ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔 第八章-02

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「大丈夫? タバサ」ルイズが改めてタバサに問いかけた。タバサの周りには、かつてイザベラであった塵が舞っている。
 いまさっきまで敵対していたとはいえ、実の従兄弟が死んだのだ。普通の精神ならば、いくらか精神に変調をきたしてもおかしくないはずだった。
 だが、タバサは、
「大事無い。それよりもあなたたちの傷の治療をしなければ」
 そういいきり、淡々と杖を振った。が、ルイズにかけられた治療の速度がいつもと段違いに遅い。それは、
「タバサ。それはイザベラの杖よ」
 タバサが振った杖はイザベラの杖であった。あわてた風に取り替えるタバサ。
 ようやくルイズの治癒が終わるころ、気絶したはずのキュルケから苦痛の吐息が発せられた。どうやら彼女の意識が回復したようであった。
「大丈夫、キュルケ?」
 立てる? と問いかけたルイズだったが、キュルケは目を開き、気丈に微笑んで見せる。
「ええ、少々体力が不安だけれどね。ルイズ、立つのに腕を貸して頂戴」
「ええ、いいわ」
 近づくルイズに右手を差し伸べたキュルケは、
「こういうことならもっと体力をつけておけば――」不自然に口調をとぎらせた。
「キュルケ?」
「危ないッ!」キュルケは持てる限りの力で、ルイズとタバサの二人を押し倒した。
 ルイズにおおいかぶさるキュルケ。
「いたた、どうしたのよ――ってキュルケ!」
 キュルケの背中には、いつの間にか何十本もの大小の純銀のナイフが突き刺さっていた。彼女の意識はすでにない。
「タバサ! 急いで治療を!」ルイズが叫んだ。
「わかった!」
 頷いたタバサは足をもつらせながらキュルケのほうへと走りよる。
 しかし、
「そのような好機など。与えんよ」
 タバサはいつの間にかジョゼフに肩をつかまれていた。
「そんな!」
「いつの間に?」気配はまったくなかった。
 このままではキュルケの治療ができない。タバサは力の限りもがく。と同時に、振り返りざまに氷の塊をジョゼフめがけて打ちはなつ。
「?」
 だが、ジョゼフはその場から消えうせたかのようにいなくなっていた。ジョゼフの姿を捜し求めるタバサ。


 と、そこに、 ルイズの絶叫が響き渡った。
「あなた、何をするつもり?!」
 タバサがその方向に目をやると、微動だにしないキュルケを抱きかかえるルイズと、薄ら笑いを浮かべて突っ立っているジョゼフがいた。
「このナイフは私が投げたものだ。だから、しっかりと回収しなくては」
 彼は一本一本、勢いよく、キュルケに刺さっているナイフを引き抜き始めた。
 ズチュッ。ズルチュチュッ!
 その度ごとに、キュルケの傷口からどす黒い血液が噴水のように放出されてゆく。
「やめてぇ!」
 ルイズは絶叫とともに、彼女を庇いたてるように、いやいやとキュルケを抱える腕を振り回した。そのたびごとにキュルケの赤い血液がルイズの顔に降り注ぐ。一方のジョゼフはそれを愉快そうににやけてみるだけである。
 キュルケたちを傷付けずに、ジョゼフのみを攻撃する方法は――
 タバサは一瞬の判断のうちに『ブレイド』の魔法を唱え、自分の長い杖に魔法力をまとわりつかせる。
 あまりに危険。だが、ジョゼフの意識がルイズに向かっている今が唯一のチャンスでもある。タバサは無言で杖を逆手に持ち、ジョゼフの脇腹めがけて、体当たりをした。
 だが、またもやジョゼフはタバサの視界から消えうせた。


「消えた?」
「……でも、この消失は僥倖とすべき。ルイズ、お願い」
 ルイズはキュルケを床に寝せ、周囲を警戒する。
 タバサは急いでキュルケに治癒魔法をかけ始めた。幾重にも噴出していた血が徐々におさまっていく。
 しかし、キュルケが今までに流出させた血液の量も尋常ではない。普段は日焼けで浅黒いキュルケの顔色が、すでに青白く変色している。
「キュルケは後どのくらいで回復する?」
「もうすぐ」
 そう応えながらも、タバサはあせっていた。回復してゆく時間が惜しい。いつになく回復が遅い気がする。自分の魔法力では、こんな速度でしか治癒できなかったか?
 なかなか治らない。今やっと傷口が閉じられた。後は体力の回復をしなければ。
 ミシッ。
「今の、何の音?」
「わからない」
 ルイズの問いかけに、タバサも周囲を見渡すが、あたりは薄暗く、あまり視界は良くない。タバサが作り出した氷のレンズも、いつの間にか消えうせてしまっていた。
 と、天井を見上げたルイズが叫ぶ。
「崩れるッ!」
 高さが三メイルほどの、廊下の石造りの天井に、大きな亀裂ができていた。
 ルイズたちはその真下にいる。
 その瞬間、奇妙な爆発音とともに、天井が巨大な無数の破片となって三人に降り注いだ。
 タバサは真上に向け、自分達を包み込むように風の障壁を作り出す。出力は全開。今のタバサのもてる限りの力だ。
 だが、巨大な瓦礫の勢いは埋め尽くすかのように雨あられと降り注ぐ。タバサは自分の杖と腕に、支えきれないほどの重力の力を支える結果となった。
「私に任せて!」
 ルイズはそういいながら、杖を真上に向ける。
 彼女はできる限りの早口で、虚無の魔法を唱えだした。
 爆発。
 ルイズのエクスプロージョンの魔法である。タバサは自分の杖に科せられていた圧力が急速に減衰していくのを感じていた。
 ルイズの魔法により、瓦礫は粉塵となって周囲に吹き飛んだ。ただでさえ良くない視界がなおも悪くなる。
「ケホッ。ゲホッ!」
 ルイズがむせる。大丈夫、無事な証拠だ。それよりも。
 キュルケは大丈夫だろうか?
 タバサは床にかがみこみ、寝たままのキュルケを眺めた。
 どうやら今の崩落では、キュルケは怪我を負ってはいないらしい。
 だが、傷が癒えたのに未だ意識が回復しないのが気にかかる……
 タバサが思ったとき、何かが土煙の向こう側で光った気がした。
「何――?」
 そうつぶやいたのと、理解したのはほぼ同時であった。

 ナイフだッ! それもたくさんの!
 空間を埋め尽くさんと空中に並べられたナイフは、ほぼ同時刻に投げられたように、三人を包み込むように配置されている。
 まずい! あの量は! 私の風魔法では防ぎ切れない!
 フライでよける?
 いや、キュルケを見捨てるわけには行かない!
 タバサはルイズとキュルケを押し倒すようにして、ナイフに背を向けた。
 ドスッ! ドスッ!!!
 とっさに風の障壁を展開したもの、いくらかが確実にタバサの背に突き刺さる。
「ッ!!!」
 電撃を受けたような痛みがタバサを襲う。意識が飛びそうになるのを、かろうじて押さえつける。
「タバサ、しっかり!」
 ルイズが近づいてくるが、はいつくばった格好のタバサには、それに応える心理的肉体的余裕がない。
 パン、パン、パン……
 緊迫した空気の中、乾いた拍手の音が聞こえる。闇の中から聞こえ出すその音。
 タバサとルイズは同時にその方角に振り向いた。
「さすがだ。この危機的状況においても仲間を見捨てないとは。さすはシャルル兄さんの子だ。この俺の相手をするにはそのくらい正義感ぶっていなければな」
「ジョゼフ王……」
「しかし、少しやりすぎたかも知れんな。これでは私が楽しむ前に殺してしまうかもしれん」
 ほくそ笑むジョゼフ。

 タバサは杖をジョゼフに向けた。ついにこの時がきたのだ。決着をつけるときが。
「王よ、あなたに決闘を申し込む」
「まって! この場はいったん退くわよ!」
 ルイズがとんでもないことを言い出した。いったい何故?
「ここは明らかに私達に不利よ。私達の周りにだけ瓦礫が散乱しているし、なによりも私達はあのナイフ攻撃の正体をつかんでいない。ここで戦っても敗北するだけだわ!」
 なるほど、確かに言われてみればそのとおりかもしれない。しかし、
「キュルケ、目を覚まして。いったん退く」
 肝心のキュルケが目を覚まさない。
「早く、タバサ! キュルケはもう……」

「茶番劇をしている場合か、御二方?」
 ジョゼフのせりふが二人を貫き通す。
 その言葉と同時に、ジョゼフは懐から銃を取り出した。
「あなた、メイジの癖にそんなものを!」
「そうだ、俺は無能王。この俺にまともな四大系統魔法は何一つ使えやしない。だから、こういうものまで準備したのだ。なに、こうまで近いと素人でも外しやしまい」
 ジョゼフは一歩一歩、死刑宣告のように不気味に二人に近づいてくる。
「立ってタバサ! 距離をとって!」
 ルイズがタバサを無理やりに立たせる。
 タバサはレビテーションの魔法で、倒れたキュルケを引っ張りあげる。
 そうしておいてルイズとともに走り出したが、浮かんだキュルケがどうしても遅れていく。
「そう簡単にうまくいくかな?」
 ジョゼフは弾丸を発射した。
 それは高速でタバサの方角へととび込んできた。
 この距離。大丈夫だ。
 仰向けにのけぞった瞬間、額を高速の弾丸が掠め飛ぶ。
 かわせた!
 そう思った瞬間、弾丸は鋭い弧を描いて引き返してきたのだった。
 とっさに風の魔法で防ぐタバサ。そうしなければ反転してきた弾丸に命中していたであろう。
 結果としてキュルケを床に叩き付けてしまった。
 しかしそのことを後悔する暇などない。
「タバサ! この部屋に!」
 タバサはルイズとともに、最寄のドアを開け、広めの部屋に入り込んだ。
 全力で通過してきた扉を閉め、手近にある家具でつっかえを施す。

「この扉の障害がいつまで持つかわからないけど、一旦はジョゼフと距離をおくことができるわ」
「でもキュルケがを置いてきてしまった」
「タバサ、いいにくいけど、キュルケはもう……」
「気にしないで、ルイズ。私はもう気持ちを切り替えている。ただ、あの王の元にキュルケを置いてきてしまった自分が許せないだけ」
 タバサはそうルイズに答えた。だが、それは半分正解であり、半分欺瞞でもあった。
 キュルケ。ごめんなさい。私と関わり合いにならなければ、こんなところで死ななかったはずなのに……
「タバサ。ごめんなさい。でも、今はキュルケのことを考えて落ち込んだり後悔している暇はないはずよ」
 ルイズの言葉は痛かった。痛かったが、まごうことなき正論であった。
「うん。わかっている。今はジョゼフを打倒することを考えるべき」
 タバサの見るところ、ジョゼフが今まで行ってきた数々の挙動。それは明らかに四大系統魔法の範疇を超えた領分のものであった。
 で、あるならば。
「スタンドか、虚無の魔法。おそらく両方」とタバサは断定した。
「それって、ジョゼフが私と同じ虚無の使い手かもって事?」
「うん。ジョゼフの突然の出現。ナイフ攻撃。天井の崩落。銃弾の操作。スタンドでは能力が多彩すぎるし、虚無の魔法もしかり」
「そうね。あの天井の崩落。アレは『エクスプロージョン』の魔法だということが考えられるかも」ルイズは考え込むようにして座り込んだ。
「突然の出現とナイフ攻撃は、おそらく同質の能力」タバサは言った。虚無の魔法で、ルイズに思い当たる魔法はないだろうか?
「う~ん。ちょっとわからないわね。出現のほうは、アイツが出てくるまで誰も気づかなかったわけだし」ナイフも、突き刺さる直前までそこに無いかのようだった。
 と、そこまで考えたところで、タバサは辺りのあまりの静寂さに気がついた。

 ジョゼフが扉の向こうで何かしているとしたら、あまりに静か過ぎる。
と、そのとき。ルイズが急に口元を押さえ、立ち上がった。何か喉を押さえるような動作をしている。
「うごぉぉぉおお……」ルイズが声にならない声を発したと同時に、真っ赤な吐瀉物を大量にぶちまけた。
 よく見ると、中にはなぜか大量の釘が入っている!
 ルイズは口を大きくパクパクと開け、何とか息をしようとしていた。ヒューヒューという呼吸音が漏れる。おそらくあの喉や口の傷では呪文は唱えられないだろう!
 ルイズは大丈夫? それよりも、彼女はどんな攻撃を受けたの?
 そうおもったタバサの耳元に、ジョゼフの吐息が発せられた。
「決闘というからにはフェアにいこうじゃぁないか。一対一だ。シャルルの娘よ」

 はっとして振り返った先には、すでにジョゼフの姿は無く。
「お前らの察しのとおり、これは、俺が唱えた虚無の魔法の結果だ」
 ジョゼフはルイズの足元に立っていた。次の瞬間、
「『加速』の魔法という。そこなルイズとやらはそこまで到達していないらしいな」
 ジョゼフはタバサをはさんで反対側の位置に移動していた。
「ちなみに、銃弾を操作したのは別なスタンドだ」
 タバサには、王がどう見ても瞬間移動した様にしか見えない。しかし、「加速」という名前からして、実際に移動はしているらしい、とタバサはあたりをつけた。
「そして、そこに無様に転がっている女を攻撃したものが、今装備しているスタンド能力『メタリカ』の力だ」
 スタンド能力も、おそらくジョゼフはルイズに触れていないであろう。ならば、今のスタンドも範囲攻撃型の可能性が非常に高い。ならば!
「さて、ここまで死刑宣告にまで等しい俺の能力の告白を聞いてもなお、決闘をする勇気はあるか? いや、この場合は蛮勇か」
 ジョゼフはそう言い放った。だが、おそらくジョゼフはタバサが決闘を嫌がったところで、彼女と無理にでも殺し合いを始めるであろう。
タバサは一呼吸おいて、
「決闘に応じる」と応えた。
「ほう」ジョゼフは薄暗く目を輝かせる。
「それはうれしいが、何か策でもあるのか? お前の能力、トライアングルの魔法程度では、今の俺を殺しきることなど不可能に近い」
「策は無いといえば、無い。が、あるといえば、ある」
 タバサは自分の杖と、ついでに持っていたイザベラの杖をジョゼフに向け、
「あなたに氷の魔法を放っても、加速の魔法でよけられる。なら、移動範囲すべてを、同時に攻撃してしまえばいい」全魔法力を込め、呪文を唱え始めた。

 呪文を唱え続けているタバサの意識の中に、どこからともなく別の意識が流れ込んでくる。すでに、彼女はその意識の持ち主を直感的に理解していた。
 その意識はタバサだけに優しく語り掛ける。
――わかるね、ガーゴイル。いや、エレーヌ。アタシは一度しか手助けできないよ。
「うん。わかってる」
 タバサはうなずき、杖を振った。
 唱えたものは、本来一人ではできないはずのスペル。
 強力な王家が二人以上そろって初めて発動できるはずのヘクサゴンスペルだった。
 水の四乗に風の二乗。
 この場に、すべてを凍らす絶対零度の奔流が出現する。
 その名も、
『ウインディ・アイシクル・ジェントリー・ウィープス(雪風は静かに泣く)』
 タバサの周囲の空気が壁となって凍る。さながら卵の殻のように。

「これは、やりおる」
 そういうジョゼフの唇が、全身が、見る見る凍傷で黒く、青ざめていった。
「これは、私だけの魔法じゃない……イザベラの分も、キュルケの分もあるッ……」
「確かに一人でできる類の魔法ではない。だからなんだというのだ?」

「もはや、あなたには杖を振り下ろせるだけの腕力はないと見たッ……もう、あなたは魔法を使えないッ!」
「そのとおりだ。何もかにも凍り付いてしまった。だが、その魔法には欠点がある」
 ジョゼフは勝ち誇った風にいい放った。

「お前の魔法が放つ絶対零度の寒波は、お前ら自身の杖から発せられている! その分だけ、私よりもお前の凍傷がひどくなるッ! 凍傷で先に死ぬのはお前だッ!」
「くっ……」
「お前が寒さで死ねば、この魔法は解除される。俺はそのときまで待って、体力を温存しておけば良いのだぁ!!!」
「少しでも、あなたに近づいて……」
「おおっと危ない」ジョゼフは楽しそうに後ずさった。
「まあ、近づかれても、射程距離内に入れば、今の俺のスタンド『メタリカ』で反撃する手もあるがな。ここは一つ慎重に行こう。手負いの獣には近づかないに限る」
「ここまできて……」
 タバサはついに片膝を突いた。もはや彼女自身に体力が残されていない。
 こんなに近くにあのジョゼフがいるのに! ここまで追い詰めているのに!
「ふん、ひやひやさせられたが、最終的には俺の勝利だったな」
 そのとき、急にタバサの周囲に炎のカーテンが出現した。
「違うわ」
 その声にはっとして振り返ったタバサは、笑いとも泣き顔ともつかぬ顔をし、
「あなたはッ……」
「いい? こういう場合、敵を討つ場合というのは。いまからいうようなセリフを言うのよ」
「貴様は?!」
「我が名はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。わが友イザベラの無念のために、ここにいるタバサの父親の魂の安らぎのために、微力ながらこの決闘に助太刀いたしますわ」
 キュルケが一歩一歩近づきながら、ファイアー・ボールの魔法をタバサの周囲に当てる。

「貴様らなんぞに負ける要素はなかったはず……」
「いい、私たちはチームで戦うのよ。その意味が、ジョゼフ王、あなたにわかって?」
「そ、のようだな」そういっている間に、ジョゼフの体温はどんどん低下していく。

「これで、チェック・メイトよ、王様」
「……そうか、まあ、いい。だが、何の感情も感じることはできなかった……残念だ……」
 その言葉とともに、ジョゼフは氷柱の住人となった。

「あの爆発音はッ!」
「ああ、間違いない、ルイズたちが戦っている音だ!」
 ブチャラティたちは急いでいた。彼らが捜索していた東の館に目標は無く、反対側の西のほうから何かの崩壊音が聞こえたからだ。霧が消えた今、ルイズたちに何かの異変が起こっていることは確実と見られた。
二人は二階に設けられた、半ば外に開け放たれたつくりの廊下を中央方面に向かって走る。だが、彼らの行く手をさえぎるように、前方に堂々と身をさらしている男がいた。
「お前は、ボスの精神の片割れ……」
「ドッピオ……」
 桃色の髪の毛の男は、確かにドッピオであった。
 ドッピオは右手を上げ、二人を制止する。
「おや、王様を殺したのはあなた達ではなかったのですか。ルイズさん達は大金星といえるでしょうね」
「何を言っている?」ブチャラティの問いかけに、ドッピオは己の額を指差した。
「ほらここ、何の痕も無いでしょう? ここには、かつて王様との契約の印が刻まれていたのですよ。だが、今となっては跡形も無い」
 ドッピオはそういうと、彼が着ていた上着を脱ぎ始めた。
「だから、もはやジョゼフの契約の呪縛はもう、無い」
 上着を脱ぎ捨てたとき、ドッピオはすでに無く、代わりにあの男、ディアボロが佇んでいたのだった。
 構える二人。
「とはいえ、お前達には感謝しなくてはいけないな」
「何だと?」
「お前たちが、この世界での私の呪縛を解除したのだ。あの忌々しいジョゼフにかけられた精神を蝕む契約を。だから今までこのディアボロは表に出てこれなかったのだ。この俺、ディアボロを解放したのはお前達だッ!」
ディアボロは持っていた上着を投げ捨て、二人に向かって歩み始めた。
「ブチャラティ……俺はお前を再度殺すことで……未熟だった自分を……ローマであの新入りに殺された自分自身を乗り越えるッ!」
「……ボス……俺たちギャングは殺すなんて言葉はつかわない。すでに殺してしまっているからな……」ブチャラティが冷静に答える。彼の口調は深海の海水のように冷え切っていた。

