ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ティータイムは幽霊屋敷で-16

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匿名ユーザー

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獲物を探し求める傭兵の顔には獰猛な笑み。
それは血の臭いを嗅ぎつけた飢えた狼の姿にも似ている。
だが、これから挑む相手は無力な羊などではない。
花壇騎士団の実力はガリア王国でも屈指を誇る。
他国にとって両用艦隊と並んで恐怖の対象とされる戦闘集団。

無論、彼もそれを知っている。
あの中の誰よりも熟知していると言ってもいい。
何故なら彼もその花壇騎士団の一員として杖を振るっていたのだ。
もっとも東薔薇花壇などという華々しい騎士団ではなく、
表向きは存在しない汚れ仕事を一手に担う日陰の騎士団だったが。

だからこそ彼は花壇騎士の強さも弱さも知り得ていた。
彼が知る限り花壇騎士には二種類の人間がいる。
親の七光りで叙された能無しどもと、
実績と実力で這い上がってきた猛者たち。

真に恐れるべきは後者のみ。
奴等は腕が立つばかりではない。
連中はガリア王国に杖と命を預けたと豪語し、
死を前にしても臆することなく戦い続ける。
たとえ己の命を捨石にしても勝利を拾う狂信者。
まともに戦えば命が幾つあっても足りないだろう。

そう、“まともに戦えば”だ。

決闘ならば勝機を見出せない戦いも、こと殺し合いになれば話は別。
温室育ちの花壇騎士様なんかに決して遅れは取らねえ
命の奪い合いなら俺の独壇場だ、昔もそして今も。

“それにしても……よりにもよって東薔薇花壇とはな”

ふと彼は奇妙な巡り合わせに因縁めいたものを感じていた。
自分がガリア王国を去る原因ともなった騎士団。
確かに王族の警護任務が主となる連中だが、
数多ある騎士団の中で彼等が選ばれたのは偶然に過ぎない。
ならば、そこに人ならざる者が手繰る運命の糸の存在を感じたとしても無理からぬ事。

不意に彼の足が止まった。
微弱な魔法の気配を感じ取り、霧の中に息を潜めて様子を窺う。
霧の向こうでちらつくように蠢く影。
僅かに見える色の濃淡、配置から彼はそれを花壇騎士と判断した。

この霧の中、身を潜めることなく威風堂々とした態度。
それも仲間も引き連れずに単独行動。
彼の勇気に敬服しつつ、その無謀を鼻で笑う。

花壇騎士の背後に回り込み、彼は杖を構えた。
詠唱は最速で、一瞬の躊躇もなく放たれた炎が騎士を包む。
なんと他愛もないと呆れたように騎士の末路を見届ける。
どうやら親のコネで入団した雑魚だったか、
そう思っていた彼の目の前で騎士の姿が掻き消えていく。
燃え尽きたのではない、まるで幻だったかのように消滅する騎士。
それを目の当たりにした彼の表情が凍った。

「まさか、こいつは……!?」

直後、放たれた殺気に反応して傭兵が跳ぶ。
飛び退く彼を掠めるようにエア・カッターが突き抜けた。
身体を覆う布が裂けて傷口から血が伝い落ちる。
“風の系統魔法……なら、さっきのは偏在か”
精神力の消費を最小に目と囮の役割をさせていたのだろう。
やはり腐っても花壇騎士団。
一筋縄ではいかない実力者揃いというわけか。
相手の実力を察した彼が構える。
その彼に花壇騎士が杖を向けて問う。

「今の動き、ただの賊ではあるまい。
名を名乗れ。それとも名も知られずに打ち倒されるのが望みか?」

響く花壇騎士の声に彼の顔は引き攣った。
こんな状況でさえ礼儀を重んじる敵に呆れたのではない。
聞き覚えのある声に、彼はつくづく因縁を感じずにはいられなかった。

「随分と薄情じゃねえかカステルモールさんよぉ。
名乗るも何も同僚の仇の顔も忘れちまったのか」

彼の手が破けた布に掛かり、それを取り去っていく。
その下から現れたのは喩えようのない凶悪な笑み。
彼の顔を目にしたカステルモールの杖が震えた。
動揺だけではない、奥底から込み上げる憎悪が彼の手を激しく揺らす。

「……セレスタン。貴様か」

わなわなと震える口元から吐き出された声は、
まるで地獄の淵から響いたかのような怨嗟に満ちていた。
カステルモールの殺意を帯びた視線に、セレスタンの背筋に冷たいものが走った。
それは寒気などという生易しいものではない。
背骨ごと氷柱に貫かれたかのような圧力。
しかし、それさえもカステルモールは利用する。
実力で勝る相手に冷静に戦いを進められては勝ち目はない。
だからこそ顔を晒してまで挑発したのだ。

「おいおい、あれは正式な決闘だったんだぜ。
相手がくたばっちまったのも俺より弱かったからさ。
それを恨むのは筋違いってもんだろ」
「黙れ! 彼は、我が親友は己の為に杖を振るいはせん!
己の杖と命を王家に捧げた真の騎士だった! 
その彼が決闘などするはずがない!」

セレスタンの言葉を薙ぎ払うように、
カステルモールは腕を大きく振るい叫ぶ。

友を失った日の記憶が彼の脳裏を過ぎる。
彼が駆けつけた時には全てが終わっていた。
赤く染まった視界。辺りを照らす炎と血溜まりに沈む友の姿。
傍らには血に染まった杖を手に立つセレスタン。
その口元は喩えようもないぐらい笑っていた。

それを目にした瞬間、カステルモールの中で何かが弾けた。
獣の如き雄叫びを上げて彼はセレスタンに襲い掛かった。
友を殺された怒りがカステルモールを次なる段階へと成長させていた。
ましてや花壇騎士との一戦を終えたセレスタンに対抗する力は残されていない。

さしたる抵抗もできないままセレスタンはカステルモールに屈し、
捕らえられた彼は王の下へと連行され沙汰を受けた。
親族や同僚たちが死罪を求める中、王は彼を国外追放処分とした。
無論、カステルモールもその処罰には納得できなかった。
それでも騎士として王の決定に異議を唱える事はできない。
手綱を握り締める拳から血を滴らせながらカステルモールは、
薄ら笑いを浮かべて去っていくセレスタンを国境まで見送った。

今でも後悔している、あの時に殺しておけば良かったと。
“たとえ外道であろうとも騎士である以上、王の判断に任せるべきだ”
そう考えた自分は間違っていない。なのに今も夢に見る。
倒れた友を見下ろし、下卑た笑みを浮かべるセレスタンの姿を。

「まさか、この襲撃は貴様の差し金か!?」
「だとしたらどうする花壇騎士さまよぉ。今度こそ俺を殺すか?」

セレスタンの顔にはあの時と同じ様な笑みが浮かんでいた。
この男は親友の命を奪い、王の恩情さえも踏みにじった。
そして、あろうことか一度は杖を預けたその王族にさえ杖を向けた。
それもガリア王国から追放されたという身勝手な恨みでだ。
もし仮に襲撃に失敗したとしてもガリア王国の揉め事に他国の貴族、
ましてや王族が巻き込まれたとなればガリア王国はその責を負う。
それさえも奴の狙いなのだろう。だからこそ、このような場で行動を起こしたに違いない。

セレスタンの言葉が酷く耳障りな雑音に聞こえる。
何もかもが不快だった。この男の声も、姿も、存在さえも。

「いや、そうはしない」

急にトーンダウンしたカステルモールの声。
それを耳にしたセレスタンが舌打ちする。
見え見えの挑発に気付いて冷静に立ち戻ったと彼は推察した。
だが、こちらを睨むカステルモールの眼は氷のように冷たい。
セレスタンの皮膚の上を冷たい汗が流れ落ちていく。

「ガリア王国の人間が関与した証拠を消す為、
そして心優しき陛下の御心を乱さぬ為、貴様の肉も骨も断片さえも残さん!
我が系統、風と共にハルケギニアから失せろセレスタン!」

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