ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ジョルノ+ポルナレフ 第二章-11

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匿名ユーザー

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一人ガリア入りを果たしたジョルノは、車がこちらでは馬車に当たるならば、飛行機に当たる乗り物竜籠に乗りこんでいた。
以前ガリアを訪れたのは『ポルナレフを探す、商売も行う』という目的の旅の途中で、テファニアと二人馬車に揺られていた。

初めて目にするものに目を輝かせて話しかけてくるテファの声も無く、魔法によって保護された車内には揺れも無い。
あの時に感じた穏やかな空気や平坦とは程遠い道を走るため避けられない車内の揺れを味わうことはないのだった。
日が傾き始め、魔法の照明を灯した車内は静けさに包まれていた。

ジョルノは書類に目を通し考えを巡らせていた。車内に置かれたテーブルの上では地球から持ってきたパソコンが置かれ、幾つかのウィンドウが開かれている。
錬金の魔法でバッテリーに充電できることもわかり、ある程度気兼ねなく使えるようになったそれをジョルノはとても重宝していた。

こんな時には特に。キーボードをジョルノが叩く。
ヴァリエール公爵夫人を脅すプッチ枢機卿の声がパソコンのスピーカーから流れだし、ジョルノは作業の効率を下げてこの場にいない知人達のことを頭に思い描いた。

プッチと別れたジョルノは、二人が会う予定の部屋に盗聴器を仕掛けデータとして保存しておいた。
場所が予め判明していたからこそ出来た事だが…
聞き終えたジョルノは、これからガリアでの所用を済ませようとしている自分の心がトリスティンの方へと強く引っ張られているのを感じていた。

これがただのジョルノ・ジョバァーナであれば引き返したのかも知れないが、ハルケギニアで複数の名前を持つに至った今のジョルノは幾つもの外せない予定があった。
今竜籠に乗り向かう先でも、魔法学院で別れたイザベラやプッチによって母を治療されたタバサが待っているのだ。

データの再生が終わると、ジョルノは手早くカトレアへの手紙を書いて、封をする。そしてそれに生命を与えた。
窓を開け、目も開けていられないほどの突風が吹きすさぶ中へ強引に投げこむ…一瞬で後方へと飛んでいった手紙がカトレアの方へと飛んでいくのを感じ取りながら、ジョルノは別れる前にプッチと交わした会話を思い出していた。

『なるほど。確かに貴方の言う事は、本当に大事な事だ』

プッチの前でも口にしたことを全て思い返しジョルノは、プッチが神を愛するようにとまで言った会ったことの無い父親と似た表情を浮かべた。

「フン………(僕の望む結果にたどり着けないって点を除けばな)」

そうこうする内にジョルノを乗せた竜籠は、ガリアの王都リュティスにたどり着いた。
人口30万というハルケギニア最大の都市リュティスの古いながらも壮麗な町並みを目にする暇も無く、ジョルノはヴェルサルテイル宮殿へと向かう。
家から漏れる明かりと立ち並ぶ街灯に照らされた道を、亀の中に入ったジョルノは竜籠から馬車に乗り換えて通り抜けていった。
亀が入った箱を乗せた無人の馬車は途中停車して、ガリアを任せている30代の男と…子供が乗り込んでくる。
亀から出ずに、声もかけずジョルノは少女と幹部である男との事務的な会話をスタンドの目を通して観察した。

子供はブルネットを短く刈り、整髪料で整えて服も少年の物を纏っているが中身はまだ10代そこらの少女で、テファの孤児院にいた一人だった。

今はパッショーネの一員となっている少女は、アルビオンの孤児院にいた頃は自分からジョルノに声をかけることも無く遠くから見ていたような気がする、という程度にしかジョルノの印象には残っていない。
だが、いつの間にか貴族との混血である子供に混じり、メイジとしての教育を受けトライアングルクラスのメイジとしてパッショーネ入りを果たしていた。

手紙のやり取りではそのようなことは一言も書かれていなかったし、部下からの報告にもその前兆は無かった。
どのような手段で、何故そんなことをしたのか?
ジョルノへの手紙には、『難しいことだった。だけど皆より『覚悟』が上だってことを見せる必要があったから』とだけ書かれていた。

