ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ジョルノ+ポルナレフ 第二章-04

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匿名ユーザー

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あ、ありのまま今起こったことを説明するぜ!
お、俺達はラ・ロシェールから予定通り出港したと思ったら海賊に襲われたがそいつらは王党派で、すんなり王党派の最後の拠点であるニューカッスル城についちまった。

な、何を言っているかわからないと思うが俺にも何が起こったのかわからなかった…
孔明の罠とか既に条件はクリアされたとかそんなチャチなもんじゃねー。
もっと恐ろしいコネの恐ろしさを味わったぜ!

「…ポルナレフさん」
「なんだよ…」

背中にかけられたため息交じりの声に、俺は肩越しに視線をやった。
俺の寝床でもあるソファに深く腰掛けた黒髪の成金野郎が太ももがグンパツのお姉さんと胸がありえないエルフの美少女を左右に侍らせているのが目に入り、俺の目はごく自然に細くなった。
船員達への指示を終え、部屋に戻ってくるなり亀の中に引きこもりにきたジョルノだ。
一瞬、『DIO』の野郎と重なった印象を俺は振り払う。
そうすると髪を染めたその顔立ちは、俺と共に旅した戦友の一人、空条承太郎と…いや、あるいはその祖父ジョセフ・ジョースターとよく似ているのかもしれねぇが。

「何の為に王党派と貴族派の両方に顔の利く元アルビオン空軍高級仕官の方々をわざわざ船員に選んだと思ってたんです? 単に海賊対策なら、もう少し安くつきます」
「今は話しかけるんじゃねぇ。この庶民の敵が!」

俺は思わず怒鳴りつけていた。
この船自体コイツが用意したものだから我ながら酷い言い草だとは思わなくもない。
だが金と金で購入した権力を使い揃えた亡命アルビオン貴族達を使いあっさり到着って…

「テメェッ! かなり危険な任務じゃあなかったのかよッ!!」
「やれやれ…」

俺の叫びには亀の中にいる皆も同じ気持ちらしく、新参のミキタカはおろかテファまでが少し怒ったような目でジョルノを見る。
特にマチルダ姉さんの形相と言ったら、俺に体があったら逃げてるね、って勢いだぜ。
だが冷たい視線を受け止めたジョルノの表情は驚くほど爽やかで、照明の科学的な光を真っ黒に染まった艶やかな髪で反射させていた。
俺の中から、少しだけだが、怒りが薄まる。読んでいた本を軽い音をさせて閉じて、一瞬だけテファに一瞥を送ったのを俺は見逃さなかった。

「ルイズのことも頼まれていますし、アンタ達を泥沼の内乱状態の所に行かせるとわけがないでしょう」
「本物の海賊の時はどうする気だったんだい?」

最初俺と同じく不満そうな顔をしていたのに、今はもうどうでも良さそうな顔をして寛いでいたマチルダ姉さんが、ジョルノに尋ねた。
毛繕いをするペットショップ以外はどう答えるのか気になり、ジョルノの返事をじっと待つ。
ジョルノは一瞬呆れたような顔を見せた。

「…パッショーネと関係がある船を襲う程間抜けじゃあありませんよ」

チッと俺は舌打ちをして冷蔵庫に入れていたワインを取り出す。
マジシャンズレッドの手刀でワインのコルク栓のちょっぴり下を切らせた。
トリスティン産の、名前は忘れちまったが結構有名な産地のワイン…つまり結構値が張るらしいんだが、今だけは知ったこっちゃねぇと水代わりに飲み干す。

ったく…貴族派の囲いを突破し、戦火の中を潜り抜け、一人に二人と犠牲さえ払って泥だらけになってここに来ることになるかと思ったが、そんなことはなかったぜ!


悪態をつくポルナレフから視線をはずしたジョルノは再び本を読むふりをしながら
「ジョナサン。これはなんて読むんです?」
考えごとを始める前にミキタカが開いたページを見せに割り込んできた。
学生らしく勉強中のミキタカは簡単な本を読んでいるようだが…ジョルノはミキタカが指差して示す一文を見て答える。

「直訳は〝皿の上のミルクをこぼしてしまった〟〝です。慣用表現ですから〝取り返しのつかないことをしてしまった〟という意味になります」
「おお! つまりは"耳にたこができる"だとか"ここのストロベリー&チョコチップアイスを舐めながら登校するのは嫌いな月曜の朝の唯一の心の慰めなのによぉ~"と一緒ですね!」
「…二つ目はどう考えても月曜の学生が大げさなこと言ってるだけでしょう」

どーでもよさそうに、あるいは、出来るだけ関わらないようにしているとも受け取られかねない素っ気ない口調で返す。
だがジョルノの隣でハツカネズミをなぜていたテファは興味をひかれたらしい。
ソファの後ろに立つミキタカに振り向いた。

「ストロベリー&チョコチップアイス? それっておいしいの?」
「はい億康さんと丈助さんとよく買ったものです……舐めたいですか?」

懐かしむように言うミキタカに丈助と憶康って誰だよとワインの瓶に口をつけたままポルナレフは目で尋ねていたが、そちらは無視らしい。
ミキタカはテファに尋ねた。

「え?」
「ねぇ? なめたいんですか?」

戸惑うテファをのぞき込むようにしてミキタカはもう一度言う。
顔を近づけられたテファは、腰掛けたソファの空いたスペースの上に仰け反って逃れていく。
一緒に重力を無視して持ち上がっていく胸を見ていたポルナレフは少し前かがみになった。
それは鬼の形相となったマチルダが一瞬で距離を詰め、肘を眉間に叩き込むのに実にいい位置だった。
鈍い音だけがあがる…悲鳴も上げずに崩れ落ちたポルナレフの持っていた酒瓶を、中身が零れる前にマチルダは奪い取った。
そのまま残りを飲み干す豪快さに乾いた笑いを浮かべてから、テファはミキタカに返事をした。

「…う、うん。でも二人の故郷の話だし」
「そうですか!ちょうど2本持ってました……面倒を見てくれるせめてものお礼としてお受け取りください」

ジョルノ達の体が一瞬硬直した。
ミキタカが(そもそもそれをどこから持ってきたのか不思議だったが)いつの間にか抱え込んでいた薄っぺらい鞄の中からストロベリー&チョコチップアイスを2つ取り出していた。
上にストロベリー、下にチョコチップを見事に二段重ねたアイスがテファに差し出される。

「ちょっと待て。なんかそれおかしかったぞ!?」

間髪入れずカーペットの上に転がっていたポルナレフが突っ込みを入れるが、テファはそんな反応こそ妙だとでも言わんばかりに首を傾げてアイスを受け取った。
彼女にとっては、亀の中にはいれるのだから今更鞄から冷えたアイスが出てこようがさほど驚くことではないらしい。

「つ、冷たい…」
「上がストロベリー、下がチョコチップです」
「そうなの? …いただきます」

ひんやりしたアイスを袋から取り出し、ジョルノとマチルダの顔色を伺ってから口をつける。

「おいしい! とっても甘くて、ストロベリーって苺のことなのね! チョコチップは…不思議な味ね。初めてだけど、とてもおいしいわ!」
「そういえば、余りこちらでは見かけませんね…」

ポルナレフはそれを聞いて物欲しそうにミキタカを見る。
ジョルノは、新しいビジネスチャンスかもしれないと思案顔になっていく、ミキタカはポルナレフの視線になど気付いていない様子でもう一本を自分で食べ始めた。
挑発と受け取ったポルナレフが、マジシャンズレッドでアイスを奪いさる。

「ジョルノも欲しい?」
「え?」

だが今度はテファに呼ばれ、顔の前に食べ差しのストロベリー&チョコチップアイスが差し出される。
甘いものはジョルノも嫌いじゃあない。特にチョコは好物だったが、ジョルノは首を横に振る。
その時の視線の動きを見て、テファは歯形のついたチョコチップアイスとジョルノの横顔を交互に見た。


その後ワルドから、結婚相談を受けていたようだが、その手の相談はエレオノールとバーガンディの件だけで辟易したジョルノはさっさと逃げたので知らない。
ジョルノは片手でミキタカを払いのけながらアイスに齧り付く三十路のフランス人に一瞥を送った。

詳しくはジョルノも尋ねていない。
尋ねられた時、ポルナレフはソファをマチルダに占領され、床にクッションを持ってきて座っていた。
壁を背にし、立てた片膝で頬杖をついたポルナレフは不愉快そうに言った。

「お前の言いたいことはわかる。疑ってるんだからな。お前が言うんだからある程度確証もあるんだろうさ。だが…これは関係ない話だろう? 奴はただのロリコンさ」
「…いいのかいそれは?」

問題はその後、出立前になって街で騒いでいた傭兵達が襲撃をかけようとしていたことだ。
街の宿を経営する組織の人間から通報された情報によってそれは未然に防がれ、全員ペットショップの氷で串刺しになってもらった。
氷の塊でグチャッっとなった者達もいたようだが、『逆に始末されるかもしれない覚悟』を決めていたものと見ているジョルノは特に気にしていなかった。

やはり内通者がいる。雇ったのは白い仮面の男。
マチルダを助けに向かった時に現れ、手合わせしたラルカスもスクエアクラスと断言した者に違いないだろう。
アイスを食べてご満悦の仲間達を置いて、ジョルノはソファから立ち上がった。
この後は、海賊船を装い船を襲って物資を得ようとするまでに落ちぶれた王党派の船の船長と会う予定だった。

「じゃあ僕はルイズ達と一緒に海賊船の船長に会ってきます」
「お、ああ。この亀を持っていってくれよ」
「はい」
「私も行っていいですか? 海賊船の船長がどんな人か興味があるんです」

ついてこようと自分からアイスを取り上げたポルナレフから放れるミキタカにジョルノは拒否する態度を見せようとする。
だがその前に、ミキタカの体がバラバラに解けた。
驚く皆の前で細い繊維へと姿を変えてジョルノの足に纏わりついていく…いつでもスタンドを繰り出せるようにするジョルノの靴に、ミキタカは完全に覆いかぶさった。
ジョルノが触って見ると、確かに靴の…牛革の感触がした。

「これなら大丈夫でしょう?」
「こんな能力があったんですか?」
「はい。私は大抵の物に変身できます」

騙されたような感じがして不満そうな顔をしたポルナレフが残りのアイスとコーンを口の中で租借しながら言う。
びっくりしているテファの手に、溶けたアイスがちょっぴり垂れた。

「食えない野郎だな…「食えない?? そんなことはありませんよ。今、手の一部をアイスクリームにもしましたよね」
「「「え?」」」

革靴になったミキタカのどの部分に当たるのかはわからないが、靴紐の部分が変形し、先ほどテファ達に渡されたアイスクリームへと変化する。
ひんやりしてて、甘くておいしそうなストロベリー&チョコチップだった…テファの手からアイスが落ち、床が汚れるのを嫌ったポルナレフが慌てて手で受け止める。

「でも『複雑な機械』や自分以上の『力』の出るものにはなれません…後人の顔に化けるのも無理ですね。私宇宙人だから人の顔って皆同じに見えるんです」
「…行ってきますね」

付き合いきれないと言いたげな顔でジョルノは亀から飛び出す。
すぐには部屋を出ずにジョルノは鏡の前に立つ。
ギャングスターになった頃に作ったスーツの一着を着た自分の姿を確認し、ボタンの位置を少し直してから床に転がっている亀を持ち上げ歩き出す。
外には既に準備を終えたルイズとワルドが立っていた。
二人は部屋からやっと出てきたジョルノを促し、先を歩いていく。
狭い通路を抜け、甲板に出ると船員と船を襲った海賊が和気藹々と言葉を交わしていた。
突風が吹きすさぶ中をよく、と風に流れる髪を押さえたルイズが小さな声でぼやいた。
行き来出来るほどの距離に二つの船を近づけ、船は雲の中を進んでいた。


彼らの腕に感心しながら三人は向かいの船へと乗り移る。
髪の毛はすっかり刈られてしまったので流れはしない。
そう、ほんの少しだけ気を抜いていたワルドの帽子が、その時風に吹かれて飛ばされていった。
泣きそうな顔のワルドに困ったように笑うルイズの後にジョルノは続いていく。

三人は海賊の格好をした貴族に連れられ船長室へと案内された。
客を待っていたのは、凛々しい金髪の若者であった。
変装道具の眼帯や髭などが机に置かれているのが目に入る。
海賊の服を着たまま、彼は威風堂々名乗った。

「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官……、本国艦隊といっても、すでに本艦『イーグル』号しか存在しない、無力な艦隊だがね。
まあ、その肩書きよりこちらのほうが通りがいいだろう。アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」

ルイズは口をあんぐりと開けた。
まさかこうも簡単に目的である皇太子と出会えるとは思わなかったからか。
その表情はアンリエッタが愛する男が海賊の真似をしていることに唖然としているようでもあった。
ワルドは興味深そうに、皇太子を見つめており、ジョルノは普段と変わらぬ様子だった。
ウェールズは、にっこりと魅力的な笑みを浮かべると、ルイズたちに席を勧めた。

