ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク 改訂版-11

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11話

「ホワイトスネイク……あいつ、一体何なの?」

恐る恐る、ルイズはホワイトスネイクの背中に聞いた。
今のホワイトスネイクはルイズの室内を身じろぎ一つせずに窺っている。
その片手にはDISCが一枚、その体は殺気に満ち溢れ、質問なんてとてもできた空気ではない。
それをひしひしと感じていながらもルイズが聞けたのは、
彼女の中に未だ潜む、本当の殺し合いを知らない「甘ったれ」の部分があったせいだろう。

「……ヤツノ名ハラング・ラングラー。
 カツテ『私がいた世界』ノ囚人デ、私ガ手下ニシテイタ男ダ」
「て、手下って、なんであんたが自分の手下に襲われてるのよ!
 手下だったら言うこと聞かせられるはずじゃないの!?」
「ヤツトノ契約ハトックノ昔ニ切レタ。
 ソレニヤツハ、別ノ人間ノ手下ニナッテルミタイダシナ……」
「別の人間?」
「ソウダ。ヤツニ自分ダケデ貴族ノ令嬢ヲ襲ウヨウナ甲斐性ナンカ無イ。
 ヤツハソレナリニ頭ガ切レルカラナ……ヨホドノバックアップガ無イ限リハ、コンナ真似ハシナイ」
「でもそんな……たとえどんなバックアップがあったって、ヴァリエール家の人間を襲うなんて……」
「御託ハ現実ヲ見テカラニシロ」
「ご、御託ですって!?」
「癇癪ヲ起コスノモ現実ヲ見タ後ダ」

むぅ~、と唸って抗議の意思を示すルイズだったが、
頭の冷静な部分ではホワイトスネイクの言うことは理解できていた。
理由がどうあれ、事実として襲われてしまっているのだからどうしようもないのだ。

「わ、わかったわよ……。それで、どうすればいいの?」
「ヤツノ攻撃手段ハ大キク分ケテ二種類。
 スタンド『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』ニヨル近距離攻撃。
 ソシテ無重力ヲ利用シタ遠心力ノ弾丸ニヨル遠距離攻撃ダ。
 前者ハソレナリノ破壊力ハアルガ近付カナイ限リ脅威デナイ。
 ダガ後者ハ……」
「ちょ、ちょっと待って!」
「何ダ?」
「な、何よ? さっき言った……じゃんぴん、じゃんぴん、じゃんぴん……」
「『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』ダ」
「そう、それ」
「一回デ覚エロ」
「うっさいわね! で、そのジャンピン何とか、ってのは何よ?」
「『スタンド』ダト言ッタダロウ」
「でも同じ種族なのに名前があんたと違うわよ」
「オ前ハ犬ト狼ヲ見テ両方トモ犬ダト言ウノカ?」
「……あ、そういうことね。トロールとかと一緒にして考えてたわ」

トロールが何なのかをホワイトスネイクが知ったらプッツンしかねないことを、平気な顔でルイズは言った。

「質問ハモウ無イナ?」
「まだあるわよ。『むじゅうりょく』って何? あと『えんしんりょく』とか」
「……コノ世界ノ科学ハ遅レテイルヨーダナ。
 分カラナケレバ魔法デ……イヤ、『呪い』デ弾丸ヲ飛バシテクルト考エロ」
「の、『呪い』?」
「ソウダ。一発デモ受ケレバ、アルイハ体ヲ掠メレバ10分以内ニ
 半径20メイルノ人間ヲ巻キ込ンデ死ヌ、トビキリ厄介ナ『呪い』ダ」
「な、何よそれ……そんなの私、一回だって聞いたことないわよ?」
「言ッタダロウ。元々ヤツハ『私がいた世界』ノ住人ダ。
 ソコカラ『呪い』ヲ持チ込ンダノダカラ、知ラナイノハ当然ダ」
「あ……そっか」
「今ノ説明デ分カッタダローガ、ココデ問題ニナルノハソノ『呪い』ダ」