その為ジョルノ独自で調べたところ、没落した貴族の家の出だったらしく、同じ孤児院の仲間にジョルノが与えた金を使って少女は家の者を呼び戻した。
その中に組織に声がかけられていた者がいたらしい…隠すような事ではないと思うのだが、ジョルノはそ知らぬふりで少女らを使うことを決めた。
以来組織に入ってからは着実に功績を上げており、秘密主義や慎重すぎるきらいがあるがガリア内で認められつつある。
一方男は元はシャルル派と呼ばれる暗殺されたタバサの父を支持する一派の者だったが、今はパッショーネの幹部だった。
プッチ枢機卿と出会い、その性分を変えてしまった現王ジョゼフにも才を認められ、ある程度の役職を与えられていたが忠誠を誓う気はさらさら無い。
かといって遺児であり地位を回復したタバサへの忠誠も彼の中にはなかった。
彼がシャルル派を気取っていたのは、シャルルが撒く裏金を手にしたからだ。

裏金を受け取ってしまった事は、彼にとって拭いがたい汚点。
彼の父はなんということは無い貴族の家に生まれて、誠実な仕事振りや人柄こそ評価されていた男だった。

彼自身もその評判を継ごうとしていたが、ある時友が領地経営に失敗した。
放っておけなかった彼は手を貸したのだが、その末に彼自身も困窮に陥り、シャルルの援助を受けた。
それから困窮するまでの筋書きを書いたのがシャルルだと知るまでは彼は忠実な臣下だった。

今は、異界の書物『聖書』によって新たな宗教に目覚め、『レ・ミゼラブル』にいたく感動した彼は新たな異界の書物の閲覧許可を得る為に全力を尽くしていた。
亀から出ずに、声もかけずジョルノはそんな二人の事務的な会話をスタンドの目を通して観察した。

「後は今後の話しだが、ボスから新たな命令が来ることになった。最初は組織の大半の者にも秘密裏に行うとのことだ」
「私は残りの少数というわけですか?」
「そういうことだ。内容は、(僕もまだ信じられないところがあるから)追って伝えるが…」

最後に困惑を示しながらも幹部の言葉に少女は少し相好を崩した。

それを眺めながら、今日この馬車に乗るまでの間に男が手を回して試したからな、とジョルノは心の中で付け加えた。

自分で検査を行わせておいてしれっと少女に言う幹部の顔は自分には一片のやましい部分もないと言わんばかりの落ち着き払った態度だった。
新しく命じた任務の準備が思ったより早く済みそうなのも今少女の相手をしている男のお陰と言える。
その十分に新たな任務について理解しているはずの男が、意外な事に任務について懸念を持っているようだが。

「まさかボスにもう一度確かめるとおっしゃるの? 勘違いされるよりは何度か聞かれる方がマシ、と言う方らしいけれど」
「1ヶ月で200万エキューまでなら使ってよいとおっしゃった」

少女の言葉が癪に障ったらしく、男が乱暴な調子で返す。

「ど、どこからそんなお金が沸いて出るんです?」
「つい先ほどこれから二ヶ月分として資産と現金の半々で400万エキュー頂いた」
「先ほど?」
「(額が額なんで)ギトーってメイジが可哀そうになったさ」

それを聞き、ジョルノは少し困ったように苦笑する。
無制限に使用してよい、という意味合いも込めての金額だったのだが、それがかえって彼等にジョルノの正気を疑わせてしまったらしい。
トリステインの相場になってしまうが、市民1人当たりが1年間に使う生活費は平民で約120エキュー。
下級貴族は約500エキューほどで、豊かな14キロ四方の領地を持つ貴族の年収で1万2千エキューほどになる。

ゲルマニアではコルベールらに研究を行わせ、アルビオンの復興に資金、物資の援助を行っているにも関わらず何処から資金を捻出しているのか不審に思うのも仕方がないことだった。

子供が降りてから、ジョルノは亀の中からスタンドを通して男に声をかけた。
彼の仕事振りには全く不満もなく、その為会話は10分にも満たない短いものだった。

「クリストファー、お前の仕事振りに私は満足している。グンデンタールのアニエスからの嘆願は君の迅速な行動がなければ大きな遅れが生じていただろう」
「以前私の下にいた者が彼女と接触し、今私の下に虐殺に関ってしまった者がいた。二重の幸運に助けられただけのことでございます」

そうする方がジョルノの意向に沿うと承知している男は、声のする方へは目を向けずに答えた。

「それが案外重要なんだ。虐殺を命じたリッシュモン君には不幸だがな…ディ・モールト(非常に)ベネ」
「?」
「君個人が今まで誤魔化した金額は…400エキューくらいだったか」
「ボ、ボス…!? それは…」
「そのまま話を聞いてくれないか? 君が今の仕事に納得してくれているなら、ガリアの仕事は今後も君に任せようと思っている」

慌てて申し開きを行おうと声のする方へ頭を垂れ、跪こうとする男を制止してジョルノは言葉を続けた。

「私は君の仕事振りに敬意を払おうと思う。その上でお願いしたいのは、誤魔化す金額についてはそれくらいでやめてもらいたいと言うことと、新たに下した命令についてはコレまで以上に注意を払って欲しいということだ。資金については心配しなくいい」

クンデンホルン大公家やガリア貴族の好事家達にサラマンダーなどの珍しい生物やモグラに掘り起こさせた宝飾を主に売って資金を都合しているのだが、
それが国庫から横領された資金なのか領民に重税を課して溜め込んだものなのか借金をしているのかまではジョルノの知る所ではなかった。
また害を知りながら麻薬をやって破産する大人が増えようと、彼等個人の自由…
男、クリストファーは声のする方にお辞儀をする。

「お前が望んでいた異世界の書物は既に君の鞄に入れておいた。それは全五巻の内の一巻になる……今後もやってくれるな?」

クリストファーは慌てて邪魔にならぬよう荷物棚に置いていた鞄を手元に引きよせ、知らぬ間に入っていた本を興奮で震える手に取った。

「おお、ボス! ご随意に叶うよう務めさせていただきます」
「何度も言葉を重ねてすまないが、例の件については注意点さえ遵守してくれれば金に糸目はつけない。君の判断で使え……そうだな。ロマリアの教会を全て買い取る気でいろ」

目をみはったクリストファーは、だが直ぐに『手配いたします』と答えて予定の場所へと馬車を走らせていった。

ジョルノの入った亀を入れた箱は男の手で馬車から下ろされた。
馬に乗った貴族がそれを拾い上げ、都市の郊外ある王族の居城、ヴェルサルテイル宮殿へ向けて走りだした。

世界中から招かれた建築家や造園師の手による様々な増築物によって現在も拡大を続けている宮殿の一角にあるプチ・トロワの主に、箱は渡された。
北花壇騎士団の一人から亀の入った箱を受け取ったイザベラは、自室の中で箱を開けて鍵を甲羅に嵌めた奇妙な亀をおっかなびっくり絨毯の上に置いた。

期待の込められた眼差しの先で、亀の中から細長い指が這い出す。腕、肩…一人の人間が亀の中から出てきてイザベラを見下ろす。
置くなり、亀に嵌められた鍵から出てきたジョルノを見た彼女は不満そうな表情だった。

「遅かったじゃないか」
「今まで以上に人目を避けなければならなくなったんです」

不満を口にしたものの、久しぶりに会うイザベラは、別れる前に見たものよりも僅かに柔らかい笑みでジョルノに椅子を勧め、自分は自分のベッドに腰掛けた。

「…エレーヌとはうまくやってるよ」

ペットショップを通じての定期的な連絡でも釘をさしていたせいかイザベラは口を開くなりそう言った。

「? タバサですか…そんな風に呼んでたんですね」
「ま、まあね。仲良くしろって言ったのはお前じゃないか」

若干照れくさそうにするイザベラの様子を見て、ジョルノは根掘り葉掘り別れたからの暮らしぶりを尋ねた。
ある程度はペットショップを通じて聞いていたので、本当はまず仕事の話からと考えていた。
だが今は勧められた椅子に腰掛けて話しに耳を傾けた。

ジョゼフの豹変以来、元々味方が少なかった彼女に味方はいなくなった。
得体の知れぬ父ジョゼフですら豹変させた犯人への恐れが、他者を信用できなくしてしまった。
その反面、無意識に味方を求めてタバサとの距離を縮めているのかもしれない。

