ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

S.H.I.Tな使い魔-04

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匿名ユーザー

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 ルイズと康一は二人の男性と向かい合い、ソファーに腰を下ろした。
 一人は先ほどの中年男性、コルベール。そしてもう一人の老人をコルベールは学院長のオールド・オスマン氏と説明した。
 一言で言うと、『まるで魔法使いみたい』な容姿である。深緑のローブ、傍らには長い樫の杖を置いている。
白い顎鬚を長く垂らし、それをいじりながら康一のことを興味深そうに見ている。
一見何も考えてなさそうな顔をしているが、康一はその目の奥に深い知性の光を見た気がした。
まるで、ジョセフ・ジョースターさんのようだ。
「ふむふむ、君がその平民の使い魔かね。・・・なるほど、いい面構えをしているのぉ。」
 その一言に、康一の隣に座っているルイズは露骨に『そうかしら。チビだし、彫りも浅くてハンサムとはいえないと思うけれど・・・』という顔をした。康一と目があって、またぷいっと横を向く。
 オスマンはほっほっほと笑って、康一に尋ねた。
「それで君はどこから来たのかね?」
「日本です。いや、えっと、鏡に飲まれたときはイタリアのネアポリスにいたんですけど・・・。」
「日本、イタリア、ネアポリス・・・と。それはどのへんにある国なのかね?」
「どのへん・・・ですか。えーっと、日本はユーラシア大陸の東側にある国で、イタリアは逆にユーラシア大陸の西側、ヨーロッパの中にある国です。ネアポリスはイタリアの都市の名前で・・・」
 康一は懸命に世界地図を思い浮かべた。
「ふーむ・・・コルベット君。」
「コルベールです、オールド・オスマン。」コルベールが訂正する。
「おお、そうそう。コルベール君じゃったの。今彼が言った国の名前を一つでも知っているかね?」
オスマンは尋ねた。
 コルベールは困ったように首を横に振った。
「いや、全く聞いたこともありませんね。ハルケギニアの外の話でしょうか。エルフの住まう、サハラよりも更に東方の国のことなら、我々が知らないこともあるかもしれませんが・・・」
「(サハラ砂漠なら知っているぞ!)」と康一は言おうとした。
 しかし、日本とイタリアは、まさしくサハラ砂漠を挟んで東と西である。二人の話とは大分食い違いそうなので、康一は黙っておくことにした。
 オスマンはコルベールと話を続けている。
「そうか。わしも長く生きておるが、そんな国の名前は聞いたことがない。彼の話は本当だと思うかね。ゴルバット君。」
「コルベールです。オールド・オスマン。彼の言っていることが本当かどうかはわかりません。」
 コルベールは少し言いよどんだ。
「ただ・・・私は先ほど彼の不思議な力を体験しました。いきなり自分の体が重くなったような・・・」
「ほう。重くなった、とな。見たところメイジでもなさそうなこの少年がそんなことができるとも思えんが・・・ちょっと君。えーっと、なんという名前じゃね?」
「康一です。広瀬康一。」
「そうか。ではミスタ・コーイチ。その不思議な力を、わしにも見せてくれるとうれしいのじゃが・・・」
「嫌です。」康一はむげも無く断った。
「なぜじゃね?」
「ぼくはここにそんな話をしに来たんじゃないからですよ。この状況を説明してくれるっていうからここにきたんですよ!説明しないならぼくを早くもといた所に返してください!」
いい加減我慢も限界に近づいていた康一は立ち上がって叫んだ。
 康一はまだこれがスタンド攻撃であることを微塵も疑っていなかった。
「まぁまぁ。ミスタ・コーイチ。そうかっかなさるな。聞きたいことがあるならいくらでも説明するからまずは座りなさい。」
康一は不満そうにしながらもしぶしぶ腰を降ろした。オスマンは手を組んで身を乗り出した。
「興味深いことだが、どうやら君は我々のことをよく知らないらしい。ここがどこだか分かっているのかね?」
「知りませんよ!さっきもいいましたけど、いきなり鏡のようなものに吸い込まれて、気がついたらあの草原にいたんです!」
「ここはトリステインの魔法学院じゃよ。聞いたことはないかね?」
「ま、魔法学院?」
 さっきからちょくちょく言ってるけど、魔法ってなんだ。もしかしてドラクエとかFFとかで出てくる魔法のことじゃないだろうなー。
康一はからかわれているのかと不安になった。

「魔法って・・・なんです?」
「魔法も知らないなんてどんなところから来たのよ!」ルイズが信じられないものを見るように言った。
「ミス・ヴァリエール?」
コルベールが静かにするよう促すと、ルイズは黙り込んだ。
「おほん。魔法というのはじゃね・・・こういうもののことじゃよ。」
オスマンはそういうと懐からコインを一枚取り出した。
杖を手に口の中でむにゃむにゃと呪文を唱えると、それまで机の上に置かれていたコインがふわりと浮かびあがった。
「う、浮いてる!?」
康一は驚いた。部屋を見回してもスタンドの姿は影も形も見えない。
 もしかして・・・馬鹿げているとは思うが、本当に魔法とやらが存在するのだろうか。さっきみんなが飛んでいたのも魔法の力?
康一はめまいを感じた。
「これは『レビテーション』という魔法じゃ。そして先ほど君は『サモン・サーヴァント』という魔法でここに召還されたようじゃの。」
「さっきも言ってましたね。『使い魔』がどうとか・・・」
「うむ。『サモン・サーヴァント』は使い魔を召還するものじゃ。使い魔とはメイジの・・・そうじゃな。助手のような仕事をする。」
 オスマンはこれがわしの使い魔、モートソグニルじゃ。といってハツカネズミを見せてくれた。
「普通はこのように人間以外の動物や幻獣が呼び出されるものじゃが、今回はどうしてか人間である君が呼び出されてしまったようじゃの。」
「じゃあ、これはなんです?そこの女の子に・・・えーっと、『キス』されたらこんなのが刻まれちゃったんですけど。」
康一はルイズのほうをチラッと見ながら、左手に刻まれた印を見せた。
「き、キスじゃないわよ!契約よ契約!誰があんたなんかとキスしたりするもんですか!」
ルイズは康一以上に顔を真っ赤にした。
 オスマンはまぁまぁと二人を宥めた。
「メイジは使い魔を召還すると、『コントラクト・サーヴァント』で使い魔と主従の契約をするのじゃよ。それは通常口付けによって行われるんじゃ。それはその証のようなものじゃの。」
「いやですよ!なんでぼくがこんな我が侭な子のペットみたいなことをしなくちゃいけないんだっ!」
康一は声を荒げた。
 由花子と出合った頃別荘に閉じ込められたときのことを思い出した。
あの時も石鹸を食べさせられそうになったり、電気椅子に座らせられそうになったりと人間扱いされなかったが、今度は正真正銘のペットにされてしまうという!
「うむ、君のいうことはもっともじゃ。わしとしても君を帰してあげたいのはやまやまなんじゃよ。」
じゃが・・・とオスマンは背もたれに身を預けた。
「じゃが、あいにく我々は君のいた国がどこにあるのかすら分からんのじゃよ。」
「そんな・・・」康一はがっくりと肩を落とした。
「こっちに呼び出したのなら、送り返す呪文はないんですか?」
「うーむ、通常は使い魔になることを同意しているものが召還されるから、送り返す魔法なんてものはないんじゃよ・・・」
 つまりぼくはその『サモン・サーヴァント』ってやつで、魔法の国なんていうゲームの世界みたいなところに、使い魔にするために連れたわけだ。
しかも帰る方法はないという!康一は頭を抱えた。
「そこでじゃね。どうじゃろう。しばらくこちらで使い魔としてやっていく気はないかね?」
「はぁ!?」康一は顔をあげた。
「使い魔召還の儀式はメイジとして生きていくうえでは避けて通れないものでの。そこのミス・ヴァリエールが2年生に進学するためには今、君という使い魔がどうしても必要なのじゃよ。」
 ルイズは顔を俯かせた。
 そんなこと知るもんか!と叫ぼうとした康一をオスマンは押しとどめた。
「それに想像してみなさい。見ず知らずの世界で、行くあても先立つものもないんじゃろう?食べるものはどうするかね?屋根がない生活はつらいぞい?替えの服はもっているかね?」
「ぐっ・・・」康一は反論しようとしたが、できなかった。確かに自分はこのわけのわからない世界で身分を保証するものはなにもないのだ。
「少なくとも使い魔として生活するならばミス・ヴァリエールのメイジとしてのプライドにかけて衣食住は保障される。ミスタ・コーイチの故郷のことはわしも興味があるし、調べてみよう。」
オスマンはウインクをして見せた。
「どうじゃ。それまで使い魔として生活してみんか。ミス・ヴァリエールは進学でき、ミスタは住む場所を得る。ギブ&テイクというやつじゃの。」
オールド・オスマンは右手と左手でそれぞれ二人を指差した。
指差されたルイズと康一はお互いに顔を見合わせた。




結局その後も言葉巧みに説得され、康一はしばらく使い魔として暮らしていくことを同意させられてしまった。
なんだか上手く乗せられたような気がしないでもないが、実際他にどうしようもないのだからしかたがない。
ルイズは先に部屋を出ている。これから康一が住む場所に案内してくれるらしい。康一も彼女の後を追おうと立ち上がった。
「最後に一つだけいいかの?」オスマンが康一に声をかけた。
「なんです?」
「帰る前に、その『重くする魔法』を使ってみてはくれんかね?わしも魔法を見せた。これもギブ&テイク、じゃよ。」とにっこり笑ってまだ浮いたままのコインを指差した。
康一は溜息をついた。断ろうかとも思ったが、確かめたいこともあった。
「ACT3。」
『YES!MASTER!』
 康一が呼ぶと、突然テーブルの上に白い人影が浮かび上がり、オスマンとコルベールは思わず仰け反った。
 康一はその様子を見て確信した。
「(やはり・・・見えている・・・)」
「こ、これがその『ゴーレム』とやらかね?」
「ゴーレムじゃなくて、『スタンド』ですけれどね。ACT3!そのコインを重くしろ!」
 『S.H.I.T!』
 ACT3が空中のコインを両手で触る。
すると、ズン!!という音を立ててコインが黒檀のテーブルにめりこんだ。
「おおおお・・・」オスマンとコルベールは立ち上がった。
「私はさっきこうなっていたのですね!」
 コイン一枚でこの重さだ。自分が受けていた圧力を思うとぞっとした。
「うむ、半信半疑じゃったが、まさか本当にこんなことが・・・『スタンド』とは、いったいなんなのじゃね?マジックアイテムの類かと思うのじゃが・・・」オスマンは問いかけた。
「え~っと、ギブ&テイク、ですよね?」康一は尋ねた。スタンドはもう消えている。
「うむ、それがどうかしたかの?」
「じゃあこれより先は、帰る方法が分かってからってことで。」
康一はにっこりと笑った。くるりと背を向ける。
オスマンは驚いたような顔をして、それから額を叩いて笑った。
「ほっほっほっほ!こりゃ一本とられたの!」
「それじゃ、失礼しま~っす。」康一は扉から頭を下げるとバタンと扉を閉めた。

 外に出ると、ルイズが遅いじゃない!といいたげな目で康一を待っていた。そして、「こっちよ。」と歩き出していく。
 康一は「(ひょっとしてぼくはとんでもない約束をしちゃったんじゃないだろうなぁー)」と先行きにどんよりとした不安を感じながらツカツカと揺れる、自分よりも小さな桃色頭についていった。




 康一が出て行った後、コルベールはテーブルに埋まったコインに手を伸ばした。
 完全にめりこんでしまっているが、もう重くはなっていないようだ。爪を立ててようやく引き起こし、つまみあげた。
「大したものですね。ハンマーで叩いてもこうはなりませんよ。」
コルベールは、裏返したり弾ませたりしてみたが、やはりただのコインだ。
オールドオスマンはその様子を横目で見ながら言った。
「実はの。今そのコインが重くなっている間、わしはレビテーションをかけ続けていたんじゃよ。力を測ろうと思っての。」
「そ、そうだったのですか!?それで、どうでした?」コルベールは目を輝かせて聞いた。
オスマンはただ首を振った。
「全力で持ち上げようとしたが、ピクリともせなんだ。底が知れんよ。」と背もたれに体をあずける。
コルベールは青くなった。あの大賢者と称えられたオールド・オスマンでもその力を測りかねるというのか。
「あの少年、何者なのでしょうか。『スタンド』とはいったい・・・」
自分達はひょっとして、生徒に得体のしれない「なにか」を押し付けたのではないだろうか。
オスマンはゆっくりと立ち上がると窓を開け、中庭を見下ろした。明るい太陽の光が差し込み、コルベールは目を細めた。
「『スタンド』とはなにか、彼がどこから来たのか。それはわしにもわからん。」
オスマンは何か遠くを見ているような目をして語った。
「じゃがのコンバートくん。あの少年は非常に澄んだ目をしておった。やさしく純粋で・・・まっすぐな目じゃった。ミス・ヴァリエールにとって害になることはあるまい、とわしは思うのぉ。」
そして振り向いて笑う。
「それどころか彼を召還したことは、彼女にとって・・・いや、もしかすると我々にとっても望外の幸運なのかもしれんぞ?」
コルベールは、そうだといいですけど・・・。と溜息をついた。
そして、私の名前はコルベールです。とだけ付け加えた。

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