ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの兄貴-50

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
沈みかける太陽をバックに何時ものようにシルフィードが進んでいる。
ただ、何時もと違うのは二人ほど余分に……元ギャングと現役盗賊が乗り込んでいる事である。
タバサは相変わらず本に視線を落とし、他二人はやる事も無いので……適当にしている。
しばらく何事も無かったが唐突にかつ盛大に『ぐぎゅるぅぅぅぅ』という音がした。

「……予想は付くが、一応聞いてやる。こいつは何の音だ」
地の底の亡者の声もとやかくというか、今居る下の方から聞こえてきたのだ。九割九分あの音だろう。
「おねえさま、おにいさま、シルフィはおなかがすいたのね。きゅいきゅい!」
予想的中。シルフィードの腹の虫が盛大に抗議声明文を発表したようだ。

なおも喚きたてるシルフィードにようやくタバサが本から目を少しだけ離すと
あらかじめ用意してあったのか、なにやら妙な形の塊をシルフィード口目掛け放り投げた。
シルイフィードがパクリとそれを飲み込むと全身が揺れる。
「ッ!……っぶねぇな。落とされんのはゴメンだぜ、オレはよ」
ヴェネツィア超特急ですら本来なら致命傷のはずだったのに
ここから落とされれば、怪しい中国人に言われなくともまず間違いなく死亡確認である。
無論、そんな事知らないシルフィードは気にせず騒いでいるのだが。

「お肉かと思ったのに騙されたぁ~~~!偽物なのね!紛い物なのね!おねえさま酷いのね!」
べっ!と口の中からモノを前足で器用に取り出すと本を読んでいるタバサの前に突き出す。
しかしながら、御主人から帰ってきた言葉は淡々かつ簡潔なものだった。
「食べられる」
「でも、まずいのね!おいしいわけがないの!お肉の味はするけど、お肉じゃない!偽物なのね!」
「それって確か、最近出回ってる魔法で肉の味を付けたっていうやつじゃあなかったっけ」
「……マジでなんでもあんな」
モノを見てフーケがそう言ったが、魔法が生活面にそこまで直結してる事に本気で呆れてきた。
「やっぱり偽物だったのね!おねえさまもおにいさまも食べてみれば分かるのね!」

……それはひょっとしてギャグで言ってるのか?

一応、さっきまでシルフィードの口の中に入っていたモノであり
つまりは、結構ッ!そのモノはシルフィードの涎でベトベトだァ!なわけで美味い不味い以前の問題である。
「おい……オメー食ってみろ」
「……わ…わたしが…?……か…い…今まで、こいつの口の中に入ってモノを?絶対にイヤ!おにいさまが食べてやりゃあいいじゃあないか!」
「オレだって嫌に決まってるだろーが」
そうキッパリと言い放つが相変わらずだ。
「さっきもそうだったけど自分が嫌なものを人にやらせるなッ!どおーゆー性格してんのさあんたはッ!」
泣きそうなフーケと平然としたプロシュートを背景に、タバサがモノを少し千切って食べた。

「食べられる」
それでも淡々としたタバサに抗議を続けているが、なしのつぶて、ぬかに釘、のれんに袖押し、という具合に全く手応えが無いようだ。
「食べる、食べられないとかいう問題じゃなくて
 シルフィは美食家なのね!主人は使い魔の食べ物に責任を持つべし。使い魔として当然の権利を要求するのね!」
そのやり取りを見て、どーもどっかで知ったような情報だと思ったが、ブチャラティチームの略歴とスタンド情報を見ていた時だと気付いた。
確か、ミスタのピストルズが飯食わさないと働かないとかいう記述があったはずだ。
特に戦闘に直結しない事項だったので、さして気にも留めなかったのだが、今頃思い出した。
「む!おねえさま。風韻竜はあそこに街を発見
 尖塔とか寺院とかあってなかなか素敵な街なのね。という事は、素敵な街には素敵な名物があるのが常識なのね~~」
「時間とお金が無い」

不味くなけりゃあ特に何でもいいプロシュートとてイタリア人である。
イタリアと言えばご存知イタ飯で有名な土地であり美味い物など、それこそ星の数ほどあるのだ。
だからまぁ、シルフィードの言わんとする事も分からんでもないし、相応の仕事をさせるには相応の対価が必要だという事は何より自分が一番知っている。
「ピストルズかオメーは。だがまぁ、連中みてーに途中で働かなくなるってのもオレが困る。食った分はキッチリ働けよ」
「きゅい!?さすがおにいさまなのね!そこの本の虫娘とは大違いなの。シルフィおにいさまの使い魔になりたかったのね!」

「あまり甘やかすと後で色々と困る」
そうタバサが言ってきたが、当のプロシュートは涼しい顔で返した。
「……アメと鞭って言葉知ってるか?」
(こいつ、一体どんな無茶な事させるつもりだろう……)
アメと鞭。言い換えるなら貸しがシルフィードに出来たという事で一体何倍にして返すハメになるだろうかと理解したフーケが少し同情した。
まぁ自分も同じような状況にあるのだが。
もっとも、悲しい事に今のところアメは無く鞭のみで負債を返し続けているような状況だ。

あっれあれー?それってもしかして今のわたしって韻竜といっても畜生以下の扱い?
おっかしいなぁ……なんだか目から水が出てきたや。ハハハハ……

ますますダークサイドへ突っ走っしっているが、今ならばどこかで犬と呼ばれている少年と一発で仲良くなれるだろう。
なにせ、今のところ報酬は『取られるはずの自分の年』であり、他は何も無い。
一度ならず二度までも攻撃を仕掛けたというツケの代償が高く付いた結果なので残念な事に中途解約もできないのである。

魔法学院に盗みに入った結果がこれだよ!!!

まんじゅうのようなナマモノがそう叫んだような気がしたが、たぶんいつもの幻聴だ。

もういっその事『ヘヴン状態!』とでも叫びながら現実から逃げたくなってきたのだが、そんな事をやらかせば間違いなく周りから『少し可哀想な人』という称号を頂いてしまうし、まだそこまで堕ちたくはないのだ。
それに短い間だが、一つだけ確実に分かった事があった。
こいつは全体的に他の人間を、特に年下を自分より下に見る傾向がある。
見下すとかそういうのではなく、ただ単に実力や精神的覚悟が足りてねーと思っている節が見てとれる。
こういう奴と対等な立場になるには一つしかない。
実戦やらで実力を認めさせるか、タイマン張って互角以上の勝負をするとかそういうやつだ。
後、一度敵と判断すれば誰であろうとものスゴク容赦ない。おまけにドSだ。それも自覚が無いという一番性質の悪いやつの。
その割りに、案外甘いというか面倒見が良いところがあるから分からないもんである。
まぁそれが元敵である自分に一片の欠片も向けられていない事に、この先精神的に無事にアルビオンまで戻れるかとメチャ不安ではあるのだが。

「おい、なに縮こまってやがる」
上の方から聞こえてくるやたら高圧的な声がしたが、どうやら無意識のうちに膝を折り曲げ顔を埋めた、いわゆる体育座りのポージングになっていたらしい。
その声にギギギと錆付いた機械のような音が鳴らんばかりにゆっくりと首を上に向け口を開いた。
「……一体誰のおかけでこうなってると思ってるのさ」
「少なくともオレじゃねーな」
やっぱ自覚無しかこいつ……半分死んだ目でプロシュートを見たが、恐らく文句を言ったところで『てめーの自業自得だろボケ』で済まされてしまう。
そう確実!オスマンがセクハラをするぐらい確実!
そんな分かりきった事に労力を使うぐらいならまだ言わない方が遥かにマシだ。少なくとも現状より状況が悪くなる事は無い。    ……きっと。
最高と最悪という言葉があるが、この二つはかなり違う。
フーケ自身、最高にはある程度上限はあるが、最悪という状況に際限は無いという結論に達していた。
というのも、ほんの半年前までは『土くれのフーケ』としてハルケギニア中の貴族から恐れられていた大盗賊だったのである。
それがこいつに捕まった上に二目と見れないような姿にされ、ワルドに半強制的にレコン・キスタへ入れられ、挙句またこいつに捕まった。某連邦の外部組織のエリート中尉も真っ青な転落っぷりだ。
クロムウェルの事があるから一応自主的に協力する事にはなったが、もう少し待遇というか扱いを良くしてもらいたい。元敵とはいえせめて人並みに……。

また少し丸まっていると、後ろから首根っこを掴まれブン投げられた。
「へ……?いや、ちょっとここ竜の上……」
やっぱり始末する気か。いやこいつの事だから『オメーら空飛べるんだから問題ねーだろ』ぐらいにしか思ってないのか。
メイジだって急にこんな事されれば対応できないんだぞー。このドグサレがァァァァァァァ!!
と0.5秒の間にそんな走馬灯めいた事を一気に考えたが、予想より遥かに早く、そして柔らかい衝撃を受けて落下が止まった。

「呆けてねーで早く降りろ」
その言葉に辺りを見回したが、どうやらシルフィードはとっくに地面に降りていたらしい。
「……だからって投げることないじゃないか」
「草の上なだけマシだろーが。それとも土くれだけあって堅い地面のが好みか?」
「そりゃどうもありがとよ」
消耗しない…こいつはこういう奴なんだからマチルダお姉さんはこの程度で消耗しない……。
この程度の事で消耗していたら、そのうち何も無いのに定期的に血反吐とか吐く羽目になる。
中の自分にそう言い聞かせながら、少々力なく立ち上がり身体に付いた草を払っていると後ろから呪文が聞こえてきた。

『我を纏いし風よ。我の姿を変えよ』
例によってシルフィードの周りを青いつむじ風がまとわりつくとその姿を人間へと変えた。

「それが先住魔法ってやつか。さすがのわたしも生で見るのは初めてだね」
「この際だから説明するけど、わたし達は先住なんて呼び方はしないのね。精霊の力をちょっと借りてるだけなんだから」
そう説明しながら相変わらずすっぱだか状態でふらふらしているシルフィードを見て一つ気付いた。
「……って事は、あんたのも精霊とかの力を借りてるって事?」
となれば、さし当たって生命を操る水の精霊あたりかと検討を付けたが、もちろん違う。
「どっちかっつーと、オレ自身から力を引っ張り出してるっつった方がいいな。兎に角、別モンだ」
「あんなえげつない能力持った理由が今分かったよ」
理屈は分からないが、こいつの性格なら生物を無差別に老化させるような洒落にならない能力が付いても不思議ないととりあえず納得しておく。

「オメーらも頭にあの矢でもブッ刺せばスタンドが出るかもしれねーな」
まぁ別に頭でなくてもいいが、サバスが掴んで刺してきた印象が強いのだからそう言ったが、聞いた方は何やら誤解を強めたようだ。
「……頭に……矢……?」
ああ、そーか。人間じゃないのかこいつ。そりゃあ、あんな妙な能力持ってるわけだ。
やっぱり正真正銘の悪魔だ。人の皮を被った悪魔っていうし。
「聞こえてんぞ、てめー」
そりゃあ悪魔とかの類じゃなけりゃあ人を老化させるような能力が……聞こえてぇ!?

どーやら、衝撃というか驚きが大きすぎて頭の中だけにおさまらずに声に出ていたらしく、一気に血の気が引いてフーケの顔が思いっきり青くなった。
「……い、一応聞くけど、どの辺りから?」
「人間じゃねぇとかその辺りだ」
ok。完璧に弁解の余地無し。思いっきり最初から聞かれていたようである。

そこで問題だ!
このゴイスーなデンジャーが迫っているマチルダはどうやってこのピンチを切り抜けるか?

答え①-美人怪盗フーケは突如スクウェアクラスに進化する
答え②-そこのタバサかシルフィードが助けてくれる
答え③-老化する、現実は非情である

わたしがマルをつけたいのは答え②だが期待は出来ない…
本にしか興味なさそーなタバサと食べ物の事にしか興味ないようなアホ竜は正直なところ助けになりそうにない……
となれば①を選びたいが何かの弾みでスクウェアになったとしても、こいつの力に敵うとは思えない……

で、一方のプロシュートの方は、さすがに人外扱いされるのも何なので『これでも、まだ人間だ』と言おうとしたが、全員そうだったから気にしないでいただけで、普通ならそれだけで死ぬなと思い直し、一応説明はする事にした。

「……あー悪ぃ。矢ってのは、こっちで言うマジックアイテムみたいなもんだ。っておい」
フーケの様子が何やらおかしい。目を明後日の方向に向け同じ事をブツブツと言っている。
「答え③、答え③、答え③……」
答え③と古くなったテープレコーダーのように小さく繰り返す姿を見たが、アルビオンに行ってもいないのに、まだこんな所で壊れてもらっては困る。
めんどくさそーに息を吐くと懐からある物を取り出し、それをフーケの顔の横まで持っていくと街外れの森に大きな音が響いた。

