ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの兄貴-51 前編

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匿名ユーザー

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もうすっかり日が沈んだ人気の無い宿場街の出口へ向かう影五つ。
老婆が一人、メイジが二人、韻竜が一匹、そして元ギャングが一人という混成チームと相成っております。
その集団の中から、ものスゴクたるそうな、やる気の無い声が聞こえてきた。

「歩きで三時間か……」
「なにせ、エズレ村はわずかな畑があるだけの何も無い村なんですえ。ですから、ほとんどが歩きだけになっておりますのじゃ」
平均的な人間の徒歩の速度が時速5km。この婆さんだともう少し遅くなる事や休憩を計算に入れると、約十~十二kmというところか。
それでも冗談じゃあねー、というのが本音だろう。
普通ならまだいいのだが、酒が入っているのでダルいのである。
予定外の事をやらねばならなくなったためというのもあるが、とにかくダルい。
ダルいだけにさっさと終わらせたいのだが、徒歩で三時間なぞ御免被るというところだ。

シルフィードが人間形態を取っているため、この場合の最速の移動方法は馬ぐらいしかないのだが
夜、しかも主要な街道から外れた宿場街だけに、正規の手段では手に入りそうにない。
まぁ盗んでもいいのだが、最低三頭は必要な上に、足手纏いが居るので下手打って厄介な事になる可能性高い。
騒ぎになっても面倒なので、他になんかないかと考えていたが、うってつけの移動手段がある事を思い出した。


「だからってあんたら……」
少し時間が経ち、今のフーケの目に映るのは、『ライト』で照らしながら本を読むタバサ、爆睡しているシルフィード
さっきから怯えてしがみ付いているドミニク婆さん、そして店から持ってきた酒を瓶のまま飲むプロシュートの四人。
「わたしのゴーレムを馬車代わりにするんじゃあないよ!」
自慢のゴーレムの上で思いっきりくつろがれている様子に、さすがのフーケもこれには怒鳴った。
「構やしねーだろ。減りゃあしねぇんだからよ」
「減るんだよ……!精神力とかが思いっきり!」
何時になく強気だが、自分はゴーレムを動かすために命令とか出さなくちゃあならないのに
ドミニク婆さんを除いて、こうもゆったりされてはそりゃあムカつきもするというものだろう。

肩を掴まれ振り向いてみると、すっげぇ良い顔をしながら『ゴーレムを出せ』だ。
表情こそ若干笑顔寄りだったのだが、酒せいか、それとも素でそうなのか、目だけは全く笑っていなかった。
正直、いつもの数倍怖かったので、言われるがままにゴーレムを出したのだが、さすがに、いいや限界だッ!というところだ。

この際、振り落としてやろうかとも思ったが、それはそれでディ・モールト後が怖いので考え直した。
第一、振り落としてもゴーレムにしがみ付かれてそのまま老化させられそうな気がする。

中の自分に言い聞かせつつゴーレムを動かしていたが、三十分もすると例のエズレ村が見えてきた。
「ほら、見えたよ」
ゴーレムの手が下に降りると各自地面に降りたが、一人だけ動こうとしない。
「ふにゃ……もうお肉食べられないのね……」
そんな寝ぼけた声を出すのはご存知シルフィードだ。
起こそうと一発頭を叩いたのだが、潰れたような声をあげると、またぐーすか寝息をたてはじめた。
「このヤロー……」
あんだけ食ってまだ食い物の夢を見るとは大したタマだが、放っておくわけにもいかない。
雪山での遭難者を起こす要領でシルフィードを起こそうとしたが、それより先にタバサがドミニク婆さんに聞こえないように小声で話しかけてきた。
「人の姿に化けてる時は脳の疲労が凄く大きい」
それを聞いて起こすのを諦めた。
今のシルフィードは、ギアッチョがジェントリー・ウィープスを展開し続けているようなものだ。
そう考えればエネルギーの消耗も半端ではないのだろう。
それに、ミノタウロスのアジトは洞窟だと聞いた。
竜の姿に戻っても通れやしないだろうし、人の姿のままでは極めて役立たずである。
それならば、このままでも特に問題はない。
完全に起きる気配が無いので、猫を扱うかのようにシルフィードの首元を掴むとそのまま背負う。
「ちッ……見かけより重いなこいつ……」
そう文句を垂れたが、元の質量がこの姿に収まっていると思えば、まだ軽い方だ。

「さすが、おにいさまはお優しい事で」
棒切れで造った貧相な門に近付くが、横からフーケの茶化すような声が届く。否、確実に茶化している。
「なら、てめーが代われ」
「ゴーレム作って疲れたからね。絶対にノゥ」
その返事に思わず舌打ちをしたが、さっきまでゴーレムの上でくつろいでいたので、仕方ねぇと思うことにした。
タバサはミノタウロスと戦るにあたって精神力を温存しておきたいだろうし、ドミニク婆さんはどちらかというと背負われる方である。
つまるところ、自分でやるしかないのだ。
無論、背中で無駄に良い夢を見ている寝ボケ竜が起きてくれれば、それが一番いいのだが。

「それでだ、ミノってのは何時から居んだよ」
「ミノタウロスが現れたのは先週の事でして……その時に手紙を村の広場の掲示板に貼り付けていったんです」
ドミニク婆さんが一枚の獣の毛皮を差し出したが、内側に血文字が書かれてある。
『一週後の晩、森の洞窟前にジジなる娘を用意するべし』
「……先週ってこたぁ……今日じゃねーかッ!」
「ですから、騎士様の姿をお見かけした時は、藁にもすがる思いでお頼みしたのでございます……」
よくやんぜ、まったく……と本気でそう思う。
一週間の時間的余裕があるなら、とっとと逃げるなりすればいいはずだ。
といっても、それは生粋の現代イタリアンの思考。
この世界の一般的な価値観は村は全てで、一度それを捨てれば他の場所で受け入られるかどうかの可能性はそう高くは無い。
そもそも、村中をかき集めて集まった金が三エキューにも満たないようでは、野垂れ死には確実だろう。

毛皮をタバサに渡しながら門をくぐると、ゴーレムの足音で外に出ていたのか、あちこちから村人が家から出てくるのが見える。
「騎士様を連れてきたよ!」
ドミニク婆さんが声をあげると、分かりやすい杖を持っているだけに、ゴーレムもタバサが出したのかと思った村人が、わらわらと集ってきた。

完全に村人の関心はタバサに移っているので、半ば放置されているプロシュートとフーケだが
村人達の姿を観察していると、少しばかり様子がおかしい事に気付いた。
「妙だな」
「……そうだね」
村人の意識がタバサに集まっている事は分かる。
ミノタウロスを倒しにメイジが、こんな何も無い寂れた村にやってきたというのだから当然だ。
解せないのは、村人がドミニク婆さんと目を合わせようとしない事。
村にとって救世主的な存在を、やっと連れてきたのだから
連れてきた方にも、なんらかのアクションがとられてもおかしくはないのだが、それが全く無い。
どいつもこいつも、例えるなら『全焼した家の前に、やっとやってきた消防車』でも見るかのような目をしている。
大方、十中八九ドミニク婆さんにとって、あまり喜ばしくない結果が待っているという事だ。

「どうも、後手に回ったみてーだな」
やれやれだ、と思いながら息を吐き出すと、出した量だけ吸い込んだ。
冷えた温度と、森の澄み切った空気が酔いを醒ましていく。
イタリアの淀んだ空気では、こんな事すらやる気にならないだろう。

タバサとミノタウロスがどうあれ、殺し合いの場に出向くのだから酒に酔ったままというのも問題がある。
あまり酒に酔わない方なので、あのままでも特に問題無いのだが、万が一でも酒に酔ったせいで死んだなど言い訳にもならないのである。
どうせ殺られるなら万全の状態で。というのが暗殺チームの慣例だ。
もっとも、あくまで『殺られるなら』であり、大概は殺られるより先に殺ってきたので、『殺るなら』自分が万全の状態で、となっていたのだが。

タバサがドミニク婆さんに、家はどこかと促したが、肝心の当人は気付いた様子は無い。
場合が場合だけに必死なんだろうが、これから数十秒後にどうなるかと考えただけで頭が痛くなる。
ただでさえ割に合わない仕事なのに、これ以上厄介な事が上乗せされては、精神的にも赤字というやつだ。
ギャング的に考えるなら、搾り取れるだけ搾り取るのだが、正直この村自体から取れる物が全く無い。
あるとすれば家や土地ぐらいだろうが、そんなもんあってもどうしようもないし
現金化するにも、こんなド辺鄙な村の猫の額のような土地なぞ二束三文にもならないし面倒だ。
となると、残された物は命ぐらいしか無いのだが、生命保険も無いような世界では同じように意味は無い。

「しょうがねぇ……か」
少々思考が危ない方に向いていたが、昔の仲間の口癖を聞こえない程度に言うと頭の中を切り替える。
こうなれば、精々タバサに頑張ってもらって出番が回ってくるような事態にならない事を願うだけだ。
「これって最悪のパターンよねぇ」
フーケも似たような結論に達したらしく、ドミニク婆さんと少し距離を取っている。

少し歩くと、プロシュート視点からすれば、素朴というより貧相というドミニク婆さんの家は村外れにあった。
ドミニク婆さんが扉を開くと、どう見ても若い娘には見えない女性が一人で泣いているところだった。

「……ジジは、ジジはどうしたんだい!」
ただならぬ様子にドミニク婆さんが問いただすが、返ってきた返事は、思ったとおりだった。
「あの娘は……あの娘は、自分のために、誰かが犠性なるのは耐えられない、と言ってミノタウロスの所に……」
予想的中。
やはり事後だったようで、プロシュートとフーケが気付かれないように家の外に避難した瞬間、家の中から大きな泣き声が聞こえてきた。
「せ、せっかく騎士様をお連れしたっていうのに、あ、あんまりだよ!この世の幸せを一つ知らんで死ぬなんて……!」
どっかの炎の柱の男のように、ドミニク婆さんが泣き喚いていたが、それを見ていたタバサがぽつりと小さく言った。
「どのぐらい前?」
「さ、三十分ほど前です」
少し考えたようだったが、短く答えた。
「まだ間に合う」

それを聞いて外の二人が、さらに三歩下がった。
「おおお、ありがとうございますだ!ありがとうございますだ!ジジを、ジジをよろしく頼みます!!」
「後生でございます!どうか!どうか娘をお助けください!」
絶叫ともいえるような声と共に、ドミニク婆さんとジジの母親がタバサの足にすがりついて泣いている。

その光景を見て、外に出ていて良かったと本気でそう思う。
なにせ、今の婆さんと母親の顔の表面は涙と鼻水の混合物で溢れているのだ。
その状態で、あんな風にすがり付かれたのではたまったもんじゃあない。

よく、アレに絡まれて平気な面してんなー、と思っていたが、タバサがドミニク婆さんに向け、何時もどおりに言った。
「洞窟まで案内して」
そして次にプロシュートを振り向いて同じ調子で言った。


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