いつになく深刻そうな声でホワイトスネイクは言った。

「『呪い』ハ弾丸ニ込メラレテイルモノダ。
 弾丸ヲ受ケレバ『呪い』モ受ケル。
 加エテ面倒ナコトニ、弾丸ダカラ物体ヲ貫通デキル……ドア程度ナラ、簡単ニナ」
「……まさか!」
「察シガイイナ、ルイズ。
 オ前ガ一発デモ弾丸ヲ受ケレバ、オ前ノ半径20メイル以内ノ生徒ハ全滅。
 オ前以外ノ他ノ誰カガ弾丸ヲ受ケテモ、ソイツノ半径20メイル以内ハ全滅ダ。
 ツマリコノ状況……スデニ我々ハ追イ詰メラレテイル」

そう言ってホワイトスネイクが顎をしゃくった先には――

「そういう、ことだったのね」

ルイズは思わず息をのんだ。
ホワイトスネイクが示したのは、キュルケの部屋のドアだ。
キュルケの部屋のドアはルイズの部屋のドアの真向かい。
つまり、まさに侵入者――ラングラーから丸見えの位置だ。
幸いにもラングラーはまだ弾丸を一発も撃っていない。
だがラングラーが一発でも弾丸を発射して、それがキュルケに掠りでもすれば……。

「ど、どうすればいいの?」
「ソレガ分カッテイレバ私ハコンナトコロデ縮コマッテイタリハシナイ。
 下手ニ飛ビ出シテ弾丸ヲ撃タレデモスレバ、ソレデ終ワリダカラナ……」
「でも、このまま待ってたって!」
「ソーダナ……イクラヤツガ用心深クタッテ、ソロソロ動キヲ見セナケレバ奴ノ方カラ動クダロウ。
 ヤツハ自分ノ状況ヲ作リ出サナイ限リハ決シテ動コウトハシナイシ、
 特ニ予期セヌ事態ニ対シテハ尚更用心深クナルガ……ソレニモ限界ガアルカラナ」

ホワイトスネイクの言葉に、ルイズは考え込む。
とにかくキュルケに弾丸が当たるようなことがあってはならない。
となると、キュルケを弾丸が当たらない場所に移動させること
――つまり部屋から逃げさせることが最優先となる。

だが、どうやってキュルケに危機を伝える?
下手に動けば逆にこちらが撃たれてしまう。
かといって、ラングラーにこちらがキュルケを逃がそうとしていることが知れれば、一気にこちらが不利になる。
ホワイトスネイクが自分とキュルケの二人を同時に守らなければならなくなるからだ。
だから、部屋の外から大声でキュルケに「逃げろ」と言う選択肢はない。

一体どうすればいいのか、ルイズには分からなかった。
しかし、迷っている時間もない。
今すぐにでもラングラーは行動を始めるかもしれないのだ。
いくら用心深くて、こっちを警戒してるからといっても……。

そこで、ルイズの考えが立ち止まった。
何故ラングラーはこっちを警戒しているのか?
それはホワイトスネイクがラングラーに対して先手を打ったからだ。
さっきホワイトスネイクは言った。
『ヤツハ自分ノ状況ヲ作リ出サナイ限リハ決シテ動コウトハシナイシ、
 特ニ予期セヌ事態ニ対シテハ尚更用心深クナル』
あの時、「風もないのに揺れるカーテン」を見ただけでホワイトスネイクはすべてを看破した。
そして奇襲をかけたのだ。
それはラングラーにとって大きなショックを与えたに違いない。
だからきっとラングラーは再び奇襲を受けることを恐れているのだ。
ラングラーが警戒しているのは、「再び予期せぬ攻撃を受けること」だ。
つまり、ラングラーが予期していない手段ならば、ラングラーは動かない。

ならば、ラングラーが予期していない手段とは何だ?
ラングラーが予期「できない」手段とは何だ?
ラングラーは一体いつからこの世界にいるのだろう?
ラングラーはどれだけのものを見てきたのだろう?
その上でラングラーが見ていないものは? ラングラーが知らないものは?
考えろ、考えろ……。

あった。
これしかない。
ラングラーが絶対に知らないもの。
その上で、自分の手元にあるもの。
これ以外にはあり得ない。

それは「爆発」だ。
ルイズの失敗魔法による、強力な爆発。
これならラングラーの射線に入らずにキュルケの部屋のドアを叩ける。いや、吹っ飛ばせる。
それに古今東西探しても、失敗魔法が爆発になるなんてメイジは自分以外にいるはずがない。
ラングラーにとってもまったく予期できないものに違いない。

だが問題はある。
爆発でキュルケの部屋を吹き飛ばして、それでキュルケに対する「逃げろ」というメッセージになるだろうか?
ちゃんとこちらの意図通りに逃げてくれれば問題ない。
だが、そうでなければ――
例えば部屋のドアを吹き飛ばした相手をすぐにでも叩きのめそうとする行動に出たならば、
確実にラングラーに撃たれるだろう。

だがやるしかない。
迷ってる時間はないのだ。
これしか手段がないなら、もうこれをやるしかない。

ルイズは心の中で踏ん切りをつけると、静かに杖を抜いた。
そして、それをドアに向け、詠唱する。
ラングラーに聞かれてしまわないように、小さな声で。
しかし、力強い声で唱え、

「ファイア・ボール」

ドッグォォォオオオオン!!

ドアを吹っ飛ばしたッ!

一拍遅れて、爆風が巻き起こる。
その埃混じりの強風に思わずルイズは目を瞑る。
瞑ってからすぐにしまったと思い、眼を開けると、眼前にはルイズを庇うようにホワイトスネイクの腕があった。

「ルイズニシテハ、機転ガ利イタモノダ」

そう言うホワイトスネイクの眼は、僅かにルイズに向けられていた。
それを見てルイズはふふん、と笑い、

「当然よ。だって私、あんたのご主人さまなんだもの」
「ヨク言ウ」

それにホワイトスネイクは軽口で答えて、キュルケの部屋に目をやった。
ドアがあった場所はもくもくと黒煙を上げており、まだ何かがくすぶっているようだった。

(勝負はここから……。お願い、キュルケ! 気づいて!)

そして一方、

「な、何だと!?」

驚いたのはラングラーである。
向かい側の部屋のドアが突然吹っ飛ばされたのだ。

(ば、爆発だと? 一体何が起きた?
 火種なんぞ、あそこにはなかったはずだ!
 設置する余裕だってある訳がない……。
 ホワイトスネイクの能力か? ヤツがまた何かやりやがったのか?)

これが爆発でなかったのなら、ラングラーは真っ先に「ドアが吹っ飛ばされた理由」を考えただろう。
しかし、今のルイズの爆発はあまりにも予想外すぎた。
この世界特有の「魔法」という存在にも、傭兵稼業を続ける中で幾度となく触れてきた。
だから分かる。
こんなことができる魔法は、存在しない。
その一方で科学文明溢れる世界からこの世界に飛ばされた男だからこそ、
この世界の科学の遅れっぷりは十分に分かっていた。
だからこそ分かる。
この世界の科学では、今の爆発は起こせない。

ならば一体何が爆発を起こしたのか?
あの爆発は威力はそこまでないだろう。
昔テレビで見た手りゅう弾の爆発の何分の一程か、とラングラーは推測した。
だから爆発そのものは怖くない。
怖いのはその爆発がいつ起こるか、だ。
戦いの流れは何でもないようなことでも修復不可能なほどに変わってしまう。
かつて空条徐倫に敗れたときもそうだった。
だから正体を突き止めようとせずにはいられない。
根拠もなしにホワイトスネイクを疑ったのもそのためだ。

かくしてラングラーはルイズの爆発に対して恐怖を覚えた。
爆発の威力にではなく、その正体の知れなさ、いわば「未知」であることに。
そしてこのことが、ルイズとホワイトスネイクに「一手」与えることとなる。


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