「~~~~○XX▲▽○ッ!?」
耳を押さえながら理解不能な言葉をわめいているが、鼓膜まで破れていないから大丈夫だろう。             たぶん。
「目ぇ覚めたか」
「……いつつ……雷が横に落ちた気分だ。というかなんでそんなモン持ってるのさ」
手に持ってる『銃』を見てそう言ったが答えは至極簡単だ。
「そりゃあギったからな」
それでフーケも理解した。銃士隊の装備だこれ。銃身にトリステインの紋章入ってるし。
盗られた方は今頃大慌てというやつだろうが、知ったこっちゃあない。例によって盗られた方が間抜けなのである。

「ま……弾も火薬もねーし、第一込め方なんて知らねぇから、今撃ったやつで最後だがよ」
「じゃあ、あんな事で撃つ事ないじゃないか」
一発しか撃てない以上もっともだが、それは撃つ方がただの平民とかである場合だ。この場合根底から使い方が異なる。
「分からねーか?」
「?」
分かっていないようなので、そのまま銃口を額に突きつける。まぁつまりそういう事だ。
「見えねースタンドと、見える銃。脅しに使うならどっちがいいか分かんだろ?」
わたしからすればどっちも変わらない。てか、まだ誰か脅す気かお前。と言いたげだが
スタンドの事を知らないヤツからすれば銃の方に注意がいく。
武器として使う気はあまり無いが、牽制か脅しとして割り切れば十分利用価値はあるとしてアニエスから拝借してきたのだ。もちろん無断で。
後、新式だけあって売れば金になる。

「んで、矢ってのは普通の矢じゃあねーぞ。そいつを刺すとスタンド、オレが持ってるような能力が身に付く」
それを聞いた瞬間久々にフーケの目が光った。
こいつの言う『スタンド』とやらが刺すだけに手に入る、いわば魔法の矢。売るにしろ使うにしろ土くれとしては聞き逃せるものではない。

しばらくアレやらコレやらと考え少々顔がニヤけていたのか、横の方から呆れ半分の声で突っ込みが入ってきた。
「なに考えてるか大体想像付くが……死ぬかスタンド能力が付くかだからな。万が一見つけて使うってんなら遺書ぐらい残しとけよ」
「つまり?」
「矢に選ばれなかったヤツってのは確実に死ぬんだとよ。オレもあん時の事はあまり思い出したくねーな」
パッショーネ恒例の入団試験だが、見えないサバスに掴まれて矢を思いっきり刺されるのである。さすがに回想したいものではないわけだ。
「はぁ……そんなロクでもないモンよく使う気になったって感心するよ」
「知っててやったわけじゃあねー」
ライターの火を消して再点火するとポルポのスタンドが発動するなど、知らなければ今でも再点火しそうなのにスタンドの事すら知らなかった、まして入団が掛かっていた当時の場合はどうするかなぞ推して知るべしかなというところだ。
大体、あのド畜生が自殺したなどとは今でも信じられない。
名前が示すとおり、自分の手足喰ってでも生き残るようなヤツだと思っていたのだが。
あの面と体でナイーブとかふざけた事ぬかすなら、恐竜の絶滅原因は神経衰弱かPTSDだ。

そんな事を考えていると、後ろから急かすようなわめき声がしてくる。
「そんな事どうでもいいから、早くご飯を食べに行くのね!」
いつの間にやら服を着たシルフィードに腕を思いっきり引っ張られた。
一方のタバサはというと、座って本を読んでいる。
正直、見た目の年齢と精神年齢が全く逆である。
だがまぁ確かにあるかどうかすら知れない矢の事なぞどうでもいい事だ。
もちろん、メイジ兼スタンド使いなんぞが量産されては洒落にもならないから無い方がいいのだが。
とにかく、さっさと飯食ってクソくだらねー任務終わらせる方が先だ。よくよく考えたら戦闘の後始末やらで飯食ってない。

片手で回していた銃を懐に仕舞うと、まだ座り込んでいるフーケを片手で引っ張り上げた。
「お前らの方が詳しそうだからな。内容は任せる。………オメーはいつまでも本読んでんじゃあねーよ」
その言葉にきゅいきゅいと頷くシルフィードを見てタバサもやっとこさ本を閉じて立ち上がったが臨時北花壇チーム、現在四名。
その内訳、常時強気な元ギャング。食べ物に目が無く、この前ご主人に『脳が足りてないとまで言わないけど近い』と言われた伝説の韻竜
苦労人属性と不幸属性が付きはじめてきた現役盗賊、本ばかり読んでいて何考えてるんだかよく分からない正規隊員。
内容だけ見ると暗殺チームにも負けないぐらい個性的な面子揃いだが、プロシュートからすれば冗談じゃねー。という面子である。
暗殺チームの時はリゾットが仕切っていてくれていたからまだ良かったが
こと戦闘以外に関しては他の連中があの具合なので自分で仕切らねばならないのだ。
戦闘になればそれぞれそれなりの実力があるんだから楽でいいんだが、まぁ全部順調に進めば苦労なんぞ起きないだろう。

にしても、あん時のミスタの拳銃捨てんじゃあなかったな。とかマジに思っているときゅいきゅいと声が聞こえてきた。
「ここね!このお店がこの街で一番良い匂いがするのね!」
その声で顔を上げたがシルフィードが一軒の酒場を指差している。
色々考えてるうちに街の中まで入っていたらしい。
シルフィードを先頭にして残りも店の中に入っていったが
「ボロいな」
「ボロいね」
「ボロい」
ものの見事に三人揃えて同じ感想を叩き出した。

実際、木でできた粗末なテーブルと奥にカウンターがあるぐらいでボロいと言われても仕方が無いが言われた方はたまったもんではない。
口を揃えてボロいと酷評してきた三人を見て太った中年の店主が思いっきり眉をひそめた。
「旦那、うちの店が上品な店じゃないって事ぐらいは知ってますがね。冷やかしなら別の店行ってくださいや」
「悪りーな、口が悪いのは生まれつきだからよ。客だ」
口だけじゃなくて性格も悪いだろーが。と後ろの方で一人そう思ったが決して口には出さない。だってそれが世渡りというものだと思うから。
まだ機嫌悪そうな店主だったが、タバサの杖と五芒星を見て一気に態度を変えた。
「貴族のお客様ですかい。これはボロいと言われても仕方ありませんや。お付の方も空いてる席におかけください」
というより、他三人をタバサの付き人か何かと判断したようである。
お付と言われて少々サバイバーな気分になったが、ここで騒ぎを起こしても一文にもなりゃあしないし
確かに貴族でもメイジでもなんでもありゃあしないのだからそう見られても仕方ない。価値観の違いとして処理する事にした。
フーケもメイジだがタバサみたいにデカい杖じゃあないのでお付扱いだが気にしていないらしい。


店主が料理を運んでくると、まずシルフィードがガッつき始めた。
タバサもそれに続いたが、早い。なんでこんなに喰うやつがこんなに小さいのか。
こいつでこの小ささならポルポはもっとデケーぞ。と思わざるを得ない。
「食ってるとこ悪いんだが本題だ。そのタマゴってのはどういう場所にあるんだ?」
料理いう名の要塞から早々に撤退し酒の攻略を開始したプロシュートがそう質問したが期待した答えは返ってこない。
「ほふはくひょうほはまほは、はひゅうはんはふ。ひはふふははんひはふほへ」
「食うか喋るかどっちかにしろよてめー」
「……………」
と、シルフィードが料理を優先させたためである。タバサも似たようなもので次々と料理を始末していっている。
フーケの方も己を失わない程度に酒を飲んでいるため、まぁ折角の休息だという事でもう少し時間を置くことにした。

「で、場所は」
「極楽鳥のタマゴは、火竜山脈。いわゆる火山にあるのね」
ワインの瓶を三本空けた頃ようやく料理攻略作戦が一段落付いたので再度質問したが、厄介な場所だという事が理解できた。
「そりゃあ、無理だな」
「おにいさまの言うとおりなのね。おねえさまは竜族の恐ろしさが分かってないの」
「こいつじゃあ、んな場所に行きたくねーわ。ったく……代わり探さねーとな」
「きゅい?代わりって他に誰かいるのね?」
「誰?服の事に決まってんだろーが」
そう言った瞬間、シルフィードが盛大に顔をまだ残っている料理の中へと突っ込んだ。
だが、そのまま何か食っているので大丈夫だろう。

「確か極楽鳥の巣って火竜の巣にも近いんじゃあなかったけか」
そのフーケの問いにタバサが頷くが、その横のシルフィードはいつの間にか空になった皿に顔を埋め泣きそうな声で文句を垂れている。
「あまり行きたくねーがな。火山ならオレの得意戦場だ。射程外から攻撃されない限りどうでもなるだろ」
「きゅい!あの力を使うのね?」
四本目のワインのコルクをスタンドで捻り取り瓶のまま飲みつつそう言うと、シルフィードが少々汚れた顔を上げたが、まだ途中だ。
「ただし、オメーらも巻き添え食って死んでもいいっつーんならな」
火山帯というからには外気温は相当なはずだ。恐らく氷で体を冷やす間もなく即死確定である。
「もう、おにいさまったらシルフィ達も巻き込むなんて冗談が過ぎるのね」
シルフィードは笑って流したが、横のフーケは気が気ではない。
(本気の眼だ………!)
さっきまで体の中に入っていたアルコールはどこへブッ飛んだのやら一気に冷や汗が背中を伝う。
こいつ、場所を火竜山脈に限定すれば弱点が無い。
なにせ歩いているだけで半径200メイルの生物は全て枯れ木のように朽ち果て死に絶える危険物へと成り果てるのである。
放っておけばハルケギニアから火竜が居なくなる可能性の方が高いし、そんな爆弾の横に居るのは御免被りたい。

その対照的な二人を余所に今まで黙っていたタバサが口を開いた。
「その作戦は使えない」
「理由は何だ?」
「目的はあくまでタマゴ。タマゴまで壊したら意味が無い」
どういう事かと少し考えたが、答えを見つけて指を鳴らした。
「オレの能力、ザ・グレイトフル・デッドは無差別に生物を老化させる。動物だろーが、植物だろーが……例え卵だろーが、って事か」
「そう」
タバサは短く答えたが、プロシュートからすれば予想外である。
まぁ、卵なぞ進んで老化させようとした事もないしやろうと思った事もない。巻き込んだとしても気に留めた事すらないからだ。
殻に覆われた卵とて中身は不完全ながら生物である。老化する可能性の方が高い。
「確かにな。ブツを見つけてもそいつが化石になってたんじゃあ洒落にもならねぇ」
少なくとも極楽鳥の巣付近での能力発動は限定されるという事だ。
直で対処するか離れたとこまで敵を引っ張るしかなくなり、予測難易度が一気に跳ね上がった。
たまには能力全開でやらせて欲しいものだが、どうやら始祖ブリミルというのはスタンド使いには優しくないらしい。
もっとも、それを言うならローマの世界三大宗教の内の一つである神様も彼ら暗殺チームには優しくはなかったのだが。

「気付いたか?」
「そりゃあね」
突如プロシュートが小声でフーケに話しかける。
何に気付いたかというと、こちらへの視線である。
一瞬、フーケに感付いた賞金稼ぎかなにかと思ったが、視線の質が明らかに違う。
視線の元を辿ると、隅の方で一人座っていた老婆が思いっきりこっちを見ていた。
「……絶対目ぇ合わすんじゃあねーぞ」
「いぇっさー」
軽い返事だがフーケも目を合わせるとロクな事にならない事ぐらい理解できる。
色んな人間を見てきた二人だから分かるが、あれは『自分の力ではどうしようもなくなり他人にすがるしかない』という人間の目である。
目を合わせた瞬間形振り構わず厄介事を持ち込んでくる、ある意味捨て身の人種だ。
正直、こういうヤツが一番怖い。保身を考えずに動く人間は怖い物知らずだから、この場合相手が誰だろーとダメ元で頼み込むに違いない。

早急に撤退するべく勘定を済ませるべく店主を呼ぼうとしたが、何も知らないというか能天気なシルフィードが明るい声で言った。
「そこのお婆さん、さっきからこっち見てどうしたのね?お腹がすいてるのなら一緒に食べるのね。きゅい」
その声に反応したのか、老婆がよろよろとこっちのテーブルに近づいてくると、タバサの足元にひざまづいた。
「違います、違います、わたしは物乞いではありませんのじゃ。騎士様をこれと見込んで、お頼みしたい事がありますのじゃ」
もうスデに直触りを食らったような姿で泣きながら訴える老婆だったが、大人二人からすれば老婆の姿をした厄病神に他ならない。

