ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの兄貴-41 前編

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匿名ユーザー

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石造りの床を鳴らしながら歩くのは、銃士隊隊長のアニエス・シュヴァリエ・ド・ミランだ。
この前の事件の傷は、アンリエッタの治癒魔法で綺麗サッパリ治っている。
王宮では珍しい剣士を見て、周りのメイジが聞こえよがしに中傷を投げかけるが、一瞥もせずに歩く。
まぁ言うと、前のアンリエッタが攫われた時に現れた男の事が気になっていたからだ。
「陛下をお助けになったのは、ヴァリエール家の御息女達だと聞いたが…ならばヤツは何処に行ったのだ」
途中で二騎が離れていったというから、恐らくそれと戦ったのだろうが、確証が無いし、何より姿を見せないと言うのが妙だ。
味方なら、姿を隠す必要が無いし、敵であるなら、自分達の命は無いはずだ。
死んだとは思えないし思ってもいない。メイジではないようだったが、何か別のような物があると感じた。
「考えたところで仕方無い…か」
そこまで考えて思考を打ち切った。
答えの無い考えをしても仕方ない。それよりは、今目の前にある問題を処理せねばならない。
ただ、次に会った時は、蹴りの一発でも入れてやらねばならないとは思うが
とりあえずは、当面の問題を解決すべく、執務室に向かう。
「陛下は今、会議中だ。改めて参られい」
「アニエスが参ったと伝えて頂ければ。私、いつ如何なる時でもご機嫌を伺える許可を陛下より授かっております」
衛士隊の隊員が不承不承の体で執務室に消えていったが、しばらくすると入室の許可がアニエスに与えられ中に入っていった。


「…ったく…なんで、ここはこんなに動物が居んだよ」
いい加減慣れてきたかと思ったが、心なしか数が増えている気がする。
小動物ならともかく、デカイのとかまで。
正直、勘弁してくれとカトレアに言ったのだが
「あら、あなたもその内の一つだったのよ」
「…オレも動物扱いか?洒落なんねーよ」
とのこと。

どうも、カトレアは苦手だ。本調子が全く出ない。
シエスタもストレートに突っ込んだとこまで聞いてくる時があるので苦手な部類に入るのだが、こちらは、為す事全て綺麗に受け流されているような気がする。
正真正銘のド天然である。
頭を掻きながら、渋い顔をする。どうもこっちに来てから、こうする事が多くなった。
そろそろ暗殺チーム苦労人ナンバー1に昇格かもしれない。
(苦労を背負い込むのはオメーの役目だぜ?地獄で笑いながらこっち見てんじゃねーだろうな)
まぁ、そう思った本人ですらリゾットが笑っている姿なぞ一切見た事が無いから想像もできない。
これが他のメンバーなら容易に想像ができるのだが。リゾットだけはどう足掻こうが無理、無駄だ。
行ける場所ならすっ飛んで行って殴り飛ばすのだが、生憎自殺願望は無いし、ハイウェイ・トゥ・ヘルも発現していない。
(オレが行ったとき、オメーら全員ジジイじゃあ、グレイトフル・デッドの意味がねーぜ)
そこまで生きるつもりがあるというわけではないが、そう思わないとやっていけない。
こういう時は表と裏の切り替えが見事なホルマジオが羨ましくなる。
路上商人などをやらせたら右に出るものは居ないはずだ。
渋面をしながらそんな事を考えていると、逆に笑いながらカトレアが覗き込んできた。
いきなりだったので、さすがに怯む。
下の方を向いていたため、覗き込まれるような感じだ。
一般人なら、かなり動揺するとこだが、そこは元ギャング。その辺りは定評がある。
「あなたって、どこかエレオノール姉様に似てるわ」
「…あいつとか?」
ok。ペッシなら殴ってるとこだ。
「そうやって、難しい顔しながら考え事してるところとかそっくり」
「…オレはあいつ程良い趣味は…いや、気にすんな」
もちろん、この前の『妖精さん』の事だ。
中々に面白い光景だったのだが、一応は他言しないと言ってある。
まぁ、バレたらバレたでオレの知ったこっちゃあねー。という感じなのだが。

で、その妖精さんであるが、ここより離れたアカデミーにおいて、お仕事中である。
だが、明らかに何時もと違うと言うか、なんというか、燃え尽きている。
いつ、領地で妖精さんの件が広まるか分かったもんではないと気が気ではないからだ。
その心境たるや、水族館のある囚人の言葉を借りるとまさに「飛びてェーーーーーー」というところであろう。

