ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

S.H.I.Tな使い魔-13

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匿名ユーザー

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ルイズは久しぶりに上機嫌だった。
何かが良くなったわけでもない。午前中もやっぱり魔法は失敗してしまった。
それでもルイズの心は軽かった。
ここ最近ずっと味気なかった食事も、今はなんだかとても美味しく感じる。
康一が教室で言ってくれた言葉を思い出した。

そうだわ。わたし、まだ17なんだもの!これからどんなことがあるか分からない。
まだ自分の『運命』に絶望するのは早すぎる!
使い魔だって、最初はみんなと違ってたからがっかりしたけど、よく考えたら人間なんだから、猫や鳥を召還するよりずっと上等だわ。
ルイズは食事を終え、ナプキンで口元を拭いた。
午後は自習らしい。せっかくだから魔法の練習をしよう!
そこに数人の男子が通りがかった。
そのうちの一人が、ポケットから小瓶を落としたので、ルイズは声をかけた。
「ちょっと。何か落としたわよ。」
ん?と振り向いた顔を見て、ルイズはゲッという顔をした。
ギーシュ・ド・グラモン。さっき教室でわたしに嫌味を言った、キザで嫌なやつ!
「なんだいルイズ。もう片付けは終わったのかい?」
ギーシュがいかにも嫌味な口調で言った。
ルイズは思わず怒鳴りそうになったが、我慢することにした。
確かに、自分の失敗のせいで彼にも迷惑をかけた。だからぐっと堪える。
「ええ。ミスタ・コルベールにもういいって言われたの。それより、その小瓶。あんたが落としたんでしょ?」
と、床に落ちている紫色の小瓶を指差した。
今度はギーシュのほうが、ゲェ~!!という顔をした。だが、瞬時に表情を取り繕うと、
「し、知らないね。それはぼくのものじゃないよ。適当なことを言わないでくれたまえ。」
と背を向けようとする。
「嘘!あんたのポケットから落ちたの見たんだから!いいから持っていきなさいよ!」
別にギーシュのことなんかどうでもよかったが、適当よばわりされたのは我慢ならなかった。
すると、ギーシュと一緒にいた友人達が、「おおっ!」と騒ぎ始めた。
「おい、ギーシュ!それってもしかしてモンモランシーの香水じゃあないのか!?」
「そうだ!この鮮やかな紫色の小瓶・・・間違いない!モンモランシーのだ!ギーシュ・・・お前モンモランシーと付き合ってるのか?そうだろ!」
「あ、あんまり騒ぐんじゃない!いいかい?彼女の名誉のために言っておくが・・・」
ギーシュが否定しようとしたとき、ルイズの後にあるテーブルから、一人の女の子が立ち上がった。茶色のマントだから一年生だろう。
その栗色の髪をした可愛い少女は、涙ぐんだ目でギーシュを見つめた。
「ギーシュ様・・・やはりミス・モンモランシーと付き合っておられたのですね・・・」
ぼろぼろと涙がこぼれる。
ギーシュは慌てて女の子の肩を抱いた。
「い、いやだな。ケティ。そんなつまらない勘違いで美しい顔を涙に濡らさないでおくれ。ぼくはいつだって君一筋なんだから・・・」
「へぇ~~~?君一筋・・・ねぇ。」
ギーシュはぎくりと固まった。ゆっくりと声をしたほうに顔を向けると、きれいな金髪の巻き髪をした女の子が立っていた。
「ギーシュ。あなた、やっぱり一年生の子に手を出していたんだ・・・」
ギーシュはケティの肩を抱いていた手をぱっと離した。
「ちち違うんだモンモランシー!彼女とはラ・ロシェールの森まで遠乗りをしただけで・・・。ああっ!その薔薇のように麗しい顔を怒りにゆがめないでおく・・・!」
その瞬間、バッチコーーン!と食堂中に響くいい音をさせて、ケティのビンタが飛んだ。
「ギーシュ様!最低です!」
そして泣きながら走り去っていった。
「ああっ!ケティ!」
思わず手を伸ばしたギーシュに、背後からドバドバとワインが振りかけられた。
ギーシュがゆっくりと振り向くと、モンモランシーはワインの空き瓶を床に投げ捨てたところだった。
「二度と私に近づかないで。」
凍りつくような声色でそれだけ言うと、つかつかと歩き去っていく。

要するに二股をかけていたらしい。ルイズは馬鹿なやつ。とつぶやいて立ち上がった。
ワインまみれで立ちすくむギーシュの横をすり抜けて出口へ向かう。
「待ちたまえ・・・!」しかしそこでギーシュがルイズを呼び止めた。
「・・・・なに?」
ルイズが振り向くと、ギーシュはルイズに薔薇の造花をつきつけた。
「君の軽率な行動のおかげで、二人のレディの名誉が傷ついてしまった・・・。どうしてくれるのかね?」
ルイズは薔薇を払いのけた。

「わたしの知ったことじゃあないわ。ギーシュ。二股かけてたあんたが悪いんじゃない。」
まわりの生徒達がやんややんやと騒ぎ立てた。
「そのとおりだギーシュ!お前が悪い!」
ギーシュの顔に赤みがさした。
「ぼくは君が呼び止めたときに、知らないといったはずだ。そこで引き下がっていれば、こんな騒ぎにはならなかった!」
ルイズは呆れた。心の底から呆れた。こんなやつが貴族を名乗っていいのだろうか。
だから馬鹿にした口調で斬って捨てた。
「あんたが二股をかけるのが悪いんでしょ。『青銅』・・・いや、『二股』のギーシュ?」
集まってきた人垣がどっと笑う。
ギーシュは思わず頭に血が上りそうになったが、それを堪えた。
相手は『ゼロ』のルイズだ。この僕が何をむきになることがある。
ギーシュはやれやれ、と溜息をついて見せた。
「まぁ、君のような似非貴族に、マナーを期待するのが間違いだったか。いいさ、行くがいい。『ゼロ』のルイズ。」
似非貴族!これ以上ルイズの心に突き刺さる言葉は他になかった。
「・・・ヴァリエール家を馬鹿にするならタダじゃおかないわよ、ギーシュ。」
ルイズが声の震えを押さえつけるようにして言うと、ギーシュはふふん、と笑った。
「僕はヴァリエール家を馬鹿にしてなんかいないさ。ヴァリエール家はトリステインでも最も由緒正しき家柄の一つだ!僕はとても尊敬しているよ!」
ただね・・・、ギーシュは口元をゆがめた。
「君は別だ、ルイズ。由緒正しきヴァリエール家に相応しくない落ちこぼれ。未だに魔法の一つも使えない似非貴族とは君のことさ。」
ギーシュはルイズを指差した。ルイズはその指に、自分の心臓を抉られたように思った。怒りと悲しみで言葉が出てこない。
「今日も授業をぶち壊してくれたね。君のような似非貴族がメイジのふりをしているから、僕たちはとても迷惑しているんだ。」
ルイズを助けに入る者はいない。みな、少なからずもルイズに思うところがあったのだ。
ところで・・・。ギーシュは、ルイズの耳元で囁いた。
「君・・・本当にヴァリエール公爵家の子どもなのかい?」
ルイズの頭が真っ白になった。気がついたときにはギーシュに杖を突きつけていた。
「決闘よ!!」
ギーシュは一瞬ぽかん、としたようだったが。やがてぷっと吹き出した。
周り中がどっと笑い出す。
「あはははは!ルイズ!君は自分が何を言っているのか分かっているのかい?君が僕と決闘だって!?」
ギーシュが馬鹿にしたようにいった。ルイズは震える声で答えた。
「そうよ!わたしはあんたに決闘を申し込むわ!」
ギーシュは、笑うのをやめた。でもねぇ・・・
「この学院では決闘は認められていないんだよね。特に『貴族と貴族の決闘』はね・・・!だから、君がこうお願いするなら受けてもいいよ。」
芝居がかった口調で続けた。
「『今まで貴族のふりをしていてすみませんでした。わたしはしがない平民ですから決闘を受けてください』とね。」
口笛が飛んだ。騒ぎを聞きつけてあつまった人垣から「いいぞー!やれやれー!」と野次が飛ぶ。
くやしい!くやしい!くやしい!くやしい!
ルイズは手を裂けんばかりに握り締めた。
どうがんばっても、わたしよりこいつのほうが貴族らしい・・・。そんなことくらい自分が一番分かっている。
貴族にも、平民にもずっと馬鹿にされてきた!誰もはっきりとは言わなかったが、ギーシュが言っているのは、ずっと自分が思ってきたことなんだ。
わたしはギーシュが憎いんじゃない・・・反論できない自分が情けないんだ!!
涙で視界がゆがむ。座り込んでしまいそうだ。
でも、こんなやつの前で泣いたりするもんか!泣くもんか!泣くもんか!泣くもんか!
ルイズは必死に唇をかみ締めてギーシュを睨みつけた。

そのとき、高らかに声が響きわたった。
「それなら、ぼくが決闘を申し込むよ!」

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

ざわめく群集をかき分けて、ゆっくりとギーシュの前に立ちふさがったのは、『ゼロの使い魔』と呼ばれた、小さな平民の男の子だった。

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