ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ティータイムは幽霊屋敷で-04

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匿名ユーザー

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“驚くかもしれないが決して取り乱してはならない
これからお会いする御方にお前は生涯お仕えするのだ”

父上にそう言われて私は少し怖くなった。
初めて会うのにそんな事を言われたら余計に緊張してしまう。
だけど父上の言いつけを守らなくては覚悟を決めて部屋に入った。

―――だけど言いつけは守れなかった。
私は一目見た瞬間、驚いて固まってしまった。
だって、その子はとても綺麗だった。
まるで絵本から抜け出てきた妖精みたいに。
一瞬たりとも彼女から目を離す事が出来なかった。

挨拶も忘れて立ち尽くす私に彼女が名前を尋ねた。
咄嗟に我に返って自分の名前を口にする。
それを噛み締めるように呟いた後、彼女は私の名前を呼んだ。
応える私に“お願いがあるの”と彼女は言った。
“命令”ではなく“お願い”と。

“私に出来る事なら”私はそう答えた。
だけど私に可能な事なんて限られている。
彼女をこの部屋から連れ出す事も出来ない。
無理なお願いをされない事を祈りながら私は彼女の返答を待った。

“わたしのお姉さんになってくれますか?”
少し躊躇い気味に彼女はそう言った。
私は勿論、隣にいた父上も言葉を失い目を丸くした。
“……ダメですか?”
何も言ってこない私に不安になったのか彼女が聞き返す。
その仕草が可愛らしくて私は思わず吹き出してしまった。
急に笑い出した私にびっくりしたのか、彼女が戸惑う。
彼女の澄んだ瞳の中に私の笑顔が大きく映る。
私の返答は既に決まっていた。

“よろこんで”

花が開くように彼女が顔を綻ばせる。

この瞬間、私は決めたんだ。
父上の言いつけじゃなくて、
私は自分の意思で彼女を守るんだと。
たとえ世界の全てが敵に回っても私だけは味方でいようと。

その為なら人を殺す事だって恐れない。
それで彼女に嫌われたとしても私は決して揺るがない。


―――そう信じていたのに。
なのに今、私の手はこれ以上ないほど震えている。

あの時と同じ様に彼女の瞳に映った私の姿は、
どうしようもないほど脅えていた。

全く酷い顔だと互いに顔を突き合わせた二人は同時にそう思った。
二人が出会ったのは寮塔の廊下。
朝食の時間が始まる寸前に目を覚まして飛び出した直後だった。
一方は寝不足と涙で目蓋を大きく腫れ上がらせ、
もう一方は寝惚け気味に涎で口元を濡らしたまま。
ちらりと横目で窓を見れば、そこには相手と同じく無様な自分の姿。
脱兎の如く部屋に舞い戻って髪を梳いて寝癖を直し、
薄い化粧を施して淑女の面目を挽回する。

勝利を確信して部屋を飛び出した両者が再び廊下で遭遇する。
しかし必勝を期して対面した相手には一分の隙もなかった。
二人の間で交わされる敵意の篭った視線。
だが、いつまでもこうしてはいられないと彼女達は走り出す。
互いに目指す先は『アルヴィーズの食堂』。
狭い廊下を肘や腕をぶつけ合わせながら、
二人は白熱したデッドヒートを繰り広げる。
その甲斐あってか、どうにか朝食が始まる前に彼女達は食堂に到着した。
ちなみに二人の整えた髪や身嗜みは激しく乱れ、
鏡の前で行なわれた努力は完全に水泡と帰した。

皆が食前の祈りを捧げる合間にパンを引き千切って口の中に放り込む。
白い視線を集まるのを感じてめんどくさそうにイザベラも続く。
ただし、もぐもぐとパンを租借しながらテキトーに。
“信仰を持たないのか?”と同級生が聞くと、
イザベラは“洗礼は受けている”と周りが驚くような発言をした。
形式と信心は別だ。どうせロマリアのお偉方もそう思ってるに違いない。
そんな罰当たりな事を考えながらイザベラは音を立ててスープを流し込む。

くちゃくちゃとリスのように頬張るイザベラの食べ方。
それに周りの生徒達が食欲を無くしていく中、ルイズは負けじと食事を口に運ぶ。
行儀作法の大事さを痛感する彼等の隣でマルトーは豪快に笑い飛ばした。
“そうかそうか。俺のメシはそんなにうめえのか?”と声を上げる彼にイザベラは答えた。
“食わないともたないから食ってやってるだけさ。豚の餌の方がまだマシだね”

一瞬、食堂に流れる時間が止まった。
それを意にも介さずナプキンで口を拭くとイザベラは立ち去る。
その背後で牛を撲殺できそうなパイ生地棒を手にしたマルトーが、
必死にしがみつく同僚達を引き摺りながら鬼のような形相で迫っていた。

「ほう、サラマンダーですか! これは素晴らしい!」
「当然ですわ。私に相応しい使い魔ならばこれぐらいでなくては」

コルベールの賞賛を当然のように受け取るキュルケ。
進級試験を兼ねた伝統行事は、このゲルマニアから来た少女の独壇場だった。
羨望と尊敬の眼差しを向けている生徒達に混じって二人が彼女を睨む。
伝説の風韻竜に比べれば火を吐くだけが取り得の蜥蜴など高が知れている。
そんな小物に用などない。イザベラが狙うは唯一つ、始祖の使い魔のみ。

「では次は……ミス・ヴァリエール」
「は、はい!」

緊張しながら前に進み出る一人の少女。
彼女の杖が高々と掲げられ詠唱が始まる。
言葉が紡がれる度に手繰り寄せられる運命の糸。

「私は心より求めうったえるわ! 我が導きに答えなさい!」

目も眩む閃光と耳を劈く轟音。
巻き起こった爆発に皆の視界が砂煙に覆われる。
次第に晴れていく視界の先にルイズは自分の使い魔を見出した。
そこにいたのは見慣れぬ服装をした一人の少年。
貴族にも平民にも珍しい黒い瞳と髪。
呆然とその場に座り込んだまま、彼はその場にいた生徒達を見回す。

「“ゼロ”のルイズが平民を召喚したぞ!」

ローブも纏わず杖を持たぬ彼の姿を目にした誰かが大声を上げた。
途端に生徒達の間で沸き上がる嘲笑の篭った笑い。
やり直しを求めるルイズの言葉をコルベールは否定する。
その喧騒を距離を置いた場所からイザベラは見ていた。
周りで笑い飛ばす生徒達とは違う冷酷な笑み。
平民を使い魔にするなんて聞いた事がない。
まさしくルイズの言葉どおりだ。
使い魔としては最低ランク。
何を召喚しようとも最低より下はない。
二人の勝負は決したも同然だった。

「そういえば、お互い何を賭けて勝負するか決めてなかったねえ」

冷たく言い放ったイザベラの声に、びくりとルイズの背が震えた。
もはやルイズの勝ち目はない。
それを分かって尚もイザベラは続けた。

「負けた奴は勝った方の奴隷になるってのはどうだい?」
「な、何よそれ!? そんなの無効よ!」
「いいや、聞けないねえ。勝負は勝負さ」

酷薄な薄ら笑いを浮かべてイザベラは背を向けた。
非難するルイズの声を聞き流しながら杖を手にする。
もっとも初めからルイズなど眼中にはない。
彼女が真に目の敵にしているのは自分の従姉妹のみ。

(平民なんかとは比べもつかない始祖の使い魔を召喚してやるよ!)

「さあ出てきな! わたしの下僕!」

勇ましい言葉と共に迸った閃光が生徒達の視界を奪う。
誰もが眩しさに目を覆う中、イザベラだけは目を離さなかった。
光の奔流の内で蠢く影。それを確認して彼女は笑った。
次第に溢れていた光が収束していく。 
そして彼女は影があった場所へと視線を向け、

「へ?」

ただ何もない地面を眺めていた。


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