ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの兄貴-51 後編

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匿名ユーザー

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「んなこったろうと思ったよッ!クソッ!」
ミノタウロスの洞窟までは、村から歩いて三十分程。
鬱葱と茂る森の小道を、三つの影が突き進んでいる。
ジジが、父親に連れられて洞窟に向かったのが三十分前。
1.5~2kmの距離といったところで、休み無しで走れば十分足らずで着く。
全員、そのぐらいの距離なら特に問題無いのだが、洞窟への道案内をするドミニク婆さんは無理だ。
思いっきり悪態を付いているのは、置いてきたシルフィードの変わりに背に乗っているドミニク婆さんのせいだろう。

いくら、グレイトフル・デッド要らずの婆さんとはいえ、十や二十で済む筈がない。
ある程度はスタンドでカバーしているといっても、そんな余分な重量を背負って突っ走っているのだから
否応無しにアルコールなぞ汗と共に外にブッ飛んでしまっている。
面倒だという思いもあって、だんだんイラついてきた。

ミノタウロスはタバサに任せると言ったが、即日撤回だ。
現れた瞬間に、直触りブチ込んでミイラにした挙句、天日干しにして酒の肴にしてやる。
修行など知った事か。ド畜生の分際で人間様に手ぇ出そうとした事を干物になりながら後悔しやがれ。


――頼むから、わたしに当たらないでくれ……。

フーケが横目でプロシュートの顔を見たが、これはかなりヤバいと判断した。
人間、一定の怒りを通り越すと血の気が引くというが、横の火薬樽はまさしくそれ。
今のところ導火線に火が入る事は無いだろうが、これ以上厄介事が重なれば問答無用で暴発する危険性がある。
そうなれば、例えミノタウロスの群れが現れようとも、ボロ雑巾のように蹴散らしていくであろう事が容易に想像できる。
当然、それに巻き込まれるであろう、二度と見たくない己の姿も。

実際は、広域老化に巻き込まれても氷を持っていれば、ラッシュでもしない限り
そうそう老化は進行しないのだが、一度直を食らっただけに半ばトラウマ化しているのだ。

プロシュートとは別の意味で血の気が引いていくフーケだが
走っている途中、肩を落としながら村に向かっている人影……ジジの父親とすれ違った。
その体たらくといったら、もう今にも水桶に頭突っ込んで自殺しそうなぐらいだ。
幽霊のように彷徨っていたが、プロシュートの背中のドミニク婆さんに気付き、近付いてきたがヤバい。
万が一にでも、髭面のおっさんに抱き付かれでもしたら、間違いなく導火線に火が入って吹っ飛ぶ。
焦るフーケをよそに、事の成り行きをるドミニク婆さんが説明しよとした時、淡々とした、それでも有難い声がした。

「時間が無い」
元より、プロシュートも止まるつもりは無いようで、一気に走り抜けている。
走りながら、はぁ、と溜息を吐いたが、今のは本気で危なかった。
早いとこミノタウロスを見つけてストレス発散の的にさせるかさせないと、何時その余波がこっちまで届くかと不安だ。
なにせ、ミノタウロスや火竜の群れより、こいつ一人の方がよっぽど怖い。
なんだか、腕一本で済んだワルドが凄いやつに思えてきた。
ペンダントに母親の絵を入れていたのを見てから、今の今までママっ子だと思っていたが、やっぱり遍在は凄いや。


そんな事を考えながら、走ること五分。
ようやく、切り立った崖に開いた洞窟の前まで辿り着いた。
が、後ろで一人息を切らしているのは触れない方がいいだろう。畜生がッ!とか聞こえるし。

案内役のドミニク婆さんは、洞窟が見えた時に村へ帰した。
さすがに、洞窟の仲間では詳しくないだろうし、例え知っていたとしても邪魔なだけだ。
タバサはともかく、プロシュートとフーケは致命的な足手纏いをカバーしながら行動するほどお人よしではない。
戻りながら、何度も何度も振り向き、拝むように手を合わせていたが、その内に、その姿も森と夜の影に消えていった。

「さて……結構広いようだけど、足場は悪いと思っていいみたいね」
入り口から『ライト』で照らしながら、洞窟の中をフーケが少し探った。
湿った空気が流れてくる事から、何箇所か滑るような場所がある。
おまけに、この暗闇では何処から攻撃を受けるか分かったものではない。
職業柄夜目が利くとはいえ、限度ってもんがある。

「わざわざ、敵の領域に突っ込むこたぁ無いんだがな」
洞窟特有の冷えた空気を得るために、上着を脱いでシャツだけになっていたプロシュートが、多少落ち着いた声で言った。
フーケがどういう事かと訝しげにしていたが、そういえば、LESSONでそんな事も言っていたなと合点がいった。思い出したくないけど。

「敵が亀みてーに閉篭もって出てこないってんなら、ひきずり出してやりゃあいいんだよ」
「例えば?」
「色々あんだろ。油、撒くなりして火付けて燃やすとか、水攻めにしたりよ。落盤起こして生き埋めって手もあるな」
「あんた鬼か」
でなけりゃ、やっぱり悪魔だ。
魔法もスタンドもクソも無い。効果的かつ、準備次第では平民でも立派に可能な作戦ばかり挙げられた。
こいつにかかれば、最悪の妖魔と言われる吸血鬼だってお手上げだろう。
問題は、周りの被害を気にしないで行動を起こすという、ただ一点。
無関係のヤツが巻き込まれても、すぐに死なないから大した事ぁねぇ。で、軽く済ましてしまうから、かなり性質が悪い。
多分、その精神の大部分は漆黒のそれ。
その色ツヤは、黒真珠かと言わんばかりに光沢を持っていて、ドス黒いものと違い一種のさわやかさすら感じられる。
が、付き合わされる方の精神負荷はバカでかいので、大抵の人間は、そんな事を感じる暇は一切無いというのが致命的。
もっとも、その大抵の枠からはみ出た人間が結構存在するというのが、世界を問わない七不思議というやつだ。

だが、今回も巻き込むつもりで行くかといえば、そういうわけにもいかない。
シケた仕事とはいえ、内容はあくまでミノタウロスの始末とジジの身柄の確保。
先にあげた手は全て殺る気満々の作戦なので、この状況下では使うわけにもいかないのだ。
行くだけでアレだったのだから、死体なぞ持って帰った日にはどうなるかなぞ考えただけで頭が痛い。
ならば、広域老化はどうかと言えばだが、洞窟特有の冷えた空気のせいで大した効き目は望めそうになく、スタンドパワーの無駄遣いは確定している。

洞窟から冷えた空気が流れてくるおかげで、さっきまでのイラつきはどっかに飛んだが
こいつは、タバサに任すというのも骨が折れるかもしれない。
足場は安定せず、視界は超が付く程の不良、おまけに得意の風系統の魔法はミノタウロスには利き辛いときた。
これだけ不利な条件が揃えば、賭けなど9:1で殆ど成立したりしない。
大穴狙いで一発逆転狙うような考えはしていないし、どうせやるなら三対一でフクロにするのが一番楽だ。

一度やると決めれば、この男の行動は尋常でなく早い。
まずは、戦力、地形、敵の状況を把握し、作戦を組み立てる。
「タバサが派手に注意を引いて、フーケが動きを止めた所に、俺が直を叩き込む。これより楽な方法あったら言えよ」
ミノタウロスが風系統の魔法を受け付けないからには、タバサの役割は、なるべく派手な魔法をブッ放して敵の注意を反らし
広いと言っても、ゴーレムを出す空間的余裕が無いフーケは、タバサがミノタウロスの相手をしている間に、錬金か何かで動きを封じる。
どのぐらい持つか分からないが、下半身を鉄か何かの金属かで押さえ込めば三十秒は持つ。
そして、動けない間に、どれだけ皮膚が堅かろうが防御力無視の直触りを叩き込んで終わりというわけだ。

他に楽な方法があるなら言え、と言ったが、目下のところはこれが一番楽だろう。
タバサは言うまでも無いが、移動という方法に一回ゴーレムを造ってしまった以上、フーケの精神力の残高は高くは無い。
何があるか分からない以上、肝心な時にガス欠では洒落にもならない。
だが、移動に三時間もかけていたのならば、とっくにジジはミノタウロスにINッ!しているので、運が良いのか悪いのか。

「わたしは、それでいいけど……」
肯定した割りに言葉の切れが悪い。
オメーが、それでいいなら他に何がある。と、思ったが、近くに肝心のタバサの姿が無かった。
性格からしてバックレるという事は無いだろうが、作戦聞いてなかった事にまたムカついてきた。

