ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔 第六章-01

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
アンリエッタの元に跪いた恰幅のよい男が、ぴくりと身を振るわせる。
「私は、今でもこの戦役は無益だと思っております。女王閣下。今からでも遅くはありませぬ。ぜひ出征をお考え直しくださいませ」
「それはなりませぬ。レコン・キスタと我々は、両雄あい成り立たぬ仲。どちらかが倒れぬ限り、どちらかの平穏はないのですよ」
この時期のトリステイン政府は、すでにレコン・キスタの征伐を国是江として掲げている。
「ヴァリエール公爵。いまさらあなた個人の兵役拒否をどうこう言うつもりはありません。ただ、確認したかっただけです」アンリエッタは続けて、
「その代わり、あなたの娘のルイズ。
 あの娘を私に下さい」そう、一息に言い切った。
刹那の沈黙の後。
「なぜでございますか!」ヴァリエール公爵の怒号が王宮に響き渡った。
「あなたがたは、実の娘のことを本当に思っているのですね」アンリエッタは、ヴァリエール公爵の隣に跪いている女性に語りかける。
「エレオノール。あなたとあなたの父上が、無駄な殺戮をこのまないという本心を、私は疑うつもりはありません。ですが、いまは王国の危機、国家の大事なのです」
「ハッ。女王閣下。恐れながら、なぜにルイズなのでございますか? 直属の女官が必要ならば、わが家のルイズでなくともよいはずでございます。ちびルイ……ルイズを危険な目にあわせるつもりなのであれば、その代役をぜひ私、エレオノールにお任せくださいませ」
「何をいう、エレオノール!」ルイズの父親はそういったが、
「これは、ヴァリエール家としての総意でございます」エレオノールは、はっきりとそう言い切った。


「それは、今まで隠していましたが、ルイズが虚無の系統だからです」
「なっ。何ですと?!」ヴァリエール卿が目をむく。彼は今の今まで娘の系統を知らなかったのだ。
「失われた系統。欠けた系譜。始祖の系統。いずれもルイズの持つ魔法をうまく特徴付けています」
アンリエッタの事務的な口調が、ヴァリエール卿の表情を段々と蒼ざめさせていく。
「それでは、あいつがいつも魔法の失敗を爆発させていたのは……」
「はい、虚無の系統の発現ですわ」
エレオノールが静かに口を開く。
「女王様、私はルイズから聞きました。タルブの村で行われた決戦のこと、うわさの、光の玉のこと。ルイズの活躍のこと……」
真剣な表情のエレオノールとは異なり、アンリエッタは旧友の武勇伝を聞いている少女のような恍惚とした笑顔をしていた。
「ルイズの系統が『虚無』であるのであれば、なおさら姫様の申し出を受けるわけには行きませんわ。虚無はトリステインにとって、ていのいい駒。いわば切り札。ジョーカーにございます。ルイズを王宮にさしだせば、ルイズは今後戦争の渦中に身をおかなければならないでしょう。人としてではなく、ひとつの兵器として」

「いえ、違います。私は、トリステインの虚無を、ルイズを守るために言っているのです。げんに、以前、虚無の系統を、ルイズをかどわかそうとしたレコン・キスタの陰謀がありました。そのような卑劣なたくらみからルイズの身を守るには、魔法学院はあまりに無防備。ですから、私はルイズをわたし付きの女官としてルイズに王室の警備を与えたいのです」
「そうなのでございますか?」
「ええ、寒い時代ね。ルイズの身の安全を考えれば、許してくれますか?」
「これだけは誓っていただきたい」男の呟きが聞こえる。
「ルイズを危険な目に合わせない、と」
「わかりました。このアンリエッタ。誓いましょう」アンリエッタは水晶の杖を掲げ、誓約した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ひとつの船の上に。二つの月の下で。
その男たちは不適に笑いあっていた。
「貴様がここまでついてくるとは思わなかったぞ。シェフールド殿」
「他愛のないおしゃべりはそこまでだ。確実にやってくれるのだろうな?」
青い月と赤い月。
白髪の盲目の男と、赤い髪の少年。
二つの月を象徴するかのように、二人は空船の甲板に立っていた。
「問題ない。『わたしたった一人で』できる依頼だ」
「自信に実力が伴っていればよいのですがね」
「ああ、大丈夫だ。今回は、貴様に『これ』をもらったからな。それにお前も協力してくれるのだろう?」
盲目の男は、丸い物体を取り出した。
月光に反射したそれは、銀色の反射光を出す。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


トリスタニア魔法学院の一番大きな講堂に、アニエスの声が響きわたる。
「ひとつ、この戦は聖戦である。学生諸氏は勇んで我等が戦列に参加せよ!」
アニエスは先ほどから教壇に一人立って演説を行っていた。
それを聞くは魔法学院の生徒達。未だ年端もいかない少年少女たちであった。アニエスを中心に、銃士隊が数十名、集められたトリステインの生徒をにらめつけるかのように円陣を組んでいる。
その外側にコルベールら教師たちと、ルイズたち生徒が並ばされていた。
「やれやれ、学生までも動員するとは」
前列に並ぶオールドオスマンは、アニエスわざと大きな声で独り言を喋った。
教師陣がアニエスの通達--生徒から志願兵を募るというトリスタニア王室の決定--を伝えた時、教師陣には少なからぬ反対の声が上がった。だが、その声のいずれも弱く、アニエスが一言、
「アンリエッタ閣下の勅命である」といわれると誰しもも黙り込んでしまうのであった。
そのような教師たちの嘆きも、生徒達はあまり気にしていない風である。その証拠に、どこからか男子生徒の、のんきなおしゃべりが聞こえる。
「それにしても、見ろよあれ。近衛隊の隊長は剣を持っているぜ。メイジじゃないのかな」
「しらないのか、マリコルヌ。最近できた銃士隊ってやつで、隊員はみな若い女性の平民なんだ」
「なんだって、ギーシュ。若い女性なんて……それはうらやまし……じゃなかった、けしからんな」
「うむ。大変いやらしけしからん」


オールドオスマンはため息をついた。昨日のコルベールとのやり取りを思い出す。
『私たちはどうあっても生徒たちを戦場に送らなくてはならないのでしょうか』
『王命は絶対じゃよ。今回の勅は女王陛下の懇願という形をとってはいるがの。実態は変わらん』
『それはわかりますが……彼らトリステイン魔法学院は我々の生徒です。王室が教えているわけではありません』
『気持ちはわからないではないがの。じゃが、それ以上の発言は、王室への反逆とも受け取られかねない……察してくれい』
『……はい』
オールドオスマンは、どこか近くの男子生徒の声で現実に引き戻された。
「おいギーシュ、君は志願するのかい」
「ああ、兄上たちはすでに従軍している。ここで従軍しないのは一族の名折れだ。そういうマリコルヌは?」
「僕はもちろん参加するよ。前から海軍服にあこがれていてね……その、なんだ、下品なことをいうようだが……あれを女性が履いてくれるのを想像しただけで……『……』してしまってね……」
「そっすか……」
「フゥ~~。だれか可憐な女性が、あのすばらしいセーラー服を着てくれないかなぁ~?」
そこまで聞いて、オールドオスマンとコルベールは同時にため息をついた。いったいこの学院はどうなってしまうのだろうか。


「ちびルイズ、あなた結婚しなさい」
トリステイン魔法学院に来たエレオノールは、ルイズの部屋に入ってきて開口一番、そういった。
「あなた結婚して婿をとりなさい。一刻も早く。そうすれば、アンリエッタ姫様も、そういうことならと、あなたを無理に近習にしようとはしなくなるでしょう。ルイズの庇護はヴァリエール家が受け持ちます」

「な、どういうことだ?ルイズ」露伴が言った。
「アンリエッタ陛下は、ルイズの『虚無』について、非常に深い憂慮をされているわ。陛下はルイズを近習におくことで王宮の庇護を受けることを思いついたけど」どうやらヴァリエール家では、王宮の案は不満があるらしい。今のトリステイン王国はレコン・キスタとの戦時である--戦時において、女王や近習は戦争のもっとも俯瞰しやすい位置にあることが多い。それはすなわち、死の危険にさらされやすいということを意味する。戦況の流れによっては、近習のルイズが戦の最先端の場に立たねばならない危険がが常ならぬ確立で発生するのだ。
「そんな、姉さま。まだ私は結婚なんて考えていないわ」
「なに言ってるの!あなたの年では貴族は結婚してもよい年頃よ!それを『まだ』ですって?生意気言うのも大概にしなさい!」
「だって……好きでもない人と結婚なんて、私……そんなに結婚が好きなら、エレオノール姉さまがまた結婚すればよいじゃ……あ……」
「なにか、言った?」
空気が凍った。
「いえなんでもないですお姉さまなにもいってないです……あいひゃひゃひゃひゃ!」
エレオノールはルイズの頬を思いっきりつねる。
「それくらいにしてやれ、エレ」
「ブチャがそこまで言うのなら、仕方ないわね」ブチャラティの言葉に、エレオノールはルイズへの攻撃をやめた。
ブチャラティとエレオノールが出会った日のこと、すなわち、ルイズとシエスタが零戦のことでアカデミーに足を運んだ日の晩に、ブチャラティとエレオノールは決闘を行っていたのだ。
実に激しい戦いであった。実際にその現場を見るものは、まさに『竜虎相打つ』という比喩を地で行っていた戦いであったと証言している。エレオノールが魔法で攻撃を仕掛ければ、ブチャラティはスタンドで柱を壊して応戦する。闘いはいつしか、夕闇があけるまで続いた。決着はついたのか?勝利の女神はどちらに微笑んだのか?それは誰にもわからない。長い時の後、残ったのは、アカデミーの研究棟の残骸と、傷だらけで連なり、横たわるエレオノール、ブチャラティであった。
そう、二人は「戦友」と書いて「とも」と呼ぶような関係になっていたのである。
「でも、あなたは見合いをしなさい。わかったわね?」エレオノールはルイズの鼻に人差し指をおったてて言い放ったのだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
エレオノールがやってきた次の日。今日は虚無の曜日、授業はお休みである。
ルイズと露伴、ブチャラティは、ルイズの部屋で休日を満喫していた。
「ルイズ、何だが部屋の外がおかしくないか?」
そう言ったのは岸辺露伴だった。窓にかかったピンクのカーテンが、風に揺られて外にはみ出している。
「そう? こんな真昼間ですもの。ギーシュあたりが決闘しているんでしょ」
ルイズはそう思ったが、露伴に、ブチャラティは違う意見のようだ。
「いや、ルイズ。何かが起こっているぞ。窓から中庭の様子が見られるが、生徒たちが集まっている。ここからだと、おびえているようにも見える」ブチャラティが言った。彼は窓辺から上半身を乗り出す。彼が指差した、中庭が見渡せる窓の先には、三十人ほどが集まって中央塔に移動している様子が見えた。
「様子を見に行ってみようぜ」
露伴はルイズの部屋を飛び出した。
「ルイズ。君はどうする?」
「そうね、暇だし。ブチャラティ、私も行こうかな」
「ならば、露伴に追いつこう」
そういって、二人はルイズの部屋のドアを開けたら、
露伴がうつぶせに横たわっていた。露伴の手の甲はぴくぴくと痙攣している。
「どうした、露伴?」ブチャラティが露伴の背に手をかけると。


ピョン。
一匹の美しくも青い蛙がブチャラティの手に乗った。
「危ない!」ルイズが、持っていた杖でその蛙を乱暴に叩き落とす。
「どうした、ルイズ」
「ブチャラティ、いま蛙が触ったとこ、なんともない?急いで水で洗い流しなさい」
ふと見ると、ブチャラティの手がやけどをしている。ルイズは図鑑でその生物を知っていた。
「アレはヤドクガエルの一種。下手に触ったら命にかかわるわ」
「おい、露伴、大丈夫か?」
ブチャラティが急いで露伴を起こそうとするが、うまくいかない。
ルイズも手伝って、ようやく露伴を仰向けに向けさせたら、
彼の表半身は、一面ヤドクガエルに覆われていた。


