ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク 改訂版-12

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匿名ユーザー

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12話

「やあ、キュルケ。今日の君は輝くように美しいね。
 どうだい、一曲僕と踊ってもらえないだろうか?」
「待ちたまえよ、君。キュルケに最初に声をかけたのは僕なんだ。
 先に彼女と踊るのは僕だろう」
「おいおい、何を言ってるんだ。
 僕は昨日のうちにキュルケと約束してたんだからな。
 勝手なことを言い出さないでくれたまえよ」
「だったら僕は一昨日前には声をかけていたさ」

自分の目の前には何人もの男の子が集まっていた。
どの子もハンサムだとか男前だとかで、学院の女の子たちを夢中にさせていた。
ここにいる何人かが、誰か他の女の子と付き合っていたという話も聞いたことがある。
でも――

「あらあら、よしてくださいな。私のことで争うなんて」

彼ら全員は、あたしに夢中になっている。
今だってあたしの悲しげな仕草をさっきまでしていた口論も止めて見入っている。

「とはいえ、私の身体は一つしかありませんから、いっぺんにお誘いを受けることはできませんわ。
 ですから、私をここで真っ先にお誘いしてくださった方から順番に……そうしましょう?」

そう言って、最初に声をかけてきた男の子の手をそっと取る。
それだけで彼は顔を赤くして、夢でも見ているみたいな表情になった。
この場でお誘いした順番に、としたのは、誰がいつ自分をお誘いしたかなんて覚えちゃいないからだ。

フリッグの舞踏会の会場。
そこでの主役は、褐色のナイスバディと燃えるような赤髪の女の子、キュルケだった。

キュルケの周りにはいつも大勢の男の子がいた。
彼らはキュルケの仕草一つ一つに魅了され、虜になっていた。
そうしてキュルケと付き合った男の子は何人だっている。
でも長く続いた子は一人もいない。
キュルケはすごく熱しやすく、そしてすごく冷めやすいからだ。

今宵の舞踏会でキュルケと踊る彼らも、きっと明日、明後日には綺麗さっぱり忘れ去られているだろう。
それでもキュルケの周りから男の子がいなくなることはない。
それだけ彼女は魅力的なのだ。

そしてキュルケのダンスの相手は三人目になった。
この時点でキュルケは一人目と二人目のことを完全に忘れている。
今の彼女はどうやって目の前の美男子を自分にメロメロにするかで頭がいっぱいなのだ。
どんな言葉を紡ごうか?
どんな仕草で誘惑しようか?
そんなことばかりを――

ドッグォォォオオオオン!!

「きゃあっ!」

――考えていたところで、キュルケはベッドから飛び起きた。

「な、なに!? 今の……爆発? ってことは、ルイズ!?」

暖炉から彼女の使い魔のフレイムものそのそと出てきた。
キュルケと同じくぐっすり眠っていたところを叩き起こされたようで、機嫌悪そうに低く唸っている。

「出ちゃダメよ、フレイム……そこでじっとしてて。
 一体誰かしら? ドアを吹っ飛ばされるほどあの子に恨まれる覚えはないんだけど……」

今にも飛び出していきそうなフレイムを制しつつ、キュルケは素早く壁の陰にまわる。
そして化粧棚からひったくってきた手鏡で、そっと部屋の外をうかがった。

「な……何よアイツ?」

ルイズの部屋の中にラングラーの姿を認めたキュルケは、思わずそう呟いた。

「っていうかなんでルイズの部屋に?
 夜這い、なんてことはあり得ないわよね……あの男、殺気全開だし。
 それに……何かしら? アイツの傍にもう一人、何かいるけど……まあいいわ。
 しかしアイツ、ダサいカッコしてるわねえ……どこで流行ってんのかしら?」

見れば見るほどおかしな男を、まじまじと観察するキュルケ。

「ルイズは……と。何よあの子、部屋の外にいるの?」

手鏡の角度を変え、廊下にいるルイズの姿も確認した。

「それで、すぐ横にはホワイトスネイクもいる、と。
 ……何で二人して、あんなとこに張り付いてるのかしら?
 ルイズはしょうがないにしても、ホワイトスネイクは相当に腕が立つのに……」

ルイズの室内に陣取るラングラー。
そして廊下から室内をうかがうホワイトスネイクとルイズ。
この構図からキュルケは少し考えて、

「……アイツ、飛び道具でも持ってるのかしら?」

すぐに答えに通じる紐を掴んだ。

「ホワイトスネイクの様子からすれば、ギリギリまで粘る気満々ね。
 ってことは、あれはかなり強力な飛び道具……あるいは『絶対当たってはいけない飛び道具』かしら?
 アイツはみたとこ杖持ってないし……何か毒矢みたいなものでも持ってるのかもね」