「あら!もう姉様と仲良くなったのね」
もうマジにメローネでいいから変われと言いたくなる。
反論しても、妙な方向に話が進みそうだったので答えなかったのだが、カトレアが激しく咳き込んだ。
体が弱いという事は知っているので、別段慌てたりはしないが。
「そろそろか。大分読めるようになってきたからな。まぁ無理すんな」
「ふふ、いいのよ。結構楽しいんだから。外の事も教えてくれるし」
九割方情報目的なのだが、さすがに悪いと思わんでもない。
だが、利用できる物は利用する。そうでもしないとギャング界ではやっていけないのだ。
ただまぁ借りを作るというのも気に入らない。恩にしても仇にしてもだ。
「わたしより、わたしの可愛い妹をどうかよろしくお願いいたしますわ」
「…まだ何も言ってねーぞ」
勘が鋭いってLvじゃあない。メローネが見たらニュータイプだ!と言いそうである。
「戦が近いというのはご存知でしょう?そうなると、あの子は行ってしまいそうな気がする
  正直、行ってほしくはないけど、それは、あの子が決める事。だから、よろしくお願いしますわ。騎士殿」
「ハッ…!そんな上等なモンじゃあねーよ。オレは…」
そこまで言って、考える。
スデに使い魔でも無いし、命を救われた借りも返したと言ってもいい。
一般的に言えば、もうどうなろうが知ったこっちゃあないはずだが、関わろうとしている。
色々考えたが考えるのを止めた。考えるだけ面倒になっただけだが。
「…まぁそうだな…物好きな暇人ってとこだ」

所変わって再び王宮になる。
やっとこさ自分の順番が回ってきて、アンリエッタの前へと出るが、頭を下げる前に、逆に下げられたのでテンパった。
「へ、陛下!?卑しき身分の私に頭を下げるなどとは!」
「わたくしのために…あなた達、銃士隊があんな怪我をさせてしまいました。いったいどうすれば赦しをこえるのか…」
「頭をお上げください陛下。陛下がやった事ではありません。それに赦せないというのならば、アルビオン連中ではありませんか…」
「そうでしたわね…もう大丈夫です。アニエス」
「それで、調査の件ですが…どうやら内通者が居るようです」
「その者が手引きしたと?」
「正確には王宮を出る際に、『すぐ戻るゆえに、閂を締めるな』と言い外に出た者が一人。
 その五分後に陛下をかどわかそうとした一団が。それともう一つ…陛下がかどわかされてからしばらくして、衛兵の装備を奪った者が一人」
後者は当然、我らがプロシュート兄貴の事である。
「装備を奪った者は、内通者に関与しているとお思いですか?」
「関与しているのであれば、時間を置いてわざわざ衛兵の装備を奪うのは妙です。ただ、我々の味方かと問われれば…行動が不自然すぎます」
「…理由は?」
「我々に危害を加えなかった以上、敵とは思えませんが、味方なら姿を現してもいいはずです。陛下を助けたとなれば、恩賞が出るのは確実ですし」
「つまり、現状では分からない…と?」
「残念ながら、そうなります。気にはなりますが…いかがいたしましょう」
「…事前の計画どおり、男の行動を追う事にしましょう。場所をつきとめフクロウで知らせなさい。ただ敵にしろ味方にあるにしろ、正体が分からない者が居るかもしれない以上、気を付けて」
「御意。しかし、泳がすおつもりですか?」
「まさか…あの夜起こった事に関係する全ての者を許しませぬ。国も…人も…全てです」
アニエスは深く一礼し部屋を出たが、今の言を、プロシュートが、いや暗殺チームの誰でもいいが聞いたとすれば間違いなく2~3発殴られるところであるが、幸いな事に暗殺チームも、その生き残りも居ない。
ただ、今修正される事と、このまま突き進むのとがどっちが幸運なのかは誰にも分からないが…


