ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ティータイムは幽霊屋敷で-39

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匿名ユーザー

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廃屋に刻まれる破壊の爪痕。
机は引っ繰り返され、足を折られた椅子が床に転がる。
手の届く範疇にある全ての物は投げ捨てられ無惨な姿を晒す。
まるで室内に嵐が吹き荒れたかのような惨状が広がる。

その中心に一組の少年少女が立っていた。
目を血走らせて破壊の限りを尽くした少女が肩を震わせて呼吸を乱し、
そして、そんな少女に臆する事なく少年は真っ向から彼女と向き合った。
首筋には両手で締め上げた痣が浮かび、殴打された頬が赤く染まる。
切った口の端から血が滲んでユニフォームに赤い雫を落とす。
しかし、彼は一歩も引かなかった。

「…………気は済んだ?」

何事もなかったかのようにエンポリオは冷静に言い放った。
それに従うように彼の背後で砕かれた家財道具が元通りに修復していく。
イザベラは砕けんばかりに歯を噛み締める。
まるで家具にさえお前は無力だと笑われている気がした。
込み上げてくる怒りを抑えられず拳を振り上げる。
それなのにエンポリオは抵抗しようともしなかった。
拳ではなくイザベラの瞳だけをただ一点見つめている。

そして彼の眼前でイザベラの腕が止まった。

「ちくしょう……」

イザベラの口から嗚咽にも似た声が洩れる。
自分よりも年下の子供だと甘く見ていた。
だけど呆気ないぐらいに私の心は見透かされた。
これがただの八つ当たりに過ぎない事に。
年端もいかない幼子が駄々をこねて暴れるように。
行き場のない感情をぶつけているだけだって。
誰にも見せた事のない感情の爆発。それをこいつは黙って受け止めた。
今まで誰がこうして私と向かい合ってくれただろうか。
嬉しさと悔しさが同時に湧き上がる、とても不思議な気分だった。

熱くなりそうになった眦を必死に袖で擦る。
そこまで見せてやるほど気安い仲じゃない。
ああ……でも、悪くはないか。
世界に一人か二人ぐらいはこんな気持ちにさせる奴がいてもいい。

「さて」

ふう、と深呼吸して彼女は初めて少年と正対する。
自信と誇りを取り戻したイザベラの眼差しがエンポリオに向けられる。
そして躊躇う事なく彼女は頬を差し出して告げた。

「命令だ。あたしを殴れ。手加減するな、思いっきりだ」

唖然とするエンポリオに更に遠慮は無用と付け足す。
戸惑いながらも少年は拳を硬く握り締める。
これは彼女なりのケジメだ。済まさない限り、わだかまりは消えない。
ごめんなさいと謝ればいいのに不器用な彼女にそれは出来ない。
だから、せめて納得のいく一発を叩き込もうと思った。
――それに殴られっぱなしで平気なほど大人でもないのだ。

刹那。乾いた音が室内に木霊する。
腰の入ったエンポリオの右ストレートがイザベラの頬を打ち抜く。
小柄とはいえ歳の割に体格のいい少年の一撃に思わず膝を付く。
あまりのナイスパンチに思わずエンポリオも驚いて駆け寄る。

「ご……ごめん。お姉ちゃん、大丈夫?」

しかし、イザベラは何事もなかったかのように起き上がり服に付いた埃を払った。
そして心配そうに見上げるエンポリオに微笑み返す。
直後、彼女の足が少年の金的を力強く蹴り上げた。
何故こんな仕打ちを受けたのか理解できずに悶絶するエンポリオ。
その彼の傍らを通り過ぎて倒れていた椅子を起こして座る。

「殴れとは言ったけど反撃しないとは言ってないだろ?」

さも当然とばかりに言い放ってイザベラは鼻で笑った。
傲慢だと言われようがそれがあたしだ。
文句があるならかかって来い。エルフだろうがアルビオン王国だろうが相手になってやる。
ドタバタしてた所為で混乱してたがようやく調子が戻ってきた。
捻くれて性悪でなおかつ外道。私はそういう人間だ。
だから容易いはずだ。連中を出し抜いて一泡吹かせるぐらい。
考えろ私。どうやったら連中を苦しめられるか。
奴等の絶望するツラを想像して今の苦境を笑い飛ばせ。

連中の目的を阻止する……これは達成済みだ。
あいつらが言ってたのが確かならとっくに計画は露見していた。
ここにシャルロットはいない。だから目的は遂げられない。

アルビオンが裏で関与している事実を暴露する……これも達成している。
この炭焼き小屋に隠れていれば連中に発見される恐れはない。
あいつらが立ち去った後で私が証言すればいい。
それでも物的証拠が無いのが気に食わない。
証言者が私だけってのもマイナスだ。
最悪、白を切り通す可能性だってある。

奴等を一匹残らず殲滅する……これは無理だ。
心の底からブチ殺したいけれどあたし達には不可能。
出来ないと分かっている事に挑むのは馬鹿だけでいい。
この部屋から出た直後、ゲームオーバーになるのが目に見えている。

最善は、連中を逃がさない事だ。
時間を稼げば混乱も収まり、すぐさま包囲網が敷かれるだろう。
いくら連中が腕が立とうが各国の精鋭を相手に抵抗する余地などない。
黒幕を吐かした上で、生まれた事さえ後悔するような目に合わせてやるとしよう。
とはいえ今の私たちでは圧倒的に戦力が不足している。

「なあ、どうやって私を見つけたんだ?」
「お……大きな、モグラ……使い魔の、それで、お姉ちゃんの、指輪の臭いを……」

未だにのた打ち回る少年へと質問を投げかける。
脂汗を流しながらもエンポリオは何とか単語を紡ぎ出す。
その断片を繋ぎ合わせてイザベラは状況を推察する。
恐らくモグラというのはギーシュの使い魔のジャイアント・モールだろう。
確か、その特性は鉱石の採掘だったと記憶している。
それならあたしの指輪についた宝石を探知できても不思議ではない。

「でも……この近くまで来るのが精一杯で……」
「だろうね。下手に近付けば感知されるのがオチさ」

エンポリオのスタンドが無ければ近寄る事さえ出来なかっただろう。
助けを呼ぼうにも魔法を使えば居場所を教えるような物だ。
無論、外に出るなんて論外。
後はジャイアント・モールを介してギーシュが救援を呼んでくれるのを待つか。
だけどギーシュは既に殺されている公算が高い。
あの騎士を私の所まで案内したのはアイツなんだから。
仮に生かされていたとしても使い魔と交信をするかどうかは分からない。
限りなく望みは薄いと考えるべきだろう。

「他に何か、外部との連絡手段は」
「あるよ。サイトお兄ちゃん限定だけど」

呟くイザベラの問いにエンポリオは答えた。
響くように痛む腹を抑えてゆっくり起き上がる。
だが、それを待っていられるほど悠長なイザベラではない。
がしりとエンポリオの両肩を掴むと前後に大きく揺さぶる。

「あるならさっさと出せ! 今すぐ! ただちに!」
「ちょっ……もうすぐ返事が来ると思うから……」

がくがくと頭をシェイクされながらエンポリオは床に目を向けた。
それに気付いたイザベラの視線がその方向へと向けられる。
そこにはテーブルと一緒に叩きつけられた画板のような物があった。
直後、その物体から軽快な音が鳴り響いた。
咄嗟にエンポリオから手を放し、その機械を拾い上げる。
二つに折り畳まれた機械を開いた彼女の目に飛び込むのは鮮明な映像。
手を放されて転倒したエンポリオの視線の先には液晶と睨めっこするイザベラ。

「で、どうやって使うんだ?」

ようやく諦めたイザベラがノートパソコンをエンポリオに叩き返す。
拳銃のような単純な機構ならまだしもさすがに電子機器は扱えない。
悔しげに押しつける彼女の前でカタカタとキーボードを叩く。
それが自慢げに見えたのか、イザベラが脛を蹴飛ばすのにも耐えてメールを開く。
朝、洗濯していた時にエンポリオはサイトの物に細工をしていたのだ。
電源代わりになる『電気の幽霊』を分け与え、
サイトのメールアドレスと着信音設定を確認した。
彼が鞄を持っていればきっと気付くはずだ。
襲撃を予期した訳ではない。あればいざという時に便利だと思っただけだ。
スタンド使い達との戦いで培われた警戒心、それがここに来て生きた。
エンポリオが本文に目を通す。そこにはただ一言。

エンポリオの誤算。
それは互いの意思疎通を可能にする魔法の力を過信した事。
あくまで翻訳可能なのは言葉だけで文字までは解読できないのだ。
ましてやハルケギニアの文字ならともかく英語までは行き届かない。
更に付け足すなら平賀才人の成績は中の下、特に英語は目も当てられない。
辛うじて限りある語彙の中から彼が搾り出したと思われる文章。

『Can you speak Japanese ?』

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