そして、その紐をどんどん手繰り寄せていく。

「と、なると……ルイズがあたしの部屋のドアを吹っ飛ばしたのは……」

そして答えが目前に迫った――

「あたしに助けてほしい、ってことね!」

――迫ったとところで、紐を答えごと暖炉の中にブチ込んだ。
聡明なキュルケが辿り着いた結論は、残念ながらルイズの希望の真逆だった。

「そうとなれば、話は早いわ」

そう言うが早いが、キュルケは小声で呪文の詠唱を始める。
戦うと決めた以上、勝負は先手必勝、一撃必殺に限る。
キュルケはいつだってずっとそうしてきたのだ。

そして、呪文の完成と同時にキュルケは壁の陰から躍り出た。

「へ?」

それにルイズは唖然とし、

「そうか、あの爆発は援軍を呼ぶための……」

ラングラーは納得し、

(ヤハリ、出テキタナ)

ホワイトスネイクは一人ほくそ笑んだ。

キュルケが杖をラングラーに向け、ラングラーはJJFの照準をキュルケへと絞る。
先手を取ったのはラングラーだ。
最初にホワイトスネイクに放った数よりもさらに多い弾丸を、まとめてキュルケに撃ち放つ。

ドンドンドンドンドンドンドンッ!

それより一瞬遅れて、キュルケの杖の先から巨大な火球が放たれる。

ゴォッ!

刹那のうちに交錯する弾丸と火球。
打ち勝ったのは――

「あたしの『火』を甘く見ないことね」

キュルケの火球だ。
キュルケの火球は、ラングラーが放った弾丸を全て飲み込んでいた。

「あたしの『火』は、欲張りなのよ」

そして火球は、全く勢いを落とさずにラングラーに襲い掛かる。
まだ食い足りない、と言わんばかりに。
キュルケの「甘く見るな」はこのことだった。
彼女にとってこの程度の弾丸を溶かしつくすことなど、当たり前のことだったのだ。
学院随一の「火」の使い手、トライアングルメイジの「微熱」のキュルケは伊達ではない。

キュルケの火球がラングラーの目前に迫る。
もはやラングラーが骨のかけらも残さずに焼き尽くされるのは、眼に見えていた。
だがそのラングラーは焦り一つ見せずに、それに対処した。

「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」

火球がラングラーの体に触れる寸前で、ラングラーは自分のスタンドの名を呼んだ。
瞬間――

ドジュゥゥゥッ!

――火球は、溶けるように消滅してしまった。
ラングラーは黒コゲどころか、火傷一つ負わずに火球を防いで見せた。

「え、ええ!?」

驚きの声を上げるキュルケ。
だがそこに、ラングラーは容赦なく弾丸を撃ち込む。

ドンドンドンッ!

「しまっ……」

完全に虚を突かれた。
もはや炎で迎撃する余裕もない。
呪文を詠唱するうちにあの弾丸は自分の体を貫く。
やられた、とキュルケは思った。

万力のような力で肩を引っ掴まれたのはそれとほぼ同時だった。

バゴバゴッ!

それに続いて弾丸が何かに弾かれる音が響く。
そしてキュルケは声を上げる間もなく、廊下の方へと引っ張り込まれた。

「全ク、トンダ無謀ヲシテクレルナ」

最後に、ホワイトスネイクの遠慮の無い愚痴を浴びた。

(ダガ思惑通リニ戦力ヲ得ラレタノダカラ、良シトシヨウ)

そうホワイトスネイクは胸中で付け加えた。

ホワイトスネイクがラングラーのJJFとの戦いを有利に運ぶ上で、絶対に必要だったのが遠距離攻撃能力だった。
でなければラングラーに一方的に撃ちまくられるばかりになってしまう。
そのため、弾幕を張れる遠距離攻撃能力が必要だったのだ。
それによって決定打を与えることが目的ではない。
例え牽制程度であったとしても、それができれば大きな効果がある。
敵に警戒心を植え付けられるからだ。

(トハ言エ、私ノ口カラソレヲ頼ミ込ムツモリハナカッタ。
 私ニモプライドガアル。私ノ頭ハ小娘ニ下ゲラレルホド安クハ無イ)

そのためキュルケをこちらに引き入れる上で、ホワイトスネイクはルイズを誘導することを考えた。
あたかもルイズが行動した結果、キュルケがこちらを助けに入ったかのようにするためだ。

(結果的ニハコレガ一番良カッタノダ。
 ルイズヲ成長サセル、イイキッカケニモナルカラナ……)