多少自覚があるのか、イザベラは父親が心変わりしたからとか、叔母が元通りになったからとか、色々な理由をつけていた。
(実際にそれらの出来事も影響しているのだろうが)それはともかくタバサとの関係は修復されつつあった。

話を聞く限り、タバサの母であるオルレアン公爵夫人の働きかけも強い影響を与えたようだ。
夫を殺し、娘を冷遇し、当人には毒を飲ませた男とその娘を許し、今はイザベラを娘同然に可愛がっているという話は、ジョルノにとっても驚きだった。
ジョゼフの手腕によって暗闘は起きないだろうと考えてはいたが、許すという可能性は無いと思っていたのだ。
若干和らいだ表情を見せるイザベラに、ジョルノの口元は爽やかな笑みを形作っていた。

「ジョナサンがもっと早く着いてれば叔母様の手料理も味わえたろうに、残念だったね」
「貴女の変りようを見れただけで十分です。公爵夫人にはまた後日お会いする事にしましょう」
「別人みたいだっていいたそうね」
「そんなことはありません」

ジョルノ返事を世辞と受け取ったイザベラは苦笑した。
彼女自身、自分の変化に驚いているらしかった。

「父があの男に変えられてしまったせいでこんな事になるなんてね…」
「その事ですが、イザベラ…貴女の力を貸してください」

そう言って語りだすジョルノに、今度はイザベラが耳を傾けた。
イザベラの父ジョゼフを変えてしまったプッチとの間にあった出来事の諸々をジョルノはイザベラに明かした。

「僕はティファニアに、プッチは教皇に召喚された人間です」

プッチ枢機卿とヴァリエール公爵夫人の会話内容や、ジョルノとプッチが異世界から来たという事までも。

秘密を明かされたイザベラは、明かされた内容に驚くよりも荒唐無稽な話の無いように半信半疑に陥っていった。

内容自体はそう長いものではなかった為、すぐに全て話し終えてしまったジョルノは椅子にもたれかかってイザベラの気持ちが落ち着くのを待った。

「それで、ジョナサンは私の力が必要だって言うんだね?」
「秘密裏に制約(ギアス)がかけられた者達を調べ上げ、解除したい。貴女の北花壇騎士団にならそれが可能な者達がいるはずです」

粗野な仕草で頭をかきむしりながら、イザベラは『実は僕は地球人なんです』とか言い出した男を見た。
エレーヌ母娘と和解したせいだろうか?
多少憎からず思っているせいで、こんな馬鹿馬鹿しい話まで信じる気になっている自分に彼女は自嘲気味な笑みを浮かべた。

「資金などはこちらが全て負担します。他に何か必要なものがあれば言ってください」
「いいえ、ある程度はこちらで持つわ。ガリアにも関係のあることですもの」

父親のことや、恐らくそれ以外にもガリアにも彼等の手が伸びていることを思うイザベラの顔には怒りとも悲しみとも取れぬ複雑な表情をしていた。

「でも、ジョナサンの命を聞くように言っておくからその分彼等への追加報酬を払って。それと事が終わったら私とエレーヌのお供をしてちょうだい」
「…お供ですか?」
「そう、テファには内緒にしてあげる。悪い条件ではないわよね」
「わかりました(別に内緒にしなくても構いませんが)」
「一番腕の立つ連中を手配して置くわ」

二つ返事で答えたジョルノに気を良くしたらしいイザベラは腰掛けていたベッドに倒れこんでいった。
非公式な騎士団とはいえ、普通王族に杖を捧げる貴族が外国人であるところのジョルノの命令に簡単に従うはずは無いのだが…イザベラの配下であれば、ジョルノにも心当たりがあった。

「結構です。その者達ですが『元素の兄弟』ですね?」
「流石は『ボス』ね。そう、残虐で狡猾な連中だけど、汚れ仕事に関しては一番だわ」

ジョルノが北花壇騎士団の人員について知っているらしいのを、イザベラは驚くと同時に何処か誇らしげに言う。
イザベラは杖を振って、用意させておいたビスケットとワインをテーブルの上に運ぶ。
身振りでそれを勧め、ジョルノは亀の中からグラスを二つ取り出して注ぐと、ワールドを出してイザベラの元へ運ばせる。

