ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔 第六章-04

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匿名ユーザー

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 アルビオン沖での『決戦』から一ヵ月後。
「しっかりと戦場になっちゃったわね」
 ルイズは自分にあてがわれた女官専用の天幕の内側でため息をついていた。
 ルイズが今着ているマントは学生のそれではなく、トリステイン王家の百合紋章がしっかりと描かれている。ここは戦地。アルビオンの人間と見間違われては困るのだ。
「ここはすでにアルビオンだからな」
 ブチャラティが応じる。彼の言うとおり、ルイズたちは港町ロサイスに駐屯しているトリステインの軍隊と行動をともにしているのだった。
「だが、アルビオンにきたのはいいとして、ここ一週間、君にまったくお呼びがかからないじゃないか。別にどうだっていいが、僕たちは実は用済みなんじゃないのか?」
「そうね、でもそれはよいことだわ、露伴。トリステイン軍が、虚無という特異な力を必要としていない程度には優勢、ということだから」
 露伴はほほう、とうなずいた。
「だいぶしおらしくなったじゃないか。てっきり『私の出番がないじゃない』とわめき散らすとばっかり思っていたよ」
「私もね、いろいろ思うところがあるのよ。コルベール先生のこともあるし、ね」
「コルベールが死んだのは意外だったな、俺にとっては」ブチャラティがうなずく。
「それは僕もだ。あの男はこれから何かをしでかしそうな優秀そうな男だったんだがね」
「そうなんだ、二人ともコルベール先生の評価高いわね。私は、あの先生は愉快な先生だとは思っていたけど、そこまでの人とは思わなかった」
「人の評価なんてそんなものさ」
「でも、悔しいわ。私だけがあの先生の真価を見抜けなかったみたいで」
「気にすんな、ルイズ。何も僕たちの評価が正しいと決まったわけじゃない。君の意見のほうが正しい可能性もありうるんだ。ま、今となってはもう何もわからないがぁね」
「そう、ね。もう、わからないのね……」
 ルイズの声が湿っぽくなっていく。コルベールの死がそれほどまでにこたえたのだった。戦争で死ぬのならまだいい。周りからは名誉といわれるのだから。まだ死が納得できる。でも、コルベールは乱入者に殺されたのだ。こともあろうに、生徒を守ろうとして。たぶん周りの大人は犬死だと思うだろう。メイジ崩れごときに競り負けた間抜けの一人として忘れられていくに違いない。そう思ったら、ルイズはなんだか泣きそうになってしまった。
「そういえば、君たちは幻を見ていたんだったな。ミョズニトニルンだったか」露伴は言った。
「そうだ、名前はドッピオ。俺のかつてのボスだった男だ。正確にはボスの分裂した精神の人格の、片割れのひとつだ」
「ふ~ん、ブチャラティとの縁か、それは、やはりパッショーネの?」
「ああ、その関係だ」
 一筋の風が天幕を通り過ぎていった。気がつくと天幕の入り口が開いている。風はそこから来たようであった。見ると一人の男が入り口にたたずんでいる。
「ミズ・ヴァリエールの天幕はここでよいのか?」その黒髪の男はいった。
「ああ、ところでお前は何者だ?見たところトリステインの兵士ではなさそうだが」
 ブチャラティの言うとおり、彼の姿は兵士の服装ではない。かなり軽装だが、杖を持っていないのでメイジでもないだろう。何より、ぱっと見た目は無武装である。
「失礼、自己紹介が遅れた。私はロマリアからの義勇兵でね。竜騎士を務めているものだ。名を……念のために偽名を名乗らせてもらおう。ジュリオ・チェザーレとでも名乗っておこうか」
「怪しいな」露伴が言った。
「いぶかしむのは結構だが、私は命令を伝えにきたのだ。君たちがトリステイン軍の命令を無視したところで俺に何の痛痒もない」そういってロマリアの竜騎士は一通の命令書をルイズに手渡した。
「至急女王の元へと出頭せよ、とのことだ。案内役は私が勤める」
 女王の天幕へとついたルイズ達は、アンリエッタに挨拶を行なった。
「ありがとう、ミスタ・ジュリオ。下がっていてください」
「了解した」そういうと男は音もなく天蓋を去っていった。
「あの男は一体何者なんだ?」
「ブチャラティさん、あの人はロマリアからの義勇兵です。身元は法王庁が保証していますわ」
「ところで、何か御用でしょうか、アンリエッタ姫様」とルイズ。
「ええ、今日私の女官が新しく来たのであなたに会わせようと思って」
「女官?」露伴が言う。
「ええ。あなた方全員、よく知っているひとよ」アンリエッタはそういって手を叩いた。
 一人の女性が静かに天幕へと入ってくる。
「シエスタじゃないの」
「シエスタか」ルイズとブチャラティが同時に驚いた。
「はい。新しく貴族になった私ですが、魔法も剣も使えないので、それならばと女王様が配慮してくださったのです」

