ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

S.H.I.Tな使い魔-31

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匿名ユーザー

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「なんで外で待ち伏せしてんだよぉー!さっきはいなかったのにぃー!!」
「し、知らないわよッ!!」
 康一とルイズはそろって腰を抜かしている。

 キュルケも胸を押さえて荒い息をついている。
「あ、危ないところだったわ・・・」

 タバサはいち早く立ち上がり、ゴーレムに杖を向けている。

 ゴーレムは小屋から脱出した四人を見つけ、こちらに顔を向けた。

「・・・来る。」
 タバサは杖を降りあげた。

 ウインドブレイク!
 圧縮された風の槌が打ちつけられる。

 しかし表面の土を飛び散らせるだけで、ゴーレムは意にも介さない。

 キュルケもタバサに続いて、ファイアーボールを放った。
 ゴーレムの表面で爆発した火の玉は、炎と火花を飛び散らせたが、やはり効果は薄そうだ。

「大きすぎるし鈍すぎるわよ!」

 ゴーレムの歩みは止まらない。

 康一は剣を抜いた。シュペー卿の剣が怪しく光を放つ。
「ルイズ!逃げるんだ!」

 しかしルイズは座り込んだままだ。
「だ、だめ。腰が抜けちゃった・・・。」

「くっ!!」
 やるしかないのか!?
「キュルケさん!タバサ!ぼくが足止めするから、ルイズを連れて下がって!」

「い、嫌よ!私も戦うわ!」
 ルイズは立ち上がろうとするが、足に力が入らない。

「お願いだよ!ルイズは『弓と矢』を守って!」
 康一はルイズに『弓と矢』を預け、返事を待たずにゴーレムに向かって駆けだした。

「ちょ、ちょっと!コーイチ!!」

迫り来る康一にゴーレムは長い腕を思い切り叩きつける。
 しかしガンダールブのルーンによって、人外の反応速度と機動力を得た康一はやすやすと、叩きつける大質量をかい潜る。
 速度に着いていけないゴーレムは足下を飛び回る康一をただ追うばかりだ。

「今のうちに下がるわよルイズ!」
 その間にキュルケとタバサがレビテーションで連れて逃げる。

「ちょっと!離しなさい!コーイチを置いていけないわ!」
 ルイズは抵抗するがレビテーションで浮かされているので空中でじたばたとするばかりである。


 一方の康一は、ゴーレムの動きに慣れてきていた。今の自分なら、逆にこいつを倒すこともできるかもしれない。

 汗ばむ手で剣を握り直す。
 ゴーレムが拳を落としてくる。それをすれすれで回避し、手首に向かって野球のスイングのように剣を降り抜いた。

ザシュッッッ!!

 剣はゴーレムの大木のような腕を半ばまで斬り裂いた。
「よし、いける!」
 これなら何度も切りつければ切断することだって可能だ。

 しかし

「ぬ、抜けない!?」

 根元まで埋まってしまった剣は、引き抜こうにもびくともしない。

 ゴーレムは剣の刺さったままの腕を大きく振り回した。

「し、しまったぁぁー!」
 剣がないと、ガンダールブの恩恵が受けられなくなる。離すわけにはいかない!
 康一は剣にしがみついたまま振り回された。

 そして・・・

「うわぁぁぁぁぁぁl!!」
 まるで遠投されたボールのように木々の向こうに飛ばされていった。

「コーイチーー!!!!」
 ルイズが叫ぶ。

「ダーリン・・・」
 キュルケとタバサもしばし呆然としていた。

 しかし、康一を片づけたゴーレムがこちらに視線を向けた。

「・・・ダーリンの心配をしている暇はなさそうね。」
 キュルケが言うと、タバサは黙って杖を構えた。

「コーイチ・・・コーイチが・・・」
 未だ放心して座り込んでいるルイズをキュルケが叱咤した。

「ルイズ!ダーリンは大丈夫よ!きっと戻ってくるわ!」
「それよりこっちの心配をなさい!『弓と矢』を守れって言われたんでしょ!」

 ルイズは思った。
 そうだ・・・。私はこんなところでお荷物になるために来たんじゃない。
 私は自分が貴族にふさわしいことを証明するためにここに来たのだ!
 杖を抜き、立ち上がる。
「私の仕事は『弓と矢』を守ること。コーイチが戻ってくるまで!」

 キュルケは心の底から満足そうに笑った。
「それでこそ私のライバルだわ!」

 一方、飛ばされてしまった康一はというと。

「ぐ・・・ううっ。死ぬかと思った・・・。」

 なんとか生きていた。

 投げられた先で木の幹に叩きつけられようとした直前、「ポヨヨォ~~ン」の擬音を張り付けて衝撃を和らげたのだ。
 しかし跳ね返った後、枝で全身に切り傷を作り、地面に叩きつけられたので、すでにぼろぼろである。

「早くみんなのところへ戻らないと・・・」
 康一は剣を杖に立ち上がろうとして。

「な、なんだこれぇぇーー!」
 剣が根本からポッキリ折れていることに気がついた。

「シュペー卿が鍛えた魔法の剣がこんなにあっさり折れるもんなのかぁ~!?」

 折れたのはたぶん振り回された時だろう。
 とにかく、もうこれは使いものにならない。ルーンも武器として認めないのか、反応しない。

「・・・そうだ。馬車にはまだデルフリンガーがある!」

 康一は折れてしまった剣の柄を捨て置き馬車へと急いだ。


 ルイズたちの戦いも熾烈を極めた。

 ゴーレムの表面で爆音とともに土が盛大に弾ける。ルイズの爆発だ。
 しかし、すぐに土が集まり、傷跡を修復していく。

「こ、これはそろそろ逃げた方がいいかもしれないわね。」
 キュルケは汗で額に張り付いた髪をかきあげた。

 土くれのフーケは土のトライアングルだと聞いている。それなのにトライアングルの火と風、それにルイズの三人がかりでもゴーレムを倒すことができない。

「・・・」
 タバサは答えずに呪文を詠唱する。

 実は先ほどから上空で待機させていたシルフィードに飛び乗るタイミングを窺わせていたのだが、それをさせまいと立ち回るゴーレムが邪魔をし、果たせずにいた。

「逃亡するにもきっかけが必要。」
 走っても追いつかれる。逃げるならシルフィードに乗るタイミングを作り出さないといけない。

「じゃあ、きっかけを作るしかないわね・・・!タバサ!あれ、行くわよ!!」
 キュルケが振り向くと、タバサがコクリと頷く。


 詠唱とともに、タバサが風を纏い、氷の結晶が集まってくる。
 そしてキュルケは今まで以上に念入りに魔力を集め、特大のファイアーボールを形成した。
 タバサが杖を降る!ウインディ・アイシクル!
 ゴーレムの左足の根本に氷の刃が深々と突き立つ!
 そして間髪入れずのファイアーボール!


 親友同士だからこその暗黙の連携!
 タバサが作り出した冷気によって集積、圧縮された空気や水が、キュルケの炎で急激に熱せられ、爆発的速度で膨張する!

 ドォォォォン!!!

 爆風が吹き荒れ、ゴーレムの左足が爆散した!
 片足を失い、バランスがとれなくなったゴーレムが転倒する。

 期を逃さず、タバサが指笛を吹く。今ならシルフィードが拾い上げることができる。

「ルイズ!逃げるなら今よ!こっちへ!!」
 キュルケがルイズを呼ぶ。

 しかしルイズは振り向かない。
「ルイズ!!」

 キュルケが叫ぶ。

「嫌よ!もう逃げたくないの!私はもう、逃げないわ!!」
 ルイズのファイアーボール。未だ、爆発しか起こせないものの、訓練のたまものか、以前よりも格段に命中率が向上している。
 手を突いて立ち上がろうとするゴーレムの手首に命中し、ゴーレムは再び突っ伏した。

 しかし、ゴーレムは猛烈な速度で再生する。

「もう限界。」
 これ以上待てば、離脱する最後のチャンスを失う。
 タバサはキュルケを強引に引きずり、飛来したシルフィードに飛び乗った。

「ルイズーー!!」
 キュルケは叫ぶ。飛び降りようとするが、タバサがつかんで離さない。

「もう私たちにできることはない。行っても死ぬだけ。」

 キュルケは歯噛みした。
「もう!どうしてトリステインの貴族はこう変なところで意地っ張りなのよ!!」


 ゴーレムの再生が完了した。

 再び立ち上がったゴーレムを、ルイズは睨みつけた。
 怖い。膝が震えるのを隠すこともできない。
 座り込んでしまいたい。泣いて助けを呼びたい。
 でもできない。ルイズの貴族としての矜持がそれを許さない。
 魔法の使えないルイズにとって、矜持のみが自らを貴族たらしめるものだからだ。
 立派な貴族として認められたい!

 詠唱、照準、引鉄。
 できそこないのファイアーボールが表面で弾けて土をまき散らす。

 しかし歩みは止まらない。
 私の魔法じゃ、こいつを止められない・・・!それはわかっていた。

 でも・・・・
「これならどうかしら。」
 ルイズは弓に矢をつがえた。

 当然弓矢など使ったことはない。むしろ魔法を絶対視する、貴族にとって軽蔑すべき平民の武器。
 しかし学院の最秘宝。禁断とされたこの『弓と矢』なら、あんなゴーレムなど一撃で倒してしまえるはずだ。



 昔見た平民の狩人を思いだし、見よう見まねで狙いを定める。弦の重さと同時に恐怖で腕が震える。

 本当に当たるだろうか。でも、当てるしかない!

 ルイズは矢を放った。

 素人のルイズが放った矢は、バヨ~ンと間抜けな音を立ててあさっての方向に飛んだ。
 しかしルイズにとって幸運だったのは。それでも当たるほどゴーレムが近くに近づいていたこと。
 そして・・・

「そ・・・そんな・・・」

 不幸だったのは矢がゴーレムに突き刺さっても、何の意味もなかったということ。
 そして、矢が刺さった時点で、ルイズはゴーレムの必殺の射程圏内まで近づかれていたということだ。
 ゴーレムがゆっくりと拳を振りあげる。

「ルイズーー!!」
 康一が飛び出してきたのはその時だった。デルフリンガーの鞘を捨て、風のような速度で走る。

「こ・・・」
 声が出なかった。

 ルイズは弓を、杖すらも打ち捨ててただ、走り来る康一に向かって手を伸ばした。

 地面を擦るように飛来する、ゴーレムの岩石の拳が。

 康一の目にも留まらぬ疾走が。

 共にルイズに迫った。


 しかしガンダールブの必死の手は後わずか、彼の主人まで届かなかった。

 ほんの一瞬、ゴーレムの拳が早かった。



 ルイズは死んだ。

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