ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ティータイムは幽霊屋敷で-06

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匿名ユーザー

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テーブルの上に置かれたビスケットを口に放り込み、
高級酒を喉の奥に流し込みながら使い魔の話に耳を傾ける。
この部屋は昔ここにあった貴族の屋敷の一室だそうだ。
もうとっくに失われたはずのそれが何故ここにあるのか。
その理由を聞いた時、私は思わず呆れ返った。
これは屋敷が幽霊になったもので、そいつは自由にそれを扱えるらしい。
にわかには信じられない話だったが、
喉を通り抜けて床に零れ落ちるワインを見ては信じるほかない。
“じゃあお前も幽霊なのか”と訊ねるとそいつはキッパリと否定した。
幽霊じゃなくて、そいつは自分の能力だと言った。
“そんな魔法はない”と反論すると『スタンド』という答えが返ってきた。
系統どころか一人一人が違う、その本人だけにしか使えない魔法とは別の力。
そして、そいつのは『生き物以外の幽霊を自由に操れる』能力だった。

話を聞きながら、わたしは部屋に置いてある品に手をつける。
その中には、見た事もない文字で書かれた本や何に使うのか分からない道具まであった。
辛うじて使い道が分かる鉄の塊を手の中で遊ばせながら問うと、
それらの品はそいつが持ってきた異世界の幽霊だと答えた。
訳の分からないまま、こちらの世界に呼び出されたので隠れて様子を窺っていたらしい。
どうして隠れたのかと強い口調で訊ねると、わたしが怖かったという率直な意見が帰ってきた。
わたしは容赦なく引き金を引いて、その正直者に鉛玉の褒美をくれてやる。
溝が刻まれた銃口から放たれた弾丸はそいつを通り抜けて酒瓶を撃ち砕く。
やはり酒と同様、弾丸も人間の身体を通り抜ける事が判明した。
実験するまでは確信が持てなかったが自分の推察力の高さに惚れ惚れする。

顔面が蒼白になっているそいつを無視して拳銃を見つめる。
撃鉄を起こすと弾倉が回転して次の弾が撃てるようになる機構。
その仕組みを頭では理解できてもハルケギニアの技術では作れない。
ああ、くやしいけどガリアでも無理だ。
異世界から来たって言うのも信じなければならない。

ここにある物は味わう事は出来ても消化する事は出来ない。
空腹を満たすには、どうにかして食べ物を入手する必要があったわけだ。
その所為でわたしが嘘吐きや異常者ついでにコソ泥扱いされたと憤激すると、そいつは萎縮した。
どうやら少なからず、わたしに対して罪悪感があったようだ。
謝罪の言葉を受け付けずにわたしはふんぞり返った。
そんなもの幾らでも並べ立てられるし、何の得にもならない。
もちろん、この世界のお金を持っているはずもないだろう。
厨房ついでに余所様の部屋を荒らしてなければだが。

“どうすれば許してくれるの?”と問うそいつに、
わたしはニヤリと笑みを浮かべながら答えた。

「身体で返しな」

抵抗する間も与えず襟を掴んで唇を奪う。
焼け付くような痛みに悶絶する顔を横目に、
そいつの身体にルーンが刻まれるのを確認する。
唇を重ね合わせながら暴力的な感情に身を委ねる。
苦痛に歪む顔が、刻まれる証が相手を屈服させた気にさせる。
わたしという支配者が手に入れた最初の奴隷、それがこいつだった。

名前は“エンポリオ”。
それを訊ねたのは一番最後だ。
わたしには必要のない情報だったから。
使い魔に名前を付けるのはメイジに与えられた特権だ。
元から名前があろうがなかろうが関係ない。
シャルロットだって自分の使い魔を呼びやすい名前にしている。
だけど、わたしの考え付く素晴らしい名前もこいつには相応しくない。
そんなわけで単純に簡潔にわたしは名付けた。
吸い付いた唇を離し、面と向かってそいつに教えてやる。

「お前は今日から“幽霊”だ。それで十分だろう」

そいつも、その名前が気に入ったのか顔を引き攣らせていた。
幸運な奴だ。わたしのような高貴な人物に召喚されるなんてな。


「さっきの人形は? あれも魔法?」
「まあ似たようなものだけど“スキルニル”って古代のマジックアイテムよ。
姿形ばかりか本人と同じ能力を完全に複写するの。
まだ試した事ないから『スタンド』とやらはどうか知らないけど」
「そんな凄いの、どこで手に入れたの?」

エンポリオの問いに、イザベラはあからさまに表情を曇らせる。
聞いてはいけなかったな?とエンポリオは口を噤んだ。
言うべきかどうかを悩んだ末に彼女は答えた。

「……子供の頃、父上から貰った」
「ああ、護身用だったんだ」
「いや、従姉妹が母親から人形を貰った喜んでて。
それでわたしもつい欲しくなってねだったの、父上に」
「……………」
「そしたら何を思ったのか、こんな物を送りつけてきた。
多分、実用性があった方がいいと思ったんでしょ。
便利だから王宮から抜け出したい時とかに使ってるけどね」

