ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ティータイムは幽霊屋敷で-45

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匿名ユーザー

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シャルロットを盾にしたセレスタンとそれを囲むグリフォン隊。
一触即発の状況でどちらも身動きがが取れない中、
アルビオンの騎士は朝食のメニューを訊ねるような気軽さで問う。
「どうでしょう。もう一度こちら側に付くというのは」
それを聞いたセレスタンが鼻で笑うと同時に杖をさらに喉元まで突きつけて見せる。
慌てふためく周囲の反応にセレスタンはくっと口元を釣り上げて笑みを零した。
“一度は殺しかけておいて状況が変わったから味方につけ”
そんなことを言われれば並の神経の持ち主なら激昂して人質に手を掛けたかもしれない。
だがセレスタンはそうではない。そして、それは騎士も知る所だった。
そもそも彼には我々への恨みなどない。傭兵仲間を殺された仇を討つ気もない。
誰かを殺し、誰かに殺されるのは狂気の只中にある彼にとっては当然の出来事。
ただ逃げるだけなら我々に姿を見せる必要もない。彼女の風韻竜を駆ればいい。
それがセレスタンが人質を殺さない理由。
いつ殺されてもおかしくない、この状況を彼は心から楽しんでいるのだ。

「では、どうしますか。ここで我々と戦うのも難しいでしょう」
「なあに、こいつがいりゃあテメエ等は手が出せねえ。
反撃できない相手をいたぶるのはそれほど苦労しねえさ」
「そうでもありませんよ。最悪の場合には“目標の生死を問わず”そう命じられていますので」
騎士の放った言葉にセレスタンに息を呑んだ。
話が違う。この少女は洗脳して送り返すのではなかったのか。
死体だけでいいというのはどういう意味だ。
スキルニルにすりかえた程度でごまかせるような相手ではない。
ハッタリだと断言するには確証が足りない。
なにしろエルフの技術力は人間にとって未知数の代物。
それこそ屍さえ思うままに動かせる技だってあるかもしれない。
にじり寄るグリフォン隊にセレスタンは表情を強張らせた。
死体を炭にまで変えるなら話は別だろうが、今から別の魔法に切り替えるのは自殺行為だ。

「我々には貴方を殺す理由がない。偽装工作には彼らの死体があれば十分です」
「かといって生かしておく理由もないがな」
「ええ、その通りです。このまま反抗を続けるのでしたらね」
毒づくセレスタンに平然とした顔で騎士は脅しつける。
岐路が目前まで迫っていた。セレスタンに進む道は二つ。
手持ちのカードを切るか、それとも降りるか。
せっかくの切札を捨てるのは少々惜しい。
この手でガリアの王女を殺め、グリフォン隊相手に立ち回るも悪くはない。
どのみち死んだも同然の身、あとはどうやって終わらせるかだ。
包囲を狭めるグリフォン隊を凝視して彼は決意を固めた。
「見たくはありませんか」
その決意を揺るがせたのは騎士の言葉だった。
彼はセレスタンがこちらを向いたのを確かめてから続ける。
「数千年にわたり繁栄し続けたガリア王国が、
あの美しき宮殿と勇壮なる騎士団に守られたあの国が、
貴方が忠誠を誓い、そして裏切られた祖国が――その輝かしい歴史に幕を引く瞬間を」

その瞬間、セレスタンは口元を歪ませた。
取り囲むグリフォン隊とシルフィードは彼の表情に凍りつく。
まるで獣が牙を剥きだしにしたかのようなその表情。
それが堪えきれない笑みを表しているのだと理解できたのは、騎士と彼自身だけだった。

僅かに開いた隙間から覗いていた目が釣りあがる。
セレスタンを包囲していたグリフォン隊も杖を収め、
事態は収束の方向へと向かってきている。
それをただ一人望んでなかったイザベラが怒りを顕に叫ぶ。

「ちくしょう! もっと交渉を長引かせろ役立たずめ!」
よくある立て篭もり事件みたいに途方もない金額をふっかけたり、
とりあえず食料と水を要求したりと無駄に時間を食っていればいいものを!
心の中で文句を言い続けるも虚しいばかり。
だけど本当の意味での最悪の事態は避けられた。
もし交渉が失敗していたらシャルロットはどうなっていたか。
ほんの少しだけ安堵している自分に腹立たしさを感じながら外の様子を窺う。
状況は最悪ではないが、その次点ぐらい。
“さて問題です。どうしても救出しないといけない人物が人質に取られています。
周りは各国の精鋭で囲まれ、こちらが使えるのはドットスペルだけ。
救援は来るかもしれませんが待っている間に逃亡される可能性が非常に高い。
この状況で重要人物を救出し、自分も無事に脱出する方法を提示しなさい”
士官学校でこんな試験問題が出されたら全員留年か、問題を考えた教師の首が飛ぶだろう。
時間さえあればいくらでもアイデアをひねり出してやるっていうのに、そんな余裕さえない。

飛び出していってシャルロットを救出して逃げ出す?
それはただの妄想だ。そんなのが出来るのは絵本の中の英雄だけ。
自分がそうなれると錯覚するほど子供じゃない。
周りの連中はシャルロットを中心に固まっている。
あそこに飛び込むのはむざむざ殺されに行くのと同義だ。
三歩も歩かないうちに蜂の巣にされるのがオチだろう。
救出は後回しだ。今はとにかく一秒でも時間を稼ぐしかない。
囮となって注意を引きつけるのもありだが私は既に用済み。
無視されるか、いきなり殺される可能性だってありえる。
いっそエンポリオを使おうかとも思ったけど、
死んだらスタンドが解除されるのだから意味がない。

考えろ、考えるんだ。
奇跡を期待して飛び出すな。
そんなものが無いって私が一番よく知っている。
無力を嘆いて傍観に徹するな。
そんなのは私じゃない。私であってたまるか。
どんな汚い手でも構わない。あらゆる手段を講じろ。
額を伝う汗を手の甲で拭いながら、
ぐっとイザベラは下唇を噛みしめた。
分かっていた。だが事実を突きつけられるのは悔しかった。
――悲しいぐらいに私たちは無力だった。

その時、俯く彼女の耳に聞いたことのない誰かの声が届いた。


突如響き渡った物音に、その場にいる全員が音のする方へと視線を向ける。
そこにはどこかから迷い込んできたのか一人の少女がいた。
マントについたフードを目深く被った表情は窺えないが、きっと蒼褪めていただろう。
足元には衛士隊が仕留めた傭兵の死骸。それを目の当たりした彼女の足が恐怖に震える。
はっと気付いたかのように少女は屍から周囲へと視線を巡らせる。
シャルロットを盾に取るセレスタン、グリフォン隊、アルビオンの騎士たち、
そしてマチルダへと移り、そこで止まった。
「……テファ? まさかアンタ、テファなのかい!?」
自分を食い入るように見つめる少女の目に気付いたマチルダが思わず声を上げる。
返答はなかった。だが少女は首を僅かに動かして肯定を示す。
目撃者を消そうとするグリフォン隊を騎士は苦渋に満ちた表情で制す。
あってはならないことが起きてしまった、まるでそう言いたげに。

「……姉さん。どうして、どうして、こんなに人が死んでいるの?
何があったの? 姉さんたちは一体ここでなにをしているの?」
テファと呼ばれた少女の澄み切った声が恐怖にかすれる。
歩み寄ろうとするマチルダにテファは後ろに下がって拒絶を示す。
目の前の現実を受け入れたくないかのようにテファは頭を振る。
彼女は薄々気付いていた。この惨状を生み出したのが他ならぬマチルダ達である事に。

テファを安心させようとマチルダは偽りの笑顔を作ろうとした。
だけど笑えなかった。笑おうとしても彼女の表情は曇ったまま。
自分が今までどうやって笑っていたのか、それさえも思い出せなかった。
近づければいつものように抱きしめられるのにとテファとの距離を歯痒く思う。
しかしマチルダは気付いてしまった。
愛しい彼女を抱きとめる手は既に血で穢れてしまっているということに。
どうして付いて来るなと言われたのか、今なら痛いほどよく分かる。
どんな理由があるにせよ一度でもその手を汚したのなら元には戻れない。
当たり前のように過ごしてきた昨日までの日々には帰れない。
本当の姉妹のように共に歩いてきた二人の間には見えない壁が立ちはだかっていた。
「テファ」
明かりに誘われる虫のように手を伸ばす。
もしかしたら救われたかっただけなのかもしれない。
―――ひどく身勝手だ。
無垢なままであって欲しいと遠ざけておきながら、
なのに今は彼女に慰めてもらいたいと心から求めている。
テファが望まないと知っていながら、それでも自ら望んで犯した罪なのに。
彼女に許されたいと恥知らずにも願っている。
だが、その手は虚しく空を切った。

テファが手を伸ばそうとした瞬間、どこからともなく現れた少女がテファに激突する。
縺れ合うように地面に転がる二人に慌てて駆け寄ろうとした直後。
少女――イザベラはフードごとテファの髪を掴んで叫んだ。

「おまえら全員動くんじゃない!」
もう一方の手にはナイフ。それを痛みに喘ぐ彼女の首元に突き立てる。
血走ったイザベラの目が苦しげに歪む騎士の顔を睨みつける。
「あの時とは立場が逆だね。気分はどうだい? 大事なモノを盾に取られる気分は」
悪に徹する彼女の表情は、まるで水を得た魚のように生き生きとしたものだった。

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