もう恒例と化してきたトリスタニアでの情報収集であるが、当面のターゲットであるクロムウェルに関してはどうも、虚無の使い手であるという情報がアルビオンから流れてきた傭兵から入ってきた。
「アレと同じの相手にすんのか…?厄介だな」
もちろん、確定情報ではないが留意しておくにこした事はない。
『ディスペル・マジック』はスタンドに関係無いため問題無いが、『エクスプロージョン』は厄介だ。
ただ、詠唱がクソ長いことも知っているので、即時発動のスタンドなら付入る隙はある。
なるべく、妖精さんのねぐら周りには近付かないでいたが、客が居る事に気付いた。
「VIP待遇ってわけか?バレてねーとは思うがな…」
後ろに二人。尾けてきている。素人ではないが、尾けた相手が悪い。
組織に目を付けられてからは、腐る程尾行を受けていた身である。
それこそ、敵組織と内側からのニ方向から。ある意味、そういう物で歓迎されるのは日常の中に組み込まれていたようなものだ。
チームで、ギアッチョとペッシ以外は、それを撒く術も心得ている。
ペッシは、未熟さから。ギアッチョは尾行でも受けようものなら、そいつを捕まえてブチ割っていたからであるが。
とりあえず、わざとらしく走って、適当な道を曲がる。
これで大抵反応が分かる。

裏通りに面した人もあまり居ない一本道、普通なら尾行を撒くような場所ではない。普通ならだ。
気だるそうに上着を脱ぎ、壁に背を預け座っていると、二人の人影が、その通りに入ってきた。
「…ここを曲がったはずだが」
「隊長はメイジでは無いと言っていたからには、確かなのだろうが…行き止まりだ、この通りは」
顔は知らないが、装備に見覚えはある。銃士隊だ。
「おい、そこのお前。今ここを通って行ったやつはどこに行った」
「…駄目だな、聞こえていない」
そりゃあ、この今にもボケんばかりの老人が、追跡対象だと思うはずはない。
これでバレたら、そいつはメローネ並の変人だ。
「…仕方無い。隊長には見失ったと言うしかないか」
二人が背を見せると、逆尾行開始だ。尾行をしていると思っている方が、尾行されているというのは結構ある。

ランダムに年齢と、ついでに髪も弄ってたため、後ろを向かれても気付かれる事も無く尾けれたのだが、やはり、この手の事は、メタリカ、マン・イン・ザ・ミラー、リトル・フィートに分がある。
しばらく尾けていると、特に覚えている顔を見た。
「首尾は?」
「すいません隊長。どうやら撒かれたようです」
「……そうか。お前達は引き続きヤツの周りを探れ」
「了解」

アニエスが一人になったが、なにやら考えている。
言っちゃあ悪いが隙だらけだ。
「VIP扱いってのは悪くねーが、接客がなってねーぜ。あんなんじゃ金も払えやしねぇ」
「な…っ!」
「まぁ、まずはリスタ(献立表)を見せて貰いてーな。アニエスだったか?何の用だよ」
後ろから、アニエスの肩に肘を置いて、銃を抜き取り、それを観察する。
「うお、単発の火打ち式かよ。こんな骨董品、映画でしか見た事ねー」
「貴様…!」
アニエスがもう片方の銃を抜いて銃口を向けてきたが、別段動じない。
「止めとけ。こっちはそうでもねーが、オメーに向けてる方は致命傷になんぜ」
頭に銃口を突きつけた零距離射撃と、体勢が悪い上、身体を捻られれば弾がそれるかもしれない二つの銃。
不利なのは、アニエスの方だ。撃つ気があるなら、とうに脳漿ブチ撒けられている。
ついでに言えば、グレイトフル・デッドで銃口を抑えてある。
「っ…!この間といい、今といい…何者だ貴様…!」
「さぁな。で、何か用か?殺る気があんなら、相手してやってもいいが、そうじゃあねーだろ?」
尾行者の反応を見る限り、襲撃や暗殺の類では無いだろうと思い、面倒なので直に聞き出す事にしたのだが、予想どおりというとこだ。

