ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

S.H.I.Tな使い魔-11

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「ミス・ヴァリエール。罰としてあなたにはこの教室の片づけを命じます。もちろん、使い魔に手伝わせてはなりません。」
騒ぎに駆けつけたコルベール教師はルイズにそう命じた。
ミセス・シュヴルーズは完全に意識を失っていたし、生徒達は今にもルイズを吊るし上げんばかりだった。だからルイズに同情的なコルベールでもそうさせざるを得なかったのだ。

それから一時間。まだ片付けは終わる気配を見せない。
教卓はばらばらに吹き飛んでいたし、教壇にも大穴が開いて使い物にならない。黒板は真っ二つに折れて右側が地面に伏せられていた。
生徒達の机は、距離があったためばらばらにこそならなかったものの、あちこちにヒビが入ったり吹き飛んだりして、前二列は半壊状態。後で取り替えなくてはならない。
窓ガラスは一枚残らず吹き飛んでいる。剥げた塗装に吹き飛んだ照明、床一面の煤や埃etc。要するに教室を一つまるごとぶち壊してしまったのだ。片づけがそう簡単に終わるはずもない。
だからこそいきり立つ生徒達も溜飲を下げたのだが・・・。
ルイズは今、半分に千切れた黒板と格闘しているところである。その小さな体をいっぱいに使って、黒板を外に引きずり出そうとしている。
康一はそれを手伝うわけにもいかず、さりとて放っておくわけにもいかず。その様子を見ていることしかできないのだった。
「す、すごい爆発だったね!」
なんだか気まずい康一が話しかけた。
「あれを喰らったらどんな敵でもKOしちゃうよ!」
できるだけ明るい調子で言ったのだが、ルイズはこちらに振り向きもしない。
バツが悪くて康一は頬を掻いた。
「痛っ!!」ルイズが右手を押さえた。
「だ、大丈夫?」
康一が駆けつけると、ルイズの手からは血が滲み出していた。恐らく折れた断面を握ってしまったのだろう。
「怪我してるじゃないか!」
康一はルイズの手を取った。
「触らないでよ!!」
ルイズは康一の手を振り払った。
「その手じゃもう無理だって・・・。休もうよ。」
ルイズは手を押さえたまま、黙って首を振った。
「でも・・・大体、女の子一人でこんなのおわりっこないんだよなぁ~」
康一は途方にくれた。
「・・・成功するかもって・・・」
ルイズがぼそりとつぶやいた。
「え?」
「成功するかもって。今度こそ成功するかもって思ったのよ。」
ルイズはうつむいたままい言った。
「そ、そうだよ!誰だって失敗することくらいあるよ!あんまり気を落とさないで!」
康一は励ましたが、ルイズはぶんぶんと頭を横に振った。
「今まで、一回も魔法が成功したことなんてなかったのよ。小さい頃からそう。どれだけ試しても、爆発するばっかりでただ一度だって成功したことなんてなかったの・・・」
康一は息を呑んだ。
「わたし、小さいころは、大きくなったら魔法が使えるようになるんだって思ってたの。お父様やお母様の期待に答えられるって。ヴァリエール家にとって恥ずかしくない娘になれるって信じてたの。」
ルイズは何かに耐えるように上を向いた。
「でも・・・だめだったッ・・・!今の今まで、一度も期待に答えられたことなんかなかった・・・。いつの日か・・・いつの日か・・・ずっとそう思い続けてきたけど・・・」
康一は躊躇いがちに言った。

「でも・・・ぼくの召還は成功したんだろ?」
「そうね。呼んだのがあんたみたいな平民で、みんなには馬鹿にされたけど、あれが初めての成功といっていいわ。」
ルイズは、吐き捨てるようにハッと笑った。
「だから、ちょっと夢みちゃったのよ・・・。一度魔法が成功したから、これからは他の魔法も使えるようになるんじゃないかって。わたしも・・・これからは貴族として胸を晴れるんじゃないかって・・・。でも、その結果がこれよ・・・。」
『ルイズは焦っている。』康一はシエスタが言った言葉の意味がようやく分かった気がした。
「で、でもさ!これからもっとがんばったら、いつかきっと・・・」
「知ったような口聞かないでよっ!」
ルイズが康一につかみかかった。両手で襟元を握りしめる。康一の目の前で瞳から涙がこぼれた。
「わたしだってがんばってきたわ!だれよりも勉強したわ!だれよりも魔法を練習したわ!座学だって、作法だって、誰にも負けない!でも・・・」
襟を握り締める手が緩んだ。その場にぺたんと座り込む。
「でも、魔法だけは・・・貴族として絶対に必要な魔法だけはどんなにがんばっても使えなかった・・・。だから私はゼロのルイズなのよ。どんなにがんばっても、永遠に貴族になれない。ゼロのまんまなんだわ・・・。」
ルイズは血に染まった右手を胸で抱きしめた。煤まみれの床に涙が落ちた。

ずっと爪先立ちをしていたんだ。と康一は思った。
ルイズはずっと強いふりをしていたんだ。自分の弱さを誰にも悟られないように。
何より、ぼろぼろな自分に、まだがんばれるんだと信じさせるために。
康一は初めて、彼女の力になってあげたい。と思った。
でもどんなに頭の中を探しても、かけてあげられる言葉を見つけられなかった。
だから代わりに、康一は『見せる』ことにした。
「『エコーズ』・・・」
「え・・・?」
ルイズは煤と涙でぐちゃぐちゃになった顔をあげた。
「『エコーズ』っていうんだ。ぼくのスタンド。」
康一は「ACT1!」と叫んだ。康一の横に、突然白い生き物が現れた。
ルイズはこんなでたらめな生き物をみたことがなかった。
なんと形容したらいいのか、兵士が被っているような兜に小さな手と長いしっぽをくっつけたように見える。兜の下に目らしいものとくちばしがちょこんと覗いている。
その不思議な生き物は、康一の手からハンカチを掴み取ると、呆然と座り込むルイズの膝の上にふわりと飛んできた。
「なに・・・これ・・・」
「『エコーズACT1』だよ。ぼくの『スタンド』」
「でも、前に見たのと全然違うわ!」
「あれはACT3。ACT1はエコーズの一番進化前ってことになるかな。」
奇妙な化け物が目の前にいるのに、なぜかルイズは怖いと思わなかった。
ACT1が小さな手に持ったハンカチで、涙に濡れたルイズの顔を拭く。
そして小さな声で「ギャアース!」と鳴いた。
「ふふっ・・・」
なぜだろう。ルイズの目にはこの不恰好な生き物がひどくユーモラスで、可愛く見えてきた。
ルイズは『ACT1』をぎゅっと抱きしめた。
冷たいようで暖かい、堅いようで柔らかい。不思議な抱き心地だと思った。
「ぼくはさ、つい2年まで何のとりえもない・・・そうだな、ただの『平民』だったんだよ。でも、ある事件がきっかけで急に『スタンド』って力を得たんだ。」
だからさ・・・。康一はしゃがみこんだ。
「ルイズにだって、いつか『きっかけ』があるかもしれない。誰にもその『運命』がいつ来るかなんてことは分からない。まだ、諦めるのは早いんじゃないかな。」
といってルイズの目を覗き込んだ。
「それに『メイジを知るには使い魔を見よ』なんだろ?こんな面白い使い魔を持ってるメイジなんて、世界中で君だけだと思うんだけどなァ~。」
康一は大仰に手を広げて見せた。
ルイズはようやく、「馬鹿犬のくせに・・・」といって笑った。

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