ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク 改訂版-09

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匿名ユーザー

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9話

ルイズが朝食の席につくと、他の生徒はおもむろに一席分ルイズから間を開けた。
ルイズに対する嫌がらせというわけではない。
教師たちはそれを重々承知しているので、あえて何も言わなかった。
そしてルイズ自身もそれを教師たちから口を酸っぱくして言われていたので、何も言わなかった。
言わない代わりにため息一つついて、他の生徒たちと一緒に食事の前のお祈りを口にした。

ホワイトスネイクとギーシュが決闘した日から、もう一週間がたった。
ギーシュはすっかり元通りになって、モンモランシーとよりを戻そうと必死になっている。
ただ、ギーシュはルイズには近づこうとはしない。
常に一定の距離を保っており、そこから決してルイズに近づこうとしないのだ。
そうするのはギーシュだけではない。
他の生徒もルイズには近づこうとしなかったし、
加えてこれまでのようにルイズを「ゼロ」と呼んでバカにすることもなくなった。

無論、ホワイトスネイクのせいである。
ワルキューレを簡単にやっつけてしまったあの投げ技や身のこなしは多くの生徒が目にしていた。
その恐ろしい体術の餌食になるのが、みんな怖かったのだ。
ただ二つの例外として――

「あら、ルイズ。今日は自分で起きられたのね」

ルイズがむっとして振り向くと、いつもの笑みを浮かべたキュルケと相変わらず無表情なタバサが立っていた。
決闘以後、ルイズの近くにいるのはキュルケとタバサだけだった。

「ふん、当然よ。わたしだってもう16歳なんだから、自分で起きるぐらいできるわよ」

そう言ってぷいと顔をそむけると、また食事を始める。

「ホワイトスネイク……だっけ? あなたの使い魔。彼、今日もいないのね」

そう言ってキュルケはわざとらしくため息をつく。
初めてホワイトスネイクを見て、そして決闘でワルキューレを次々と撃破していく
ホワイトスネイクを見たときは「なんかちょっといいかも」とか思っていたキュルケだったが、
一週間も見ないうちにその熱はさっさと冷めて、今は絶好調五股掛けである。
「時代は筋肉質でタフな男よ!」とか思っていたのも、キュルケからすれば遥か昔の話。
女の子は熱しやすく冷めやすいと言われるが、キュルケはその中でもとびきりなのだ。
なのにホワイトスネイクに会えないことでため息をついたのは、

「ちょっとキュルケ! まだあんたあいつのことを狙ってたの!?」

ルイズがいちいち本気にするのが面白いからだ。

「ウソウソ、冗談よ。あなたってすぐに人の話を本気にするから飽きないわ」
「うぅ~~、そうやってあんたは人の事をバカにして!」

くすくす笑うキュルケと声をあげて怒るルイズ。

「好対照」

と、二人を見ていたタバサが評価した。

「ま、それはいいとして……ちょっとおかしくない?
 召喚されて2日と立たないうちに使い魔が姿を見せなくなるなんて話、聞いたこともないわよ?」

キュルケの言うとおりだった。
ホワイトスネイクは決闘の日以来、一度もその姿を見せていないのだ。
「ルイズは使い魔に見限られたんじゃないか」と噂する生徒もちらほら出てきているくらいだ。
しかし、その噂は未だに噂の域を出たことはない。
ホワイトスネイクが「その場にいなくてもそこにいる」ことは、すでに多くの生徒たちに知られていたからだ。
ホワイトスネイクを「亡霊」だとか「悪霊」だとか呼ぶ生徒だって少なくはない。
だからホワイトスネイクがそばにいなくとも、ルイズはホワイトスネイクの主人であると暗黙のうちに認められていたのだ。

ホワイトスネイクが姿を見せなくなった本当の理由については、生徒たちは何も知らない。
「ルイズを呪い殺すための道具とか材料を集めている」とか、
「墓場を掘り返しては屍肉を食い漁っている」とかとんでもないデタラメを言っているばかりだ。

だがルイズは知っていた。
ホワイトスネイクはルイズ自身が本気でホワイトスネイクに立ち向かおうとしたときに現れる。
きっとそうだ、とルイズは「なんとなく」分かっていた。
根拠はない。
ただ、ホワイトスネイクは立ち向かってくる自分を無視したりはしないだろう。
ルイズはそれだけは、ただ「なんとなく」理解していた。

