ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク 改訂版-10

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匿名ユーザー

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10話

【名前通称】ラング・ラングラー
【囚人番号】MA-13022
【罪状】殺人。通っている大学の女教授をナイフで69回刺して殺害した。
【性格、特徴】理論的に物事を考えて行動する。身体的特徴としては、手足の指の指紋が吸盤状に変化している。
【報告内容】行方不明。
      金品も含めて私物はすべて室内に置きっぱなしだった上に、
      脱獄が考えうるルートからは一切の異常警報は出ていないため、
      脱獄の可能性は限りなく低い。
      ラング・ラングラーが行方不明になった当日の昼に7-B通路で警報が発生しているが、
      この7-B通路付近からの脱獄は不可能なため無関係と考えるべきである。
      なお、ラング・ラングラーが最後に目撃されたのは洗濯場のカゴの中。
      囚人番号FE40536、空条徐倫を襲った際に彼女の正当防衛で重傷を負っていたところを、
      G.D.st.刑務所教戒師のエンリコ・プッチ氏に目撃されている。
G.D.st.刑務所――通称「水族館」データベースより。

――以上がラング・ラングラーが「元いた世界」での公式の最終報告である。
その後ラングラーがどこへ行ったのかを知る者はその世界には一人もいない。
彼と実際に戦った空条徐倫にも、彼を空条徐倫に差し向けたエンリコ・プッチにも、当然何も分からない。
ラング・ラングラーが異世界ハルケギニアに行ってしまったことなど、誰にも知る余地はなかったのだ。

ラング・ラングラーがハルケギニアに来た――いや、「召喚された」のは数か月前だ。
空条徐倫との戦いに敗れて洗濯カゴの中で気を失っていて、気がついた時には深い森の中にいた。
何故自分がこんなところにいるのか。
それをまずラングラーは考えたが、それは後で考えることにした。
まずはラングラー自身のダメージを回復しなければならなかったからである。
幸いにも命にかかわるようなダメージはなかったが、それでも重傷には変わりなかった。

そして一ヶ月後、ラングラーはようやく森を出られるまでには回復した。
後遺症は当然残った。
今までみたいに這うように歩けば関節がズキズキ痛んだし、
顔の形も少し変形してしまった。
おまけに偏頭痛だってする。
最悪だ。
ラングラーは何度そう思ったか知れない。
だが森を出てからラングラーは気づいた。
本当に最悪なのはこれからなのだと。

まず、森から街まではあまりにも距離がありすぎた。
馬なら半日の距離だろうが、当然ラングラーはそんなものを持ち合わせてはいなかった。
よって、歩かなければならなかった。
歩けば数日かかる距離を、後遺症を残した体で。

街に着いてからはラングラーはさらに絶望した。
街の文明のレベルがどうしようもなく遅れているのだ。
建物はどれも木造、地面は舗装されていないし、電信柱の一本さえも見当たらない。
西暦2011年の文明に慣れ親しんできたラングラーにとって、これは全くの予想外だった。
自分はいったいどこへ来てしまったのか。
ラングラーはそれを改めて考える羽目になった。

とはいえ、やはりそれを考えていられる時間はそうなかった。
名前も知らない土地、場所も知らない土地。
そんなところに一人で放り出されたラングラーが食っていく方法は、ただ一つしかなかった。
裏稼業である。
幸いにも言葉は通じたから、そうした連中の集まりに関わっていくことは可能だった。
その際に自分にインネンを付けてくる輩には「能力」で軽くヤキを入れてやればよかったし、
それさえすればラングラーはそれなりの実力者として認められた。
それがラングラーには楽しくてたまらなかった。
シャバで自分の「能力」を使い、そしてそれを称賛されるのはラングラーにとっては全く初めてのことだったからだ。

裏稼業においては、ラングラーは全く苦労しなかった。
何せ相手には自分の「能力」が見えていないのだから、まるで鴨を撃ち殺すかのように標的を殺すことができた。
「殺し屋」ラングラーはここに誕生したわけである。
そして仕事で手に入れたカネは主に自分の腹を満たすために、そしてなるべくグレードの高い宿に宿泊するために使った。

こうして何件か仕事をやっているうちに、ラングラーはあることに気付いた。
自分が同業者の恨みを買っているということに、である。
理由は簡単だ。
今まで何人も人を雇わなければ達成できなかった仕事が、
ラングラーという優秀な殺し屋一人で達成できてしまうからだ。
そうして仕事にあぶれた者は、当然ラングラーに恨みを持つ。
ラングラー自身としては、戦えば誰にも負ける気はしなかった。
だがいつ誰に襲われるとも限らない状況はありがたくなかった。
とはいえ仕事をしない、という選択肢は存在しない。
仕事をしなければ自分は食事にありつけないし、クサいベッドで寝なくちゃあならなくなる。

そこで彼は上客を求めた
自分を恨むようなマヌケな殺し屋どもが手も出したくならないような、難しい仕事にありつくために。
そのために彼はその街を出て、もっと人の集まりやすいところへ向かった。
トリステインの首都、トリスタニアに。

そして彼はトリスタニアで成功し、今ここで新たな上客と仕事の打ち合わせをしている。
場所はトリスタニアでも指折りの高級宿の一室。
ランプの明かりが揺らめく薄暗い室内で、
ラングラーとシェフィールドはテーブルの上の二枚の紙を前にして話し合っていた。
一枚は人物画、もう一枚は建物の見取り図のようだ。

「この場所から敷地に、その後ここから建物の中に侵入……そしてこのガキをゲットして学院を脱出……か」
「その通り。そして受け取りはこの場所……ここに受け取り人を寄こしておくわ」
「残りのカネは……その受け取り人が持ってるわけか?」
「そうなるわね」
「1000エキューなんて大金だ……誰かに奪われたら……シャレにならねえが」
「その点は心配いらないわ。受け取り人は相当な使い手だから、野党程度なら軽くあしらうわ」
「なら、心配はいらないか……」
「どうした? まだ何か心配ごとでも?」
「いや……この娘だが……」

ラングラーは人物画の少女に目をやる。

「わざわざ2000エキューも支払って人さらいするからには……相当な大物の娘だろう?」
「それが、何か?」
「分からねえな……だったら何故その名前をオレに話さない」
「知る必要はないよ。お前はただその娘をさらってくればいいだけさ」
「……あくまで、話さねえか。……まあ、いい。
 こっちも貰うものは貰ってる……今更、商談に余計なケチつけることもないだろうしな……」
「ふふふ……その通り。まったく利口なことだね。
 組み上がりかけたパズルをわざわざ壊して元に戻すことなんかない。
 ピースの形の意味など分からなくても、パズルは組み上げられる……それと同じさ」
「ああ……。では、二日後か。残りの1000エキュー、期待しているぜ……」

ラングラーはそう言って部屋から出て行った。
それを見届けると、シェフィールドはおもむろに人物画を手に取った。

「トリステイン王家の『虚無』の使い手……早く当たりをつけておくに越したことはないわ。
 あのお方のためにも……」

人物画の少女には、桃色のかかったブロンドの髪と鳶色の目。
少女は、紛れもなくルイズそのものだった。

そして、その二日後。
ルイズがキュルケから明日に迫った舞踏会の話を聞かされた日の、夜。
魔法灯がぼんやり光る室内で、ルイズは静かに呼吸を整えていた。
緊張のせいで、心臓がドキドキする。
握りしめた拳の中に、汗がにじむのを感じる。
粘っこい汗が、こめかみを伝うのが分かる。

一週間前の敗北のことは、何もかもをよく覚えている。
自分が感じた迷いも、ホワイトスネイクの俊敏な動作も、そして敗北の瞬間に自分が目をつむったことも。
何もかも、焼き付けられたみたいにはっきり覚えている。
だからこそもう一度ホワイトスネイクに挑みたい。
このままで、済ませたくない。

ルイズはおもむろに杖を抜いた。
そしてその名を呼ぶ。

「ホワイトスネイク」

そして待つ。
1秒、2秒、3秒……。
ごくりと生唾を飲み込んで、ルイズは振り向く。
はたして、そこにホワイトスネイクはいた。

「ホワイトスネイク」

ルイズが再び名を呼ぶ。
しかしホワイトスネイクは答えない。
じっと、カーテンのかかった窓に目をやっている。

「……どうしたのよ、ホワイトスネイク?」
「窓ハ閉メテイルナ?」
「へ?」
「窓ハ閉メテイルカト、聞イテルンダ」
「え、ええ。閉めてるわよ。じゃないと虫が入ってくるもの。……それがどうかしたの?」
「窓ハ閉メテイル……カ。ナラバ……」

「何故カーテンガ揺レテイルンダ?」

言われて、ルイズははっとした。
窓は閉めてる。
だから風は入ってこない。
なのに……なんでカーテンが揺れているの?

「風ガ無イノニカーテンヲ揺ラス……力ヲ加エズニ物ヲ動カス……コレハ魔法デ可能ナコトカ?」
「む、無理よ。第一この部屋にはわたしとあんただけ。
 外からカーテンだけ動かそうとすれば、窓ガラスを割っちゃうもの」
「ソウカ。ダガ私ハ知ッテイル」
「な、何をよ?」
「コレガ出来ルヤツヲ、私ハ一人ダケ知ッテイル」

そう呟くホワイトスネイクを見て、思わずルイズはゾッとした。
そこにいたホワイトスネイクは、今までのホワイトスネイクとはまるで違ったからだ。
ここには口先でルイズを馬鹿にするホワイトスネイクはいない。
何かを楽しむような様子のホワイトスネイクもいない。
凶悪な何かで、ドス黒くギラついたホワイトスネイクだった。
その姿を形容するのに、もはや悪党などという言葉は生ぬるかった。
言うなれば、邪悪の権化。
あらゆる手段をもって敵を殲滅し、食らいつくし、勝利する、
ルイズが出会ったこともないような恐るべき何かだった。

呆気にとられるルイズを尻目に、ホワイトスネイクはジリジリと窓に近づく。

「ダガソイツハココニイル筈ノ無イヤツダ。
 何故ナラ――」

そう言うや否や、ホワイトスネイクはルイズの机の上に置かれた本を手に取り、

「コンナトコロニ来テシマッタノハ、私ダケノ筈ダカラナ。ソウダロウ? ――」

「――ラング・ラングラーッ!」

窓に投げつけたッ!

グワシャァァァンッ!

窓ガラスが派手な音を立てて砕け散る。
間髪入れずにホワイトスネイクは飛ぶように窓際に接近、そして――

「シャアアアアアアーーーーーーーーッ!!」

ありったけの拳撃のラッシュを、カーテンの向こう側へ叩き込むッ!

ゴシャゴシャゴシャァッ!

手ごたえ、あり。
ホワイトスネイクは胸中にそれだけ刻むと、更なるラッシュを叩き込む。
ここで、こいつを倒してしまうために。
こいつの独壇場に上がらぬために。

「うおぉっ!」

カーテンの向こう側から驚愕に震える声が漏れる。
全く予期していなかった本の投擲、そして接近がバレたと思いこみ、
すかさず仕掛けに入った瞬間を完全にカウンターで合わせられたのだ。
だがホワイトスネイクのカウンターはギリギリで凌がれた。
襲撃者が攻撃のために前に出していた手をカウンターの防御に使ったのだ。

ホワイトスネイクのラッシュが襲撃者を窓のサッシから弾き飛ばす。
相手が間合いを取った。
その意味をホワイトスネイクは瞬時に理解した。
と、同時に全速力でルイズの傍まで戻ると、ひょいとルイズを小脇に抱え、

「え、ちょ、あんた! いきなり何して」
「頭ヲ下ゲテイロッ!」

そしてドアを蹴り破って部屋から脱出を図ろうとした瞬間――

「ジャンピン・ジャック・フラッシュ!」

襲撃者が自分の「能力」の名を叫び、その力を行使した。

ドンドンドンドンドンドンドンッ!!

直後、矢のように放たれた小さな何かがホワイトスネイクとルイズに殺到するッ!

「ヌウゥッ!」

ルイズを抱えたまま、転がるようにして部屋を飛び出すホワイトスネイク。
そして素早くドアの脇へと回りこむ。

「ルイズ、無事カ?」
「はぁっ、はぁっ……」
「ルイズ!」
「だ、大丈夫よ。平気。へ、平気だから……」
「ソウカ。見タトコロ怪我モ無イシナ……ダッタラソレデイイ」

それだけ言って室内へとそっと目をやるホワイトスネイク。
直後、ホワイトスネイクの鼻先を何かがかすめた。

「ッ!」
「ホワイトスネイク!」
「気ニスルナ。食ラッタワケジャアナイ……」

そういってホワイトスネイクは腕からDISCを一枚抜き取り、開いた手で自分の背中側にルイズを押しやった。

「ちょ、ちょっと、何して……」
「イイカラ黙ッテイロ……ヤツヲ始末スルンダカラナ」

そう言って強引にルイズを自分の背後に回らせる。

「だ、誰が、あんたなんか、に……」

言いかけて、ルイズはホワイトスネイクの背中を見てはっとした。
ホワイトスネイクの大きな背中に、いくつもの小さな金属の塊が深々とめり込んでいる。
めり込んだ場所にはひび割れのような亀裂も走っている。

(こ、これって……さっき、わたしを守るために?)

思わずホワイトスネイクの横顔を見る。
ホワイトスネイクの注意は依然室内に向けられており、ルイズの視線には気付いていないようだ。

(こいつ、一体何なの? 自分のためだなんて言っておいて、自分を盾にしてまでわたしを守って……)

ホワイトスネイクの真意の在り処を、ルイズは理解しかねていた。

「くそっ……何だっつーんだ、一体……」

襲撃者――ラング・ラングラーは短く毒づいた。
この仕事は、本当ならもっと楽なハズだった。
まず窓のサッシに唾液を吐きかけて無重力化。
あとは寝て待っていればガキの部屋を含めた半径20メートルが完全に無重力化する。
あとは無重力の中であっさり無力化したガキをとっ捕まえて帰るだけ。
それだけのハズだった。

なのにあんなヤツが、よりによってホワイトスネイクが、なんでこんなところにいやがる?
あいつのせいで、こっちの計画は御破算になっちまった。
いや、そもそもなんでホワイトスネイクのヤツが自分の標的を守っている?
考えれば考えるほど、ワケが分からない。
ラングラーの理性は混乱の極みにあった。

だが――だが、とラングラーの残忍な部分が囁く。
自分の能力なら、ヤツなんか目じゃあない。
軽くぶっ殺せるハズだ。
空条徐倫のときは雲のスタンドを使う野郎が加勢していたから負けた。
雲の野郎さえいなければ楽勝で勝っていたんだ。
そして今宵の相手はホワイトスネイク一人だ。
楽勝すぎる。
負けるはずがない。
やっちまえよ、ラング・ラングラー。
お前の「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」なら何も問題ないさ。
そう囁くのだ。

「そうだ、それでいいじゃあねーか……」

果たして、ラングラーはその囁きに乗った。
何でホワイトスネイクがこんなとこにいるかは分からない。
自分と同じように来たのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
でもそんなことはどうだっていい。
オレのスタンド「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」ならあんなヤツ楽勝だ。
肝心なのはそれだけだ。
だから、何も問題ない。
いける。

その確信と同時に、JJF(ジャンピン・ジャック・フラッシュ)が両腕を突き出してラングラーの前に出る。
そして、JJFの両腕の球状リングがグルグルと回転し始める。

ラング・ラングラー。
スタンド名、ジャンピン・ジャック・フラッシュの本体。
この世界で「魔法殺し」と称された、恐るべき「無重力」の操り手がホワイトスネイクに牙を剥く。


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