ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

S.H.I.Tな使い魔-10

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魔法学院の教室は、以前大学見学のときにみた講義室のようだった。
ただ、全体が石造りだし、天井の明かりは蛍光灯ではなく、何か白熱電球のような光がふわふわと浮いていたりするのだった。
「(うーん、魔法だ・・・)」
康一は改めて、ここが魔法の世界だということを確認した。
ルイズと康一が入ると、教室のあちこちからクスクスという笑い声がする。
ルイズはそれが聞えないふりをしていたが、康一からはルイズの耳が赤くなっているのがわかった。
教室を見回すと、様々な動物がいる。というか見たこともないような生き物があちらこちらでうようよしている。
でっかい目玉おばけがふよふよと浮いていたり、下半身が蛸の女性が大きなあくびをしていたりするのが見える。
康一は目を擦ってみたがやはり見間違いや幻覚ではないようだ。
誰も騒ぎにしないところを見ると使い魔というやつなのだろう。
その中に朝出会った赤くて大きなトカゲをみつけた。
案の定、その近くの席にキュルケが座っていた。周りを男達に囲まれているのを見て「やっぱり男のほうが放っておかないよなぁー」と思う。
向こうもこちらに気づいて、康一にひらひらと手を振ってきた。
こちらも手を振り返したら、ルイズに後頭部を叩かれた。
ルイズが席の一つに座ったので、康一も隣に座った。
ルイズが変な顔をした。
「あんた、なにやってんの?」
「なにって・・・」
「そこはメイジの席よ。使い魔は座っちゃダメ」
「じゃあ、どこに座ればいいのさ!」
どこを見渡しても『使い魔用の席』なんてものは見当たらない。
「床に座ればいいじゃない。」
ルイズはさも当然そうにいった。
康一はまた出て行きたくなったが、ぐっとこらえてルイズの近くの段差に座り込んだ。
石畳に座るとおしりがつめたい・・・。康一は黙って立ち上がると、教室のうしろに立っていることにした。
ルイズはその様子を見ていたが、何も言わなかった。
そうしていると、扉が開いて中年の女の人が入ってきた。
紫色のローブに身を包み、帽子を被っている、ややふくよかで優しそうな人である。
彼女は教壇に立ち、教室を見回すと、満足そうに微笑んでいった。
「皆さん。春の使い魔召還は、大成功のようですわね。『メイジを知るには使い魔を見よ』といいます。このシュヴルーズ、みなさんが立派に使い魔を召還できたことを誇りに思いますよ。」
クスクスという笑い声が教室のあちこちから聞える。
シュヴルーズは教室の後に立っている康一を見つけると、誰だろうかとしばらく考えていたが、思い至ったらしい。
「ああ、そこの平民の男の子は、ミス・ヴァリエールの使い魔ですね?なかなか個性的というかなんというか・・・」
と先生が呆れたようにいうと、教室がどっと笑いに包まれた。
ルイズは顔を真っ赤にして身を縮めている。
シュヴルーズはさっと手を振り、教室の笑いを沈めると、教師の顔に戻って言った。
「それでは授業を始めます。私の二つ名は『赤土』。『赤土』のシュヴルーズです。二つ名の通り、『土属性』のメイジです。では、まずはおさらいから。魔法の四大系統はご存知ですね?」
教室を見回す。
「ミスタ・マリコルヌ?」
名前を呼ばれた太っちょな生徒が立ち上がった。
「は、はい。ミセス・シュヴルーズ。「火」「水」「風」「土」の四つです!」
シュヴルーズは頷いた。
「よくできました。ミスタ・マリコルヌ。これに今は失われた『虚無』の系統を加えて、全部で五つの系統があります。我々メイジは、今までこの始祖より与えられた『系統魔法』を使い、人々の暮らしを豊かにしてきました。」
シュヴルーズは講義する。魔物から土地を解放し、開拓し、建物を立て、暮らしに必要なものを作る。病気を癒し、天候を読み、人々を守る。魔法の恩恵があるからこそ今の世の中があるのだと。
康一はうーん、と腕組みをした。なるほど、メイジが威張るのにも理由があるんだなぁ~。
シュヴルーズは教卓を右に左にと歩きながら続けた。
「そうした系統魔法の中で、『土』は一際生活に密着した属性であると言えるでしょう。そこで、まずは皆さんに『土』系統の基礎である、『錬金』のおさらいをしてもらいます。」
そういうと杖を振った。
教卓の上に数個の石ころが並べられる。そのうちの一つに杖を当てた。
シュヴルーズが短いルーンを唱えると、そのただの石ころが一瞬眩しく光り、黄金色の金属に変わっていた。

「う、うわぁー!ただの石っころが黄金になったぁー!!」
康一は思わず声をあげた。
教室中からまた小さな笑い声がする。
ルイズは康一をキッと睨み、ぱくぱくと口だけで「あんたは黙ってなさい!」と言った。
シュヴルーズは康一のことを少し見た。
「・・・いいえ、これは黄金ではなく真鍮です。私はただの『トライアングル』ですから・・・。黄金練成は『スクウェア』クラスでないと不可能です。」
教室を見回す。
「みなさんのほとんどは『ドット』か『ライン』ですが、真鍮への練成は『ドット』クラスでも可能です。」
「せんせー!『ゼロ』クラスでも可能でしょうかー!」
金髪の少年が手を上げて言うと、教室がどっと笑いに包まれた。
ルイズがその場でがたっと立ち上がった。
「ギーシュ!あんたは黙ってなさいよ!」
「別に、ぼくはただ授業における健全な質問をしただけだよ。無駄口は慎みたまえ『ゼロ』のルイズ。」
金髪の少年は手に持った薔薇で口元を隠し、にやりと笑った。
なんとなく康一はむっとした。
「はい、そこまでです。静かにしなさい。」
シュヴルーズが手を叩くと、再び教室が静かになる。
「ミスタ・グラモン。お友達を挑発するものではありません。」
シュヴルーズが注意すると、ギーシュは「かしこまりました、ミセス。」と大仰に一礼をした。
「では、ミス・ヴァリエール。あなたに、この真鍮への錬金をやってもらいましょうか。」
教室がどよめいた。
「え、わたしですか?」
ルイズは自分を指差した。
「そうです。さぁ、教卓の前に出てきなさい。」
と机の上の小石を杖で示した。
ルイズはなぜか立ち上がらない。どうしようかと迷っているようだ。
発表するのが恥ずかしいのかな?だとしたら意外な一面だ。と康一は思った。
「さぁ、恥ずかしがらずに!私はあなたが非常に勤勉な生徒であると聞いてますよ?落ち着いてやれば大丈夫です。さぁ、失敗を恐れずに!」
シュヴルーズは促した。
ルイズはそれでも迷っていたようだが、やがて決心したように立ち上がった。
教室から悲鳴が上がった。
「ルイズ、やめて。」
キュルケがおびえたように言う。
「うわぁー、ゼロが魔法を使うぞぉー!」
「みんなかくれろぉー!!」
それらの声を意に介することもなく、ルイズは緊張した面持ちで教室を降りていく。
ルイズがシュヴルーズ先生の前に立ったころには、教室内の生徒は皆机の下に隠れていた。
シュヴルーズはそんな生徒達を不思議に思ったが、とりあえずルイズに試させることにした。
「さぁ、ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を思い浮かべるのです。この場合は真鍮ですね。」
ルイズはその言葉にこくりと頷くと、一度大きく息をして手にもった杖を振り上げた。
思い切ったように、目を瞑り、杖を振り下ろす。


その瞬間。石ころが机ごと爆発した。
爆炎と机の破片が飛び散る。生徒達は机の下に隠れて無事だったが、シュヴルーズは至近距離で爆発を喰らい、吹き飛んだ。
教室の後方にも爆風が及んだ。
「ACT3!」
康一はとっさにスタンドで身を守った。
だが、隠れ切れなかったほかの使い魔は爆風と爆音でパニック状態になる。
火トカゲは火を吹き、バジリスクはカラスを石にした。目玉オバケの触手に絡み取られたマリコルヌの股間に大蛇が噛み付いた。
「うぎゃぁーー!!!」
教室は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
一方この惨状を巻き起こした張本人といえば、最も近くで爆発を受けたはずなのに、吹き飛ばされもしないで立っていた。
ただ、全身煤と埃まみれで、服はぼろぼろ。スカートが破れて、少しパンティが見えていた。
こほっ、とルイズは煤で真っ黒な咳をした。
「ちょっと失敗したみたいね。」
教室中から怒号が飛んだ。
「どこがちょっとなんだよ!この魔法成功確率『ゼロ』のルイズがぁーーー!」
「だからやめてっていったじゃない!」
「メディック!メディーーック!」
「もう、ヴァリエールは退学にしてくれよ!!」
康一は、ようやく『ゼロ』の意味を理解した。

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