「アルビオン王国へようこそ。大使殿。さて、御用の向きをうかがおうか」

そう言われて、呆けていたルイズは目的を告げようとしたが、すぐには言葉にはならなかった。
それをどう取ったのかウェールズは悪戯っぽく笑った。

「その顔は、どうして空賊風情に身をやつしているのだ? といった顔だね。いや、金持ちの反乱軍には続々と補給物資が送り込まれる。
敵の補給路を絶つのは戦の基本。しかしながら、堂々と王軍の軍艦旗を掲げたのでは、あっという間に反乱軍のフネに囲まれてしまう。まあ、空賊を装うのも、いたしかたない」
「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」

緊張して言葉が出ないルイズに代わり、ワルドが、優雅に頭を下げて言った。

「ふむ、姫殿下とな。きみは?」
「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵」

それからワルドは、ルイズたちをウェールズに紹介した。

「そしてこちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢と協力者のジョナサン・フォン・ネアポリス伯爵です」
「なるほど! 君のように立派な貴族が、私の親衛隊にあと十人ばかりいたら、このような惨めな今日を迎えることもなかったろうに! して、その密書とやらは?」

ルイズが慌てて、胸のポケットからアンリエッタの手紙を取り出した。
恭しくウェールズに近づいたが、途中で立ち止まる。それから、ちょっと躊躇うように、口を開いた。

「あ、あの……」
「なんだね?」
「その、失礼ですが、ほんとに皇太子さま?」

ウェールズは笑った。
ワルドも突然の失礼な言葉に驚いたが、逆にルイズらしいと笑い出す。

「まあ、こんな形だ、無理もない。僕はウェールズだよ。正真正銘の皇太子さ。なんなら証拠をお見せしよう」

ウェールズは、ルイズの指に光る、水のルビーを見つめて言った。
彼は自分の薬指に光る指輪を外すと、ルイズの手を取り、水のルビーに近づける。
二つの宝石は、共鳴しあい、虹色の光を振りまいた。

「この指輪は、アルビオン王家に伝わる、風のルビーだ。きみが嵌めているのは、アンリエッタが嵌めていた、水のルビーだ。そうだね?」

二つの宝石が生み出す虹に見とれていたルイズは恥かしげに少し頬を染めて頷いた。

「水と風は、虹を作る。王家の間にかかる虹さ」
「大変、失礼をばいたしました」


ルイズは一礼して、手紙をウェールズに手渡す。
ウェールズは、愛しそうにその手紙を見つめると、花押に接吻した。
それから、慎重に封を開き、中の便箋を取り出して読み始めた。
真剣な顔で、手紙を読んでいたが、ウェールズはそのうちに顔を上げた。
動揺した瞳が読み終わるのを静かに待つルイズ達へと向けられた。
ルイズはその手紙を書いたアンリエッタののことを思い出して苦しげな顔をする。
それだけでウェールズには衝撃的だったこの手紙に書かれた内容、既に苦境にある彼を苦しめる知らせが真実味を増した。

「姫は結婚するのか? あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……、従妹は」

ワルドは無言で頭を下げ、肯定の意を表した。再び、ウェールズは手紙に視線を落とす。
最後の一行まで読み終わるとウェールズは先ほどの動揺など微塵も感じさせぬ微笑を見せた。

「了解した。姫は、あの手紙を返して欲しいとこの私に告げている。何より大切な、姫から貰った手紙だが、姫の望みは私の望みだ。そのようにしよう」

ウェールズの様子に引き摺られ、暗く沈んでいたルイズの顔が輝く。
しかしながら、とウェールズは優雅にどこか芝居がかったような調子で言う。

「今、手元にはない。ニューカッスルの城にあるんだ。姫の手紙を、空賊船に連れてくるわけにはいかぬのでね」

そう語る皇太子は笑っていたが、「多少面倒だが、ニューカッスルまで足労願いたい」
告げた口調には微かに動揺が残されていた。


ラ・ロシェールから乗ってきた船と別れ、ジョルノ達を乗せた軍艦…『イーグル』号は、浮遊大陸アルビオンのジグザグした海岸線を、雲に隠れるようにして航海していく。
ウェールズはその間自由に船の中を歩き回る許可をルイズ達に与え、部屋で休むか甲板に出て他では滅多に経験できぬであろう雲の中を地形図を頼りに進む気分を味わうことを勧めた。

測量と魔法の明かりだけで航海するというアルビオン王立空軍の腕前に興味を惹かれたらしいワルドがルイズを連れて部屋を後にした。
ジョルノは残り、部屋の扉を閉めてからウェールズへと向き直った。

「ウェールズ殿下。折り入って貴方に話があります。人払いをお願いできますか」

皆部屋を出て行ったものと決め付け、もう一度アンリエッタからの手紙へと目を落としていたウェールズが顔を上げる。
申し出を受けるか否か、考えたウェールズは「…わかった」と応じて、部屋を出て行く。
すぐに戻ったウェールズはジョルノが先ほど閉じた扉を閉じて杖を抜いた。
洗練された優雅な動作で杖を振り、彼が唱えたのはサイレント。密談などに使用される魔法の効果はすぐさま現れた。
窓の外を流れる風の音や風に微かに軋む船体の音。船員達が各々の仕事を果たす内に自然と奏でられる様々な音が全て消えた。

「さて、話とはなんだ? まさかここで君が逆賊だったなどとは言わないでくれよ」

そう言ってウェールズは杖を仕舞う。
客に自分が先ほどまで腰掛けていた椅子を勧め、かつらや付け髭などを脇に寄せて自分は埃一つない机の上に座り込んだ。
椅子に腰掛け、亀を膝に乗せてジョルノは言う。

「用件は二つあります。貴方を始め王党派の貴族の方々に亡命をしていただきたい」

皇太子は直ぐには返答を返さなかった。
じっくりと亡命を勧める若い…彼が愛するアンリエッタより年下でありながら落ち着いた、余裕と冷静な態度が引っかかっていた。


「アンリエッタの願い、と言うわけではないようだね。何故だ?」
「公にはしておりませんが、今私の所で何人ものアルビオン貴族のご婦人達やお子さんを匿っています。彼女らには父親が必要だ」

ウェールズは痛いところを突かれたように表情を変えた。
真っ直ぐに向けていた視線を外し、部屋に飾られた海賊の雰囲気を醸し出す為のおふざけ…鳥かごを始めとしたガラクタの辺りに視線を漂わせる。
答えをすぐに返さなかった王党派の実質的な党首を更に悩ませる出来事をジョルノは言う。

「保護した方々の幾人かは売られる所でした」
「何だって?」
「平民が貴族に買い取られる話をご存じない?」

トリスティンのモット伯等、貴族の中には平民を慰み者にする為に雇い入れる者もいる…
アルビオンでもそうした話があり、耳に入っていたのかウェールズの体に力が篭っていた。

「それと同じようなものです。襲われた方もいますし、その中には少年もいました」

ケアを行うのに夫や父親の力が必要なこともある。
ジョルノは椅子に深く腰掛けて、ウェールズの返事を待った。
机の上で唇を噛み、汗をかいている皇太子がどう答えるのか…動揺している様子を眺め、足を組見直す。
亀の中が騒がしくなっている。サイレントの効果で静かになった室内ではそれはとてもよく目立ったが、ウェールズにそんな暇はなかった。

「わかった。それについては、検討させてもらおう」
「殿下についてもです」
「私には王家としての義務がある。内憂を払えなかった王家に、最後に課せられた義務がな」

毅然として、言い放つ。
課せられた義務が死ぬことと悟り亀の中で誰かが息を呑んだようだった。
ジョルノの持つ覚悟とは違ったが、皇太子は既に覚悟を決めている事が見て取れた。
そんな相手に、「では」と殊更に冷たい声で告げる。

「私はアンリエッタ王女を暗殺するかもしれませんが、構いませんね?」
「どういうことだ…ッ?」

厳しい声と共に、腰掛けていた机から飛び上がるように降りる。
一瞬で気色ばみ、杖をまた引き抜いてジョルノの急所へと突きつける。
ウェールズの目には殺気が漲っていたが、身動ぎもせずに返事が返された。

「貴方が死ねば、貴方の従姉妹が仇討ちを考える位には情熱的だと言うことです」

突きつけられた杖が怯んだ。
苦々しい笑みを浮かび、そうした考えをアンリエッタが持つかもしれないとウェールズは考えた。
同時に、心の中にそれを望む気持ちがないとは言えない事も悟る。

だがトリスティンにはそんな戦力はない。更には、マザリーニ達もそれを許すはずがないのだ。

「トリスティンには…いや、まさか」

だが、返事を返す為相手を、ゲルマニアの貴族を見た瞬間に、ウェールズの脳裏に一つの新しい予想が生まれた。
それを見て取って更に表情を曇らせたウェールズに言う。

「四十の男一人籠絡すること位出来る。そう考えていますね?」
「できるわけがない!アンリエッタは…」

ウェールズの言葉は自分に言い聞かせているようだった。
心の迷いを写したように杖を持つ手が、小刻みに震えている。

「私はその可能性もあると考えています」

気が動転しているウェールズの心に無造作に、だが深く鋭くジョルノの言葉は突き刺さり…杖を持つ手を下ろさせていく。
凍りつく眼差しにじっとりとした汗が止まらず、真っ黒に染まった髪が、ウェールズの目には一瞬金色に輝いているように見えた。瞬きをする。輝きはやはり目の錯覚で真っ黒な髪だった。


