ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

S.H.I.Tな使い魔-32

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匿名ユーザー

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 そもそも康一が戦いの場に戻ってきたときには、もう手遅れだったのだ。
 距離は遠く、敵はすでに必殺の体勢を整えていた。
 ガンダールブの俊足を持ってしても手が届かないほどに。

 そう、ガンダールブなら間に合わなかった。


 しかし康一はガンダールブである前に、スタンド使いだった!


 ズドォーン!!!
 巨大な岩が打ちつけられる音がした。

 死んだと思った。
 でも、いつまで立っても衝撃が訪れないので、ルイズは恐る恐る目を開けた。
 目の前にゴーレムの拳があった。
 しかし、その半ばまでが地面にめり込み、動きを止めていた。

「射程距離5mニ到達シマシタ!S.H.I.T!!」 
 そのそばに浮かぶ、白い人影。

「あ、危ないところだった・・・!!ギリッギリ間に合ったよ!!」
 そして拳とルイズの間に阻むように立つ康一の背中。

 康一は振り向いて笑った。
「大丈夫だった?」

 我慢していたものが溢れた。

 怖くて、安心して、訳の分からないうちに気がつくと涙がこぼれていた。。
「こ・・・怖かったわよ・・・!早く戻ってきなさいよ!バカっ!!」
「ご、ごめん。」
 康一は女の子の涙に狼狽えながらも謝った。

 ゴーレムは急に重くなり、動かなくなった右腕を持ち上げようとして、逆にバランスを崩して膝をついた。
 至近距離なので砂埃が舞い、二人は目を細めた。

「でも、そのへんはこいつを倒してからだよね。」
「・・・大丈夫なわけ?」 
 ルイズはずずっと鼻をすすった。

「うん。あいつを倒す方法を思いついたんだ。だから・・・」

 ゴーレムは右腕を持ち上げるのをあきらめ、無事な左腕を振りあげる。

「ちょっとごめんよ!」
「え?きゃぁ!!」

 康一はデルフリンガーを逆手に構え直し、ルイズを横抱えにした。
 いわゆる「お姫様だっこ」というやつである。

 降りおろされる左腕を横っ飛びに回避する。そして動かないままの右腕を駆け上がった!

 ルイズは慌てて康一の首にしがみつく。

 康一はゴーレムの肩口から飛び上がり、ゴーレムの頭のてっぺんに着地した。ルイズを降ろす。

「な、なんでこんなところに来ちゃうのよ!」
 ルイズが悲鳴をあげる。

「5m以上離レマシタ。3FREEZE、解除シマス。」
 ACT3が忠告する。

 自由になった土の巨人が立ち上がる。

 康一はデルフリンガーをゴーレムの頭に突き立て、もう片方の手をルイズの腰に回し、振り落とされないように踏ん張る。

 ゴーレムが立ち上がった。もっとも高い、頭のてっぺんは20m近い。

「こ、これ危ないんじゃないの?こんな高いところにいたら逃げられないじゃない!」
 下を見るのも恐ろしいほどの高度。逃げ場はない。

「大丈夫だよ。この、『背筋が伸びた状態』がいいんじゃあないか。」
 康一に動じる様子はない。
「君の使い魔を信じてよ。」

 もうルイズは康一に全部任せることにした。
「もう・・・知らないからね!!」
 ルイズは顔を押しつけるようにして、康一にいっそう強くしがみついた。

 ゴーレムが頭の上の康一たちをとらえようと両手を伸ばす。

 康一は高らかに叫んだ。
「たしかに逃げ場はない!でもチェックメイトだ!!ACT3!!」
「3FREEZE!!!」

 ACT3は、康一が乗っている、ゴーレムの頭部の重量を激増させた。
 ガンダールブの力を加えられたACT3による、0距離、最大出力の3FREEZE!!



      ズウゥゥゥン!!!!



 抗すべくもない。
 瞬きする間もなく、数百トンの重量を持たされた頭部は、それを支えるすべての部位を圧壊し、押しつぶした。

 その衝撃で地面が陥没し、クレーターを形成する。
 砂埃が、辺縁で巻き上がる。しかし康一とルイズのいる中心部では埃一つたっていない。

「すごい・・・・」
 あっけにとられるルイズ。
 康一が少し恥ずかしげに鼻の下をこする。
「へへ、だからいったでしょ。君の使い魔を信じてって。」



 ゴーレムを倒した二人が、クレーターから出てくると、ミス・ロングビルが駆け寄ってきた。
「ミス・ヴァリエール。コーイチさん。大丈夫でしたか!?」

「ええ、ぼくたちは何とも。ミス・ロングビルこそ無事だったんですね!」

「はい。フーケらしき男に当て身を受け、気を失っていましたが・・・。」
 ミス・ロングビルは首元を撫でた。

 上空からシルフィードも降りてきた。

 飛び降りてきたキュルケが康一に飛びついた。
「すごいじゃないのダーリン!あのゴーレムを倒しちゃうなんて!!」
 顔を離していたずらっぽく笑う。
「でも、あの『能力』のことは今度しっかりと教えてもらうわよ。」

 タバサも後を追って降りて来た。
「油断は禁物。術者が近くにいるはず。」

 一行は周りを見回した。ゴーレムが動きを止め、森からは木々のざわめきや鳥の声以外の何も聞こえない。

「そういえば、『弓と矢』は?」
 ミス・ロングビルが尋ねる。

「あ、それならここに。」
 康一はゴーレムの土の中から掘り出した矢を取り出してみせた。足下にある弓も拾って、ロングビルに渡す。

「ああ、よかった・・・。」

 ほっとするロングビルに、杖を拾ったルイズが言う。
「でも、その『弓と矢』は何の魔力もないと思うわ。ゴーレムに撃っても全然効果がなかったもの。」

「いや・・・」
 康一は矢の不思議な文様を見ながら言う。

「それはそうやって使うものじゃないんだ。」
「え!?」
「コーイチさん。この『弓と矢』の使い方を知っているのですか!?」
 康一は頷いた。

「ええ。まさかとは思っていました。この世界にあの『弓と矢』があるわけがないと・・・。」
「でも、間違いありません。それはぼくの知るあの『弓と矢』です。それと同じものがぼくにスタンド能力を与えたんです。」

 ロングビルはごくりと生唾を飲み込んだ。
「そ、それでその使い方は・・・。」

「それは・・・帰ってからオールド・オスマンと一緒に説明します。みんなにももう知っておいてほしいことだから・・・。」
 ミス・ロングビルは小さくため息をついた。

「・・・・そうですか。それじゃあしょうがないですね。」
 気がつくと、杖を抜いている。数語の詠唱。

 最初に異常に気がついたタバサが杖を構える前に、ミス・ロングビルの詠唱は完了していた。

 あたりの土が盛り上がり、ミス・ロングビル以外の4人の体を拘束する。

「こ、これは!?」
 康一も剣を抜く暇がなかった。

 タバサが珍しく悔しさを滲ませて答える。
「『アース・バインド』土のトライアングル・スペル・・・。」

「そんな!ミス・ロングビルは土のラインのはずでしょ・・・!」
 キュルケが叫ぶ。

 タバサはミス・ロングビルから視線を離さない。
「うかつ・・・。彼女が土くれのフーケだった。」

 ミス・ロングビルがにやりと笑った。大きく手を叩く。

「ブラボー。ブラボー。・・・・と言ったところかね。さすがはシュバリエ、頭の回転が速いねぇ。」
 メガネを取り、斜に構えると、大人しそうな風貌がはぎ取られ、皮肉げなアウトローのそれへと変貌した。
 口調もはすっぱなものへと変わっている。

「ミス・ロングビル!あなたがフーケだったんですか!?」
 康一は裏切られたように思った。彼女は康一がこの世界に来てから最も信頼できる女性の一人だったからだ。

「そうさね。秘宝『弓と矢』を盗み出したはいいが、使い方がわからなくてねぇ。」
「捜索隊を出すなら使い方を知ってるやつが来るだろうと踏んだのに、まさかオールド・オスマンすら使い方を知らないと知ったときはどうしようかと思ったけれど・・・」
 康一を見る。
「まさかあんたが知ってるとは、ついてるねぇ。」

 康一はエコーズで攻撃しようと思った。
 魔法と違って、体が動かなくてもスタンドは動かせる!