二人はワインで喉を潤しながら、北花壇騎士団を使い行う仕事について暫し語り合った。

「そう言えば、手紙で言ってたスカウトした連中に賞を与えたいって書いていたけれど、本気かい?」
「はい、ネアポリス伯爵家から与えられた勲章を有難がる者は平民くらいなものでしょうからね」

ジョルノの下にはゲルマニアのネアポリス伯の領内を中心に、多数の研究員がいる。

彼等は今後多大な利益をジョルノに与えてくれるだろう。
現状彼等の地位は低い(コルベールの学園内の扱いを思い出してくださればわかっていただけるだろうが)
それはこれまで目立った何かを生み出さなかったせいだ。

だが、今後は違う。
既にゲルマニアではコルベールらの技術を組み込んだ新しい船が作られているのだから。
それを見越してジョルノは彼等の中で特に目立った成果を挙げた者に勲章と賞与を与える事を決めていた。

が、平民ならそれで十分でも貴族に対しては名誉として受け取れられないのだった。
同じ貴族、それもゲルマニアの伯爵家が作った賞など何百年という伝統と格式を持つ貴族達には何の価値もないのだ。

「やめた方がいいわね。10年もしないうちにジョナサンの与える賞が権威を持つようになる…エレーヌの意見だけどね。私達はそうしてみせるわ」
「…ネアポリス伯爵の名前では軽すぎる」

物分りの悪いジョルノにイザベラは目つきを険しくする。

「後になれば、価値を持つはずよ…!! 大体、そんなことをしたらジョナサンの所にいる人間にばかり賞を与えることになるじゃない」
「わかりました…」

ベッドに寝そべって頬杖をつくイザベラへ目を向けたまま、ジョルノはそう言って押し黙ってしまった。
強い口調でイザベラが返したとおり、コルベールのような人間はジョルノが抱え込んでしまっていて他の場所には賞を作ったとしても与えられるような者は一人としていなかった。
こればかりはジョルノ自身が抱え込んだせいで、それを思い出したジョルノはこれ以上その件で食い下がる事は出来なかった。

今まで仕事の話しばかりしていたせいで考えもしていなかったが、間が出来たことで辺りの静けさが部屋の中に漂っていた。残念がっているジョルノと、そこでイザベラは初めて、今の自分の姿は男性を前にして少しばかり無防備過ぎることに気付いた。
一度意識すると、その気性と立場のせいで決して男性馴れしているとは言えない上に、父親から余り省みられなかった彼女が気持ちを静めるのは不可能な事だった。
ジョルノはその様子に気付かないふりをして椅子から立ち上がり、グラスを片付けにかかった。

「…後の話は明日にしましょう、そろそろお暇しなければ」
「はぁ?」

スタンドで強引に奪うこともできたが、ジョルノはイザベラのグラスを取りに行った。

「せ、せっかく久しぶりに会ったんだし、もう少し……貴方の事が知りたいわ。もっと話を聞かせて」

ベッドの上でグラスを抱え、身を硬くしながらではあったが、引き止めようとするイザベラにジョルノは困ったような顔で動きを止めた。

「…先ほど説明した通りです。詳しくは知らない方がいい」

上目遣いに自分を見るイザベラにジョルノは爽やかな笑顔を向けるだけだった。

「返してください。僕は責任を取る事ができない男ですから、貴女に触れる気はこれっぽっちもありません」

ジョルノの言い草にイザベラの頭には血が昇り、グラスを持つ手には余計に力が篭っていった。どうやってかジョルノに意趣返しをしたい…恥らいと好意を怒りで誤魔化してイザベラはそう考えた。

「そんなことわからないだろッ? 今だけ心からなんて言って…それでテファやヴァリエールは納得してるんじゃあないのかい?」

悪びれた様子もなくジョルノは首を振った。

「僕が大事にしている気持ちは二つあります。最も強い気持ちは夢を叶えたいという気持ち。で、次が仲間に対する気持ち。異性に対する愛情はその下にあります」
「相手が誰でも?」
「寝ても覚めても」

そう答えたジョルノの表情は爽やかな色が強く現れていてイザベラの怒りを誘った。
その爽やかさや目を輝かせていることは全て夢のせいでありガリアという大国の王女も、年頃の娘も、イザベラのことは見ていないように感じられた。
正直に夢の事を告げたのは今のイザベラを好意的に思っているからだったが、恥をかかされる側にとっては何の慰めにもならなかった。だからか…グラスを受け取り、身を引こうとするジョルノの腕をイザベラが掴む。

「イザベラ? 離してくれ」

次はいつ会えるとも知れないジョルノをイザベラは彼を掴む指まで赤くして上目に見つめていた。
天蓋が作る影の中に見える顔は、普段よりずっと幼いようにジョルノの目には映った。
そのせいで一手、ジョルノは遅れた。魔法によって灯りが消される瞬間、やんわりと手を退けようとするジョルノが見たのは、一転して不敵に笑うイザベラの顔だった。
素早く身を起こしたイザベラは更に手を伸ばしてジョルノに組み付き、耳元で囁く。イザベラは上擦った声でこう言った。

「つ、つまり―逆に考えるんだね。他の女も大差ないから逆にチャンスだって考えるわけさ」
「え…?」
「今夜は帰さないわ」

組み付いた状態から、イザベラは杖を振るった。珍しく戸惑いを見せたジョルノの体が魔法でベッドの上に転ばされ態勢が入れ替わる。
ジョルノの手からグラスが抜けて、僅かに残っていたワインが宙を舞った。

「ジョナサン、勿論覚悟して来てるわよね? 夜更けに淑女の部屋を訪ねるって事は押し倒される覚悟は出来てるってことね」
「いえそういうわけじゃないんですが…」

まだ残っていたワインが純白のシーツの上に広がっていき、アルコールの匂いが周囲に漂う。
もう夜更けに差し掛かっていたが、逆に考えると朝まではまだたっぷりと時間があるのだった。
微かに入る月明かりでぼんやり浮かぶイザベラは少し広いおでこから指先まで赤く染めあがっている。
恥かしさや上手く引き止められないもどかしさからか、彼女は開き直り、どこかで仕入れた知識の元に暴走しているらしい。

近づいてくるイザベラの唇をかわし、ジョルノは彼女の頭を星型の字の傍へと引き寄せた。
逃げてしまうとまだ考えているらしく腕の中で暴れようとする彼女を包むようにして、ジョルノはぽつぽつと話を始めた。
素晴らしい仲間の事や、ポルナレフに以前聞いたエジプトへの旅をかいつまんで、多少のアドリブを交えて話してやるのだった。
眠るイザベラの部屋からジョルノが服装を整えて出てくるのは、それから実に4時間も後の事だった。

「休む時間がなくなってしまったな…(もしもの時の為に)これは組織としては改善しなければならないな」

満足したイザベラを寝かせるまで休む事が出来なかったがジョルノに疲労感はなかった。
夢は彼の心を潤し、彼の血統は彼の体に力強い生命の力を齎している。

「イザベラの事は後でポルナレフさんに相談するか…」

亀の中に移り、ジョルノは再びリュティスへと消えていった。





その頃、ジョルノに盗聴されていたことをまだ知らないプッチ枢機卿はゲルマニアへと向かって移動していた。
トリスティンの王女アンリエッタとゲルマニア皇帝の結婚に立ち会う為で、このまま進めばかなりの余裕を持って現地入りできることになっている。
プッチ枢機卿はそこで、一月近くにも渡りゲルマニアの重鎮達と会談を行う運びとなっていた。
勿論そこでも隙在らば彼らは禁呪を用いて保険をかけることだろう…

竜籠に載り、周囲に厳重な警備を敷いて移動する彼の手には始祖の祈祷書と呼ばれるトリスティンの秘宝があった。

トリスティン王室の伝統で、王族の結婚の際には貴族から巫女を選び、始祖の祈祷書を手に式の詔を読み上げる慣わしになっている。
常人にの目にはただの白紙の紙束にしか見えない。
プッチにとってもそれは同じだが、始祖に対して良い感情を持っていない彼にとっては便器の中のトイレットペーパーにも劣るゴミだ。

だが虚無の使い手…プッチを召喚し、プッチにディスクを抜かれいいようにされている教皇には、教皇が必要とする呪文が浮かび上がっているらしい。

「では教皇、お願いしたよ」
「わかりました。プッチ神父、『エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド
 ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル』」