急いで蛙たちを払いのける。露伴の意識は既にない。痙攣している。
「しっかりして! 急いで先生に報告して水の魔法をかけてもらわないと!」ルイズがあせる。「落ち着け、ルイズ。妙だと思わないか?部屋の中にこれだけの毒ガエル。何らかのスタンド攻撃と思っていいだろう」
「じゃ、じゃあ!」
「露伴をできるだけ早く先生の下へ連れていことも必要だが、この意味不明な攻撃をどうにか『いなすこと』を考える必要がある。特にわれわれが再起不能になると、露伴も助からないと見てよいだろう。だが、まずは『落ち着け』」
ルイズは、自分の使い魔の迫力に思わず後じさった。だが、それだけでは悔しいので、両手に力こぶを作って返事だけはした。「わ、わかった……がんばる」
「よし、そのいきだ」

「で、具体的にどういった対策をとるの?」
「自分の姿を見せずにヤドクガエルを使ってきているところを見ると、敵スタンドは遠距離タイプの可能性が高い……それならば、敵の本体を見つけだしてたたくのが定石だろう」
「でも、そんなことできるの?」
「『できるか』『できないか』じゃない。やるしかないんだ」
「そうね、私も覚悟を決めるわ」ルイズは大きく息を吸い込んだ。
「そうだ、ルイズ。以前君が試していた虚無の魔法。アレが使えないか? 確か、『ディスペル』とかいったな……」
「どういうこと?」
「もしこの蛙自体がスタンド本体で、毒がスタンド能力であるのならば、わずかな可能性とはいえ、君の虚無の魔法がスタンドに利く可能性がある。何も敵本体を倒さなくても、この場で露伴を助けることができる」
「わかったわ……」ルイズは自身の小さな口で、一生懸命詠唱を始めたのであった。


話は直前にさかのぼる。
『落ち着け』といったブチャラティも、内心ではかなり動揺していた。
二人はとりあえず露伴をルイズの部屋に残し、廊下へと出た。
「くれぐれも慎重にな」
「ええ……ッ、あそこ!」下へと続く階段の壁に、一匹の蜘蛛がへばりついていた。大きさは人の握りこぶしくらいある。
「なにかしら。いかにも毒があるっていう感じの色合いだけど……」
ブチャラティはスタンドを発現させ、壁の敷石を握り拳の分だけ切り取った。それを蜘蛛に向け投げつける。蜘蛛は瓦礫につぶされ、ドメチッと言う奇怪な音をさせてつぶれた。
ブチャラティは近づいて蜘蛛に触れた。反応はない。
「問題ないみたいね」ルイズがほっとする。
「とりあえず中央塔へ行くぞ」
そういって階段を折り始めたブチャラティだったが、とたんに体制を崩した。
「大丈夫?」とっさにルイズが支えるも、一緒に崩れ落ちてしまった。
「ブチャラティ!あなたの足!」
彼の足からつくしのような細長いきのこが何本も生えてきている!その茸はウジュルウジュルと蠢きながらも成長を続けていた。
「大変!早くあなたのスタンド『スティッキィ・フィンガーズ』で除去して!」
「ルイズ、俺に近づくな!」
そういわれたルイズは、びくりと身を震わせた。
「正確には『俺に近づくことで身を下に下げるな』ということだ」
「え?」
「みろ、今のこの茸は生長していない……が、こうすると生長する」
ブチャラティが足を階段を下に向けると、ブチャラティの足の茸が生長をはじめる。彼ィが足を下げるのをやめると、茸の膨張も止まった。
「俺はかつてこの手のスタンドに極めてよく似たスタンドに出会ったことがある。そのスタンドは、『人に寄生し、下に移動すると同時に発現を始める黴』だった。だが、これは……?」そのとき階段の下から足音が響き渡った。


コツコツ……
「誰か来るわ!」
「慎重に構えろ、呪文の詠唱の準備をしておけ……」
そのとき、階下から少年らしき者の声が鳴り響いた。
「さすがはブチャラティといったところか……かつて『グリーン・デイ』と対戦しただけのことはある……」
その声にはブチャラティには聞き覚えがあった。
「ローマのコロッセオ前であった少年……か?」
「僕の名はドッピオ。パッショーネの『ボス』の部下といえばわかるかな? 『コロッセオでの精神の入れ替わり』の時、ボスの体にいたのが僕さ」
「そうか、貴様、ボスの分裂した精神の片割れか!」
「人聞きの悪いことを。僕はボスのもっとも忠実な部下だ」
「これはお前のスタンド能力か?」
「……『冬虫夏草』だ」
「何を言っている!」
「君の疑問に答えよう。そうとも言う……君の足に生えている茸は、かつての『グリーン・デイ』と同じ性質を持った茸でね……宿主が下に移動すると発芽する性質を持つんだ……僕がその茸の生命を生んだ」
「『生んだ』だと?そのような能力があるのは、俺はかつて一人しか知らない!」
「そう、『新入り』の能力、『ゴールド・エクスペリエンス』だよ」
金色の外殻に、黄金色のシルエット。
それは、まさにブチャラティがよく見知ったスタンドのビジョンであった。


「なぜ貴様がその能力を持っている!そのスタンドはジョルノが本体のはず!」
「今は僕が主だ。そして……」ドッピオが右手を振ると、そこに赤いさそりが出現した。「このクソッたれの能力が僕とボスの野望をもう少しのところで断ち切ったんだ」
「なるほど……お前はコロッセオでミスタに撃たれて死んだものと思っていたが……貴様もこの世界に喚ばれて『復活』したくちか……」
「直接の恨みはあの新入りにあるが、この際ブチャラティ、君にも復讐を果たしておこう」桃色の髪をした青年は、そういってブチャラティの五メイル手前に足を踏み出した。
「どうする?岸辺露伴を助けたいのなら、君たちは僕を倒して下の階に進まなくてはならない」

「そうだな……そして、俺が階段を下りることはできない……とでも言うと思ったか?」
ブチャラティは一気にドッピオの元へと階段を駆け下りた!
「馬鹿なッ!」
「タバサッ!」ドッピオとブチャラティの叫び声は同時であった。
階段の外壁を破壊して侵入してくる竜が一匹。その上に青髪の少女が乗っていたのをブチャラティは見逃さなかった。
タバサは、ブチャラティの足に『ウィンディ・アイシクル』の魔法をかける。彼の足が見る見る凍りつき始めた。だが、その足でも、ブチャラティはドッピオの目前に移動することができた。
「冬虫夏草は暖かくなると発芽する!逆に言えば、寒い冬の時は、発芽しないのだ!」ブチャラティはゴールド・エクスペリエンスの首根っこをつかみ、スタンドの拳をその肉体に叩き込んだ。胴体に三発。両腕に二発ずつ『ジッパー』をつりつけたところであのスタンドは消滅した。
「なかなかやるじゃないか」そう、不敵に笑うドッピオの顔には、ブチャラティは焦りの表情を見出せなかった。むしろ勝者の余裕ささえ感じる。
「ならば、ひとまず退却するか……」
そういった直後、ドッピオの姿はブチャラティたちの目の前から掻き消えた。


「大丈夫、ブチャラティ?」
「無事?}駆け寄る二人の少女の声が聞こえないほどに、ブチャラティの頭脳にとある疑問が駆け抜けていった。
「……何かおかしい。つじつまが合わない」ブチャラティにとって、この感覚は前にも味わったような気がする……
あれは……
「何が?今は露伴が危ない」タバサが言った。
それにつられてルイズも叫ぶ。「それにここにいたんじゃ他の生き物の攻撃にさらされる可能性がどんどん高くなっていくわ。さっさとここから出ましょう」
この奇妙な違和感……サン・ジョルジョ・マジョーレ教会での感覚か……?
「……それだ」
「どうしたって言うの?この状況下では他の生徒も被害になっている可能性が高いわ。そうなると水魔法の使える先生も無事かどうかわからない。いいえ、仮に無事であったとしても、他の生徒の治療でとても忙しいはずだわ」
そうかッ!
「おかしいと思っていたッ! これだけ生物の攻撃を受けていながら他の生徒の叫び声がまったっくないことに気がつくべきだった!これは真実ではない!幻覚か何かの類だッ!」ブチャラティがそう叫ぶと同時に。ルイズの姿がとけ去った。いや、ルイズの残像を中心に廊下全体が解け始めている。ブチャラティは、意識が浮かび上がるように、奇妙な感覚で意識を失っていった。
「……ハッ!」


「……ようやく、気がついたようね」ルイズが言う。
ここはまだルイズの部屋。調度品が生クリームのように溶け出している。
ブチャラティとルイズは対面でテーブルに座っていた。二人はテーブルに突っ伏すような形で、動けなくなっていた。
「これは……いったい?」そういったブチャラティは眠気で意識が飛びそうになる。
「わからないわ……でも、これが敵スタンドの攻撃なのは確実……そして露伴が倒れているのも真実よ……」
「そうか……ならば……」
『スティッキィ・フィンガーズ……』
「なに?」
「ちょっとの痛みは我慢しろ」
ブチャラティはそういうと、テーブルの真下にジッパーを取り付けた。
石畳に取り付けられたジッパーは音もなく開いていく。
「え、ちょっと……」ルイズがそういうまもなく、二人はテーブルごと下の階に落ちていった。

「……ぃいたぁあい!」
「この下に落ちた痛みは現実のようだな」
「当たり前よッ!このむかつき!絶対に幻覚のわけがないわ!」ルイズはブチャラティを下敷きに、内股でうずくまるような体勢でかがんでいる羽目になった。頭をさすっている。どうやら、ルイズは頭を打ったらしい。ブチャラティは腰をさすっている。二人が落ちた先は、誰も使っていない部屋になっており、ところどころ埃がたまっていた。
「ところで、俺の見た幻覚の中にタバサが出てきたんだが、もしかしたら彼女もスタンド攻撃を受けている可能性がある」
「そう。なら、彼女と合流するのは結構いい案かもしれないわ。こちらの戦力にもなるし、案外二人だけよりも早くこの寮を脱出できるかも」
ルイズはそういうと、制服についたほこりを手で払いのけた。そのまま勢いよく立ち上がる。


「確かタバサの部屋は私のいっこ下の階のはず……この階よ」
「なら、いこう」
二人は部屋を出た。あたりをうかがう。すると、廊下を隔てて女性との叫び声が聞こえてきた。
「助けてッ――」
ルイズは、背後でブチャラティが戦闘体勢に入るなか、声がした方向のドアに向かって杖を振った。『アンロック』の魔法である。ルイズは、タルブの村での戦いの後、基礎の魔法ならば使えるようになっていたのだった。
部屋の内部は不気味なほど静かだった。
「誰もいないじゃない」
「いや、クローゼットが少し空いているようだが……」
「そう?私の方角からだと、ちょうど逆光になって見えないわ。それになんだかここ、直射日光が入ってきているとはいえ、妙に明るいわ」
「うん。気をつけよう」
クローゼットを開けると、果たして一人の女子学生が中に潜んでいた。うずくまってないているようだ。ちょうど暗がりに潜んでいる。顔だけ見える。
「シクシクシク……」
「あなたケティじゃないの?どうしたの?こんなところに隠れているなんて。あなたもやっぱり蛙とか蜘蛛とかに襲われたの?」
「虫がぁ……」
「虫?」

「むぅしぃがぁ~。わぁたぁしぃをたぁべぇるぅのぉ~」
開かれたクローゼットから現れたケティの背中には、あろうことか、カタツムリの殻が大きくのっかかっていた。彼女の背中と、まるで溶接しているかのように接着している。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー