ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

S.H.I.Tな使い魔-21

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匿名ユーザー

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「今日は虚無の曜日だから、学校は休み。町に買い物に行くわよ。」
 翌朝。康一に起こされたルイズは着替えを済ませるとこういった。
 昨日のことを怒ったままでいいのか、許せばいいのかわからないといった顔をしている。
「へぇ!買い物かぁ!」
 康一はルイズの複雑な心境には気づかずに目を輝かせた。
 この魔法の世界ってやつで、どんなものが売られてるのか興味がある。
「でも、ぼく、ここのお金持ってないよ?」
 康一は、ズボンのポケットに入れっぱなしだった財布から紙幣や硬貨を取り出した。
 ルイズは目を丸くした。
「これ、あんたの国のお金なわけ?」
「うん、まぁね。こっちがぼくの国の通貨の『円』で、こっちがぼくが君に召喚された時に居た国の『イタリアリラ』だよ。」
 康一は右手と左手に一万円札や百円玉などといった『円』、そしてイタリアリラをそれぞれ分けて見せた。
 ルイズは100円玉をつまんでみた。
「・・・なんだか材質が安そうね。鉄かしら。」
「うーん、材質はよくわかんないけど・・・」
 鉄・・・だっけ?康一は頭をひねった。
「お金の材質もわかんないのに、よくそれで通貨として使えるわねー。」
「えーっと、よくわからないけど、そういうものなんだよ。」
「まぁ、細工は結構綺麗な気がするわ。でも、ここでは鉄くずね。」
 むこうでは結構大金なんだけど・・・。康一は肩を落とした。
 予想はしていたことだが、自分はここでは無一文なのだ。
「お金の心配はしなくていいわよ。」
 康一が見ると、ルイズは当然でしょ、といった顔をする。
「あんたはわたしの使い魔なんだからね!主人がお金の面倒をみるのはあたりまえでしょ!」
「そっか!そういえば、ぼくってルイズの使い魔だったよね。助かるなぁー!」
 ルイズは思わず頬を緩めかけたが、あわてて表情を取り繕った。
「それじゃ、朝ごはんを食べたら早速出発よ。」
「うん、わかったよ。ところで、町までってどれくらいかかるの?」
「馬で3時間ってところかしらね。」
 康一はピタリ動きをとめた。
「心配しなくても学院にあんたの分も借りられるはずだから。」
 康一にそういうと、ルイズは先に歩き出す。

「うま?」
 康一は冷や汗を流した。



「まさかあんたを馬に乗せるだけでこんなに手間取るなんてね・・・」
 ルイズは心の底からあきれた様子で言った。
「そんなこと言ったって、馬になんか触ったのも初めてなんだから!」
 康一は馬上で四苦八苦している。
 厩で手綱を渡されても乗り方すらわからず、見よう見まねで乗ってみると後ろ向きにまたがってしまい、それまま馬が歩き出したので落馬してしまったりした。
 しかもその後、手伝ってもらってなんとか乗れたものの、男性用の鐙に康一の足が届かないハプニングまで起こってしまい、それを取り替えるのにまた時間がかかったのだ。
 しかしルイズは、なんだかんだと文句を言いながら、コーイチに馬の扱いを教えてあげるのが意外と楽しそうな様子である。


 一方そのころ、キュルケは自分の部屋の窓際でぼんやりと外を見つめていた。
 思うのは、ルイズの不思議な使い魔。コーイチのことである。
 キュルケはもともと、たくましくて頼りになる男のほうが好みである。
 コーイチのような自分より小さな男に恋したのはいままで初めてだった。
 小さくて純朴そうなコーイチを見ていると、守ってあげたくなるのだ。
 でも同時に、いざというときの勇気や頼もしさはそこらに転がっている男連中なんか比べ物にならない。
 可愛さと頼もしさの両方を併せ持つコーイチを思うだけで、キュルケの胸の内は、ちりちりと微熱に焼かれるのだった。
 「それに、あのミステリアスなところも・・・。興味が尽きないわ・・・」
 キュルケは物憂げにため息をついた。
 そのとき、眼下の門を誰かが出て行くのが見えた。
 馬に乗っているのが二人。あの桃色はルイズだわ。そして少し後をついていくのは・・・
 「ダーリンだわ!」
 キュルケは立ち上がった。
 二人は町の方角へと馬を走らせていく。
 「ルイズ。色気じゃあたしに勝てないからって、もので釣るつもりね!」
 キュルケは歯噛みした。
 ツェルプストー一族には、恋敵が居たほうがさらに燃え上がる。代々そういう血が流れているのだ。
 今すぐ追いかけたい!しかし、今から馬を手配して追いかけても、到底追いつくことはできないだろう。
 「じゃあ、方法はひとつしかないわね!」
 キュルケは杖とマントをつかむと、部屋を飛び出した。