「王宮に侵入した正体不明の者を放っておけると思うのか」
「……そりゃあそうだな。ほらよ、返すぜ」
別に銃自体はどうでもいい。スタンドがある分、こんな骨董品使うぐらいなら何も持たない方がマシだ。
「えらく騒がしそうじゃあねーか、何かあんのか?」
「貴様には関係無い事だ」
「まぁな。アルビオンの事なんざオレには関係ねー事だしよ」
「!?」
「…そこまで分かりやすい反応してくれっと、オレとしても引っ掛け甲斐があって逆に気持ち良いよ」
この時期だと、アルビオン関係の事と思いカマかけてみたのだが、いい反応だ。
やはり、このぐらい分かりやすい方が扱い易い。
最近は掴み辛いカトレアの相手が多かっただけに清清しさすら覚える。
「…ッ!謀ったな…!」
「騙される方が悪りぃんだよ。オレ達の世界じゃあ特にな」
なんだかんだ言っても、まだまだギャングである。そう簡単にその思考は変わりはしない。
アニエスを見るが、何かもう言葉を出そうとして出ないといった感じだ。
引っ掛ける事はあっても引っ掛けられるって事には慣れてないって感じの!
「それじゃあ、何やってんのか話してもらおうか。アルビオンの事だろ?ええ、おい」
もう完全にプロシュートのペース。スタンドバトルにしても、会話にしても、主導権を握るというのはいいものである。
「お前みたいな怪しいやつに話せるか」
「仕方ねー自分で調べるか。好きにさせてもらうぜ」
「な…ッ!」
マズイ。ここで、こいつに勝手に動かれては、作戦が破綻するかもしれない。
そうなっては、全て台無しだ。折角の復讐を遂げる機会が永久に失われてしまうかもしれない。
「……私と共にいろ。最低限の事ぐらいは教えてやる」
「オレの監視も兼ねるって事か。まあ悪くねー判断だな」
実際、自分で調べるといっても、確かな情報源なぞ持っていないので調べようが無いのだが向こうから情報を提供してくれる事になった。スタンド能力とハッタリは使いようである。

「宮廷内の裏切り者の尻尾を掴むため動いている」
「そいつが、アルビオンの連中と繋がってるってわけか。分かりやすいな。…金か?」
「そうだ。最近になって、そいつは、軽く見て7万エキューという裏金をバラ撒いている」
「どこも変わんねーな」
パッショーネも幹部連中が裏金を作っているというのはあった。代表的なのはポルポであろう。
バレれば粛清の対象なのだが、ポルポの場合、ブラック・サバスの能力がそれ以上だった為、半ば黙認されていたようだが。
(しっかしこいつの目…こいつぁ捕獲する目じゃねーな。ハナっから殺す気か)
それは別に、こいつと対象の問題なのでどうこう言う気は全く無いが、繋がっているというだけで、殺すつもりというのは考えがたい。
逆手に利用すれば、アルビオンへの情報操作にも使えるからだ。
(ま…怨恨ってとこか。オレ達と同じってワケだ)
となると、残りは怨恨。復讐しか無い。それも、並の恨みでは無いのだろうと思う。
「そんで、オメーはこれから何すんだ?セオリー通りなら、これから探り入れんだろ?」
「夜を待って、そいつの屋敷に向かうが…妙な真似をしてみろ。即座に撃ち殺すからな」
「おい、オメーこの前といい、殺す殺すウルセーぞ…オレ達の世界では…ああ、オメーはギャングじゃねぇな。忘れろ」
つい習慣染みた言葉が出た。やはり当分の間ギャング気質は抜けそうに無い。
「やはり裏の世界の人間か、お前。日陰で大人しくしていればいいものを、何が目的だ」
「この前の、ツケの回収ってとこだ。あんな連中二度と相手にしたくねーぜ」
正直言えば、死体の相手なぞやりたくない。直喰らって動こうとする相手など初めてだ。
「…まぁいいだろう。来い」
プロシュートを前にして、アニエスが方向を指示しながら歩く。
後ろから何時でも撃てる体勢だが、結構感心している。
この稼業では、臆病なぐらい警戒するにこしたことはない。臆病すぎるのもペッシみたいになるので問題があるが、合格点というとこだろう。
「しばらく、ここで時間を潰す。私の視界から消えたら、どうなるか分かっているだろうな」
「信用されてねーな。ま…オレがオメーでもそうするがよ」
むしろ、ここで逆に簡単に人を信用するようなヤツの方が信頼できない。
そういう意味でこいつは、戦力になり得ると判断した。

特にやる事も無いので寝ていると、アニエスに起こされた。
もう夜だ。ついでに言えば雨が降っている。
「銃を向けられているというのに寝るか?普通」
「気にすんな、撃つ気があんならさっきやってんだろ?」
もちろんグレイトフル・デッドを控えさせ、急所は防御しているので問題は無い。
「抜けてるのか図太いのか分からんヤツだ…時間だ、行くぞ。ここから馬を使う。それとこれを着ろ」
そう言って渡されたのは、衛兵が装備する軽装の鎧と剣だ。
「メンドクセーな。このままでも構わねーだろうがよ」
「構うに決まってるだろうが!銃士隊と行動する平民という奇妙さを考えろ!!」
仕方ねーとして着替えたが、やはり軽装とはいえ鎧は嫌いだ。慣れるようなもんじゃあない。

馬を進めると、高級住宅街に入る。
どれも、これも無駄にデカイ。その中の一角、二階建ての広く巨大な屋敷の前に着いた。
横でアニエスが唇を歪めている。
(やっぱ恨みか)
そこで、アニエスが大声で叫び来訪を告げると、門の小窓が開き小姓が顔を出してきた。
「こんな時間にどなたでしょう」
「女王陛下直属の銃士隊、アニエスが参ったとリッシュモン殿にお伝えください。急報ゆえ夜分に申し訳ないが」
首を捻りながら小姓が屋敷に消えていったが、少しすると戻ってきて門の閂を外された。
馬の手綱を小姓に預け屋敷に向かうと、暖炉のある部屋に通される。
そうすると、寝巻き姿のオッサンが現れた。
(ウサンクセー面してやがんな。ペリーコロのジジイといい勝負だぜ)
そんな思いをしているとは露知らず、話はどんどん進んでいく。
「女王陛下が、お消えになりました」
「かどわかされたのか?この前も似たような誘拐騒ぎがあったばかりではないか。アルビオンの陰謀かね?」
「調査中です」
(親父は親父でも…狸親父ってとこだな)
内通者というのがこいつの事なのだろうとは思うが、よくまぁこれだけ腹芸ができるもんだと感心する。
戒厳令が敷かれ、街道と港の封鎖が決まり退出しようとしたところで、アニエスが立ち止まった。
「閣下は…二十年前のあの事件に関わっておいでだと仄聞いたしました」
「ああ、あの反乱か。それがどうした」
「『ダングルテールの虐殺』は閣下が立件なさったとか」
低い、怒りを押し殺したような声だ。
「虐殺?冗談を言うな。アングル地方の平民どもは国家を転覆させる企てをしていたのだ。鎮圧されて当然だろう。昔話など後にしろ」
それを聞くと部屋から退出しようとするが、鳴き声が聞こえた。
「ほう…閣下は猫を飼っておいでで?」
「それが関係あるのか?つまらん事を聞く暇があるなら、陛下を探し出せ」
二人が外に出たが、部屋に猫はいない。ただ、植木鉢に植えられた草があるだけだった。

外に出たとこで、今まで黙って聞いていたプロシュートが口を開いた。
「オメーは、ダングルテールの虐殺ってやつの生き残りってわけだ」
それには答えない。苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「ま、オレには関係ねーがよ」
言いながら空を見上げる。恨まれる事に関してなら、多分そのリッシュモンにも負けていないはずだ。
それだけ殺しもしてきたし、関係無いヤツも老化に巻き込んではいる。
まぁ、巻き込んだ方に関しては、そんなに死人出してないとは思うが。
実際、列車の中で巻き込んだものの、老死したヤツは居ないはずだ。
広域老化は範囲が広い代わりに、寿命が尽きるまでの時間が結構長い。
その弱った相手に止めを刺すのが、本体の仕事である。
色々骨とか曲がったりするだろうが、解除すれば戻るので問題無い。

小姓から馬を受け取り、アニエスが黒いローブを着るとフードを被り戦支度をすると馬に跨る。
すると、雨の中から誰かがこっちに走ってきたが仕事柄夜目が利くプロシュートはそれを見てマジに辟易した。
「げ…悪ぃ。急用だ。後でな」
「お、おい!どこに行く!」
疾きこと風の如し。追う暇も無くプロシュートを見送るアニエスに、声がかかった。
「待って!待った!お待ちなさい!馬を貸して頂戴!急ぐのよ!」
白いキャミソールを泥と雨で汚し、靴を脱いで裸足で駆けてくるのは妖精さんこと、ご存知ルイズだ。
「断る、邪魔だ」
「わたしは陛下の女官よ!警察権を行使する権利を与えられているわ!
 あなたの馬を…って確か銃士隊隊長のアニエス!なにやってるのよ!おめおめと陛下をさらわれて!」
「陛下の女官…?しかし、なぜ私の名を?」
「この前、倒れているあなたを見たのよ!とにかく、馬を貸して頂戴!」
この前倒れているというと、あの時しかない。
となると、この少女は…
「では、あなたが…この前、陛下をお救い下さったド・ラ・ヴァリエール殿か。
 お噂はかねがね。お会いできて光栄至極。一頭しか無いので貸すわけにはいかぬが…乗られい。事情は説明いたそう」
ルイズに手を差し出すと、そのまま引っ張り上げる。
「陛下は無事だ。…それにしてもヤツめ…どういうつもりだ」
「陛下は無事なの!?そして、ヤツって誰!?」
「気になされるな。恐らく今回の件とは関係無い者だ」
そう言うと、馬を進め駆け出す。二人は夜の闇にと消えていったが、その後ろから一騎が出てくる。雨のおかげで足音は届いていない。
もちろんプロシュートだ。
「危ねー…マジどうなってんだよ」
まぁ、バレても問題無いっちゃあ問題無いが、確実な暗殺遂行にはなるべくこちらの存在を隠しておく必要がある。
敵であれ味方であれだ。
能力を知らないヤツには姿を見せてもいいが、能力を知っているヤツに知れるとスタンドという特殊な力だけあって、一気に広まりかねない。
それでなくとも、トリステイン貴族の中では『悪魔憑き』だの言われていたりするのだ。
「さて…オレとしては、どうすっか」
後を追ってもいいが、内通者の正体が明らかになった以上、そっちを張ってもいい。
というか、クロムウェルの情報が欲しいので、リッシュモンを張って、アニエスが殺る前に口を割らせねばならない。
とりあえずは、アニエス達が片割れを捕らえるなりして、親玉が動くのは明日だろうとして適当な宿に泊まる事にした。
安っい木賃宿を見つけると、金を払いニ階の部屋に通される
別に質はどうでもいい。ホルマジオなぞ、小さくなって下水で寝ていた事もある。それに比べりゃあ屋根があるだけマシだ。
塗れた鎧を捨て、楽な格好になる。服も濡れてはいるがそのうち乾く。
基本的に、どんな場所でも、どんな状態でも寝れるというのが暗殺者だ。今更気にしたりはしない。
ただ、夜になるまで寝ていたので、今は寝る気にはなれなかったが。
壁にもたれながらどうやって口割らせたものかと考え、結局パッショーネ伝統のアレにするかと思っていると、隣の部屋から声が聞こえてくる。
聞き耳立てる趣味はないが、知っている声だったのでもう引力か何かだと思って諦める事にした。

「あの夜わたくしが…自分を抑えきれずに、操られていたウェールズ様と行こうとしていた時…あなたは止めてくださいましたね」
声の主は、現在最も説教したいヤツランキング。ブッ千切ってナンバー1のアンリエッタだ。
「あの時、行ったら斬ると。嘘は許せないと。愛に狂ったわたくしに、そうおっしゃってくださいました
ならもう一人は誰かと思ったが、すぐ分かった。
「え、ええ。い、言いました。はい」
現在説教ランキングナンバー2のマンモーニこと才人だ。
ちなみにナンバー3は特に決まっていない。つまり現状対象はこの二人のみである。
「…これを見てください」
「どうしたんですか?少しだけ残ってるこの手の傷」
ああ、もうスゲー心当たりがありすぎる。というか実行犯。
「ある依頼をしようとした時に、ルイズの使い魔の方に踏まれたんです」
「姫様の手を!?なんっつー事を…」
そりゃもう、容赦なくグリグリと踏んだとも。むしろ、それだけで済んだのが奇跡的だ。
肘撃ちからの顔面蹴りが5発ぐらい入っても不思議じゃない。
「あの方は…愚かな事を言った、わたくしにも本気で接してくれました。
  それなのにわたくしは、あなた達を殺そうとした。あの方が見ていれば、また踏まれていたでしょうに」
実際のところ、その程度で済まない。
それこそ、『あなた…覚悟してる人ですよね?人を殺そうとするって事は殺されるかもしれないって覚悟してきてる人ですよね』
と言わんばかりに殺されても文句は言えないはずだ。
そう言った意味では、ものスゴクアンリエッタは運が良い。
「だから、お願いしますわ。新しい使い魔さん。また何か愚かな行為をしそうになったら…あなたの剣で止めてくださいますか?」
「なんだって!?」
ブチャラティかと言わんばかりの叫びが聞こえてきたが、まぁ当然だろう。
「その時は、遠慮なく斬ってくださいまし。ルイズは優しいから、そんな事はできないでしょう。ですから…」
「できませんよ!…そんな弱くてどうするんですか。あなたは女王様なんだ。自分の意思で皆を守らなくちゃ」
壁一枚隔てた壁から、そんな会話が聞こえてきたが、甘いなと思う。
上に立つからこそ、それに比例して責任が大きくなる。
まして、5万という大軍を私怨にも近い感情で動かすからには、ドジこいた時に一回死んだぐらいでは済まされない。
暗殺チームも私怨で離反したようなものだが、アレは全員がそうだったからで、こいつの場合そうではないのだから。
「どうなろうとオレの知ったこっちゃあねーがな…届く範囲で影響なけりゃあよ」
別に、侵攻作戦が失敗しようとも、周辺に影響が無ければそれでいい。
全部を面倒見てやれるほど、万能でもないし自惚れてもいない。

「ただ、まぁトチったら…そんときゃオレがキッチリ始末してやんよ。オメーをな」
ルイズや才人が斬れないなら、オレが殺ってやる。大体、他人に止めてもらう事を前提にしてるってのがムカついてきた。
もうなんか、今こいつを殺っちまった方がいいんじゃあねーか?とも思ったが押し止める。
依頼もされてないし、廃業したばかりというものあるが、どうもこう、アンリエッタを見てると、ペッシとギアッチョを足してメローネで割ったような感じだ。
足した意味もよく分からんが、とりあえず今殺すようなタマでもないと判断した。
ギャングというものは基本的に自己中心的思考なのである。
正義感溢れるやつなら、この姫様のために。とか言って必死こいて頑張るか、責任の重さに対して熱く語るかだろうが、そこまで面倒見る気も無いし、責任なぞ自分で理解せにゃ一生分からんと思っている。
だからこそ、ペッシに厳しくしていた。
もっとも、出れる状況なら『ナメた事言ってんじゃあねーぞ、このクソガキが!』とマジに殴っているが。

特に聞くような情報も無かったので、眠気が襲ってきた。
常に襲撃があるかもしれない状況だったので、寝れる時に寝ておくという習慣みたいなものだが
これも、まだ抜けそうに無い。いい加減慣れにゃあならんと思って目を閉じると、隣から扉を叩く音と
『ズキュウウウウン』というような音が聞こえてきたが、まぁこっちは幻聴かなにかだろう。
そうして、しばらくするとこっちの扉も叩かれる。面倒なので放っていると破かれた。

「ウルセーな…なんの用だ」
「王軍の巡邏の者だ!犯罪者が逃げてな、順繰りに全ての宿を当たっている!さっさと開けんか!」
「で、ここに、その犯罪者ってのはいんのか?」
そりゃもう、世界が違えば特A級の犯罪者がここに。
しかしながら、この世界では未だフリーマン。真っ白である。ギーシュ殺ったけど。
「いや…邪魔をした。行くぞ」
「そう思うなら来んな」
「こっちだって好きでやってるわけじゃない。隣の部屋なんてお楽しみの最中だぜ」
「シケてんな、オメーらも。見てて哀れになってきたぜ。ほらよ。その代わり、何があったのか聞かせろ」
そう言って投げ渡したのは数枚の金貨。別段金に困ってるわけでもないし、余裕もある。伊達にヴァリエール家で働いているわけではない。
「お、悪いな。詳しくは言えないが、ある方がさらわれ、それを捜索中でこの雨の中駆けずり回ってんだ」
「…そういうわけか。ああ、もう行っていいぜ」
衛兵を見送ったが、どういう状況かを纏める。
隣に居るのがアンリエッタならば、捜しているのはそれだ。
そして同時に居るのが、才人ならかっさらわれたというわけではないし、アニエスの行動も妙だ。
「テメーを餌にしてるってわけで…その餌に喰らい付くのは明日ってとこか。随分とデケー狸狩りじゃあねーかよ」
そう結論付けると寝る事にした。衛兵が隣の部屋はお楽しみとか言ってたが、別にどうこう言う気も無い。
当人の問題だ。その結果がどうなろうともそいつの責任。基本この元ギャング。その手の事に関しては完全不干渉である。


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