ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク 改訂版-13

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匿名ユーザー

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13話

状況は最悪だった。
ラングラーにこちらの攻撃は通じない。
しかし、ラングラーはこちらを攻撃できる。
その上、一度でもラングラーの攻撃を受ければ、それですべてお終いだ。
はっきり言って、完全に追い込まれている。

「ここまでヤバくなるとはねぇ……」

キュルケもさっきまでの余裕が吹っ飛んで、厳しい表情になっている。

「アア、マッタクダナ」

ホワイトスネイクも表情を変えずにそれに同意した。

「ダガコノ状況、ドウニモナランデモナイ」
「な、何か考えがあるの?」

心配そうにルイズが聞く。

「アル」

ホワイトスネイクはそれに短く答えた。

「そ、そうなの? だったらわたしも……」
「ダメダ」
「へっ?」
「コレカラヤルコトニハ、オ前ハイナイ方ガイイ」
「な、何よそれ! わ、わたしが、足手まといだっていうの!?」
「勘ガイイナ、ルイズ。マッタクソノ通リダ」
「な、何ですって……」
「理由ハ後カラ説明シテヤル。トモカク今ハソコデ大人シクシテイロ」

ホワイトスネイクは淡々とした口調でそう言うと、今度はキュルケに声をかけた。

「サテ……キュルケ、ダッタカ?
 コレカラヤツヲ追イ詰メルカラ、オ前モ手ヲ貸セ」
「貸さなかったら?」
「全滅ダ」
「ならやりましょう。で、具体的にはどうするの?」
「ソウダナ」

ホワイトスネイクはそう言って、壁のある一点を見上げた。
そこには、ラングラーが弾丸を跳弾させた痕が残っていた。

「手始メニアノ辺リヲ燃ヤセ」

「今の試し撃ち……着弾の音からすれば、だいたいあの辺りか……」

ラングラーは顎に手を当てて、跳弾の弾道を計算する。

「少し高い気がするな……ターゲットのガキの身長、あとから出てきた女の身長……
 人間に当たった音じゃあなかったしな……屈んでたんだろーな……だからちょっと高くなったんだ」

そしてラングラーはJJFに再び両腕を構えさせ、

「少し下げて、」

その両腕のリングを回転させ、

「多めにバラ撒くか」

ドバババババァッ!

弾丸を撃ち放ったッ!
しかもその数は、先ほどの倍以上!
一発でもルイズたちに掠らせるつもりでの攻撃だ。

放たれた弾丸たちは先ほどと同様、ドア枠にぶつかって軌道を変え、
さらに壁にぶつか――

ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!

――らなかった。
弾丸はぶつかるはずの壁にぶつからず、そのまま直進した末に
どこかの壁だか家具だかにぶつかって、めり込んだ。

「何だと?」

思わずラングラーはそう呟き、そしてすぐに理解した。
ぶつからなかったってことは、障害物が存在していなかったということ。
つまり――

「壁ヲ焼イテ、弾丸ヲ反射出来ナイヨーニシテヤレバイイ」
「さっすがダーリン! 頭いいわね!」

反射するはずの壁はキュルケの手で全て跡形もなく焼き尽くされていたのだ。

「……ちょっと待ちなさいよ」

ホワイトスネイクの横ではしゃぐキュルケをじろりと睨んで、ルイズが低い声で言った。

「壁を無くすぐらいだったら私の爆発でもできたじゃない!
 何であんたはそうやってご主人さまを除け者にするのよ!」
「音ガ立ツカラダ。
 ルイズノ爆発ハキュルケガ燃ヤスノニ比ベテ立ツ音ガ大キ過ギル」
「音が何だっていうのよ!?」
「音ガ立テバラングラーニコチラノ動キヲ悟ラレル。
 ラングラーダッテ馬鹿デハナイ……弾丸ガ反射シナイト分カッテイテソコニ撃ッタリハシナイダロウ。
 跳弾ノ軌道ヲ再検討シ、先程トハ全ク別ノ軌道デコチラニ跳弾ヲ撃チ込ンデクル」
「うっ……」
「ソレニ音ヲ気ニスルノハラングラーダケデハナイ。
 他ノ生徒ダッテ、大キイ音ガ立テバ目ヲ覚マスダロウ。
 部屋カラ出テクルモノダッテイルダロウ。
 ソウシテノコノコ出テキタヤツラハドウナル?
 ソシテソウナラナイタメニソイツラヲ守ッテヤラナクッチャアイケナイノハ一体誰ダ?」
「わ、分かった、わよ……」

完全装備の理論武装で追い詰められたルイズは、力なく降伏した。

「ルイズ、今の状況がどれだけ危ないか分かっているの?
 アイツには私の炎は効かないし、弾丸を壁に跳ねさせて襲ってくるわ」
「オマケニソノ弾丸ニ掠リデモスレバ終ワリダ」
「そうらしいわねぇ、どうも。
 致死性の毒か何か……一撃必殺になりうる何かが塗られてるか何かしてるんでしょ?」
「詳シイ説明ハ省クガ、ソウイウコトダ」
「つまりこんな感じなのよ。
 メンツとか体面とか気にしてて生き残れるほど甘くないわ」
「ふ、ふん! 体面を気にするなですって!?
 何よ、節操の無いゲルマニア女らしい言い草じゃないの!」
「あ、あんたねぇ……」

この期に及んで負けん気と意地っ張りを発揮するルイズと、それに怒りを通り越して呆れるキュルケ。
見かねたホワイトスネイクは、

「黙レ、小娘」

殺気を撒き散らしながら間に入った。
というより、ほとんど脅して、無理やりに止めた。
ルイズとキュルケは一瞬、背筋にツララを詰められたような気分になって、口論を止める。
それを確認したホワイトスネイクは、ルイズの目を見て言った

「一ツダケヲ見ルナ」
「へ?」
「タッタ一ツニ気ヲ取ラレルナ、ルイズ。ソノ一ツト何ガ線デ繋ガッテイルノカヲ見ルノダ」
「そ、それってどういう……」
「分カラナケレバ心ニ留メテオケ。ソノウチ分カル時ガ来ル」

そう言って、ホワイトスネイクは次にキュルケの方に向き直る。

「キュルケ、本番ハココカラダ」
「と、言うと?」

余裕ぶって、口端に笑みを浮かべて聞き返すキュルケ。

「壁ヲ焼カレタコトデラングラーノ計算ハ大幅ニ狂ッタハズダ。
 ダガヤツモ再ビ計算ヲ立テテコチラヲ狙ッテクル」
「でも、どうやって?
 弾丸を反射するものなんて廊下にはもうないわよ?」
「大方、室内デ家具ニ弾丸ヲ当テテ反射サセルノダロウ」
「ど、どういうこと?」
「コチラニ弾丸ヲ当テルニハ角度ヲ稼ガナケレバナラナイ。
 ダガ今ノママデハ反射角度ガ足リナイカラ、ソレヲ補ウタメニヤルノダ」
「わ、分かったような、分からないような……」
「理解デキナクテモイイ。
 トモカク、室内デ反射ヲ殆ド完了サセタ跳弾ヲ撃ッテクルノガ問題ナノダ。
 反射角度ガ十分ニ足リテイレバ、天井ナリ焼ケ残ッタ壁ナリデ少シ反射サセテ、
 簡単ニコチラニ当テテクル」
「相変わらずよくわかんないけど……ヤバそうなのは分かったわ。じゃあどうすればいいの?」
「簡潔ニ言オウ」

ホワイトスネイクはそう言って、

「ルイズノ部屋ニアル家具ヲッパシカラ焼キマクレ」

とんでもないことを口にした。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! わわ、私の部屋の家具を、どうするですって!?」
「全部燃ヤス」
「な、何ですってえ!? あああ、あんた一体どういうつもりよ! どれもこれも高い家具ばっかりなのよ!?」
「後デ買イ直セ」
「オーダーメイドのだってたくさんあるのに!」
「モウ一回オーダーメイドサセルンダナ」
「ひ、ひどい!!」
「全ク同感ダ」

かくしてルイズの至極当然かつ悲痛な抗議は、ホワイトスネイクにあっさりスルーされた。

「でも……あたしが家具を焼くってことは、あたしはそのドアから身を乗り出すわけよね?
 それって、アイツの射撃の範囲内に入ることになるから……」
「ソレハ問題ナイ。ソレヲヤル間ノキュルケハ私ガ援護スル」
「なあんだ、二人の共同作業ってわけね! だったら喜んでやらせてもらうわ!」

キュルケが張り切っているのを尻目に、ルイズは地獄の底のような心境になっていた。
ルイズが愛用した家財道具の数々がコゲコゲの燃えカスになるのはもはや確定的で、
ホワイトスネイクが「やると言ったら必ずやるタイプ」であることからもそれは明白だった。
キュルケの言葉にいちいち目くじら立てる余裕など、今の彼女にはなかった。

「あ、そうだわ! フレイムにも手伝わせましょうよ!」
「フレイム? ……アア、オ前ノ使イ魔ノアレカ」

記憶の隅から真っ赤な巨大トカゲの姿を引っ張り出すホワイトスネイク。

「そうよ。あの子の炎は強力だから、きっと何かの役に……」
「ダメダ」
「え? な、何で?」
「アイツデハラングラーノ弾丸ヲ避ケラレナイ」
「……確かに、あの子に俊敏な動きは無理だわ。どちらかというと腕っ節が強い子だもの」
「ダガオ前ノ言ウ通リ、何カノ役ニハ立ツダロウ。
 イツデモ動ケルヨウニ命令シテオイテクレ」
「オッケーよ」
「サテ……始メルカ。ルイズ、私ノ近クヘ来イ」
「……いまさら何よ」

どんよりした空気を漂わせつつ、ルイズが答える。

「私ハ、ルイズトノ距離ガ近ケレバ近イホド強イパワーヲ発揮スル」
「「えっ!?」」

ルイズとキュルケが同時に声を上げる。

「距離が2メートル……イヤ、2メイル以内ノ時ニ最モ強イパワーヲ発揮スルノダ。
 弾丸ヲ弾キ飛バスニハソノパワーガ必要ニナル」

ホワイトスネイク自身は、自分の能力を最大限に発揮するために言っただけでしかない。
だがルイズやキュルケのようなうら若き乙女にからすれば、
「君が近くにいてくれるほど、僕は強くなれるのさ」
みたいな、某家の四男が言いかねないような甘ったるいセリフを聞かされたのと同じだったのだッ!

そして、先ほどのセリフはルイズの脳をびりびりと痺れさせ、

(えっ……ちょ、ちょっと何よ今の!
 今のって、今のって……ひょ、ひょっとして……)

またホワイトスネイクに夢中なキュルケの心に敗北の二文字を刻みつけた。

(ま、負けた……この私が……。
 恋愛において未だ負け知らず、百戦無敗のこのキュルケがこうもアッサリと……)

二人ともが、しかしまったく異なる理由で思わずフラリとした。

「オイ、何ヲ呆ケテイル」

そしてホワイトスネイクの声で、二人とも同時にハッと我に返った。

「わ、わかったわよ! 行けばいいんでしょ行けば!」

ルイズは強い口調でそう言ってホワイトスネイクのすぐ横、部屋の入口のすぐ脇にちょこんと座り込んだ。

(ふ、ふふふ……たった一週間かそこらで何をしたか知らないけど、ルイズにしてはやるじゃない。
 見てなさい、いい女ってのはこういうとこから挽回するものなんだから!)

そう心に誓い、しかし何も言わずにホワイトスネイクのすぐ後ろに立って杖を抜いた。

「……行クゾ」

ホワイトスネイクが低く呟くのと同時に、ホワイトスネイクとキュルケが入口の前に飛び出した。

(何だと……何故、今更になって出てきやがった……?)

ラングラーがそう思ったのは一瞬のことだった。
しかし、その一瞬のためにラングラーの動きは完全に止まり、
同じ一瞬でホワイトスネイクは部屋に入って一歩のところで踏みとどまり、
その背後のキュルケは呪文の詠唱を完了した。
次の一瞬でラングラーが脳内で進行していた跳弾の計算をストップさせ、
かわりにJJFの両腕の狙いをホワイトスネイクとキュルケに定め、
一方のホワイトスネイクは弾丸を叩き落とすために両腕の拳を力強く構え、
キュルケは杖の先から6発のファイア・ボールが花のように膨らんだ。
そして――

「ジャンピン・ジャック・フラッシュッ!!」

ドンドンドンドンッ!

「ファイア・ボール!」

ヒュゴオァッ!

ラングラーの弾丸と、キュルケの火球が同時に放たれ、交錯したッ!

放たれた弾丸は一直線にキュルケに向かい、

「シャアアアアアアアアアアッ!!」

バシバシバシィッ!

しかしその手前に立つホワイトスネイクにすべて叩き落とされた。

一方、キュルケが放ったファイア・ボールはラングラーの方には向かわず、
室内の家具に命中して次々と燃やし始めた。
火がついた家具はその瞬間に丸ごと火に包まれ、たちまちに真っ黒い炭と燃えカスの塊に変わっていく。

「そうか……こいつら、オレの跳弾を潰すために……」

ホワイトスネイクとて、跳弾への対処が難しいことなど十分に承知していた。
だから「跳弾を防ぐ」のでなく「跳弾を使わせない」ことを選択したのだ。

「だがホワイトスネイク……アンタ一つミスッたな」

ラングラーは素早く室内に目をやる。
今まさに片っぱしから燃やされまくっている家具には目もくれていない。
どうせ反射の対象としては使えないからだ。
計算してるうちに燃えカスにされてしまう。
だから、ラングラーは家具は見ていなかった。
その向こうにある部屋の壁を見ていたのだ。
反射角度の計算、弾道の計算、反射する弾丸の数。
全ての計算をあっという間に処理し、ラングラーはおもむろにJJFの両腕を下ろした。

「……何ノツモリダ?」

構えを崩さずに、ホワイトスネイクが問いただす。

「いや……そろそろ、止めにしようと思ってな……」
「……何ヲ言ッテイル」
「この仕事……結構キツいんだよなあ……。
 空条徐倫に散々やられたせいで、体には後遺症まで残っちまってるからさあ……余計キツいんだよ。
 だから……終わらせるのさ」
「引キ返スノカ?」
「いや……」

そういった直後、だらりと下がっていたJJFの腕が跳ね上がり、部屋の壁に向けられた。

「決着をつけようかと思ってね」

ドンドンドンドンドンドンドンッ!

そして弾丸が放たれる。
放たれた弾丸は壁に当たって反射、天井に当たって反射、床に当たった反射、
全てが異なる軌道と反射角度で、一斉にホワイトスネイクに、その後ろのキュルケに襲い掛かるッ!

瞬間、キュルケが肩を強く掴まれ、ルイズのいる廊下側の、JJFの射界の外に放り出された。

「へっ?」
「キュルケ!?」

唖然とした声を上げるキュルケと、思わず声高に叫ぶルイズ。
そしてキュルケが目の焦点をホワイトスネイクに合わせ、
そしてルイズが未だホワイトスネイクを見上げた時。

ルイズの鳶色の瞳に、キュルケの赤い瞳に、

バシュバシュバシュバシュバシュッ!!

全身を弾丸に貫かれるホワイトスネイクの姿が映った。
室内に突入してから、まだ30秒も経っていない時のことだった。


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