だから、立ち向かう。
決行は今夜。
今度はギーシュの魔法の才能は手元にない。
あるのは失敗魔法しか生み出せない「ゼロ」の才能だけ。
だとしても、立ち向かわないわけにはいかない。
あれだけの屈辱を受けて、言われたい放題言われて、それで黙っていられるほどルイズのプライドは安くない。
絶対に後悔させてやるんだから。
絶対に、やっつけてやるんだから!
あの敗北から一週間、ずっとルイズはそう思い続けてきたのだ。

「ルイズ? 聞いてるの?」
「……え? なに?」

きょとんとして聞き返すルイズに、キュルケはため息をついた。

「だから、明日はフリッグの舞踏会でしょ? あんた踊る相手は決まってるの?」
「決まってないわよ」

即答するルイズ。
そんなこと考えてる余裕があったらホワイトスネイクに勝つ方法を考えた方がずっとマシだからだ。

「はぁ~……思ったとおりね。あんた、男っ気が全然無いものね」
「男の子を取っ換え引っ換えしてるあんたに言われたくないわ」

キュルケの言葉にむすっとしてルイズが返す。

「ま、あなたはそんなに美人じゃないからいいけど……タバサまで相手がいないのはどうなのよ?」

そう言ってタバサに声をかけるが、

「興味がない」

タバサの答えもルイズと似たようなものだった。

「……あなたたち、もうちょっと男との付き合いを考えた方がいいわよ。
 タバサはかわいいからそのうち男の方から寄ってくるでしょうけど、
 ルイズなんて、あんた将来貰ってくれる人がいなさそうじゃないの」
「な、なんですってえ!?」
「本当のことじゃない。怒りっぽくて、すぐ八つ当たりする。
 あんたと一緒になったら神経すり減らしちゃうわよ」
「そ、そんな、こと……」

反論しかけたが、ルイズには思い当たるフシがありすぎた。
自分の父親は自分の母親と口論になったら絶対勝てないし、
二つ上の姉の婚約者はいつも姉にあれこれ指図されていて、
しかも会うたびにやつれているようだった。
父親はまだしも、姉の婚約者の方が離婚せずにいられるか、いや、結婚まで持つかどうかさえ怪しい。
自分は、どうだろうか……。

「なーんて、ね」

不意にキュルケが声を上げる。

「へ?」
「別にいいんじゃない? 踊る相手がいなくたって。
 それに踊る相手がいないぐらいで将来どうこう、ってわけじゃないし」
「あ、あんた、またわたしをからかったのね!?」

キュルケの真意に気づいたルイズが顔を真っ赤にして怒る。
だがキュルケはお腹を抱えて大笑いすると、

「だから言ってるじゃない。あんたがすぐ本気にするから、それが面白くって!」
「もう、いい加減にしなさい! タバサも見てるばっかりじゃなくて何か言ってやりなさいよ」

話を振られたタバサは少し考えた後、

「いつも通り」

それだけ言ったのを聞いてキュルケはまた大笑いし、ルイズはまた声をあげて怒った。
まるでルイズが彼女二人以外に避けられ続けているのがウソのような、そんな光景だった。

時は三日前の夜にさかのぼる。
場所はトリスタニアの裏通り。
物騒な連中が物騒な仕事を求めて歩き回る、一般人が決して近づいてはならない場所。
そこでの、とある事件だ。

「な、なな、なんだ、お前は! いい、一体何しやがった!!」

ガタガタと震える傭兵の前には、すでに物言わぬ死体と化した彼の仲間が転がり、
そのさらに先に一人の男が立っている。
彼の仲間は、みんな穴ボコのチーズみたいに、全身に風穴をあけられて死んでいた。
彼の目の前に立つ一人の男がした「何か」によって、声を上げる間もなく死んだのだ。
そしてその男は、実に奇妙ないでたちをしていた。
頭には緑色の目出し帽とゴーグル、
そして羽織ったマントの下にはウロコのような模様が浮き出た全身ジャージを着ている。
もちろんハルケギニアにはジャージなんてものはないから、この男以外にはそれがジャージだとは分からない。
これだけでもホワイトスネイクとどっこいの奇妙すぎる格好だが、
取り分けて奇妙なのは、この男が靴を履かないで、その靴を靴紐で足首に結び付けていることだった。

「『何しやがった』と聞かれても……説明する意味がないな。
 どうせお前らには……『見えない』だろうしな」
「な、何だと!」
「まあいい……それより、聞きたいことがある。
 お前、誰に雇われた?
 『同業者』に襲われるのはこれが初めてなんだ。
 なるべく他の奴らがやりたがらない……ハードな『仕事』を選んでたのにな…」
「く、くそッ!」

傭兵が毒づいて逃げる。

「逃げるのか……行ってもいいぜ。ただし……」

ドンドンドンドンッ!

空気を切り裂いて飛来した無数の「何か」が傭兵の両足を蜂の巣にした。

「洗いざらい喋った後でならな」

傭兵が悲鳴をあげて倒れる。
男はそれにゆっくりと近づいた。

「なあ……教えてくれよ。一体誰に指図されたんだ?」
「し、知らねえよ!」
「そうか」

男はそれだけ言うと、

ドンドンドンッ!

今度は男の右腕を蜂の巣にした。
悲痛な呻き声が再び裏通りに響く。

「こっちは鉄クズが少ないからな……あんまり弾の無駄使いはしたくねーんだ。
 だから……さっさと教えてくれるか?」
「し、知らねえ! 本当に知らねえんだ!
 見たこともねえ女だった……この街の女じゃねえ! それだけは確かだ!
 そいつに500エキューで雇われたんだ! お前を殺して来いってな!」
「そうか」

ドグシャアッ!

「喋った後は、さっさと『あの世』に行ってきなよ」

男の意志で振り下ろされた見えない「何か」が、傭兵の頭蓋を粉々に粉砕した。

「しかし……面倒だな。
 何で顔も知らねー上にこの街のヤツでもない女に狙われるんだ?
 殺しすぎたのが……いけねーのか?
 『仕事』中の俺を見た奴は全員殺ってるハズなんだがな……」
「別にお前は何も悪くはないよ」

一人呟く男に突然かけられた、艶のある声。
男は声のした方向に素早く目を向ける。

「何故ならそいつらを雇ったのはこの私だからね」

そこには、一人の女が立っていた。

「お前が……こいつらを差し向けたのか」
「その通り。『魔法殺し』と名高き傭兵の手腕、是非ともこの目で見ておきたくてね。
 それで運のないそいつらに実験台になってもらったのさ」

女はフードを目深くかぶっており、その表情や顔立ちはうかがえない。
だが女の何かを楽しむような口調からは、恐怖や戸惑いは感じられない。
言葉通り、最初から死んでもらうつもりで傭兵たちを雇っていたようだ。

「そうか。……だがそれで、オレが納得すると……思うのか?
 命を狙われて黙っているほど……オレは安くはないからな。
 オレをナメてるんだったら……お前にもここで死んでもらう……!」

男の言葉と同時に、男の背後の「何か」がゆっくりと動いた。

「ふふふ……そう殺気立つんじゃないよ。
 わたしはお前を雇うつもりでいるんだからね」
「……いくらでだ?」

男の発する殺気はまだ緩まない。

「2000エキュー、と言ったら?」
「2000エキューだと!?」

男の声色が変わる。
2000エキューと言ったら立派な家と森付きの庭が買えるぐらいの金額だ。
破格なんてもんじゃない。
あまりにも、馬鹿げている金額だ。

「どうやら態度が変わってきたようだね」

くすくす笑いながら女が言う。

「2000エキューか……2000エキュー……。
 ……それで、一体なにをさせる気だ?」
「そんなに難しいことじゃないわ。子供を一人さらってくるだけよ」
「それで2000エキュー……だと?」
「ええ、何だったら前金で1000エキューあげてもいいわ」
「前金で、1000エキュー!?」
「どうする? この『仕事』……やるのか、やらないのか?」
「……まず、詳しい話を聞かせてもらおうか」

それが男なりの、1000エキュー、2000エキューを前にしての、精一杯の慎重さだった。
彼が感情だけで動く男だったなら、「仕事」の内容も確認せずにこの場で「仕事」を受けていただろう。

「なかなか利口で助かるわ。では明日のこの時刻に、またこの場所で落ち合いましょう。
 詳しい話はそこで教えるわ」
「それでいい。だが……」
「だが、何?」
「あんたの名前を……まだ聞いていないな」
「おや、そう言えば名乗っていなかったね。すっかり忘れていたよ。
 私はシェフィールド。
 ではまた明日、いい返事を期待しているよ、『ラング・ラングラー』」


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