ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク 改訂版-06

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
6話

「諸君、決闘だ!」

そう言ってギーシュが薔薇の造花の杖を掲げると、周囲から大きな歓声が上がった。
ヴェストリの広場にはすでに多くの生徒が集まり、ギーシュとホワイトスネイクを取り囲んでいる。
ルイズは生徒の輪の最前列で、ホワイトスネイクの背中をじっと見つめていた。

「さて、逃げずに来たことは褒めてあげるよ」
「部屋ノ隅デ震エテイルコトヲ選バナカッタノハ立派ダッタナ」

食堂での応酬と同じように、ホワイトスネイクから挑発が返される。

「ふん、では始めさせてもらうよ」

そう言ってギーシュが杖を振ると、杖から薔薇の花びらが一枚離れた。
だが次の瞬間、薔薇の花びらは甲冑を着た女戦士の人形へと変わった。
人形は金属製らしく、全身が淡い金属光沢を放っている。

「ホーウ……」

ホワイトスネイクが感嘆した声を上げる。

「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。文句はないだろう?」
「御託ハイイカラサッサトソノ人形デ仕掛ケテコイ」
「そうかい、では遠慮なく」

ギーシュが言い終わるのと同時に女戦士の人形が走り出す。
が、数歩で立ち止まった。

「おっと、そういえばまだ名乗っていなかったな。
 僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。
 したがって僕の青銅のゴーレム、ワルキューレが君の相手をするよ」

そう言ってまたフッとカッコつけた。
ただこれがやりたかったがために女戦士の人形――ワルキューレを止めたようだ。

「では、いくぞ!」

その声とともに、再び走り出すワルキューレ。
ホワイトスネイクとの間合いを一気に詰める。
そして自身の拳の間合いにホワイトスネイクをおさめると、すかさずパンチを放ったッ!
ぶおん、と空気を切り裂く青銅の拳はホワイトスネイクのボディへと一直線に向かい――

グワシィッ!

受け止められたッ!

「な、なんだってぇ!?」
(コノ威力……パワーハCッテトコカ。
 私ノ方モパワーCガ妥当。ルイズハ近クニイナイシ、コノ距離ナラ当然ダナ)

驚くギーシュと、相手と自分を冷静に評価するホワイトスネイク。

「今度ハコチラノ攻撃ダ」

ホワイトスネイクは素早くワルキューレの懐に潜り込む。
そしてその伸びた腕を掴むと、一気に反動でワルキューレの体を宙に浮かせ――

ドグシャアッ!

頭から地面に叩きつけたッ!

「『ジュードー』トカイウヤツダ。パワーノ弱イ私ニハ、ウッテツケノ技デナ」
「な、な、な……」

予想だにしなかった事態にギーシュは言葉を失う。
彼の目の前で地面に突き立てられたワルキューレはしばらく手足を動かしていたが、すぐに墓標みたいに動かなくなった。
そしておろおろするギーシュとは逆に生徒達は大歓声を上げた。

「すっげぇーぜ、今の! あいつ、何やったんだ!?」
「ワルキューレを頭から地面に叩きつけるなんて……」
「野郎……面白くなってきたじゃねーか」

そしてルイズも、予期しなかったホワイトスネイクの実力に唖然とする。

「な、何なの? 今あいつがやったの……?」
「特別な体術」
「……え?」
「彼は体の反動を使ってゴーレムを投げ飛ばした。
 力任せに投げたのとは違う」

いつの間にかルイズの横に立っていたタバサが解説する。

「な、何であんたがここにいるのよ! っていうか今の説明……」
「この子が自分で見たいって言ったのよ、ルイズ」
「あっ、キュルケ!」
「ご機嫌いかが? 今朝は危うく寝坊するところだったそうじゃないの」
「う、うるさいわね! ちゃんと朝食には間に合ったんだからいいじゃないの!」
「はいはい。それでタバサ、あいつはどうなの?」
「分からない。動きに余裕があるから、まだ何か隠してるのは確実」
「ふ~ん……それは楽しみ。っと、そろそろ動きそうね」

一旦止まった戦いが、再び動き始める。

場所は変わってトリステイン魔法学院の学院長室。
ギーシュとホワイトスネイクの決闘が始まる、数分前のことだ。

「暇じゃのう……」
「平和ですからね」
「何かこう、面白いことでも起きんかのう……例えば決闘とか」
「学院長自らが風紀を乱さないでください。それと」
「何じゃ、ミス・ロングビル」

ドグシャァッ!

「ぶげぇッ!」
「私のお尻をなでるのはやめてください」

華麗なハイキックで老人を椅子から蹴倒す女性は、ミス・ロングビル。
反対に椅子から蹴倒された老人がオールド・オスマン。
ロングビルはオスマンの秘書で、そのオスマンはこのトリステイン魔法学院の学院長を務めている。

「あいたたた……」

ミルコ・クロコップのようなハイキックをモロに食らったにもかかわらず、何もなかったかのように立ち上がるオスマン。

「今度やったら王宮に報告しますからね」
「ふん。王宮が怖くて学院長が務まるかい」

オスマンはふてくされたように言うと、床から何かを拾い上げた。

「気を許せる友達はお前だけじゃ、モートソグニル。
 ん、ナッツが欲しいのか? ちょっと待っておれ」

オスマンはポケットからナッツを数粒取り出すと、
手の上にちょこんと乗っているハツカネズミのモートソグニルに近づける。
モートソグニルはちゅうちゅうと鳴いて喜ぶと、ナッツをかじり始めた。

「ん、どうじゃ? うまいか? もっと欲しいか?
 じゃがその前に報告じゃ、モートソグニル。
 ……ほうほう、純白かね。だがミス・ロングビルは黒にかぎ」

ボグォッ!

「うげぇっ!」

オスマンの言葉を遮るようにして叩き込まれたのは、胃袋に正確に打ち付けられるヒザ蹴りッ!
そして頭から床に倒れこんだオスマンに、さらに追撃の後頭部への踏みつけッ!

ゲシッゲシゲシィッドガッドゴオッドゴッドゴッ!

「分かった! 分かったから! ちょ、やめるんじゃミス・ロングビル! 痛い! 痛いからッ!」

そんなふうにしてオスマンがロングビルに蹴り回されていると、不意にドアが大きな音を立てて開いた。

「オールド・オスマン!」
「何じゃね?」

そう答えたオスマンは、すでに床の上でなく椅子の上に座っていた。
まるで何もなかったかのようだ。
ロングビルも同様に、部屋の隅の椅子に腰かけて物書きをしている。
まさに早業である。
学院長室のバイオレンスな日常はこうして保たれているのだ。

「たた、大変です!」

そう言って広すぎる額を汗で光らせているのはコルベール。
使い魔召喚の儀式に立ち会っていた教師だ。

「なーにが大変なもんかね。どうせ大したことのない話じゃろうて」
「そんなこと言わずに! こ、これを見てください!」

そう言ってコルベールがオスマンに突き出した本のタイトルは「始祖ブリミルと使い魔たち」。

「ほーう……それでこの古い本がどうしたのじゃ?」
「その本の……このページです! それと、これを!」

コルベールが本のページと、一枚のルーンのスケッチをオスマンに見せる。
オスマンの目が本とスケッチを素早く行き来した。
その眼は先ほどまでの好々爺の目ではない。
熟練の魔法使い特有の、鷹のように鋭い目だった。

「ミス・ロングビル。少し席をはずしてもらえるかね?」
「かしこまりました」

ロングビルはそれだけ言って、学院長室を出た。
と、入れ替わりに一人の教師が血相を変えて飛び込んできた。

「オールド・オスマン! い、一大事です!」
「今度は何じゃ?」

オスマンが眉間にしわを寄せて言う。

「それが、ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がいるようで……」
「決闘? やれやれ……暇を持て余した貴族は、本当にロクなことをせんのう」

