ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク 改訂版-04

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匿名ユーザー

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4話


朝食を終えたルイズは教室に入った。
教室ではすでに多くの生徒が着席していて、その脇には各々の使い魔を侍らせている。
だが、今ルイズの後ろにホワイトスネイクはいない。
きっと朝食のことを腹にすえかねてるんだわ、と考えたルイズは自分の使い魔の名を呼んだ。

「ホワイトスネイク、出てきなさい」

だが出てこない。
聞こえていないわけではない。
ホワイトスネイクは今のところルイズのスタンド「のようなもの」なので、
ルイズに見えたり聞こえたりしたものはホワイトスネイクにも見えているし、聞こえている。
これはプッチ神父の時と同様だ。
つまり何が言いたいかというと……無視したのである。

「ホワイトスネイク、出てきなさい!」

口調を強めて、再び使い魔の名を呼ぶルイズ。
だがホワイトスネイクは出てこない。
その様子を見た教室の生徒たちは、最初はきょとんとしていたものの、次第にニヤニヤし始めた。

「『ゼロ』のやつ、早速使い魔に見放されちまったのかぁ~?」
「まあトロールみたいにバカな亜人じゃなくて、ちゃんと言葉が話せる亜人だったからなぁ。
 ルイズが『ゼロ』だってこと、すぐに分かったのかも」
「にしても、召喚されたのが昨日の午後だろ?
 1日と立たずに使い魔に見限られるってのは、さすが『ゼロ』のルイズというか……」

その陰口はルイズにも届いていた。
恥ずかしさでルイズの顔が赤くなる。

「ホワイトスネイク!」

三度目の呼びかけは教室中に響くような声だった。
一瞬、教室がシンとなる。
ホワイトスネイクが現れたのは、そのときだった。
ルイズの背後の空中に、浮かびあがるように。
――――――――――――首だけで。

もっとも首だけで出てきたのにはちゃんとした意味がある。
「お前なんかのために自分の全身をいつも出しとくのはもったいねー」というホワイトスネイクなりの意思表示であり、
朝食で受けた屈辱の「ほんの一部」を返すためでもある。
ルイズに何度呼ばれても出てこなかったのも、同じ理由だ。
そして――

「呼ンダカ、ルイズ?」

さも今気付いたかのような口調でホワイトスネイクが言った瞬間――

ドンドンドンドンッ!

4本のツララがホワイトスネイクに襲い掛かったッ!

「何ダトォーーーッ!!」

突然の攻撃にホワイトスネイクは驚いた。
だが20年に渡って続けた殺し合いで培われたカンは、ホワイトスネイクを瞬時にこの事態に対応させたッ!
間髪入れずに全身を発現、そして向かってくるツララを全て手刀で叩き落とすッ!

ツララが無数の氷の破片になって床に散らばったとき、ツララを撃ち込んだ犯人が発覚した。
犯人は小柄なメガネの少女。
少女の髪の色は青、手には身の丈より大きい杖を携え、荒い息でそれをホワイトスネイクに向けていた。

「ちょ、ちょっとタバサ! あんた一体何して……」

キュルケが大声を上げる。
無論、攻撃されたホワイトスネイクも黙ってはいない。

「小娘……オ前、何ノ」
「ちょっとあんた! わたしの使い魔にいきなり攻撃するなんてどういうことよ!」

ホワイトスネイクの声を遮り、凄まじい剣幕でルイズが怒鳴る。

「それに『ウィンディ・アイシクル』みたいな強力な魔法を使うなんて! ホワイトスネイクを殺す気だったの!?」
「……ごめんなさい。勘違いした」

タバサと呼ばれた少女は額に冷や汗を浮かばせながら、謝罪した。

「勘違いって何よ勘違いって! 取り返しのつかなくなるところだったじゃないのよ!」
「……ごめんなさい」

カンカンになって起るルイズと、弁解もなくただただ謝るするタバサ。
これでは全く事態が進展しそうにない。
周りの生徒もどうしてよいか分からず、互いに顔を見合わせるだけだった。
そしてホワイトスネイクは、被害者のはずの自分が蚊帳の外にいることに気づいた。
気づいて口を開いたその時、ガラリと扉が開いて教師が入ってきた。

「皆さん、ご機嫌よ……あら、どうしました?」

きょとんとした顔で教師がルイズに問いかける。

「わたしの使い魔が攻撃され」
「いえ、何でもないです!」

ルイズの言葉を遮り、キュルケが大きな声で教師に答える。

「ちょっとキュルケ! その子の肩を持つつもり!?」

ルイズが強い口調で言うと、キュルケは席に座ったままのタバサを捕まえると、
彼女を引きずるようにしてルイズのところまで素早く連れて来た。

「いいから、ここは無かったことにして。ほら、タバサも謝ってるじゃない?」
「でも、せめて理由ぐらい聞かせてくれなきゃ納得できないわよ」
「……お化け」
「「……は?」」
「彼が……お化けに見えた。く、首だけ、だったから……」
「それで……攻撃したの?」

タバサはこくりとうなずいた。
つまりお化けが嫌いなタバサが、
ルイズの後ろに「首だけで」出てきたホワイトスネイクをお化けと勘違いし、攻撃した……と。
ルイズとキュルケは、思わず脱力してしまった。

「ごめんなさい」

そう言ってタバサはぺこりと頭を下げた。

「だったらそうと言ってくれればいいのに……」

キュルケはため息をつきながら席に戻った。

「……次からは勘弁してよ」

ルイズはそれだけ言うと、さっさと歩いて行って席に着いてしまった。
後にはタバサと、怒っていいのか、感心していいのか、よく分からない気分のホワイトスネイクが残った。
使い魔(とルイズは思っている)のことを自分のことのように怒ったルイズは評価すべきだが、
自分がそっちのけにされたまま解決されてしまったのは腹立たしかったのだ。
ホワイトスネイクがそんなもやもやした気分でいると、タバサがホワイトスネイクを見上げて言った。

「あなたには、悪い事をした」
「……当タリ前ダ。アト少シ対処ガ遅レテイタラ、タダデハ済マナカッタ」
「でも……できれば首から下を隠すのはもうやめてほしい」
「是非トモソーサセテモラウ。毎回アンナ攻撃デ襲ワレルノハタマラナイカラナ」
「……ありがとう」
「礼ヲ言ワレルヨーナ事デハナイ。小娘ノ自制心ガ信用デキナイカラ、自分デ対策スルダケノ事ナノダカラナ」

ホワイトスネイクは不機嫌全開でそう言うと、フッと姿を消した。

「き、消えた!?」

またもや教室が騒がしくなる。
が、すぐに皆が静まった。
どこからか現れた赤土の粘土で口をふさがれてしまっているのだ。

「いつまで騒いでいるのですか! もう授業を始めますよ!」

教師の言葉を聞いて、生徒達はいそいそと授業の用意を始めた。
タバサもいつのまにか自分の席に戻っていたが、授業の用意はせずに本を黙々と読んでいた。

「さて、授業を始める前にほんの少しだけお話をさせていただきますわね。
 このシュヴルーズ、新学期にこうやって皆さんの使い魔を見せていただくのをとても楽しみにしているのです。
 今年もみなさんが自分の使い魔の召喚に成功したようで、なによりですわ」

そう言って教室を眺めると、

「ミス・ヴァリエールはとても変わった使い魔を召喚したものですね」
「へ?」

シュヴルーズのとぼけた声を聞いて横を見ると、ホワイトスネイクがいつの間にかルイズの横に座っていた。

「ちょ、ちょっとあんた! いつの間に!」
「ツイサッキダ。ソレヨリ教師ガ何か言ッテルゾ。答エテヤッタラドウダ?」
「え? えー、はい。とても……変わって、ます」

混乱した頭でルイズが答えると、シュヴルーズはにっこり笑った。

「では、授業を始めますよ」

シュブルーズがこほん、と咳払いして杖を振るう。
すると教卓の上に石ころがいくつか転がった。
授業が始まる。

(中々分カリ易イ説明ヲスル教師ダ)

授業を聞きながら、ホワイトスネイクはそんな事を思った。
シュヴルーズの授業は以下の通りである。

魔法には火、風、水、土の4つの系統と、
今は失われた(使えるヤツがいないということだろうか? とホワイトスネイクは思った)虚無を合わせて、
全部で5つの系統があるということ。
そしてシュブルーズが言うには、土の系統は5つの系統の中で最も重要らしい。
その理由として、土の属性が重要な金属を作り出し、加工することが出来ることとか、
大きな石を切り出して建物を建てることが出来るということ、
それに土の系統が農作物の収穫にも関わっているということを挙げた。

ホワイトスネイクにとってはどれもこれも初めて聞くことばかりなので、
熱心にシュブルーズの説明に耳を傾けていた。
スタンドのデザインに耳は無いけど。
そして説明が丁寧な分、他の事を考える余裕も出てくる。

(ダガ手間ヲ考エナイナラ貴金属ヲ手ニ入レルコトモ、加工スルコトモ可能ダ。
 建物ヲ建テルコトモ、農作物ノ収穫率ノ向上モ同様ニ。
 『暮らしを楽にする』トイウ観点デハ、火ヲ楽ニ起コセルデアロウ火ノ系統ノヨウニ、他ノ系統モ重要ダロウ。
 スタンドト同様、各系統ニ優劣ノ関係ハ無イト考エルベキダロウナ)

そうこうしているうちに、シュヴルーズが教卓の上の石ころに向かって、
小ぶりな杖を振り上げた。
そして短く何かを呟くと、石ころが輝き始める。
数秒後、光が収まると、ただの石ころは光を反射してキラキラ輝く金属に変わっていた。

「ゴゴ、ゴールドですか? ミセス・シュヴルーズ!」

キュルケが身を乗り出して言う。
シュヴルーズはやさしく微笑んで、

「違います。ただの真鍮です。ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジだけです。
 私はただの……」

と、ここでもったいぶった咳払いをして、

「トライアングルですから……」

と言った。

(『トライアングル』? ソレニサッキハ『スクウェアクラス』トカ言ッテタナ。
 メイジトシテノレベルヲ表スモノナノカ?)

初めて聞く二つの単語にホワイトスネイクは頭を捻る。

(『トライアングル』……地球デハ『三角形』ノ意味。ソシテ『スクウェア』ハ『四角形』ノ意味。
 『3』ト『4』……カ。一体ドレクライ違ウンダ?
 アノ教師ハ『スクウェアならゴールドを錬金出来る』トカ言ッテイタガ……ヨク分カランナ)
「ねえ」

そんな事を考えていると、ルイズから声がかかった。

「ドウシタ?」

ルイズにだけ聞き取れる程度の声でホワイトスネイクが答える。

「授業、そんなに面白いの?」
「私ニトッテハ真新シイ事バカリダカラナ」
「ふーん……」
「ルイズハ退屈ソーダナ」
「そうよ。知ってることばかりだもの」
「予習シタノカ?」
「自分で調べたのよ。魔法が……いや、なんでもないわ。
 とにかく知識だけはたくさんあった方がいいと思ったの」
「ソウカ……ジャア質問サセテモラオウカ。『トライアングル』ト『スクウェア』ハドレダケ違ウンダ?」
「全然違うわよ。トライアングルは属性を3つしか足せないけど、スクウェアは4つも足せるのよ?」
「一ツ違ウダケジャアナイカ」
「全然違うのよ。足せる数は最大で4つ。低い方から順にドット、ライン、トライアングル、スクウェア。
 足せる数が多くなればなるほど、より強力な魔法が使えるの。
 現にトライアングルスペルとスクウェアスペルじゃ天と地ほどの差があるわ」
「具体的ニハ? 金ヲ作レルトカ作レナイトカ、ソーイウレベルデハ話ガ掴メナイ」
「そうね……」

そう言ってルイズが考え込んだ時だった。

「ミス・ヴァリエール!」
「は、はい!」
「今は授業中ですよ。
 使い魔とお喋りするのは後になさい」
「すいません……」
「お喋りするヒマがあるなら、あなたにやってもらいましょう」
「へ? な、何をですか?」
「ここにある石ころを、あなたの望む金属に変えるのです。
 さあ、やってごらんなさい」

そう言われたものの、ルイズは行こうとしない。
何やら困っているような、戸惑っているような、そんな様子だ。
そして、周囲の生徒達もざわつき始める。
だがホワイトスネイクはその理由が分かっていない。
周囲の様子から「ルイズは練金が苦手なのだろうか?」と若干的を外した事を考えたぐらいだった。

そして少しした後、ルイズは意を決したように立ち上がり、

「やります」

とだけ言った。
それを聞いた教室の生徒全員が、一斉にさっと青ざめる。

「ミセス・シュヴルーズ! ルイズに魔法を使わせるのは危険です!」

キュルケがすぐに抗議の声を上げた。

「あら、どうしてですか? ミス・ツェルプストー」
「……ミセス・シュヴルーズはルイズを教えるのは初めてですよね?」
「ええ、でもミス・ヴァリエールが努力家ということは聞いています。
 さあ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。
 失敗を恐れていては何も出来ませんよ?」

ダメだ。
「ルイズが失敗する」ことまでは察してくれたようだが、
ルイズが魔法を使うことの危険性はさらにその先にある。
この教師にはそれが分かっていない。
そのことが、キュルケには理解できた。

「ルイズ、やめて」

キュルケが顔を青くして懇願する。
しかし教壇の方へ向かうルイズが振り向くことは無かった。
ホワイトスネイクはその後ろ姿を眺めた後、教壇と今の自分の位置を目測で測った
距離、約17メートル。
問題なく射程内であることを確認すると、ホワイトスネイクは指を組んでルイズの実習を見守った。

「ではミス・ヴァリエール、やってごらんなさい。
 錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」

ルイズはこくりと頷いて杖を振り上げる。
そして呪文を唱えて、杖を振り下ろすと――

ドッグオォォォン!

爆発したッ!
爆風をモロに受けたシュヴルーズは吹っ飛ばされて黒板に叩きつけられる。
そして教室にいた生徒達も、やはり同様に被害を受けた。
悲鳴が教室中に巻き起こる。
生徒達の使い魔は爆発に驚いて暴れ始め、そのうち共食い(厳密には共食いではないが)が始まりかけた。

そして爆発を起こした張本人であるルイズはというと……。

「マサカ、爆発スルトハナ……」

呆れた口調で言いながら教壇の上に浮かぶホワイトスネイクに抱えられていた。
爆発からは無事に逃れていたのだ。
だが――

「教室ノ後片付ケカラハ、流石ノ私デモ逃ガシテヤレンナ」
「うるさい」
「キュルケ……ダッタカ。アノ女ガオ前ヲ『ゼロ』ト呼ンデイタノハコウイウコトダッタノダナ。
 『成功率がゼロ』ダカラ……ダッタワケダ」
「うるさい!」

教室の隅っこからルイズが大きな声を上げた。
ルイズは後片付けをしていない。
ただ膝を抱えて座っているだけだ。
爆発で大破した教卓や割れた窓ガラスはホワイトスネイクが片づけていた。
そして教卓の残骸が片付いたあたりで、ホワイトスネイクがルイズに声をかけた。

「ルイズ」
「何よ?」
「不貞腐レルノハ勝手ダガ、自分ガシタコトノ片付ケクライハ自分デヤルベキダ」
「……主人の失敗は使い魔の失敗でもあるの
 だから片付けもあんたがやるのよ」
「ソウ言ウト思ッテイタヨ。コノ甘ッタレガ」
「な、なんですってえ!」

ルイズは思わず立ち上がったが、すぐにもといた場所に座り込んだ。
自分が「ゼロ」だってことは、自分がいちばん目を背けたいことだったからだ。
そしてそれが「甘ったれたこと」だってことも、ルイズには分かっていた。
分かっていても、眼を背けずにはいられないことだったから。
だから、それ以上言い返せなかったのだ。

「ルイズ」
「……何よ?」
「教卓ガアッタトコロマデ来イ」
「……何で?」
「私ハルイズカラ20メートル以上離レル事ガデキナイノダ」
「……どういうことよ? それに『メートル』って何?」
「メートルハ単位ダ。……1メートルガコノグライダナ」

そういって手で幅を作るホワイトスネイク。

「それ、『1メイル』じゃないの?」
「『メイル』?」
「ええ。1メイルが今あんたが示したぐらいの大きさ。
 ついでに言うと、それの100分の1が1サント、それの400倍が1リーグ」
「覚エテオク」
「あんたって、相当辺鄙な場所から来たのね」
「国ガ変ワレバ法モ変ワル、トイウヤツダ。
 別ニド田舎暮ラシダッタワケジャアナイ」
「ふーん、まあいいわ。そういうことにしといてあげる。ってそうじゃないわ!
 何であんた、わたしから20メイルより遠くに行けないのよ!?」
「ソレガ私ノ性質ダカラダ、トシカ答エヨウガナイナ」
「……要するに、よく分かんないけどあんたの中で決まってること?」
「ソンナモノダ。分カッタラ早ク来イ」

渋々ホワイトスネイクが示した場所まで行くルイズ。
ホワイトスネイクはそれを確認すると、ルイズがさっきまでいたところとは反対側の窓を片づけ始めた。
そして手を動かしながら、ホワイトスネイクはルイズにまた声をかけた。

「ルイズ」
「……今度は何?」
「今ノ自分ノ才能ガ、自分ニ適シテイルト思ウカ?」
「……そんなこと、思うわけないじゃないの!」
「ナラバオ前ニ適シタ才能トハ何ダ?」
「そんなの……そんなの分かるわけないでしょ!?
 一体いつからわたしがこんなだと思ってるのよ?
 わたしがどれだけ普通の魔法を使いたいって思ってきたか、あんたに分かるの!?」

ルイズの中の抑えきれない感情が、堰を切ったように溢れ出した。

「選べるなら選んでたわよ! だけど選べないのよ!
 生まれたときから決まってて、ずっと押し付けられて生きてきたのよ!?
 自分が火の魔法で暖炉に火をつけるところ! 水の魔法でお花に水をあげるところ!
 風の魔法で風車をまわすところ! 土の魔法で石ころを銅に変えるところ!
 何度だって夢に見たわ! 普通の魔法を使える自分を、何度だって夢に見たのよ!
 だけどできないのよ! どれだけ頑張ったって、どれだけ勉強したって!
 これ以上……これ以上、わたしに何を夢見ろって言うのよ!!」

それが、ルイズが16年間溜め込んだ感情だった。
頭の中はかまどのように熱くなって、滲んだ涙で視界はぼやけた。
まだ吐き出し足りなかった。
でも、これ以上は言えない。
何か言ったら、涙声になってしまいそうで――

「同情スルツモリハナイ」

ホワイトスネイクの唐突な言葉に、ルイズはきょとんとした。

「ダカラトイッテ知ラヌフリハシナイ。
 コレハ私ニモ関ワルコトダカラナ」
「え?」
「オ前ガ望ムナラ……私ハオ前ニ『普通の魔法』ヲ与エルコトガデキル。
 『適材適所』トハ逆行スル形ニナッタトシテモ、ダ」
「どういう、こと……?」
「……見セタ方ガ早イナ」

ホワイトスネイクはそう言うが早いがルイズに歩み寄ると――

ドシュンッ!

ルイズの額を切断せんばかりの勢いで、手刀を水平に振るったッ!

「ひゃあっ!」

突然の暴挙にルイズは思わず目をつむって叫ぶ。
…しかし、

「…あ、あれ? なんとも…ない?」

痛みらしい痛みが何も無いことに気づくと、ルイズは恐る恐る目をあける。
すると――

「な、ななななな何これ! わたしの頭から何が出てきてるの?」

ルイズの額から、一枚のDISCが飛び出ていた。

「ちょちょ、ちょっとホワイトスネイク! ああ、あ、あんた一体、わたしに何したのよ!」

ルイズが色々と喚いているが、ホワイトスネイクは無視する。
そしてルイズの額から出てきたDISCを抜き取る。

「わっ! と、取れた!」

ルイズが何か言うが、やはりホワイトスネイクは無視した。
そして抜き取ったDISCの表面に目を通すと……そこに現れていた文字は、「ゼロ・オブ・ドットスペル」。
早い話、「ゼロのドットスペル」ということだ。

今ホワイトスネイクが抜き出したのはルイズ自身の魔法の才能。
正確にはホワイトスネイク自身、スタンドや感覚と同様に抜き出せる自身が無かったので、こうしてルイズで試したのだ。
試したのだが……

(DISCニマデ『ゼロ』ト書カレテイルノデハ救イガ無サスギルナ。
 ココニハ触レナイデオク方ガイイダローナ……)

「サテ……『何をしたのか』……ダッタナ。君ノ『魔法の才能』ヲ抜キ出シタノダ。
 魔法ガ果タシテ他ノ感覚ナドト『才能』トシテ抜キ出セルモノナノカ、確証ガ無カッタノデナ」
「才能を……抜き出す? あんた、何言ってるの?」
「分カラナケレバ、ソウダナ……モウ一度サッキノ錬金ヲヤッテミルトイイ」
「さっきと何も変わらないと思うけど……」

そう言いながらルイズは杖を抜き、ルーンを唱え始める。
そして手ごろな場所にあった木の破片目掛け、杖を振り下ろす。
だが――

「……あれ? 爆発……しないの?」

さっきとは違い、何も起きなかった。

「当然ダ。今ノルイズハ魔法ノ才能ヲ失ッテイルノダカラナ」
「魔法の才能って…もしかしてさっきの!」
「ソウダ。先ホドルイズカラ抜キ取ッタDISCガ、ルイズノ魔法ノ才能ダ」
「ちょっとあんた、何してんのよ! これじゃただの平民と同じじゃない! 返して!」
「返シタトコロデ、使エルノハ爆発ダケダゾ?」
「……っ!」

事実だった。
ホワイトスネイクが手にする才能が自分に戻ってきたところで、
結局できるのは失敗魔法の爆発だけ。
自分が「ゼロ」であることに何も変わりは無い。

「そ、それでもよ! それでも、それさえなかったら、本当に何も無くなっちゃうじゃない!」

そんなルイズの苦渋に満ちた訴えに対し、

「……ルイズハ存外ニ察シガ悪イナ」

ホワイトスネイクはあくまで冷淡に、さらに別のベクトルの意味を加えて答えた。

「ルイズカラ今ノヨウニ魔法ノ才能ヲ抜キ取レルトイウ事ハ……他ノ者カラモ魔法ノ才能ヲ抜キ取レルトイウ事ダ」
「……あんた、まさか!」
「ヨウヤク理解シタナ」

ホワイトスネイクは口の端に笑みを浮かべると、話を一気に結論に持っていく。

「ツマリ君ハ他ノ誰カカラ魔法ノ才能ヲ奪イ取ル事ガデキルノダ」

「…ち、ちょっとあんた、自分が何言ってるか分かってるの!?」
「当然ダ」
「じゃあ何でそんな事!」
「私カラスレバ、何故ルイズガソレヲ拒ムノカガ理解デキナイナ。
 私ガ言ッテイルノハ、魔法ヲ使エナイオ前ヲ救済スルタメノ方策ダゾ?」
「そんなやり方で魔法なんか使えるようになりたくないわ!
 私だって分かるわよ。魔法の才能をあんたに取られたら、その人はもう魔法を使えなくなるって事ぐらい!」
「ダガ魔法ヲ使エナクナルノハオ前ヲ『ゼロ』ト呼ンデ侮辱スル者ダ」
「それは! そう、だけど……」
「昨日ノ広場……今朝会ッタキュルケ……ソシテ授業前ノ教室……。
 私ガ見テキタ限リデハ、ルイズハ余リニ多クノ者カラ蔑マレテイル。
 オ前ヲ『ゼロ』ト呼ンデ蔑ム事ヲ当タリ前ニシテイル奴等バカリダッタ。
 ナノニ、ドウシテ拒ム理由ガアル? 何故躊躇ウ?」

ルイズはホワイトスネイクの言葉を唇を噛み締めて聞いていた。
ホワイトスネイクの言っていることに間違いはなかった。
自分は吐き出した。
これまでの鬱憤を、苦しみを、絶望を。
それを聞いた上で、その上で自分が「ゼロ」の汚名から抜け出す道を作った。

でも…そうだとしても……

「わたしは…やらないわ」

ルイズには、その道を選ぶことはできなかった。

ホワイトスネイクは、すぐさま問いを投げかけるような事はしなかった。
ルイズが言葉を続けるのを待っていたのだ。

「貴族らしくない……と、思うの」

「貴族はね、背を向けないものなのよ。逃げちゃいけないものなの。
 貴族には領地があって、領民がいて、それでみんなを支えてるから。
 だから逃げちゃいけない。どんなことに対しても、自分の才能に対してでも、絶対に」

ホワイトスネイクは黙ってそれを聞いていた。
そして口を開く。

「例エ魔法ガ使エナクトモ、例エ『ゼロ』ト蔑マレヨウトモ……ソレデ構ワナイノダナ?」
「あんたが示した方法を使うぐらいならね」
「……ソウカ」

ホワイトスネイクはこのことに関して、それ以上は何も聞かなかった。

「ダガ……モウ一ツ、理由ガアルンジャアナイノカ?」
「え?」
「ルイズガ私ノ提案ヲ退ケタ理由……ルイズガサッキ言ッタモノトハ別ニモウ一ツ、アルヨウニ思エルノダナ……」

ルイズは、ホワイトスネイクの洞察力に背筋が冷える思いがした。

確かにその通りだった。
貴族らしくないからやりたくない、というのは事実だが、実際のところそれは建前にすぎない。
そんなことよりも、もっと大切な理由があったのだ。
だが――

「言いたくないわ」

ホワイトスネイクにはまだそれを言いたくなかった。
それはルイズにとって、とても大事なことだったから。

「……ソウカ。ナラバ無理ニハ聞カナイ」

ホワイトスネイクはそれだけ言って、手に持っていたルイズの魔法の才能――『ゼロ』のDISCを、ルイズの額に差した。
DISCは静かな音を立てて、ルイズの中に戻っていった。

「人間ハ…時ニ『納得』ヲ必要トスルモノダ。
 『納得』ノ無イ道ニ対シテハ、ソコカラ一歩モ先ヘ進メナイ。
 ソレハ人間ガ自分ノ精神ニ強イ芯ヲ必要トスルカラダ」

「ソレニ私ハタダ、ルイズガドノ道ヲ選ブノカヲ見テイルダケダ。
 ルイズガ納得出来ナイ、選ベナイト判断シタ道ハ、遠慮ナク捨テ行ケバイイ」

ホワイトスネイクはそう締めくくると、音もなく姿を消した。

ホワイトスネイクは言った。
自分が必要ないと判断した道は、遠慮なく捨てていけばいい。
自分は本当に心から、納得できないと、そう思っているのか?
本当に、あの「魔法の才能を奪う力」に未練は無いのか?

いや……きっと、ある。
それどころか、喉から手が出そうなくらいに、魔法の才能を欲しがってる。
あんな奴らが、自分をいつもゼロ、ゼロと呼んでバカにする奴らが魔法を使えて、何で自分が使えないのか。
勉強なら誰よりもした。
魔法が使えるようになるためにどんな努力だってした。
なのに…なのに、自分は魔法を使えない。
こんなの、あんまりだ。
ろくすっぽ努力もしない貴族のボンボンに魔法が使えて、自分にはできないなんて……。

でも、とルイズの中で何かが囁く。
そんなやり方、「あの人」は絶対に喜んでくれない。
ホワイトスネイクの提案は、今までの自分の努力を全部フイにしてしまうものだからだ。
「あの人」が応援してくれたのは、そんな提案を呑む自分じゃないはずだ。
それに自分の根っこの方でも、ホワイトスネイクの提案を拒んでる。

でも魔法は使えるようになりたい。
でも、ホワイトスネイクの提案を受け入れたくは無い。
でも。
でも。
でも。
でも…………。

胸中に渦巻く思いを抱えながら、ルイズは重い足取りで教室を出た。

スタンド使いは、自分のスタンドを選べない。
しかし、誰もそのことに不平不満を並べたりはしない。
なぜか?
どんなスタンドにも必ず「最良の使い道」が存在するからだ。
そしてその「最良の使い道」は、スタンド使い達が心の奥底で望んだもの。
だから見つけることが出来るのだ。

では、これをルイズの問題に置き換えることは可能だろうか?
ルイズは魔法を使えない。
使えるのは爆発を起こす失敗魔法だけである。

結論から言えば、「最良の使い道」はルイズの失敗魔法には存在しないだろう。
何故ならルイズは自分の失敗魔法が大嫌いで……そして、普通に魔法が使える事を、心の底から望んでいるからだ。

にもかかわらず、ルイズはホワイトスネイクの申し出を断った。
口では「貴族であるため」とかなんとか言っていたが、本当の理由はそんなんじゃあない。
多分、いや確実に……誰か他の人間のためだ。
どんな人間でも心の拠り所にするものは、地位か誇りか人だけ。
ホワイトスネイクが20年間で得た考えがそれである。
ルイズに地位はなく、そして誇りがよりどころではないのだから……残るは人のみだ。
だからそう判断した。
とはいえ、そんなことはホワイトスネイクにとってどうでもよかった。

重要なことは、「つまらない理由のためにルイズが望みを捨てたこと」だ。
自分のプライド、そして人とのつながりのために念願を放棄する。
実にくだらない。
かつてプッチ神父と戦い、あと一歩のところまで追いつめた徐倫も、
父親とのつながりのためにプッチを仕留め損ねた。
人と人のつながりなど、足枷にしかならないのだ。

だがルイズは足枷を選んだ。
ホワイトスネイクはそのことに少なからず失望した。
そして、ひとつの確信を得た。

ルイズは、「ホワイトスネイク」というスタンドを扱うことに、決定的に向いていない。



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