ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク 改訂版-16

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匿名ユーザー

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16話

明くる日の朝。
教師から今日何度目かになる報告を受けて、オールド・オスマンは深いため息をついた。

一つ目の報告は、昨晩、何者かが女子寮の一室に侵入したこと。
オスマンはそれに飛びあがって仰天し、すぐに誰が被害を受けたのかを調べさせた。
そして、主な被害者がルイズ・ド・ラ・ヴァリエールであることが分かったのが二つ目の報告。
幸い彼女自身に大きなケガはないが部屋が丸焦げのボロボロになっていて、
また襲われた彼女に助太刀したキュルケ・フォン・ツェルプストーが軽傷を負ったことも報告された。
それを聞いたオスマンは、すぐに侵入者をひっ捕らえてここまで連れて来い、とその教師に指示した。
3つ目の報告――妙な男が女子寮の外壁に吊るされている――が入ったのは、その直後だった。
その吊られた男をモートソグニルに見に行かせ、
彼(モートソグニル)の眼越しにその男がどういう状態かを確認したのがついさっきだ。
男は全く口が聞けない状態になっていた。
とはいっても死んだわけではなく、かといって生きているとは到底言い難い状態だった。
つまり廃人になっていたのである。

「はてさて……こいつは果たして本当に侵入者なのか、というところが問題じゃな」
「何故ですか? 侵入者は一人、吊られた男は一人で、この男が犯人なのは間違いないでしょう?」

そう聞くのは秘書のミス・ロングビルだ。

「モートソグニルもそう言うとったよ。
 じゃがの、口が聞けん以上あれが侵入者だと確認する術がないんじゃよ」
「全く関係ない人間を廃人にして、オトリとして置いて行ったと?」
「それも考えられる、ということじゃ。
 ま、選択肢の中の一つでしかないから重きを置く必要はないんじゃが……確認だけはしておきたくての」

そう言ってオスマンはまたため息をつき、

「……ところで、まだミス・ヴァリエールは見つからんのかの?」
「その報告は受けておりません。
 ですが、何者かに連れ去られたセンは薄いでしょう」
「と言うと?」

オスマンが眉根をあげて尋ねる。

「仮に侵入者が二人以上いたとするならば、一人だけに戦闘を任せておくような真似はしないでしょう。
 おまけに侵入者は予想外の援軍――ミス・ツェルプストーからも攻撃を受けていた。
 二人いたなら、ここでもう一人でてきてもおかしくありません。
 ですが、結局侵入者は倒されるまで一人で戦い続けた、とのことです」
「なるほど、筋は通っとるのう」
「教師の皆さんがその辺りを探していらっしゃいますから、そのうち見つかるのではと」

ロングビルがそう言った途端、

「み、ミス・ヴァリエールが見つかりました!」

教師が駆けこんできて報告を伝えた。
実に本日五度目である。
オスマンは教師の顔をちらと見て、

「御苦労さん。ついでにもひとつ頼むが、ミス・ヴァリエールをここまで連れてきてもらえるかね?」

そう指示して、またため息をついた。

「今日はため息が多いですね」
「まったくじゃよ。
 今日はフリッグの舞踏会じゃというのに、まったく朝からこんな大事が起きるとはのう……。
 おお、そうじゃミス・ロングビル」
「何ですか?」
「君は舞踏会には出んのかね?」
「いえ、事務が残っておりますので」
「そうか……どうりで下着が白い」

ボゴァッ!

「ぶげぇッ!」

オスマンの右頬にロングビルの全体重を乗せた、ジェロム・レ・バンナばりの左ストレートが突き刺さるッ!
椅子から飛ばされたオスマンは頭から壁に激突し、そのままズルズルと崩れ落ちる。
そこにッ!

ボゴッボゴッドガッガッガキッバギッ!

鉄鎚、パウンド、ヒザ蹴りの猛追撃!
五味隆典のそれを彷彿とさせる鬼の追撃は、
カメになって耐えるオスマンのガードもなんのその、一心不乱に打ち続け――

「ミス・ヴァリエールを連れてきました!」

ノック一つせず教師は入ってきたが、その時すでに二人は1分前の状態に戻っていた。
オスマンは学院長の机に肘をついて頭をかき、ロングビルは何か物書きをしている。
まさに職人芸である。

「よろしい、君は戻ってもいいよ」

そう言って教師を帰すと、入れ替わりにルイズが学院長室に入った。
だが何か様子がおかしい。

「……あ~、ミス・ヴァリエール……君が手に持っとるのは……」
「鞭です」

しかも乗馬用の鞭である。
それを片手に、ルイズは鋭い目つきで周囲を見回していた。
まるでモグラ叩きを始める直前のように、その眼はせわしなく動き回る。

「なるほど……鞭かね。
 まあとりあえず鞭はおいといて、昨日の晩に何があったかを話してくれるかね?」
「不届き者が侵入して、家財道具が全部黒コゲになりました」

そう言いながらもルイズは周りへの警戒を怠らない。
いつ「何か」が出てきてもいいように、鞭も両手でしっかり握っている。

「あ~……それは災難じゃったの。
 じゃが……ミス・ロングビル」
「はい」

ロングビルが杖を取り出して、それを軽く振った。
すると、ルイズの手から独りでに鞭が離れ、空中を飛んでロングビルの手に収まった。

「あっ! ちょ、ちょっと、何するんですか!」
「鞭はお預けじゃ。それよりも重要なことがあるからの。
 あ、ミス・ロングビルは席をはずしてくれたまえ」
「かしこまりました」

そう言ってロングビルは部屋を出る。
鞭は手に持ったままである。
その後ろ姿に、何だか妙に鞭が似合っていたな、と若干背筋に寒いものを感じたオスマンだった。

「じゅ、重要なこと、ですか?」
「ああ、そうじゃ……ホワイトスネイク君、出てきてもらえるかね?」

オスマンがそう言うと、

「オ呼ビカナ?」

不敵な笑みを湛えて、ホワイトスネイクが現れ――

ドグシャアッ!

た瞬間だったッ!
丈夫な高級皮靴を纏ったルイズの踵が、ホワイトスネイクの足の小指に叩きこまれるッ!

「グオォッ……」
「ふふん、鞭さえなければ大丈夫だと思ったの?
 油断したわね、ホワイトスネイク!
 鞭が無いなら無いで、ちゃんとどうするかは決めてあったのよ!」

びしっと指を突きつけて勝ち誇るルイズ。
ホワイトスネイクはそれを、若干殺気のこもった眼で睨み返す。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……と、空気が威圧的に振動し始める。

「オ前……私ト知恵比ベヲシタイラシイナ……」
「へ?」
「私ヲ嵌メルッテ事ハ、ツマリソーイウコトダ。楽シクナッテキタナ……スゴク楽シクナッテキタ」
「いや、えっと、その……」

何だかヤバい感じになってきたことを理解するルイズ。
自分が小指だけでなく地雷まで踏んづけてしまったことを悟ったのだ。

「そこまでじゃ」

不意にオスマンの声がかかる。

「主人と使い魔同士で仲良くするのは構わんが、そいつは後にしてくれ。
 わしは君らの話が聞きたかったんでのう、ミス・ヴァリエール。そしてホワイトスネイク君よ」
「……ソレデ、話トハ?」

ホワイトスネイクが訝しげに尋ねる。

「君なら分かっとるハズじゃろう?」
「……確カニ、人間ヲアンナザマニ出来ルノハ、ソンナニ多クハイナイナ」
「ちょ、ちょっと待ってください、オールド・オスマン!
 わたし、二人が何を言ってるのかが……」

話を読めないルイズが、間に割って入る。

「まあ、ミス・ヴァリエールはそうじゃろうな。
 順を追って説明しようかの」

オスマンはそう言って、ゆっくりと立ち上がった。

「一週間前じゃ。
 君のホワイトスネイク君とギーシュ・ド・グラモンが決闘した。
 勝ったのはホワイトスネイク君、負けたミスタ・グラモンは意識不明の重体になった。覚えておるかの?」
「……はい」

覚えているに決まっている。
あの日が今の自分のきっかけなんだから。
あれだけ誰かを許せないと思ったのも、あれだけ誰かに勝ちたいと思ったのも、あの日が初めてだったのだから。

「結局ミスタ・グラモンは君がくれた光る円盤……『でぃすく』じゃったか?
 それを額に差し込むことで、完全に回復した。
 今は元気に二股、三股かけとるらしいぞ」

そう言ってオスマンはにやっと笑った。
つられてルイズもくすっと笑う。
ホワイトスネイクだけは笑わずに無表情で立っていた。

「まあかくしてミスタ・グラモンは回復したわけだが……もう一人、回復しとらん男がいる。
 そいつは今朝、女子寮の壁につるされ取るのを見つけられての……誰だか分かるかね?」
「もう一人って……まさか、あんた!」

察しの悪いルイズも流石に気付いた。
昨日部屋の中からいなくなっていた不届き者――ラング・ラングラーの姿が見えないと思ったら、
意識不明――つまりホワイトスネイクに記憶を取られ、おまけに女子寮に吊るされていたとは!

「……今更気付イタノカ」
「当たり前じゃないの!
 わたしはてっきりあんたがあいつをぶん殴ってやっつけたのかと思ってたのに……、
 ああもう、いくら相手が悪党だからってやっていいことと悪いことがあるわよ!
 あれ返してあげないと死んじゃうんでしょ? すぐ返してきなさいよ!」

事情をようやく理解したルイズがぎゃあぎゃあと喚き立てる。

(これで、確認は取れたの。
 あれは間違いなく、ラング・ラングラーじゃというわけか。
 ……『魔法殺しのラングラー』をあんなザマにするほど、こやつは強いのかね……)

騒がしい空気の中、オスマンは一人冷徹な思考で考える。

「ソウハ言ウガナ、ルイズ。人間喋リタクナイ事ハ中々喋ラナイモノダ」
「答えになってないわよ!」
「オ前ノタメニ分カリヤスク言ッテヤルト、尋問ナンテDISCサエ調ベレバ事足リルンダ」
「だからどういう……」
「一つ確認したいのじゃが、いいかね?」

オスマンがルイズの言葉を遮って言う。

「何ダ?」
「君が今言った『でぃすく』とやら……その中に入っているのは何じゃ?」
「記憶ダ。ソイツガ今マデニドウ生キテ、何ヲ思ッタノカ、ソノ全テノ記憶ガ記録トシテ詰マッテイル」
「なるほどな……だから尋問せずともそれを覗けば、そいつの知っとること、思っとることが全部分かるわけか。
 それを奪われたら、廃人同然になってしまうのも、それがそいつにとっての全てじゃから……か」

そこで言葉を切ってオスマンは考え込む。
そしてしばらくした後、

「もう帰ってええよ」
「え? い、いいんですか?」
「もうワシの聞きたいことは聞けたからの」
「で、でも、記憶は返さないと……」
「そこんところはホワイトスネイク君と相談して決めるんじゃな。
 ワシとしては、あのまま廃人になってたんじゃ後から来る王宮の使いがうるさいから、
 どちらかといえば返してやってほしいと考え取るがね」
「は、はあ……」
「まあ君らの好きになさい。ワシはそれでいいと思っておるよ」

そう言って笑うオスマンに、ルイズは困惑しながら学院長室を後にした。
それと入れ替わりに、廊下で待っていたロングビルが中に入る。

「ホワイトスネイク、聞いたでしょ?
 すぐにアイツに記憶を返してきなさい」
「マア待テ。セッカク奪ッタンダカラ、中身グライハ拝見サセテモラウサ」
「……見たら返しに行くわよ」
「是非トモソウシヨウ」

ホワイトスネイクはそう言うと姿を消した。
ルイズはそれを見届けると、ため息一つついて歩き出した。

「どうかなさいましたか?」

渋い顔をして椅子にもたれかかるオスマンを見て、ロングビルが声をかけた。
彼女は容赦がないときは容赦がないが、そうじゃない時は細かいところにも気の回る人なのだ。

「ワシは王宮に仕る身じゃが、それ以前に教師じゃ。
 だから、たとえそれが間違っとっても、役所仕事はできんわい」
「……オールド、オスマン?」
「ん? ああ、ミス・ロングビルかね」
「オールド・オスマン、どうかなさいましたか?」
「いや、何ともないよ。だたの独り言じゃ」

そう言って椅子を回し、オスマンは窓の外に目をやった。

(果たしてホワイトスネイクを生かしておくのは正しかったのか、正しくなかったのか。
 いずれにしても、今始末しておけばよかったと思う時がいつか来る……。
 それでも……)

また椅子を回して、抽斗からパイプを取り出す。

(それでもわしは、今あの子からホワイトスネイクを奪うことの損失の方が、大きいように思うのじゃよ)

パイプに火をつけ、いざ吸おうとしたその時、ひょいとパイプが宙に浮いた。
浮いたパイプは空中を飛んで、ロングビルの手に収まる。
さっきの鞭と同じ要領だ。
ちなみにその鞭はまだ彼女の手にある。

「……年寄りの数少ない楽しみを奪わんでくれるかね」

じろりと横目でロングビルを見るオスマン。

「オールド・オスマンの健康管理をすることも、私の仕事の一つです」

その目線を一切気にすることなく、ロングビルはぴしゃりと言った。

「まったく……そういうことをされると、ワシの楽しみはこれしか」

ピシャァン!

「っつぅッ!!」

オスマンが伸ばした手に、間髪入れずに鞭が叩き込まれた。
手を伸ばしたのは言うまでもなくスケベな目的のためである。
ロングビルもそれを重々承知しているから鞭で叩いたのだが、

「い……今のは、今のは痛かった……」

痛みで思わず椅子から転げ落ちるオスマン。
何せ乗馬用の鞭である。
SM用ではない。乗馬用だ。
皮が裂け、肉が破れるその痛みは想像を絶する。
ロングビルはしばらくそれを眺めた後、

ピシャッ! パシィン! パァン、スパァァンッ!

オスマンの体をしこたま鞭で引っ叩いた。

「ちょ、ミスロングビル! 痛っ、やめ、痛いから! ぎゃあッ!!」

いつもとは明らかに異なる悲鳴を上げるオスマンを見て、さすがにロングビルも手を止めた。

「……かぁ~……き、効いた…………」
「……乗馬用の鞭ですからね。
 これでは加減も効きませんし、あとでミス・ヴァリエールに返してきましょう」
「是非とも……そうしてくれたまえ。あ~、しかし痛い……」
「自業自得です」
「そうは言うがのう……」

ロングビルの冷たい視線を避けるように、オスマンは床に突っ伏して手をさすっていた。
今誰かが入ってきたら、流石のオスマンも椅子までは戻れないだろう。
ヴァイオレンスな日常を維持するためには、それなりに節制を加えることも必要なのだ。


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