
結構いろいろと知っているほうなのよ?
だからとても興味があるわ、魔法が存在しない世界だなんて、
とても想像できないもの」
「へぇ~…、人は見かけによらねーってのはこの事だな」
「なんか言った?」
「幻聴だろ」

そんなやり取りをしているうちに
いつの間にか二人は階段を降りきっていた。
そして二人は自室……つまりルイズの部屋に戻るべく、
学院なだけあって無駄に広い中庭の道を通っていった。
そんなときだ、向こう側から数人の男女生徒が歩いてきた。
ルイズは彼らを見た瞬間、若干動きが躊躇った。
そんなルイズの反応に気付いた音石も向かってくる
生徒たちの顔を見る。……そして気付いた。
向かってくる生徒の何人かが今日の授業で見た顔……、
つまりルイズのクラスメイトだったのだ。

彼らは全員が楽しそうに会話を繰り広げ、
廊下の真ん中を堂々と歩いていた。
しかし、一人の生徒がルイズたちに気付いたのか、
顔をはっ!とさせ、一緒にいる仲間たちに
なにかをささやき始めた。

ルイズたちからは距離があったため
なにをささやいているのか聞こえなかったが、
次の瞬間、彼らが一斉にふたつに分かれ
ルイズたちが余裕で通れる道を作ったため
なにをささやいていたのか余裕で予想が付いた。

ルイズと音石が彼らを通り過ぎると
彼らは逃げるようにその場を走り去っていった。
ルイズは何か複雑な気分だったが
音石は心の中で嘲笑っていた。


(フッフッフッフッ、あの決闘自体がルイズに
スタンドを教える『いい機会』だとすれば…、
あの決闘での勝利は貴族の肩書きなんかで図に乗っている
ガキ共に喝を入れる『ちょうどいい機会』ってわけか……)


その後、音石はルイズの部屋で
自分の故郷、地球についての説明をした。
地球の歴史、科学技術の発達、自分は地球の
日本という国の人間で国によって言語が違うなど。
ありとあらゆる説明をしていくにつれ
ルイズは未知な知識が次から次へと
頭の中に入っていく新鮮な感覚に興奮と驚きを
隠せないでいた。
音石自身も自分の世界では誰でも知っていて当然の常識を
こうもいちいち驚きまくるルイズの反応は
見ていておもしろかったため特に不満も
めんどくささも感じないまま説明を続けた。

当然、説明すればするほどルイズからの質問が増えていく。
車とはどういうものなのか?
鉄の塊がどうやって空を飛ぶのか?
音石はサムライなのか?
など、説明するにつれ質問にも答えなければならないため
当然、喉がスッカラカンに渇ききってしまい
ルイズの部屋に置いてあった水を必要以上に摂取した。
喉を渇かすこと自体は音石にとってよくあることだが、
その渇きを癒すために摂取した水の量が半端じゃなかったため、
音石はこの日、ひどくトイレに悩まされる羽目になった。


そんなこんなで会話を繰り広げていると
いつの間にか、外が暗くなっていた。
どうやらお互い会話に夢中になっていたのか
時間が過ぎているのに気付かなかったらしい、
音石にとってはこの世界で二度目に迎える夜だったため
どこか奇妙な感覚を味わっていた。
先に外が暗くなっていることに気付いたのは音石だが
ベットに座っていたルイズも音石が気付いたすぐ後に
外が暗くなっているのに気付き、何かを思い出したのか
勢いよく立ち上がった。

「あ、いっけない!オトイシ、行くわよ!」
「行く?…ああ、夕食か?」
「そうよ、早くしないと神聖なる
食事前の祈りに遅れちゃうわ!」
「祈り?そんなんがあんのか?」
「はぁ?あんた何言って……
あ、そっか…。あんた朝食のとき
すぐに出てったから知らないのも当然ね……
いい?私たちの祈りってのは始祖………」
「なあルイズ、説明してくれんのは嬉しいんだが
急いでんならせめて行きながらにしねーか?」
「………それもそうね、ついてきなさい」

部屋に出た二人は食堂に向かうために
廊下の奥にある階段を目指した。
音石は食事前の祈りについての説明をしている
ルイズの後に続いて歩いていたが、
音石は食堂に行ったらまたシエスタの世話になるか
と考え事をしていた為、
最終的には祈りというのは
かつて存在した始祖とかいうお偉いさんに
感謝の言葉を送るというアバウトな感じにしか
覚えていなかった。


ルイズの後に階段を下りようとしたその時、
音石は咄嗟に後ろを向いた。視線を感じたからだ。
刑務所に入っていると、その気がなくても
嫌でも看守の目を気にするときがある。
そのため音石は妙に視線や気配に人一倍に敏感になっているのだ。
かつて牢屋に入っていたアンジェロが
虹村形兆の気配にいち早く感付いたのがいい例である。
しかし音石の視線の先には女子寮の生徒たちの
部屋の扉が連なっているだけで、
特にドアの隙間や廊下の一番奥にある窓ガラスには
こちらを伺うような人影もなかった。

(………気のせいか?)
「ちょっとオトイシ!なにしてんのよ、早く来なさい!!」
「あ、ああ………今行く……」

音石は疑問を感じながらも
これ以上、ルイズを待たせたら大目玉を
くらいそうだったため、慌てて階段を下りていった。
足音が遠のいていくと、ルイズのひとつ奥の部屋……
キュルケの部屋の扉がキイィィィィ…っと音を鳴らした。
わずかに開いた扉の隙間からはキュルケの使い魔、
フレイムが顔を覗かせていた。


ルイズと音石が食堂に辿り着くと
相変わらず大勢の生徒がにぎやかに談笑の声を上げていた。
しかし、生徒が少しずつ音石の存在に気付くと
にぎやかな談笑も少しずつざわめきに変わっていった。

「お、おい、あいつだぜ」
「ば、馬鹿!目を合わせるな!ギーシュの二の舞になるぞ!!」
「なんであんな野蛮人を先生たちは放っとくのよ……」
「ちょ、ちょっと…声が大きいって!聞こえたら殺されるわよ!」
「平民のくせに…………」
「あんな強力な亜人を操れる奴が平民なわけないでしょうッ!?
きっとエルフが魔法を使って化けてるのよ!」
「なんであんなのがルイズの使い魔なんだよ…………」

そんな陰口が食堂に充満していく有様だが、
席に向かうルイズの後に音石が続いて歩くと
机と机の間に立っていたり、椅子に座っていたり
している生徒たちは音石が近づいてくると
立っている生徒は怯えながら机に張り付くように道を譲り
座っている生徒は椅子に身を伏せていた。
なかには震えている生徒までいる始末だ。
学院長室から部屋に向かう途中の事といい、
この食堂での今といい、どうやら音石は
かなり生徒たちから恐れられているらしい。

どうやら『レッド・ホット・チリ・ペッパー』だけでなく
ギーシュを半殺しにしたことがよほど効果的だったらしい、
しかし元よりそのつもりでギーシュを必要以上に痛めつけたのだ。
音石としてはどこか奇妙な達成感を感じていた。


対してルイズは自分の使い魔が噂されるほど
優れている事に胸を張ればいいのか、
まるで自分が音石に相応しくないような
物言いをしている生徒に怒ればいいのか
どこか複雑でどこか悲しい気分のまま席に座ったが、
ポンッと肩を叩かれ、振り返り見上げてみると
音石が自分の心情を察してくれたのか

「言いたい奴には言わせておきゃあいい…
まっ、気に入らねー奴がいたら教えな
変わりにブッ飛ばしてやっからよぉ~~…」

と悪ガキのように笑いながら言った。
そんな音石の笑顔を見ていると
ルイズも陰口でブツブツ言っているだけしかできないような
奴らにいちいち反応している自分が馬鹿らしく感じた。

(そうよ!今は無理でもそのうち何も言えないぐらいに
成長してやるんだから!実際わたしはこいつを召喚したじゃない!
へこたれても仕方がないわッ!!)

そしてルイズは一言笑顔で「ありがとう」と音石に返した。
その目にはその目には音石とはまた違う
輝きと強い勇気と希望に満ち溢れていた。

すると給仕たちが厨房から
美味そうな食事を机に運び始めた。
そこでルイズはふとあることに気付いた。
音石の食事のことである。
ルイズは今朝、ここの給仕にみずぼらしい料理を
自分の使い魔に出すようにと命令しそのままである。
しかし音石は異世界の住人でありながらも
なにかといろいろ自分のことを気に掛けてくれている。
性格は多少野蛮で大雑把なところはあるが
ソレさえ除けば基本いい奴である。
さすがに今朝のようなみずぼらしい食事を
出すのはルイズの人間としての良心が痛んだ。
だが料理はもうすぐそこまで運ばれている。
ルイズはどうしようかと焦ったが
いつの間にか音石がその場に居ないことにも気付いた。

「あ、あれ?あいつどこ行ったのよ?」

周りを見渡しもどこにも音石の姿はない。
するといつの間にか隣にモンモランシーが
座っているのにも気付き、彼女に聞いてみることにした。


「ねえ、モンモランシー。私の使い魔どこ行ったか知らない?」
「ん?彼ならさっき厨房に向かっていくのを見たわよ?
たぶん、厨房の給仕たちに食事をもらうつもりじゃないかしら?」
「そうなんだ……、わかったわ、ありがとう」

自分の使い魔が給仕に食事を恵まれるというのも気に引けるが
それならそれでいいかと納得し、
ルイズは自分の前に食事が置かれるのを確認した。
相変わらず、おいしそうな香ばしい匂いが食欲をそそった。

「ねえ、ルイズ」

すると急に先ほどのモンモランシーが話しかけてきた。

「ん、なによ?」
「あの使い魔、なんて名前だったっけ?」
「え?オトイシ・アキラだけど………」
「そう……オトイシさんって言うんだ……」

モンモランシーのありえない呼び方に
ルイズは自分の耳を疑った。

「『さん』ッ!?え、ちょっとモンモランシー!?
あ、あんたまさかッ!?」
「えっ!?あ!?ち、ちがうわよルイズッ!!
誤解しないでッ!誰があんな平民なんかをっ!!
しかもアイツはギーシュをあんなひどい目にあわせたのよッ!?
なんで私がそんな奴のことなんか………」

そう言うとモンモランシーは腕を組みながら、
プイッと顔を逸らした。
しかし顔を逸らした先には厨房があり、
モンモランシーは厨房を眺めたまま、
完熟したトマトのように顔を赤くしながら
徐々に意識が上の空になっていった。


「よお、シエスタ」
「あ、オトイシさん!!」

厨房に現れた音石の名をシエスタが叫ぶと
厨房中の料理人、メイドたちが仕事の手を止め、一斉に音石を見た。
そんな視線に音石は多少気まずいモノを感じたが
よくよく見ると、彼らの視線は先ほどの生徒たちのような
不安と疑惑が篭った目ではなく、逆に尊敬と憧れを
その目に篭らせていた。
すると厨房の奥から大柄で筋肉モリモリマッチョマンの
料理長マルトーが現れた。

「おお、来たか!『我らが狂奏』!!」
「はぁ?」

突然現れたマッチョマンにわけのわからない
呼び方をされ、音石の頭の上に?マークが浮かび上がった。

「あ、オトイシさん。紹介しますね!
この人は料理長のマルトーさんです
マルトーさん、この人がさっき言った
オトイシさんです!」
「わざわざ言わなくてもわかるさシエスタ!
顔に大きな傷痕があり、見たことのない楽器をぶら下げた男!
そしてこの只者ならぬオーラ!一目でわかったぜ!
こいつがシエスタを助け、貴族を倒した『我らが狂奏』だってな!!
がっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」

マルトーが豪快に笑いながら、
音石を半ば力ずくで椅子に座らせ、
昼間のシチューとは比べ物にならないくらいの
豪勢な食事が机に置かれた。

「おいおい、いいのかぁ?この料理、
下手したら食堂の貴族どもより豪華だぞ?」
「なぁ~に、別に気にするこたぁねぇよ
お前さんはシエスタを助けてくれたんだ!
だからこの料理は俺たちからのささやかなお礼だ!」

そういうことなら……、と音石はフォークを手に取り、
美味そうな匂いを漂わせているチキンを取ろうとしたが
突然マルトーが料理の皿を横にずらし、
音石はむなしく机を刺してしまい、手が止まった。


なんのつもりだと言いた気に音石はマルトーを
見上げたが、その時のマルトーの顔は先ほどの
豪快な笑顔から真剣そのものの顔で音石を睨んでいた。

「ただ………最後に確認しておきたいんだが……
まさかお前さん、実は貴族……なんてことはないよな?」
「…………………なにィ?」
「シエスタから聞いたんだが……
お前さん、なんでも手で直接触れることなく
ゴーレムを破壊したそーじゃねーか…
そこら辺をはっきりさせておきてーんだ」

マルトーの言葉に音石は理解した。
そういうことか…、この世界じゃあ平民は魔法をつかえねぇ……、
つまりそれは魔法を扱うための精神力が扱えねーって事だ。
てことは当然こいつら平民は貴族とは違って
スタンドを見ることが出来ねーってわけか……。
音石は手に持つフォークを机に置き、
マルトーの顔を睨み返した。

「くっく、おいオッサン。勘違いしてんじゃねーよ
確かにオレには普通の人間にはない
特殊な『チカラ』を持っちゃいるがよ~~~~……、
コレだけははっきり言ってやる………。
オレをあんな口だけ野郎どもと一緒にすんじゃねーよ」

シエスタや周りの料理人たちやメイドたちが冷や汗をかいた。
マルトーは学院中の平民の間ではメイジ嫌いで有名である。
沈黙という重い空気が流れた。
―――――――――しかし………、

「………グ……、グゥアッハッハッハッハッハッハッ!!
コイツは驚いた!俺に睨まれてそんな口を利いた奴は
お前が初めてだよ!!いやはや、まったく恐れ入ったぞ!!」
「ギャッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!
 オッサン!あんたも人が悪いぜェ!!
 せっかくの飯だってのにこんな邪険なムードにされちゃあ
 うまい飯もまずくなるってもんだぜ!?」
「ガッハッハッ!!違いない!!」

「ギャッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」
「ガッハッハッハッハッハッハッハッハッッハッ!!」


そんな二人の豪快なやり取りにシエスタたちは
安堵と喜びに満ち溢れていた。
どうやらシエスタたちは下手したら
殴り合いになるんじゃないかと心配していたようだ。

音石はマルトーと気が合ったようで
あっという間に打ち解けることが出来た。
音石が食事をしているとあらゆる質問が
料理人やメイドたちからぶつけられてきた。
主に年齢や出身、決闘についてである。
出身は適当に誤魔化したが
決闘に対しての質問は特殊な『チカラ』を
持っているとだけ教え、『スタンド』のことは
黙っていることにした。
しかし、どういうわけか。
マルトー含む、ほとんどの者は音石が持っている
ギターがマジックアイテムと勘違いしている者もいる。
特殊な『チカラ』=マジックアイテム
彼らはそう解釈したのだ。
だが音石からしても、マジックアイテムというのが
どういうものかは知らないが、そう解釈してもらえるなら
そっちのほうが都合がいいと判断し、そういう事にした。

そんな音石に付けられた称号が『我らが狂奏』である。
どうやら決闘の最中にギターを弾いていた音石の姿が
その称号を生んだらしい……、なんともえげつない呼び名である。


「また来いよ『我らが狂奏』!!
俺たちゃあいつでもお前を歓迎するぞ!!」
「ああ、また世話になるぜオッサン。
じゃあなシエスタ」
「はい!是非またいらしてくださいね!!」

食事を終えた音石は厨房を後にし、ルイズの元に向かおうとしたが
戻ってみると、ルイズが座っていた席にはルイズは居なかった。

「ルイズなら先に帰ったわよ」
「ああン?」


突然声をかけてきた相手はモンモランシーだった。

「頼まれたのよ、あいつが戻ってきたら
先に部屋に戻ってるって伝えてってね」
「そいつはご苦労さん…………じゃあな」
「え?あ!?ちょ、ちょっと待ちなさい!!」

正直この時、音石はこのまま無視して部屋に戻りたい気分だった。
呼び止められた理由がだいたい予想が付くからだ。
せっかく貴族がわざわざ伝えてあげたのよ!?
感謝の言葉を送るなりするのが礼儀でしょ!?
どうせこんな風なことを言われるに決まってる。
そう思った音石だが………興味があった。
昼間のギーシュの物言いから推測すると、
このモンモランシーはおそらくギーシュの恋仲かなんかだろう、
だからこそ興味があった。
そんな彼女が恋人であるギーシュを半殺しにした自分に
一体どんな口を利いてくるのか非常に興味があったのだ。
だから音石は部屋に戻ろうとした足を止め、
モンモランシーのほうへ振り向いた。
その時の彼女の顔は熱でもあるのか妙に赤かった。

「あ……あの!じゅ………授業の時………
そ、その………た、助けてくれて……あ、ありがとう」

音石は自分の耳にクソでも入ったんじゃないかと疑った。
まさか逆にお礼を言われるとは思っても見なかった。
この世界に来て音石は、貴族に対してはっきりいって
ロクな印象がない。
この世界の貴族はどいつもこいつもその肩書きを
馬鹿みたいに威張り散らすことしか知らないカス。
どちらかというと音石のなかにはこういう印象が
定着しきっていた。
だからもしも自分を見下すような物言いをしたら
適当に馬鹿にして嘲笑ってやろうと考えていたが、
逆にこう言うことを言われるとどう対処すれば
いいのか非常に困ってしまう。

「………ああ、まあ……あれだ………えっと……」

音石はぎこちない感じで、
どう言葉を返したらいいか考えていた。
元々音石は敵を作りやすい人柄のせいか
他人に感謝されること自体が極端に少ない。
ましてや女性に礼を言われたことなど
音石が記憶してる限りではほとんど経験がない。
まあ単に音石が覚えてないだけかもしれないが……。
音石は照れているのか頭をかきながら視線を逸らし、

「オレが勝手にやったことだし気にすんな」

と簡潔に言った。
モンモランシーは何かを言おうと
口を開こうとしたが、音石は逃げるように
早歩きで食堂を後にした。








らしくねぇ………、
音石はルイズの部屋がある女子寮の
階段を昇りながらそう思った。
さっきの食堂でのモンモランシーの感謝の言葉には
音石は正直今思えば感心している。
しかしそれでもいきなりあんなこと言われたら
どう言葉を返せばいいのか迷うのを通り越して
気恥ずかしくなってしまう。

(まったく、らくしねぇな音石明
承太郎の野郎みてぇにクールにいかねぇもんか………)

いろいろ考えているうちに
かえってむなしくなってしまい
音石は深いため息をついた。
今から外に出てギターを激しく演奏して
気分でも晴らそうかとさえ思ってしまう。
そんなことを考えているうちにいつの間にか
ルイズの部屋がある階にたどり着き
今日はさっさと寝てスッキリしようと思い
ルイズの部屋に近づいていったが
廊下の奥の暗闇からひとつの炎が宙に浮いているのが
目に入り、音石は咄嗟に足を止めた。
警戒していたが徐々に暗闇からソレが姿を現し、
その炎の正体がキュルケの使い魔、
サラマンダーのフレイムの尻尾だと気付いた。

「はぁ~~、なんだ脅かすなよ
てっきり人魂かと思ったじゃねぇか、
あ~~~、心臓にわりィ……」

音石は服の上から自分の左胸に手を押さえ
心臓の鼓動が早くなっているのを確かめると、
突然フレイムが音石のもうひとつの手の
服の袖を咥えてきた。


「ん?なんだよ、人懐っこいやつだな
遊んでほしいのか?」
「きゅるきゅる」
「うおッ!?お、おい。いきなり引っ張んなよ!
この上着、結構高いんだぞ!?」

突然、力強くフレイムに引っ張られた音石であったが
下手に引き剥がそうとすると、お気に入りの上
値段も張った大切な上着が破けてしまう恐れがあったため、
引き剥がそうにも引き剥がすことができなかった。
されるがままにフレイムに引っ張られていくと
どうやら自分の主人であるキュルケの部屋に連れてこようと
しているようだ。
部屋のドアは半開きなっており、フレイムがその間に体を入り込ませ、
音石もその後を無理やり入り込まされた。
部屋の中はなぜか真っ暗で、いつの間に服を咥えている
口を離していたフレイムの尻尾の炎があっても
1メートル先も見渡せない空間となっていた。
ついでにこちらの世界ハルケギニアでは
『メートル』は『メイル』で表されているらしい。

「扉を閉めて」

すると暗闇の部屋の奥から声がした、当然キュルケである。
先に述べたように、部屋の中は1メートル先も見渡せない状況だ。
当然、そんな暗闇の中ではキュルケの姿を目視することは不可能である。
しかしなんと音石はこの暗闇の中、はっきりとベビードールだけを着た
セクシーな格好をしたキュルケの姿を認識していた。

なぜそんな暗闇の中を音石が目視できたかというと
音石はこの時、『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の
『眼』だけを発現し、それを自分の眼球の上に
コンタクトレンズのように重ね被せたのだ!
チリ・ペッパーは電気のスタンド!
その発光体質を利用した音石独自の暗視スコープなのである!!

(おいおい……、一体なんのつもりだこの女?)

音石はそんなキュルケのベビードール姿に若干戸惑いながらも、
同時に興味があったので言われた通りに扉を閉めることにした。
すると部屋に置いてあった数本のロウソクが一斉に炎を灯らせた。
キュルケがなにか魔法をつかったのだろう、
音石は彼女の手に杖があることを確認した。


「そんな所に突っ立っていないでこっちに来てくださらない?」

音石はゆっくりとベットに座り込んでるキュルケの傍に歩み寄った。

「オレとルイズが食堂に行くとき、妙な視線を感じたが……
あれはお前の使い魔だったのか?」
「あら、気付いていたの?
さすがね………。ええ、その通りよ」
「なんでおれとルイズを監視してやがったんだ?
なんでもお前の実家とルイズの実家は昔っからの
因縁らしーじゃねーか?まさかそれに関係してんのか?」
「誤解しないで、別にヴァリエールなんか監視しないわ
あの娘、なにかとそのことにこだわっているけど
私は別に興味ないもの、ご先祖様たちの問題なんて……
それよりも………!」
「うぉわッ!!?」

すると突然キュルケが音石の手を引っ張り
自分の体の上に音石を無理やり押し倒させる体勢を作り出した。
音石は嫌の予感がしながら自分の額から首筋に
冷や汗が流れるのを実感した。
音石は咄嗟に手を伸ばし、キュルケから離れようと
体を起こし立ち上がろうとしたが、
いつの間にか自分の首に手を回しているキュルケによって
それもできなくなっていた。

「私が興味あるのは…………
ミスタ・オトイシ、あなたなのよ」
「…………ああ、なるほど、そういうことか?」
「ええ、わたし、貴方に恋してるのよ」

二人の顔の間隔は鉛筆縦一本分くらいで
互いの吐いた息が肌で感じ取れるほどのものだった。
しかし、ここで焦ってはと相手の思うつぼだ。
音石はここぞという時こそクールに対処するのが
最善の策だと結論付けた。
だから音石は無理にキュルケから離れようとせず
あえてこの距離のまま彼女に話しかけた。


「なぁキュルケ……、君の気持ちはうれしぃんだがよ~~~。
昨日今日知り合った相手にいきなり惚れるってのは
オレからしてみれば普通にどうかと思うぜ?」
「そんなことはないわ、現にあなたは学院中の人気者じゃない」
「嫌な意味でだろ?そんなんで君に惚れられる道理はないぜ?」
「フフッ、意外と謙虚なのね。聞いたわよ?
あなたがギーシュと決闘したのは一人の女の子を
助けるためだったって………」
「…………………………………………」
「あなたの決闘での戦い様、カッコよかったわ
まるで伝説のイヴァールディの勇者みたいだったわ!
あんなすごい亜人、見たことないわ!
青銅を一発で粉砕するほどのパワー!
戦いながら楽器を奏で続ける不敵な物腰!
あれを見た瞬間、わたしの心に火がついたのよ!
情熱!そう、『恋』と言う名の情熱よ!!
昨日知り合ったばっかりだからだなんて些細なことよ!」


『言ってもムダ!』
キュルケの話を聞いていると、
音石は嫌でも広瀬康一が山岸由花子に対して言った
あの言葉を思い出してしまった。
音石はあの時、康一と由花子の戦いの一部始終を監視していたが
由花子はなにかを好きになると周りが見えなくなる異常な女だ。
この女、キュルケもまさにそれだ。
由花子のような凶暴性がないとはいえ、一度何かに夢中に
なると周りが見えなくなっているんだ。
しかもこの女は貴族という身分のせいか
『自分が好きになった男は自分が手に入れて当たり前』
と思っている。
由花子とはまた違った異常さが彼女に潜んでいた。
少なくとも音石にはそう思えて仕方なかった。

(これ以上この部屋にいるのは絶対にやばい!
だが力尽くじゃだめだ!
この女が何をするかわかったもんじゃねぇ……
下手に断ったらこの状況の濡れ衣をオレに着せる可能性がある。
『いきなり部屋に上がりこんできて襲ってきた』ってな!
そんなことになったら今度こそ大問題だ。
ギーシュとの決闘のときとはわけ違う。
学院長のじぃさんでも庇いきれるかどうか……………
なんとかこの女が納得する方法でここを
抜け出さねぇとこれから先、ここでの生活がどうなるか
わかったもんじゃねぇぞ!!)


音石はどうするか考えていた。
しかし周りが見えない女をうまいこと説得する方法など
はっきり言って容易なことではない。

「フレイムで監視していたのはごめんなさい。
あなたが気になって仕方がなかったの」
「………キュルケ、ひとついいことを教えてやるぜ。
人間、『仕方がなかった』でいくらでも誤魔化せるんだぜ?」

これはつい昨日まで刑務所にいた音石だからこそ言えるセリフだろう。
『仕方がなかった』、どんな奴でも自分の間違いを否定するとき
必ずこの言葉を口にする。間違いの罪が深ければ深いほど
この言葉を口にする。刑務所にいた音石はそんな言葉を
口にする人間を人一倍見てきた。
だからこそ音石は、この『仕方がなかった』という魔性の言葉が
どれほど恐ろしいかよく知っていた。

「……そうね、貴方の言うとおりだわ。
本当にごめんなさい。でもわかって頂戴……、
どうしようもないのよ。恋は突然だし、
『微熱』の二つ名を持つ私のプライドが許せなかったのよ!」
(………これで『微熱』ねぇ~~)

音石は完璧に呆れかえっていた。
こんな自分を好きになってくれるのは正直うれしい。
しかし先程も音石が言ったように、昨日今日会ったばかりの相手と
恋人関係になるような観点など音石は持ち合わせていない。


……………………………その時だ。
突然、部屋の外窓を叩く音がした。
音石とキュルケが窓を叩く音に反応し、咄嗟に窓のほうを見る。
すると窓を見ると同時に勢いよく窓が開いた。
開いた窓の外には一人の少年の姿があった。

「キュ、キュルケ……、待ち合わせの時間に来ないから
来てみれば……。な、な、なぜよりによってその男と………」
「ペリッソン!ええと、申し訳ないけど二時間後に…………」
「い、いや……。きょ、今日の約束はなかったことでいいから……
は、はは……そ、それじゃあごゆっくり!」
「え、あ、ちょ、ちょっとペリッソン!?」

(……ここ、たしか3階だよな?……でもまあ、
メイジ相手に今更って感じもするな)

「ふふっ。彼、確実にあなたに怯えてたわね」
「……なあキュルケ、俺が思うに先約があったんじゃないのか?」
「彼の勝手な勘違いよ。私が一番愛してるのはあなたよオトイシ
それにもう過ぎたことじゃない?彼は約束はなかった事でいいって
言ってたんだから………」

(マジでおっかねー女だぜ、こいつの恋愛感情は子供のオモチャと一緒だ。
なにかを気に入ったオモチャを見つけるととことん遊び尽くすが、
また別の気に入ったオモチャを見つけると今まで遊んできた
オモチャは何の迷いもなしに捨てやがる。
ひとつの事に夢中になるが、それ以外のものは
すべてどうでもいいと認識しちまっているんだ。
………ああ、だから『微熱』なんて中途半端な二つ名なわけだ)


音石のなかでなにかがしっくりきた。
するとまた別の少年が窓の外から顔を覗かせてきた。
置いてあるロウソクの光具合の影響か、知らないだけか、
今度の少年は音石を見ても怯えた様子はなかった。

「キュルケ!その男は誰だ!?
今夜は僕と過ごすと約束したじゃないか!」
「ああ、ごめんなさいスティックス
今夜の約束はなしってことで♪」

するとキュルケが胸の谷間か杖を取り出し、
杖を振った。するとロウソクの炎が蛇の形を模り、
窓の外にいる少年を突き飛ばした。

「呆れたを通り越して逆に感心するよ
よくまあ一晩にこう何人も…………」
「あなたは彼らと違うわ!『特別』よ!」
「『特別』ねぇ~………、おっとキュルケ!
どうやらまだ予約が残ってるみたいだぞ?」
「えッ!?」

音石が窓を指差し、キュルケが驚きの声を上げ振り返る。
そこには三人の少年がぎゅうぎゅう詰めになって窓の外にいた。

「「「キュルケ!そいつは誰だ!!恋人はいないって言ったじゃないか!」」」
「ああもう、うるさい!フレイム!!」

キュルケが苛立ちを隠せない口調でフレイムに命令した。
きゅるきゅるっと鳴いたフレイムは、そのまま三人に向かって
死なない程度には手加減してるであろう炎を吐いて
三人を窓から焼き落とした。
キュルケがその様子を見て安堵の息を吐いた。
ところが前を向きなおすと音石はベットから立ち上がり
自分に背を向け、扉のほうへ帰っていこうとしていた。


「待って!誤解よ!別に彼らとはなんともないわ!
単なるお遊びよ!ねえ、お願い待って!!」

キュルケもすぐさまベットから立ち上がり、
音石の後を追い、彼の背中に抱きつこうとした。
しかしそれは、抱きつこうとした瞬間、
音石が向き直った事によって中断された。

「よかった、考え直してくれた……の……ね………」

キュルケは振り向き直った音石の顔を見て息を呑んだ。
とても冷たい目をしていたからだ。
貴族である自分にむかって………………
いや、それどころか彼の目は人間に向けるべき目ではなかった。
養豚場の豚でもみるかのように冷たい目……………、
とても…………………、とても残酷な目だった。
キュルケはそれを理解すると同時に、
自分の背中が冷えかえるような感覚に襲われた。

「………キュルケ、これだけは教えといてやる
お前には言っても無駄だろうが………………
男はな………、お前の退屈しのぎの道具じゃないんだよ」
「道具って…………。ち、違うわ!
わたし別にあなたや彼らをそんなふうにみてわけじゃ………」
「もうお前は喋るな」
「……………………………………え?」
「もうてめーにはなにもいうことはねえ………
とてもアワれすぎて……………………何も言えねぇ」

キュルケのなかでなにかが崩れ落ち音がした。
水晶玉が叩きつけられるような…………
すがすがしいくらいに残酷な音だった。

バタンっと音石が扉の音を鳴らし部屋を後にし、
膝を突き、その場に立ち尽くしたキュルケに
フレイムが心配そうに近寄った。
するとキュルケはフレイムに寄りすがり……………泣いた。


音石がキュルケの部屋を出ると、
見計らったかのようなタイミングでルイズの部屋のドアが開いた。
案の定、出てきたのはルイズだった。
そしてルイズも音石の存在に気付き、それどころか音石が
キュルケの部屋から出てきたことにも気付いた。

「オ、オトイシ!?あ、あんたキュルケの部屋で何してたのよ!?」
「…………………………………………」
「な、なんとか言いなさいよ!!
こ、こ、こ、この………エロ犬【ドォンッ!】ひゃあっ!?」

ルイズはたまたまそばに置いてあった鞭を手のとり
音石に向かって振り上げようとしたが、
音石は顔を伏せたまま、キュルケの部屋の壁に向かって
力一杯、拳で殴りつけたのだ!
そんな突然の行動にルイズの体は硬直した。
すると顔を伏せていた音石はゆっくりと顔を上げた。
ルイズに向かってフッと小さな笑みを浮かべた。

「なんでもねえよルイズ、実は今日
キュルケの使い魔が俺たちを監視していたから
その理由を問い正してただけだよ」
「………え?そ、そう……なの?」
「ああ、何でもオレに興味があったそうだ」
「え………はぁッ!?もう!キュルケの奴、一体何考えてんのよ!!」

ルイズがキュルケの部屋に乗り込もうとしたが
音石が手を壁にし、それを静止した。

「よせルイズ、ほっとけ」
「でも使い魔に色目使われて黙っていられないわ!!」
「必要ねぇよ……、」

音石の言葉にルイズは何かを察したのか、
仕方ないわねと言って、音石と一緒に部屋に戻ることにした。
部屋の中ではルイズはキュルケに対しての愚痴を
散々音石に浴びせた後、二人とも眠りに付いたが
ルイズはベットの中で、音石の先程の行動を思い返すと
怖くて仕方がなく、自分は本当に彼を使い魔として……
パートナーとしてやっていけるのか不安になってしまった。

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