ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ティータイムは幽霊屋敷で-18

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匿名ユーザー

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いつもなら昼食で賑わう『アルヴィーズの食堂』は、
事態を把握できないまま集められた生徒たちで騒然としていた。
異常気象か、それとも何かのイベントだろうかと口々に意見を言い合う。
中には事の不穏さを感じ取った生徒が数人、青褪めた表情を浮かべている。

唯一人、生徒たちの中に紛れた少年だけが真相に気付いていた。
いや、彼だけではない。彼の視線の先にはコルベールの姿。
他の教師たちに的確な指示を飛ばし生徒を避難させた人物。
混乱を招かぬよう、生徒たちに事実を伏せているのも彼だろう。
だからエンポリオも生徒や教師に尋ねられた際には適当に誤魔化した。

ある航空便で飛行機が胴体着陸を試み、機内で発生した火災により多くの人命が失われた事例があった。
だが後の事故調査により火災は大規模なものではなく、十分に乗客が避難する時間はあったと結論付けられた。
かといって着陸時のショックで身動きが取れないほど負傷したとも考えにくい。
ならば何故、彼等は炎の中に取り残されたのか?
この事故を担当した調査官はこう結論付けた。
『誰もが我先に逃げようとして逆に道を塞いでしまった』のだと。
“災害時に一番恐ろしいのはパニックになった人間だ”
そうエンポリオは本で読んだ知識から学んでいた。

だが窮地において頼りになるのも、また人間である。
エンポリオは常に信頼できる誰かの傍らに寄り添おうとする。
子供らしいといえばそうなのかもしれないが、
だからこそ彼は周囲を観察して頼れそうな人間を探す。
そしてイザベラがいない今、彼が見つけたのはコルベールだった。
積極的に解決に向けて動く訳ではないが冷静に事態の沈静化を図る。
彼に協力する、それがイザベラやサイトたちを助ける最善の道だと判断した。
だけど今はコルベールに近づく事もできない。
彼の周りには説明を求める詰め寄る教師と生徒たちで溢れている。


「いいかげん説明してくれたまえ! 何が起こっているのだ!?」

ギトーの剣幕にコルベールもたじろぐ。
しかし学院で起きている事を説明すれば彼の協力は得られない。
我先に逃げ出すか、学院の中に隠れてしまうだろう。
彼の性分を理解しているコルベールにはそれが分かる。
十分な実力を持っていながらギトーの精神は貧弱そのものだった。
それは彼だけではなく他の教師たちも同様だ。

狙いはまず学院ではなく一堂に会した各国の重要人物。
だから生徒たちが巻き込まれないようにするだけでいい。
外には名を知らぬ者はいない騎士団が勢揃いしている。
彼等ならば遠からず襲撃者を撃退してくれるはずだ。
だからあと少し……あと少しだけ時間を稼げばいい。
コルベールはそう計算していたのだ。
責め立てる教師たちにコルベールは押し黙った。
彼の悲壮な決意を悟ったエンポリオが窓の外を眺める。
校舎の外にはまだ霧がかかり異様な空気を醸し出す。
ここから様子を窺える筈もないが教師たちが去るまでの間、
彼はそうして飛び出したい自分の気持ちを抑えていた。

彼の視界に映るのはせいぜい窓から1メイルに満たない程度。
だが、その狭い世界で何かが蠢く。
エンポリオはそれを生徒ではないと直感した。
まるで建物の中から出てくる者を警戒するかのような動き。
咄嗟にエンポリオは反対側の窓へと移動して覗き込む。
そこにも同じく僅かに見える人影らしきもの。

その意図に気付いたエンポリオがコルベールの下へと走り出す。
生徒や教師の間を縫うようにして彼の傍まで駆け寄る。
何事かと問いかけるギトーを無視してコルベールの袖を引く。
それに合わせて腰を屈めた彼にエンポリオが耳打ちした。

「……囲まれてるよ」

その一言で状況を察したコルベールが顔を上げた。
だが他の教師や生徒に気取られまいと努めて冷静に振舞う。
しかし、こうして手を拱いている時間はない。
校舎の生徒たちに、いつ危害が及ぶとも限らないのだ。
意を決して彼は口を開いた。

「ミスタ・ギトー!」
「な、何だね? ミスタ・コルベール」
「私は他の生徒を探しに外へ出ます。
その間、生徒たちの事をお願いします」
「むう……。しかしだな……」

コルベールの熱の篭った声にギトーは逆に押し返される。
さっきまで自分が押し付けられた仕事を代わってくれるなら、
それは願ったりかなったりだと思っていた。
彼の目には辺りに目を光らせながら警戒していたコルベールも、
他人に仕事を任せて怠けているようにしか映らなかったのだ。
しかし切羽詰った彼の様子に只ならぬものを感じて言葉が詰まる。
だがコルベールは肩を掴み、さらに熱く語る。

「これは最強と謳われる風のメイジ!
その中でも有数の実力者であるミスタ・ギトー!
貴方にしか務まらない仕事なのです!」
「そ……そうかね。そうまで言われては仕方ない。
生徒たちの事は私に任せたまえ」

並べ立てられるあからさまな煽て文句。
しかし、それにギトーは完全に乗り気にさせられていた。
その姿に若干どころか大層な不安を感じながらもコルベールは扉へと向かう。
そしてエンポリオもコルベールの後を追う。
だが後ろから付いてくる少年をコルベールは一喝した。

「君はここにいなさい! 外は…」
「分かってる! だから僕にも手伝わせてよ!」
「……だが」

追いすがる少年の迫力にコルベールは反論できなかった。
校舎を包囲する敵に気付いたのもエンポリオだった。
それに、その事を伏せて混乱を避けた判断力。
もしかしたら、この場にいる誰よりも冷静かもしれない。
いや、冷静でいられるはずがない。
いきなり戦場に放り込まれ彼の主の安否も不明。
だが彼はその中で己を見失わずにいた。
そうしなければ自分も彼女も助からないと知っているのだ。

「分かりました。だけど私から決して離れないように」
「はい!」

軽快な返事のエンポリオにコルベールは笑みを返す。
お互いの頼もしい姿に彼等は信頼に近い感情を感じていた。
即席のパートナーにしては上出来すぎるほどに。


「さてと、まずは外に出ようか」

コルベールの言葉にエンポリオは表情を曇らせた。
まずはそこから解決しなければならない。
だが口で言うほど簡単ではない。
扉は当然としても窓も見張られている可能性が高い。
気付かれてしまえば、それがきっかけで攻撃が始まるかもしれない。
だが、ここはトリステイン魔法学院。
コルベールには圧倒的な地の利があった。
まず彼等は長い階段を登り屋上へと出た。
ここからなら角度と霧の所為で下からは見えづらい。
かといって飛び降りたら死んでもおかしくない高さがある。
しかし、レビテーションなら何の問題もない。

窓から見た様子では人影は複数ではなかった。
敵は広めの間隔を開けて包囲していると見ていいだろう。
数が足りていないのか、あるいは同士討ちを避ける為か。
どちらにせよ、これは隠密行動に徹する彼らに幸運だった。
まずはコルベールがエンポリオを抱えて降下。
分散した敵を一人ずつ確実に倒していく。
その間、エンポリオは身を潜めて周囲を警戒。
敵の接近や異変を感知したらすぐにコルベールに連絡する。

コルベールの提案した作戦を聞きながら、それに黙って頷く。
だがエンポリオは一抹の不安を感じていた。
それは一切気付かれる事なく敵を倒せるかという一点。
相手に襲撃を察知されてしまえば残った敵が一斉に襲ってくる。
いや、それよりも校舎への攻撃を始める可能性が高い。
魔法も使わず音も立てずに敵を無力化するのは至難の業だ。
いくら沈着冷静とはいえ一介の教師にそれを望むのは無謀。

「さあ行きますよ」
「待って!」

飛び出そうとしたコルベール先生を呼び止める。
僕に向けられる不思議そうな顔。
ごめん。イザベラおねえちゃんとの約束は守れない。
でも、おねえちゃんの命だけは絶対に守ってみせる。
その誓いを胸にして口を開く。

「僕に考えがあるんだ」

僕には敵を倒す事なんて出来ない。
だけど誰にも悟らせないというだけならやれる事がある。
―――いや、僕にしかやれない事があるんだ!

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