ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ねことダメなまほうつかい-8

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匿名ユーザー

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 ルイズたちはウェールズ皇太子に案内されて応接室に来ていました。
 とても広くきれいなお部屋なのですが、ルイズたちは冷や汗をダラダラと流していました。
 たくさんの戦場を駆け巡ったアニエスやあまり表情がないタバサでさえも滝のように汗を流しています。
 その理由は天井にありました。
 なんと、たくさんのアルビオン貴族たちが天井から釣り下がっているからです。
 それだけではありません。
 天井を覆い隠すほどのアルビオン貴族たちの視線が、ずっとルイズたちに向けられているのです。
 ルイズたちは30代に見える50代の女性のように肝っ玉が据わっていませんので、
 なるべく天井を見ないようにビクビクしていると、扉に化けていたアルビオン貴族に付き添われた
 ティファニア姫がお茶とお菓子を持ってやってきました。

「皆様、お待たせしました」
「ひ、姫殿下直々とは……き、恐縮であります」

 アニエスは王族の方からお茶をいただけるとは思っていなかったので、ガチガチに固まってしまいました。
 ルイズたちも失礼がないように、手が震えながらも、学院でならった貴族の作法でお茶を受け取ります。
 ティファニア姫はお茶とお菓子を配り終えるとウェールズ皇太子のとなりに座りました。
 ですが、ルイズたちがいつまでたってもお茶に手をつけないので、ふしぎに思ったティファニア姫は
 ルイズにたずねてみました。

「あの、ひょっとして紅茶はお嫌いですか?」
「い、いえ!とんでも御座いませんです!」

 緊張のあまり、言葉が変になっているルイズが天井を気にするようにチラチラと見ているので、
 ティファニア姫も天井を見上げて、やっとアルビオン貴族たちに気がつきました。
 それからルイズを見て、ポンと手をたたきます。
 ルイズはこころの中でガッツポーズをとりました。
 ギーシュたちもこころの中でバンザァ~イと叫び、ルイズに拍手を送ります。

「ごめんなさい、わたしったら気がつかなくて。みんなのお茶も用意しないと……」
「テメェーッ!全然違うだろうがぁーーッ!!」

 ティファニア姫がとぼけたことを言って席を立ったので、キュルケは思わずツッコミを入れてしまいます。
 そのキュルケに天井から殺意のこもった視線が集中するので、キュルケは天井に向って謝りながら
 刑務所の方がマシだと本気で思いました。
 キュルケの言っていることがわからないティファニア姫がキョトンとしていると、ウェールズ皇太子が
 笑いながら言いました。

「違うよテファ。彼女たちはいつ自分が彼らに襲われるか心配しているんだ」
「そうなの?みんな優しいのに……ごめんなさい、そう言うことだから部屋の外で待っていて」

 ティファニア姫が天井のアルビオン貴族たちに言うと、彼らは音も無く消え去りました。
 ルイズたちはようやく落ち着いて、お茶に手を伸ばします。
 それから、こころの中でウェールズ皇太子に向って、わかっててやってたのねと、ため息をつきました。

 お茶とあまいお菓子を楽しみながら、天井や床、壁などに隠れたアルビオン貴族に襲われないように、
 ギーシュは言葉を選びながらウェールズ皇太子にティファニア姫のことをたずねました。
 ウェールズ皇太子は、難しい顔をしながら静かに語りはじめました。

「テファは正確にはエルフではない。わが叔父であるモード大公と奥方の間に生まれたれっきとした人間だ」
「でしたら、なぜエルフのように耳が長いのですか?」
「ファントム・ブラッド……?」

 タバサの呟きにウェールズ皇太子はうなずきました。
 ファントム・ブラッドとは先祖帰りとも呼ばれ、先祖の血が世代を超えて現れることを言います。
 ティファニア姫の耳がエルフのように長いのは、過去にエルフの血がアルビオン王家に入った証明であり、
 つまり、アルビオンの王族は過去にエルフと結婚しているということになります。
 そして、この事実がレコン・キスタにアルビオン王家に反逆する大義名分を与え、ほかの国が王家を
 助けようとしない理由になっていました。
 ティファニア姫は泣きそうな顔になりながら、ポツリと呟きました。

「わたしが生まれなければ……みんなに迷惑を掛けることもなかったんです」
「それは違うよテファ。ジェームズ陛下や叔父上たち、もちろん僕もきみが生まれたのがとても嬉しいんだ。
 なにしろ僕たちはきみに出会うために何千年も待っていたんだからね」

 ウェールズ皇太子は、まるで遠い昔に失った娘を見るような、嬉しさと悲しさが混ざった眼差しで
 落ち込んでいるティファニア姫を慰めます。
 そのお姿にルイズたちもボロボロと涙を流して泣きました。
 たとえ姿がどうであろうとも、生まれた命に罪は無いのです。
 ルイズたちは悲しんでいましたが、そんなことは知ったことじゃない猫草は鉢植えから自分を引っこ抜くと、
 ティファニア姫が下げている赤く大きな宝石がはめられたペンダントに近づきました。
 アンリエッタ姫の冠やワルド子爵のヒゲとは違う、なにか惹かれるものがそのペンダントにあったのです。
 ウェールズ皇太子のおかげで元気を取り戻したティファニア姫は、猫草に気づいて抱き上げました。

「あら、これが気になるの?」
「使い魔くんはお目が高いな。そのペンダントはアルビオン王家に伝わる宝のひとつさ」

 ティファニア姫が身に着けているペンダントは、始祖の秘宝とは別に昔からアルビオン王家に伝わる
 宝物のひとつで、その所有者に栄光と繁栄を約束するという伝説を持つ栄者の赤石と呼ばれるものでした。
 ティファニア姫は首から赤石をはずすと、テーブルにおいてルイズたちに見せました。
 ルイズたちは滅多なことでは見られない宝物を食い入るように見ていましたが、ギーシュだけは
 まったく別のものを見ていました。

「それも気になるけど……ゴクリ……だよん」

 ギーシュは恐れ多くもティファニア姫の胸を見ていました。
 ティファニア姫は胸が目立たないようなドレスを着ていましたが、グラモンの男の眼はごまかせません。
 キュルケの大胸筋のように大きくしなやかで、タバサのほっぺたのように柔らかく、ルイズのこころのように
 気高いティファニア姫の胸はまさに人類の至宝!だと思ったギーシュは、感極まって杖を振ると
 魔法で浮かび上がって仰向けになり、マザリーニ枢機卿のマネをしながら言いました。

「ブラボー!……おお……ブラボー!!」
「はぁ……?」
「ギーシュをやっちゃいなさい!」
「ニャウ!」

 ギーシュがなにを見ていたのかわかったルイズは、猫草に命令します。
 猫草は、なかよしのヴェルダンデの主人であるギーシュをあまり傷つけたくなかったので、
 ギーシュの顔を空気を抜いた特別製の空気の球で覆ってやりました。
 陸で溺れるさかなのようなギーシュを無視して、ルイズたちとティファニア姫が楽しそうに
 おしゃべりするのを、ウェールズ皇太子は優しく見守りながらこれからのことを考えました。
 実はアンリエッタ姫のお手紙はアルビオン王国の王都であるロンディニウムにある
 ハヴィランドの宮殿に保管してあるのです。
 レコン・キスタにはまだバレていないとウェールズ皇太子は確信していますが、
 お手紙を取り戻さなければ、ルイズたちの任務は失敗してしまいます。
 まずはお城を囲んでいるレコン・キスタ兵隊たちをなんとかしないといけません。
 ウェールズ皇太子は切り札のビンと卵のことを考えました。
 それはティファニア姫のために使って欲しいとエルフたちから贈られたものなのですが、
 ビンにはカビが入っていて、そのカビは生き物に取りついてその生き物が自分より低いところに降りると
 爆発的に繁殖して生き物を食い尽くしてしまう恐ろしいものでした。
 もうひとつの卵のようなものは、中にバイ菌が入っていてこれに触れた生き物を内側から
 ドロドロに溶かしてしまうという、やはり恐ろしいものなのです。
 これらはそれぞれ100個あり、それを使えばこの城を囲んでいるレコン・キスタをやっつけられます。
 ですが、これはウェールズ皇太子の趣味ではありません。

「あ!わたしったらすっかり忘れていたわ!!」
「ルイズ様、突然どうしたのですか?」

 ルイズは思い出したようにポケットを探ると、アンリエッタ姫からお預かりした水のルビーを取りだしました。
 本当ならこのルビーが大使の証になるのですが、船での騒動ですっかり忘れていたのです。
 水のルビーを手に乗せてティファニア姫にお見せしていると、バギャアッとウェールズ皇太子が
 テーブルを壊して立ち上がり、ルイズに近づいてきました。
 それがあまりに恐ろしいのでルイズたちは死を覚悟しましたが、ウェールズ皇太子は晴れやかな顔で
 ルイズの手を握るとお礼を言いました。

「これこそはまさに水のルビー!大使殿、それにテファも今からぼくと一緒に来てもらいたい」
「も、も、も、モチロンですわっ!!」
「はい、兄さん」

 ウェールズ皇太子はキュルケたちにしばらく眼を開けないように言うと、子犬のように震えるルイズと
 ティファニア姫を引き連れてどこかに行ってしまいました。

 ルイズとティファニア姫はわけがわからないまま、お城の一番上にあるバルコニーに連れてこられると、
 ウェールズ皇太子はいつも身につけている風のルビーをティファニア姫に渡しました。
 それからふたりにそれぞれのルビーを指にはめるように言うと、これから起こることの説明をはじめました。

「兄さん、本当にうまくいくのかしら?」
「大丈夫だよテファ。ぼくを信じるんだ」

 ウェールズ皇太子の説明を聞きましたが、ティファニア姫のようにルイズも不安で仕方がありません。
 バルコニーから見える風景はとても素晴らしい眺めでしたが、今はお城の周りをたくさんのレコン・キスタの
 兵隊たちが囲んでいるので絶望しか感じられません。
 ウェールズ皇太子に促がされて、ルイズとティファニア姫は指輪をはめている方の手をつなぎました。
 するとどうでしょう、ふたりの手からたくさんの虹が現れて空や大地に降り注いでいきます。
 この美しい光景にルイズとティファニア姫は目を奪われてしまいました。

「ふたりとも、もうそのくらいでいいだろう」
「あ……はい」

 ふたりが手を離すと、やがて虹も消えてしまいます。
 虹が消えた後には、お城を囲んでいたたくさんのレコン・キスタの兵隊は、まるで虹に攫われたように
 いなくなっていました。

「兄さん、いったいなにが起こったんですか?」
「テファ、世の中には知らない方が良いこともあるんだよ」

 ウェールズ皇太子の言葉になにか恐ろしいものを感じて、ふたりはそれ以上聞くことができませんでした。
 この現象は後に『悪魔の虹』と呼ばれ、ハルケギニア七不思議のひとつとして数えられます。
 なにが起こったのかわかりませんが、お城を囲んでいたレコン・キスタの兵隊がいなくなったので、
 ウェールズ皇太子たちといっしょにルイズたちもファルコン号乗り込み、王都ロンディニウムを目指して
 青空を飛んでいきました。 


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