 馬というのは歩く生き物であるからして、座っていると一歩一歩上下するものである。
 康一は、鞍にしこたま尻を突き上げられ、悲鳴をあげながら馬の扱いに苦心していた。
「西部劇とかだと颯爽と乗ってたりするけど、これあんまりいいものじゃないなぁ。お尻が痛いし。」
「慣れればなんともなくなるわよ。それに馬にも乗れなかったら馬鹿にされるわよ。」
「馬鹿にされてもいいから早く休みたいよぉ。後どのくらい?」
「まだ半分も来てないわよ。」
 康一は絶望的な顔になった。
 その上にふっと大きな影が落ちた。
「あれ。なんだろう。」
 康一は不思議に思って空を見上げた。
 すると、羽ばたきの音とともに、空を飛ぶ大きな竜が自分めがけて降下してくるのが見えた。
 康一は驚いたが、もっと驚いたのは康一が乗っていた馬である。
 恐怖でパニックを起こし、街道を全速力で走り始めたのだ。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
 康一は振り落とされないようしがみつくばかりである。
「コーイチ!」
 ルイズは立ち上がる馬を制するのに手一杯で助けに行くことができない。
 竜は爆走する馬に滑空して追いついた。背後に存在は感じるものの、康一は振り向くこともできない。
「(し、死ぬぅー!)」
 竜に食べられるか、馬から落ちるか!
 しかしそんな康一の背後に、ふわりと何かが降りてきた。
 康一の手から手綱を取ると、強く引いて落ち着かせる。
「どう!どう!」
 康一はその声に聞き覚えがあった。
「きゅ、キュルケさん!?」
 キュルケは馬を落ち着かせると、花のような笑顔で微笑んだ。
「驚かせてしまったみたいね。ごめんなさい。」
 康一を背後から抱きしめるような格好である。
「ど、どうしてここに!?」
「コーイチが町に行くのが見えたから、友達の竜に乗せて貰って追いかけてきたの。迷惑だったかしら?」
「迷惑だなんて・・・びっくりはしましたけど。」
 どうやら竜の上から助けに降りてきてくれたらしい。康一は胸をなでおろした。
 そんな二人の横に、先ほどの竜がゆっくりと降りてくる。
 竜の背には眼鏡をかけた小さな女の子が乗っているようだ。
 ようやくルイズも自分の馬を落ち着かせることができたようで、ものすごい勢いで馬を走らせてきた。
「キュルケ!こんなところで何してるのよ!!」
「あーらルイズ。あたしがどこでなにをしようと、あなたに関係あるのかしら。」
 キュルケは右手で手綱を持ち、左手で康一を抱きしめている。
「関係あるわ!わたしの使い魔から離れて!」
「あら。あたしはダーリンを助けてあげたのよ?」
 頬を康一の頭にすり寄せる。胸が背中に当たるので、康一は赤くなった。
「あ、当たってるんですけど・・・」
「当ててるのよ。」
 キュルケはルイズのほうを向いてにやりと笑った。
 ルイズの額には青筋が浮いている。ピキピキという音が聞こえてきそうだ。
「キュルケ。その馬はわたしが手配したの。だからあんたは乗っちゃ駄目。ていうか、誰がダーリンよ誰が!」
「しょうがないわねぇ。」
 口では言うものの降りる気は毛頭ないキュルケである。
「それじゃ、ダーリン?こんな慣れない馬にのって疲れたでしょ。あの風竜に乗っていかない?」
 いいでしょ?タバサ。と竜に乗っている少女に尋ねた。
 少女はそ知らぬ風に本を読んでいるが、キュルケはそこに同意を見たらしい。
「かまわない、ですって。」
「ええっ、ほんとう!?」
 馬には辟易していたところだ。しかも、初めて近くで見る竜である(遠くで飛んでいるのは何度か見た)、乗せて貰えるなら乗ってみたい。
「だっ!ダメよ!ダメ!ご主人様をおいていくなんて使い魔失格なんだから!」
 ルイズが叫ぶ。ツェルプストーに康一をとられてはたまらない。
「じゃあいいじゃない。ダーリンも馬に慣れるまでは一緒に乗ってくれる人が必要だわ。」
 先にいって待ってて、と風竜を先に行かせると、キュルケは馬を御して歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
 ルイズがあわてて追いかける。

『じゃああたしの後ろに乗ればいいじゃない。』
 とはまだ言えないルイズだった。

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