「…ですが、私と付き合えばその不安も心の中から取り除ける。私と王党派の方々の力があれば、ゲルマニアとトリスティン。両国にとってより良いやり方で貴族派を打倒できる…」

シャツと首の隙間。透き通るように白い肌に、星型のあざが見えた。
妖しい色気と、「どうです? 一つ、私と手を組みませんか? 既に保護した方々、貴族派を打倒した後も今まで以上に力を貸しましょう」
囁かれる言葉にウェールズは、心が安らぐのを感じた。
危険な甘さに、恐ろしさを感じていた。

すると、不意にジョルノは不機嫌そうな顔をした。
アルビオン王党派を率いてきたウェールズを恐れさせた何かに、少年自身も戸惑っているような態度で、頭部に手を触れた。

「もう一度、次は貴方のお父上にお願いするでしょう。返事はその時に態度で示してくだされば結構です」

囁かれた言葉にウェールズは頷きもしなかった。
構わずに、ジョルノはもう一つの話を始める。
今の話で亀の中は騒然としていたが、「ところで殿下はプリンス・オブ・モードを知っておられますか?」

頷き、ジョルノが出した名前に愛しいアンリエッタのことで頭が一杯になっていたウェールズは我に返った。
ウェールズは頷いたが、最大限の警戒を持って再び杖をジョルノへと向けた。
敵意に近い警戒心に表情を厳しくする皇太子に、ジョルノは何の反応も見せず薄く微笑んで佇んでいた。

「…勿論だ。私の叔父であり、間接的に今の事態を引き起こした要因の一つでもある」
「レコンキスタにモード大公へ忠誠を持っていた者でもいるのですか?」
「伯爵なら知っているのではないか? 父は否定しているが…叔父とその部下達が抜けた穴を父は塞ぐことが出来なかったのだからな」

ウェールズが言ったことについてはジョルノも知っていた。
アルビオンで力をつけていく間に、アルビオン貴族だった者達も従えるようになったジョルノにはそうした情報は素早く入っていた。
財務監督官だったテファの父は、そしてマチルダの父親であるサウスゴータの太守らはアルビオンの政治と経済に深く関わる人物達でもあった。
そんな彼らが皆テファの父共々次々と重罰に科せられ、いなくなった。
それはモード大公の事件を利用し、新たに権勢を得ようと一部の貴族達が暗躍した結果だった。
新たに権勢を得た貴族達は前任者が引き継いできたものを捨て去り、自らの手腕を発揮しようとした。
だがそれは、うまくいかなかったのだ。
もっと長い時間をかければ形になったかも知れぬ彼らの仕事が実を結ぶ前に、押し退けられた者達とまた新たに力を得ようとする者達が手を取りこの戦争を引き起こした。

「さあ? それより知っているなら話が早くて助かります。テファと会っていただきたい」
「テファ…まさか、叔父上、モード大公の」

呆然とウェールズが呟いた。手に持っていた亀を、ジョルノは床に下ろす。
「ま、待って姉さん…っ、わ、私、まだ心の「30秒で仕度しなって言ったろ!?」
すると亀の中から帽子を被った頭が出た。驚いて杖を向けようとするウェールズの腕を、その頭を押し退け伸びた腕が掴む。
殺気に満ちた目をしたマチルダがウェールズを睨みつけながら姿を現し、その後ろに隠れるようにして、テファが亀から出た。
向けられる殺気に覚えはなかったがウェールズは、慣れたものと受け止め、深く被った帽子を押さえた女性を見た。
マチルダが家を潰され、家庭を滅茶苦茶にされたことについてどれ程の恨みを持っていようとも…ウェールズはそれに取り合う気はないようだった。

ニューカッスル城で会うものとばかり考えていた。
それにジョルノは王女の暗殺を考えているなどと聞かされ、更に宇宙人が変身したアイスなんてものを食べて大騒ぎしていたテファに、心を決めることなどできているはずもなかった。
顔が真っ赤になるくらい緊張して、最初俯いていたテファが助けを求めてジョルノを見る。
ジョルノはそんな態度を不思議がってでもいるように、体を傾けて立っていたが…暫くしても何も動きがないのを見てテファに言う。

「テファ。貴方がどうしてこの方と会いたいと言ったのか、僕は知りませんが…既に覚悟をしたから会いに来たのではないんですか?」
ウェールズの手を放し、少し距離を置いて一挙手一投足を油断なく監視していたマチルダが、その言い草にジョルノにも怒りの篭った視線を向ける。
テファがこんな様になっている理由の半分以上がジョルノのせいなのに、身勝手なことを言うのが気に入らなかった。


言葉に詰まりまた俯いてしまったテファは、「う、ん…ご、ごめんなさい」と小さな声で答えた。

小刻みに震える指でテファは深く被った帽子を取る。
帽子の中から現れたエルフの特徴である長い耳に、ウェールズは目を見開いたがもう杖をテファに向けたりはしなかった。

「は、初めまして。ウェールズ殿下。お会いできて嬉しいです。わ、私ティファニアって言います。えっと、わ、私…母はエルフで父はモード大公です」
「もう一人の従姉妹殿が…生きていたのか」

マチルダから向けられた敵意で我に返ったウェールズが呟く。
頷き返したテファを不思議そうに見ていた。
何故ここに、こんな危険な場所にわざわざ現れたのか、ウェールズには理解が及ばなかった。

「ティファニア。何故こんな危険な場所に来たのだ。今までどおり隠れていれば、私と父王の状況を知らないわけもあるまい」
「私、お父さんのことが知りたかったの。私が生まれたせいでどうなたったのか…よく知っているはずのお二人から」
「それだけの為に?」
「う、うん…」

頷き返されたウェールズは唖然として、言葉が出なかった。
死んだ父親の死に纏わる話を聞く為だけに内乱中のアルビオンに潜入し、既に負けが決まった自分達に会いに来たなど信じがたい話だった。
レコンキスタの軍勢に、今『イーグル』号が向かっているニューカッスル城も包囲された自分達に…なんと無謀なことかとウェールズはジョルノ達の顔を見た。
偶然自分が彼らの乗る船を襲ったとはいえ、そんな無謀な行為を許し、連れてきた者達の正気もウェールズは疑っているようだった。
今やウェールズにはネアポリス伯爵と言う少年は、自分達王家の血を引く者を惑わす悪魔のようにさえ映っていた。
悪魔と視線が絡み合った。

「ウェールズ殿下。彼女の望みを叶えてもらえますか?」

合わさった瞬間、微かな怯えを見せた皇太子にジョルノは尋ねる。
マチルダや、亀…何故かジョルノの革靴からも視線を感じながらウェールズは居住いを正し、力強く頷いた。

「…それについては、私に反対の意思はない。モード大公の娘として正当な権利が欲しければ私から父上を説得しよう」
「え…「少し話が飛躍しているように感じますが」
「伯爵、我が王家には時間が残されていないのだよ。絶えるはずだった我が王家の姫が一人生き残るという機会を先延ばしにする理由があると思っているのか?」
「し、信じてくれるの? 私がお父さんの娘だって」
「王家の血を引く姫だと言ってハーフエルフを連れてきておいて、よく言うね」

言うなり、ウェールズは先ほど自らの身分証明に使用した王家の証、王家に伝わる始祖の秘宝『風のルビー』を指から外し、テファの手の中にねじ込むようにして押し付けた。

「え? あの…」
「父も反対はすまい。例えエルフの血を引いていようと、いやレコンキスタなどと言う輩が現れた今となってはいっそ小気味よいかもしれないな」

一人笑い出したウェールズに、テファは手の中に入れられた指輪と初めて顔を会わせた年上の従兄弟の顔を交互に見る。

「その『風のルビー』は君が持っているんだ。もしもの時、証明する道具の一つになる。譲渡する書類もすぐに作成しよう」

そうしたやり取りは、マチルダの目には不愉快極まりなかった。
わなわなと手が振るえ、目を血走らせたマチルダが怒鳴る。

「アンタ、ふざけてんじゃないだろうねっ!? モード大公や、お父様を殺しておきながら…ッ!!」
「マチルダさん、黙ってください」

詰め寄ろうとするマチルダとウェールズの間に、ジョルノが割って入った。
ジョルノは普段と変わらぬ冷静な態度でマチルダを、そしてテファへと視線を向ける。

「いらなければ後で棄てればいいんです。テファ、そんなことよりお父上のことを聞かなくていいんですか?」
「あ、うん…ウェールズ殿下。父のことを、教えてください。この内乱も関係あるようなことをおっしゃられてましたけど…?」