今さっき暇を持て余して「決闘でも起きないかな」とか言った揚句にセクハラしていた男とは思えないセリフである。

「それで、決闘しとるのはどいつじゃ?」
「は、はい……一人はギーシュ・ド・グラモン。もう一人は……」
「グラモンのとこのバカ息子か。どーせ女の子の取り合いでもしたんじゃろうて。それでもう一人は誰じゃ?」
「もう一人は……その、私も信じられないのですが……」
「何じゃ、早う言うてみい」
「……亜人です。昨日ミス・ヴァリエールが召喚して、契約したやつです」

思わず顔を見合わせるオスマンとコルベール。

「よろしい。ではその決闘は放っておきなさい」
「ええ!? い、いいんですか? 教師の中には『眠りの鐘』の使用許可を求める者もいますが……」
「……ギーシュ・ド・グラモンと戦う亜人はどんなヤツじゃね?」
「へ? は、はあ……ミス・シュヴルーズの話では、言葉も話せるし授業も聞けるとのことでしたが……」
「つまり頭はいいんじゃろ? だったらやり過ぎるようなことはせんハズじゃ。放っといて構わんよ」
「そ、そうですか……」

そう言って教師が学院長室を出て行くのを見届けると、壁にかかった大きな鏡に杖を振った。
すると、その鏡にある光景が映し出される。
ヴェストリの広場の、今まさに行われている決闘の光景だった。
鏡の中ではギーシュと亜人――ホワイトスネイクが向き合い、
二人の間にギーシュのゴーレムが頭から地面に突き立てられていた。

「……コルベール君。わしの判断は合っておったと思うかね?」
「まだ分かりません。でも、間違っていたと分かった時には全てが手遅れでしょう」
「そうじゃな……そうならんようにせんとなあ」

机の上でナッツをかじっていたモートソグニルが不意にぴょんと窓に飛び移ると、そのまま外に出て行った。
戦いが動いたのは、ちょうどその時だった。

場所はヴェストリの広場に戻る

「ふふ……ま、まさか僕のワルキューレを倒すとはね。な、中々やるじゃあないか。
 だが、これで終わったと思うなよ!」

冷や汗をぬぐいながらギーシュが再度薔薇の造花の杖を振るう。
杖から離れた花びらは6枚。
それらが宙に舞い上がって、6体のワルキューレになって地面に降り立ったのはやはり一瞬の出来事だった。

「おいおいおいおいおいおい! ギーシュのやつ、出せるワルキューレの残り全部出したぞ!」
「あれで頭に血が上っちゃったのかなあ?」
「そりゃああんなの見せられたらなあ……」

ギーシュの陣容に生徒も驚きの声を上げる。
だが――

「サッキノガ6体カ。面白クナッテキタジャアナイカ」

ホワイトスネイクは焦り一つ見せずに、むしろ楽しそうに言った。

「ふふん、そうやってのん気してられるのも今のうちさ。
 考えてもみなよ、君? 6対1だぜ? 勝てっこないよ。
 もし君が僕に『ごめんなさい』と言えば」
「脳ミソガクソニナッテルラシイナ」
「な、なんだとお!?」
「ソンナ寝言聞イテルヒマガアッタラサッサトソイツラヲ私ニ差シ向ケロ」
「……そうか、そんなに死にたいんだったら!」

ギーシュが杖を振るうと、ワルキューレたちの目の前の地面から武器が突き出てきた。
剣、両手剣、長槍、ランス、斧、スレッジハンマー……。
いずれも大変な重武装だった。
そしてワルキューレたちが、それらを手に取り、ホワイトスネイクに向けて構える。