「クソ……ッ!言わんこっちゃあねー」
「ごめん!……ってわたしのせいじゃあない!」
小声とアイコンタクトでそんな会話をする二人をよそに老婆がなおも泣きながら足元で泣いている。
そうしていると、店の奥から店主が出てきて、老婆の肩を掴んだ。
「商売の邪魔だ!余所でやってくれ!」
ベネ。そのまま摘み出せ。という期待を抱いていたが、そこに割り込むようにしてタバサの長い杖が入ってきた。
「騎士様?」
「かまわない」
タバサがそう言った瞬間、プロシュートもこの事に関しては諦めた。
事実上の移動手段はシルフィードのみであり、移動の決定権はタバサにあるためだ。
物なら最悪『ころしてでも うばいとる』が可能だが、シルフィードは生物であり高度な知能を持っている。
少しだけベイビィ・フェイスの息子の教育に苦労しているメローネの気持ちが分かったかもしれない。
「ったく……厄日だ」
そんな呟きを無視してタバサが老婆を促すと事の顛末を涙声で話し始めた。

「ミノタウロスねぇ」
「牛の化けモンだったけか?大昔だが、オレんとこもいたらしいな」
東地中海にある小さな島。クレタ島のミノタウロスの迷宮と言えば有名どころだ。
とにかく話を纏めると、十年ぐらい前にもミノタウロスが住み着いたが、その時は今と同じように旅の騎士に頼んで退治して貰った。
今回は領主に訴えたが、この界隈で子供の誘拐事件が流行っているらしく
エズレ村の事に構っている暇が無いようで十年前と同じように頼みまわっている……という事だ。

頼むほうはいいだろうが、頼まれた方からすれば厄介事以外の何物でもない。
第一、最良の解決策がある。
「んなもん、逃げりゃあいいだろーが。話聞く限り何もねーとこだろ?化けモン以前に村捨てた方が身のためってもんだ」
超現実的な意見にタバサと老婆を除いた全員が同意するかのように首を縦に振っている。
その様子に絶望したのか、遂に老婆が泣き始めた。
「あの罰当たりな怪物は、最初の生贄にわたしの孫娘のジジを選んだのでございます……」
搾り出すようにそう言うとさらに大きな声で泣き始めた。
切れ切れにミノタウロスがわざわざ指名してきたからには村を捨てても狙われると言っているようで、村を捨てる気は無いようだ。
にしても、よくもまぁ直食らったような体でこれだけ泣けるモンだと感心したが、そう感心してばかりもいられない。
第一、こっちにも用がある以上は構ってられない。
何考えてるか知らないが、そのぐらいタバサも理解しているはずだと思ったが、どうも今日は予想が裏目裏目に出る日らしい。

唐突にタバサが立ち上がると「どこ?」と呟くと老婆を促し歩き出したからだ。
もちろん、シルフィードはきゅいきゅいとわめいて止めようとしているが、一度決断したタバサは断念する気配は無い。
「お、おねえさま!ダメなのね!風使いには危険な相手なのね!ああ、もう!二人とも説得して欲しいのね」
「なっちまったモンは仕方ねー」
「きゅい!?」
「わたしに決定権は無いから無理だね」
「きゅいきゅい!?」
完全に諦めたのか、金を机の上に置くとプロシュートとフーケも同時に席を立ち上がっている。

「どうせ修行とでも考えてるんだろうが……その、何だ。ミノ……モンタだったか?」
「タウロス」
一瞬『奥さん!』と声高らかに叫ぶミノタウロスの姿がその場に現れたが気のせいだ。
「ああ、ミノタウロスってのは火竜より強いのか?」
「それは……火竜のブレスはミノタウロスも一瞬で灰にするぐらいの威力があるのね」
「ってぇ事はだ。牛程度に手間取るようじゃあ火竜山脈なんぞの攻略は無理ってこった」
「まぁそうだね。諦めなよ」
まだ不安なのか色々言いたそうだったが、プロシュートが一つ提案を出してきた。
「少なくとも、オメーらが危なくなったらどうにかしてやるよ。この際だ、条件としてそうなったら先にアルビオンに飛んでもらうぜ」
無差別老化という能力の持ち主と、土のエキスパートであり三十メイル級のゴーレムを造りだせるフーケ。
この二人がいれば、少なくとも命はなんとかなる。そう思いシルフィードもタバサを追いエズレ村に向かい始めた。

臨時北花壇ご一行――本人の知らない所でタバサだけで倒せるか倒せないかのミノタウロス討伐賭けゲーム発生。


戻る<         目次         続く

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー