ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと使い魔の書-07

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ゼロと使い魔の書
第七話

広場には既に観衆が集まっていた。ギーシュの取り巻きだけではない。全員入れれば数十人はくだらないだろう。
これから殺し合いが始まるというのに、それを見物しようという神経は理解に苦しむ。果たして、最後まで見とどける覚悟があるのだろうか。
「ほう、逃げずに来たか」
向こうから声をかけてきた。黙っていると、無視された事が頭にきたのか、憎憎しげな視線を一瞬こちらへ向けた。
「諸君、決闘だ!」
ギーシュが声を張り上げる。
それに応える観衆。純粋にこれから始まるショーに期待しているという表情だ。
もしかすると、貴族が平民を手打ちにするところを見物するというのはそう珍しい事でもないのかもしれない。だとしたらろくでもない世界だ。
「僕はメイジだ、だから魔法を使わせてもらう」
ギーシュが何事かを呟き、薔薇の造花を振る。地面から深緑色の人形が生えてきた。
「『青銅』それが僕につけられた二つ名さ。今の僕は『5』体までこのワルキユーレを召還することができる」
自分から能力をばらす。闘いを闘いと認識できていない自信過剰な人間が陥りやすいミスであるが、今の発言にはどこか引っかかるものがあった。
数人の観衆が今の言葉にいぶかしげな顔をしている。何か、自慢以外の意図があったのかもしれないが、今の自分には情報不足だったので深くは考えなかった。
「さあ、平民。かかってきたまえ。二人のレディの心の傷は、お前の屈辱ある死で償ってもらおう!」
青銅の人形が殴りかかってきた。
胸ポケット、それから内ポケットにある果物ナイフの感触を確かめる。全部で六本。
深緑色の拳が射程に入るのに合わせて、胸ポケットから一本抜く。左手の模様が光り輝き、自分の体が羽のように軽くなる。

抜いてから斬るのを一動作で行った。まるで川の流れにさしいれたように、ナイフは軽々と人形の頭を引き裂く。
青銅が土に変わるのと同時に、果物を切る用途でしか作られていないナイフが、その負荷に耐え切れず根元から折れる。模様の輝きも失せる。
直ぐに使い物にならなくなった柄を捨て、新しいナイフを引き抜く。今度は両手に二本ずつ。
「く……ワルキューレ!」
残りの4体が地中の金属を元に練成される。同時に一歩進み四本のナイフを投げる。筋力増加の力は精密動作性も向上させるらしい。
広場に向かう前に時間ぎりぎりまでThe Bookによる反復練習をしていたこともあり、もう狙いが合わないことはなかった。ナイフは空中で正確に三回転し、対象に突き刺さる。
頭をひしゃげさせた青銅の人形4体は活動を停止した。
琢馬は最後の一本を抜く。後は、目の前の金髪の少年だけだ。
少し緊張感が緩まる。途端にラジオの電源を入れたように、観衆の驚きに満ちた声が聞き取れるようになる。
「く、来るな……僕のそばに近寄るなああーーーーーーーーーッ」
腰を抜かしたらしいギーシュは体を引きずりながら、自分から距離をとろうとしていた。
そんな中で造花の杖をいまだにしっかりと握っているのは、彼の闘争本能が無意識のうちに生にしがみついているためだろうか。
9mの地点に来た。この場で投げると、ナイフの刃は2回転してギーシュの心臓に着地して、彼の人生の幕を下ろさせる。
腕を掲げた瞬間、
「危ないッ!」
甲高い声が観衆の間から響いてきた。

ルイズがギーシュと使い魔の決闘を知ったのは、小皿にとりわけた食事をどうするか考えながらゆっくりと紅茶を飲んでいたときだった。
テーブルを挟んで交わされる会話が耳の鼓膜を振動させる。
「なあ聞いたか?ギーシュと平民が決闘するらしいぜ!」
「しかもギーシュのやつ馬鹿にされたって怒って、相手が死ぬまでやるつもりらしいな」
「自業自得だっていうのに。目をつけられた平民も災難だよな。どこでやってるの?え?ヴェストリの広場?OK分かった」
「そういえば相手はルイズの使い魔だって」

噴出しそうになった紅茶を無理に飲み込み、勢いあまって肺に入ってしまい数秒むせた。
むこうは話に熱中していたのかルイズの存在に気がつかず、そのまま広場から出て行ってしまった。
ティーカップを床に叩き付けたい衝動に駆られながら、近くの給仕に自分の皿を全部下げさせるように命じ、自分も食堂の出口へ向かった。
「まったくあの……馬鹿!」
明日世界が滅亡すると分かっても平然としてそうなタクマが、感情的になって喧嘩を吹っかけるわけがない。大方平民ということで損な役回りを押し付けられたのだろう。
それにしても決闘というのは穏やかではない。どうしてあの使い魔は自分に一言も言わなかったのだろうか。
ルイズは唇を噛んだ。問いの答えは知っている。自分が主人だと、認められていない。使い魔の面倒は主人がみると言ったのに、あいつはその前提条件すら否定したのだ。
息切れも我慢し、広場まで全速力で走る。見ると決闘はもう始まっていたらしい。観客の間から二人の姿が垣間見える。
間に合った。油断しすぎていたのか、ギーシュはなぜか地面に這いつくばっていた。圧倒的優勢である。取りあえずこの状況なら、自分が出ていけばなんとかおさまるだろう。
タクマを呼ぼうとしたが、その言葉は飲み込まざる終えなかった。
ギーシュとタクマの後ろ、二体のゴーレムが音も無く練成されていた。
そしてタクマに殴りかかる。
「危ないッ!」
そう叫ぶのが精一杯だった。

その声と、ギーシュの視線が自分の背後に回ったのに気がつき振り向きざまにナイフを振り、一体を倒す。

しかし、その背後から同じ姿の銅像がのぞいたときは、一瞬、思考が停止した。
その隙に、青銅の拳が自分の腹を抉る。息ができなくなり、体内で何本か骨が砕けたのが分かった。
思わず膝をつくと、青銅の人形はその足を自分の口に突っ込んだ。
「あと1分したら頭を吹き飛ばしてやる。それまでなぶり殺す!」
相手に見下ろされているのが分かった。立場が逆転した。
ギーシュが自分の手札をばらしたときに感じた違和感。あたかも自分が5体までしか出せないように見せかけ、奇襲。
ギーシュはどうあっても自分を殺そうと考えていたらしい。
青銅の人形の足や拳が、まともな骨を順番に折っていく。観客から悲鳴が上がる。まったく無駄な事だった。見たくなければ最初から見なければいい。
ふと顔を上げると、観客の層を無理に押しのけルイズが顔を出した。怒りと恐怖に染まっている。
「ギーシュ!やめなさい!決闘は禁止されているでしょう」
「これはこれは、ルイズじゃあないか。知らないのなら教えてあげよう、禁止されているのは貴族間の決闘だけであって使い魔はその限りではないんだよ。それに、だ。
仮に僕がこいつを殺したところで君は何か困るのか?またサモン・サーヴァントをやればいいだけのことさ。まあどうしてもというのなら、君が頭を下げて彼の命乞いをしたまえ。それで手打ちにしようじゃあないか」
ルイズが頭を下げかけた瞬間、口を挟んだ。歯が折れていたので喋りにくかった。
「命乞いするなよ」
自分の言葉が意外だったか、当の二人だけではなく、騒然としていた観衆も沈黙する。
いつの間にか、自分の左手に革表紙の本が現れていた。手の模様も再び光り輝いている。

ギーシュにダメージを与えられる最後の武器。この世界の人間には読めないということは既に分かりきっていた事だが、勝手に体が反応した。
折れていない左腕で何とか青銅の人形から距離をとり、それを挟んでギーシュと正対する。
「タ、タクマ……!」
「面白い。じゃあ、負けて死ね!」
人形と自分の左手が、同時に突き出される。まるで鏡合わせだった。
人形の左腕は、自分の頭部を狙っていた。今度は本当に致命傷を与えるつもりらしい。自分の左腕も、この距離だとギーシュの頬まで届かない。
だが、そんなことは関係なかった。改めて見てみると、その拳はかつて殴られたスタンドのものとは比較にならなかった。弱弱しく遅い。
革表紙の本がめくれていく感触が左手に伝わる。それを感じながら、思った。
過去の出来事は、乗り越えるものでも打ち勝つものでもない。どんな体験も心に留めておき、未来に向かって「利用」するものなのだと。

ギーシュ・ド・グラモンは確実に目の前の男を殺すつもりでいた。
「面白い。じゃあ、負けて死ね!」
しかし、と自分は頭の片隅で考える。
この平民は、殴られても蹴られても表情を微塵も変えなかった。その闇色の瞳は、あくまで客観的に、冷静に、自分の身に起こる出来事を眺めていた。
きっと、自分は精神面で負けている。どう心の中で言い訳をつくろっても、それは否定できなかった。
杖がみしみしと音を立てる。言いようの無い敗北感に包まれる。
平民は最後の抵抗か、届くはずの無い拳を突き出していた。

が、ここで異変に気がつく。いつの間にか平民の左手には本が握られていた。
本の内容が視界に入る。それはまったく見た事の無い言語であったが、瞬きをした瞬間、それはよく見知った文字の配列に置き換わっていた。それを認識したときにはもう自分の血が宙を舞っていた。
痛みを感じるよりさきに二発目が腹に入った。三発目、四発目以降は、もう個々の攻撃が分からなくなっていた。岩の塊のような拳が、自分の肉体の触れたところをひき肉へと変えていく。
寒かった。そこはどこかの屋根の上で、雪が降っていた。
視線を前に向けると、体に不思議な鎧を付けた無表情な男が、自分に向かって拳を繰り出しているのが分かった。
その男は、拳を振るうと同時に雄たけびを上げていた。
「ドラララララララララララララララララララララララララララァ!」
全身の骨を砕かれ、自分は後方へと吹っ飛ばされた。しばらく浮いていた後、地面に体がこすれて停止した。
そこで遅れて、自分がいるのが広場だと思い出した。
「……参った」
混濁する意識の中で、それだけは言わなければならないような気がして、呟いた。


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