「今ここで殺してやるッ!」

ギーシュの声とともに、一斉にワルキューレがホワイトスネイクに襲い掛かる。
やられる!
次の瞬間に訪れているであろう凄惨な光景に、思わず目をつむるルイズ。
その直後に大きな歓声が上がった。

やられ、たんだ。
あいつが、あのにくたらしい嫌味な使い魔が、ホワイトスネイクが!
ルイズが絶望に近い、うすら寒い感情が自分の心に湧きあがってくるのを感じる中、
その肩をぽんぽん、と叩かれた。
思わずルイスは振り向く。

「なーに目なんかつむっちゃってるのよ、ルイズ」

キュルケだった。

「でも、でもあいつが!」
「自分の使い魔の安否ぐらい、自分で確かめなさいよ」

そう言われて、顔を正面に向けられるルイズ。
その目に飛び込んだ光景は――

(私ノスピードハA。上々ダナ。
 ソレニ対シテコイツラハCッテトコカ。
 何テ、スットロイヤツラナンダ)

ホワイトスネイクはワルキューレたちの有様に呆れながら、大振りの斧の一撃をやすやすとかわす。
その後ろから飛び込むようにして襲ってきたランスの突きも、とっくに見えていた動きだった。これも難なくかわす。
さらに両手剣の横薙ぎ、長槍の連続突き、スレッジハンマーの振り下ろしが立て続けにホワイトスネイクに向かってくる。

だが、全部遅すぎた。
スキを窺うようにして仕掛けてきた、剣を持ったワルキューレの攻撃も見え見えの奇襲にすぎなかった。
軽くかわして、ついでに足を引っ掛けてやった。
ワルキューレが無様にすっ転んで地面を転がる。

そうやってホワイトスネイクがワルキューレをあしらうたびに、周りの生徒たちから歓声が上がった。
あの亜人は何なんだ?
何であれだけ武装した、しかも6体もいるワルキューレ相手にあんなことができるんだ?
なんてヤツなんだ、あの亜人は!
そんな呆れたような、あるいは感嘆したような感情が彼らの歓声の源だった。

「あいつ……すごい」
「そうね。あんなに大きいのに、あんなに身のこなしが軽いなんて、感心しちゃうわ。
 ……でも彼、攻撃はしないのね」
「さっきみたいな投げ技は使えない。かと言って青銅のゴーレムを一撃で破壊できるようなパワーは彼にはない」
「……何で分かるのよ?」

タバサの推測にルイズが異議を唱える。

「一発ぶん殴っただけでワルキューレを壊せるなら、最初の一体をそうやって壊してるじゃない?」
「あ……そ、それもそうね……」
「でもキュルケの言うとおり。このまま避け続けてもそれだけじゃ意味がない」
「じゃあ彼はどうするのかしら?」

キュルケがタバサに尋ねる。
タバサの視線の先には前後をワルキューレに挟まれたホワイトスネイクがいる。
前のワルキューレは斧を、後ろのワルキューレはランスを構えている。

「彼は、避ける」

タバサが呟くように言った。
前門のワルキューレが斧を振りかぶる。
後門のワルキューレが構えたランスをホワイトスネイクの背中に突き出す。
瞬間、ホワイトスネイクは地面を強く蹴り、宙に飛んだ。
斧のワルキューレとランスのワルキューレが、互いに攻撃すべき相手を見失い――

「避けて同志討ちさせる」

ズゴォッ!

互いの得物が、互いに直撃したッ!
一方のワルキューレは胴体をランスで穿たれ、もう一方のワルキューレは斧で首を跳ね飛ばされていた。



「くそッ、だが!」

ギーシュは毒づきながらもすぐにハンマーを携えたワルキューレをホワイトスネイクの着地点に先回りさせる。
自由落下するホワイトスネイク。
それを待ち受けるワルキューレ。
ホワイトスネイクはそれにちらりと目をやると、小馬鹿にしたように笑った。
そしてワルキューレのハンマーの射程に、ホワイトスネイクが入ったッ!

「今だッ!」

ゴヒャァァッ!

ギーシュの声に応じ、ワルキューレは打ち上げるようにハンマーを振るうッ!

だが、手ごたえなし。
ハンマーがホワイトスネイクを粉砕する音は、響かなかった。

(あれ? 何だ? 何が起きた?)

混乱するギーシュをあざ笑うかのように、ホワイトスネイクはワルキューレの背後にすとんと着地した。

「言イ忘レタガ……私ハ射程圏内ノ空中ヲ自在ニ移動デキル。
 空中デ一旦停止スルクライ、造作モナイコトダ」

そう言ってホワイトスネイクは腰を落としてワルキューレの胴体に腕を回し、ガッチリとロックする。
そしてッ!

メシャッ!

バックドロップだッ!
後頭部から地面に叩きつけられたワルキューレは、自重と落下の衝撃で簡単に自分の首を手放した。


「くそぉぉぉーーーーーーーッ!!」

やけくそになったギーシュが残る3体のワルキューレでホワイトスネイクを取り囲む。

「やれぇッ!」

ギーシュの号令で、3体が一斉にホワイトスネイクに襲い掛かる。

「『ギーシュ』・・・・・・ダッタカ。ヤハリオ前ハ……」

ホワイトスネイクは3体の攻撃を容易く避ける。
さっきのようなそれなりのコンビネーションもない、
ただ3体が一緒に仕掛けてくるだけの攻撃などホワイトスネイクには何の意味もなさない。
ゆえに今回、ホワイトスネイクは避けるだけではなかった。
攻撃を避ける間際にワルキューレたちの武器の切っ先、矛先をわずかにずらしていた。
そしてホワイトスネイクが3体の包囲から抜けると同時に――

「タダノ、馬鹿ダッタナ」

ガッシィィーーンッ!

3体のワルキューレは一体化していた。
互いの武器で、互いの胴体を貫きあって。

「そ、そんな、ぼ、ぼぼ、僕の、ワルキューレが……ぜ、全滅……」

ギーシュがかすれた声でそう呟いたのと、ヴェストリの広場が大歓声に包まれたのはほぼ同時だった。

「や、やりやがった! あいつ勝っちまった!」
「ブラボー……おお、ブラボー!」
「グレート! やるじゃあねーかよ」

そして驚いていたのは、ルイズも同じだった。

「あいつ、あんなに強かったんだ……」
「すごぉーい! いいカラダしてるとは思ってたけど、まさかこんなに強いなんて!
 あたし、彼のこと気に入っちゃったかも……」
「ちょ、キュルケ! あんた本気なの!? っていうかあれはわたしの使い魔よ!?」
「そんなの関係ないわ。恋ってのは突然訪れるものなの。
 ツェルプストーの女はそれに何よりも忠実なのよ」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「二人とも静かに」

唐突にルイズとキュルケの会話をタバサが遮る。

「どうしたの、タバサ?」
「様子がおかしい」
「え……?」

タバサの言葉に従い、ルイズとキュルケは広場の中心に目を向ける。
そこにあったのは、腰を抜かして地面にへたり込むギーシュと、彼にゆっくりと歩み寄るホワイトスネイクの姿。

「お、お前! ぼぼ、ぼ、僕に、何する気だ!」
「私ガコノ決闘ヲ楽シミニシテイタ理由ハ3ツ」

一歩ホワイトスネイクが近づく。
しかしギーシュは動けない。

「ち、近寄るな! 来るなあ!」
「1ツ目ハハメイジノ戦イノ一端ニ触レラレルコト。
 私ハコノ世界ニ来テマダ日ガ浅イ。
 ナノデコノ世界ノ一般的ナ戦イニ直ニ触レラレタノハトテモ価値ノアルコトダッタ」

また一歩ホワイトスネイクが近づく。
しかしギーシュは動けない。

「なな、何言ってるんだお前! や、やめろ、近づくな! 来ないでくれ!」 
「2ツ目ハ自分ノ戦闘能力ノ現状ヲ測レルコト。
 ヤハリ戦闘能力トイウヤツハ実戦デシカ測レンカラナ。
 コッチニ来テカラ私自身ガ弱クナッテイルコトモ心配ダッタカラナ」

ホワイトスネイクが、ギーシュに手の届く位置まで来た。
しかし……ギーシュは動けない。

「そ、そうだ! ぼくが悪かった。ぼ、ぼくが悪かったんだ、だから……ひぃっ!」
「ソシテ3ツ目ハ……」

ホワイトスネイクがギーシュの胸元を掴んで無理やり立たせる。
ギーシュは動けない。逃げられない。
そして「それ」が行われる。

「だから許し」

ドシュンッ!

空気を切り裂くような音とともに、ホワイトスネイクの貫手がギーシュの額に突き刺さった。

「3ツ目ハ、オ前ノ記憶ト『魔法ノ才能』ヲ得ラレルコトダ」

「あいつ、やりおったわ!」

「遠見の鏡」で決闘を見ていたオスマンが叫ぶ。
同じく決闘を見ていたコルベールは既にここにはいない。
ヴェストリの広場に行ったのだろう。

「まさかとは思っとったが……ええい、モートソグニル!」

遠い場所で決闘を見張らせていた自分の使い魔の名を呼ぶオスマン。
すぐに返事と思しき鳴き声が返ってくる。

「眠りの鐘じゃ! すぐに鳴らせぃ!」

言うが早いが、オスマンは素早く杖を抜いてルーンを唱える。
「サイレント」の呪文だ。
その鐘の音の響くところにある者をことごとく眠らせる眠りの鐘。
響きは音としては学院長室まで聞こえなくとも、音の波として確実にここにも到達する。
うっかり自分も眠ってしまうわけにはいかないため、音そのものを遮断したのだ。

(たかだか子供の決闘とはいえ、死人を出すわけにはいかぬ)

オールド・オスマンは人間としてはダメな男だが、教師としては最上の男だったのだ。

「あ、あいつ、ギーシュを殺しちゃったの!?」

ルイズが震える声で言う。

「どうでしょうね……血は出てないみたいだけど、放っておくのはヤバそうだわ」
「同感」

キュルケとタバサが杖をホワイトスネイクに向けて構える。

「な、何してるの二人とも!?」
「止めるのよ。このまんまじゃ、本当にただ事じゃ済まなくなりそうだもの。
 別に彼を殺したりはしないから大丈夫よ」

そう言ってルーンを唱えるキュルケ。
タバサの方はすでにルーンを唱え終わっており、その目の前に7、8本のツララが形成されている最中だった。

そして、タバサがツララをホワイトスネイクに向けて飛ばそうとした瞬間、その鐘の音は響いた。
決して大きな音ではなく、しかし心の奥底にまで浸み渡る音。
その音がタバサの体から力を奪っていった。

(こ、これ、は……)

薄れゆく意識の中で、タバサは音の正体を理解した。

(これは、『眠りの鐘』)

その眠りの鐘の影響は、ホワイトスネイクにも及んだ。

「コノ音……何、ダ……コレハ?」

全身から力が抜けていき、激しい睡魔がホワイトスネイクを襲った。

「第、三者ノ……介入カ? アルイハ……ダガ……!」

ホワイトスネイクは、ギーシュの額から貫手を引き抜いた。
引き抜いた指に挟まれていたのは輝く二枚のDISC。
貴重な戦利品だ。
滅多なことでは手放せない。
こんな、わけのわからない攻撃なんかのためには、決して。

「コレハ……回収……スル。カ、確、実、ニ……」

最後のパワーを振り絞って体内にDISCを収納すると、ホワイトスネイクは煙のように姿を消した。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー