ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ティータイムは幽霊屋敷で-20

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匿名ユーザー

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エンポリオは遠ざかっていくコルベールの背中を見送った。
どのような説得を試みても無駄に終わるだろう。
それほどまでに彼の決意は固かった。

“子供を戦わなくていいんです。その為に大人は戦うんですから”

コルベールの言葉が頭の中で反響する。
ずっと、ずっと、ずっと守られてばかりだ。
最後に振り絞った勇気は今は奮い立つ事はない。
託された想いは受け継がれ、そして神父との決着を迎えた。
そこで長く長く続いたジョースターとDIOの因縁は断たれた。
そして、それに巻き込まれた自分の戦いも終焉を迎えた。

だからこそ平穏な世界からハルケギニアに呼び出されたエンポリオは、
幾度の死線を潜り抜けた戦士ではなく、ただの少年だった。
彼の戦う動機は知り合ったばかりの人たちを助ける為、それだけだ。
この学院を襲撃している者たちにも騎士にもコルベールにも遠く及ばない。

だけど……!
守りたいという気持ちに嘘はない!
たとえ、それが貧弱な牙だとしても!

彼は黙ってコルベールの後を追った。
安全な場所から一歩踏み出し、自ら霧が立ち込める死地へと向かった。
一面に広がる白い世界。すでにコルベールの姿は無い。
だがエンポリオは諦めなかった。
大気中に満ちた霧を乾いた大地が吸い上げる。
湿り気を帯びた地面はそこに靴跡を残す。
そう信じて彼は足跡を探した。

だが見つからなかった。
いや、彼はそれとは別のものを見つけていた。
壁際のある一点。そこだけ土の色が他とは違う。
それは地面が掘り返された証拠だった。
平らに見えた地面には何度も何度も均された跡があった。

エンポリオの手がその痕跡を抉る。
爪の間に土が詰まるのも気にせず一心不乱に掘り返した。
そして、そこから土とは違う何かを見つけてエンポリオは手を止めた。
封をされた幾つもの木樽。その内の一つを慎重に開放する。
中から覗く黒い砂粒のような何かと、そこから漂う独特の臭い。
エンポリオの身体は恐怖に縛られ動けなくなっていた。
彼の脳裏を掠めるのは本で読んだ記録。
中世の時代、強固な城を陥落させるのには数多の兵を犠牲にして強硬策に出るか、
あるいは水路と食糧を断ち干上がらせるかしかなかった。
だが“ある発明”の登場がそれまでの攻城戦を一変させた。
城門や城壁を打ち砕く手段を人間に与えたのだ。
まだ大砲が作り出される前、それを建造物の基礎部分に仕掛け爆破する事で城を崩した。
今、エンポリオの目の前にあるように……。

黒色火薬。それは中世の脅威であり、今のエンポリオの脅威だった。

ずっとおかしいとは感じていた。
包囲していながら何故こうして待機しているのか。
発見した時から屋上に登るまでも時間が経っているはずだ。
なのに、いつまでも連中は動きを見せなかった。
ようやくエンポリオはその理由を見つけ出したのだ。
そして、そこから導き出された結論は唯一つ、
―――連中はこの学院の人間を一人残さず殺すつもりだ。


濃霧の中、コルベールは傭兵の一人を見つけ出した。
近づいて来る彼に警戒する様子はない。
偽装の成功を確信して彼は歩みを速めた。
どれほどの時間が残されているか分からない。
一秒でも早く片付けようと気を逸らせる彼の前で明かりが灯った。
それは傭兵の男が生み出した魔法の火。
“……まさか勘付かれたのか?”
しかし身構えたコルベールに男からの攻撃はない。
真意を掴みきれずにコルベールが戸惑う。
だが、すぐさま彼はハッと顔を上げた。

「しまった! 符丁か!」

返答の無い味方へと向けられる傭兵の杖。
コルベールは退かず、逆にそれに向かって踏み込んだ。
レビテーションで加速したコルベールの頭上を炎の球が過ぎる。
直後、懐に飛び込んだ彼の杖が傭兵の鳩尾に突き刺さった。
視線をコルベールに向けることも出来ず、男の視界が暗転する。
崩れ落ちる体を横目に彼は残りの敵を探して走り出した。
気付かれた以上、もはや形振り構っている余裕はない。
たとえ敵に包囲されようとも構わない。
一番恐れるべきは、この瞬間から校舎への攻撃が始まる事だ。


「火を放て」

年長の傭兵が命令を下した。
符丁の火とそれに続く魔法による攻撃。
それを確認した男は即座に命令を下した。
現れた敵を総員で叩くという策は考えなかった。
その後の連絡がない以上、あの僅かな交戦で倒されたと見るべきだ。
この場においてそんな事が可能なのは花壇騎士か魔法衛士隊のどちらかしかない。
そんなのを相手に全力を傾けたとしても敗れる公算は高い。
ならば火を放ち少しでも敵の注意をそちらに向けさせる方が安全だと男は踏んだ。
それに与えられた仕事を全うしなければ傭兵団の信頼に傷が付く。
男の命令に従い、次々と傭兵たちは詠唱を始める。
そして杖が振り下ろされると同時に校舎を炎の壁が覆った。
それは忽ちに内部へと進入し、『アルヴィーズの食堂』を火の海に変える。

「下がっていろ! この程度の炎、我が風の前では灯火に等しい!」

地獄絵図と化した『アルヴィーズの食堂』。
絶叫する生徒たちの中、ギトーの杖を中心に風が唸る。
生徒たちの周囲を覆う旋風。それが襲い来る炎を打ち払った。
だが、そこがギトーの限界だった。
“フレイム・ボール”をも弾き返す風も一方に集中すればこそ。
四方から押し寄せる火勢を吹き飛ばす事などできない。

そこに追い討ちをかけるように窓を突き破って、
次々と“フレイム・ボール”が食堂内へと撃ち込まれた。
悲鳴を上げながら生徒たちは自分たちの身を守ろうとその場に伏せた。
迫り来る火球が壁に、天井に、床に衝突して破裂し炎を撒き散らす。
さらに火勢を増していく炎にギトーは、残りの精神力を使い果たす勢いで魔法に注ぎ込む。

「コルベール」

ぽつりとギトーの口から同僚の名前が漏れた。
その小さな小さな響きの後、彼は大きく息を吸い込んで叫んだ。

「あの野郎、こうなると分かってて逃げ出しやがったな!
畜生! 生きて帰ったら必ず学院長の前で糾弾してやる!
責任放棄と敵前逃亡で必ず縛り首にしてやるからなァ!」


ぎゃあぎゃあと喚くギトーを傭兵が窓の外から見ていた。
傍らに一際巨大な火球。男の杖がギトーの隙だらけの背中に向けられる。
その刹那。振り下ろそうとした杖が動きを止める。
振り返ればそこには自分の杖を掴む何者かがあった。
咄嗟に攻撃対象を変えようとした傭兵の足が払われる。
杖を中心にして一回転した男の顔が地面へと叩きつけられた。
顔を起こす間もなく捻り上げられる利き腕。
相手の顔を見る事さえ出来ないまま、傭兵は自分の死を覚悟した。

「何故ですか」

頭上から聞こえる声に男は首を傾げた。
何を言っているのか理解できずにいる彼に、
再びコルベールの問いかける声が響く。

「何故こんな事ができるのですか。
無関係な人間を、何の罪もない子供たちに火を放つなど」

圧倒的な優位に立っているにも関わらず、
コルベールの声はあまりにも弱々しい響きだった。
てっきり騎士か何かだと思っていた相手の発言に、傭兵は動揺しながらも安堵した。
こいつは強い……だが恐れるべき相手ではない。
騎士ならば僅かでも相手が不審な動きを見せれば容赦なく殺す。
しかし強いといっても戦場を知らない素人にそんな覚悟はない。

ゆっくりと男の逆の腕が自分のブーツへと伸ばされる。
その指先が僅かに覗く銀色の何かに掛かる。
さらにコルベールの注意を引こうと男は正直に答えた。

「当たり前だろ。仕事だからな」
「っ………!」

ごきりと鈍い音が響いた。
それに遅れて甲高い音が鳴り響く。
男の悲鳴が上がったのは最後だった。

「うぎゃあああああ!」

男の手の甲はコルベールの杖に穿たれていた。
さらに内側で捻られたそれは神経を裂きながら骨を砕いていた。
落としたナイフが掌から零れ落ちた血で赤く染め上げられていく。
地面に顔を擦り付けながら涙で曇った視界で見上げる。
そこで傭兵は初めて相手がどんな表情を浮かべていたかを知った。

コルベールの眼に映った傭兵の姿があの日の自分と重なる。
だからこそ、こんな感情が胸の内から沸いて来るのだろう。
男を見下ろす彼の眼は、殺しても飽き足らないほど憎悪に満ちていた。

「これより状況を説明する! そのままにして聞け!」

出陣の準備をするマンティコア隊に、隊長であるド・ゼッサールの大声が飛ぶ。
魔法学院の異変はすぐさま王都トリスタニアへと伝えられ、
国家の一大事を悟ったマザリーニは魔法衛士隊を動かす決断をした。

「アンリエッタ姫殿下の向かわれたトリステイン魔法学院で異変が発生した! 
詳細は不明だが、何者かによる襲撃の可能性が非常に高い!」

隊長の話を聞く隊員たちの顔が険しくなっていく。
戦場に赴くのと変わらぬ表情を浮かべて耳を傾ける。
鋭さを増していく衛士たちの眼を見渡してド・ザッサールは一呼吸置いて続ける。

「グリフォン隊が警護に当たっているが何が待ち受けているとも限らん!
これより我々もトリステイン魔法学院に赴き、事態の解決に尽力する!」

自身のマンティコアに跨り、ド・ザッサールは杖を進むべき方へと向ける。
それに倣って隊員たちも次々とマンティコアに乗り隊長の指示を待つ。
全員が支度を終えたのを確認してド・ザッサールは声を上げた。

「だが決して攻を焦るな! 最優先は敵の排除ではない!」

優先すべきはアンリエッタ姫殿下の安全を確保する事。
もし手違いで姫殿下を傷つけたり、諸外国の要人に怪我を負わせれば大問題となる。
細心の注意を払いながらの戦いは恐らく困難な物となるだろう。
だが、それでも騎士には成さねば成らぬ事がある。
幾百の犠牲を重ねようとも守らねばならぬものがある。

「マンティコア隊出陣! 今こそ忠義を示す時ぞ!」

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