自らの使い魔のお願いを快く引き受けた教皇は杖を振り下ろした。

『エクスプロージョン』

トイレットペーパーが無事消滅するのを見届けてプッチは満足そうに言う。

「これで後は何が残っていたかな?」
「土のルビーは先日我がロマリアの秘宝と共に消しましたし、香炉は『世界扉』で貴方の世界に送りましたから。火、風、水のルビー、始祖のオルゴールですね」
「うむ、ゴミは夢の島にだったな。こちらの道具も『世界扉』を抜けられる事がわかった。オルゴールについてはジョルノ・ジョバァーナに頼む事にするとして、火のルビーの行方が気になるな」

これで帰るまでに幾つか便利な道具を向こうへ持ち帰ることもできるということがわかった。
これはジョースターの血統と対決する役に立つ可能性を秘めている。実に結構な事だった。

4の4もこれで揃わない…一先ずは安心できるということでもある。
だが完全に安心、というわけではない。
異世界から自分達を誘拐した魔法の中に時間を越える類のものがないとも限らないからだ。

可能性があるというだけのことだが、安心の為に念には念を入れて置かなければならない。

「グンデンタールからは見つかりませんでした。実行した者達が持っているのかもしれません」
「ではその者達を捕らえてくれたまえ」
「わかりました」
「後はええっと、なんだ、さっき消してもらったのの偽物の用意も頼む…修道院の小娘は?」
「確実に消しておきました」
「それは結構なことだ。ヴァリエール公爵夫人はどうしたかね?」

神父が尋ねると、今度は隅に控えていた神官が前に出て報告を始める。

「遍在の一つが聖女ルイズの下を訪れたようです。様子を見にきただけのようですが…」
「亀はどうした? サイトは?」
「少々お待ちを…ティファニア王女の下に向かう姿が確認された位で、特に新しい動きはありません」

禁呪を用いて忠実な駒となった彼等の報告を受けて、プッチは思案顔を作る。

カリンが亀の中にいるポルナレフにプッチの思惑を告げ、協力を仰いだのかもしれない。
ティファニアのところに行って何をしているのかも調べさせたい所だが、ネアポリス伯爵家…パッショーネの内部まではロマリアの密偵は浸透していないためそれ以上の詳しい情報は入らないのだろう。
ゲルマニアも信仰心が薄いが、パッショーネの内部は更に信仰心が薄いせいだった。
懺悔にも来なければ忙殺されていて日曜礼拝にさえ来ない…聞いた所に拠ればキリスト教の聖書を読む者までいるとかいう話しさえある。

「ガリアに向かったジョジョはどうしている?」
「ネアポリス伯爵が大量の資金を動かし何か行動を開始していると…」
「…ヴァリエール公爵家と接触した形跡はあるかね?」
「いえ、次女がガリアに向かっていると言う報告がありますが」

あの後にジョルノとカリンが接触を持った形跡がないのを確認し、プッチは今後どう動くかを黙考する。
ついでにポルナレフを始末するにはどうすればよいだろうか?

「……甘やかせ」
「は?」

不意に言ったためか、間抜けな声を出したメイジが恐縮するのを無視しプッチは言葉を続ける。

「聖女ルイズを褒め称え、何から何まで世話して差し上げろ。我々の助けがあって当然。なければ何も出来ないようになるまでだ」
「御意に」
「成長の機会を絶対に与えるな…! 亀達が見限るように仕向けるのだ」

それだけ命じると、プッチは汚れを気にしているのか、芝居がかった身振りで指をこすり合わせた。

「あぁそれと、ワインが飲みたいのだが、その前に手を洗う水を用意してくれないかね?」

先ほど間抜けな声を上げたメイジが急いで杖を振るい、清潔な布と水がプッチの手元へ運ばれてくる。
プッチは上機嫌でゲルマニアまでの空の旅を楽みながら、今後のことを考えていた。

「やはり虚無の血を引く可能性がある人間を消しておくのが無難か? ゲルマニア皇帝には子孫を残すための女を別に宛がうとして…ジョルノと私が帰った後、王族達には皆自殺してもらう必要があるな」


to be continued...

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