ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの兄貴-41 後編

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匿名ユーザー

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翌日、朝と昼の真ん中ぐらいの時間に宿を出る。
貰った軽装の鎧は放置して、若干生乾きのスーツを着てリッシュモンを張っていると、馬車が用意されどこかに向かう。
馬鹿正直に馬で追うわけにもいかんので、かなり距離を離しながら自身を老化させているが、やはりメタリカやリトル・フィートの方が便利だ。
鐘が11回鳴り時間を告げると馬車が劇場っぽい建物の前に止まった。
「勢揃いじゃあねーか。よっぽどこの狸狩りに力いれてんだな」
少し離れた場所から見えたのは、ルイズ、才人、アンリエッタ、アニエス。
魔法衛士隊もやってくると劇場の周りを取り囲む。中々の手際だ。
アンリエッタが中に入り、アニエスが馬でどこかに向かったので、アニエスの方へ向かう。
こいつの最終目標はリッシュモンの命だ。ならこっちを尾けた方が早いし、なにより身元が割れていない。

したがって尾ける気はなかったので走ってる横に付ける。
「よ、昨日ぶりだな」
「お、お前!どういうつもりだ!」
「ルセーな…こっちにも色々事情ってもんがあんだよ。ああ、鎧と剣だが宿に置いてあっから要るなら取りに行けよ」
「どれだけ自己中心的だ貴様!仮にも王宮の備品だぞ!」
「知るかよ。……今なんか悲鳴が聞こえたような気がするが気のせいか?」
「知らん。お前の気のせいだ」
実際のところ気のせいではなく、ルイズによる才人の調教が行なわれている真っ最中である。
「で、だ。殺るんだろ?」
「……ああ。お見通しか」
「殺るのは構わねーが、聞きてー事があんだよ、オレも。その後なら好きにしろ」
かなり物騒な会話だが、それだけの恨みがあるという事だろう。
しばらくすると、排水溝を介した通路が見える。多分どこかに繋がっているはずの通路だ。

通路に入り、しばらく無言で歩いていると明かりの中に人影が見えた。
「狸かと思ったがドブネズミ…いや、下水よりはマシか」
「おやおや、リッシュモン殿。変わった帰り道をお使いで」
アニエスはこの上なくドSな笑みを浮かべていたが、プロシュートの方は別に変わりない。
「貴様ら…どけぃ。貴様らと遊んでいる暇はない。この場で殺してやってもいいが面倒だ」
NGワード発動。この男の前で『殺してやってもいい』とかは禁句だ。

「おい、てめー。殺してやってもいいだと?殺すとかいう台詞はな…終わってからいうもんだぜ?オレ達の世界ではな」
「私はすでに呪文を唱えている。あとはお前達に向かって解放するだけだ」
「能書きたれてねーで、一つ答えな。クロムウェルってのは何処にいる?」
「知ってどうする。貴様もトリステインを裏切る気か?だが、平民なぞ何の役にも立たんわ」
「生憎オレは、この国やアルビオンがどうなろうと知ったこっちゃあねーんだよ。答える気はねーか。ほらよ、オメーの好きにしな」
特に期待していなかったが、こいつも相手から見れば下っ端のようなものだろう。
裏切り者は寝返った相手にも大抵信用されないものだ。故に当面は危険な任務に付かされる事が多く、重要な情報なぞ与えられる事はまず無い。
用は無いとして、アニエスに促すと搾り出すように、言葉を切り出した。
「私が貴様を殺すのは、陛下への忠誠ではない。私怨だ…忘れたとは言わさんぞ、ダングルテールを」
「なるほど、うわはははは!貴様はあの村の生き残りか!」
「貴様に罪を着せられ……なんの咎なく反乱の汚名を着せられ我が故郷は滅んだ!
 ロマリアの異端審問『新教徒狩り』。ロマリアからいくら貰った?リッシュモン」
余裕を崩さない態度でリッシュモンが答える。かなり油断していると見えるが、裏稼業の人間としてなら失格というとこだ。
「賄賂の額なぞ、いちいち覚えておらんな」
「金しか信じておらぬのか。あさましい男よな」
「お前が神を信じる事と、私が金を愛する事と、如何ほどの違いがある。よければ講義してくれ」
アニエスは唇を噛み切らんばかりに噛み締めているが、この元ギャングの価値観からすれば、ややリッシュモンに近い。
むしろ神なぞ全くもって信じていない。信じるのはマジに信用できる仲間と己の能力と栄光のみ。
ただ一つ違うとすれば、目的を達成するために取った行動に伴う責任というか、降り注ぐ恨みを覚悟してやっているという事だ。
「金な。結構な事じゃあねーか。だが…当然恨みを買うってのは覚悟してやってんのか?それが出来てなけりゃあ話になんねぇ」
「貴族の技を使うのは勿体無いが…これも運命かね。殺してやる」
杖の先から巨大な火の弾が膨れ上がったが、好都合だ。これなら一瞬でケリが付く。
上も巻き込んじまうが、まぁ問題無い。わざわざ体温を上げてくれてるのだから利用しない手は無い。

「なが…馬鹿な…体が…」
「殺してやる。溜めた金は地獄で使え!」
老化した。まぁ元々年食ってたから分かり辛いが、弱ったリッシュモン向けアニエスが突っ込む。
そのまま、懐に飛びこんだアニエスがリッシュモンの胸に剣を突き立てた。

「…な…!何故、剣が…!」
突き刺した。現に切っ先はリッシュモンの胸に向かっているが、手前で何かに止まっている。
「チッ…限界か」
老化を解除。これ以上やれば上にも影響が出る。騒ぎになるのはマズイ。
「驚いたぞ…平民風情がよもや私を追い込むとはな。だが狙うなら胸ではなく首にするべきだったな」
リッシュモンがローブを脱ぐと中には空いた手で草が生えた植木鉢を持っていた。
「ギャァーーーーーース!」
「なんだこれは…!」
「命令も聞かんし、厄介なやつだが自分が攻撃されたと思ったみたいだな。怒っているぞ?」
ただの草かと思っていたが、目がある。口がある。そして、鳴声をあげている。猫そのものだ。
そして、こいつの目線は今、グレイトフル・デッドを追っている。
つまりこいつは…
「この前の猿といい、…こいつもか!」

動物のスタンド使いは珍しくもないが、こいつは別だ。
ホワイト・アルバムのように装甲を身に纏っているわけでもない。かといって、こんな猫見た事すらない。
防いだ手段もまだ分からない。能力で防いだなら何らかの形で見えるはずだ。
明かりはリッシュモンが灯している光と、アニエスが用意した灯しか無く薄暗いとはいえ見逃すはずはない。
厄介な事になった。能力を隠しているのならまだしも、能力が見えないというのはマズイ。
対策のしようが無いというのがマズイ。スタンド使いとの戦いにおいては敵の能力をいち早く知るというのは必須事項だ。
スタンドバトルは情報戦でもあるのだ。

グレイトフル・デッドを身構えさせ備えるが、興味ねーといった感じに視線を外し、猫目をアニエスに向けている。
猫ゆえの気まぐれというやつだろうか。少なくとも攻撃しない限り攻撃されるという事は無さそうだ。
「…今何に止められた」
「わ、分からん…何なんだあれは…?猫か?草か?」
「両方…だろうが、本体が物質と一体化するなんざ聞いた事ねーぞ」
初めて見るタイプだけに余計困惑する。スタンドヴィジョンも本体その物と思った方がよさそうだ。
問題は能力だが、受けたアニエスにも分からないでいる。
能力が分からないというのは、メタリカなどの例があるように分からないでもないが、能力が見えずに攻撃を受けるというのが妙だ。
ホワイト・アルバムしかり、リトル・フィートしかり何らかの影響が必ず出る。
つまり透明でいて、直接触っても影響が無い物。そんな物は滅多にあるもんじゃあない。

「これは、並みのメイジ以上の風の先住魔法の使い手でな。扱いは難しいが、貴様ら平民などより余程役に立つ」
ok。こいつが馬鹿で助かった。スタンドバトルにおいて自分の能力をひけらかし話すなぞ自殺行為に等しい。
リッシュモンは風と言ったが、ただ、単純に風ではないと判断する。
風ならば、この狭い通路。こっちにも届くだろうし、アニエスを止めるのではなく吹き飛ばすはずだ。
もちろん、防御のためだけ。とも考えたが、その可能性は低い。
もう少しで何かに行き当たりそうだったが、考える時間を与えてくれそうにないらしい。
リッシュモンが杖を振っている。ただ、詠唱が恐ろしく短い。攻撃に使うような魔法じゃあないはずだ。
「うぉおおおおおおおッ!」
「何!?」
叫びに反応して横を見ると、アニエスが火に包まれている。
マントに仕込んだ水袋のおかげで再起不能というわけではないが、鎖帷子を熱く焼き、肉の焼ける嫌な臭いがする。
「馬鹿な…今のは…コモンマジックの着火のはず」
あれだけの火に包まれて倒れない精神力には感心したが、少しばかり妙だ。
リッシュモンが使った着火の魔法。
着火というからには何かに点火したという事だ。つまり、その点火物があの猫草(仮)の能力。

「どうやって燃やされた。少しでもいいから思い出せ。ささいな事でいい」
「知るか。ヤツが杖を振ったら急に私の装備が燃え上がった。ただ…その時、さっき止められた時と同じような感触がした」
「そんだけ分かれば十分だ」
あの猫草が操っているのは、恐らく空気。
草だけあって光合成もするのだろうが、アニエスの周りに飛ばしたのは酸素の塊といったとこだろう。さしずめ酸素弾といったところか。
高濃度の酸素で包まれた状況で服にしろ何かに着火されれば一気に燃え上がる。
さっきアニエスを止めたのもその能力だろう。空気が見えないのも当然の事だ。
厄介なのが、猫草がアニエスに対してかなりの敵意を持っているという事。
草だけあって体温なぞがあるかどうか分からないし、植物に広域老化で効果が出るには時間がかかる。
それまで待っていれば、上なぞ阿鼻叫喚の事態になるはずだ。こちらに敵意を持っていない事は幸いだが、下手にリッシュモンにも攻撃できない。

「おい、オメー。殺す覚悟があんなら、殺されるかもしれねーって覚悟はあんのか?」
「…あいつを殺せず逃がすのなら死んだほうがマシだ」
「なら、行け。くたばったら骨ぐらいは拾ってやる」
火傷の痛みに耐えてアニエスがリッシュモンに突っ込む。
「ふん。無駄な足掻きを。畜生にやられて死ね」
「フギャァァアアア」
猫草が大砲のような形状をとっている。恐らく、空気弾を飛ばすためだ。
それに構わずアニエスが突っ込む。再びリッシュモンが呪文を唱え杖を振り下ろそうとした。

が、それより早く持っていた灯を消すと同時に、アニエスから抜き取っていた銃をリッシュモンが振り上げていた手目掛けブチ込んだ。
銃は扱いなれているが物が骨董品。一発勝負の上、外すかもしれんので破壊力Bのグレイトフル・デッドでブン投げる。
「うぐ…杖を…!だが私への攻撃は……」
衝撃で杖を手放した事で灯りが消え通路が闇に包まれる。
そして、リッシュモンの口から出たのは言葉ではなく鮮血。
「馬鹿な…なにをやっている…どうして防がない…」
「草っぽいからやってるんだろうが…知ってるか?光合成ってのは光がねーとできねーんだぜ」
これで猫草が大人しくなるかどうか怪しかったが成功したようでなによりだ。
ベースが草だけあって植物の性質が強いらしい。
「メ…メイジが平民ごときに……この貴族の私が…お前達のような平民に…」
「さっきから平民平民ウルセーぞ、てめー。さっさと」
「剣や銃がおもちゃだと抜かしたな?これは牙だ。貴様ら貴族に喰らい付くためのな。その牙で」
「「死ね」」

「さて…こいつ、どうすっか」
闇の中の視線の先には爆睡している猫草だ。こうしてみると普通の猫と変わりない。
枯らすというのも悪くはないが、何かに利用できそうとも考える。
少なくとも、攻撃しない限りは攻撃してこないヤツだ。暗くすれば活動が止まるというのもいい。
そんな事を考えていると、カチャリという音がする。銃の撃鉄を引いた音だ。
「お前がクロムウェルに近付こうとしている理由…聞かせてもらおうか」
「お前の知った事じゃあねーよ」
「トリステインがどうなろうとも知った事ではないと言ったな…二つ数える間に選べ。生か、死か」
頭に銃をつき付け、アニエスがカンテラに灯を付けたが、逆効果だ。
猫草は僅かな光さえあれば十分に活動できる。そしてさっきの事もまだ忘れてはいない。
「フギャアーーーーース!」
さっきと同じ大砲のような形を取る。どのぐらいかは分からないが、殺傷力ぐらいは持っているだろう。
放っておいてもいいが、こいつに死なれて騒ぎになっても厄介だ。
「面倒だが…後で礼ぐらいしろよ」
「ぐが…!貴様…ここで…死んでたまるか…まだ…ま…だ…」
かといって、唯一の光源を壊して闇の中道に迷うのも嫌なので、とりあえずスタンドで殴りアニエスを気絶させ弾丸を奪い投げた。

「ニャ!ニャ!ニャ!ニャ!」
「とりあえず、ここはこれで収まったが…こいつオレの事なんか勘違いしてねーか?」
崩れ落ちたアニエスを引っつかむと、弾にじゃれてた猫草を上着で覆って大人しくさせたが、どうもこう、状況が悪化しているような気がしてならない。
情報も特に手に入らなかったし収穫が草ってどうよと思いながら着た道を戻ると、アニエスを排水溝近くの場所に放置した。
これで見付からずに死んだらこいつの運の無さだが、昼だし多分見付かるだろう。
暇を得るために、また纏めて2~3日徹夜で働らかにゃあならんと思いつつ人気の無い通りを進むと、路地から悲鳴のような叫びとかが聞こえた。
やはり気のせいではなかったらしい。
「へへ、陛下と一晩を共にしたですってぇ~~~~!?しかも抱き合ったって何考えてんのよこの犬!」
振るわれる鞭の動きに合わせ、犬のような悲鳴をあげている少年、いや犬が一匹。
成長してねーなと思いながら歩を進めると服の隙間から猫草が『ウニャン』と鳴いて犬を興味深そうに見つめていた。

猫草―持ち帰ると、やたらカトレアを気に入る。
   彼の行動理念は『本能にしたがって生きる』であるため、好きな時に寝れて、好きな時に食べれて、好きな時に遊べればなんだっていいらしい。

ちい姉様―こちらも猫草を見て「まあまあまあ、素敵な猫ちゃん」などとのたまい気に入ったようだが、マジにド天然だと思い知らされる。


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