「ブチャラティ。お前には……あのクソ忌々しい大迷宮を乗り越えて取り戻した……俺の本来の能力で『始末』する……」
「くるぞッ! 気をつけろ露伴!」
 そういったブチャラティだが、その実、対策などは何も発案できていない。
「お前らにはっ! 死んだ瞬間を気付く暇も与えんッ!」
『キング・クリムゾン』!!
「我以外のすべての時間は消し飛ぶッ――!」
 その瞬間、世界が暗転していった――。
 ディアボロ、ブチャラティ、露伴――以外のものがすべて暗黒に覆われていく――キング・クリムゾンが時間を飛ばしている時、はっきりとした意識を持って行動できるものはただ一人、ディアボロのみなのだ――その彼は血をはくように叫ぶ。「あの『新入りの能力』がないお前らに、このディアボロが、負けるはずはないッ!」――過去にただ一体、この能力を打ち破った例外がいたが、そのスタンドは、今この場所には存在しない!――「『見える』ぞッ!ブチャラティ!お前のスタンドの動きがッ!!」――ディアボロは自分がこの時空のすべてを支配していることを自覚しつつ、ディアボロはブチャラティ達に近づく――「なにをしようとしているのかッ!完全に『予測』できるぞッ!」――何も自覚することもなく、惰性のまま攻撃してくるステッキィ・フィンガーズの拳を『エピタフ』で回避し、自らの玉座に向かう皇帝のように、ゆっくりとブチャラティに向く――「このまま…時を吹っ飛ばしたまま『両者』とも殺す! 殺しつくす! ブチャラティ! それにロハンッ!」――ディアボロは勝利を確信しながらも慎重に、かつての裏切り者に向かって、キングクリムゾンの拳を振り上げた――「今度こそ、確実に止めを刺す!」――しかし次の瞬間、暗黒に覆われていたすべてのものが元に戻っていく……
 ディアボロにとって、信じがたい現象であった。
「な、なぜだッ?! 俺の『キング・クリムゾン』が、世界の頂点であるはずの我が能力がッ!」
「『解除』されていくだとッ!?」自意識を取り戻したブチャラティにとっても意外であった。
 先ほどまで暗黒に包まれていた地面が、建物が元の場所に立ち上がっていった。
 暗闇に消え去ったはずの鳥が、再び空を飛翔している。
 その空間の中で、露伴が口を開く。
「ブチャラティから聞いていた……お前は自分以外の時間を吹っ飛ばす事ができるそうじゃないか……」
「本当に恐ろしい能力だ。なんてったって、『過程』をすっ飛ばして『結果』のみ残すことができるんだからな……」
「しかし、だ。お前『だけ』が時を吹っ飛ばせるんだ……その能力を完璧に使いこなすには、時を吹っ飛ばした後の未来を『見て』予知しているはずなんだ……時をスッ飛ばしている時に、敵のとる行動が分かっていないと意味ないからな……」
 ディアボロは混乱していた。この男はなにを言っているのだ?
「そう、お前は僕達の『未来の行動』を『見てる』はずなんだ……」
 このときすでに、露伴は自分の鞄に手を突っ込んでいた。
「僕が『お前に原稿を見せている未来』もね……」
 そして、露伴はディアボロの姿をしっかりと見つめ、
「途中の『過程』ををすっ飛ばして、お前が僕の『原稿を見た』という事実だけが残る……」
 鞄から自分の原稿を取り出した。
「『ヘブンズ・ドアー』 これで完全発動だ」
 ブチャラティはようやくすべてを理解した。
 彼はディアボロよりも早く我に返り、次のとるべき行動を行い始めた。
「露伴、ありがとう。本当に君と知り合えて……仲間になれて……本当によかった」
「なんだッ!?何も見えん!」
「これでチェックメイトだ。ボス!」
 ディアボロはこのとき、もう視力を失っていた。
 もっとも、それがよかったのかもしれない。
 なぜなら、絶望しなくて済むからだ。
 既に、彼自身の頭に『スタンド能力が使えない』と書かれていたからだ。
「ステッキィ・フィンガーズ」!
アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「アリーヴェ・デルチ(さよならだ)!!!」


  希望とは、もともとあるものだとも言えないし、ないものだとも言えない。
  それは地上の道のようなものである。地上にはもともと道はない。
  歩く人が多くなれば、それが道になるのだ。
      ~魯迅~

エピローグ

『使い魔は動かない』
 街が春の日差しを浴びている。
 ネアポリス。
 道路工事のため、ただでさえ渋滞で名高いネアポリスの道路に車があふれている。
 自動車のクラクションがせわしなくなり響く中、一台の車は郊外の高級住宅地へ向かっていた。
 後部座席に座っている20代後半に見える男は、窓から外の様子をじれたように眺めていた。
「まだつかないのか? 相変わらずこの街の道路行政は最悪じゃぁねーか!」
「いつものことでしょう? それにわれわれが言えた口ではありませんよ」
 運転手がため息をつきながら男の愚痴に応じる。
 この道路工事には、『彼ら』の息のかかった業者が入札に成功していた。
 その彼らが道路工事の遅延に不満を言うわけにはいかない。

 結局、その道路工事のため、予定より二時間も遅れて、目的地の洋館に到着した。
 車に乗っていたその男は、自分のボスの前で、日の光があたる場所を選んで椅子に座っていた。
 近くのテーブルには食事が用意され、小人が六人、昼食のピッツァをむさぼっている。
「すまんな、ボス。もうシエスタの時間か……この時間まで何も食わせられなかったから、こいつら今日は仕事しねーな」
「それはいいんです、ミスタ。それより、用件とは? 君の好きな漫画家に関することだとか」
 いらだった様子で、向こうの椅子に座った男が尋ねた。部屋の奥にいるため、そこには日光の明かりは届かない。
「そうだ、俺はその漫画家にファンレターを書いたんだ。で、なぜかそいつから俺宛に返事が届いたんだが……」
 そう言いながら、ミスタと呼ばれた男は立ち上がり、膝に抱えていた、大きな茶色の封筒を差し出した。中身はかなり分厚い。おそらく、大きめの紙が四百枚以上入っているだろう。
「この手紙は、ボス……いや、ジョルノ。あんたも目を通すべきだ」
 久しぶりに旧い呼び名で呼ばれた男は、その手紙の束を読み始めた。
 男の表情が見る見るうちに真剣な表情に変わっていった。
 その手紙は、このような出だしで始まっていた。
『はじめましてミスタ。君の事はブチャラティから聞いてよく知っている。今から書くことは君にとっては信じられないかもしれないが……』


 二週間前。
 岸辺露伴はこちら側、つまり地球に帰還していた。
「よし、『使い魔の契約』を解除したぞ」
 露伴は己のスタンドで、ルイズの魔法の契約を書き換えた。
 ルイズにとって、初の魔法の成果である、コントラクト・サーヴァントの効果を完全に否定したのだ。
「本当にいいのか? ルイズ?」
 ブチャラティの、もう何度目になるかもわからない問いかけに、ルイズははっきりと答えた。
「ええ、いいのよ。もう私とって、使い魔は必要なものじゃないわ」
 ルイズが露伴のスタンドの補助の元、サモン・サーヴァントの魔法を唱え始める。
 彼女の口からは不安なく、力強く呪文が紡ぎ出される。その口調にためらいは無い。
 長いが、落ち着いた口調で呪文を唱えた後、
「うまくいったわ」と、ルイズの目の前に等身大の光る鏡が現れた。
「この鏡は、私が新たに使い魔と契約しない限り、あなた達が通行しても閉まらないハズよ」
 露伴は彼女に、杜王町につながるように設定していたのだ。
 結論から言うと、タバサはあの世界では、母親を助けられなかった。
 だが、解毒剤を手に入れられなかった露伴は、ここにいたってある可能性に気がついた。
 自分の『天国の門』では、彼女の母の毒を取り除くことはできなかった。
 しかし、自分の故郷に、あの町に、食べた者の病気を何でも治してしまう料理人がいたじゃあないか?

 一週間後の杜王町。
 コンビニ「オーソン」の前からはいる、不思議な横道。
 ここは、かつて杉本鈴実と、愛犬の幽霊が住んでいた場所である。
 そこに、岸辺露伴と東方丈助がいた。ついでに、広瀬康一と虹村億康もついてきている。
 彼らを出迎えている露伴はすこぶる不機嫌だ。それもそのはず、彼の近くにいたのはこの三人だけではなかったからだ。
「いや~。露伴大先生にそんな趣味があったとは……全然気づかなかったッスよ~」
「ま、まあ、露伴先生にもいろいろと事情があったんだし……」
「か、かわいい……」
 発言した順に、丈助、康一、億康である。これだけでも露伴を胃痛に追い込めるのに、
「変わった格好……」
「こら、シャルロットや。私の恩人のご友人に向かってそのような事を言うものではありませんわ」
「何で人に化けなきゃいけないの? 私悲しいのね! るーるーるるー」
タバサ、タバサの母、人に変身したシルフィードまでも終結していたのだ
「くそっ! 何でお前なんかに弱みを握られなくちゃならないんだッ! この岸辺露伴が!」
早くも口論をし始めた男二人に、背の小さな男女が止めに入る。
「ほらっ丈助君! もう悪乗りは止めようよ。またうらまれちゃうよ~」
「おちついて」
 その間、
 一呼吸。
 二呼吸。
 おまけに三呼吸。
「あなた」
「ブッ!」
「ザ・ハンド!!!」
ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン!
 一人の少年が、涙を垂れ流しながら、自力で月まで吹っ飛ぼうとしていた。
 どうやら彼には、露伴の『そーいう冗談は死んでもよせ!』というセリフは耳に入らなかったようだ。
「まって!私も飛ぶの~」
星になった少年とひとりの少女はほったらかしておいて、路上での話し合いは続く。
「と、とにかくですね。問題は解決してないんですから」
「ああ。どうしようか、これ」
「オレのクレイジーダイヤモンドでも直せないってのはグレートッスよ~」
「つまり」
「ああ、どうやってもこの『鏡』は閉じない。ということだな」
 皆のため息が漏れたことは言うまでもない。

「ブチャラティ! 本当に還るんですか?」
 また、そこにはジョルノがいた。ミスタもいる。
「そんなこといわずに、一緒にネアポリスへ帰ろうぜ!」
だが、ブチャラティは、ミスタの言葉にかぶりを振った。
「無理だ。見ろ、この世界じゃ俺の姿は透けて見えるじゃないか。この世界では、俺はすでに死んだ存在なんだよ。ああ、ジョルノには前にも言ったと思うが、俺は元いた場所に戻るだけなんだ」
「そんな……」
「こーいう場合でも、生き返ったといっていいのか? 第二の生活にはとても満足している。だがな、ジョルノ。ミスタ。俺は還らなければならないんだ。それが正しい道しるべに沿った、俺の進むべき道なんだよ」
 そういいながら、ブチャラティは静かに、安らかに天に昇っていったのだった……



ルイズ  → 使い魔を失った事以外は特に変化なし。だが、いつもの学園生活は、ルイズの自信に満ち溢れた日常に変わっていた。

キュルケ → 死に掛けたことが親にばれ、危うくゲルマニアの実家に戻されそうになる。が、どうにかごまかすことに成功。お腹の傷跡を気にした風も無く、今日も彼氏作りにいそしむ。

タバサ  → なぜか岸辺の字と自分の本名を日本語で勉強し始めた。

タバサ母 → いきなりガリアの女王になるも、しょっちゅう王宮を抜け出し、タバサと趣味の旅行に出かける日々。座右の銘は「わたしのシャルロットちゃん、ガンバ!」

ギーシュ → 死にそう。(借金的な意味と、モンモランシーに振られそうな意味で)

シエスタ → 観光だと露伴に連れられていった杜王町で、億泰に一目ぼれされた挙句、突然告白され困惑。

岸辺露伴 → ハルケギニア滞在中にたまりにたまっていた、原稿の仕事を超人的な速度でこなす。それがひと段落ついたとき、とある田舎で妖怪のうわさを耳にする。

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