ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ティータイムは幽霊屋敷で-12

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
「何をボサっと突っ立てるんだい!」

イザベラが呆然としていたギーシュを引きずり倒す。
ギーシュの顔を地面に押し付けたまま、その場に伏せて前を見据える。
悲鳴や断末魔が響き渡り、何かが焼ける臭いが周辺に漂う。
学院が賊の襲撃を受けている事は疑いようがなかった。

「いきなり何をするんだ!?」
「いいから静かにしてな!」

顔を起こしたギーシュを再び地面に押し戻す。
“むぎゅ”っと不思議な悲鳴を上げるギーシュを睨む。
この馬鹿には危機感とかそういうものはないのか。
今の状況がヤバイ事ぐらい子供でも分かるだろう。
ここで大声を上げるなんて敵陣のど真ん中で野営するぐらいマズイ。

もちろんカステルモールや東薔薇花壇警護騎士団の実力は知っている。
だけど、それも十全に発揮されればの話だ。
もし、ここが勝手知ったるグラン・トロワなら霧で覆おうが関係ない。
ものの数分足らずで間違いなく襲撃者を撃退できる。

でも、ここは初めて訪れたトリステイン魔法学院で、
辺りには襲撃者の他に他国の王族とそれを守る騎士団、学院の生徒達、
それに品評会の参観しに来た生徒の家族とその護衛、
ついでに王族にゴマすりに来た阿呆どもで溢れ返っている。
緊急事態とはいえ貴族を手に掛けたとなれば確実に問題視される。
この濃霧の中で襲撃者だけを識別して仕留めなければならず後手に回る一方。
襲撃者はその事も計算に入れて動いているに違いない。

「……真っ当な連中じゃないね。
こんな事になるって初めから分かってりゃあ、
東薔薇花壇じゃなくて北花壇の連中を送り込んでやったのに」

非正規の実力者だけを揃えた騎士団の名を挙げて毒づく。
連中なら戦場がどこであろうと関係ない。
最悪、目的の為なら無差別殺戮だってやりかねないが、
そうなった場合もガリア王国は関係を否定できる。
それがガリアの暗部を司る北花壇警護騎士団だ。

(無いものねだりしても仕方ないけどさ)

フンと鼻を鳴らして冷静にどうするべきかを考える。
襲撃者の数は不明。前後の状況を考えるとそれほど多くはないはず。
味方は東薔薇花壇警護騎士団の他にも多数。
だけど互いの連携が取れてなければ幾ら数がいても無意味。

目の前には役立たずが一匹。
だけど使えない駒も上手く使うのが指揮官の腕の見せ所。
とりあえず非常時の囮や盾としてキープしておこう。

考えられる手は二つ。
このまま敵をやり過ごすか、それとも騎士団と合流するか。
どちらにしても隠密行動に徹する必要がある。
……なのに私の今の格好は。

父上から贈られてきた深みのある青いドレス。
この白い霧の中で、わたしの格好は明らかに目立つ。
地面に伏せているとはいえ見つからなかったのは
単に運が良かったからに過ぎない。

(ああっ畜生! 嫌な予感はしてたんだよ!)

今まで一度だって父上からまともなプレゼントをされた事ないのに、
今回に限ってこんな素敵なドレスを贈ってくるなんて!
雨どころかアルビオン大陸が降ってきてもおかしくない!
そして、やっぱりと言うべきか、わたしはトラブルに巻き込まれている。
脱いでいる時間はないし着替えもない。
疫病神を背負ったと言うよりも着込んだわたしの眼に役立たずの姿が映る。
白い霧の中に完全に溶け込んだブラウスの色。

「その薄汚い上着、わたしに寄越しな!」
「ちょっ、ちょっと何をするんだ! 君には淑女としての嗜みが」
「いいだろう。別に見られても減るもんじゃなし」

ギーシュへと掴みかかり服を剥ぎ取る。
容赦のないイザベラの行動に必死に抵抗するギーシュ。
取っ組み合いに夢中になっている最中、前方の白い霧が大きく揺らいだ。
それに二人は気付かず、故に対応する間さえなかった。
放たれた矢のように飛び出した男が、瞬時にギーシュを組み伏せた。
腕を掴んで捻り上げて地面にギーシュの身体を縫い止める。
首には手をかけられ、不用意な動きを見せれば直ちに圧し折られる。
咄嗟にギーシュはイザベラの方に視線を送った。
それは彼女の身を心配したからか、あるいは助けを求めようとしたのか、
だが彼の視線の先に見えたのはイザベラの顔ではなかった。

彼が目にしたのは遠ざかっていくイザベラの背中。
ギーシュが捕まった瞬間、彼女は脇目も振らず脱兎の如く逃げ出した。
背中越しでは分からないが、きっと彼女の顔は笑っているに違いない。
“わたしじゃなくて良かった。マヌケなのがいて助かった”と。
ギーシュは涙を浮かべながら本日何度目かの地面とのキスをさせられていた。

騎士の杖から放たれた風が唸りを上げて迫る。
全身を布で覆った襲撃者が同じく風を打ち放ちながら背後に飛ぶ。
しかし威力で勝る騎士のエア・カッターが襲撃者の風を打ち消し、空中に逃げた両足を切り裂く。
男の足が地面に着いた瞬間、自重に耐え切れず傷口から血が溢れた。
力を失い、男の身体がうつ伏せに倒れ込む。

「手こずらせやがって…。今、止めを刺してやる」
「待て! 生かして捕らえろ! そいつには聞きたい事が山ほどある」

杖を手ににじり寄る騎士に、別の騎士が制止の声を上げる。
倒れた男は足を動かそうとするも微動だにしない。
その場に這い蹲った男に騎士は杖を向けた。
詠唱するのはエア・ハンマー。
殺傷力を抑えた魔法を男の後頭部へと狙いを定める。

倒れた男も杖を手に詠唱を始める。
だが男の魔法は騎士には遠く及ばない。
たとえ何を放とうとも風の魔法で打ち払う自信が騎士にはあった。
もし反抗してくれば、それを理由に仲間の仇を取ろうとも思っていた。
騎士が笑みを浮かべる。そして男も笑みを浮かべていた。

男の詠唱が終わる寸前、くるりと杖の先端が向きを変える。
杖が向けられた自身の顔。放たれた火球が男の顔へと吸い込まれる。
破裂したような音と共に男の頭部は失われた。
放たれた炎は顔に留まらず、上半身から全身へと燃え広がっていく。

「我々は敵を侮っていたようだ」

その惨状を眺めてもう一人の騎士は呟いた。
そして杖を構えた姿勢で硬直する騎士の肩を叩く。
勝ったのではない、敵を逃してしまったのだ。
逃げ切れないと考え、自分の身体ごと証拠を隠滅したのだ。 

「隊長に連絡を取れ。連中はただの賊ではない。
高度な訓練を受け、我々以上の覚悟を持った危険な敵だ」

猛り狂い燃え盛る男の身体。
支える対象を無くした男の首には、
始祖の姿を抽象的に象った聖具がぶら下がっていた。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー