ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔 第六章-05

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匿名ユーザー

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「そう、状況は最悪に近い、ということなのね」
 サウスゴータを偵察していた竜の偵察兵はロサイスにおいてアンリエッタに報告を行なっていた。件の発言は、報告を受けたアンリエッタがため息と同時に出した台詞である。
「女王様、畏れながら、最悪に近い、のではございませぬ。最悪なのでございます」
 側近のマザリーニが進言する。
 彼の言うとおり、事態は最悪、の一言で表された。
 全戦全勝を重ねてきたトリステイン・ゲルマニア合同軍は、アルビオン首都ロサイスの攻略の橋頭堡として、シティオブサウスゴータの攻略を行い、成功した。これがアンリエッタたちトリステイン首脳の、二日前までの認識であった。しかし、昨日急にサウスゴータに駐留していた主力の軍隊との連絡が途絶えた。不審に思った総司令部側が竜騎士を偵察に向かわせると……帰って来た報告は、兵のうち半数は霧散、残りは無言でロサイスに向かって進軍中、という信じがたいものであった。
「報告は本当のことなのでしょうか?」アンリエッタが問い詰める。問い詰められた若い竜騎士は、うろたえた様子で、ただ、事実です、と告げるのみであった。
 アンリエッタは唐突に思い出したように、
「そう、ルイズ達、あの町に使いを出した者たちは無事なのですか?」
「分かりません。詳細は何処までも不明のままです」マザリーニはそう答えるしかなかった。
 この時期のトリステインの指揮系統は致命的なまでに混乱していた。ロサイス攻略のため、正面戦力の大半をサウスゴータに駐留させていたのだが、その部隊が理由もなく行動を起こしたため、左右の陣の軍の連絡すらもまともに行なえなくなってしまったのだった。また、そのような報を受けても、前線にいたほぼすべての将校が、それをアルビオンの仕掛けた虚報、と受け取った。それほどまでに動いた兵士の規模が大きかったのだ。また、竜騎士からの報告を受け取ったアンリエッタとマザリーニも、今後どうしてよいか分からず途方にくれるばかりであった。
 トリステインにとって長い二日が過ぎた。が、その二日をアンリエッタたちは無為にすごすしかなかった。その日に、ようやく確かな報告が到着したのだ。
 サウスゴータに出したに出した偵察部隊の報告がアンリエッタ王女になされた。その者の言葉によって、ようやくトリステインは、サウスゴータでの出来事、を知ったのであった。
 凶報はさらに続く。
 敵軍であるアルビオン軍がロンディニウムから出撃、反乱軍と合流し、ロンディニウムにあと一日で到着する位置にいる、というものであった。まさに進退窮まる、という状況である。

「で、僕達はいつまでこうして進軍してりゃいいんだい?」ギーシュがうめくように隣のニコラに話しかけた。
「どうしろって、言われても。隙を見て逃げ出すに決まっているじゃないですか」
 ニコラも冷静を失った風に答える。どちらも、周りの兵士の流れに沿うように、ロサイスに向かって進軍していた。
「こうなったのはニコラのせいだぞ。どうしてくれるんだ!」
「静かに! 見張りのアルビオン兵に見つかったら元も子もありませんぜ」
「……ごめん」
 シティ・オブ・サウスゴータから進軍しているアルビオン軍の中に、かつてのトリステイン軍がいた。どの兵士も瞳から精彩が失われていた。
 いや、少なくとも二人、瞳が生き生きとしている者たちがいた。挙動は思い切り怪しかったが。それはギーシュとニコラである。
「そういえば、ニコラ。どうしてみんな操られてると分かったんだい?」
「瞳ですよ。戦争に行くやつはたいてい瞳が興奮で濁っていたりするもんでさ。でも、蜂起を起こした連中、こいつらですが、やつらはみんな瞳の色がひたすら暗かった。まるで生きていないようにね。だから、みんな正気で戦っているんじゃないんだと思いましたさ」
「ふ~ん。で、僕達はどうやってここから逃げ出すんだい?」
「……さあ」
「……おい!」
 アルビオン軍の進軍は順調であった。順調過ぎるといっても良い。
 ロサイスが視界に映るまで、一度たりともまともなトリステイン軍に出会わなかったのだ。そのため、かつてこの地を行き来したトリステイン軍とは違い、余計な消耗をせず、非常なる速度でロサイスに到着することができた。
 アルビオンの本営は、その言葉を聞いてほくそ笑んだことだろう。ロサイスにいるトリステインの陸軍は士気の低い敗残の軍である。それを破りさえすればアルビオンの勝利になるのだから。
 事実、そのときの港町ロサイスは戦意を失った傭兵が、我先に停留している船へ移乗しようと混乱の極みに達していた。このような状況において、アルビオン軍がロサイスに突入していたら、確実に勝利を得ることができていただろう。あるいは、アンリエッタ王女をも捕虜にすることができるかもしれなかった。
 だが、勝手は少しばかり違った。

 アルビオン軍の眼前に、突如として槍の先端を整えた歩兵の集団が出現した。
 歩兵だけではない。それを指揮するメイジや、狙いを構えた銃兵もいる。
 完全な装備を整えた五万のトリステイン軍であった。
「いつの間に?」
「早く戦列をしかせろ!」
 今まで行進しかしてこなかった、アルビオンの傭兵に動揺が広がる中で、指揮官のメイジは己の部隊を指揮することで精一杯の様子であった。それはそうだろう、彼らは、かつてこれほどまでに統制の取れたトリステイン軍とは戦ったためしがなかった。今、彼らの眼前にあるトリステインの陣形からは、無駄口ひとつ聞かれず、整然と陣形を形作っていたのだ。

 トリステイン軍の本陣に、一人の少女が突っ立っていた。軍隊を指揮するには不似合いなまでに幼い容姿の彼女は、一心に杖を振り、魔法を唱えていた。
「これで姫様たち、トリステイン軍の人たちがロサイスから撤退する時間は稼げたと思うけど……」
 魔法を唱え終わった少女、ルイズは一息つくと、誰ともなしに話しかけた。
「この後、どうやって僕達が脱出するか、考えていないんだろう?」
「おい、ブチャラティ。僕はルイズの使い魔になることは了承したが、こんなしけた所で無駄死にする事、まで良いとは行ってないぜ」露伴もため息をつく。
「だが、君はルイズのすること、したいことを最後まで見届けたいんじゃぁないのか? 何より逃げたいなら、ルイズがこの任務を自分から言い出したときに、アンリエッタと一緒に慰留するべきだった」ブチャラティがほほえましげに言い放った。
「ああ、そうだよ。最後かもしれないから本心を行ってやる。あの馬鹿娘がどこまで変なヒロイズムに浸れるか見てみたい気持ちがあったのは否定しないさ」
「ちょっと、よくも本人のいる前でそこまで言うわね」
「それに、ブチャラティ。君ならここからどうやって逃げ出すか、当りはつけているんだろう?」
「そんなものつけてはいないさ。ささやかな援軍くらいは頼んだけどな」
「考えてないのか?」露伴の驚きに、ブチャラティは微笑むだけだった。

「で、この後どーすんだ?」
「というか、この幻、いつまでもつんだ、ルイズ」
「あと五分、って所ね」
「じゃあ、あと五分のうちに何とかしないといけないってわけだな?」
「うん。でも、それはあっちが五分の間に何もしてこなかった場合の話。攻撃とかされたら、こっちは十秒と持たないわ」
 ルイズと二人がそんなことを話しているうちに、不意にアルビオンの陣の一角が騒がしくなった。見れば、なんと、たった二人だけだが、こちらに突撃してきているではないか。
「何、あれ?」
「まってくれ! おーい。僕らは敵じゃない」走りくる二人は必死に手を振りかざしてルイズのほうへ向かってくる。よく見れば、一人はギーシュであった。
「ギーシュ?! なにやってんのあんた!」ルイズは思わず彼の元へ走りよる。
「ハァハァ。僕達は今までアルビオン軍の元で隠れていたんだ。大変だったよ。ばれないようにするのはさ」肩で息をしているギーシュはそういうと、ルイズに向かってもたれかかる。その後、ルイズ達はトリステイン陣営に引き上げたが、それは傍目に見て、ルイズがギーシュを引っ張り込んでいるようにしか見えなかった。
「はぁ?ばっかじゃないの?」ルイズはあきれた。なんという大馬鹿、いや大物なのかこいつは?
 幻の本陣に引き上げたそのときになって、ルイズはアルビオンの陣営が騒がしくなっていることにようやく気がついた。
「どうなっているんだ?」「まさか、使者が捕虜に?」「許すまじトリステイン!」
わずかに聞き取れるのはこれくらいの者だったが、ルイズの危機感を増幅させるには十分だ。

「ま、まさか」血の気がサァッっとなくなるのという比喩が今のルイズには実感として理解できた。
「ひょっとして、僕をアルビオン軍の使者と間違えたのか? それでトリステイン軍に捕らえられたと勘違いしたとしたら……」
「やめろ。みなまで言うな」露伴の真っ青な顔というのも珍しい。
「使者殿を救え!」「突撃ィ~!」
怒号の響きと同時に、突如としてアルビオン軍が動き出した。
「やっぱりィ~!」露伴の絶叫が響き渡る。
「ギーシュの疫病神! どうしてくれるのよ!」
 ルイズの言葉に、ギーシュは何とか返答する。
「安心したまえ、諸君。こういうときのために、グラモン家に代々受け継がれてきた伝統の戦法があるんだ!」
「何? 打開策があるのならとっとと教えなさい?」
「もしかして……」
「逃げるんだよォ~」
 ギーシュはそういうと、アルビオン軍に背を向け、一目散に逃げ出した。両の手の先をぴんと張り出して。
「やっぱり~!」ギーシュについてきた傭兵が、悲鳴を上げながらギーシュについていく。

 そのときであった。
 ルイズの頭上に、早く動くものが現れた。
「まさかっ!」
「シエスタ?」
 かつてタルブの村で暴れまわった鉄の竜が上空を飛翔していた。突撃をせんと動き出した、アルビオンの騎兵に向けて機首を向け、閃光を放っている。
 その零戦は、幾度となく機首を地上に向けて、機銃を放っては飛び去っていく。そして遠方で振り返っては同じ動作を繰り返す。単純な動作であったが、アルビオンの軍にとっては脅威であった。とたんに戦列が崩される。魔法も幾度となく放たれたが、いずれも彼女の機影を捕らえることはなく、むなしく上空を飛び去っていくだけであった。

 突如として零戦の挙動がおかしくなった。いきなり片方の翼が吹っ飛んだのである。煙を噴いて降下し始める零戦。ちょうど、ルイズの走る先に、竜は不時着する。
「ちょっと失敗しちゃいました。テヘッ」
コックピットから這い出てきたメイド姿の少女は、恥ずかしそうに自分の拳骨でおでこを軽く叩いて見せた。ここが戦場とは思えぬ陽気さであった。
「アカデミーで行なった応急修理が不完全みたいだったようですね」
 冷静に事態を分析してみせるシエスタに、露伴以下、ルイズたち総勢が突っ込んだ。
「今はそういってる場合じゃないでしょ! 逃げるのよ」
「いえ、その必要はもうないですよ?」
 シエスタが逃げる先を指差す。その先はロサイスである。すでに町並みが見える距離に来ている。
 だが、彼女が言いたいのはその町の事ではなかった。
 ロサイスの町上空に、大量の戦列艦が浮いていたのだった。
「ブチャラティさん。王女様が用意した援軍です。私は先駆けでしかありません。さあ、ゆっくりとロサイスに帰りましょう」
 シエスタは、唖然としているみなを見て、にっこりと微笑んだ。

「ようこそ戦場へ、ルーキー共」指揮所にいるボーウッドは誰ともなしにつぶやいた。
 ロサイス近空でアルビオンの主力を打ち破ったトリステイン空軍にとって、任務はその時点で終わったといっても良かった。主な敵が消滅したのだから。彼はロサイスの港で暇をもてあます日々を送ることになっていた。
 本来、空海戦でしか使用しないフネの砲撃を利用することを考えたのはボーウッドであった。彼は迫りくるアルビオン陸上軍にたいし、砲撃戦を行なうことを考えたのだった。
 ロサイスの上空に陣取ったトリステインの戦列艦にとって、竜騎士を欠いたアルビオンの陸上軍を狙い撃ちすることは児戯にも等しかった。
 結果からすると、アルビオン軍は撤退した。あくまで崩された体勢を立て直すための撤退である。ロサイスを落とす意思は微塵たりともゆらいではいない。
 しかし、トリステイン軍にとってはそれで十分であった。その時間を利用して、全トリステイン軍の乗船に成功、撤退に成功したのだ。それで、女王が捕虜になる、という最悪の事態も避けることができた。トリステインにとっては大勝利であった。
 半日後、態勢を立て直したアルビオン軍は、ロサイスを占領した。だが、その町にはトリステインの兵士は一人もいなかったのだ。
 輿に乗って町に入場したクロムウェルは、歯軋りした。アルビオンには、トリステインを追撃できるだけの船が、もはや残されていなかったからだ。
 そのとき、百隻近い戦艦が、ロサイスの港に来た。いずれもガリアの国旗を掲げている。
 指揮所にいるクロムウェルは歓喜した。これで勝てる!
「おお、シェフィールド殿! こんなところにいましたか!」喜びに満たされたクロムウェルは、一人の少年が近づいてくるのに気がついた。
「やあ、クロムウェル。ガリア王からの伝言だ」
「伝言? 今は一刻も早く、あの艦隊に追撃の命令を下してくだされ。それでわが帝国は安泰ですぞ!」
「なに、『ならばよし。華々しく散ることも戦の華だ』との事です」
 少年はそういうと、手に持った鏡を高く掲げた。
「なんですと……?」
なんだとクロムウェルが思うまもなく、少年、シェフィールドの姿は消え去った。
 その瞬間、彼の姿がいたところへ、何千発もの大砲が振りそそいだ。ガリアの戦艦からの砲撃であった。その砲撃によって、クロムウェルの命は絶たれた。

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