ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

事件! 王女と盗賊……そして青銅 その②

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匿名ユーザー

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事件! 王女と盗賊……そして青銅 その②

品評会当日ッ!
トリステインに咲いた美しき白百合、アンリエッタ姫殿下は最前列の席に着いていた。
使い魔の品評会を素直に楽しむ気持ちもあったが、彼女はそれ以上にルイズとその使い魔の活躍を期待している。
あの使い魔は人だった。
でも使い魔でもある。
いったいどんな特技や能力を持っているのだろうと思うと胸がワクワクした。
そして品評会が始まる。その裏で静かに進行する計画に誰も気づく事なく。

魔法学院任二年生のみんなは、各々個性豊かな使い魔に様々な芸をさせて観客を沸かせる。
観客は王女の他に学院の教師と、学年の異なる生徒達だ。
王女の周囲には常に複数の護衛がついている。
王女が連れてきた護衛と、学院を守る衛兵、双方が協力し合っている。
当然の事だ。それだけ王女の身の安全が重要なのだから、学院の警備よりも……。

ルイズはクラスメイト達が次々と使い魔に芸をさせる姿を見て、ちょっぴり不安になる。
ずいぶんと自信ありげな承太郎だが、いったいどんな芸をやるかは知らないからだ。
異世界の道具を使ったすごい芸とは解っていても、やっぱり知っておきたかった。
ギーシュの番になると、彼はヴェルダンデと一緒に薔薇まみれになってポーズを取った。
それだけだった。
さすがにアレよりはマシだろうと思い、ルイズは少し気が楽になる。
多分一番マヌケな芸をしたのはギーシュとヴェルダンデに違いないだろう。
ちょっぴりいい気分になるルイズだった。
そしてタバサの番になると、見事な風竜にみんな感動していた。
風竜シルフィードは軽やかに空を舞って見せ、
実力未知数の承太郎を除けばタバサの使い魔が優勝だろうとルイズは確信した。


「さて、いよいよ俺達の出番か……」
自信満々に舞台に上がる承太郎と、さすがに使い魔が人間って事でちと恥ずかしいルイズ。
やはりというか、使い魔が人間である事にアンリエッタ姫の護衛達は驚いた。
「こ、これが私の使い魔でジョータローといいます。種族は、その、人間です。
 それじゃ、ジョータロー。芸、やって」
おどおどした様子のルイズに対し、承太郎はしっかりと胸を張ってズイッと一歩前に出た。
そして懐から小箱を取り出し、白いスティックを出す。
それを見て、ルイズはなぜか嫌な予感がした。
「これはタバコと言って……俺の故郷にあるパイプの一種だ。
 火を点けたらタバコの先端の温度は600~900度にもなる。
 それをよーく踏まえた上で……見てもらおう」
承太郎は一度にタバコを五本も取り出し、全部咥えて先端に火を点ける。
五本のタバコから煙が上がる。なるほど、確かにパイプの一種らしい。
「ここからが本番だ……目を離すなよ」
承太郎は舌や唇を器用に動かして、五本のタバコを『下唇』と『歯』の間に挟んだ。
そして大きく開かれた承太郎の口に、タバコがゆっくりと倒れていく。五本すべて。
パクッ。タバコが倒れると承太郎は口を閉じた。
するとタバコの煙が、承太郎の鼻の穴からモクモクと出てくるではないか!
「おおっ」という歓声が少しだけ上がった。ほんと、少しだけ。プラス失笑が少々。
だが……承太郎の芸はこれで終わりではなかった!
承太郎は学ランの内側からワインのビンを取り出し、
ニヤリと笑って見せてから一気にワインをあおった!
グビグビと音を立て承太郎ののどが脈打つ。確実に承太郎はワインを飲んでいた。
しかしそれでも! 承太郎の鼻から出る煙は止まらない!
つまりッ! それが意味する事はッ!!
承太郎はゆっくりと口を開け、五本のタバコを外側に倒した。
再び承太郎の唇に咥えられたタバコの先端、実に五本すべてから、まだ煙が出ている。

そうッ! 承太郎は『口の中のタバコの火を消さずにワインを飲んだ』のだッ!!
    ドッギャ―――――z______ン




あ……ありのまま、今、起こった事を(心の中で)話すわ!
『ジョータローがタバコを咥えたと思ったら、それを口の中に入れてワインを飲んだ……』
な……何を言ってるのか解らないと思うけど、私もそれが何なのか、よく解らなかった……。
頭がどうにかなりそうだった……。
異界の道具だとかとっておきの特技だとか、そんな次元のものじゃあ、断じてない。
もっとも下らないものの片鱗を味わったわ……。
by ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール

皆、ルイズと同じ感想なのか、
承太郎の隠し芸がどういうものなのかいまいち理解していなかった。
首を傾げたり、隣の人に「あれは何をしたんだ?」と質問してみたり。
その気まずい雰囲気を読んだのか、慌ててアンリエッタが拍手を送る。
王女が拍手するなら、と他のみんなも拍手する。
あまりにも痛々しい同情の拍手を浴びせられたルイズは、
あまりの恥ずかしさに死にたくなった。でもこの場で死ぬ訳にもいかない。
お辞儀をして、ジョータローの学ランを掴んで、舞台から引っ張り降ろして退散。
こうしてルイズの品評会は終わった、色んな意味で。



逃げるようにして会場から離れつつ、ルイズは怒りの丈をぶつけていた。
「何なのよアレは何なのよアレは何なのよアレは!」
「……とっておきの隠し芸だったんだが……やれやれ、受けなかったな」
「あんな……あんな下らない事を! よりにもよって姫様の前でッ!
 あの痛々しい同情の拍手……ああ、もう恥ずかしくて死にそうだわ!
 何であんな下らない隠し芸なんかやったのよ!」

「……今回は俺のミスだ。やれやれ……重要な事を忘れていたらしい。
 この世界には『紙タバコが普及していなかった』という現実をな。
 つまり、あの隠し芸の『すごさ』を理解できねーってのは仕方ねーってこった」

「反省するところが違ァーう! あああ、あんた、馬鹿じゃないの!?」
「……やれやれだ。さすがに今回ばかりは俺の『自信』てやつがブッ壊れそうだぜ」
「勝手にブッ壊れてなさいッ!!」
怒鳴り散らしたルイズは、プイッとそっぽ向いて中庭の方に歩いて行ってしまった。
五階に宝物庫がある本塔に隣接する中庭に……。

ルイズを怒らせてしまった承太郎は、気分治しにとタバコを一本取り出した。
せっかく奮発してタバコを五本も使った芸をやったというのに、全然受けなかった。
タバコを無駄に消費してしまった事を悔やみ、せめてもの気晴らしに普通にタバコを吸ってくつろごうと思ったのだ。
――と、そこにギーシュがやって来た。
「ジョータロー……一人、かい?」
「……今は表彰式の最中のはずだ。こんな所で何をしている?」
「だって、優勝はタバサに決まっちゃったし、それに……気になって」
ギーシュは恐る恐る、ジョータローの顔を見上げた。
「どうして……品評会に参加したんだい? あれだけ嫌がっていたのに……」
「……何もダチの前で恥をかく事はねー、そう思っただけだ。
 もっとも結果的には恥をかかせちまったがな……」
「そ、そう。その、個性的な芸だったね。……ダチって誰だろう……?」


終始おどおどとした口調のギーシュを見て、承太郎は溜め息をついた。
「賭けの邪魔をした事なら、俺はもう怒っちゃいねー。警戒する必要はねーぜ」
その言葉を聞くと、ギーシュは驚いて目を丸くした。
「お、怒ってない? 本当に?」
「……まあな」
答えながら承太郎はタバコに火を点けた。今度はちゃんと味わって吸う。
気分がややリラックスしてきた承太郎だが、
ギーシュの表情がまだ固い事に疑問を持った。まだ何かあるのだろうか。
「ジョータロー……どうしてあの時、僕を殴らなかったんだ?」
「…………」
疑問に応えるようにギーシュが問いただしてくる。
その表情はとても真剣で、しかし怯えの色も見え隠れした。
「決闘の邪魔をしたんだぞ? 最低最悪の侮辱をしたんだ。
 貴族の名誉に泥を塗って、ルイズを傷つけて、なのに君は……」
「あいにく……貴族のルールなんて知らねーんでな。
 決闘の邪魔をされたからって、こっちのルールに乗っかるつもりはねえ。
 俺はお前を『殴る気にならなかった』……それだけだ」
「なぜだ! 殴って……当然だろう!? 現にルイズは殴った!
 そりゃ、ジョータローに殴られるだなんて二度とゴメンだけど……。
 でも解らないんだ! あの時からずっと消えないんだ! 胸のモヤモヤが!」
ギーシュは叫んだ。まるで悲鳴のように。
しばしの沈黙の後、承太郎は静かに語り出す。
「……決闘でお前はイカサマをした。
 イカサマってのはバレなきゃあイカサマじゃねーが……てめーの場合、明確だ。
 だがな、てめーは少なからず『ルイズのためを思って』イカサマをした……。
 俺を追い出したかったという下心も確かにあっただろうが……しかし……。
 貴族の名誉だの、薔薇の咲く理由だの、そんなんじゃねー。
 ギーシュという人間の精神に『小さな輝き』を見た。それが理由だ」
「……ジョータロー…………」


ギーシュは膝をついて震えた。何だろう、この気持ちは。
安堵のようでもあり、歓喜のようでもある。
その感情の名前が解らず、けれど悪いものではない、とギーシュは思った。
「でも……ルイズを酷く傷つけてしまった。どうしたら償えるだろうか?」
「……てめーはルイズを侮辱した。それは揺ぎ無い事実だ。
 それを理解しているのなら……後は自分で考えて、自分で行動するしかない……」
「…………」
ギーシュはギュッと拳を握ると、真っ直ぐな瞳で承太郎を見て小さくうなずいた。
それを見て、承太郎も小さな笑みを見せる。
どうやらギーシュに見た『小さな輝き』は見間違いではなさそうだ。

ドオォ……ン

「ん? ジョータロー、今何か聞こえなかったか?」
ギーシュが中庭の方を見て言う。
承太郎は直感的に『何かある』と感じて、走り出した。
なぜなら中庭の方にルイズが向かっていったからだ。
「ジョータロー? 待ってくれ、どうしたんだ!?」

――中庭。魔法学院で一番大きな建物、本塔に隣接する場所。
その本塔の裏側にいるものの姿を見て、ルイズは言葉を失った。
巨大な、三十メイルはあろうかという土のゴーレムが、宝物庫の壁を殴っていた。
品評会の会場から見たら、ちょうど塔の反対側の位置で、決して見える事はない。
白昼堂々、王女アンリエッタが来ている魔法学院で、こんな事件が起きているとは。
巨大ゴーレムの肩にはフードをかぶったメイジがいた。
そのメイジの正体はトリステインでも有名な盗賊『土くれのフーケ』である。
神出鬼没の盗賊で、主な狙いは貴族の持っている宝物。
とにかく価値がある物なら何でも盗む。
盗み方は様々、大胆にゴーレムを使って力ずくで奪う事もあれば、
闇夜に隠れて誰にも気づかれずこっそりと盗む事もある。
その盗賊が、魔法学院の塔の壁を壊そうとしていた。


「ななな、何これ!?」
あまりに突飛な光景をようやく受け止めたルイズは、ルイズは思わず声を上げた。
だが、その声に土くれのフーケが反応する。
フードで隠れた顔がルイズを見下ろし、ゴーレムの手が伸びた。
咄嗟に杖を抜くルイズだが、呆気なく捕まってしまう。
「キャアッ!」
ゴーレムに握りしめられ、ルイズは全身の骨が砕けそうな痛みを感じた。
「ぐっ、ううぅ……ッ!! こ、この……放し、なさいよ……!」
「ルイズ!」
下の方から声がして、ハッとルイズは首を向けた。
承太郎と、ギーシュだ。二人がフーケのゴーレムを見上げている。
「ご、ゴーレムだ! こんな巨大なゴーレムが、なぜ……」
「ギーシュ、下がってな。こいつは俺が何とかする」
臆すること無く、承太郎はゴーレムに向けて踏み出した。
その背中を見て、ギーシュは一瞬ためらったが、杖を出してゴーレムに向ける。

新たな邪魔者の出現により、フーケは忌々しそうに唇を歪めた。

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