ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク 改訂版-03

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匿名ユーザー

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3話


窓から差し込む光を感知して、ホワイトスネイクは姿を現した。

「サテ……コレカラドウスルベキカナ」

そう言って、窓の外に目をやる。
空はまだ薄暗く、太陽も地平線から少し頭を出した程度。
朝まではまだもう少し時間があるようだ。

「トリアエズハ現状確認ダナ」

ホワイトスネイクが「自分自身の変化」と疑うものはいくつかあった。
1つ目は、「スタンドパワーの供給源」。
エンリコ・プッチが死んでいる以上、彼からスタンドパワーを供給されていることはあり得ない。
自分の限界射程の20メートルという距離を考えればなおさらだ。(これは昨日のうちに確認している)
ではいったい誰からスタンドパワーを供給されているのか?

「多分……コイツダローナ」

ホワイトスネイクが白い目を向けた先には、ベッドの上でぐっすりと眠りこけるルイズの姿があった。
確かにそれ以外に考えられない。
事実、昨日からずっと自分の20メートル以内にいたのはルイズだけだったのだから。
となると、ルイズはホワイトスネイクのスタンド本体である、ということになるのだろうか?

答えはノーだろう。
ルイズがホワイトスネイクのスタンド本体であるとするといくつかの矛盾が生まれるからだ。
例えば昨日ルイズはホワイトスネイクの足をふんづけたが、その際にルイズが足に痛みを感じた様子はなかった。
スタンドとスタンド本体の間での「ダメージの共有」がなされていないのだ。(これが2つ目の変化と疑うものである)
他にもホワイトスネイクが「自分の意志で」発現できたということもあるが、
ホワイトスネイクが「自分の意志でスタンド本体を守る」というかなり特異なタイプのスタンドであることを考えれば、
さほど大きな変化でもないのだろう。
いずれにしてもそういった変化もある以上、今この時点で「ルイズが自分の本体である」と決めるのはまだ早い。
ホワイトスネイクはそう結論付けた。

そうこう考えているうちに太陽はそれなりの高さまで昇り、窓から差し込む日差しも強くなってきた。
ホワイトスネイクは改めてルイズに目をやる。

「ふにゃ……」

だが未だにルイズは寝ている。
さっきから何も変わっていない。

「コレヲ起コスベキカドーカ……」

ホワイトスネイクはそんなことを呟きながら椅子に腰かける。
確かに昨日「賭け」には乗ってやったが、ここまで面倒を見てやるつもりはホワイトスネイクにはない。
働くとしても、せいぜいスタンド本体に対するスタンドぐらいの程度でだ。

とその時。
コンコン、と部屋のドアを軽くノックする音が響いた。
だがルイズはまだ寝ている。
応対できるのはホワイトスネイクだけだ。
再びノックオンが響く。
ホワイトスネイクは仕方なくイスから立ち上がり、鍵を開けてドアを開いた。

「誰ダ?」
「おは……って、あんた誰よ!?」

ドアを開けた先に立っていた赤毛の女が頓狂な声を上げる。

「ホワイトスネイクダ。ドウイウワケカ昨日『召喚』サレテキタ、ナ」
「召喚……って、ああ、そういうことね。
 へぇ~、あんた亜人ね? にしては随分流暢にしゃべるわねえ」
「ソンナコトハドウデモイイ。
 ダガ相手ガ名乗ッタカラニハオ前ノ方モ名乗ルグライシロ」
「あら、失礼。
 私はキュルケ。それで……」

キュルケと名乗った女が後ろをちらと見ると、向い側の部屋からのそのそと赤い生き物が出てきた。

「この子がフレイム。私の使い魔よ。
 フレイムはただのサラマンダーじゃないわ。火竜山脈のサラマンダーなのよ?
 好事家に見せたら、そりゃもう値段なんかつかないわよ?」

そういって豊満な胸を張るキュルケ。
その様子を白い目で見ながらホワイトスネイクは、

「ソウカ……スゴクウラヤマシイナ」

と抑揚のない声(つまり棒読み)で答えた。

「ソレヨリ、ルイズノ部屋ニハ何ノ用デ来タンダ?」
「ああ、そんなことね。単にこの子を見せに来ただけよ」

実に単純な小娘らしい発想だ。
心底うらやましいな、とホワイトスネイクは思った。

「ソウカ。ダガルイズハマダ寝テイル」
「あら、やっぱり? あの子ったらすごい寝ぼすけなのよね」

そう言ってキュルケはくすくす笑った。

「しかしあなた……なかなかいいカラダしてるわね。背もすごく高いわ。
 その服は民族衣装か何かなの?」
「民族衣装……ソウダナ、ソンナモノダ」

うっとりした目つきで言うキュルケ。
だがいちいちスタンドの説明をするのも面倒なので、ホワイトスネイクはあえて嘘をついた。

「それに体のイレズミ……これはどんな意味があるの?」
「……一族ノ繁栄トカ、ソノ辺リノ意味ダロウ」

またも当たり障りのない、嘘の回答をするホワイトスネイク。

「ふ~ん……なるほど、ね。あなたに興味がわいたわ。またお話ししてくださる?」
「余裕ガアレバナ」
「ふふ、なかなかガードが堅いのね。
 じゃあ私は食堂に行くから、はやく『ゼロのルイズ』を起こしてあげなさいな。
 朝食に遅れると朝ごはん抜きになっちゃうもの」

そう言って、フレイムを従えて去っていくキュルケの後ろ姿を尻目に、ホワイトスネイクはルイズのベッドへと向かった。
だが、そこでふと思い当たって立ち止まる。

「『ゼロのルイズ』……ト呼ンダナ、アノ女。ルイズノコトヲ……。『ゼロ』トハ何ダ?」

だが一人で考えても仕方のないことなので、ルイズを起こす作業を始めた。

「オイ、起キロ」
「むにゃ……ふぁ……」
「起キロト言ッテイル」
「ふにゃ…………」
「……仕方ナイナ」

そう呟くと、ホワイトスネイクはおもむろに自分の腕に指を突き刺した。
だが出血はない。
むしろ、水面に指を静かに入れたかのように、ごく自然に指が腕に入ったのだ。
そして指が腕から抜かれたとき、一枚の輝く円盤がその指に挟まっていた。
これが「DISC」。
ホワイトスネイクの能力を語る上でもっとも重要な存在である。
そのDISCを、ホワイトスネイクはルイズの額に静かに「差し込ん」だ。
そしてしばらくして――

「きゃああああああああっ!!!」

ルイズが悲鳴をあげて跳ね起きた。
その拍子に額のDISCが抜け落ちる。

「はあっ、はあっ、はあっ、………」
「オ目覚メハイカガカナ、ルイズ」

あえて茶化すように言ったホワイトスネイク。

「さささ、さ、最悪、よ。
 い、いい夢見てたのに、いいいいいいきなり空から、カカ、カ、カ、カエルが、たくさん降ってくるなんて……」
「ソレハ実ニ酷イ夢ダナ。同情スルヨ」

悪夢を見せた張本人がさも知らぬかのように言った。

「トモカク、朝ダ。
 朝食ガソロソロ始マルンジャアナイノカ?」
「それも……そうね。っていうか、何であんたが朝食の時間を知ってるのよ?」
「サッキ部屋ヲ訪ネテキタ女ガソウ言ッテイタ」
「女?」
「赤イ髪ノ……」
「わかった、もう言わなくっていいわ」

ルイズはむっとした顔でそれだけ言うとベッドから降りた。
そしてホワイトスネイクに振り向き、

「着替えるから手伝いなさい」
「……何ダト?」
「ニ度もおんなじこと言わせないで。わたしの着替えを手伝うのよ」
「私ヲ召使カ何カト勘違イシテルンジャアナイノカ?」
「しょうがないでしょ。だってあんた、わたしの目にも耳にもならないし秘薬の材料だって探せないんだもの」

さも当然、と言わんばかりのルイズ。
それを冷めきった目でホワイトスネイクは見下ろした。

「何よ、文句でもあるの?」
「……賭ケニ乗ッテヤッタノハ私ダカラナ……仕方ナイ、トイウヤツカ……」

そんなことをぶつぶつ言いながらホワイトスネイクはクローゼットから服を出し、ルイズに着せてやった。
無論、下着を履くぐらいのことはルイズは自分でやったが。
そして支度を終えたルイズは部屋を出て、食堂へ向かった。
ホワイトスネイクも後に続く。

「改めて確認するけど……あんたは1年間はちゃんとわたしの使い魔でいるのよね?」
「オ前ヲ査定スルタメニナ。アト1年間ジャアナイ。半年ダ」
「は、半年? 半分に縮んでるじゃない!」
「1年ハ長スギル。私ニトッテモ、オ前ニトッテモ。
 受験生トイウ連中ハ誰モガ1年トイウ期間ヲ与エラレテイルガ、
 ソノ期間ノ内デ多クガ中弛ミヲ起コス……彼ラニトッテ常ニ必死デイルニイハ1年ハ長スギルカラダ。
 オ前モ必死ニナルノダロウ? ダッタラ半年ガイイ」

正論だった。

「うぅ~~…………わ、わかったわよ。その代わり、絶対に約束は守りなさいよ!」
「ソウイウコトハ、少シデモ私ニオ前ヲ認メサセテカラ言エ」

つんけんした会話をしているうちに、食堂についた。
ここトリステイン魔法学院の食堂、「アルヴィーズの食堂」には、
百人は軽く席につけそうなぐらい長いテーブルが三つも並んでいる。
そしてその三つともに豪華な飾り付けがなされていた。

「どう? びっくりしたでしょ」
「……学生ナラ、コノ程度カ」
「どういうことよ、それ!」
「王族ノ血縁ノ子女モイルトイウカラ、『エカテリーナ宮殿』ミタイナノヲソウゾウシテイタガ……マア、学生ダカラナ」
「『エカテリーナ宮殿』?」
「壁中ニ金細工ヤ大理石ノ彫刻ダノガ飾ッテアル。壁一面ニ琥珀ヲ張ッタ部屋モアッタナ」
「……見え見えのウソだわ。そんな場所、トリステインの王宮にだって無いわよ?」

呆れた口調でルイズが言う。

「……コノ世界シカ知ラナイオ前デハ確カメヨウノ無イコトダカラナ。ダガソレハイイトシテ……コレハ何ダ?」

ホワイトスネイクが指さした先――床には皿が一枚あった。
どうしようもなくショボいスープと、硬そーなパンが二切れ入った皿だ。

「あんたの食事よ」
「……言イ忘レタガ私ハ食事ヲシナイ。
 スタンド本体カラ常ニ供給サレルスタンドパワーガ私ノエネルギーノ源ダ」
「ふーん……ってことはまさか!」
「貰ウベキエネルギーハサッキカラズット、オ前カラ貰ッテイル」
「何でそれを先に言わないのよ!」
「ソレヲ今後悔シテイルトコロダ。
 言ッテイレバ……コンナ屈辱ヲ味ワウコトハナカッタノダカラナ……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……と大気が振動しているかのような雰囲気がルイズを包む。
何十、何百のスタンド使いをその手にかけてきた悪魔のスゴ味を間近で感じて、思わずルイスはたじろいだ。

「で、でも、ご主人様と使い魔の立場の違いを教育するのも……」
「ダガコレハ『アル意味』正解ダッタ。
 イイ判断基準ダ……スゴク……イイ判断基準ニナル……」

ルイズの弁解は完全に無視し、言葉の節々に怒りを滲ませながら、ホワイトスネイクは姿を消した。
自分自身を「解除」したのだ。
その長身ゆえに食堂の人目を引いていたホワイトスネイクが突然消えたことで周囲は一瞬騒がしくなったが、
教師が食事の前のお祈りをするよう大声で促すとすぐに静かになった。

「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。……」

お祈りを唱和する生徒たち。
ルイズもそれに加わるが、心中は穏やかではなかった。

(わたし……なんだか、大変なことをしちゃったのかも……)



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