王家の、始祖の秘宝をあっさり棄てろと言う少年に皇太子は苦笑した。
ウェールズを悩ませるもう一つの用件の時といい、始祖や王家等に対する敬意など欠片も持ち合わせていないらしいと、ウェールズは感じていた。
だがそんな人間がこのハルケギニアに何人いるのか、ゲルマニアの血統らしいがまるでサハラや東方から来たと言われた方がウェールズには信じられただろう。


「直接関係はない」
「どういうことですか?」
「……遺恨が残ったのだよ。貴族にも、平民達との間にも」

言いにくそうに返された返事に、テファは息を呑んだ。
彼女の姉であり保護者。今もウェールズを睨むマチルダの姿から、テファには容易に想像がついたからだった。

「叔父上の話は、私ではなく父上に聞くといい。私もまだ幼く、数えるほどしか会わなかったのだ」

ウェールズがそう言って話を切り上げて三時間ばかりが過ぎた。
思っても見なかった程好意的に自分を受け入れたウェールズに驚きと共に、次第に嬉しさがこみ上げてきたらしいテファは、国王に会うことを楽しみにして亀へと戻っていった。
それとは対照的に、怨敵と顔を合わせてもテファの為には堪えなければならないマチルダの顔は、表面に出さぬように努めていたが…ジョルノの目には消えることのないどす黒い感情で歪められていた。
テファがこれに気付くより先に、マチルダへの慰めをポルナレフに期待して甲板に上がっていたジョルノ達の視界に大陸から突き出た岬が見えた。
岬の突端には、高い城がそびえていた。
そしてそこへと王党派を追いやった貴族派が如何にして包囲を行っているかも一目で確認することが出来た。
ウェールズは後甲板に立ったジョルノ達に、あれがニューカッスルの城だと説明した。

貴族派を避ける為か『イーグル』号は真っ直ぐにニューカッスルに向かわずに、大陸の下側に潜り込むような進路を取る。

「なぜ、下に潜るのですか?」

ウェールズは、城の遥か上空を指差した。遠く離れた岬の突端の上から、巨大な船が降下してくる。
慎重に雲中を航海してきたのはこの為で向こうには『イーグル』号は雲に隠れて見えないはずだとウェールズは語った。

「叛徒どもの、艦だ」

本当に巨大、としか形容できない、禍々しい巨艦であった。
『イーグル』号の優に二倍はある船体に何枚もの帆をはためかせ、巨艦はゆるゆると降下していく。
ゆっくりと巨艦の腹に幾つもの窓が開き、ニューカッスルの城めがけて並んだ砲門を見せた。
斉射の震動が『イーグル』号まで伝わってくる。砲弾は城に着弾し、城壁を砕き、小さな火災を発生させた。

「かつての本国艦隊旗艦、『ロイヤル・ソヴリン』号だ。叛徒どもが手中に収めてからは、『レキシントン』と名前を変えている。やつらが初めて我々から勝利をもぎとった戦地の名だ。よほど名誉に感じているらしいな」

ウェールズは微笑を浮かべて言った。

「あの忌々しい艦は、空からニューカッスルを封鎖しているのだ。あのように、たまに嫌がらせのように城に大砲をぶっ放していく」

雲の切れ目に遠く覗く、無数の大砲を曝け出したままの巨大戦艦の艦上をドラゴンが舞っていた。

「備砲は両舷合わせ、百八門。おまけに竜騎兵まで積んでいる。あの艦の反乱から、すべてが始まった。因縁の艦さ。
さて、我々のフネはあんな化け物を相手にできるわけもないので、雲中を通り、大陸の下からニューカッスルに近づく。そこに我々しか知らない秘密の港があるのだ」

城からの反撃を受けぬ位置に野営する兵の姿を目に納めてからジョルノは亀を持って船内へと戻っていく。
雲中を通り、大陸の下に出たのか船内は次第に真っ暗になった。
大陸が頭上にあるため、日が差さないのであろう。船内のあちらこちらに備えられた魔法の照明に灯りが灯っていく。
雲の中にいるせいで並んだ窓の外には何も見えない。
視界がゼロに等しく、簡単に頭上の大陸に座礁する危険があるため、反乱軍の軍艦は大陸の下には決して近づかないのだ、と甲板でルイズ達にウェールズが語っているのが聞こえてきた。

「地形図を頼りに、測量と魔法の明かりだけで航海することは、王立空軍の航海士にとっては、なに、造作もないことなのだが」

貴族派、あいつらは所詮空を知らぬ無粋者さ、とウェールズは笑っていた。
その笑い声は、そんな者達に追い詰められる自分達の滑稽さを嘲笑っているようでもあった。


To Be Continued...

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