「そういうことね。ルイズ。あなたやシエスタ、ブチャラティ、露伴は一緒になって、アカデミーの研究員の位を与えることにしたの」
「何か研究をするんですか?」
「いいえ。ちなみに、他のアカデミーのセクションとは違って、女王の直属機関にしてあるから、安心して」
「姫様のみ心のままに」
「ああ、それとお使いを頼もうとしていたの。あなたも天幕暮らしは飽きたでしょう?行楽がてら、私の変わりに戦勝祝賀会に参加してほしいの」
「わかりましたわ。女王陛下。私は任務を立派にこなして見せましょう」ルイズは元気一杯、胸を張って答えた。

 その会話から一昼夜過ぎたころのサウスゴータの町では、町の有志の手により、早くも復興作業が始まっていた。その作業には、町を勝ち取ったトリステイン軍の人間も加わっていた。その中にギーシュの部隊も加わっていた。
 半分仲間と談笑しながら作業していたギーシュは、町へ、外から騎馬で向かってくる一団に気がついた。見る見るうちにギーシュが整備している町の正門に入ってくる。
「ルイズじゃないか」町に接近している影は、シエスタと別れたルイズ一行であった。護衛もついている。が、なぜかルイズは不機嫌な様であった。
「聞いたわよ!サウスゴータの戦いで、最初に突出した部隊ってあなたたちじゃないの!」
「まあね。おかげで勲章者さ」フフンと笑う(元首相じゃないよ!)ギーシュと対照的に、ルイズはプリプリと怒っていた。
「バカッ! 結果的には快勝したけど、下手したら軍そのものが壊滅してたかもしれないのよ!」
「あっそ」ギーシュは鼻ホジホジ。
「なにそれ! 女王直属の女官に向かって! 軍法会議ものよ! きー!」
「うるさいな! 遠征軍一の果報者に向かって!やれるものならやってみろってんだ。バーカ、バーカ!」
「絶対、ずぇったい、姫様に言いつけてやる!」
 そうやって煙を吐くルイズに対し、ギーシュは疑問を口にした。
「っていうか、何でルイズがこんなところにいるんだよ?!」
「姫様に代わって、わ た しがあんたに勲章を授けるのよ!ふん!感謝しなさいよね!」
「ぐ! ルイズなんかに頭を下げなくちゃならないのか!」
「子供の喧嘩だな」露伴が言う。
「ああ、仲がよさそうで安心したよ」ブチャラティも嘆息した。
「何処が仲良さそうよ(だ)ッ!」と二人のハーモニーが一致した。

 その日の夕、サウスゴータの町の広場にて、戦功を上げた戦士へ勲章の授与の儀式が執り行われていた。執行人は、アンリエッタの代行、ルイズである。
「ギーシュ・ド・グラモン」ルイズは壇上で言い放った。
「ここに」ギーシュが緊張の面持ちとともに進み出でる。
「あなたはサウス・ゴータ攻略戦において、多大なる戦果を敵に与えました。よってここに勲章を下賜します」
 会場に詰め掛けた軍人がワッとどよめく。おそらく、ギーシュと一緒に戦った彼の部下もいるのであろう、ところどころから「ギーシュ様万歳」との掛け声が聞こえる。
 ルイズがギーシュの胸のところに勲章をかけたとき、ひときわ大きな歓声が上った。そのとき、見慣れぬいかつい戦士がギーシュの肩を組んでうれしそうに話しかけた。
「お兄様! なんでこんなところへ!」
「かわいいギーシュ坊やが出世したって言うんじゃぁ、グラモン家の頭領としての誉れだ。そんな儀式に我々も参加するって言うのは礼儀じゃないか」 
「それにしてもあのギーシュが! あの泣き虫のギーシュが! 勲章なんていただけるなんて。信じられないなあ、いやそういうのは戦士に対する侮辱か。ハハハ」
 ギーシュは照れた。誰が見てもそうであった。
 ルイズはその様子を見て、なんだか照れくさくも、とてもうらやましくもなってしまったのであった。

 サウスゴータから徒歩で半日の距離にひとつの水源がある。周辺人口一万余の飲み口はこの湧き水に一手に任されていた。当然、サウスゴータの町も例外ではなかった。
ガリア王国の王女、イザベラはこのような地で、供も連れずたった一人で息を殺していた。そこにひとつの影がやってくる。男である。
「確かこうやって……」
 その男が水源にひざまずき、右手を差し入れると水源は紫色に妖しく光る。
イザベラはほくそ笑んで、その人影に向かって声をかけた。
「わざわざご苦労だね、ドッピオ」その人影はあせった風に振り返る動作を行なう。
「これはこれは王女様。アルビオンのこんなところまでどんなご用ですか?」イザベラは話しかけられた相手が全くの動揺していないのを見て、少し癪に感じつつも話を続ける。
「私はどうせ親父に疎まれた存在さ。それよりも親父の懐刀で『ミョズニトニルン』のお前がこんな夜に何をしでかそうってのさ」
「か、観光ですよ。観光。このあたりは水がおいしいと聞いているので」
 観光だって。何でこの男はこうもあからさまな嘘しかつけないんだ? イザベラは正直半分あきれながらも、そのような人材しか寄せ付けない父親に少し親近感を抱いた。
「下手なうそをおつきではないよ馬鹿野郎。親父たちの策はとっくにお見通しってわけさ」
 噴出しそうになるのをこらえながらも、イザベラはなおも詰問口調で詰め寄る。ここが肝心なのだ。
「ほ、本当ですか?」
 ドッッピオは傍目にも不自然に思えるほどうろたえだした。面白いね。
「そうさね。あんたが今持っている水の指輪。それで悪さをしようってんでしょ?」
「え~。それは黙っていてくれませんか。ばれたのがばれると、僕が王様に叱られます」
「そんなこと知ったこっちゃないよ」イザベラは、ふふん、と鼻を鳴らした。
「黙っていることであんたに借りをつけてやるってのもいい考えだね」小動物をいたぶり遊ぶ猫の目をしながら、しなやかに、イザベラはいった。
「で、何のようです。たとえ王様の娘とはいえ、邪魔はさせませんよ」
「いや、あたしは手伝ってやるだけさ。親父とあんただけじゃ不安だからね」
 そういって得意そうに片手をドッピオに向けた。本当はその手にキスをしてほしかったのだが、ドッピオは不思議そうな顔を一瞬した後、得心が言ったような表情をして、握手を交わしたのであった。
「ロマンが分からない男は、ホンット、馬鹿よね」イザベラは、ため息をひとつ、ついた。

 突然だった。
 ルイズは己の拝命を果たした後、復命する前にサウスゴータの町で一泊し、英気を養っていた。その日のうちに町を出るには日が翳りすぎていたし、ルイズに余計な体力を使わせないようにとの、アンリエッタ女王の配慮もあった。
 しかし、その思慮も裏目に出る。
 突如、サウスゴータの町に駐留していたトリステイン軍の警邏兵が反乱を起こした。
 サウスゴータの町そのものは、先日アルビオンから奪取したばかりの新鋭の町である。当然、トリステインの兵士にとっては地理に詳しいわけがない。それに加え、反乱を起こした兵は真っ先に、サウスゴータの町中央に設置された軍司令部を大砲で吹っ飛ばしたのだ。トリステイン軍の、サウスゴータにおける統制は完全に失われた。
 後に残るは阿鼻叫喚。広がるは炎の独壇場であった。
 ルイズが宿屋の二階にて目覚めたのは、そのような状況下であったのだ。
 女王の元からともにきていた護衛兵はすでに失せ、残るはうかつにも宿屋で安眠をむさぼっていたブチャラティと露伴のみ。
「何事よ! ギーシュの兵達はなにやっているの?」ルイズが宿屋の二階から表通りの様子を見る。そこには、家財道具を抱えたサウスゴータ市民やら、トリスタニアから慰問に来ていたトリステインの民間人やらが、絶望的にまで混乱した様子で逃げ惑っていた。彼らの行く先も様々で、正直どの人の流れが町の外へと続いているのか、ルイズ達には分かりかねた。
「仕方ないだろう。ギーシュたちだけに責任はないんじゃないか? 正直俺には、何が起こっているかわからんが」ブチャラティがルイズに近寄って、言った。露伴も同意する。
「うん。僕もブチャラティの意見に賛成だ。サウスゴータの町は確か人口は一万を超えてるはず。その町の中がすべてこのようなことになっているのなら、トリステインの兵だけでは何もできないだろう」
「どうするの、私達。このままじゃ火事で焼け死んじゃうわ。それか反乱?兵に殺されちゃうわ」
「どちらも面白くない展開だな」露伴はうなずいた。
「策は二つだ。情報を得ることを優先するか、それとも真っ先に町を脱出するか」

 どちらにせよパニックとなった人の波とは一線を画したほうがよさそうね、とルイズは考えた。が、そうは思ったものの、実際の行動が思いつけない。心臓がバクバクする。手に力があふれすぎている。どうしてよいやら分からない!
 だが、ルイズは二人の使い魔の主人なのであった。ルイズは震える声で言った。
「とりあえず、外に出るわよ。ちょっとは情報も増えると思うわ」
 外に出た三人を待つものは、逃げ惑う一般人の悲鳴であった。何処かの区画が燃えているらしく、真夜中というのに空が赤く染まっていた。
「耳を澄ませてみろ、ルイズ、露伴。西のほうから剣戟の音が聞こえてくるが、喚声は全く聞こえない。これは明らかに異常だ」
「うん。火の勢いも主に西から出ているようだな」
「これはスタンド攻撃かしら?」ルイズの疑問には露伴が答えた。
「分からん。が、僕の考えでは、違う気がする。スタンド攻撃にしては現象が原始的過ぎるしな。何らかの魔法じゃあないか?」
「でも、こんな魔法なんて、私は知らないわよ!」
「ルイズが知らないなら、五大魔法の可能性は非常に低いな。でも、魔法は魔法でも、君達は詳しくないものがあるだろう?」
「まさか、先住魔法?」
「どちらにせよ、未知の力と思っていたほうがよさそうだな」
「で、どうするかだ。僕は逃げるより先に現場を見て何かしらの原因を探ったほうがいいと思う。逃げるのはそれからだ」
「だが、もし無差別攻撃型の類だったら、その好奇心が命取りになる可能性もある」
「しかし、だ。ブチャラティ。今は何が起きているかを少しでも知っておかなければいけないと僕は思う。闇雲に逃げるだけではパニック起こしたやつらと変わらん」
 そして露伴はあたりを注意深く見渡した。
「そして何より、この謎現象を自分の目で確認しないと……」
「しないと?」ルイズの声とブチャラティの声が重なる。
「僕の気が収まらん」
「あきれたやつだな。だが、一理はある」三人の方針は決まった。

 司令部に向かった三人は、その惨状に唖然とした。
「何だ……これは」
 そこにあった光景は、目を覆うよう悲惨ななものであった。
「おい、やめろ!」そういう傭兵に向かって。無言で切りかかる、同じ傭兵。
 攻撃を繰り返しているものは、よく見ればごくごく少数の者達であったが、誰も彼もも無言で、目の死んだような顔つきで進軍していた。いずれもトリステインが雇った傭兵である。
「裏切りか!」
「それにしては様子がおかしい」
「何らかの不思議な力によるものかしら?」ルイズは答えた。正直怖い。あたりにはまだ反乱兵はいないが、ルイズ達が見つかるのは時間の問題だろう。
「そうと分かったらさっさと逃げよう」露伴の提案に、二人は同意した。
「そうしましょう」

 ルイズ達は、反乱兵に見つからないように、東に逃げていると。
「視界が悪い。火事の現場が近いのか?」
「煙のせいか……視界は三メートルくらいしかないな」
露伴の言うとおり、白い霧のようなものが辺り一帯に充満していた。
「しかし、この辺は都市区画ごと吹っ飛ばされているじゃないか」
 露伴の言うとおり、その周囲は建物が倒壊し、上空の視界だけはひらけていた。ときおり、通りの向こう側から、
「正気に戻れ」などという声が叫ばれている。
 だが、向こう側の人々は聞き入れないようである。その声は小さくなっていったが。

「ちょうどよかった!お前達は正気なのか?」
 そのとき、一人の傭兵らしき人物が話しかけてきた。
「私達は大丈夫よ。それよりあなたは大丈夫?」
「なんだか、味方の連中が突然刃を向けてきたんだ! 俺なんか、ほら」
 その男が見せつけていた腕には、酷い裂傷があった。
「ひどい傷……」
「な? 反乱した兵士はみんな目が死んだような顔してるんだ。なんとも気味が悪りぃ……あれ?」
 急にその男の動作が鈍くなっていった。
「どうした?」
「体が、勝手に、動く?」男の目が驚愕に見開かれた。男が持つ剣が、ルイズの頭上に振り上げられる。
「ルイズ危ない!」ブチャラティがとっさにかばったためにルイズは無事であったが、ルイズは突然起こったことに頭がついていかない。さっきまで友好的だった人がいきなり刃を向けてきたのだから。

 突然煙の中から女の声がする。
「ちぃ、惜しいね。やっぱり意識があるやつは反応が遅くて困るよ」
 ルイズがその方向を向くと、煙の中からゆらりと小さな影が出現した。
「あなたは?」
「私はガリア王国の王女、イザベラであるぞ」
 果たしてそれはイザベラであった。
「ガリアの王女? 何でここに?」
「わたしはアルビオンのあまりのふがいなさに見ていられなくてねえ」

「加勢しようってわけさ!」
 イザベラのふる杖が振り下ろされると、小さな水の塊がルイズに向かって飛んで行った。
「危ないッ」
 すんでのところでルイズはよける。塊が小さいのと、飛ぶ早さが遅かったのが幸いした。塊もルイズの背後であっという間に蒸発していった。
「あんたみたいなのが加勢ですって? 笑っちゃうわ。魔法もろくに唱えられないじゃない」
 イザベラの目が据わった。
「お前、私を馬鹿にする気?」
「単に事実を述べただけよ」
「そういう態度はね、寿命を縮めるよ」

 凍りついた笑みを浮かべるイザベラの背後から、多数の兵士がやってきていた、どの兵士もトリステインの兵士である。
「これはお前の仕業か?」
「半分正解だね。でも、そんなんじゃ得点はあげられないよ!」
「何だと?」
「兵どもを最初に操ったのは私じゃないさ」
 得意顔になったイザベラの言葉とともに、目の死んだような男たちがルイズ達に攻めかかる。動揺している男の傭兵も露伴に襲い掛かっていた。
 それを、二人の使い魔は自分達のスタンドを出して防衛しようとする。
「ヘブンズ・ドアー!」
「ステッィキィ・フィンガーズ!」
「ブチャラティ、バラバラにしては駄目! 相手は味方なのよ!」
ルイズがとっさに叫ぶ。その声に動揺したブチャラティは、彼らの攻撃を受け止め損ねてしまった。ブチャラティの頬に、剣で浅い傷がついた。 
「かかった!」イザベラが叫ぶ。
 その声とともに、周りの白い霧がブチャラティにできた傷に入り込んだ。
「何?」ブチャラティが驚愕の声を上げる。
 ブチャラティの動作がぎこちなくなっていき、最終的には動かなくなってしまった。
「これで、人形の出来上がりさ」イザベラがほくそ笑む。
「あなた、ブチャラティに一体何をしたの?」ルイズは叫ぶように言った。
「気になるかい?そうだろうねえ、あんたも同じくガーゴイルになりな!」
 イザベラが指をぱちんと鳴らすと、ルイズの周囲にいた兵士が、いっせいにルイズに飛び掛ってきた。
「何をやっている! 逃げるぞ!」今度は露伴がルイズを押し出した。
「逃げるの? でも、ブチャラティが!」走りながらルイズは聞いた。
「そんな暇はない! 今はお前の身の安全を確保するのが先だ!」
「そうだ! 俺にかまわず逃げるんだ!」背後からブチャラティの叫び声がする。
 だがしかし、ブチャラティの声は遠くならず、逆に二人に近づいてくる気がした。
 ルイズは振り返った。
 ブチャラティが、背を向けた姿勢で追いかけてくる!
「どうしたって言うの?」
「ルイズ、走りながら聞け! ブチャラティはイザベラに操られている! あの霧を体内に入れるとお前でさえ同じように操り人形になってしまうぞ!」

「じゃあ、ブチャラティを救わないと!」
「それは僕に任せろ。隙を見て、『天国の門』で操り状態を解除してやる」
「できるの?」
「できるかも何も、やらなくちゃしょうがないだろ!」
「分かったわ! 私は何をすればいい?」
「この作業には囮が必要だ」
「うそっ!ちょっとそれはっ――」

 イザベラは悠々とサウスゴータの町の中央街を歩いていた。供は一人もつれていない。こんな気分のいい日に、口うるさいおつきのものなど連れて行く気にはならなかったのだ。もっとも、この場所においては、連れて行く気になっても、無言の連中しか連れて行けなかったが。
「さて、人形ははアイツらを追い詰めたようね」
 そういって目を向ける視線の先には袋小路にたつルイズと、進路をふさぐようにたっているブチャラティがいた。
 ルイズがまず口を開いた。
「あなたの操る力もそんなにたいしたものじゃないわね。ブチャラティは、あなたがここに顔を出すまで、私に何もしなかったわよ」
「ふん。そういきがっていればいいさ。これからあんたはガリアの王宮に来てもらうよ。何せ親父とドッピオはあんたに御執心のようだからね。ここで私の手柄になってもらうよ」
 ルイズは叫んだ。
「どうして? 私のためにここまで町を破壊したとでも言うの?」
「ふん、うぬぼれるんじゃないよ。この作戦はあくまでアルビオンにちょっかいを出すためさ。あたしはその話に乗っかっただけさ」
「ドッピオはガリア王と関係があるのか?」
「そうさ、ブチャラティとやら。アイツはガリア王の懐刀だよ。平民だけど」
「やつはガリアのもとで働いているのか」
「余計なおしゃべりはここまでだ。あんたも面白いからついてきてもらうよ」
 その瞬間、物陰に隠れていた露伴が飛び出し、イザベラの元へとダッシュする。だが、イザベラは動じない。
「ふん。予期してないとでも思ったかい! 人形!」
 岸辺露伴はブチャラティの手によって、あと少しのところで羽交い絞めにされてしまった。
「あんたのスタンド能力はドッピオのやつから聞いているよ。あんたの能力は危険すぎる。お前はここで死んでもらうとしようかねえ」
「そいつは笑えない冗談だな。だが、果たしてお前にそんな大それたことができるかな?」
「ハッ、あんたの漫画が面白いのは認めるが、あんたを殺すのが大それたこととは思わないねえ。強がるのもたいがいにしな! お前は手が出せない。それとも、あのルイズとか言う娘っこが何かするとでも言うのかい! 笑わせるねえ」
「残念だが、その通りさ」露伴はそういい、なんと、目を思いっきり閉じた。
 イザベラがルイズの方向を見ると、彼女はまさに詠唱を終えた状態で、イザベラたちのいる方角に向かって杖を振り下ろさんとしていた。
「いまさら何をしようって……」
 ルイズははなったのだ。虚無の魔法、『エクスプロージョン』を。


~~~
「僕が囮になってイザベラに突撃する。僕の攻撃が成功すればよいが、失敗する可能性もある。そうなった場合には君があの『エクスプロージョン』を唱えてすべて吹っ飛ばせ」
「でも、私のあの魔法は人体には利かないわよ」
「それでよい。アレは魔法のつながりとかを爆破する作用があるはずだ。あいつの使うスタンドは魔法にきわめて近い。だから必ず利くはずだ」
「わかったわ」
~~~


 轟音があたりを覆いつくす。
「何よ!」突然の衝撃にイザベラは戸惑った。しかし、彼女が思っていたのとは違い、外傷はない。だが、彼女の自慢の『人形』は、なぜかもう操作できなくなっていたのを感じていた。
「形勢は逆転したな……」ブチャラティがつぶやく。
 その声に、イザベラは思わず後ずさる。
 だが、ブチャラティたちはそれ以上イザベラの元へやってくる気配がない。
 イザベラが振り返ると、傍にドッピオがいた。
「イザベラ姫様、形勢は逆転しました。ここは一旦退却しましょう」
「何だって言うんだい! ここまで追い詰めておいて!」
ドッピオは、ブチャラティ達がいないかのように話を進める。
「ここでの目的である、トリステイン軍の仲間割れはすでに達成しました。それ以上の戦果を望むのは強欲というべきです」
「……チッ、分かったわよ」
 イザベラはそういって、ドッピオとともに、その場を立ち去ろうとした。
「待て!」ブチャラティの静止の声には、ドッピオが応じる。
「勘違いするな。この場は逃がしてやるだけだ……今の私の装備ではお前を殺しきるのは難しいからだ……勘違いするな、お前は私のボスに生かされているのだ……ボスに殺されるまでな……」そういって、ドッピオは煙の中に姿を消した。いつの間にか白い霧は、普通の黒い煙に変わっていた。

「どうする?」ルイズが聞く。
「追いかけるのはやめておこう。まだ謎の力によって操られている兵士がいるはずだ。そいつらに襲われる前に、この町を退散しよう」
 ルイズ達三人は、今度こそ、サウスゴータの町から脱出したのであった。

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