そしてルイズは「爆発」でキュルケに危機を知らせる、という手段をとった。
その後キュルケが逃げることも一応考えられたが、ホワイトスネイクはそれはほぼ無い、と踏んでいた。
何故なら、ずっと観察していたからだ。
姿こそ現わさなかったが、決闘騒ぎからの一週間の間、
ルイズが見るものを全てホワイトスネイクは同じように見ていたのだ。
そしてその観察の結果ホワイトスネイクは、
キュルケがこういう状況でも逃げださない人間であると見立てていた。
元々「水族館」でプッチ神父のスタンドとして山ほどの囚人を見てきたホワイトスネイクだ。
各々の性格とそれに見合ったスタンドの選別もプッチ神父と行ってきた。
そういった人間観察とその精度は、彼らが選んできたスタンドを拒否したものが一人もいないことが証明する。
それぐらいにホワイトスネイクには、良くも悪くも「人を見る目」があった。
そして、キュルケはホワイトスネイクの思惑通りこちらを助けに入った。

自分は何もしていないように見せかけながら、その裏で全ての操り糸を握っている。
それは他人を信じていないということであり、また他人の心への侮辱でもある。
邪悪な行いとは、他人の心を踏みにじるところから始まるのだ。

「ホワイトスネイク、キュルケは!?」
「無事ダ。弾丸ハ叩キ落トシテヤッタサ。ツイデニ手土産モ一ツクレテヤッタ」

ホワイトスネイクはこともなげに言う。

「そ、そう……うまくいったなら、それでいいわ。でも」

そう言ってルイズはキュルケに向き直ると、

「ホワイトスネイクの言う通りよ! さっきの爆発はあんたを逃がそうと思ってやってあげたのに!」
「なんだ、そういうつもりの爆発だったの。だったらなおさらお断りだわ」
「何でよ!」
「ツェルプストーの女がヴァリエールの女に尻を叩かれて逃げるなんて、真っ平御免よ
 ……逆だったら大歓迎なんだけどね」
「な、ななななんですってえええ!?」
「それにあたし……」

そう言ってキュルケはホワイトスネイクの手を取ると、

「窮地に陥ったあなたを、放っておくことができなくて……」

うっとりした目つきでホワイトスネイクを見上げた。

「は、はあ!?」

ルイズは思わず頓狂な声を上げた。
キュルケはそれに構わず、さらに続ける。

「さっきのあなた……追い込まれてたのに全然あきらめてなかった。
 それどころか、絶対に逆転してやるって目をしてたわ……。
 あたしはそれにすごく魅かれたの。
 だから助けに入ったのよ?
 ……だけどあたし、あいつを倒せなくて……危うく死ぬところだったわ。
 そのあたしを、あなたは身を呈して守ってくれた……その時あたしは確信したわ。
 あなたはあたしの騎士(ナイト)なんだ、ってこと……」

もちろん上から三行目まではデッチ上げである。
事実、さっき追い込まれていたホワイトスネイクを見ても、キュルケはそんなことは思わなかった。
だがホワイトスネイクに身を呈して助けてもらったのをきっかけに、
そういったものが全部美化されたのだ。
ともかく、キュルケはホワイトスネイクにゾッコンになっていた。

「ソーカ。ソイツハヨカッタナ」

にも関わらずホワイトスネウクはキュルケの手を無下に振りほどき、

「ダガソイツハ後ニシロ」

そう言って、キュルケの額に軽くこつん、と拳を当てた。

「んもう、つれないのね」

キュルケは潤んだ瞳でホワイトスネイクを見つめるが、ホワイトスネイクの方は既にキュルケを見ていなかった。
キュルケに憧れる多くの美男子たちが見たら、激昂しそうな光景である。

「オイ、ルイズ。何シテル?」

ホワイトスネイクが、さっきからずっと口をぱくぱくさせていたルイズに声をかける。
だが返事はない。
必死に考えた末のアイディアで救出しようとした仇敵が、
逃げてくれるどころか戦いに参戦し始めた上勝手にピンチに陥ったところを助けたら、
今度はいきなり自分の使い魔を口説きはじめたのだ。
その心境たるや、察するに余りある。

「オイ、ルイズ?」

だがそんなことお構いなしのホワイトスネイクは、ぺちぺちとルイズの頬を叩いた。

「……あ、あぁ……え?」
「何ヲ呆ケテイルンダ。正気ヲ失ッテイラレルヨーナ状況ジャアナインダカラナ……ソコノトコロヲ自覚シロ」
「あ、ええ……そ、そうね……って、そうじゃないでしょ!」
「何ガ?」
「あんたじゃないわよ! キュルケ、あんたのことよ!」

キュルケが不思議そうな顔で聞き返す。

「そうよ! せっかく助けてあげたのに、ここ、こんな状況で、人の使い魔を、ゆ、誘惑するなんて!」
「しょうがないじゃない、好きになっちゃったんだもの」
「だからって!」
「二人トモ黙ッテロ」
「「へ?」」
「ラングラーガ動クラシイ」

いつの間にか壁の陰に移動して、室内を窺っているホワイトスネイクが静かに言った。

「なるほど……油断ならんのは、やはりヤツだな」

床に転がる一枚のDISCに目を落とし、ラングラーは呟いた。
ホワイトスネイクがキュルケを助けに入った一瞬に、投げ付けてきたものだ。
やはりヤツは侮れない。
それにこちらの策もいくらかは看破されているだろう。
自分が弾丸にツバを吐きつけていることは、ほぼ確実に。
そしてさっきの火球を防いだ仕掛けのタネも、真空のバリアーも、あるいは。

この真空のバリアーはこちらにきてから思い付いたものではない。
やろうと思えば元いた世界でもできた。
だが、あまりにも使えなさすぎたので全く使わなかった。
自分の回りの空気を無重力化して一瞬だけ真空のバリアーを作れたところで、
それて防げる攻撃をしてくるヤツなど一人もいなかったからだ。
しかしここでは違う。
真空のバリアーはどんなに強力な炎も、どんなに強力な熱も通さない。
真空では炎は燃えず、そして温度も伝えない。
炎に対してはまさに無敵の防御壁だったのだ。

だがホワイトスネイクは、それに対する自分の慢心さえ見抜いていた。
炎が効かないでいい気になっていた自分の油断をついて、完璧なタイミングで飛び出して攻撃してきた。
DISCはギリギリのところで防げたが、叩き落とす余裕は全く無かった。
それぐらいに完璧なタイミングを突かれたのだ。
やはりヤツは、ホワイトスネイクは油断ならない。

ならば、どうするか。
自分に出来ることはほとんど知っている。
何故かと言えば、答えは簡単だ。
自分のスタンド「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」はホワイトスネイクから貰ったスタンドだからだ。
つまり、ホワイトスネイクはJJFの元々の持ち主のスタンド使いと戦い、それに勝利している。
元々の持ち主は当然自分より上手くJJFを扱っただろうから、自分に出来ることは当然そいつにもできただろう。
つまり、こちらの手の内は割れている。
ならば、どうするか。
その答えも簡単だ。

ホワイトスネイクが対処しきれない攻撃をすればいい。
このJJFなら、それができる。
確信めいた自信とともに、ラングラーはJJFに腕を構えさせる。
そして計算を始める。
弾丸を発射する角度。
弾丸を反射させる場所。
その反射の角度。
それらを頭の中で試行錯誤し、弾丸の軌道を組み立てる。

そして、試し撃ちにかかる。

ドンドンドンッ!

軽く三発、部屋のドア枠に撃ち込んだ。

「う、撃ってきた!?」

ドア枠に当たった弾丸は微妙な角度で反射して廊下の壁に向かう。

「焦り過ぎよ、ルイズ。あんな風に撃ったって、ここにいるあたしたちにあたり筈が――」

さらに弾丸は廊下の壁を反射して、部屋と廊下を隔てる壁の、その廊下側――

ルイズたちがいる側に突っ込むッ!

「「え?」」

ほとんど反応できなかった二人をよそに、弾丸は二人の頭上僅か10センチほどの位置に着弾した。

「ほほ、ほら見なさいよ! もも、もうちょっとで、あ、当たってたわよ!?」
「ま、マグレでしょ? 弾丸を跳ね返らせて、それでこっちを狙うなんて、そんなこと……」
「残念ナガラ狙ッテキタノサ」

ホワイトスネイクが冷徹な声で言う。

「『跳弾』トイウ。障害物ニ微妙ナ角度デ弾丸ヲ撃チ込ムト、弾丸ガ反射シト軌道ガ変ワルノダ。
 撃タレル側トシテコレホド厄介ナモノハナイ。
 超高速デ向カッテクル弾丸ノ軌道ヲ正確ニ見切ッタ上デ、ソレヲ防ガナケレバナラナイノダカラナ……。
 コレニ関シテハ、私デモ完璧ニ防ゲルトハ言イ切レナイ」
「そ、そんなのやろうと思ってできるものなの!?」

ルイズが青い顔で聞く。

「練習次第ダガ、可能ナコトダ。
 ソシテ気ヲツケナケレバナラナイノハココカラダ……今ノハ恐ラク、タダノ試シ撃チダ」
「ってことは……」
「ソウダ」

「次カラハ確実ニ、殺スツモリデ撃ッテクル」


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