ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク 改訂版-08

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匿名ユーザー

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八話

前衛に二振りの剣を構えるワルキューレ、そして後衛に剣と盾を装備したニ体のワルキューレを置くルイズ。
対するホワイトスネイクはゆるりと構える。
時刻はすでに午前二時を回った。
部屋を照らすのは薄明るい魔法灯だけ。
部屋の壁には5つの影がゆらゆらと踊り、しかし空気は張り詰めている。
さながら嵐の前の静けさのように、ルイズとホワイトスネイクは静かに対峙していた。

直後、ルイズの操るニ刀のワルキューレがホワイトスネイクに斬りかかる。
ホワイトスネイクは素早く一歩引くことで回避する。
ワルキューレはその後を追わない。
後衛のワルキューレニ体が即座に切り込める位置ならば、
昼間ホワイトスネイクが見せたあの「体術」も使えないだろうが、
そうでなければ一瞬で無力化される。
いくらホワイトスネイクが丸腰で、いくらワルキューレが剣二振りで武装していようと、
ホワイトスネイクの体術は侮れない。

「……踏みこんでこないの?」

ルイズが緊張した声で言う。

「踏ミ込メバニノ太刀デ串刺シ、ダロウ? 見エ透イテルゾ、ルイズ」

あっさりと策を看破され、思わずルイズは唇をかんだ。
前述したように、後衛に二体のポーンを配置したのはホワイトスネイクの隊術を封じるためだが、
ルイズが考えた投げ技封じの策は、実際には二段構えだった。
そのために前衛のワルキューレにふた振りの剣を持たせているのだ。

目の前にいるワルキューレの得物が一振りだけだったなら投げ技も十分可能だったろうが、
この二刀のワルキューレの初太刀をいなして踏みこんでも、ニの太刀で串刺しにされるのがオチだろう。
そういう策だった。
だがそんなことぐらいホワイトスネイクだって分かっていた。
だから踏み込まなかったのだ。

「ツイデニ言ウナラ……後ロノ『ポーン』ニ体ハ私ニプレッシャーヲカケルタメニ置イテルダケダナ?
 ソノ人形ドモヲ全部同時ニ操レル自信ガナイカラッテ、セコイ真似ナンカシテ。
 ミミッチイナ、ルイズ……ソンナノデ私ヲ殺セルノカ? イヤ……『勝つ』、ダッタカ?」

後方に控えるニ体のワルキューレの意義まで看破された。
思わずルイズは動揺する。

こいつ、なんてヤツなの?
こんなヤツに……わたしが勝てるの?

「一瞬考エタナ」
「え?」

思わずルイズがそう聞き返したとき、すでにホワイトスネイクは二刀のワルキューレとの間合いを詰めていた。
慌ててルイズがワルキューレを動かしたとき、すでにホワイトスネイクはルイズの目の前にいた。
そしてルイズがそれを理解したとき、すでにホワイトスネイクは貫手を引き絞っていた。
その狙いは、ルイズの額。

「ソノ差ガ命取リダ」

ドシュゥッ!

空気を切り裂き、ホワイトスネイクの貫手が迫る。
思わず目をぎゅっとつむるルイズ。
悲鳴は上げなかった。
いや、上げるヒマさえなかった。
ただ、貫手が自分の頭を砕き、貫くのを待つだけだった。

だが、その瞬間はいつまでたっても訪れなかった。
ルイズが恐る恐る目を開けると、ホワイトスネイクの貫手は、ルイズの額の紙一重手前で止まっていた。
ホワイトスネイクは、最初からルイズを殺す気などなかったのだ。

「……どういう、つもりよ」

震える声でルイズが言う。

「私ハルイズニ『立チ向カウ感覚』ヲ手ニ入レテ欲シカッタノダヨ」
「ど、どういう意味よ!」
「ドートイウコトハ無イ。
 私ニ対シテ使イ魔ダ何ダト威張リクサッテイル小娘ガ、
 肝心ノソノ使イ魔相手ニビビッテルンジャア話ニナランカラナ」
「な、何ですって!?」
「ソウ、ソレダ」
「へ?」
「ルイズハ一見気ガ強ク勇敢ナヨーニ見エルガ、ソノ実タダ強ガッテイルニ過ギナイ。
 犬ガ吠エテルノト同ジナンダ。
 本気デ立チ向カウ気ナンカ無イクセニ、チッポケナ自分ヲ満足サセルタメニナ」

