ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク 改訂版-14

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匿名ユーザー

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14話

(ヤハリ、食ラッテシマッタカ)

ラングラーの弾丸を受けた瞬間、ホワイトスネイクが思ったのはそれだけだった。
仕方のないことだった。
跳弾での攻撃を阻止することは不可欠だった。
跳弾は軌道を読みにくいので、防御しにくい。
なので、それを使われないようにすることは必須だった。
しかしそのためには、ラングラーの射界に身を晒すのを覚悟の上で反射のための障害物を破壊しなければならず、
そしてそのことは「死角を狙う必要がない跳弾」、つまり壁を使った跳弾で攻撃されることを意味していた。

跳弾で狙われれば、流石のホワイトスネイクでも迎撃しきれない跳弾が出る。
そうなれば自分の背後で炎の呪文を放っているキュルケがヤバい。

(ツマリ、ラングラーガ跳弾ヲ使ウト決メタ時カラ、コーナルコトハ確実ダッタノダ)

しかし、ホワイトスネイクはまだあきらめていたわけではない。
むしろこの状況は、ホワイトスネイクが敷いたレールの上から一歩たりとも外れていなかった。

(問題ハココカラナノダ)

自分の策がなるまでに、絶対に稼がなければならない時間。
その間に自分がやられてしまうことは勿論、壁の陰に隠れるルイズとキュルケの二人を殺させてしまってもならない。

(セイゼイ、凌ガセテモラオウカ)

心の中でそう呟いて、ホワイトスネイクはゆっくり立ち上がった。
「あ、あんた……」

立ち上がるホワイトスネイクに、思わずルイズが声をかける。

「問題無イ。コウ見エテモ私ハ丈夫ニ出来テイルンダ。首ヲ飛バサレナイ限リハ十分動ケルシ、戦エル」
「で、でも、あれだけの弾丸を受けたんでしょ!?」
「問題無イト言ッタ筈ダ。ソレト私ニ近寄ルナ」
「ち、近寄るなですって? せっかくわたしが心配してあげてるのに……」
「近寄ラレルトヤツノ跳弾ノ射界ニ入ル。ソレデ弾丸ヲ食ラッテシマッタノデハ元モ子モナイ。
 邪魔トカ迷惑トカ厄介トカ……トニカクソーイウコトダ。
 ダカラオマエハソコデジットシテイロ」

ホワイトスネイクの言うとおりだった。
アイツの弾丸が危険だってことはさっきから何度も言われていた。
そして自分がほぼ確実に、何の役にも立たないことも。

「でも、だからって……」

ルイズは何か言おうとするが、ホワイトスネイクは聞く耳も持たない。
そして再びファイティングポーズを取る。
弾丸の雨に真正面から挑むつもりだ。
「逃げないってことは……何か考えでもあるのか? ホワイトスネイクよ……」

ラングラーはそれを見て不敵な笑みを浮かべる。

「まあ……何を用意していようと、」

JJF(ジャンピン・ジャック・フラッシュ)がラングラーの意思に呼応して腕を構える。

「オレは無敵だがなッ!」

ドンドンドンドンドンッ!

鉄クズの弾丸が放たれるッ!

JJFの腕輪の中で遠心加速した鉄クズは、空気を切り裂いてホワイトスネイクに襲い掛かる。
ホワイトスネイクはその弾道を見極め、拳を繰り出す。

「シャアアアアアアアアッ!」

バシバシバシッ!

重く、素早い拳撃が弾丸を叩き、その弾道の行先をホワイトスネイクから逸らす。
「よく頑張ったな、と言いたいところだが……残念だ」

そこにラングラーの妙に明るい声がかかる。

「スデに跳弾が3つほど、テメーの所に向かってるぜ」

バスバスバスバスッ!

直後、ホワイトスネイクを弾丸が貫いた。

「おっと、4つだったか」

命中個所は肩に一つ、胴体に二つ、そして膝に一つ。
ダメージで膝をつきかけるが、ホワイトスネイクはどうにかその場に踏みとどまった。

(ヤハリ、跳弾ハドーニモナランナ……通常弾ト合ワセテ撃タレルト対応スルノハ困難ダ)

流石のホワイトスネイクも、今の状況で余裕は持てなかった。
その後もラングラーの一方的な射撃を、ホワイトスネイクはただ凌ぎ、ただ耐え続けた。
回数を重ねるごとに跳弾もある程度は弾けるようにはなっていったが、全てを弾くには至らなかった。
ダメージは着実に増え、ただ時間だけが経って行った。
その身体は傷つき、ひび割れ、被弾で開いた穴の数は20に迫ろうとしていた。

「どうしよう、このままじゃ、このままじゃ……」

そんなホワイトスネイクを前に、ルイズは何もできずにいた。
自分にも何か出来るはずだと、心のどこかで思っていた。
事実、さっきは形勢逆転の布石を打てたようにさえ思えた。
でもそうじゃあなかった。
やっぱり自分には何もできないのだ。
そう思い始めた途端に自分の方に矢印が向く。
自分で自分につきつけた無数の矢印は口々に囁いた。
「お前が弱いだから」「お前がダメだから」「お前がゼロだから」と。
それらの何一つ否定できない。
何一つ反論できない。
そうよね、どうせわたしなんて、どうせ……。
そう思いかけたとき、
「シャキっとしなさいよ、ルイズ」

そう言ってキュルケがぽんとルイズの肩を叩く。

「で、でも、わたしには何も……」
「そうね、今は何もできないわね」

ルイズの言葉を引き継いでキュルケが言う。

「だったら探すのよ! 自分が出来る事を何が何でも見つけるの!」
「さ、探す!? 探すってどこ探すのよ?
 私が何にもできないのはホワイトスネイクに言われた通りじゃない!
 わたしの爆発は他の生徒を起こすかもしれない、そうなったらもっと犠牲者が増えるかもって!
 じゃあどうすればいいのよ!」
「そ、れは、そうだけど……とにかく急ぐのよ!
 いくらダーリンだってあんなに撃たれたらヤバそうだわ!
 時間がないんだから、早く急いで!
 あたしは先生を呼んでくるわ!」
「無理よ、ゼッタイ無理! それに何であんたがやらないのよ!
 あんたトライアングルメイジじゃないの!?」
「そんなこと言わないで……ッ!」

言いかけたキュルケが突然顔をしかめた。

「どうしたのよ?」
「な、何でもないわ、ルイズ。とにかくあなたは逆転の手を考えて……」

そう言って身を引くキュルケ。
だがその動作は、明らかに何かを隠す動作だった。

「何でもないじゃないわよ! まさか、あんた!」

ルイズは強引にキュルケのローブを捲る。
そこにあったのは――
「ウソ、でしょ……」

キュルケの脇腹を染める赤。
深くはないようだが、それでも確かに傷を負っていた。
『一発デモ受ケレバ、アルイハ体ヲ掠メレバ10分以内ニ
 半径20メイルノ人間ヲ巻キ込ンデ死ヌ、トビキリ厄介ナ呪イダ』
ホワイトスネイクの言葉が脳裏によみがえり、そして頭が真っ白になる。

「い・・・いつよ! いつそのケガをしたの!?」
「さ、さっきよ……ダーリンの後ろから炎を撃ってた時だったかしら」
「そ、それって何分前!?」
「だいたい……5分、6分前、ってとこかしら。
 あたしが死ぬまで、あと3分と少しかしらね」

そう言ってキュルケは笑みを作る。
無理に作ったような、ひきつった笑顔だった。

「『ゼロ』のあんたと違って、あたしの火は少しは役に立つわ。
 って言っても、威嚇にしかならないんだけどね。
 おまけにさっきの魔法と言い、今の魔法と言い、力を使いすぎちゃったのよ。
 肝心の魔法も、もうそんなに多くは放てないわ。……笑っちゃうでしょ?
 でも、もしかしたら役に立つ時が来るかも、って待ってたけど……やっぱり、ダメね。
 だからってここであんたを巻き添えにするのはごめんだわ。
 ツェルプストーの女がヴァリエールの女を巻き添えにして死ぬなんて、聞こえが悪いったらありゃしないし、
 それでどこか離れた場所まで行こうとしてたってわけ。
 ……ふふ、自分のことながら、なんて情けないのかしらね」

まるで何も無かったかのように語るキュルケを前に、ルイズは何も言えないでいた。
キュルケが、死ぬの?
ウソでしょ?
いつもわたしをバカにして、憎らしかった赤毛でツェルプストーのキュルケが、こんな簡単に?
「……ちょっと待ちなさいよ」

さっきまで何も言えなかったのに、するりと言葉が喉を通った。

「る、ルイズ?」

確かに憎らしかったわよ。
いなくなっちゃえばいいのにとか思ったし、許せないと思ったことも何度もある。
あんまり腹が立ったから、キュルケをやっつけようとして失敗魔法の爆発で大暴れしたことだってある。
それでも、

「死んじゃうのはダメ。絶対ダメだから」

それがルイズの本心だった。
そいつがどんなに憎らしくっても、どんなに許せなくても、今目の前で死のうとしている相手に向かって、
そのまま死ねとは言えなかった。

偽善だとか、自分の今までをウソにするとか、そういうのはどうだっていい。
ただ死なないでほしい。ただ生きてほしい。
それがたった一つ、今死のうとしているキュルケに向かって言えた本心だった。

そしてそう言うのと同時に、急に思考がクリアになる。
さっきまでの混乱や自虐はもうそこにはない。
ただ、絶対にキュルケに死んでほしくない。それだけだった。
自分が役に立たないとかどうとか、そういうことは頭の中から吹っ飛んでいた。

余計な事が頭の中から消えたおかげで、周りがスゴくよく見えるようになった。
自分の爆発が使えない理由、キュルケの炎が役に立たない理由、
ホワイトスネイクが押されっぱなしの理由。
全部が一つの線で結ばれて、答えが導きだされた。
「だ、だからあなた、何言って……」
「ホワイトスネイク」

困惑するキュルケを尻目に、ルイズはホワイトスネイクに問いかける。

「何ダ?」
「ラングラー……だったっけ? アイツの能力、どうやったら消えるの?」
「ヤツガ意識ヲ失エバ消エル」
「分かったわ」

それだけ言って、ルイズはキュルケに向き直る。

「はっきり言って、わたしはあんたが嫌い。
 だっていつもわたしをバカにするし、からかうから。
 でもね、キュルケ」

「わたしはあんたに、死んでほしくないわ。
 だから絶対死なないで。絶対にここにいて」
「で、でも! あと3分であたしは!」
「その3分が経つ前にアイツをやっつける。
 絶対にやっつけるわ。だからお願い、ここにいて」
「ルイズ……」

ルイズの言葉と真っ直ぐな眼に、キュルケは思わず口をつぐんだ。

「勝算ハ?」

そこにホワイトスネイクが口を挟む。
ルイズの向けられた眼は、明らかにルイズへの疑いを示していた。

「あるわ」

それにルイズは真正面から答える。
ホワイトスネイクは無言でうなずくと、襲い来る弾丸を叩き落とす。
それがルイズの声と眼差しに対する、ホワイトスネイクの答えだった。
「ちょ、ちょっと正気なの、ルイズ!?
 相手はダーリンでもどうにもならない相手なのよ?
 それを『ゼロ』のあんたがどうにかするなんて……」
「そうね、確かにわたしだけじゃ無理だわ。
 だからあんたも協力して、キュルケ」
「……本当に勝算があるのね、ルイズ?」

ごくりと唾を飲み込んで尋ねるキュルケに、

「……ええ!」

ルイズは力強く頷いて答えた。
「しかし……まさかここまでタフだとはな……」

一方、全身に銃創を作りながらもなお立ち続けるホワイトスネイクに、ラングラーは思わずそう呟いていた。

「ひょっとして……アイツ自身がスタンド使いだ……なんてオチじゃあねーだろーな……。
 あんだけボロボロになって……それでスタンド本体が無事だとは考えられねーからな……」

ラングラーがそう思うのも無理はなかった。
もう残弾が少ないのだ。
そんなにキツい仕事になるなんて思ってなかったから、あまり鉄クズをもってこなかったのが災いした。
補給はさっきので終わってしまったので、今腕輪に入ってる分が無くなれば打ち止めだ。
だからさっさとヤツを始末して仕事を終えたいのだが……

「ん?」

そのとき、ラングラーの目に何かが映った。
ドア枠の右、2~3メイルのところがじわりと黒ずみ始めたのだ。
黒ずみはどんどん大きくなり、やがてぶすぶすと煙を上げ始めた。

「コゲてる……のか? さっきの火のメイジのアマが何か考えてやがるってか……なら!」

そこにJJFの腕を向け、一発鉄クズを撃ち込む。
放たれた鉄クズはコゲた壁を簡単に貫いて、ビシッと音を立てた。
どうやら向こう側の壁に着弾したらしい。
人には当たらなかったようだ。

やがて壁はメラメラと炎をあげて燃えはじめ、それからしばらくして壁は崩れ落ちた。
それによって開いた穴は縦1メイル、幅1メイルほど。
崩れた壁の先にはやはり誰もおらず、向こう側の壁が見えるだけだ。
「……何が目的だ? ただ穴を開けて、それで何をしたい?」

ラングラーが半ば呆れかけた直後、

ゴォッ!

壁の目の前に、赤く燃えさかる炎の壁が出来た。
炎の壁は高さ2メイル、幅2メイルほど。
焼け落ちてできた壁の穴をすっぽりと覆って余りあるほどだ。

「穴を開けて、壁を作って……ワケがわからんな……目的が見えない」

炎の壁をつくったのはいい。
確かにそれでこっちからは手出しができなくなる。
だがあんなに激しく燃えていては、向こう側からも何もできないだろう。
「絶対に壊れない」ホワイトスネイクのDISCなら炎の壁を突破できるかもしれないが、
バカ正直に飛んでくるDISCを食らってやるほどこっちもバカではない。
第一ホワイトスネイクはドアのところにいるのだから、その可能性は間違いなくゼロだ。

そう思った時だった。
ボン!

炎の壁の数10サント先の床が小さく爆発した。
本当に小さな爆発だ。
火薬の量で言えば、手持ち花火に詰まってる程度の量が爆発したぐらいのものだ。
しかし。

「な、何だと!?」

慌ててラングラーはそちらに腕を向けた。
さっきと同じだった。
向かいの部屋のドアをぶっ飛ばした、ワケの分からん爆発と同じだった。
前触れもなく、突然起きる謎の爆発。
さっきの爆発はホワイトスネイクが何か仕込んだものだとばかり思っていたが、
今回は何もない場所で爆発が起きた。

「爆発、だと……一体どういうことだ?
 種も仕掛けもないハズだぞ…………」

粘っこい汗がラングラーの額を伝う。

タイムリミットまであと2分。
とうとう、逆転の狼煙が上がった。


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