 しかし、その前にフーケが釘を刺した。
「おっと、コーイチ。それにそこの風竜も!ちょっとでも妙な動きをしたら、その場で全員殺すからね。さぁ、『弓と矢』について話してもらうよ!」
 きゅいー!シルフィードが鳴くが、タバサを首を横に振った。

 康一は思った。話すわけにはいかない!
 話せば、彼女か、彼女が渡した人間が、虹村形兆や写真の親父と同じことをする!!

 ためらう康一にフーケは目を細めた。
「そんなに悩むなら、話しやすくなるようにしてやろうかねぇ。」


  グググッ!!


 康一以外の三人を締め付ける土の圧力が強くなる。

「いっ・・・・」
 肺から空気を押し出され、そろってヒューヒューとした息を吐くばかりだ。

「わ、わかった。話す!話すから!」

「そうそう。大人しく話せば丸く収まるのさ。安心しな。私はあんたを気に入ってるんだ。話すなら誰も殺しはしない。」

 康一は観念した。
 知っていることを話す。
 自分は日本という国・・・ハルケギニアからすると多分異世界からきたこと。
 矢で胸を貫かれ、スタンド能力に目覚めたこと。
 スタンドはスタンド使いによって一つ一つ同じものはないこと。

「つまり・・・」
 フーケは『弓と矢』に視線を落とした。

「これで私を刺せば、私も「スタンド」が手に入るかもしれないってわけだ。」
 フーケは矢尻を自分の腕に近づけた。

 しかし思いとどまる。
「いや、あのエロジジイはこの矢が平民の手に渡れば、といった。メイジの私が使うのは危険かもしれないね。」

「それよりも、これを使って平民にスタンド使いを増やせば・・・。ふふふ、なるほど。それが世界の滅び、だね。高慢な貴族共が支配する世の中が終わるって訳だ。」 

 やはりそうだ。康一は思った。
 この人は、この矢を自分の欲望のために使おうとしている!!

「しかし・・・」
 フーケは康一の眉間に杖を突きつけた。
「スタンドは実際に見ているからともかく、異世界とはまた突拍子もないねぇ。適当言ってごまかそうっていうんなら・・・」

「証拠はあるよ!ぼくが日本から来たって証拠が!ルイズにはもう見せてる!」
 フーケはうろんな眼差しをルイズに向けた。

 ろくに息もできないルイズは、ただコクコクと頷く。
 康一を拘束していた土の戒めが解けた。

「じゃあ、見せてもらおうか。ゆっくりとだ。ほかの三人はいつでも殺せるってことを忘れるんじゃあないよ。」

 康一は黙って頷いた。
 フーケを刺激しないように、ゆっくりと財布から100円玉を出して、目の高さに掲げてみせる。
「あなたが盗賊なら、これの意味が分かるはずだ。」

 フーケは目を細めた。
 白い輝き。銀貨?いや、感じが違う。鉄でもない・・・。

「こっちに放りな。」

 康一は親指でコインを弾いた。
 コインは弧を描いてフーケに飛んでいく。

 しかし、飛ばした一瞬、緑色の何かが見えた気がした。

 直前。とっさにフーケはコインを避けた。

 盗賊の勘。康一は今、何かを企んでいた!
 避けざまに杖を振る。再び土が康一を拘束し、しめつけた。

「妙な動きをするな。と、いったはずだよ。」
 康一を睨みつける。
 康一は何も言わず、黙って圧力に耐えている。

 フーケはコインを杖でつついてみた。

 コツコツ。

 ・・・何も起こらない。このコインに何か細工をしたのかと思ったんだが・・・私の気のせいか。
 フーケはしゃがんでコインを拾う。

 康一は忌々しげに言う。
「あの吉良吉影のまねごとはしたくなかったんだけど。」
「え?」

 フーケの指が、コインに触れた。

 コインに張り付けられていた「文字」のエネルギーが爆発する!


   ドッゴォォォォォォーーーン!!!!


 反応する間もない。
 至近距離で発生した爆風に、フーケは上空高く吹き飛んだ。
 フーケが吹き飛んだ爆風は、周りにそよ風一つ起こしていなかった。4人の戒めが解かれる。

 自由になった康一はふーっと大きく息をつき、服に付いた土を払った。


「まぁエコーズの場合は文字の『実感』を与えるものだから、吉良吉影のキラークイーンとは少し違うんだけどね。」

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