ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-89

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匿名ユーザー

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使命ではない、これは私怨だ。
胴を薙ぐ一閃を目にした瞬間、それに気付いた。
何故ここまでバオーに拘るのか、僕は初めて理解した。
虚無の力を手に入れるのに邪魔だからというのは建前に過ぎない。

奴の存在が許せない。
ルイズを、国を、誇りを、仲間を、
あらゆる物をかなぐり捨てて僕は望みを叶える為に強くなった。
なのに奴はどうだ。何も持たず研究材料として死ぬだけの生だったのに、
この世界でルイズや多くの友、仲間を得て強くなったなどと、
そんな強さを、他の誰が認めようと僕が認められると思っているのか!
貴様とは覚悟が違う! 僕は全てを捨てられる!
それができない貴様如きに僕が敗れるはずがない!


研ぎ澄まされた剣閃は光の線となってワルドの胴を両断した。
二つに分かたれた屍が風竜を離れて空へと落ちていく。
しかし、そのワルドの死体が風に融けて消える。

「な…! こいつも偏在…!?」

バオーの心境を代弁するようにデルフが困惑の声を上げた。
刹那。風竜の背に降りた二人の真上に影が落ちた。
見上げた先には自分達めがけて急降下する別の風竜。
そこから一人の男が雄叫びと共に飛び降りた。
フライもレビテーションもかけず、ワルドは己の身体をバオーを貫く一本の矢に変える。

「ウォォオオォォオオォォ!!」

ワルドの咆哮が激しく大気を揺さぶる。
その気迫は正しくバオーをも凌駕するものだった。
一瞬、彼の脳裏を死の予感が過ぎる。
それを振り払い、感電せぬように彼はデルフを放して体内電流を巡らせる。
直後、ガンダールヴの力に支えられた全身に異常な負荷がかかった。
無敵といえど生命は生命に過ぎない。浪費した物はどこかで補わなければ戻らない。
“バオー・ブレイク・ダーク・サンダー・フェノメノン”を放ち続け、
傷を負った前足を再生し続け、無限とも思われた体力は底を見せていた。
先の一撃とてガンダールヴの力が無ければ成し得なかった。

空を穿って放たれる雷光。それは舞い降りるワルドを貫く。
瞬時にして焼き尽くされるワルドの身体。
だが、それも先程の偏在と同様に風に散っていく。
その背後から現れるもう一人のワルド。
猛禽類にも似た鋭い眼差しがバオーを射抜く。


放電直後で体内電流の充電が間に合わない。
弾幕のように展開されるシューティング・ビースス・スティンガー。
それをワルドは魔法ではなく外套で受け止める。
無論そんなもので完全に防げはしない。
体毛の矢が腕や身体へと突き刺さり炎上していく。
それでもワルドはバオーを捉えたまま視線を外さない。
炎を纏いながら振り下ろされる牙の如きワルドの杖。
それをセイバー・フェノメノンで切り落とそうと迎え撃つ。
真っ向から刃を見据えてワルドは叫んだ。

「くれてやるッ!」

彼の目の前で激しい血飛沫が舞った。
切り落としたのはワルドの杖ではなく腕。
振り上げられた刃にワルドは自分の腕を叩きつけていた。
斬り飛ばされた腕が宙を舞って地上へと落ちていく。
苦悶を浮かべるワルドはそれを一瞥もせずに眼前の敵を睨む。
バオーの刃は杖まで届かなかった。
その短すぎる刀身は盾にした腕を切り裂くに留めていた。
刃と交差するように振り下ろされるワルドの杖。
それはバオーの装甲を突き破って額に突き立てられた。
腕に込められた力が頭蓋を抉っていく。

「勝ったッ!」

さらに杖を奥へと押し込みながらワルドは雄叫びを上げた。
切られた腕の痛みも焼きつく皮膚も忘れて叫んだ。
獣が遠吠えで自分の勝利を知らしめるように。

「相棒ォォォォ!!」

暴れる風竜の背から滑り落ちながらデルフは叫んだ。
剣である自分には相棒を掴む手も何もない。
相棒の窮地を目に焼き付けながら彼は地上へと吸い込まれた。
それには目もくれずワルドはバオーだけを睨み続ける。

「偏在も、艦も、部下も、腕も、何もかも失ったッ!
だが貴様に勝った! 最後に勝利するのは貴様じゃない、この僕だ!」

狂ったようにワルドは叫び続けた。
彼の頭にはもう戦いの行く末も虚無の力もない。
全身を駆け巡るのはバオーを倒した実感と歓喜、ただそれだけ。
何の為に勝利するのかではなく、バオーに勝利した事だけが全てだった。
抵抗する力を失った怪物を見据えてワルドは思った。

ああ、そうだ。そうだとも。
どんなに恐ろしい化け物がいようとも最後には必ず討ち倒される。
決して怪物は勝利を得る事はない。
怪物の運命とは、英雄に討ち滅ぼされる為にあるのだから。


ルイズの慟哭が惨劇の空に響き渡る。
彼女が目にしたのは杖に貫かれた自分の使い魔の姿。
ワルドを倒したはずだったのに一瞬で絶望に塗り潰された。
目の前で繰り広げられる悪夢のような出来事。
それを事実と認められなくて彼女はその場に蹲った。
耳を塞いで項垂れるルイズの横でタバサは敵を睨んだ。
込み上げる怒りを隠しもせず己の感情を露にする。
しかしタバサは悔しげに自分の杖を握り締めるだけ。
衰弱しきった自分ではワルドには勝てない。
何よりルイズを巻き込んで無謀な事はできない。
悔しげに唇を噛んで彼女は黙って見ているしかなかった。
シルフィードも声に出して叫びたい気持ちを堪えて悲しげにきゅいきゅい鳴いた。


「誰か! 俺をもう一度、相棒の所に!」

大地に突き刺さったデルフが叫ぶ。
しかし、その声も戦場の喧騒に掻き消される。
たとえ届いたとしても彼等は自分達の事だけで手一杯。
とてもデルフの頼みを聞ける状況ではない。

「頼む! 俺を相棒の元に連れて行ってくれ!」

銃を手に戦場を駆ける兵士達の足音が響く。
だがデルフへと近付いてくる様子はない。
通り過ぎていく兵士の背中を悔しげに見送る。
何故、自分には足も翼もないのか。
一番必要とされる時に傍にいられない。
それが悔しく悔しくて彼は呻いた。

「またか…またなのかよ」

埋もれて不鮮明になったデルフの記憶。
それでも覚えている……いや、忘れられない事がある。
一人の使い手の記憶。それが誰だったか、男なのか女なのかも思い出せない。
鮮明に覚えているのはその最期。あの時も同じだった。
あいつは剣を手放し。俺は何も出来ずそいつの最期を見届けた。
その時ほど自分の無力さを思い知らされた事はなかった。

「……また俺だけが生き延びるのか」

悲しみを背負ったまま、また永い時を一人で過ごすのか。
相棒がどんな奴だったかも思い出せなくなるほどの時間を。
共に死ぬ事も叶わず、のうのうと生きろというのか。

「誰でもいい! 頼む、相棒と最後まで戦わせてくれ!」

相棒を守れない剣に何の価値がある。
無限に続く寿命は使い手の死を見続けるためのものか。
何の為に俺はいる。相棒と別れる為に出会ったとでもいうのか。

デルフの声が戦場に虚しく木霊する。
その声を聞き遂げる者は誰もいないはずだった。
しかし遥か彼方でデルフの声に何かが反応していた。

遠くで、小さな小さな“何か”が胎動した。


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