ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

『Do or Die ―6R―』

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匿名ユーザー

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「俺はお前に……近づかない」
 センサーに反応しない敵。謎の吐血と剃刀。
 黒衣の男は音も無くウェザーの背後を取り、音も無く攻撃を始めていたのだ。
「チィッ!」
 ウェザーは男に向かい薙ぐようにして拳を振るった。
 しかし男はそれを大仰に飛びずさってかわす。
「うおおおぉぉぉぉぉッ!」
 ウェザーは雄叫びを上げながら一直線に窓に向かった。敵に背を向けることは危険でもあるが、敵のホームグラウンドに居続ける事の方が危険と判断したのだ。もしもこの屋敷に仕掛けがあるのならば尚のこと危険である。
 窓を破って道に転がり出ると、後ろには目もくれずに駆け出していった。
 無言でそれを見送った男も、程なくして闇に溶けて消えた。
 先程までの喧騒が嘘のように静まり返った一帯には、熱帯夜にしては冷たい風が吹いた。
 背筋の凍るような、鉄のように冷たく鋭い風が――

   『Do or Die―6R―』

 しばらく走ったウェザーは、居住区からやや離れたところにある空き地へ駆け込んだところでようやく振り向いた。
 追って来る足音は聞こえなかったが、黒衣の男は自分を追ってここに必ず来るだろうとわかっていた。
 あの男は自分に姿を見せている。それはつまり『貴様を必ず始末する』という意味だ。そして同時に絶対の自信の表れでもあるだろう。
 能力は未知数だが向かって来てくれるというのならば好都合だ。わかっていることも幾つかある。
 まず第一に男はスタンド使いないしスタンドの存在を知っている者である。これは男が《大仰》に拳をかわしたことでわかったことである。
 そうでなければ破れかぶれの攻撃をわざわざ距離をとってかわす必要は無いのだ。スタンドが見えるからこそ、知っているからこそその射程を恐れて大袈裟に距離をとった。
 そして第二に、男は接近戦を得意としない。もしくは中・遠距離が本領なのかもしれないが、背後を取っておきながら致命打を撃ってこないのは近距離パワー型ならまずありえない。
 だからこそこの開けた空き地をウェザーは選んだ。細工を弄する物も無く隠れる場所も無い、能力が自由に使える場所。
 ウェザーは注意深く辺りを見渡しながら、改めて空気のセンサーを巡らせる。今のところ空気に大きな乱れは無い。
 だから、ウェザーが自らの背後に無数のナイフが浮いていたとしても、知覚できるはずがない。
「はっ!」
 そのナイフの群れが殺到したところでようやくウェザーは背後の危機に気付いた。
 咄嗟に『ウェザー・リポート』で防ぎはするも、何本かは腕や腹部に突き刺さる。
「ぐううあッ!」
 傷口を押さえて蹲ったところに、再びナイフの群れが襲い掛かる。だが、その切っ先は無防備な背中に刺さる前にボロボロと錆びて地面に落ちて行った。
「はーっ、はぁー……『ウェザー・リポート』で酸素濃度を上げた。遠距離攻撃はもう効かんッ!」
 姿は見えないが、既にこの場にいるであろう敵に向かって言い放つ。それは事実でもあるが牽制でもあった。
 ウェザーは刺さったナイフを抜きながら視線で周囲を探る。センサーには今だ反応は無く、周囲に変化は無い。
 どこからの攻撃なのか。次は何を仕掛けてくるのか。一度凌いだとはいえ未だに謎は解けてはいない。
 と、ウェザーは不意に頬に張りを感じた。飴でも転がしたような、内側からのふくらみ。そして――
「う、うボァ!」
 爆ぜるようにして頬から無数の釘が飛び出した。遠距離でも近距離でもない、内側からの攻撃にウェザーは目を白黒させた。
 しかし、今の攻撃である程度の謎が解けた。
「剃刀、ナイフ、釘――それらを空中、あるいは俺の体内から飛ばす能力。《鉄を操る能力》あるいはそれに類する能力だな?そしてそうだとするのならば、もう一つの謎もわかってくる」
 今までセンサーに反応させずに攻撃してきた敵だが、それはセンサーに反応しないのではなく、空気中の埃や地表の鉄を空中で掻き乱して空気のセンサー全体を反応させていた。
「云わば空気のジャミング……すごいスケールだ、大した奴だよ。鉄を操るとするのならば、この釘や剃刀は俺の体内の鉄分から作り出したもの……そして、今もう一つわかったことがある」
 ウェザーの手には先程まで腹部に刺さっていたナイフが、勢いよく回転していた。
「鉄が引っ張られている!それはつまり《磁力》こそがお前の能力である証!ジャミングの距離から見て射程距離はおよそ十メートル!ならばッ!」
 そしてその刃はある方向を指し示して止まる。
「見つけたぞッ!」
 ウェザーの身体はガンダールヴの恩恵により、十メートルをまるで滑るような速度で詰めた。そして拳を振り上げる。ここに来てセンサーが強く揺れているのがわかった。
「くらえッ!『ウェザー・リポート』!」
 確信を持って振りぬいた拳は、しかし虚しく空を切った。そこにあったのは肉片とそれに張り付く亡霊のような気味の悪い《何か》だけだ。
「ロオォォ~ドォ」
「…………ッ!」
 背後から哀れむような声がかかった。
「磁力を使うスタンドというその推測は当たりだが……残念。その手は織り込み済みだ」
 ウェザーは幾度目かの体が内側から引っ張られる感覚を感じた。そして、やはりというべきか、再び剃刀が体から噴出す。
「おああぁ!」
「鼠の死体に『メタリカ』を付着させた。さっきそこで見つけたんだが、役に立ったようだな。空気のセンサーに風圧の拳、風を操るかその発展系の能力か……お前の挙動を観察しておいて正解だったな」
「テメェ……部下との戦闘を全部見ていたのか!」
 ウェザーは激昂するが男は淡々と話を続けるだけだった。
「……しかし今のお前の速さ……スタンド能力か?まあ、どうでもいい事だがな。風を操る近距離パワー型、それがお前の能力。射程距離2~3メートル……それがわかれば、やり方はもう既に出来ている」
 つまらなそうに呟いて再び景色へとその姿を溶け込ませていく男。
 だが、すぐにその顔色も変わることとなった。もっともウェザーには見えていないのだが。
 二人のいる空き地一面に霧が立ち込めているのだ。夕立が降った後とはいえ、あまりにも唐突に。
「カメレオンやタコやイカは自らの体色を変えることで背景に溶け込む……だが人間にそれはできない。ならばお前はどうやって姿を隠すのか」
 言葉を紡ぎながらウェザーは地面をなぞる。
「答えはずばり砂鉄だ。ガキの頃に磁石で遊んだことがある。砂鉄でアートを書く奴もいるそうだ。ロンドンの街並みから荒野の景色まで――そう、まるで今のお前のようにな!体に砂鉄を被り、景色に擬態している!」
 指先に付いた砂を擦り落とせば、風に巻かれてどこかに消えた。
「そして今度こそ!捉えたッ!」
 白く染まった空き地の中に、ぽっかりと穴が開いている。まるで人が一人立っっているかのような穴が。
「この霧……!風のほかにも水分を操れるのか、お前のスタンドは!」
 感覚によるセンサーが封じられたのなら、肉眼で捉えるまでだ。
 距離にして五メートルはない。一歩踏み込めば『ウェザー・リポート』の射程距離だ。
「次は外さねぇ――」
 再度駆け出そうとしたウェザーの脚は、しかし立ち上がることすら出来ずに崩れ落ちてしまった。
「な、なに?」
 体中から力が抜けていた。夏の夜にしては自分の体が冷え切っているのをウェザーは確かに感じていた。指先が震えて体を支えるのが精一杯な程だ。呼吸が苦しく、吸っても吸っても楽にはならない。
 そして一番の異変は、その流れ出る血液の変色だった。赤みが消え黄色くなっている。
「なるほどな、恐らくは天候を操る能力だったか。いい一手だったんだがな……言ったはずだ。やり方は既にできている、と」
 男の声がする。ウェザーが顔を上げてみれば、霧の中に幾つもの穴が開いていた。男は磁力で霧の中に擬似の人影を作り出しているのだ。
 これではせっかくのウェザーの霧も意味を成さなくなってしまった。
 ダメ押しとばかりに、ウェザーの脚から剃刀が飛び出し、ウェザーは地に伏せてしまう。
「血液中の鉄分を体外に取り出したんだ、お前の身体は酸素を供給できなくなっている。何をしたところでもう遅いんだ……お前はもう既に出来上がっているのだから」
 そして男は死刑宣告をする。
「色のない血液を流して死ぬがいい」
「オオオオオオッ!」
 搾り出すような咆哮と共に、ウェザーを中心にした旋風が巻き起こる。それは、砂を巻き上げ霧を飛ばし、男の作り上げた擬態さえも――
「そろそろやってくる頃だろうと思ったぞ」
 ウェザーの後ろからその声は降ってきた。既に男はウェザーの行動を見越して機をうかがっていたのだ。
「貴様は弱り焦り、一気に勝負に出ようとした!力なく隙だらけ、そしてこの距離!十分殺れるッ!」
 驚愕するウェザーに振る向く暇も与えずに、その脳天から剃刀が現れる。その殺気から止めに出たことが伝わってきた。
 ウェザーも何とか手をうとうとするが、どうやっても体が言うことをきいてくれない。
「う……おおぉあ……!」
 消えゆく命が見せたのは走馬灯だった。一度目の誕生と一度目の死、そして二度目の誕生から今までのことを、一気に垣間見経験した。
 そしてその中である言葉を思い出す。
 ペルラ徐倫アナスイFFエルメェスエンポリオプッチギーシュキュルケタバサアニエスフーケ――――ルイズ!
「終わりだッ!頭を切り飛ばすッ!止めだ、くらえ『メタリカ』ッ!」
 バッシュオォォ!と、肉の裂ける音がした。
 だが裂けたのはウェザーの額ではなく、リゾットの足だった。爪先から赤い筍でも生やしているかのような光景。
 何が起きたのか理解できていない様子のまま、男はその足を動かした。そして再びその足の肉を裂いてしまう。
「な!…………!?」
 混乱する男の耳に氷が出来上がるような、何かが凝固するような音が聞こえてきた。それも幾つも幾つも。
 辺りには幾つもの赤く鋭利な突起物が出来上がっていた。
「これは……これもお前の能力なのか!?赤い……血?まさかッ!」
「コントロールは……出来る……単純でいい……今回ばかりは素早く行くがな……」
「乾燥か!血を吹き上げて乾燥させて固めて……血の槍をッ!あの旋風は血を撒き散らすためかッ!」
「どうした?スタンドのパワーが弱っているぞ」
 ハッとした男が顔を上げた時、既にウェザーは目の前に迫っていた。何とか離れようとする体を、絡みつくような風が逃がしてはくれない。
 男は驚愕するしかなかった。体格から考えても限界近い出血量に、ダメ押しに脚を切り裂いた。おまけに酸素を供給できない体のどこにこれほどの力が残っていたというのか。
 ウェザーが男を捕らえる。
「あいつらの為にも……お前だけは……ここで倒すッ!」
 振り上げた右手には何か光る文様が見えた。
「くそっ……」
「『ウェザー・リポート』ッ!」
 渾身の一撃が、男の腹部に突き刺さった。鈍くエグイ音がして、男は大量の血を吐き出した。
「終わりだ!このままテメェをぶっ殺す!」



 男はレストランに座っていた。黒衣の男がやけに目立ってしまう真っ白なレストランで、目の前のテーブルには皿が幾つか置いてあるだけだった。チーズや魚料理などが置いてあったはずのそこにはもう何もなく、雑炊にいたっては地面にぶちまけてしまっていた。
 ――俺は何をしていたんだ。ボスに付けられた首輪を外すために反逆し、仲間を失いながらついにボスに辿り着いたものの敗れ、死んだ。
 なのに俺はあの世にもいけずに、再び生かされ首輪をはめられた。そこには何もなかった。仲間も、目的も。何もなかった。虚無の業火がこの身を焼き続ける生き地獄。
 ただ楽になりたくてここまで来た。言われるがままに。だが……それも終わる。
 エンジン音を上げてやってきたバスが止まり、人影がやって来るのがわかった。その数は六つ。男の口からなぜか笑いが漏れた。
 ――これで終われる。やっと……あいつらのもとに逝ける。
 そして影が目の前に来たところで立ち上がろうとした男は、しかしその胸倉を掴まれて乱暴に引き起こされたのだ。そして、全力で殴り飛ばされた。
 理解できずに地面に転がされた男の頭上から激昂した声が圧し掛かる。
「いいかッ!オレが怒ってんのはな、てめーの《心の弱さ》なんだリゾット!そりゃあ確かに限界を超えて襲い掛かってきたんだ、衝撃を受けるのは当然だ!《予想外》なんだからな。オレだってヤバイと思う!
 だが!オレたちのチームの他のヤツならッ!あともうちょっとで脳天を吹き飛ばせるってスタンドを決して解除したりはしねえッ!たとえ腕を飛ばされようが脚をもがれようともなッ!
 オメーは諦めちまってるんだよリゾット!動かなかった。甘ったれてんだ!分かるか?え?オレの言ってる事。《予想外》のせいじゃねえ。心の奥のところでオメーには諦めがあんだよ!
 立ち向かえリゾット!《反逆》しなきゃあオレたちは《栄光》をつかめねえ。あの男には勝てねえ!そして今改めてハッキリと言っておくぜ。
 オレたちチームはな!そこら辺のナンパ・ストリートや仲良しクラブで《ブッ殺す》《ブッ殺す》って大口叩いて仲間と心を慰めあってる様な負け犬どもとは訳が違うんだからな。
 《ブッ殺す》と心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ!」
 再び胸倉を掴んだ男を別の男が制した。
「お前はいきなり過ぎるんだよプロシュート。見ろよ、リゾットが目ェ白黒させてんぞ。ったく、しょおおがねーなあ~。でもよお、楽じゃあなかったろ?たかが《死ぬ》のもさ」
 その男の言葉を引き継いで別の男が言う。
「アンタはやっぱりリーダーだからさ、ただ《死ぬ》なんて出来なかったんだろう?頭は死にたがっても、本能が、誇りがそれを許可しない……だろ?」
 そう言って肩を叩かれる。
「まあ、あんたとは積もる話もありそうだけど、もうちょい頑張ってくれよ。そっちの奴らにも見せてやろうぜ。俺達チームの《覚悟》ってのをさ。それならディモールト・ベネだ」
「積もる話の積もるってよぉ……」
「お前はそれしかないのかよ」
 後ろから出てきた二人も視線を送ってくる。そしていつの間に前に出てきていたのか、最後の一人がリゾットと呼ばれた男を見た。
「リーダー……今の俺ならわかるよ。今までアンタがやってきた《覚悟》の本当の意味が。だからリーダー!勝ってくれ!」
 リゾットを立たせると、六人の男たちは背を向けてバスへと向かっていった。
「じゃあなリゾット!先にいってるぜ。ソルベとジェラートも地獄で待ってるんだとさ!」
「ベネ!今度は地獄の鬼共相手に縄張り争いってわけか」
「おい~、覚悟はできてんだろうなあオメーら?」
「ふっ、これしきのこと、日常茶飯事だろう」
「敵のボスは閻魔ってところですかね、兄貴」
「栄光はお前にあるぞ、リゾット」
 肩や胸を叩きながらそう言い残してバスに乗り込んでいく。再びエンジン音を上げてバスは発車する。運転席を見る限り、彼らは運転手を脅してここに立ち寄ったらしい。
 まったく暇な奴らだと、リゾットは溜め息をついた。
 そして地面に落ちた雑炊の皿を持ち上げてみる。
 中身がこぼれたとはいえ皿にはまだいくつかご飯粒が残っていた。
 出された食べ物は残さず食べるのが食事のマナー。跡を残さず消すのが暗殺者のマナーだ。
 とすれば、まだ己にはやることがある。
 リゾットは自らの首に手をかけると、何かを掴み投げ捨てる《仕草》をして見せた。不思議と、それだけで体が随分と軽くなった気がした。
 そしてその体で外へ出た。足は自然と、バスとは反対方向に向かっていた――



 腹に突き刺さったウェザーの腕を掴んで男――リゾットは言う。
「『ブッ殺してやる』ってセリフは…終わってから言うもんだぜ。オレたち《ギャングの世界》ではな!」
 すると腹部の傷口から溢れていた血が杭となり、ウェザーの腕とリゾットの体を固定したのだ。
 そして勢いよくウェザーに頭突きをかまして、額を擦り付けるようにしながら宣言した。
「この距離なら小細工は無しだ。どうする?もう後には引けなくなった……お前がどんな選択をしようと、俺は押し通るまでだ」
「……面白いッ!さっきまでの死人みたいな目とは大違いだな!だが勝つのは俺だッ!」
「決めるのはお前ではないッ!」
 ウェザーはこのまま拳を貫ければ勝ち。リゾットはウェザーの頭を吹き飛ばせれば勝ち。
 今、男たちの最終ラウンドが始まった。
「『ウェザー・リポーォォーット』!!」
「『メタリカァッ』!!」
 お互いの全力のスタンドが発動された。巻き上がる砂塵。緊張する空気。そしてまるで時が止まったかのような静寂が訪れた。
 トスッ。
 静寂を破ったのはウェザー――その頭から落ちた帽子だった。
 その音が合図となり、二人は倒れ伏した。
 奇妙な沈黙は再び続いた。
 だが、そのしばしの後に、立ち上がったのはウェザーだった。額から痛々しく飛び出す剃刀が、音もなくその形を失くしていく。倒れ伏すリゾットには動く気配すらない。どころか、呼吸している様子すらないように思えた。
 敵の様子を見たウェザーは安堵し、しかし勝ち名乗りを上げることすら出来ずに再び背から地面にダイブしてしまった。
 細々とした呼吸音だけが聞こえていた。もはや疲労困憊。瞼すら自力で起こせそうにないほどに消耗したウェザーは、滅多な事では起きることが出来ないだろう。

 そう、例え隣で倒れていた男が立ち上がろうとも――――




To Be Continued…


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