ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ジョルノ+ポルナレフ 第二章-03-03

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匿名ユーザー

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先行していたルイズは、ジョルノ達より幾分早く宿に着いていた。
そのホテルは貴族用の、この港町では一番上等な宿、『女神の杵』亭で、普段なら事前予約が必須の宿だった。
だが、その宿も今は従業員以外に人気は無かった。
アルビオンとトリスティンの玄関口として賑ってきたと言う街の成り立ちから、アルビオンが内戦になってからはそこへ商売をしに行く商人達くらいなもので、主だった客層はこなくなったからだ。
今のアルビオンに向かう者達の中に、『女神の杵』亭を利用するような手合いは殆どいない。
浮遊大陸から戦火を逃れてきた者の中には貴族も多数いたが、近日中に内戦が終わろうと言う段になって逃げてくるような者はいなかった。
今浮遊大陸から出てくるのは、王党派についていた傭兵達だけ。
安宿の酒場から順に賑わっているようだが、平民と一緒に食事をしたがらない者も多い貴族様御用達の『女神の杵』亭には関係の無い話だった。
逆に、同じくなのしれた宿でありながら平民でも構わず受け入れる隣の宿『世界樹の枝』亭は今現在全室満員で、一歩宿を出れば同じく一階に設けられている酒場の騒ぎが聞こえてくる。

そんな宿にあって、最近暇を持て余していたホテルマン達は、一階の酒場をウロウロするルイズに愛想良く、あるいは目障りにならないよう粛々と己の職務を果たしている。
酒場の中にいるのも従業員を除けばルイズ達だけ…この宿で部屋を取っているのも、ルイズ達だけだったので従業員達の態度はとてもよかった。
ホテルマン達に、その傭兵達の中にはアルビオンから逃れてきた貴族を捕まえている者もいると聞かされたルイズは気が急いて、そうした仕事振りには気付かなかったが。

「いやしかし、話には聞いていたが…彼の財産は一体幾ら何だろうね」
「男爵? 彼って…ネアポリス伯爵のことですか?」
「ああ。さっき小耳に挟んだんだが、隣の騒がしい宿。この戦争が始まる前後にある貴族が買い取って『平民でも泊まれるように』としてしまったらしい…その貴族が」
「伯爵だと?」
「ああ、代理人ではあったらしいが。間違いないな」

久しぶりに再会した婚約者とは正反対に酒場の椅子に座って背にもたれかかり、ワインまで開けて寛いだ様子のワルドは、数日前より若返ったように見える笑顔を浮かべた。
ルイズは自分が説得に失敗し、ジョルノ達が今足止めしているはずの母に長髪と髭をばっさり刈られ五歳は若返ったワルドを咎める。

床と同じく一枚岩からの削り出しで、ピカピカに磨き上げられたテーブルに、ワルドの顔が映っている。
ワインのビンが置かれたテーブルにワルドのリラックスした様子が映り、ルイズをより焦らせた。

「ワルド…貴方飲みすぎよ。任務中に不謹慎だわ」

アルビオン行きが決まった晩に、配下の者へ連絡してこのホテルを買い取ったネアポリス伯爵家の財産を計算していたワルドは数年ぶりに再開した婚約者のその表情を可愛らしく思い、笑顔を浮かべた。

「君こそ、もう少し落ち着いた方がいいな…今からそれでは先が続かないからね」
「そんなことはないわ!」

重要過ぎる任務中にワイン片手に言う婚約者の姿は、数年前彼女が憧れて恋した相手と落差があった。
美化されたイメージとの差に対する落胆が間髪入れずにルイズにトゲトゲしく反論させた。
近衛隊と切り離せない幻想との付き合いが長いワルドはそれを承知し、困ったような顔をして話を続ける。

「それにどうせ、アルビオンに渡る船は明後日にならないと、出ない」
「急ぎの任務なのに……」

そう言ってルイズは口を尖らせた。
ルイズ達はこの街についてすぐ、昼の間に桟橋に行って乗船の交渉を行ったのだが、交渉相手は皆口を揃えて同じことを彼女らに説明した。
明日の夜は二つの月が重なる『スヴェル』の月夜。
その翌日の朝が、アルビオンが最もラ・ロシェールに近づく時でそれまで船は出ない。
二人はそう、船乗り達に明日の出向予定がないことを丁寧に説明されてしまっていた。

納得していないルイズにワルドは少し考える素振りを見せた。

「じゃあこういうのはどうだい?」
「何?」
「隣の宿を買ったようにネアポリス伯爵に船を一隻用意してもらう」

全く酔っていないように見える顔でワルドが言うと、ルイズは顔を顰めた。
酔っているならまだしも、今のワルドの表情からは全く冗談には聞こえなかった。

「それは…幾らなんでも」

任務の為とはいえ、ゲルマニア貴族の奢りで移動手段を確保するなどルイズにとっては、貴族としての矜持を大いに傷つけられるように感じた。
平民でもあるまいし、由緒正しきヴァリエール家の三女が姉の恩人でもある相手にだけ出費を強いて主君からの任務を達成するなど到底考えられないことだった。
ワルドはグラスを一枚岩から切り出したテーブルに置いた。
そうしたルイズの感情を察して、幼かったルイズが憧れた凛々しい表情を見せていた。

「ルイズ。後で支払うと約束しても構わないじゃないか。これは君も言ったとおり任務なんだ…急ぎなら止むを得ないだろう」

ルイズがその言葉に視線を彷徨わせて迷いを見せると、ワルドは一転し困ったような表情を見せた。
余り本気ではない、軽い冗談のつもりだったのだがこの任務に賭けるルイズの気持ちを侮っていたらしい、とワルドは背もたれに頭まで持たれかかり天を仰いだ。
スクエアのメイジの手で巨大な岩を切り抜き作り出された宿の天井には、自然が作り出した奇妙な模様が刻まれていた。
趣を感じさせるその文様が普段とは違った方向に気を向かせたのかワルドは気がつくと「よし。じゃあ僕が出そう」とルイズに言い出していた。

「え…!?」
「なんだいルイズ。僕も貴族だ。それくらいのお金はあるさ」

思いのほか大きく驚きを見せた婚約者に、ワルドは愛嬌のある笑みを浮かべた。
アルビオンまで問題なく行け、しかもできるだけ早い船を用意する。
今の時期、急ぎとなれば相当吹っかけられるのも覚悟しなければならないだろうなとワルドは痛むであろう懐を考えて、少しだけ乾いた笑い声を上げた。
ルイズも同じように考えたのか、ワルドが座るソファの背に手を置いて心配そうに尋ねる。

「で、でもワルド…ちょっと買い物するっていう話じゃあないのよ?」
「…僕のルイズ。そんな風に心配されるのはちょっと傷つくな」

自分の財産を心配されて、おどけた調子でワルドは返すとどんより沈んだ顔を作って見せた。
失言をしたと思ったルイズはそれに騙され、慌ててワルドに言う。

「だ、だって…私達は大使なのよ! 間に合わせでも、安い船は使えないわ! それに、船員達も一流所を揃えないと…!」
「…い、いや。アルビオンまで早くいければいいんじゃないかな?」
「ダメよ! 寄せ集めじゃもしもの時に役に立たないわ! それに船員達の身なりだってちゃんとしたものを用意しないと…」

そのまま船の調度品やアルビオンで乗り込む馬車の用意などまで言い出しそうなルイズに、ワルドは慌てて声を張り上げる。

「ちょ、ちょっと待ってくれ…!そんなものを用意していたら一月はかかるよ」
「…それでも私達は大使なのよ? アルビオンの王様達にも失礼だわ」
「こんな状況だ。厳格なアルビオンの御歴々も許してくださるさ」

もしかしてここでケチるとトリスティンがアルビオンを軽く見てると思われてしまう、とか考えてるのか?
余りにも自分とは違う予想図を描いているらしいルイズにワルドは冗談じゃないと若干引きながら、婚約者の肩に手を置いた。
彼女の言うとおりにしていては結婚しても破産しかねない。
この旅で心の距離だけではなく、金銭感覚の距離も詰めなければな、とワルドの目には真剣な光が宿り始めていた。

「ルイズ。君の気持ちはよく…うん、とてつもなく良くわかる。だがこれは、お忍びなんだ。そんな目立つ真似はできないし、時間もないんだ」
「で、でも…」
「時間がないって君も言っていただろう? 君の意見は最もだ。だがそれは公式の、大々的な、それこそ公費を使って行う訪問の時の話だ。
今の僕らの状況とは全く合っていない」

ワルドは懇願するように言ったが、納得は得られなかったらしく彼が見下ろす婚約者の表情は不満げだった。
二人を生暖かい目で見ていた従業員の一人が酒場の扉を開ける。
日が沈み、二つの月の光を背負って草臥れた様子のサイトがふらふらとだらしない足取りで入ってくる。
その後を、亀を手に持ったジョルノが足音を立てずに続き、扉を開けた従業員にチップを渡し、何かを言いつけてからワルドへと目を向けた。
思わず救いを求めるような目でワルドは二人の少年を見つめ、サイトは嫌な予感に回れ右しようとする。
「何やってんだテメーは」亀から声がして、サイトが首根っこから持ち上げられたように浮かび上がる。
月明かりが作る影に表情が隠れたままのジョルノは言う。

「船の手配は既に済んでいます。明朝出立の予定ですから、余り飲みすぎないでくださいね」

安堵して息をついたワルドに、入ってきた二人は首を傾げた。
この内乱を食い物にしていたジョルノは当然、アルビオンへの玄関口であるラ・ロシェールに船を持っている。
ジョルノの抱える研究者達が異世界の技術を取り込んで作成している船には及ばないが、そこいらの船には負けぬ性能を持っているし、
船員もきっちりと、栄光ある元アルビオン空軍の仕官で構成されている。
で、むしろそれを知っていてアンリエッタは自分を巻き込んだのではと、ちょっぴり考えていた…というよりそう思いたかったのだが無駄だったようだ。
ワルドは席を立ち、鍵束を持って二人の下へと来る。

「やあポルナレフ、待っていたよ」
「おう、待たせちまったな」

妙な親しみの篭った挨拶を交わす亀とワルドを気にせず、ジョルノは店内を見回す。
特に目に付くほど悪いところはなかったらしく、ジョルノは首根っこを掴まれて足をぶらぶらさせているサイトを無視してワルドの持つ鍵束に目をやる。

「もう部屋はとってあるようですね」
「隣の宿を買い取っておいてよくおっしゃる」

形式的な笑顔を見せるワルドにジョルノも同じような笑みを返す。

「トリスティン国内にいる間だけのことです。それもお二人のような由緒正しい貴族の家にはお恥ずかしい話ですが」
「ご謙遜を」

ワルドは鍵束の中から二つ鍵を取り、ジョルノとサイトにそれぞれ手渡す。

「サイトが小部屋。伯爵とポルナレフが同室だ」
「…あの、亀で一人分っすか?」

鍵を受け取ったサイトが思わず突っ込みを入れると、ワルドは怒りも露にサイトへと厳しい視線をやった。

「口を慎みたまえ。君は僕の同志に床で寝ろと言うのか?」
「そ、そんなことないっす」

ヴィンダールヴの能力も発動していない上にヒロインもいないサイトには、その視線は聊か強力すぎた。
サイトは目をそらし、それだけを言うとポルナレフにもういいから離してくれと頼む。
ポルナレフのマジシャンズ・レッドが手を離し、サイトを暇に開かせて磨き抜かれた床に落とした。

「僕とルイズは同室だ」

一人心持離れていたルイズがぎょっとして、ワルドの方を向いた。
それに気付いていない様子でワルドは言う。

「婚約者だからな。当然だろう?「そんな、ダメよ! まだ私達結婚してるわけじゃないじゃない!」

ワルドの言葉を遮るようにルイズは声を張り上げた。
ポルナレフもそれには同意しようとしたが、しかしワルドは首を振ってルイズを真剣な目で見つめた。
冗談や余人を挟む余地がない真剣さを感じ取り、ルイズ達は息を呑んだ。

「大事な話があるんだ。二人きりで話したい」
「…ボーイさん、ワインのリストを見せてもらえねぇか?」

口を挟む余地がないと悟り、ポルナレフはワルドが作り出そうとする空気をかき消そうとする。
同じく余り女性に縁のないボーイはその意を汲んで喜んでリストを皆に配りだす。
頬の肉を引きつらせる貴族相手に満面の笑みでリストを渡す様は堂に入ったもので、ルイズも安堵しながら注文をする。
「私にも何かちょうだい」と当の婚約者まで言い、テーブルに置いたままだったワインの瓶が亀の甲羅の中へと吸い込まれていくのを見たワルドは、肩を落とした。
然程落胆してはいないらしく、苦笑したワルドは一旦諦めて自身は料理の献立表を要求する。

「君、私にはメニューを見せてくれ」

だがにこやかに表を見せて回っていたボーイは、うんざりしたような顔で「メニュー? そんなもの、ウチにはないよ…」
と返し、また笑顔でルイズ達から飲み物の注文を窺う。

「おい…! どういうことだね?」
「料理の献立はお客様次第で決定するからです」
「だから、私が何を食べるか決めるのにメニューをよこせと言ってるんだろうが!」
「チガウ!チガウ! ウチのシェフがお客を見て料理を決めるということでス」

ボーイがそう言ったのとほぼ同時に、無礼な態度に眉間にしわを寄せるワルドの元へとおいしそうな匂いが漂い始めた。
亀とサイトのお腹が空腹を訴えるように鳴り、場の空気を和ませる。

「もう完成したようですネ。すぐにお持ちいたします」


そうして食事を済ませたジョルノ達はそのまま入浴も済ませ、どうやら本当に何か大事な話があるらしいワルドとルイズは誰よりも早く部屋へと引っ込んでしまった。
釣られるようにして、皆早々に自分に割り振られた部屋へと引っ込んでいった。
ジョルノや亀の中にいる何名かも勿論そうしたが…後は寝るだけとなってから亀に隠れ住む者の一人、マチルダはジョルノから相談を持ちかけられていた。

ココ=ジャンボと同じ内装の亀の部屋で、三人はソファに腰掛けていた。
同席したのはポルナレフだけ、テファとペットショップは席を外している。
彼らが今いる部屋とは別の亀の部屋の中で休息をとっているはずだった。
ミキタカも見張りとして、ココ=ジャンボに残されている。

入浴後の一杯を飲み干したマチルダが杖を抜き、ジョルノが持ったデルフを燃やそうとする。
濡れた髪を纏め、照明の明かりに照らされたうなじにポルナレフは注目してそれ所ではなかった。
そのせいで集中が乱れたなどの理由で勿論ないが、炎は生まれなかった。

「始めて見たね。間違いないよ、魔法を吸収する能力だ」
「…やっと自分の能力だけは思い出したってわけか」

杖を仕舞いながら結論したマチルダに、ポルナレフは真面目な顔で応じた。
火で炙られたり、これをやる前にも風の刃で刻まれたりしたデルフリンガーは、大慌てでその姿を変える。
一瞬でその変形は終わり、ぼろぼろに錆びた剣だったことが嘘のように…柄まで含めると150cm余りもある片刃の大剣がジョルノの手の中に出現していた。

「アンタどうやってこれに気付いたんだい?」
「いつまで経っても記憶喪失のままなんで、ちょっぴり折ろうとしてみたら途端に…「無茶しやがって…頑丈な俺様じゃなけりゃポッキリ逝ってるぜ!」

刃の根元についている金具を口のように動かしながら叫ぶデルフリンガーを見るジョルノの目は彼の愛鳥ペットショップが生み出す氷のように冷ややかだった。
ジョルノから、ゴールド・エクスペリエンスとは明らかに違う太く逞しい腕が出現するのを見て冷や汗を垂らしながら、ポルナレフが言う。

「ま、まあいいじゃねぇか。これで戦闘では切り札になるかもしれねぇぜ」
「そうですね。デルフのことは今は保留しましょう」

あっさりと同意して、ジョルノはデルフリンガーを鞘に仕舞い喋れないようにする。
そうしてジョルノは少しポルナレフ達に顔を寄せて本題に入った。

「ここに集まってもらったのは他でもありません。実は、ワルド子爵が裏切り者の可能性が高いです」
「なんだと…? そりゃどういうことだ」

マチルダが表情を鋭くさせて、背もたれへと体を押し付ける。
バスローブが少し肌蹴たが、残念ながらポルナレフは気づかなかったしジョルノはスルーして話を続けた。

「マチルダさんを助けに行った時に現れた仮面の男。今日の昼頃、ラルカスから彼がワルド子爵であるという情報をレコンキスタから寝返ったトリスティン貴族から得ました」

マチルダは胸元を直し、向かいに座るポルナレフの足を踏んだ。
名前が出たことで、一瞬向けられた目がどこへ向いていたか…マチルダにはお見通しだった。
ばれていないとでも思っているのか痛みを堪えながら、しかし涙を浮かべた目でポルナレフが叫ぶ。

「待ってくれ…奴がそんなはずはない! 俺と語り合った奴のあの目に、嘘偽りはなかった。信じられる紳士の目だったぜ!」
「その語り合った内容とは?」

熱く弁護しようとしたポルナレフは、その問いに色を無くしてそっぽを向いた。

「…さ、さあて。そこん所は忘れちまったな」
「その態度だけで何話してたか検討はつくけどねぇ…どうすんだい?」
「ポルナレフさんは彼が味方である可能性も信じたい、ということですね?」
「ああ。奴は紛れもないトリスティン紳士だ。それは俺の新しい友も賛同してくれるはずだぜ」

確認するジョルノに、ポルナレフは頷いた。
迷いのない、相手への厚い信頼を感じさせる言葉だった。
「男って馬鹿だねぇ」と、マチルダが微かに哀れんだように言い、どちらの言葉にかはわからないがジョルノは頷き還した。

「わかりました。保険をかけ、今は様子を見ることにしましょう」

喝采をあげ、ポルナレフは朗らかに笑った。


「わかってくれたか! だが、保険ってのは?」
「僕のゴールド・エクスペリエンスは既に彼の杖に触っています」

初めて聞く単語に内心首を傾げたマチルダは、説明を促そうとポルナレフに視線を向けた。
ポルナレフは苦い表情をして、「まぁ、仕方ねぇか」と自分に言い聞かせるように呟いていて、視線には気付かない。
無視されたことが面白くないのか、マチルダは鼻を鳴らして、亀から出て行った。


To Be Continued...

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