苦笑いを浮かべるイザベラの横顔を眺めながら、
エンポリオは奇妙な既視感を覚えていた。
どこかで見たような気がすると記憶を掘り起こす。
そして、ふと彼はその光景を思い出した。
娘を心配しながらも、それを表面に出せない不器用な父親。
そして、愛していながらもその父親に辛く当たってしまう娘。
刑務所の面会室で繰り広げられた二人の争い。

「何を生易しい目で見てやがる!
幽霊の分際でわたしに同情するな!」

エンポリオの頭を抱え込んで側頭部に拳を押し付ける。
イザベラの八つ当たりを受けながらエンポリオは確信した。
やはり彼女はどうしようもないほど不器用なのだという事を。


「それで、そのちっこい子供がアンタの使い魔なの?」
「ああ、そうさ。そのしょぼい面のがあんたの使い魔かい?」

二人のメイジと二人の使い魔が顔を合わせる。
険悪な表情で視線を交錯させる彼女達の横で、彼等は初めて顔を合わせた。
片方はパーカーとジーンズ。もう一方は野球のユニフォーム。
ハルケギニアでは在り得ない服装に彼等は互いの出自を知った。
“平民の使い魔だって笑っていたくせにアンタも同じじゃない!”
“俺は平賀才人。日本人だ。……えーと、言葉は通じるよな?”
“猫や犬じゃ掃除も洗濯も出来ないからね。召使い代わりには使えるさ”
“僕の名前はエンポリオです。よろしく”
“あんな子供じゃ何の役にも立たないじゃない! 私の勝ちよね?”
“何だかキツそうな女の子だな。いじめられたりしてないか?”
“あんなアホみたいな奴が役に立つと本気で思ってるの?”
“それより、その顔の引っ掻き傷はどうしたの?”

聞くに堪えない罵り合いと平賀才人とエンポリオの自己紹介が入り混じる。
その騒々しい廊下に赤髪の少女が足を踏み入れ、輪の中に混ざる。

「あら、随分と楽しそうじゃない」
「どこがだ!」
「どこがよ!」
「平民の使い魔を呼んだ者同士、親睦を深めているのかと思ったわ」

傍らには見せびらかすかの如くサラマンダーを連れている。
さんざ待たされたのだから、これぐらいの軽口は許されるだろうとキュルケは考える。
それにしても今回の使い魔品評会のメインである二人ともが平民の使い魔。
これで果たしてお披露目が出来るのか不安ではあるが。

「まあ何にしても延期にならなかったのは良い事よね。
国賓級の要人が一堂に会するんですもの。
そう簡単に予定を変更できるものじゃないわ」
「トリステインからはアンリエッタ姫殿下が、
ガリアからはシャルロット姫が訪問なさるんでしょう。
二国の姫が顔を合わせる機会なんてそうそうないものね」

ルイズの言葉にイザベラは苛立たしげに視線を逸らす。
“なんでトリステインの行事なんかにアイツは参加してるんだ?”
そう言わんばかりに顔には不満が満ち溢れていた。
その隣でキュルケはルイズの言葉を否定する。

「違うわよ。さっき聞いたんだけど三国の姫が集まるんですって」
「え? ゲルマニアってお姫様なんかいたっけ?」
「違うわよ。ほら、アルビオンの……確か名前は」

「終わりました。参加者はこれで全員です」

パイプを吹かすオスマンの前に書類の束が置かれる。
その紙束の端を捲りながら彼はほうと感嘆の吐息を漏らす。
そこには品評会に列席する来賓と関係者、
その護衛一人一人の名が余す所なく書き記されていた。

「いやはや、さすがはミス・ロングビル。
これだけの大仕事を一人でやってしまうとは」
「いえ、大した事ではありません」

そう謙遜する彼女を横目にオスマンは重要人物の項目を開く。
そこにはトリステインを代表してアンリエッタ姫殿下と、
その護衛として同行するワルド子爵率いるグリフォン隊全員の名が記されている。
幼い頃親しくしていたというミス・ヴァリエールの晴れ姿を見学する為か。

そして次のページにはガリア王国を代表しシャルロット姫殿下と
護衛にはカステルモールを団長とする東薔薇騎士団。
これも同様に従姉妹の晴れ舞台を祝福する為のものだろう。
あるいはトリステインとの交流を深めるという目的もあるのかもしれない。

この二国は利害関係も一致しているし、訪問の目的も明確にされている。
問題なのは最後の一つ。

「トリステインやガリアと交流を結ぶ為か、あるいは牽制のつもりか。
出来れば前者であって欲しいものじゃが」

開かれたページにはアルビオン王国の文字。
代表者はティファニア姫殿下。
同行者にはマチルダ・オブ・サウスゴータ以下三十名。
そのページにはそう記されていた。


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