てめーで受けた仕事なのに、どーこ行きやがった、あんの青豆粒。

背中に、ゴゴゴという文字が浮き上がりそうな勢いで後ろを向いたが、やはり姿は見えない。
いくら小さいとはいえ、消えるはずは……いや、あくまで何でもアリだ。
ファンタジーやメルヘンでなくとも、鏡の世界だって存在する。
ならば、魔法のようにファンタジーにブッ飛んだ世界なら、そういうやつもあるのだろう。

雪風のタバサ――行方不明により再起不能。

←To Be Continued

そんな文字が浮かんだ気がしたが、どうでもよくなってきた。
超常現象で居なくなったのなら、どうしようもない。
いっその事、一巡した世界の出来事にしておくかと頭を掻いたが、少し視線を下げると地面の方で青っぽい物が動いた。

「なにやってる。食いすぎで腹でもイテーのか?」
暗黒空間に飲み込まれたかと思ったが、何の事はない。
夜という事も手伝って、ただでさえ小さいタバサがしゃがんでいたので見え辛かっただけだ。
それにしても、幼く見えるとは言え、年頃の少女に遠慮無しに食いすぎかと聞くところが、この男のダメな所である。
それでも、当の本人は気にした様子もないのだから、どっちもどっちと言うべきだろうか。

「……足跡」
タバサがぽつりと、小さく言ったが、軽い衝撃によって頭が揺れた。
「足跡なんざ、あるに決まってんだろーが。飛んできたってか?時間がねーつったのもお前だろ」
軽い膝蹴りがタバサの頭を揺らしたが、そうなるのも無理はない。
なにしろ、タバサは言葉が足りなさ過ぎる。
ギアッチョなら間違いなくブチ切れてるだろうし、ペッシなら『何でェーッ?』と聞き返しまくっているところだ。
知り得る人物の中でタバサの意図を一発で正確に見抜けるであると思うやつは、やはり、リーダー、リゾット・ネエロぐらいなものだった。
早い話、膝蹴りを交えながら説明しろと言っているわけである。

「そうじゃない。この足跡は村とは別の方に続いている」
どれ、とプロシュートとフーケも、タバサの近くにしゃがんでその足跡を見たが、確かに村とは別の、茂みの中へと続いている。
「この具合だと……新しいね。そんなの時間経ってないよ。あと、それ」
足跡を調べたフーケが、その近くを指差す。
すると、そこには別の、丁度人一人が転がされていたような跡があった。
「アジトが洞窟ってんなら、足跡はそっちに向かってるはずだが、逆か」
例えるなら、家の前まで配達しにきたピッツァを受け取って、家の中に戻らず別の場所で食うようなものだ。
人間なら、分からない話でもないが、この場合の相手はミノタウロスという畜生。
捕らえた獲物は、その場で食うか、巣に持ち帰って食うというのが妥当なところである。

今一、考えが纏まらないうちに、タバサがその足跡の方へ歩いていったが、どうするかは決めねばならない。
「ま……違ってたら違ってたで、それで終わりか」
どっちでもいいか、と納得するとプロシュートもタバサに続いて足跡を追う。
間違ってた場合、ミノタウロスの食事中か食事後に立ち会わねばならないが、そこまで知ったこっちゃあない。
そうなったら、シルフィードをドミニク婆さんの家に預けてあるので、バックレるわけにもいかない。
行くだけでアレだったのだから、食われたなどと言えばどうなるかなど考えただけでも頭が痛くなる。
とりあえずは、どうやって汚れずに、食われかけの死体を持って帰ったもんかと考える事にした。

茂みをスタンドで掻き分けながら進んでいったが、しばらくすると小さい明かりが見えてきた。
「……誰か居るな」
その言葉で、全員が同時に音を消した。
サイレントも使わずにそれができるというのは、さすがというべきだ。