ホワイトスネイクの言葉はあまりにも残酷だった。
遠慮のカケラさえもない言い草だった。
だが……ルイズは言い返せなかった。
事実として、自分は昼間の決闘でのホワイトスネイクを「怖い」と思った。
そればかりではない。
ホワイトスネイクがやられそうだと思った時には目も背けた。
いつもは「貴族らしく」とか考えてるくせに、実際の自分はちっとも貴族らしくないのだ。
ついさっきだってそうだ。
ホワイトスネイクが自分に貫手を打ちこむ瞬間、目をつむった。
勝つとか倒すとか大言壮語ばっかり吐いたくせに、結局自分は自分が大事だった。
貴族らしさなんて、どこにもなかった。
それが分かってしまった。
だから、言い返せなかった。

「トハ言エ……サッキハ『勝ツツモリ』ハアッタヨーダカラナ。昼間ニ比ベレバ立派ナ進歩ダ。
 ソレニ免ジテ……ソーダナ……」

ホワイトスネイクはそう言うと、ルイズの額から一枚のDISCを抜き取った。
それと同時に、ワルキューレが大きな音を立てて地面に倒れこむ。
抜き取ったDISCはギーシュの魔法の才能だった。
そして、さらに腕から一枚のDISCを抜き取った。

「ギーシュ・ド・グラモンノ魔法ノ才能、ソシテ記憶ノDISCダ。コレヲオ前ニクレテヤル」
「え? そ、それって!」
「サッキ言ッテタヤツダ。
 コイツヲギーシュノ額ニ差シ込ンデヤレバ、スグニ目ヲ覚マスダロウ。
 サッサト奴ノトコロニイッテ、元ニ戻シテヤルンダナ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「何ダ?」
「あ、あんた一体、どういうつもりよ!
 自分のことを悪党みたいに言ったくせにこんなことして、あんた一体何が目的なの!?」
「目的……カ。ソーダナ……」

ホワイトスネイクは考え込むように顎に手を当てる。

「トリアエズハオ前ニ成長シテモラウコトダナ」
「何よそれ! っていうか何であんたが私のことを気にしてんのよ!」
「スルニ決マッテイル。私ハルイズカラスタンドパワーヲ貰ワナケレバ生キテイケナイノダカラナ。
 私ハ『精一杯努力したけど結局立派なメイジになれなかったルイズ』カラ記憶ヲ奪ッテヤルノヲ
 当分ノ生キ甲斐ニスルカラ、ソレマデハ生キ続ケナキャアナラナイ」
「結局……自分のため、ってこと?」
「当タリ前ダ。何故ナラ私ハ、」

そこで言葉を切ってルイズの顔に覗き込むようにして自分の顔を近づけると、

「悪党、ダカラナ」

そう言って、ホワイトスネイクは音もなく消えた。
ホワイトスネイクが持っていたギーシュの二枚のDISCが軽い音をたてて床に落ちたのと、

「ミス・ヴァリエール、起きていますか?」

軽いノックとともにミス・ロングビルの声がルイズの部屋の中に投げかけられたのはほぼ同時だった。

「起きていますか、ミス・ヴァリエール? オールド・オスマンがお呼びです」

再びロングビルの声が響く。
だがルイズはそれに答えない。

「……入りますよ」

そう一言言ってロングビルがドアを開ける。

「どうしました、ミス・ヴァリエール?
 オールド・オスマンがあなたをお呼びです。聞こえていたでしょう?」
「……今から、行きます」

ロングビルの問いにルイズはただ短く答えた。
それをロングビルは少し不審に思ったが、何も詮索せずに「ついてきてください」とだけ言って部屋を出た。
ルイズはその後に続いた。
爪が手のひらに食い込むほど、拳を握り締めて。
こぼれおちそうになる涙を、必死で目の中に留めて。

何もできなかった。
何も言い返せなかった。
「勝つ」だなんて大きいことを言っておいて、結局何もできずに負けただけ。
勝ち取って得るはずだったギーシュの記憶も才能も、
金持ちが乞食に残飯を恵んでやるかのような形で「与えられた」だけ。
結局自分は口ばっかりで、臆病で、無力で、「ゼロ」だった。

ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
勝負の上でも、そして精神の上でも、生まれて初めて完全に敗北した夜であった。


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