ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの兄貴-49

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匿名ユーザー

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タバサの部屋から場所を変えてシルフィードのねぐら。
さすがにタバサの部屋の窓にシルフィードが張り付きっ放しというのも目立つし
なにより声が結構デカイので移動したわけだが、まだ結論は出ていない。

「で、貸すのか貸さないのかどっちだよ」
一応そう質問したが、ぶっちゃけ貸さないと言っても無理矢理借り受けるつもりでいる。
先にもあったが、ギャングが求める答えにNoは無い。『だが断る』や『絶対にノゥ!』は存在すらしていない。
かと言って、自分が出す答えにはしっかりそれがあるのだから自己中心的極まりないというところだろう。

タバサもいい加減この男がどういうタイプか分かってきているので、どう答えても同じ結果になるんだろうなと思っている。
……思っているのだが、なんだか釈然としない。
百歩譲って韻竜という事がバレた事は置いておくとしても、隠してきた素性とかをシルフィードは勝手に喋った挙句に『おにいさま』とか呼んでるし。

考えてみれば、今までシルフィードと韻竜として言葉を交わした人間は自分しか居なかった。(緊急避難的にガーゴイルにした事は何回かあるが)
面倒だからとはいえこの事はキュルケにさえ秘密にしている。
それなのに、もう開き直りましたと言わんばかりにプロシュートに喋りまくっている。
で、挙句『おにいさま』だ。
……これは一体どういう事だろうか?自分を『おねえさま』と呼んでいるのだから、それより年上のプロシュートもそうなるのは分かる。
だが、『おにい《さま》』というのはどういう事だ。譲れるとこ譲っても『おにいさん』だろう。

どういう理屈で戻ったのか分からないが、他人の元使い魔なのに主人の自分と同格の『さま』付けだ。
気に入らないとまではいかないまでも、どこか納得いかない部分がある。
もしかしたら、シルフィードの中でプロシュートの方が順序的に自分より上になりつつあるのかもしれない。


……これがS.H.I.Tッ!……じゃなくて嫉妬とかいうやつだろうか。
まさかシルフィード相手にそう思うようになるとは露にも思っていなかった。
今なら当時のキュルケの気持ちも少し分かるような気がする。
上機嫌でマシンガントークを繰り出すシルフィードと、どうでもよさそうに生返事を返しているプロシュートを見たが
自分以外の、しかも契約も交わしていない人間にああも懐くというのは、なにかこう複雑な気分だ。
もし、契約の力が切れたりしたらシルフィードは変わらずに居てくれるだろうかとか色々考えさせられてしまう。
無論、そのあたりの事は表情には出さないが
とりあえずプロシュートに言ってもどうにもならないのでシルフィードへ矛先を向ける事にした。

「きゅい!?お、おねえさま、なにをー!?」
無言でてけてけとタバサが近づくと両手に持った杖をシルフィードの額に何度かぶつける。
さすがにタバサの腕力で竜に大したダメージがあるはずもないが、唐突に行われた行為にシルフィードも面食らっている。

抗議も無視して杖と額がぺしぺしと小気味良い音を立てているが
叩かれる理由に気付いたのか少しばかり落ち着いたシルフィードが返してきた。
「……もしかしておねえさま、シルフィが楽しそうにおにいさまとお話してるから怒ってるの?」
シルフィードからすれば、プロシュートをそう呼んでいる事に大して意味は無い。
ただ単に、デルフリンガーが『兄貴』と呼んでいた事と、凄い力を持ってタバサの事を手伝ってくれそうな人という事でそうなっているだけである。

「別に怒ってない」
「きゅい?それじゃあなんで叩くのね?」
その疑問への答えは無い。というより、タバサにしては珍しく答えに窮しているようで少し考え込んでいたりする。
「…………」
「……………」
シルフィードとタバサの間に数秒の妙な沈黙が流れる。肝心のプロシュートはオレの方の質問に早く答えろよ。という具合なのだが。

「か、かわいい……」
と、そこに小さいシルフィードの声。心なしか声が震えているのは気のせいではないだろう。
「そんなおねえさまもかわいいのねーーー!」
その声に一拍遅れて思いっきりシルフィードが叫ぶ。
場所を変えていて正解だったというところだろうが、さすがに少し五月蝿い。大体高度3千メイル以上での発声は禁止してたのにもうどうでもいいのか。
幸い周りに人は居ないからいいようなものの、これにはさすがのタバサもシルフィードを睨み付けた。

「大丈夫!シルフィはおねえさまが一番なのね!きゅい!」
最高にハイ!というのはこの事だろうか。柴○亜○先生の絵柄なら間違いなく某ドクターT顔負けの鼻血を出しているはずである。
ぶっちゃけタバサの抗議なぞ全く意に介していない。
今にも『お持ち帰りぃ~~』と言わんばかりに悶えていたが唐突にタバサの横にその巨体を座らせると何かの呪文を唱え始めた。

『我を纏いし風よ。我の姿を変えよ』
聞きなれない。どちらかというと、メローネズコレクションの一つであった日本の漫画に出てくるようなやつだ。
風がシルフィードに纏わりつき、青い渦がそれを包む。
何らかの魔法だろうと思ったがプロシュートの興味は薄い。亀ですらスタンドを使うご時勢だ。
人語を解するシルフィードが魔法を使おうがそれは想定内の出来事である。
……まぁ裸の女が現れるとまでは思っていなかったが。
そして、そのままタバサを押し倒した。

「このからだならおねえさまを潰さずにすむのね。きゅいきゅい」
そう言いながら頬ずりをしているが、傍から見ればただの変態だ。
とにかく離れさせようとタバサが小さくため息を付き、傍らに落ちていた杖を無言で掴むと横にあった頭を叩いた。
「いたい!?いたいよぅ。シルフィおねえさまに嫌われちゃったの?」
「そうじゃない」
「なら問題ないのね」
そういう事以前に離れろと言いたいのだが、タバサがそれを言うより先に別の所から突っ込みが入った。

「オメーらの漫才なんざどうでもいいんだがよ」
「きゅい?」
頭を掻きながらそう言ったが、なんかマジにどーでも良くなってきた。
もう全部纏めてブッ殺したッ!で綺麗サッパリ済ませてーな、とも思ったが耐える。
とりあえず、このクソ厄介な出来事の領収書は後で全部ルイズと才人に回す事にして一応納得しておく事にした。
そうでも思わないと多分、この先やっていけない。

「シルフィのとっておきなのに、おにいさまあまり驚いてないのね?」
「剣が口利いて、バカデカイ島が空に浮いてんだ。例えポルポの隠し財産が沸いて出ても驚きゃしねぇ」
何でもアリが前提のスタンド使いであるからには多少の事では驚きはしないのだが
それ以上にブッ飛んだ世界に慣らされてしまったため、もうこの程度では驚かないようになってしまった。

なお、もう一度言うが今のシルフィードは裸である。それも召喚者とは違って出るとこは出て締まるとこは締まっている。
町を歩けば10人中9~8人は振り向くであろう事確実なのだが、どうやらそのあたりもどうでもいいらしい。
パッショーネの特攻隊とも言える暗殺チームに属していただけあって、元が竜であるしその裸ごときで動じるはずがないのだ。
というか、敵であるならこんな状態でも迷い無く攻撃する事ができるし
むしろ、このクソ忙しい時にややこしい事やらかしてんじゃねーよという具合である。
まぁペッシなら話は別だし、メローネならディ・モールト!とでも叫んでそうだが。

そろそろ言葉でなく肉体言語で強制的に分からせてやろうかと思ってきたが、上の方からフクロウが飛んできてタバサの頭の上に留まった。
もうこの世界お馴染みの伝書鳩ならぬ伝書フクロウという事ぐらいは分かるので、押し倒されている状態のタバサより早く書簡を奪う。

「人形…七号?……意味が分からん」
ルイズん家である程度文字が読めるようになったが、人形七号と書かれていてもなんのこっちゃと理解できるもんではない。
そうしていると、物凄く嫌そうな声でシルフィードがその疑問に答えてきた。
「あの憎たらしい従妹姫がおねえさまを人形って呼んでて、七号というのは北花壇警騎士団の番号なの」
やけに『憎たらしい』を強調してきたので、基本的に人懐っこい方のこの韻竜にしては珍しくマジに従妹姫というのが嫌いなのだろう。

「花壇?汚れ仕事専門のチームにんな名前付けるたぁ随分と悪い趣味してんな」
「きゅい…チームじゃなくて騎士団なのね」
騎士団だろうとチームだろうと、あまり変わりはないので訂正する気にもなれないが、やはり貴族の感性というのは理解しがたいもんがある。
オレらなんざ護衛チームとか暗殺チームとかそのまんまだぞ?どういうこった北花壇ってのは。
そう思ったが言うと余計ややこしくなりそうなので口には出さない。

「で、結局のところ、こいつはどういう意味だ」
「う~……つまり、今頃あの小娘が『あの人形娘はまだなの?』とか言いながら召使をイジメてる頃だから……」
「早い話、任務ってわけか」
きゅい、と言いながら頷くシルフィードを見たが思わず溜息が出た。
ったく…次から次へとメンドクセーことばっか起こりやがる。
そう思ったものの、タバサ本人や家族の命にも関わる事なので本人がそれを無視する事はできない事ぐらい分かる。
かと言って、このまま何も行動しないというのも非生産的である。

「他にアテもねーし、ただ待つってのも性に合わねぇ。オレも行くぜ。第一そっちのが早く済むからな……」
「お金が無い」
「おねえさまはいつも新しい本を買い込むからそうなるのね。そんなのだからシルフィのご飯もままならないの」
そんなタバサとシルフィードのシビアな現実問題を聞いて顔を下に向けてプロシュートが少し笑った。

こいつマジにオレ達と同じか。と、思えてきたからだ。
何故なら暗殺チームも金が無かった!
収入源はシマを持たずボスからの仕事内容に見合わないような報酬のみで基本的にリゾットが必死にやり繰りしている状態だった。
組織に反感を抱いた原因の一つであるだけに、余計そう思える。
「ま……試用期間ってやつだ。金は気にしなくていいぜ」

「ガリア?なんでまた急に」
学園に戻ってオスマンを蹴り倒しているフーケにガリアに向かう事を告げたが、まぁ当然の反応というやつだろう。
「理由が必要か?」
「当たり前じゃないか」
適当な理由をでっち上げてもよかったが、タバサの任務付いてった時点で何かしらバレるし、何よりそこまで考えるのも面倒だ。
「そいつは元王族で知り合い連中に汚れ仕事でコキ使われてる。ついでに言うならこいつの使い魔も韻竜ってやつだ」
プロシュートがそう言った瞬間ゴフォ!と飲んでいた水タバサが盛大にむせた。
そりゃあ、あれだけ人が必死になって守っていた秘密をあっさりとバラされたのだから無理も無い。しかもよりにもよってフーケに。

「こいつも付き合わせるつもりだからな……。どうせバレるもんはバレる。なら先に言っといた方が余計な所でボロ出さなくていいだろうが」
さすがに文句を言おうとしたタバサもこれにはぐうの音も出ない。正論と言えば正論である。
フーケを置いていけばいいのだが、どうやら逃走防止のために連れて行くようでガッシリと肩を掴んでいる。
「いい加減、それ止めて……そんなに信用されてないのかね……?」
「オメーの実力は信用してやるが、まだ逃げないと思ってるわけじゃあねぇしな。
  最初にオレら全員殺す気だったくせになに贅沢言ってやがる。なんならムショにでも入って待つか?ある意味一番安全な場所だぜ?」
「遠慮するよ……」
ブフゥ~~~というやたら暑苦しい息が聞こえてきたので全力で拒否したが、本気で疲れてきた。

「……他には誰にも言わないで」
しばらく思案してタバサがそう告げたが、それでも不安だ。先もあったようにフーケと言えば盗賊でそうそう信用できる相手ではない。
その様子に気付いたのか、これ以上無いぐらい簡単に、そして最大級に抑止力を持つ言葉でプロシュートが言い放った。
「気にすんな。万が一洩らしたりすりゃあどうなるかは……こいつが一番よく知ってるからよ」

――畜生……知りたくなかった!聞かなきゃよかった!!
少し強められた手の力とその言葉に本気でそう後悔したが、もう遅い。
知りすぎると大概ロクな事が無いというのは世界を問わず共通の事象である。
これで人が居る場所でおちおち酒も飲めなくなってしまった。酔った拍子でこの事を喋ってこの物騒なヤツに狙われるなど洒落にもならない。

もうすっかりヤムチャと化した盗賊を放っておくと、キュルケがこちらに近付いてきた。
「よぉ。さっきの続きでもしにきたか?フーケならそこで腑抜けてるがさっきみてーな目に合いたくなけりゃあ別の場所でやれよ」
そう言うと、キュルケが笑いながら両手を広げる。
「冗談。それだけはもう二度と御免被るわ。先生から預かった物があるの。それを渡しにきたわ」
放り投げられた革袋を受け取ったが、感触で中身を理解した。
「何だ、この金は?」
一応中身を見たが、それなりの額が入っている。
今まで独身で研究以外の趣味のなさそうなコルベールなら出せてもおかしくは無い額だったが
理由も無しに金だけ渡されても乞食扱いされてるようで何か知らんがムカつく。

「それともう一つ、言付けがあって『アルビオンに渡るならミス・ヴァリエールとサイト君の事をよろしく頼む』だって」
「依頼って事か?こいつは。それより何であのハゲ、オレがアルビオン行くって事知って……オメーか」
現在、目標がアルビオンにある事を知っているのはオスマン、タバサ、フーケ、キュルケの四人。
となると、後は消去法でオスマンかキュルケしかいなくなり、さっきまでコルベールに付き添っていたキュルケが情報を漏らした事になる。

別に機密情報というわけではないのでどうこうする気もないが、さてどうしたもんかと少し考える。
この件に関しては、元々カトレアからも結構金貰って頼まれているからだ。
無論、余裕があれば、との条件付きだが元プロとして依頼の二重受領というのもどうかと思わないでもない。

まぁだが、金はいくらあっても困るもんではないし、くれるというのなら貰っといた方がいい。
「先にくたばってたりしてたら責任取らねーし、金も返さないがな。で、そっちはどうすんだよ。ここで匿うつもりか?」
「さすがにそれは限界があるだろうから、あたしの実家で匿う事にするわ。『自分達を庇ってくれた先生を手厚く葬るため』っていう口実もあるしね」
「で、その先生を殺ったオレは速やかに逃走を実行した方がいいってわけか?」
少量の皮肉と冗談で割った言葉だったが、どうやら本気に捉えられたようで珍しくすまなさそうにしている。
「ったく……たまに言うとこれだ。オレがそんな事気にするようなタマなわけねーだろうが」
普段、一般人が聞いたら冗談に思えるような事でも本気でやろうとしているのだから
急にそういう事を言われてもそう受け取れるはずがないという事を全く理解していないから余計性質が悪い。

ようやく何時もの調子を取り戻したのか目を細めて笑うと、少しタバサと二人にして欲しいと言ってきた。
それに関しては邪魔する気もないので、そうさせてやろうと、場を離れる事にした。
……フーケをスタンドで無理矢理引っ張りながら。
「丁度いい機会だ。オメーにも『ギャングの世界』ってのを教えてやる。ありがたく拝聴しろよ」
「わたしは盗賊だって!なんなのさギャングって!!」
「似たようなもんだろーが。まずはおさらいだ。LESSON1『ブッ殺した』なら使ってもいいッ!」
「LESSON1からそれ!?」
そうしてキュルケとタバサの話が終わる頃にはギャング的教育LESSON4まで進み少しばかりやつれたフーケが地面に倒れ伏せていた。
ガリアの首都リュティス。
トリステインの国境から千リーグ程離れているがシルフィードならそう時間は掛からない。
と言っても、色々あったので到着は夕方ぐらいになってしまったのだが。
ハルケギニア最大の都市で人口三十万と言われてもプロシュートにはあまりピンとこない。
まぁネアポリスやヴェネツィアと比べればこの世界のあらゆる都市はド田舎という扱いなのだから仕方ない事だ。
無論、プロシュートとフーケは城に入るわけにもいかないので、ヴェルサルテイル宮殿近くの郊外の森で待機している。
ただ待っているのも暇なのでLESSONを再開しようとしたが
これ以上やるとイルーゾォみたいに鏡の中にでも引き篭もりそうだったのでガリア関係の情報を引き出す事で手打ちにする事にした。

「ガーゴイル?オメーのゴーレムとどう違うんだよ」
「ゴーレムが命令をしなけりゃ動かなかったりしないのに対して、ガーゴイルは自分の意思で判断して動けるって事だね」
「自動遠隔操作型スタンド。ベイビィ・フェイスの息子みてーなもんか」
魔法で擬似生命を与えられた自立式の魔法人形。スタンド能力で擬似生命与えられた遠隔パワー型のベイビィ・フェイスと共通点はある。
厄介なのが、これも精度が高いと生物の見分けが付かないらしい。
老化が効かないのがこれまた厄介で、やはり息子を思い出させてくれる。
そうこうしていると上の方から翼の音が聞こえてきた。
シルフィードが小声でぶちぶちと文句を垂れているあたりどうやらロクな任務じゃなさそうだ。

「わざわざ呼び出しまで食らって受けた任務ってのは何だよ?暗殺か?」
「……いきなり暗殺ってあんた一体何やってたのさ」
任務=暗殺とかフーケですら考えはしない。相当ヤバい事に足突っ込んでた証拠だ。

「聞きたいのか?ま…別に隠すような事でもないんだがな」
「いーーや、聞きたくない。どうせロクでもない事やってたんだろ?」
「人の事言えねーだろ。専門はあ」
「それ以上言うなァーーーーーッ!」
大声を出してプロシュートの言葉を遮ったが、素面で暗殺が仕事だったとか聞いたらただでさえそうなのに胃に穴が開きそうだ。
「ルセーな…そんなたいした事ァねーだろうがよ……で、任務ってのは?」
色んな意味で限界突破しそうなフーケを放置して任務内容を確認するためにそう聞いたが返ってきたのは実に意外な答えだった。
「タマゴ」
「……あ?」
タマゴってのはアレか。あの卵か。割ると白身と黄身が出てくるどこにでもあるあの卵か。
プロシュートのそんな様子に気付いたシルフィードがさらに付け加えてきた。
「おねえさま、タマゴだけじゃ分からないのね。あの最悪姫は極楽鳥のタマゴを取って来いって言ったのね」
まぁこのブッ飛んだ世界の事だからただの卵ってわけでもないだろ。極楽鳥ってからには万病に効くとかいう効果があるのかもしれねぇ。
と一応の納得はしておいたが、ある事に気付いたフーケが口を挟んできた。
「……確か極楽鳥のタマゴって今の季節は旬の時期から外れてるはずだけど」

フーケの言葉の中にやたらくだらない内容の言葉があったような気がしたが、聞き間違いかと思って一応聞き返す。
「オメー今、旬とか言ったか?言ったよな?言ったな?どういうこった?ええ?」
「え?ああ、極楽鳥ってのは一年に二度タマゴを生むのさ。
  幻の極楽鳥のタマゴって言われてて、その味のせいでかねりの値がする代物だよ。一度貴族から盗んだ事があるけど味は知らないね。売ったから」
このアマ今、味とか言いやがったか。つまり今回のタバサの任務の理由ってのは……。

「美食」
「『たかがわたしの美食のため』とか言っておねえさまを火竜の住処に行かそうなんて意地悪姫にも程があるのね!きゅい!」
そうタバサとシルフィードが言った瞬間何か知らないが、やたら小気味良い何かが切れたような音が聞こえたような気がした。
特に気にしないでいると突然フーケが襟元を引っ張られる。
「な、何するのさ!?」
そんな抗議も無視してずーるずると引き摺るように引っ張っていく。
何事かと思い無言で一定の方向を見ながら進んでいくプロシュートの視線の先の物を見たが……見た瞬間冷や汗が思いっきり流れ出た。

進行方向にはヴェルサルテイル宮殿があったからだッ!

「お前何をやろうとしているんだァーーープロシュート!行き先はともかく理由を言えーーーーーーッ!」
「命令出すやつが死ねばこんなくだらねー任務も消えるって事だよな?おい」
そう言い放ち無駄に靴音を鳴らしながら進んでいくプロシュートを見て思考が一層最悪な方向に向かっていく事を感じたが
それでもまだ、まさか……?という思いだけは捨てたくはない。

「ストーーーーーップ!冗談よね?冗談って言って!」
「卵だぁ?そんなに食いてーなら極楽に送って死ぬほど食わせてやる」
引き摺られながらも必死に抵抗するが、地力の違いがある上にスタンドでも掴まれているため地面に後を残しながら引っ張られていく。
なんかもう、プロシュートの全身が黒い影のように見えるのはテンパりすぎての幻覚かなにかだろう。

「はーーーなーーーせーーー!大体あんた一人で十分だろ!わたしを巻・き・込・む・な!」
射程半径が200メイルもあるんだから仕掛けるにしても一人で十分だろ。
という事から出た必死の抗議だったが、無常にも次の一言で見事に撃破された。
「ガーゴイルっつーんだったか?その始末をオメーに期待してんだよ」
(こいつ本気かァーーーーッ!確実にわたしを巻き込んで正面からガリアと戦争おっ始めるつもりだッ!!)

――もう止めて!姉さんの胃のライフはゼロよ!

ゼロどころか、もうスデにマイナスに突入しているだろ、という突っ込みは置いといて
そんなお馴染みの幻聴まで聞こえてきたが、本人は今頃胸を揺らしながら家事に勤しんでいる事だろう。
確かに、こいつの能力ならメイジでも百人単位で相手できるだろうが、氷という致命的な対応策がある。
もしそれがバレでもしたら相当厄介だ。ガーゴイルとかもいるし。
捕まりでもしたら遠島どころじゃ済まない。死刑で済めばまだいい方だろう。
最悪考えられるありとあらゆる拷問を受けて晒し者という事も十二分にありえる事だ。

逃げられたとしても追われる事になる。その事に関しては今でもそうだけどハッキリ言ってレベルが違う。
並みのメイジの2~3人ならどうにでも始末できるが、国に喧嘩売った相手に並みのメイジが追っ手になるはずがない。
この国自慢の花壇騎士団総出で掛かられてはどうにもならないのだ。
いや、こいつはいいよ。杖なんかなくても能力が使えて自分の年齢をも自由に変えられる上に射程も長いから追っ手なんかどうにでもなる。
つまり貧乏くじを引くのは自分一人であまりにリスクが高い。
かと言って、逃げるという選択肢も無い。恐らく、逃げようとしたりしたら即老化を叩き込まれる。
宮殿が射程内に納まってしまえば確実にアウトだ。間違いなく自分も共犯に見られるハメになる。

唯一の望みはバレないように暗殺してくれる事だが、この男の性格的にも能力的にそんな事するはずがない。
Q.ある集団の中に紛れて暗殺対象が居ます。どうやって対象を始末しますか?
という問題があれば間違いなく
A.全員始末する。
と答えるようなヤツである。きっと……いや、絶対能力全開で正面から堂々と乗り込むに違いない。

一歩、また一歩と宮殿に近付く毎に絶望感がフーケを襲っていくが唐突に歩みが止まった。
「ダメ」
と、タバサが首を横に振りながらそう言ったからだ。
「何だ?この際、オメーの仇ってのも含めて纏めて始末してやるんだがよ」
最初から広域老化を叩き込む。本来のグレイトフル・デッドの大前提だ。
広範囲で巻き込むなら、ついでに始末してやれば丁度いいという具合である。

「わたしが欲しいのは、伯父の首一つ。他はいらない」
そう小さく呟いたタバサを見て、こいつはオレ達とは違うわ。と前に思った事を撤回した。
暗殺チームなら、目的のためなら必要があれば一般人だろうと遠慮なく巻き込む。
無論、進んで攻撃したりはしないが当時はそれだけ必死だった。

「それに、本当なら自分一人の手で仇を討ちたい」
続けてそう言ってきたが声こそ小さいが強い意志を持っている。是非ともペッシに聞かせてやりたい言葉だ。
「つまり、この仕事やってんのは自分を鍛えるためってか?」
その言葉に頷いたタバサを見て、今度は逆に呆れてきた。
過酷な環境の任務をこなしていけば自然と地力も上がり鍛えられる。
一見良い事のようにも思えるが、実際自分達自身がそうだっただけに死ぬ確率の方が遥かに高い事ぐらいは承知している。
それを、このちんちくりんの小娘は昔から当然のようにやっているわけだ。
「ったく……オレの負けだ。依頼の条件って事にしといてやる」
そう言いながらフーケから手を離しかき上げるようにして額の右半分に手をやる。
足元でフーケが小さく『助かった……』と呟きながら荒い呼吸をしているのは気のせいではないだろう。

だが、見た目十二~三のガキに言い負かされっぱなしではない。
タバサに近付くと、その頭を勢いよく叩く。
それと同時にパァンと良い音がし、タバサの頭がぐらぐらと揺れている。
「一人で殺れると思うだけなら、オレらだってとっくにボスを殺れてんだよ。
  大体、ボスを相手にする以前に……ブチャラティどもに負けちまったからな」
直接敗れたことを知っているのはホルマジオとイルーゾォだけだが
性格や能力、なにより数の少なさから見て他の連中も一人でブチャラティどもを相手にしたはずだ。
甘く見ていたわけではないが、暗殺チームに属するだけあって単独行動向けのスタンドが殆どだったというのが最大の理由か。
過程として他の連中も誰かと組んで仕掛ければ結果は変わっていたかもしれない。
例えば、イルーゾォが鏡の中へ引きずり込み、無防備な相手を対スタンド戦闘能力の低いリトル・フィートで攻撃し尋問なり始末なりをする。
または、ベイビィ・フェイスの息子やギアッチョが攻撃を仕掛け、敵が気を取られている隙にリゾットがメタリカで確実に始末をする。
と、組み合わせ次第で戦闘力は何倍にもなる。

もっとも、過去の事をどう考えようとも仕方の無い事だが、これから先の教訓としては覚えておいて損は無い。
特に、これから同じような事をやろうとしているタバサにとっては。
「おにいさまの言うとおりなのね。この前だって、おねえさまの味方してくれる人が現れたのに無視して追い返したし」
「オメーみたいなガキが肩肘張りすぎなんだよ。ちったぁ力抜いた方が身のためだ。くだらねー事はこういうヤツに押しつけりゃいいんだよ」
「今、少しでも良い事言ったなって思った事を全力で撤回させてもらうよ」
こういうヤツと言って指差したのは、もちろん今現在、地面に蹲っているフーケの事だ。
あくまで自分はくだらない事に関わりたくないというあたり相変わらずベリッシモ自己中である。

「……覚えておく」
その相変わらずの無表情で返してきた答えに、どこまで分かってるんだかな。と半信半疑だったが、まぁ今はこれでいい。
とにかくそういう事なら、このくだらねー任務をさっさと済ませてこっちの仕事を片付けねばならない。
かったるそうにシルフィードに乗り込むと、とりあえず当面は火竜を何秒ぐらいで老死させられるかを考える事に決めた。

臨時北花壇騎士御一行――地獄の(何にとっての地獄かは知らないが)火竜山脈ツアーに出発。
イザベラ――危うい所で老死を回避。ただし本人は何も知らない。


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