そのまま近付いていったが、少しばかり妙な光景が見えた。
「おいおい、見ろよ。牛と人間が仲良く突っ立てやがる」
見ると、薄汚い上着を着た人相の悪い連中が5人。牛頭が一匹。カンテラの周りを囲うようにして立っている。
その男達の足元には茶色い髪の少女……恐らくジジが縛られ猿轡をされた状態で地面に転がされていた。
「ミノタウロスの正体は、人攫いってとこだね。別に珍しい話じゃあないさ」
「あの村から搾り取れる金なんかあんのか?」
「売るんだよ。あのぐらいの娘なら良くて貴族、悪くて……まぁそうだね、娼館行きってとこさ。ったく、気に入らない連中だよ」
頭をかきながら吐き捨てるかのようにフーケがそう言う。
すると、その横から押し殺すような笑いが声が聞こえてきた。
「ん、なにさ。言いたい事があるならハッキリ言いなよ。気味が悪い」
「いや、案外甘めーなと思ってよ」
「土くれのフーケとあんな人攫いを一緒にしないで欲しいわねー。あんたはどうなのさ」
「ノーコメントだ」
「どうして?」
「連中にオレの事話したら『こいつには言われたくない』って言うだろうしな」
暗殺と人売り。どっちがマシか選べと言われて選択できるヤツなどそう居やしない。
こればかりは、例えどんな大賢者でも選択できない永遠のお題目というやつだろう。

「そ、それでどうするのよ。あんなに近くちゃわたしの魔法だと全員巻き込むし、あんたのだと……わたしまで巻き込むね」
軋む様な音をさせながらゆっくり首を正面に戻し話題を変える。
今の心の内は『聞くんじゃなかった』という声で一杯だ。
「夜ってのがな。それに、そんなに動いてねーようだし、今は利き辛い」
なにせハルケギニアはそろそろ冬の足音が聞こえ始めてくる季節。
屋外戦闘の場合グレイトフル・デッドの能力が最も利き辛くなる時期が近付いてきた。
相手が動いてくれればすぐに体温が上がるし、屋内なら大抵は暖を取っているので使えなくなるという事はないが
今の状況では広域老化は役立たずというやつだ。

「にしても、化けモンっつーからわざわざ来てやったっつーのに、ただのゴロツキとかナメやがって」
「まぁ、あの婆さんからすればどっちも変わらないと思うよ。で、どうしようか」
フーケが再び明かりの方を見たが、男達は六人。
それぞれ武器を持っていて短刀が二人、拳銃が二人、槍が一人、大斧が一人。
もちろん、トライアングルクラスのメイジなら問題無い数だが、最悪なのがジジを人質に取られるパターンだ。
『スリープ・クラウド』なら最適なのだが
生憎と効果範囲が狭く一人を眠らせるのがやっとだし、相手の精神力次第では利かない事がある。
第一、水のトライアングルスペルなので選択肢からは外さねばならない。

「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」
大味な能力の二人を置いて黙っていたタバサが呪文を唱える。
一八番。『ウィンディ・アイシクル』が音も立てずに飛んでいき、男達の手や肩に突き刺さった。
呆れるまでの正確さに、さすがのフーケも舌を巻く。
「おチビさんかと思ってたけど、さすがにガリア王家の血筋ってわけか」
ゴーレムを出せば勝てるだろうが、詠唱の様子を見て気付いた。
唇の動きを最小限に抑え、敵に詠唱を悟らせないようにする実戦技術。
おまけに、詠唱がやたら早いときた。ゴーレムを出していない状態なら相当に分が悪い。
恐らく、それに対応できるのは詠唱を必要とせず、スタンドとやらで攻撃する事ができる横の男ぐらいだろう。

本人は魔法なんぞに興味を持っていないため、あまり自覚していないが、老化というのはメイジにとって最大の敵なのだ。
老いれば疲労し精神力も無為に消耗される。
自然な老いなら精神も自然に付いていくが、急激な老いはそれを許したりはしない。
それに、魔法とスタンドでは起こす事象の燃費が格段に違う。
魔法は攻撃呪文を立て続けに唱えれば、あっという間に精神力が枯渇し戦闘続行不能に陥るが
スタンドは能力次第だが、かなりの長時間戦える。持続力Aのグレイトフル・デッドはその代表格だ。

「動かないで、次は確実に心臓を狙う」
暗がりの中を進みタバサが男達に向け警告し、再び武器を拾う事を牽制しながら近付いていく。
当然、フーケもその後に続こうとしたが、見えない力に行く手を遮られた。
「まだ早ぇ」
憮然とした声でプロシュートが言ったが、フーケも奇襲を警戒しているわけかと納得した。
月が出ているとはいえ、辺りは森に囲まれていて視界が恐ろしく悪い。
三人固まった場所に、そんな所から攻撃されては一まとめに攻撃を受ける可能性がある。
程なくして別の場所から、先ほどタバサが放った物と同じ氷の矢が飛来しタバサの杖を吹き飛ばした。

「これはこれは……ドミニク婆さんがメイジを探しにいくと言っていたが、こんなお嬢様だったとは」
声と共に暗がりの中から、プロシュートにとって見覚えのある顔が現れた。
もっとも、見覚えがあると言っても知っているわけではない。
最近久しく見ていなかったが、イタリアの貧民街や橋の下に居を構える浮浪者に似ているという意味でだ。
「見たところ、かなりの高貴の生まれのようだが武者修行かね。
  それにしては詰めが甘いな。まぁ、おかげでこちらとしては上玉と貴族の娘が一度に手に入った」
タバサの顔が少し歪む。焦っているわけではない。
他の二人の姿が見えないあたり、自分だけがこの事態を想定できなかった事が少しばかり悔しいのだ。

「詰めが甘いのはお互い様だ」
タバサの姿をじっくりと観察していたメイジの後ろから声がする。
メイジが咄嗟に振り返ろうとしたが、それよりも早く膝の裏にプロシュートの蹴りが入れられ、バランスを崩し膝を付き倒れた。
「さて……頭をメロンみてーにブチ抜かれたいってんなら構わねぇし、オレとしてはどっちでもいいんだがよ。つかここメロンってあんのか?」
倒れたメイジの杖を持った方の手を思いっきり踏み付けると、頭に銃を突き付ける。

そしてそのままタバサの方に向き直ると……説教が始まった。
「こいつが無けりゃあド無能になんなら、例え腕を飛ばされようが脚をもがれようとも決して離すんじゃあねぇ。
  大体、遠距離型がてめーからのこのこ姿見せてどーすんだ。自信持ってるってのは悪かぁないが
 能力の過信ってのが一番性質が悪ぃんだよ。ったく、なに考えてるか分かんねー面ぁしやがって、聞いてんのか?おい」
説教と共に自分の杖でコンコンと頭を小突かれながら杖を受け取ったが、なにしろ今のタバサには返す言葉が無い。
一人なら確実に終わっていた状況だからだ。
「対スタンド使い戦ではあらゆる状況を想定しろ、無いと思う事は無い。だ」
これも列車戦での教訓だ。あの時ジッパーから風が吹き込んでこなければ、マトモにスティッキィ・フィンガースを食らっていた。

「盛り上がってるとこ悪いんだけどさ」
「なんだ」
フーケが説教に割り込んできたが、指を指している方向を見る。
「杖を向けんじゃあねーぜッ!このマヌケがぁあああーーーッ!」
男が汚らしい笑みを浮かべながら勝ち誇ったかのようにジジの首元に短刀を向けていた。
「あんたも人の事言えないじゃないか。ああなったらどうしようもないよ」
その恫喝にタバサとフーケは仕方なしに杖を下げたが、プロシュートはまだメイジに銃を向けている。
「お前もだ!それ以上動くってんならジジをぶっ殺してやる!」
男がそう凄みジジの首筋に錆びた刃を当てるが、返ってきた言葉は実にッ!意外なものだった。
「あ?別に構わねーが」
何の焦りも無く、朝の挨拶を返すかのような平然さで言い放つ。
「な……なんだってぇぇぇぇえええ!」
これには人質を取ったと余裕をかましていた男達も逆に焦った。

「そいつ連れたまま逃がしたら逃がしたで、どっか得体の知れねぇとこに売り飛ばされんだ。
 そうなりゃあ死んだも同然だし、なら、今ここでオメーら全員始末できりゃあ死んでもいいだろ。本人もそう思ってるだろうしな」
暗くてちと分かり辛いが、男達に抑えられている茶色い髪が横に揺れている。
たぶん、肯定してくれているのだろう。いや、しているはずだ。
「ほ、本気か!?ジジが死んでもいいのかよ!」
そう叫びながら首元に刃を突きつけているが、この男にそんなシャバい脅しが通用するはずもない。
そもそも、この状況下で人質を取るという事が何の役にも立っていないし、逆に採るべき選択肢を狭くしてしまっている。

このドチンピラが!と説教しながらブン殴りたくなる衝動に耐えつつ、そのお目出度い頭にも理解できるように説明してやる事にした。
「ヘマやらかす前に先に説明しといてやるが……そいつ殺ったら、オメーら全員死ぬって事分かってんのか?」
その通告に一瞬の沈黙が流れたが、程なくして男達が慌てはじめた。
やはりと言っていいか、人質を取るという事のリスクを考えるまでには到っていなかったようだ。
第一前提として人質は生かしておいてこそ価値がある。
言うなれば人の形をした盾だ。それを自ら捨ててしまっては、結果は言うまでもなく……ボン!ってやつだろう。
人質なんぞ取った時点で、チェスや将棋でいう『詰み』にハマっている。
「別にオレは殺らなくてもいいんだが、村の連中はどうだろうな」
娘がミノタウロスを騙った人売りに殺されたなど知れば、こいつらがどうなるかなど考えるまでもない。
身内は元より、村人総出で私刑というのがオチである。

「ど、どうすんだよ……」
「どうするって……」
残された男達が相談しながらこっちを見ているが、どうなるかの予想は付く。
敵のメイジの戦闘能力は奪ってあるし、武器を持っているとはいえ
タバサとフーケの二人相手ではどうにもならない事ぐらいは、栄養の回っていない貧相な血の巡りの悪い頭でも理解できるはずだ。
「決断しやすいように有難い提案を出してやる。そいつ置いくってんなら好きにしろ。こいつさえ居れば後はどうでもいいからな」
その言葉に男達がまた相談を始める。時折、メイジの顔を窺うように見ているあたり、もう答えは出たようなものだろう。
「今すぐ死ぬか、後で死ぬか、逃げるか、の分かりやすい三択だ。どれ選ぶのもそれはオメーらの勝手だ」
それがダメ押しになった。
悪びれる様子もなく、一人の男が笑いながらメイジに向け言い放った。
「へへ、悪いな。俺達はまだ死にたくもないし、捕まりたくもねぇんだ」
「貴様ら……今まで俺に頼っておきながら、裏切るつもりか!」
「これも生き延びるための手段ってやつだ。悪く思うなよ」
捨て台詞を残して男達が逃げ出したが、マジに呆れた様子でプロシュートがメイジに向けて言った。
「おいおい……チームの割りに仲間意識全くねーな。まー安心しろよ、お前一人だけ仲間外れってのも寂しいだろ?」
プロシュートがそう言うと、今まで空に出ていた月が隠れる。
月が雲で隠れたのか。答えはNoだ。
巨大な人型。通常のものより半分程度の大きさだがフーケのゴーレムが月の光を遮っている。
「まったく……こうなるとは思ってたけど、これじゃあどっちが人攫いだか分からないわね」
「無駄口叩いてる暇あったら、さっとと動かせ。逃げんだろーが」
地面を揺らしながらゴーレムが動く。
なにせ巨大なゴーレムと人間とでは歩幅が圧倒的に違う。
一分もしないうちに、ゴーレムの手には六人分の体が捕まえられていた。

「だ、騙したな!」
その手の中で一人がそう叫んだが、返ってきたのは笑いを含んだ冷徹な言葉だ。
「騙したとは心外だな。いや、確かに逃げても良いとは許可したが……それをオレが逃がすとは言った覚えはねーぞ」
「んなぁ!?」
さっさと逃げねぇ方が悪い。と付け加えながら今まで手を踏んでいた足を離しメイジの杖を奪う。
男達からすればあっさりと約束を反故にされたようなものだが、別に破っちゃあいない。
言葉のとおり逃げてもいいと許可しただけで、再び捕らえないと言った覚えは無い。勝手に向こうが勘違いしただけだ。
「人質ってのは相手より弱いやつが取っても意味がねぇって事だ。テストに出るから覚えとけよ」
いや、そんな問題出ないし、出たとしても受けたくないから。というフーケの突っ込みというか呟きは無視しておく。

「さて……と」
メイジをフーケに任せ、言いながらジジに近付き猿轡を外した。
後はこいつを連れ帰って任務完了といきたいのだが、どうもそうはいかないらしい。
「こ、来ないで……」
ジジが震えながらそう言ったが、その場に妙な沈黙が流れる。
特に気にしないでいたが、後ずさりしてつまづいたのかジジがしりもちをついた。

「おい、お前なんのマネだ」
上から見下ろすようにそう言ったがやはり脅えているかのように震えている。
「はい、そこの物騒なお兄さんこっち来なさい」
その様子を見て、見かねたフーケがプロシュートを呼び、どうしてこうなっているのかを説明する。
たぶんというか、こいつ絶対分かってないから。

「いいかい?あんた、さっきまで人質にとられてた娘に『死んでもいいだろ』とか言った挙句、メイジ相手に銃突きつけてたんだ」
「それがどうした」
ここまで言ってまだ気付かないか……。
悪い意味での天然というやつを見た気がする。
「……ほっんとこういう事は鈍いねー。逆に清々しいよ」
「手短に言え。ただでさえ負け犬ども相手にしてイラついてんだ」
「あー、じゃあハッキリ言うけど……間違いなくあんたも人攫いの類に見られてるね」
「……マジか?」
その問いに無言でフーケが頷く。
タバサを見るが、同じように一回縦に首を振られた。
恐らくここに居ないシルフィードでも、見ていれば同じ反応だろう。
「何も知らない村娘にはそりゃあショックが大きかったろうさ。
  助けが来たと思ったら実は別の人攫いだったなんて。ああ、もう鈍いを通り越して一種の犯罪だよこいつは」
オーバーリアクションを取りながらフーケがそう言ったが、プロシュートはいきなりキレた。
「うるせぇぇぇぇぇ!弁護士を呼べぇぇぇぇぇぇ!!」
あの連中からして、人質を殺してメイジ二人と戦り合うようなやつらではないと踏んだまでで、これでも最大限に気を使った結果だ。
犯罪者には違いないが、あの程度で人攫いと同じにされては笑い話にもならない。
老化に巻き込んでないだけ感謝しろと言いたいぐらいだ。

――誰が人攫いだS.H.I.Tッ!

心の中で思いっきりそう毒付く。
そこで震えてるのが人攫いも狙うような可愛気のある少女だからまだそれだけで済んでいるが
これが男だったら問答無用で殴り飛ばした挙句、蹴りを入れながらの説教コースである。
もちろん老若男女一切合財区別する気なぞ無いのだが、その意味ではジジは運が良かった方だろう。

横目でジジを見たが、やはり反応は同じだ。
「……ちッ!埒が開かねぇ、オメーに任す」
「はいよ」
今度はフーケが近付いたが、結果は同じ。
だが、そこは手練の盗賊。伊達や酔狂で魔法学院でミス・ロングビルとして生活していたわけではない。
瞬時に相手の感情を読み取り、まず安心させるかのように言った。
「大丈夫ですよ。ドミニクさんに頼まれて、あなたを迎えにきただけですから」
「ほ、ほんとに、おばあちゃんに?」
「ええ」
返事と共に優しい笑みを浮かべる。
盗賊の土くれのフーケから秘書ミス・ロングビルへの見事な切り替え。まさしくプロというやつだ。
そうすると緊張が解けたのか、ジジがフーケに抱き付くと泣き始めた。

「ったく……メンドクセぇ」
計画どおりと、後ろでフーケが親指を立てているが、どうもいま一つ納得できない。
元ギャングと村娘であるからには食い違って当然なのだが。やはり釈然としないものがある。
「どうどう」
「馬かオレは」
そこへなだめるように背中を2.3回ぽんぽんとタバサに触られた。普段は無口だが案外ノリがいいのかもしれない。
やってらんねー、と天を仰ぐ。動物扱いされんのはカトレアからだけで十分だ。

「で、オメーは何時から気付いてたんだ?」
とにかく気分を切り替えて、そう尋ねる。こいつの事だから恐らくはどこかで感付いていたはずだ。
「手紙の字が整いすぎてた。それとミノタウロスは若い娘なら誰でもいいはず」
「そういやそうだな」
字に関しては整ってるのかそうでないかは未だ判別付かないが、ターゲットが指定された時点で気付くべきだった。
喰うのであれば確かに誰でもいい。

まぁそれはそれ。
こんなド辺鄙な場所まで来させた挙句、こんなクソ面倒な真似させてくれたヤツらには、それ相応の落とし前というものを付けさせねばならない。
プロシュートが足音を立ててメイジに近付いたが、それを見たフーケが心の中で始祖ブリミルに全力で祈った。
イラつきのハケ口を与えてくれてありがとう。そして、どうか一人で済みますように……と。

「これからオレがいくつかの質問をする。オメーはそれに黙って答えりゃあいい。一つ目だ、リーダーはオメーか?」
「さぁな。答える必要はなあぼォ!」
メイジがそう言った瞬間、打撃音と共にその頭がハジケたように吹き飛んだ。
プロシュートが縛られたメイジの顔を遠慮なく蹴り上げたのだ。
「今、何か言ったか?」
そして、そのまま倒れたメイジの頭を掴み、口の中に銃身を突っ込むと引き金に手をかける。

(こ……こいつのこの目……こいつはヤバい!一つでも余計な事を言えば躊躇い無く引き金を引く……それだけのスゴ味があるッ!)
この段階になってようやくメイジも理解したらしい。同業者などではなく、別の道のプロであるという事に。
銃を咥えたまま首を縦に振るメイジを見て、銃を抜きプロシュートが次の質問に移る。
「二つ目だ。オメーらの仲間はこれで全員か?」
これも同じように首を縦に振る。それでも、万が一に備え何時でも攻撃できる体勢には入っているが。
「三つ目。酒場の親父から聞いたが、最近ここいらで流行ってるガキの誘拐ってのもオメーらの仕事か?」
「そ、それは知らない!俺達はつい一週間ぐらい前に流れてきたんだ!」
わめき立てるメイジの顔をじっくり観察する。
「……汗をかいたな?こいつは……嘘をついている皮膚だぜッ!」
「本当だ!十年前のミノタウロスの話を聞いて、それで今回の計画を立てたんだ!」
「そうか、まぁ仕方ねぇ。他のやつに聞けば分かる事だ」
その言葉にメイジがほっとしたが、一瞬遅れて後頭部に何度目かになるか分からない冷たい金属が当たった。

「ま、待て……なんのつもりだ!嘘は言ってない!」
「オメーが答えないってんなら生きてても仕方ねぇし、別に生捕りにしろとは言われてないからな。一人生きてりゃ後は死体でも構わねぇって事だ」
頭の上からカチリと撃鉄を上げる音が聞こえてくる。
この超至近距離ならば、その無機質な金属音は確実な死の宣告というやつだろう。
メイジとて例外ではなく、ガタガタと震え始めた。
「やや、やめてくれ!子供なんか攫っても高く売れやしない!」
「あるかどうか分からないが一応祈ってやるよ。お前の来世にLuck(幸運)を。そして地獄の閻魔に会うためにPluck(勇気)を持っていけ」
「ひぃ…あ、悪魔……」
懇願するメイジの言葉を無視し、淡々と処理をするかのような声で言うと、プロシュートが手にかけた引き金を引いた。

「……マジに違うか。てめーらのせいで余計な時間食っちまった。どうしてくれんだよ。ええ?」
ここまでやって吐かないなら、本当にこの件だけなのだろう。
元より銃に弾は残っていないし、装填もしていない。
それでも効果があったのだから持っててよかったというところだ。
森が再び静寂を取り戻したが、どこからか水が流れるような音が聞こえてきた。
「……ッ!汚ねーなボケがァッ!」
唐突にそう声を上げるとメイジの腹を蹴り飛ばす。
見るとメイジの股間の辺りが濡れ、そこから少しばかり湯気が立っている。
蹴り飛ばしても悲鳴を上げないあたり失禁というやつなのだろうが
少しでもかかっていれば、目覚めるのを待たずに今度こそ天国への扉が開かれていたであろう事、疑いの余地なしだ。

「わたしも色んな物見てきたけど、生まれて初めて人攫いってやつに同情したよ」
捨てられ雨ざらしになった仔犬か、はたまた巣から落ちて鳴きわめく雛鳥か。
とにかくそんな心底可哀想な物を見るような目でフーケがそう言う。
例え人攫いというド外道であろうと、弾の入ってない銃で散々脅され、仲間にもあっさり裏切られ、失禁までさせられた挙句
トドメと言わんばかりに蹴りを入れられた人間に同情できないヤツがいるだろうか?
いっその事、脳漿ブチ撒けられていた方がまだ幸せだったかもしれない。
なにせ人として色んな意味で再起不能(リタイヤ)になったのだから………

「さて……戻るか。ダルい」
メイジの髪を掴んで、引きずりながらゴーレムの足元に置くと、こいつも運ばせるように促したが……
森の中にどこからか獣の咆哮が響いた。

←To Be Continued

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