ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

S.H.I.Tな使い魔-06

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 窓から日の光が康一の寝顔を照らす。まぶしくて、康一はもぞもぞと起き出した。
 ベッドに目をやると、毛布に包まった塊のようなものが寝息を立てている。
「そっか・・・ぼく、あのまま気絶しちゃってたんだ・・・」
 毛布が膝元にずり落ちている。気絶していたぼくに一応毛布だけはかけてくれたらしい。
 立ち上がり、うーん・・・と背伸びをする。堅い床で寝ていたので体の節々が痛い。
 ここで康一は自分がまだパンツ一枚であることに気がついて、あわてて投げ散らかしてある服を着込んだ。
 今日から使い魔としての生活が始まるらしい。
 正直現実味がない。これが魔法の国だなんて、今でも夢だったような気がする。
 しかし、実際には自分は知らない天井を見上げて目覚め、毛布からはご主人様(ということらしい、ぼくは認めたくないけど!!)の白くて小さな足が覗いている。
 康一はこのご主人様(仮)を起こそうかと思ったが、先に今自分がいる場所を見て廻ることにした。
『魔法の国』というやつに康一は少年らしい興味を覚えていたし、なによりあの恥ずかしい大騒ぎの後、すぐに顔を合わせるのはなんだか気まずいからだ。
康一は音を立てないようにこっそりと扉を開け、部屋の外へと抜け出した。


康一は建物の外に出ると大きく深呼吸をした。
康一は朝の冷たい空気が好きだ。草の葉の露に朝日が当たってきらきらと輝くのも好きだし、まだ人気が少なくてシーンと静まりかえっているところも嫌いではない。
ただ、それが見知らぬ場所で自分が余所者だと、なんだか入ってはいけない場所に立ち入っているような気分になる。
康一はとりあえず顔を洗うために水場を探すことにした。
しかし昨日も思ったが、こうして歩いていると明らかに自分達の時代とは文化や文明が違う。まるで話に聞く中世ヨーロッパの建物のようだ。あちらこちらに康一には用途の分からないものが設置してある。
時々何かの文字が書かれていたりもするのだが、康一には読むことができなかった。
と、ここで康一は、はっと気づいた。
「ぼくって今まで何語をしゃべっていたんだ?」
日本語だけでなく、露伴先生のおかげでイタリア語の読み書きもばっちり、それに英語もほんのちょっぴりなら分かるが、思い返してみるとあの人たちが喋っていたのは聞いたこともない言語だった気がする。
「でも、会話は通じるんだよなぁー。どうしてだろ。」
露伴先生にイタリア語を扱えるようにしてもらったときと似た違和感がある。なぜか言葉の意味が分かり、なぜか言いたいことがイタリア語になるのである。(まぁ、ここの言葉は話ができるだけで読み書きはできないみたいだけど・・・)

そんなことを考えながら水場を探してうろうろしていると、渡り廊下の奥から籠をもった黒髪の女の子がやってくるのが見えた。白と黒を基調としたエプロンドレスである。
「(うわー、メイド服だよー!)」
当然だが康一はメイド服を見るのは初めてである。というよりメイドさんという存在は、現代日本ではほとんどいなかった。
「あのー、すいませーん。」
康一が声をかけると、向こうもこちらのことに気づいていたのだろう。足を止めて微笑んでくる。
カチューシャでまとめた黒髪とそばかすがかわいらしい。
「はい、何か御用でしょうか。」
「いや、ご用といったほどのことじゃないんですけど、顔を洗いたくてですね。水場を探しているんですよ。」康一は頭を掻きながら説明した。
「かしこまりました。それではご案内いたしますね。」
こちらです。とメイドさんが案内してくれる。
歩いていると、あの・・・。とメイドさんが話しかけてきた。
「ひょっとして、ミス・ヴァリエールが召還されたという使い魔の方ですか?」
「え、ぼくのことを知ってるんですか!?」
「はい、平民が使い魔になるなんて初めてのことですから。噂になってますわ。」
少女は変わった服装だから遠くからでも一目でわかりました。と笑った。
「そっかー。ぼくは広瀬康一です。よろしく。」
「わたしはシエスタです。何か困ったことがあったら言ってくださいね?」
シエスタ!康一は昨日までいたイタリアでは、シエスタはお昼寝という意味だったということを思い出し、この少女がお昼寝しているところを想像してふふっと笑った。
その様子を見てシエスタが首を傾げる。
「? 何か?」
康一はごまかすようにあわてて手を振った。
「い、いえ。なんでも!いい名前ですね!」

水場はそこから歩いてすぐのところにあった。
康一は綺麗で冷たい水で顔と髪を簡単に洗った。

「はぁー!さっぱりした!」
「ふふふ、それはよかったですわ。」
シエスタはここに洗濯にきたらしい。篭の中を覗くと結構な量の洗濯物が入っていた。
「手伝おうか?」
手持ち無沙汰な康一は聞いてみた。
「お気持ちはうれしいですが、お仕事ですから・・・それよりも、ミス・ヴァリエールの元へ帰らなくてもいいんですか?」
シエスタは康一に尋ねた。
「うーん、戻ってルイズさんと顔を合わせるのがなぁ・・・」
康一は首をひねった。
「喧嘩でもなさったんですか?」
「まぁ、そんなところ。」
「だめですよ。貴族の人に逆らったら、大変なことになっちゃうんですから。」
シエスタは忠告してくれた。
「『貴族』・・・かぁ・・・。ねえシエスタ。貴族って怖い?」
康一が尋ねると、シエスタは洗い物の手をぴたりととめた。
「そうですね・・・ここだけの話、正直怖いです。私たち平民は貴族のきまぐれでどうでも好き勝手にされちゃいますもの・・・。康一さんは貴族が怖くないんですか?」
えーっと・・・。康一は言いよどんだ。
「まぁ・・・ぼくが住んでたところには貴族がいなかったからさ。」
「やだ康一さんたら、わたしをからかってるんですね?そんなところあるわけないじゃないですか。」
シエスタはクスクスと笑った。
「でも・・・」
シエスタは空を仰いだ。
「そんな場所があったらいいなぁ。わたしもいってみたいなぁ・・・」
康一はなんと言えばいいのか分からなくなった。
シエスタはしんみりとした空気を吹き飛ばすように。
「な、なーんて。そんなことあるわけないですよね!いいんです!貴族様は魔法っていうすごい力が使えて、私達平民は敵いっこないんですから!生まれたときからそう決まってるんです!」
康一はこの世界の『貴族』と『平民』の関係を理解した。
この世界では魔法が使える貴族が絶対で、使えない平民は生まれた瞬間から奴隷同然なんだ。
きっとシエスタも今まで嫌な思いをたくさんしてきたのだろう。
ぼくも少し前までは何の力もないただのコゾーだった。でも今は他の人にはない『スタンド』がある。でも、貴族ではない。使い魔だから平民でもない。
「(ぼくは、ここではいったいなんなんだろうなァー・・・)」


そうして雑談をしているうちに、日は昇り、少しずつ人通りが多くなってきた。
シエスタの洗濯物も終わって、康一はルイズの部屋へ戻ることにした。
別れ際、シエスタに「がんばってくださいね!」と手を握ってもらったのもあるがなにより、
「いつまでも逃げてるわけにもいかないもんなぁー」
きっとなんとかなるさ!
康一はこれでなかなか前向きな性格だった。

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