ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの兄貴-54

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匿名ユーザー

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「うきゅう」
足元で潰れたような声がするけど気にしてはいけない。
頭を抑えて地面に蹲っているシルフィードが涙目になっているのも気のせい。
「うう、酷いのね。おねえさまが心配だっただけなのに」
「うるせぇ!だからって飛び付く馬鹿がどこにいやがる」
鬱陶しいと言わんばかりにプロシュートが吐き捨てたが、荷物背負ってやっとの思いで村に戻ったと思ったら
出会い頭にシルフィードがアメフトかと言わんばかりのタックルをかましてきた。

肝心のタバサはというと、ジジの家の中でデス13と遊んでいる頃だ。
なぜにこうなったかというと、タバサの今の姿にある。
前衛を勤めたのはプロシュートなので怪我なんぞこれっぽっちもしちゃいないが、洞窟前から村まで運んだのは当然プロシュートだ。
一回動脈切ったから手は血塗れで、額の傷も完全に塞がってないから流れてきた血をまた手の甲で拭う。
自分の汚れは気にするが、他人の汚れなんざこれっぽっちも気にしないため村に付いた時はタバサの服は血でベトベトだった。
その姿を見たシルフィードが180度ぐらい勘違いをして突っ込んできて
『おねえさまがミノタウロスにやられちゃった』などのような事を言いながら人の上でわんわん泣いていたので
手加減の手の字もなく、綺麗な右フックがシルフィードのつむじにブチ込まれたというわけだった。

「ふぁ……夜中になにやってんのさ」
呆れ顔で家の中からフーケが出てきた。
いっそ、そのまま戻ってこないで欲しかった、と思っていたのは決して口には出さない。だって命は大切な物だって両親から教わったから。
欠伸をしたりして眠そうにしているあたり、それなりに疲れていたようで寝ていたらしい。
「カタは付けた。くたばってるから見たけりゃ見に行けよ」
「まぁ死ぬとは思ってなかったけど、結構手間取ったみたいだね。珍しい」
服は少々土で汚れ、顔に至っては乾いた血の跡で汚れている。
やろうと思えばこの村ぐらいなら一時間程度で全滅させられる力を持った男にしては珍しい姿だっただけに、いったい何があったのかと興味はある。
「別になんもねー。大したヤローだったのは事実だがよ」

「?どういう事さ」
まるで人間でも相手にしたような口ぶりにフーケが疑問符を浮かべたが、答えが返ってくる事はない。
しこたま疲れていたというのもあるし、なにより牛公が人間を辞めていたという事を説明するのはダルい。
しかも、そいつが十年前に村を救ったやつだったなど説明すればするほどややっこしくなってくる。
面倒なので無かった事にして無遠慮にジジの家のドアを空けると壁に背を預けた。
贅沢を言えば寝る前に一服やりたかったところではあるが、無い物強請りだ。
体力の消耗とスタンドパワーの消耗で眠気はすぐに襲ってきた。
それでも意識を手放す前に、あのラルカスの姿が浮かんだ。

肉体は死んでいたのに魂だけで動いていた。
並みの精神力ならとっくの昔に飲み込まれて、この村なんて無かったかもしれない。
もしこっち側の人間だったら立派なギャングになっていたと思う。
「……ホント大したヤツだったよ。オメーは」
誰にも聞こえないぐらい小さく呟くと、長い一日にようやく終止符を打った。



「水」
昼前ぐらいに目を覚まし状況を確認すると、第一声がそれだった。
手と顔のあたりは血が乾いて赤黒く変色している。
ここが外だったら間違いなく死体認定されているような有様である。
幸い上着はスタンドで持っていたので血の汚れは無いが、身体の方は血と土汚れで気色悪い。
ここがイタリアだったら、今頃は声に反応したペッシが水を持ってくるところだが、生憎とド辺境。
蛇口を捻れば水が沸いて出てくるような場所でもなく、この村には井戸が一つしかないのですぐに用意できるはずもない。
他のやつらはと、周りを見てみたが、シルフィードはまだ寝ている。ついでに、他は誰も居ない。
一瞬、放っておこうとも考えたが、呑気そーに涎まで垂らしているアホ面を見ていたらなんか無性にムカついてきた。
自分だって今まで寝てたんだから言えた義理じゃあない。ただ舎弟ってのは常に兄貴より先に起きておくもんである。
ギャング世界なら教えるまでも無い事だろうが、そんな事知ったこっちゃないシルフィードは当然のようにブッチして爆睡ブッこいている。。
いくら負担が掛かるといっても限度ってもんがある。やる事やってりゃスタンド攻撃という事にしてやってもよかったが、昨晩から寝てるだけなので叩き起こす事に決めた。
仕事しないやつには厳しい。これ暗殺チームの常識。

バキィ、と首を鳴らすとシルフィードの首根っこを掴んで動かす。
必要以上に持ち上げる気など一切無く、引き摺るように引っ張っているから色んなところにぶつかっている。
人様の家とかいう気遣いは一切無い。

ちなみに、今のシルフィードの服はタバサのマントにロープ一本巻き付けただけという極めて適当なもので
どこかに引っ掛けたりすれば、少々よろしくない事になるが、プロシュートは全く気にしていない。
まぁ、ここまでされて起きる気配が微塵も無いっつーのだからどっちもどっちと言うべきか。

井戸まで引き摺って行くと、もうスデに先客がいた。
「よう、役立たず」
「……おはよう」
いきなり精神的に再起不能になりそうな言葉をぶつけるが、あの無表情面がこの程度で参るようなタマじゃない事ぐらいは知っている。
というより、本気ならもっとキツいのと同時に蹴りが入っているところだ。

手を離すと引力に引かれてシルフィードの頭が落ちた。
一度、一メートルぐらい持ち上げてから落としたのだが、まだ何か寝言をほざいているあたりダメな方に食らいついている。
「……いい根性してんじゃねーか」
こいつは多分、自分の欲望(三大欲求的な意味で)に対しては際限が無いやつだ。
もしギャングやってたら結構いいセンいってたと思う。

そろそろ蹴りの一発でもくれてやろうかと考え始めると、一足先に着替えていたタバサが無言で水の入った桶を手渡してきた。
季節が季節のだけあって井戸から引き上げたばかりの地下水ってのは相当に冷たい。
人間、冷たさを感じてそれが一定を超えると、冷たさが痛みとして認識されるようになる。
さらに突き詰めると痛みすら感じなくなってしまうのはホワイト・アルバムでご存知のとおり。
もちろん、それを知った上で盛大で、それでいて正確に寝ボケ竜の頭に中身をブチ撒けた。

「い、痛いのね!鋭い痛みがゆっくりやってくるのね!?」
どこのブチャラティだ、と突っ込みたくなるような悲鳴をあげるとシルフィードが文字どおり跳ね起きた。
半分寝ボケているのもあって両手を挙げてその辺をぐるぐると走り回っているあたり日本の漫画の一シーンっぽい。
「ふぎゃん!」
最終的に石につまづいて動きが止まった。
倒れ方といい地面への入射角といい完璧なまでにギャグ漫画だ。

「いい朝だな」
「もう昼前」
何事もなかったかのように光り輝くさわやかさとさえ感じられる朝の挨拶と、それに対する突っ込みが上の方で繰り広げられているが
肝心のシルフィードは顎に膝蹴りをボギャァア!と叩き込まれたダルメシアンのようにピクピクしている。
もちろんそこには、何をするだァーーッ!ゆるさん!とか言ってくれる人なんて全く居やしない。

数秒間、大地の精霊と親睦を深めていたシルフィードがゆっくりと顔をあげると、モロに突っ込んだせいかあちこちに擦り傷が出来ているのが見て取れる。
そしてあっという間に目には大粒の涙が溜まって顔がふにゃりと崩れた。
「……いたい。……痛い、痛い、痛い!痛いのね!きゅいきゅいきゅーい!」
ガキの泣き声は宇宙最強の音波兵器だ。と、誰か偉い人が言っていたと思うが、まさにそのとおり。
元の姿が元だけに、その音量は半端無い。泣き声で空気が振動して伝わってきているが、原因が分からなければスタンド攻撃だッ!って思うぐらいだ。
さすがのプロシュートも防御不可能の音波攻撃には耳を塞ぐしかなく対処のしようがない。
「うるせェーーーーーッ!さっさと!なんとかッ!しやがれッッ!!」
直を叩き込んで無理矢理黙らせるという手もあるが、朝からんなしょーもない事でスタンドパワーを浪費するのも馬鹿らしく結局は飼い主に丸投げする事にした。

「…………」
「聞こえねーぞ!」
口が動いているあたり、なにか言っているんだろーが、元々の地声が小さいし叫ぶようなやつでもないので全く聞こえない。
自我があるスタンドを持っているなら、間違いなく『S.H.I.Tッ!』と言っているような状況である。
聞こえないと悟ったのか、小さく首を縦に振ると軽いため息を吐いて泣き喚くシルフィードの前に歩いていく。
軽い擦り傷程度ならタバサでも秘薬なんぞ使う必要も無く、杖をシルフィードの顔に向けて呪文を唱えた。
「きゅい……きゅ……きゅい……」
傷が治っていくにつれ泣き声のボリュームが下がっていく。
まだグズっているが、やっとこさ静かにはなった。それでもボスの大冒険に例えるなら『精神力が一下がった』というところか。
「クソ……朝っぱらからひでー目にあったぜ」
「だからもう昼前」
基本的に、起床時刻が不定期な人間にとって時間の区切りの概念は薄い。
例え夜でも寝起き=朝って考えになってしまっているがどうでもいい話。

ちなみに、その横ではグレイトフル・デッドが井戸から水を引っ張り上げている。
こういう時スタンドはディ・モールト便利だが、見える場合ディ・モールトシュールな光景だ。

「そういやオメー、偽名だったんだな。どっちがいい」
「タバサ」
昨日、確かシャルロットとか言っていたような気がしたので聞いてみたが、本人がそれでいいというならそれでいい。
別にタバサだろうがシャルロットだろうが、名前が違えばそいつ個人が変わるわけでもない。
本人がそう名乗ってる以上、そう呼んでやるのが一番楽でいい。

とりあえず適当にあったボロ布かなにか濡らして顔と髪を拭くと、やっとこさメタリカ臭い臭いから開放されて一息付ける状態になる。
が、それもつかの間。もう聞きなれたというか、聞き飽きた音が聞こえてきた。

「それはそうと、おなかがすいたのね」
もはや背景に擬音が出そうな音を出したのは、もちろんシルフィードの腹の虫。
さっきまで超音波かと言わんばかりに大泣きしていたのにもうケロッとして飯の心配をしている。

音が鳴り止むと数秒の静寂がその場に流れたが、額を押さえながらプロシュートが露骨なまでの不機嫌を隠さずに言った。
「……殴っていいか?」
「きゅい!?」
本来なら、何も言わずに一、二発ぶん殴っているところだが
さっきみたいにガン泣きされてはたまらんという事で、心の中で思ったらその時スデに行動が終わっている男にしては珍しく言葉より先に手が出ていない。

「我慢して」
「きゅいきゅい!?」
タバサもタバサで、ミノタウロスを始末したからには、この村には用は無いと言わんばかに言い放つ。
この村に立ち寄ったのは、ミノタウロスという強敵と戦う事によって得られる経験であり、本来遂行すべき任務は他にあるのだ。

上位者二名にあおずけ宣言を出され諦めるかと思ったが、当のシルフィードは眉をハの字に曲げてぶつくさ愚痴を言い始めた。
「きゅい……シルフィは不幸なのね。この先、しゃべることすらできない、下賎な火竜の手にかかるかもしれないのに、ごはんも満足に食べる事ができないのね」
この世の全ての不幸が降りかかったような声と表情で地面に膝を付いているが、時折ちらちらと二人の顔色を伺っているあたり演技のようだ。
「おい、こいつ、何時もこんなか?」
「……だいたいあってる」
脳が足りてないとは言わないけど、近い。というのはタバサの言である。
ぶっちゃけ、そこいらの子供がショーケースのお菓子を駄々こねて買ってくれとわめいているようなもんだ。
うっおとしいと思うより、よくこんなのと組んでられるなという方が先にきてしまっている。

そんなシルフィードを見るとプロシュートが頭をかきながら、ったく、と言いつつため息を吐いた。
「食いモンならなんでもいいか?」
「きゅい!おいしいものならなんでもいいけど……やっぱりお肉がいいのね!あ、でも、あのブヨブヨしたまがいものは断固として拒否するのね!」
脊髄反射もとやかくという勢いでさっきまで沈んでいたシルフィードの表情が一気に明るいものになったが、対照的にタバサはちょっと困ったような顔をしている。
本の虫という表現が最も似合う存在だけあって、タバサは生活費のほとんどを本に注ぎ込んでいるので、基本的に金はあまり持っていない。
前にも言ったと思うが、甘やかしすぎると色々と困るのである。

もちろん、それはおめーらの間での問題だ、って事で知ったこっちゃないプロシュートは構わずに続ける。
「って事は牛の肉なら『なんであろうと』問題ねーって事だな?」
「きゅい!」
元気よくシルフィードが返事をした瞬間、あっという間にその場の空気が変わった。
背景の擬音は間違いなくドドドかゴゴゴである。
それに気付いたのか、タバサもプロシュートの方を見たが、もの凄く何かを企んでいるというか、悪い顔をしているのを見た。

「まだ転がってるだろうしな。残さず食えよ?」
質問への返事を待たずにギャーz__ン!と擬音が出んばかりにシルフィードを指差すと再びシルフィードを谷底に突き落とす単語を突きつける。
「ミノタウロスをなァ!」
「ミノ……タウロス……?」
若干エコーが掛かって聞こえたのはたぶん気のせい。
「牛だったら『なんであろうと』問題ねーって言ったよな?骨の一本、皮の一切れも残すんじゃあねーぞ」
確かに牛は牛。言ってる事に間違いは無いが、ミノタウロスは亜人でデカイし無駄に堅い皮膚を持つ。
さすがに冗談だろうと思ったが、視線の先にあった顔は、今にも『計画どおり』と言わんばかりの悪党面。

「きゅ、きゅい。お、おねえさまは、ミノタウロスを食べろとか言わないのね?」
最後の希望をタバサに託してみたが、その表情はいつもと変わらず、それでいて冷たいものだった。
「あなたが望んだ事。だからそれはあなたの問題。だからわたしには関係無い」
冬の突風の如き冷たさで切り捨てられると、シルフィードの頭の中が真っ白になって、何故かモノクロで血を吐いている自分の顔が写る。
当然、そこに付く文字は『再起不能(リタイア)』の四文字。
今度こそ本当にこの世の不幸が全て降りかかったような顔で力無く地面に膝をついた。

「ったく……これで、ちったぁ懲りるといいんだがよ」
「たぶん、二、三日で忘れると思う」
喉元過ぎれば熱さを忘れる。
得てして子供ってのはそんなもんだろうが、この際二、三日でも大人しくしていれば上出来だ。

しかし、これだけ手間かけた報酬があの小銭だと思うと色々とやる気が失せてくる。
いっそあの牛公をマジにこいつの餌にでもして出費を抑えるかと本気で考え始めると、シルフィードが屍生人のように無言で立ち上がった。
「お、おねえさまと……おにいさまの……」
俯きながら小刻みに震えながら呟き、新鮮な空気を目一杯吸い込むと、エコーズAC2も真っ青な音を出した。

「バガーーーーーーーーッ!」
大音量で叫ぶと、脱兎のごとく走り去る。
見事ジョースター家伝統の戦法を披露してみせたシルフィードだが、何がなにやらといった感じだ。
「……のヤロー、逃げやがった」
後に残されたのは罪悪感の欠片も持っていないギャングと
やれやれだぜと言わんばかりにため息を付いて、無言で本を読み始めるメイジの二人のみ。

納屋の藁に頭突っ込んで必死に隠れようとしたシルフィードを見つけて
一体何やらかしたんだあのド畜生はとフーケが背筋を寒くしたのはそれから約十分後のことだった。

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